特許第6343363号(P6343363)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6343363
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】換気設備および換気ダクトの移動方法
(51)【国際特許分類】
   E21F 1/04 20060101AFI20180604BHJP
   E21F 17/00 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   E21F1/04
   E21F17/00
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-60136(P2017-60136)
(22)【出願日】2017年3月24日
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】391061646
【氏名又は名称】株式会社流機エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】特許業務法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 章
(72)【発明者】
【氏名】山口 章
【審査官】 佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−343200(JP,A)
【文献】 特開2007−278022(JP,A)
【文献】 特開2016−056582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21F 1/00−17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル坑内の地表面上にトンネルの延伸方向に沿って敷設された敷設スライドシートと、
前記敷設スライドシートの上面に載置された換気ダクトと、を有し、
前記敷設スライドシートは前記換気ダクトと地表面の摩擦を低減させるシートであり、
前記換気ダクトは前記敷設スライドシート上を滑りながらトンネル前方または後方に移動可能であることを特徴とする換気設備。
【請求項2】
トンネル坑内の地表面上にトンネルの延伸方向に沿って敷設された敷設パネルをさらに有し、
前記敷設パネルの上に前記敷設スライドシートが固定され、
前記敷設パネルおよび前記敷設スライドシートは、トンネル延伸方向に沿って複数に分割されている請求項1記載の換気設備。
【請求項3】
前記換気ダクトと前記敷設スライドシートの間に風管スライドシートをさらに有し、
前記風管スライドシートは、前記換気ダクトとともに、前記敷設スライドシート上を滑りながらトンネル前方または後方に移動可能である請求項1記載の換気設備。
【請求項4】
前記敷設スライドシートの上面または前記敷設スライドシートの幅方向外側にトンネルの延伸方向に沿って敷設されたレールと、
前記換気ダクトの下端部に、トンネルの延伸方向に沿って間隔を空けて複数設けられた台車と、をさらに有し、
前記換気ダクトの前記台車が設けられていない部分において、前記換気ダクトは前記敷設スライドシート上を滑りながらトンネル前方または後方に移動可能であり、
前記換気ダクトの前記台車が設けられた部分において、前記換気ダクトの台車が前記レールに沿って走行可能である請求項1記載の換気設備。
【請求項5】
前記換気ダクトは、可撓性の風管と、前記風管の内側または外側に接合された風管内部の空間を保持する保持体を有し、
前記台車は前記保持体の下側に設けられている請求項4記載の換気設備。
【請求項6】
前記換気ダクトの前方端部に引張装置をさらに有し、
前記引張装置の引張りによって前記換気ダクトをトンネル前方へ移動させる構成とされた請求項1記載の換気設備。
【請求項7】
前記換気ダクトの前方端部に蓋体をさらに有し、
前記換気ダクトの前方開口部の一部を前記蓋体によって塞ぐことによって前記換気ダクトをトンネル後方へ移動させる構成とされた請求項1記載の換気設備。
【請求項8】
トンネル坑内の換気に用いる換気ダクトをトンネル延伸方向に移動させる方法であって、
トンネル坑内の地表面上にトンネルの延伸方向に沿って敷設スライドシートを敷設する敷設工程と、
