特許第6343392号(P6343392)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6343392水性熱硬化性バインダー組成物及びそれを用いて繊維状材料をバインディングする方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343392
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】水性熱硬化性バインダー組成物及びそれを用いて繊維状材料をバインディングする方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/40 20060101AFI20180604BHJP
   D06M 13/00 20060101ALI20180604BHJP
   D06M 13/148 20060101ALI20180604BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20180604BHJP
   D06M 13/342 20060101ALI20180604BHJP
   D06M 13/11 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   C08G59/40
   D06M13/00
   D06M13/148
   D06M15/53
   D06M13/342
   D06M13/11
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-506237(P2017-506237)
(86)(22)【出願日】2015年4月17日
(65)【公表番号】特表2017-514008(P2017-514008A)
(43)【公表日】2017年6月1日
(86)【国際出願番号】KR2015003874
(87)【国際公開番号】WO2015160216
(87)【国際公開日】20151022
【審査請求日】2016年12月7日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0046713
(32)【優先日】2014年4月18日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】507310879
【氏名又は名称】ケーシーシー コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(74)【代理人】
【識別番号】100125173
【弁理士】
【氏名又は名称】竹岡 明美
(72)【発明者】
【氏名】ホン,スンミン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨンジュ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ヨンギ
【審査官】 佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−179534(JP,A)
【文献】 特開2002−179770(JP,A)
【文献】 特開2002−128899(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/115152(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
D06M 13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上の還元糖、
一つ以上のアミノ酸、及び
一つ以上の、多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物を含み(但し、γ−ポリグルタミン酸(γ−PGA)を含まない)、
120℃以上の温度で硬化されるものである水性熱硬化性バインダー組成物。
【請求項2】
前記還元糖は、ブドウ糖、マルトース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、セロビオース、ゲンチオビオース、ルチノース及びこれらの組み合わせから選ばれるものである請求項1に記載の水性熱硬化性バインダー組成物。
【請求項3】
前記アミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、セリン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、ジヨードチロシン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、オキシプロリン、グルタミン及びこれらの組み合わせから選ばれるものである請求項1に記載の水性熱硬化性バインダー組成物。
【請求項4】
前記アミノ酸のアミノ基の一部又は全部は、酸で中和されていることを特徴とする請求項1に記載の水性熱硬化性バインダー組成物。
【請求項5】
前記多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物の水分許容度(water tolerance)は25重量%以上である請求項1に記載の水性熱硬化性バインダー組成物。
【請求項6】
前記多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物は、天然源から製造されるものである請求項1に記載の水性熱硬化性バインダー組成物。
【請求項7】
前記多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物は、グリセリンポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、及びソルビトールポリグリシジルエーテルよりなる群から選ばれる一つ以上である請求項1に記載の水性熱硬化性バインダー組成物。
【請求項8】
室温及び常圧条件で、沸点が300℃超である酸性化合物を更に含む請求項1に記載の水性熱硬化性バインダー組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の水性熱硬化性バインダー組成物を繊維状材料に噴霧する工程、及び
前記バインダー組成物を熱硬化する工程を含む繊維状材料をバインディングする方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の水性熱硬化性バインダー組成物を用いてバインディングされた繊維状材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性バインダー組成物及びそれを用いて繊維状材料をバインディングする方法に関し、より詳細には、一つ以上の還元糖、一つ以上のアミノ酸、及び一つ以上の、多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物を含む水性バインダー組成物及びそれを用いて繊維状材料をバインディングする方法に関する。本発明によれば、従来のフェノールホルムアルデヒド樹脂(PFR)と比較して、安価で同等以上の物性を発揮でき、ホルムアルデヒドやフェノールのような有毒物質を含まず、または放出することもなく、従来のPFRの欠点である加工時の中毒を低減することができ、加工した製品の耐水性、引張強度、及び硬度等の機械的特性を顕著に改善することができる。
