【実施例】
【0017】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0018】
本実施例は、焼酎若しくはウイスキーの渋味を低減させるための容器であって、容器本体1の内表面1’をチタンで構成し、この内表面1’には、α相からβ相に相変態する温度以上に加熱処理されることで、20μm以上の大きさで且つ7つ以上の角を有する結晶粒10が多数設けられたものである。
【0019】
尚、本実施例では、容器本体1を、酒を飲む際に使用する飲料用容器として構成しているが、例えば酒を熟成させながら保存する貯蔵用容器(サーバー)でも良いなど、これに限るものではない。
【0020】
この容器本体1は、外筒2内に内筒3を空間部Sを介して配設するとともに、これら外筒2と内筒3との空間部Sを真空断熱空間部とした真空容器構造である。尚、容器本体1は、空間部Sを真空としない中空二重構造でも良く、また、中空二重構造でなく一重構造でも良いが、いずれも容器本体1の内表面1’は真空雰囲気内にてα相からβ相に相変態する温度(882℃)以上に加熱処理されたものが望ましい。
【0021】
具体的には、この容器本体1を構成する外筒2及び内筒3は、
図1に図示したようにチタン製の有底筒状体であり、内筒3は外筒2に比して径小で高さが低く設定されており、また、夫々の開口端部2a,3aは略同一径に設定されている。
【0022】
従って、外筒2内に内筒3を配して開口端部2a,3a同士を接合した際、外筒2と内筒3との間には空間部Sが形成される。
【0023】
尚、本明細書におけるチタンとは、純チタンを示し、内筒3のみをチタン製とし、外筒2はチタン製に限らずその他の金属でも合成樹脂でも良い。
【0024】
また、外筒2の底部中央には凹部2bが設けられ、この凹部2bの中央位置には真空封止する際の脱気孔2b’が設けられている。
【0025】
また、容器本体1には、
図1に図示したように後述する製造過程においてその内表面1’及び外表面1”に20μm以上の大きさの結晶粒10が多数設けられている。この結晶粒10の大きさは、後述する試験結果からすると、焼酎若しくはウイスキーに与える影響は粒径が大きい程良いと思われるが、味に関する影響を考慮すると下限は20μmに設定され、生産性を考慮すると上限は11mmに設定される。
【0026】
本実施例では、以下の製造方法によ
り結晶粒10が20μm以上の大きさで且つ7つ以上の角を有する結晶粒10となるようにした。
【0027】
即ち、先ず、外筒2内に内筒3を配して互いに開口端部2a,3a同士を溶接(アルゴン溶接)により接合し、容器本体1を設ける。この容器本体1を構成する外筒2の内面と内筒3の外面との間には空間部Sが形成される。この空間部Sは後に真空処理されることで真空断熱空間部となる。
【0028】
続いて、容器本体1を加熱した後に冷却する加熱冷却処理(常圧処理)を複数回(2回)行なう。
【0029】
具体的には、容器本体1を真空過熱炉内に配する。この際、外筒2の底部に設けた脱気孔2b’の周囲にロウ材4(チタンロウ)を配するとともに、このロウ材4の上に封止板5を載せる。
【0030】
この状態で真空加熱炉内の温度を約800℃以上(チタンの再結晶温度以上、且つチタンの変態点882℃(α組織(最密六法構造)からβ組織(体心立方構造)へ変わる温度)を超える約1,050℃)とするとともに、徐々に脱気して真空状態(10
-3〜10
-5Torr)とし、更に、温度を約1050℃まで上げる。この状態を15分〜20分保持する。この際、容器本体1の外筒2及び内筒3は再結晶し(α組織となり)、延性が増加する(再結晶しない部分は結晶粒が粗大化した状態となっている。)。
【0031】
この際、ロウ材4が熔融して外筒2と封止板5が一体化して脱気孔2b’が閉塞され、外筒2と内筒3との間の空間部Sが真空状態のまま封止されて真空断熱空間部が形成される。
【0032】
加熱を停止して自然冷却により真空加熱炉内の温度が700℃よりも低い温度(約630℃〜670℃)に下がった時点で真空加熱炉内に窒素ガスを導入して常圧に戻し、一気に常温まで温度を下げて容器本体1を冷却して真空封止作業は完了する。
【0033】