トンネル坑内の換気に用いる換気ダクトを前記敷設スライドシートの上面に載置する載置工程と、
前記換気ダクトを前記敷設スライドシート上で滑らせながら、トンネル前方または後方に移動させる移動工程と、を有することを特徴とする換気ダクトの移動方法。
【請求項9】
前記移動工程において、前記換気ダクトの前方端部に設けた引張装置の引張りにより、前記換気ダクトをトンネル前方へ移動させる請求項8記載の換気ダクトの移動方法。
【請求項10】
前記移動工程において、前記換気ダクトの前方端部に設けた蓋体が前記換気ダクトの前方開口部の一部を塞ぐことによって前記換気ダクトをトンネル後方へ移動させる請求項8記載の換気ダクトの移動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル坑内の地表面上に敷設したスライドシートの上を滑りながらトンネル前方または後方に移動する換気ダクトを備えた換気設備、および換気ダクトの移動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル工事では、切羽近傍で多様な粉じんが大量に発生するため、その汚れた空気を吸引して、作業環境を改善する必要がある。そのために使用する換気設備は、トンネル坑内の中ほどに配置された集塵機と、その集塵機に連結されて切羽近傍まで延在する換気ダクトなどから構成される。
【0003】
一般的に、トンネル工事中のトンネル坑内の天井面には、トンネルの延伸方向に沿ってレールが取り付けられ、そのレールに吊り具(例えば、下端にハンガーが付いたワイヤ)が取り付けられている。そして、この吊り具によって前記換気ダクトが天井から吊り下げられ、吊り具がレールに沿って移動することに伴って、前記換気ダクトがトンネル延伸方向に移動可能な構造となっている。
【0004】
このようにトンネルの天井から換気ダクトを吊すことにより、トンネル地面から換気ダクトまでの間に高さ数メートルにおよぶ広大な空間が確保でき、その空間にコンクリート吹付機などの大型機械を搬入することが可能となる。
【0005】
また、トンネルの掘削に伴って換気ダクトを次第に切羽側へ前進させたり、発破などの作業に支障が生じないようにダクトを坑口側へ後退させたりするなど、トンネル工事の進行に伴って、換気ダクトを前進および後退させることが不可欠となる。そこで、前記のように換気ダクトをレールから吊り下げる方式(ダクト懸架方式)を用いることにより、換気ダクトの前後移動を容易にしている。
【0006】
なお、前記ダクト懸架方式とは別の方法によって、トンネル坑内に換気ダクトを設置したものとして、下記特許文献1の作業用換気機構がある。この作業用換気機構に設けられた換気ダクトは、遮断シートの下端にその遮断面を貫通するように配置され、一端を移動台車上の換気用送風機に接続し、他端を所定の長さでトンネル内の長さ方向に配置する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−030099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記ダクト懸架方式では、トンネル天井面にレールを設置するためにアンカーを用いるが、トンネル工事の現場では、その設置作業を嫌ったり、その設置が許可されなかったりすることがある。特に、短期間のトンネル工事では、換気ダクトの設置と撤去を簡単に行うことができるものが求められている。
【0009】
また、同方式の装置は大きく複雑であるため、イニシャルコスト(商品価格、運搬費用、設置費用など)が高額になる傾向にある。
【0010】
他方、前記特許文献1の作業用換気機構は、既存トンネルの修復工事を行うために用いるものであり、トンネルの発破や掘削を行う際に用いるものではない。また、トンネル内に換気ダクトを運搬して設置する方法については何ら述べられていない。
【0011】
したがって、本発明の主たる課題は、ダクト懸架方式に代わる換気設備を提供することにある。具体的には、設置および撤去が簡単な換気設備の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
(1)トンネル坑内の地表面上にトンネルの延伸方向に沿って敷設された敷設スライドシートと、
前記敷設スライドシートの上面に載置された換気ダクトと、を有し、
前記敷設スライドシートは前記換気ダクトと地表面の摩擦を低減させるシートであり、
前記換気ダクトは前記敷設スライドシート上を滑りながらトンネル前方または後方に移動可能であることを特徴とする換気設備。
【0013】
(作用効果)
換気ダクトをトンネル坑内の地表面上に設置するため、ダクト懸架方式のようにトンネル天井面にアンカーを打つ必要がない。そのため、アンカーの設置を嫌うトンネル工事現場においても換気ダクトを設置することが可能となる。また、換気ダクトをトンネル天井面に設置するよりもトンネル地表面上に設置する方が容易であり、換気ダクトを退去する場合も同様である。そのため、設置コストを大幅に削減できる。
【0014】
また、トンネル坑内の地表面上に敷設スライドシートを設けることで、換気ダクトがトンネル延伸方向に移動する際に換気ダクトにかかる摩擦が低減され、換気ダクトを円滑に移動させることができる。
【0015】
(2)トンネル坑内の地表面上にトンネルの延伸方向に沿って敷設された敷設パネルをさらに有し、
前記敷設パネルの上に前記敷設スライドシートが固定され、
前記敷設パネルおよび前記敷設スライドシートは、トンネル延伸方向に沿って複数に分割されている前記(1)記載の換気設備。
【0016】
(作用効果)
敷設パネルおよび敷設スライドシートを分割することで重量が軽くなるため、それらの敷設および撤去が容易となる。また、トンネル坑内に重機を搬入するときなど換気設備の存在が邪魔な場合に、敷設パネルおよび敷設スライドシートをトンネル側壁近傍に一時的に退避させることが容易となる。
【0017】
(3)前記換気ダクトと前記敷設スライドシートの間に風管スライドシートをさらに有し、
前記風管スライドシートは、前記換気ダクトとともに、前記敷設スライドシート上を滑りながらトンネル前方または後方に移動可能である前記(1)記載の換気設備。
【0018】
(作用効果)
敷設スライドシートと換気ダクトの間に風管スライドシートを設け、敷設スライドシートの上を風管スライドシートが滑りながら移動する形態にすることで、換気ダクトをより滑らかに移動させることができる。
【0019】
(4)前記敷設スライドシートの上面または前記敷設スライドシートの幅方向外側にトンネルの延伸方向に沿って敷設されたレールと、
前記換気ダクトの下端部に、トンネルの延伸方向に沿って間隔を空けて複数設けられた台車と、をさらに有し、
前記換気ダクトの前記台車が設けられていない部分において、前記換気ダクトは前記敷設スライドシート上を滑りながらトンネル前方または後方に移動可能であり、
前記換気ダクトの前記台車が設けられた部分において、前記換気ダクトの台車が前記レールに沿って走行可能である前記(1)記載の換気設備。
【0020】
(作用効果)
レールと台車を設けることにより、換気ダクトの重量が重い場合であっても、換気ダクトを滑らかに移動させることができる。
【0021】
(5)前記換気ダクトは、可撓性の風管と、前記風管の内側または外側に接合された風管内部の空間を保持する保持体を有し、
前記台車は前記保持体の下側に設けられている前記(4)記載の換気設備。
【0022】
(作用効果)
保持体のある部分は重量が重いため、その部分に台車を設けることで、換気ダクトが移動しやすくなる。
【0023】
(6)前記換気ダクトの前方端部に引張装置をさらに有し、
前記引張装置の引張りによって前記換気ダクトをトンネル前方へ移動させる構成とされた前記(1)記載の換気設備。
【0024】
(作用効果)
引張装置の引張りというシンプルな構成によって、換気ダクトを前方へ移動させることができる。
【0025】
(7)前記換気ダクトの前方端部に蓋体をさらに有し、
前記換気ダクトの前方開口部の一部を前記蓋体によって塞ぐことによって前記換気ダクトをトンネル後方へ移動させる構成とされた前記(1)記載の換気設備。
【0026】
(作用効果)
蓋体を閉じることによって換気ダクトをトンネル後方へ移動させることができるため、換気設備のイニシャルコストおよびランニングコストを下げることができる。
【0027】
(8)トンネル坑内の換気に用いる換気ダクトをトンネル延伸方向に移動させる方法であって、
トンネル坑内の地表面上にトンネルの延伸方向に沿って敷設スライドシートを敷設する敷設工程と、
トンネル坑内の換気に用いる換気ダクトを前記敷設スライドシートの上面に載置する載置工程と、
前記換気ダクトを前記敷設スライドシート上で滑らせながら、トンネル前方または後方に移動させる移動工程と、を有することを特徴とする換気ダクトの移動方法。