大気圧状況下に戻す(窒素ガスを導入する)時点を700℃よりも低い温度で行なうのは、約700℃以上の高温下においては素材が柔らか過ぎてしまい、この状態で大気圧環境下(常圧下)に戻すと外筒2及び内筒3に大きく凹む部分が生じて外筒2と内筒3とが当接してしまう部位ができてしまい、これを防止するためである。
【0034】
また、窒素ガスを導入して急激に冷却するのは、後述するようにチタンの再結晶温度以上に加熱することで同方向を向いた結晶粒10を、急激に冷却することでこの結晶粒10の配向を固定化するためである。
【0035】
また、前述した加熱冷却処理を真空加熱炉(真空雰囲気中)で行なうのは、酸素雰囲気中で処理した場合に生じ得る酸化や窒化(黒ずんで商品価値が著しく低下する)を阻止するためであり、また、真空加熱炉内の温度が700℃よりも温度が低くなった時点で真空加熱炉内に窒素ガスを導入するのは、作業時間を短縮させる為なのは勿論、窒素は約800℃以上の温度帯において窒化し易いからである。
【0036】
尚、本実施例における加熱冷却処理の際、容器本体1には本出願人が特許第3581639号で提案するカバー体を被せた状態で処理を行ない、この点においても酸素や窒素との接触を制限することで容器本体1が酸化や窒化して黒ずんでしまうのを確実に防止することができる。
【0037】
引き続き、前述と同様に、1回目の加熱冷却処理済の容器本体1を再び加熱冷却処理する。
図2に図示した結晶粒10の粒径評価(交差法)の結果、この2回目の加熱冷却処理により容器本体1の外表面1”及び内外面1’に設けられる結晶粒10(粒径)は20μm以上の大きさである。
【0038】
尚、この加熱冷却処理の回数や時間を増やせばそれだけ結晶粒10の大きさは大きくなるが、生産性(コスト性)を考慮すると2回(各回15〜20分程度)が妥当と考える。
【0039】
次に、前述のように製造された本実施例に係る酒収納容器の有効性を示す試験について説明する。
【0040】
即ち、
図4に示す被験体A,被験体B,被験体C及び被験体Dと、サンプル液としての焼酎を用意し、味認識装置((株)インテリジェントセンサーテクノロジー製のTS−5000Z)を用いて夫々における味覚試験を行った。尚、この味認識装置は、味覚センサーを基準液とサンプル液夫々に漬けた際の電位差により、食品を口に含んだ瞬間の味(先味)と、食品を飲み込んだ後に残る持続性のある味(後味)との2種類で味を評価するものである。
【0041】
被験体Aはガラス製の容器である。
【0042】
被験体Bはチタン製の容器であり、チタン製の外筒2内にチタン製の内筒3を空間部Sを介して配設したもので、これら外筒2と内筒3との空間部Sは真空でない中空二重構造である(1回目の加熱冷却処理前の状態と同等のもの)。この被験体2は容器形状とするスピニング加工の際に加熱され、
図2に図示した結晶粒10の粒径評価(交差法)の結果、この容器本体1の外表面1”及びサンプル液に触れる内表面1’には11μm以下の大きさの結晶粒10が設けられ、7つ以上の角を有する結晶粒10は表面積(電子顕微鏡により観察した全面積)の59.4%であった。尚、本実施例を構成する外筒2及び内筒3を成形する前の材料(圧延まま材)の表面には16μm以下の大きさの結晶粒10を有する。
【0043】
被験体Cはチタン製の容器であり、加熱温度条件を530℃までに抑えたこと以外は前述した本実施例に係る製造方法により得られたもので(2回の加熱冷却処理を行ったもの)、
図2に図示した結晶粒10の粒径評価(交差法)の結果、この容器本体1の外表面1”及びサンプル液に触れる内表面1’には20μmよりも小さい大きさの結晶粒10が設けられ、表面積に設けられる7つ以上の角を有する結晶粒10は(電子顕微鏡により観察した全面積)の54.0%であった。
【0044】
被験体Dはチタン製の容器であり、前述した本実施例に係る製造方法により得られたもので(2回の加熱冷却処理を行ったもの)、
図2に図示した結晶粒10の粒径評価(交差法)の結果、この容器本体1の外表面1”及びサンプル液に触れる内表面1’には20μm以上の大きさの結晶粒10が設けられ、7つ以上の角を有する結晶粒10は表面積(電子顕微鏡により観察した全面積)の100%であった。
【0045】
結晶粒10は、円形であるほどエネルギー的に安定しており、この点、7つ以上の角を有することでより円形に近付くことから本実施例の作用効果を発揮する結晶粒10は7つ以上の角を有するものが最適と考える。
【0046】