【0028】
(作用効果)
前記(1)と同様の作用効果を奏する。
【0029】
(9)前記移動工程において、前記換気ダクトの前方端部に設けた引張装置の引張りにより、前記換気ダクトをトンネル前方へ移動させる前記(8)記載の換気ダクトの移動方法。
【0030】
(作用効果)
前記(6)と同様の作用効果を奏する。
【0031】
(10)前記移動工程において、前記換気ダクトの前方端部に設けた蓋体が前記換気ダクトの前方開口部の一部を塞ぐことによって前記換気ダクトをトンネル後方へ移動させる前記(8)記載の換気ダクトの移動方法。
【0032】
(作用効果)
前記(7)と同様の作用効果を奏する。
【発明の効果】
【0033】
ダクト懸架方式に代えて、トンネル地表面上に換気ダクトを設ける方式にすることで、換気設備の設置および撤去が容易になる。また、敷設スライドシートを設けることで、換気ダクトをトンネル延伸方向に容易に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係る換気設備の側面図である。
図2図1の換気設備を前方から見た正面図である。
図3】換気ダクトの下端部(台車のある部分)の横断面図である。
図4】換気ダクトの下端部(台車のない部分)の横断面図である。
図5図1の換気設備の一部拡大図である。
図6】台車とレールの関係を表す斜視図である。
図7】換気ダクトの内部構造を示す斜視図である。
図8】換気設備が前進したときの平面図である。
図9】換気設備が後退したときの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明に係る換気設備およびダクト敷設方法の好適な実施例について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明及び図面は、本発明の実施形態の一例を示したものにすぎず、本発明の内容をこの実施形態に限定して解釈すべきでない。また、以下の説明において、切羽側のことを前方といい、坑口側のことを後方という。
【0036】
(換気設備1)
換気設備1は、切羽FWで発生した汚染空気を吸引して汚染粒子を捕集する吸引方式の場合、汚染空気が内部を通り抜ける換気ダクト20と、この換気ダクト20の後方端部に連結された集塵機(図示しない)を有する。切羽FWに新鮮な空気を送風する送風方式の場合は、前記集塵機の代わりに送風機(図示しない)が連結される。以下の説明では、主として吸引方式を例に挙げて説明する。送風方式については、吸引方式と空気の流れが逆になると考えれば良い。吸引方式の換気設備1と送風方式の換気設備1を併用して用いても良い。
【0037】
換気設備1は、そのほかにトンネル坑内の地表面上に敷設する敷設スライドシート11Aを有し、敷設スライドシート11A上を換気ダクト20が移動する。この内容については後ほど詳述する。
【0038】
(風管2)
換気ダクト20は風管2を有する。この風管2は、可撓性で伸縮可能であり、吸引負圧に耐えられる強度を有し、軽量で移動が容易な素材を用いることが好ましい。一例としては、「ターポリン」の素材を用いたビニール風管を挙げることができる。この風管2の内周面に接するリング状のコイル4を設け、風管の内部空間の維持(閉塞防止)を図ることが好ましい。このコイル4の例としては、例えば繊維強化プラスチック(FRP: Fiber Reinforced Plastics)からなる線材を螺旋状に巻いたものを挙げることができる。
【0039】
また、風管2の内部空間の維持を目的として、風管2の内面にさらに鞘管5やリング6を設けることが好ましい。鞘管5として、所定の長さを有する直線状の角パイプを例示することができ、この鞘管5は風管2の内面にその延在方向に沿って配置することができる。風管2が収縮した際に、風管2の内面に鞘管5の端部が引っかかることを防ぐため、鞘管5の両端部は風管2の中心側に沿って湾曲させることが好ましい。図示した例では、風管2の内周面(コイル4の内側)にリング6が設けられ、そのリング6の内面に4本の鞘管5がボルト等によって固定されている。詳しくは、鞘管5の延在方向の中央付近にリング6が位置しており、リング6によって各鞘管5を束ねるようにしている。なお、風管2の内部空間を保持する鞘管5と、この鞘管5を束ねるリング6を合わせて保持体13といい、図1では4本の鞘管5と1個のリング6を組み合わせた保持体13を1セットとカウントしている。この1セットの重さは、例えば20キロにすることができる。また、この鞘管5の本数は任意に変更することができるが、本数が増えると重量が重くなるため、3〜6本が好適である。また、複数の鞘管5は均等に配置することが好ましく、図示形態では風管2の中心軸を基準として90度ごとに配置している。
【0040】
前記保持体13は、風管2の延在方向に沿って複数セット設けられている。なお、風管2はトンネルの延伸方向に沿って収縮するため、収縮した際に延伸方向に隣り合う鞘管5、5同士が衝突しないようにする必要がある。そこで、図示形態では、鞘管5の取り付け位置を隣接する保持体13ごとに変えている。具体的には風管2の中心軸を基準に考えて、トンネル延伸方向に隣接する鞘管5、5同士が45度ずつ互い違いになるように配置されている。
【0041】
風管2は、トンネルの延伸方向に沿って延在するように配置される。そして、風管2の切羽側端部に金属からなる先端管3が設けられている。また、風管2の坑口側端部に集塵機(図示しない)が取り付けられている。
【0042】
(敷設パネル10A)
本発明では、前記風管2がトンネル坑内の地表面上を移動する。前記地表面という用語は、アスファルト舗装されたものを含むが、トンネル工事中の坑内は舗装されずに不陸になっていることが多い。そのため、前記風管2がトンネル坑内を移動する際に、地表面に存在する砂利などの凹凸の影響を受けて移動が妨げられることがないように、地表面上にパネル10を配置することが好ましい。このように地表面上に敷設するパネルのことを敷設パネル10Aといい、後述する台車パネル10Bと区別することができる。なお、以下の説明において単にパネル10という場合は、敷設パネル10Aと台車パネル10Bを含むものである。図示したパネル10は、ポリカーボネートからなる軽量のハニカムパネルを用いている。敷設パネル10Aを軽量にすることで、トンネル坑内に重機が搬入された際などに、その進行の邪魔にならないように、路肩に簡単に寄せることができる。敷設パネル10Aの素材としては、ポリカーボネートの代わりに、プラスチック段ボールや耐水性高強度段ボールなどを用いても良い。
【0043】
(敷設スライドシート11A)
敷設パネル10Aの上面にスライドシート11を設けることが好ましい。このスライドシート11は、風管2と地表面の間の摩擦力を軽減させ、風管2の移動を容易にすることを目的としており、図示形態では敷設パネル10A上に貼り付けている。このように地表面上に敷設するスライドシートのことを敷設スライドシート11Aといい、後述する風管スライドシート11Bと区別することができる。なお、以下の説明において単にスライドシート11という場合は、敷設スライドシート11Aと風管スライドシート11Bを含むものである。スライドシート11の素材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などを用いることができる。なお、図示形態において敷設パネル10Aの上面に敷設スライドシート11Aを固定しているが、この固定の方法は、接着剤による接着、ボルトとナットを用いた固定、マジックファスナなどによる固定を例示できる。
【0044】
(レール9)
風管2内にリング6や鞘管5が設けられている場合、風管2の重量が重くなって移動が困難になる。そこで、移動を容易にするために台車7(後述する)を設けることが好ましい。そして、この台車7を設けた場合は、前記敷設スライドシート11Aの上面の両側端部にトンネルの延伸方向に沿って延在するレール9を設けることが好ましい。レール9としては、例えばアルミ材などからなるアングル(L字鋼、山形鋼)を用いることができ、より詳しくは等辺山形鋼や不等辺山形鋼を用いることができる。なお、図面においては敷設パネル10Aと敷設スライドシート11Aの幅方向の長さを同じ長さにしているが、敷設パネル10Aの幅方向の長さを敷設スライドシート11Aの幅方向の長さよりも長くして、敷設パネル10Aのその長くした部分の上にレール9を設けても良い。そのほか、敷設パネル10Aまたは敷設スライドシート11Aよりも幅方向外側にある地表面上にレール9を設けるようにしても良い。
【0045】
(分割構造)