また、
図8に示されるように被験体Dは、材料(圧延まま材)や被験体Bと明らかに結晶粒10の配向性が異なり、この被験体Dの20μm以上の大きさで且つ7つ以上の角を有する多数の結晶粒10は、X線解析におけるブラッグ角が34〜41度の範囲においてチタンの六方最密充填構造の底面及び上面が前記内表面1’の板面に対して平行となる集合組織に形成されている。
【0047】
これら被験体A〜Dに入れたサンプル液(焼酎)に対して味認識装置を用いて味覚試験を行った結果は
図9,10の通りである。尚、サンプル液を入れて30分間放置した場合(
図9)と、3時間放置した場合(
図10)を試している。
【0048】
図9,10に示されるように被験体Aには大きな味の変化はなかったものの、チタン製の被験体B,C及びDには味の変化がみられ、特に被験体Dが渋味及び塩味の低下がみられ、時間が経つほど塩味の低下がみられた。このことから、焼酎を飲む際に使用する飲料用容器として適し、更に、焼酎を収納して所定期間熟成させる貯蔵用容器にも適用し得ることが分かる。
【0049】
実際に試飲してみたところ、被験体Dは明らかにまろやかになっていることが確認された。
【0050】
また、サンプル液としてウイスキーを採用し、このウイスキーを被験体A及びDに入れて味認識装置を用いて味覚試験を2回行った結果は
図11,12の通りである。
【0051】
図11,12に示されるように被験体Aには大きな味の変化はなかったものの、被験体Dには味の変化がみられ、特に被験体Dが渋味の低下がみられた。このことから、ウイスキーにも有効であることが分かる。
【0052】
以上のように本実施例は、焼酎やウイスキーを収納すると、渋味が減ってまろやかとなり、味わいが良好となる。
【0053】
これは、焼酎やウイスキーなどの味を決めているものはエタノール濃度であり、エタノールと水が混合したエタノール水溶液はクラスター構造を形成しており、このような構造を持った液体を、本実施例のような結晶粒10を有する容器に入れるとエタノールが壁面に吸着されることから、この点において焼酎やウイスキーの味がまろやかになっていると思われる。
【0054】
更に、酒に含まれる渋味の元となるタンニンを吸着する特異吸着も影響しているものと考えられる。
【0055】
また、本実施例は、容器本体1は真空二重構造であり、更に蓋で閉じるような構造とすれば、外気温の影響を受けにくいことになるから、常に一定の温度が維持でき、熟成させるに適したものとなる。
【0056】
次に、本実施例に係る酒収納容器の有効性を示す官能評価について説明する。
【0057】
前述した被験体A,被験体B及び被験体Dに焼酎(芋焼酎)を注ぎ、蓋をして1分若しくは30分放置後、食味官能検査を実施した。
【0058】
試験方法は、以下の通り。
【0059】
(1) 5人の評価者により行う。
【0060】
(2) 臭気・旨味(こく)・総合について評価する。評価点として、1点(かなり悪い
)、2点(僅かに悪い)、3点(普通)、4点(僅かに良い)、5点(かなり良い
い)を採点基準とする(以下、官能評価1という。)。
【0061】
(3) 渋味・苦味・酸味についても評価する。評価点として、5点(かなり減じた)、
4点(僅かに減じた)、3点(普通)、2点(僅かに残っている)、1点(かなり
残っている)を採点基準とする(以下、官能評価2という。)。
【0062】
(4) 5名の採点結果の平均値を算出し、比較品としての被験体Aを基準の3点(普通
)とし、被験体A,被験体B及び被験体Dの相対評価を行う。
【0063】
官能評価1の結果は
図13の通りであり、被験体Dは、被験体A及び被験体Bより高い得点を獲得した。
【0064】
この結果から、被験体Dは焼酎の味を良好にし、焼酎を注いだ飲料用容器として適用し得ることが分かる。
【0065】
官能評価2の結果は
図14の通りであり、被験体Dは、被験体A及び被験体Bより高い得点を獲得した。
【0066】
この結果から、被験体Dは酒の味をまろやかにし、官能評価1の結果と同様、焼酎を注いだ飲料用容器として適用し得ることが分かる。この官能評価2の結果は前述した味覚試験の結果とほぼ同様であり、酒収納容器として有効であることが確認された。
【0067】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。