前記敷設パネル10A、敷設スライドシート11A、レール9は、トンネルの延伸方向に沿って複数に分割されていることが好ましい。図示した形態では、幅方向の長さが約800mm、延伸方向の長さが約4000mmとなっている。このように各パーツを分割構造にすることで軽量(約10kg程度)となるため、トンネル坑内の地表面上への敷設や、路肩への移動が容易となる。また、トンネルの延伸方向に隣接する各敷設パネル10A、10の連結方法は、例えば各パネルの延伸方向端部に凹凸(図示しない)を設け、それらの凹凸を組み合わせることによって連結する方法を挙げることができる。この分割構造の理解を助けるため、図6に敷設パネル10Aおよび敷設スライドシート11Aの分割境界線21を示した。
【0046】
(風管スライドシート11B)
風管2の下端部外面には風管スライドシート11Bを設けることが好ましい。風管スライドシート11Bを必ず設ける必要はないが、この風管スライドシート11Bを設けることで敷設スライドシート11Aと風管スライドシート11Bの間の摩擦抵抗が減るため、敷設スライドシート11Aの上を風管2が滑りやすくなる。
【0047】
この点について発明者らは、敷設スライドシート11Aと風管スライドシート11Bにエフクリーン(登録商標)(AGCグリーンテック株式会社製)を用い、風管2にターポリンからなるビニール風管を用いて効果の確認を行った。それによると、風管スライドシート11Bを用いることにより、風管スライドシート11Bを用いない場合と比べて、摩擦係数を約1/2に低減することができた。
【0048】
図示した風管スライドシート11Bは風管2の下端部外面を覆うように設けられており、風管スライドシート11Bの幅方向の長さは敷設パネル10Aの幅方向の長さよりも長くなっている。例えば、敷設パネル10Aの幅方向の長さMを800mmとした場合、その幅方向の長さNを1000mmにすることができる。また、風管スライドシート11Bは風管2の長手方向に沿って延在している。
【0049】
後述する台車7が存在しない箇所においては、図4に示したように、地表面から上方へ向かって順番に敷設パネル10A、敷設スライドシート11A、風管スライドシート11B、風管2が位置している。台車7が存在する箇所においては、図3に示したように、敷設スライドシート11Aと風管スライドシート11Bの間に台車パネル10Bが位置し、それ以外の横断面の順序は図4と同様である。なお、図4の形態では、風管2と敷設スライドシート11Aが接しているが、これらの間に任意の別のシートを挿入しても良い。
【0050】
風管スライドシート11Bは風管2に接着されているわけではないが、風管2がトンネル延伸方向へ移動すると追従して移動する。また、風管2が収縮して折り畳まれると風管スライドシート11Bも同様に折り畳まれ、隣接するコイル4の間に風管2と風管スライドシート11Bが共に挟まれた状態となる。
【0051】
(台車7)
前記のとおり風管2の中に保持体13が複数設けられているが、この保持体13の重量は1セットあたり20キロもあるため、風管2をトンネル延伸方向へ移動させる際の妨げになる。そこで、この保持体13を支えるために台車7を設けることが好ましい。図1の例では、鞘管5の長手方向の中央付近にリング6を設けているため、保持体13の重心がリング6となる。そのため、各リング6の下方にそれぞれ台車7を設けている。
【0052】
この台車7は、風管2の下端部の周方向の曲線と同じ軌跡を描く曲線からなる台車パネル10Bと、この台車パネル10Bの下面の幅方向両側部に設けられ、トンネル延伸方向に延在する取り付け部材14と、この取り付け部材14にボルト等によって取り付けられた複数の車輪8を有する。
【0053】
前記台車パネル10Bの幅方向の長さは任意に決めることができるが、レール9の上を走行する車輪8を取り付けるため、少なくともレール9の幅より長くすることが好ましい。また、台車パネル10Bのトンネル延伸方向の長さも任意に決めることができるが、400〜600mm程度が好ましい。400mmよりも短い場合は、保持体13をトンネル延伸方向へ円滑に移動させることが困難となり、600mmよりも長い場合は、風管2が収縮する際に、トンネル延伸方向に隣接する複数の台車パネル10B、10Bが互いに干渉しあって、風管2を十分に収縮できないからである。図示した台車パネル10Bのトンネル延伸方向の長さは、敷設パネル10Aのトンネル延伸方向の長さと同じにしている。
【0054】
取り付け部材14はL字鋼からなり、台車パネル10Bの下面の幅方向両側部にそれぞれ設けられている。図示形態ではこのL字鋼14の角度が約60度からなり、L字鋼14の上面が台車パネル10Bの下面に接着等によって固定され、L字鋼の14の側面が垂直方向に垂下している。
【0055】
車輪8はL字鋼14の側面に対して幅方向外側から取り付けられている。車輪8の数は任意に決めることができるが、レール9の上を安定的に走行するため、図示形態のように左側のL字鋼14に2個、右側のL字鋼14にも2個設けることが好ましい。左側のL字鋼14に設けた2個の車輪8の位置について詳述すると、図示形態ではリング6を挟んでトンネル延伸方向に前後一個ずつ設けている。右側のL字鋼14に設けた2個の車輪8の位置も同様である。
【0056】
なお、台車7のある部分では台車パネル10Bと敷設スライドシート11Aの間の空間が維持され、敷設部(敷設パネル10Aおよび敷設スライドシート11A)とダクト部(風管2、風管スライドシート11Bおよび台車パネル11B)が互いに接触しない状態で連結ダクト2がトンネル延伸方向に移動する。他方、台車7のない部分では敷設スライドシート11Aと風管スライドシート11Bの間に空間は存在せず、各スライドシート11A、11Bが互いに接触しながら連結ダクト2がトンネル延伸方向に移動する。
【0057】
なお、台車7は、保持体13ごとに1個ずつ設けられるほか、重量が重い先端管3にも例えば2個程度設けることが好ましい。また、換気ダクト20の全ての部分に台車7を設けると、換気ダクト20が収縮できなくなるため好ましくない。
【0058】
(引張装置15)
換気ダクト20の前方には先端管3が設けられている。この先端管3の前方端部には引張装置15としてのウインチ15が設けられ、ウインチ15のワイヤ16がトンネル側壁SWに打ち付けたアンカー18と連結されている。そして、ウインチ15のワイヤ16を巻き取ることによって、換気ダクト20をトンネル切羽側へ移動させる形態となっている。なお、引張装置15として、ウインチの代わりにギヤードモーターや滑車などを設けても良い。
【0059】
(蓋体17)
先端管3の前方端部は、路盤から異物を吸い込まないようにするため、斜め上方に湾曲させている。また、先端管3の前方上端部には蓋体17としてダンパー17を設けている。蓋体17として、ダンパーの代わりに邪魔板やバルーンなどを設けても良い。図示したダンパー17は先端管3の前方開口部に蓋をする板状体である。この板状体17が開いている状態では、トンネル坑内の空気と換気ダクト20内の空気が自由に行き来できるが、板状体17が閉まることによってその自由度が制限されることになる。図示形態の場合、ダンパー17が閉まると先端管3の前方開口部の2/3程度が塞がれる。すると、この先端管3がオリフィスのような機構となり、換気ダクト20内に負圧となり、トンネル坑内から換気ダクト20内に向かう風(空気A)が発生する。そして、発生した風力に導かれて換気ダクト20が坑口側へ移動する。
【0060】
以上のように、ダンパー17は換気ダクト20を後退させるためのものである。そのため、ダンパー17が閉じた場合であっても先端管3の前方開口部をすべて覆わないようにして、トンネル坑内の空気が換気ダクト20内に入り込めるようにする必要がある。ダンパー17が閉じたときに、先端管3の前方開口部とダンパー17の間に生じた隙間が広すぎても狭すぎても発生する風力が弱くなる。そのため、前方開口部の面積に対する隙間の面積の割合が、10%〜30%となるようにすることが好ましい。
【0061】
ダンパー17の開閉は電動で行っても良いし、ダンパー17に連結したワイヤ(図示しない)を伸び縮みさせることによって行っても良い。また、ダンパー17の形状や取り付け位置は任意に変更することもできる。ただし、図示したようにダンパー17を先端管3の前方上端部に取り付けると、ダンパー17を重力によって閉じることができるという利点がある。
【0062】
トンネル切羽にコンクリート吹付けを行っている際などでは、トンネル切羽近傍で多数の微粒子が発生するため、作業環境を改善すべく換気ダクト20を前進させる必要がある。このように換気ダクト20を前進させる際には、換気ダクト20のワイヤ16をウインチ15で巻き取りながら前進させる。他方、トンネルの発破を行う際などでは、換気ダクト20を一時的に後方へ退避させる必要がある。このように換気ダクト20を後退させる際には、ダンパー17を閉じて換気ダクト20内を負圧にし、発生した風圧によって換気ダクト20を後退させる。
【0063】
なお、換気ダクト20を前進させるときや換気中はダンパー17が開いた状態を保持し、換気ダクト20を後退させるときにダンパー17を閉じるようにしている。また、ウインチ15は換気ダクト20を前進させるときに駆動してワイヤ16を巻き取り、それ以外の時は駆動しないようにしている。
【0064】
また、前進時の推力は、各スライドシート11A、11Bと、台車7の車輪8の転がり抵抗に依存する。仮に換気ダクト20の重量を5.5m/140kg、換気ダクト20の伸縮長を77m、摩擦素数を0.05とし、トンネル勾配などの余裕を取ると、ウインチの能力として150kgfあれば十分である。反対に後退時の推力は、換気ダクト20の直径が1500mm、断面積が1.77m2とすると、830Paの負圧を発生させれば後退可能である。この負圧については、吸引ファンの能力で調整することができる。
【0065】
なお、トンネル坑内の換気に用いる換気ダクトをトンネル延伸方向に移動させる方法は、トンネル坑内の地表面上にトンネルの延伸方向に沿って敷設スライドシートを敷設する敷設工程と、トンネル坑内の換気に用いる換気ダクトを前記敷設スライドシートの上面に載置する載置工程と、前記換気ダクトを前記敷設スライドシート上で滑らせながら、トンネル前方または後方に移動させる移動工程と、を有する。各工程の詳細については、前記換気設備の説明欄を参照いただきたい。
【0066】
なお、トンネル坑内を換気する際には、敷設工程および載置工程を終えた段階で、換気ダクトの坑口側端部に連結した集塵機を作動させ、トンネル切羽近傍の汚染空気を吸い込んで換気を行う。そして、発破などを行う際には、蓋体17を用いて換気ダクト20をトンネル後方へ移動(退避)させる。そして、発破作業などが終了した段階で、引張装置15を作動させて換気ダクト20をトンネル前方へ移動させ、再びトンネル坑内の換気を行う。なお、トンネルの掘進に伴って、換気設備1もトンネル前方へ移動させる。その際には、新たな敷設パネル10Aおよび敷設スライドシート11Aをトンネル前方に敷設した後、引張装置15によって換気ダクト20を前方へ移動させる。なお、引張装置15としてウインチ15を用いる場合は、ワイヤ16の先端部をトンネル側壁SWに打ち付けたアンカー18に固定するが、トンネルの掘進に伴って換気設備全体の位置をトンネル前方へ移動させる場合は、トンネル側壁SWに打ち付けたアンカー18を一旦外し、トンネル側壁SWの前方に新たなアンカー18を打ち直すと良い。
【0067】
また、ダクト延長方向に隣接するパネル10の端部間で不陸が生じると、当該部分にコイル4が引っかかり、風管2の伸縮が妨げられてしまうことがある。これを防ぐため、両端部に跨るように結合パネル(図示しない)を敷き、この不陸をなくすことが好ましい。この結合パネルは、例えば、パネル10の路盤側に敷き、パネル10の両端部にマジックファスナで固定することができる。
【符号の説明】
【0068】
1…換気設備、2…風管、3…先端管、4…コイル、5…鞘管、6…リング、7…台車、8…車輪、9…レール、10…パネル、10A…敷設パネル、10B…台車パネル、11…スライドシート、11A…敷設スライドシート、11B…風管スライドシート、12…折り畳み線、13…保持体、14…取り付け部材、15…引張装置、16…ワイヤ、17…蓋体、18…アンカー、19…地表面、20…換気ダクト、21…分割境界線、A…空気、L…台車の長さ、M…敷設パネルの幅方向の長さ、N…風管スライドシートの幅方向の長さ、S…保持体の長さ、FW…切羽、SW…側壁
【要約】
【課題】ダクト懸架方式に代わる換気設備を提供することにある。具体的には、設置および撤去が簡単な換気設備の提供を目的とする。
【解決手段】前記課題を解決する換気設備1は、トンネル坑内の地表面上にトンネルの延伸方向に沿って敷設された敷設スライドシート11Aと、前記敷設スライドシート11Aの上面に載置された換気ダクト20と、を有し、前記敷設スライドシート11Aは前記換気ダクト20との摩擦を低減させるシートであり、前記換気ダクト20は前記敷設スライドシート11A上を滑りながらトンネル前方または後方に移動可能であることを特徴とする。
【選択図】図1
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