【背景技術】
【0002】
ガラス綿及び岩綿等の繊維状材料の接着に用いるバインダーとして、安価であるが物性に優れているためPFRが広く使用されている。しかし、PFRは、製造工程中のみならず噴霧(application)後でも発癌物質であるホルムアルデヒドを放出し、フェノールもまた、未反応物質として悪影響を引き起こす可能性のある毒性物質であり、持続的に外部環境に曝される。
【0003】
これを改善するために、特許文献1は、主に天然源由来のプルランと糖類からなる接着剤及びこれを含有する成形物を開示している。しかし、この特許文献1に開示された接着剤は、硬化度が低過ぎて耐水性等の十分な物性を得ることはできないため、バインダーとして容易に用いることはできない。
【0004】
特許文献2は、糖蜜と多塩基酸を高温で反応させて得られたメラノイジン及びポリエステル重合体の用途を開示している。しかし、糖蜜はそれ自体の固有の特性上、成分の種類と含量を均一に管理できないという欠点がある。
【0005】
特許文献3は、多糖と多官能カルボン酸基を有する化合物を用いて、焼付時エステル化反応(bake−esterification)で硬化を行うバインダー組成物を開示している。しかし、カルボン酸と多糖の水酸基とのエステル縮合反応は、反応速度が遅すぎるので十分な高温と硬化時間を必要とするという問題がある。
【0006】
特許文献4は、中和された多官能酸性化合物と還元糖のメイラード反応物を含む接着剤を開示している。しかし、この接着剤は、高温で硬化反応後、十分な強度を得ることが困難であり、水に浸漬する時に、水溶性で低分子量の褐色化合物が溶出するという欠点がある。更に、中和剤としてアンモニアや揮発性アミンを使用する場合、焼付工程中の揮発により原料の損失又は大気汚染を誘発するという問題が生じる可能性があり、アミン化合物の場合、ほとんどが石油化学由来であるため、天然資源量の減少という制限がある。
【0007】
特許文献5には、高温での還元糖とポリアミンとのメイラード反応により得られる接着剤が開示されている。しかし、ここで使用されるポリアミンもまた主に石油化学をベースとするものであるため、持続生産が可能ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】韓国特許第240044号
【特許文献2】米国特許出願公開第2012−0133073号
【特許文献3】韓国特許出願公開第1999−0037115号
【特許文献4】韓国特許出願公開第2008−0049012号
【特許文献5】米国特許出願公開第2013−0059075号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ガラス綿と岩綿等の繊維状材料の接着において従来のフェノールホルムアルデヒド樹脂(PFR)と比較して安価で同等以上の物性を発揮することができ、ホルムアルデヒドやフェノールのような有毒物質を含まず、または放出することもなく、従来のPFRの欠点である加工時の中毒を低減することができ、加工した製品の耐水性、引張強度、及び硬度等の機械的特性を顕著に向上することができ、天然源由来の主原料を使用できるので、資源の減少の問題がなく、持続生産が可能な水性バインダー組成物及びそれを用いて繊維状材料をバインディングする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明は、一つ以上の還元糖、一つ以上のアミノ酸、及び一つ以上の、多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物を含む水性熱硬化性バインダー組成物を提供する。
【0011】
他の態様として、本発明は、前記水性熱硬化性バインダー組成物を繊維状材料に噴霧する工程、及び前記バインダー組成物を熱硬化する工程を含む繊維状材料をバインディングする方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバインダー組成物を用いてバインディングされた繊維状材料の製品は、従来のフェノールホルムアルデヒド樹脂(PFR)を用いた場合と比較して、安価で同等以上の物性を有するところに特徴があり、ホルムアルデヒドやフェノールのような有毒物質を含まず、または放出することなく、従来のPFRの欠点である加工時の中毒を低減することができ、加工した製品の耐水性、引張強度、及び硬度等の機械的特性を顕著に向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のバインダー組成物は、一つ以上の還元糖を含む。本発明の還元糖は、アルデヒド又は異性化によるアルデヒド構造を有していても良いアルドース又はケトースの糖類を意味する。より具体的には、ブドウ糖、マルトース、フルクトース、ガラクトース、ラクトース、セロビオース、ゲンチオビオース、及びルチノース等の単糖類又は二糖類を単独又は組み合わせて使用しても良いが、これらに限定されない。
【0015】
本発明のバインダー組成物に含まれる還元糖の量は、還元糖とアミノ酸の合計100重量部に対して、好ましくは40〜95重量部、より好ましくは60〜90重量部、更に好ましくは70〜90重量部である。バインダー組成物内の還元糖含量は、還元糖とアミノ酸の合計100重量部に対して、40重量部未満のとき、バインダー組成物から形成された硬化物の硬度が低下する場合があり、95重量部を超えると、組成物の安定性及び硬化物の硬化度が低下する場合がある。
【0016】
本発明のバインダー組成物は、一つ以上のアミノ酸を含む。本発明において、アミノ酸は、一分子にアミノ基とカルボキシ基をそれぞれ1個以上有している化合物であり、具体的には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、トレオニン、セリン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、ジヨードチロシン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、プロリン、オキシプロリン、及びグルタミン等を単独又は組み合わせて使用しても良いが、これらに限定されない。
【0017】
本発明のバインダー組成物に含まれるアミノ酸の含量は、還元糖とアミノ酸の合計100重量部に対して、好ましくは5〜60重量部、より好ましくは10〜40重量部、更に好ましくは10〜30重量部である。バインダー組成物内のアミノ酸含量が、還元糖とアミノ酸の合計100重量部に対して、5重量部未満のとき安定性及び硬化物の硬化度が低下する場合があり、60重量部を超えると、バインダー組成物から形成された硬化物の硬度が低下する場合がある。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、アミノ酸の水に対する溶解度を高めるために、アミノ基の一部又は全部(例えば、アミノ酸に含まれるアミノ基の20〜100当量%、好ましくは30〜100当量%)が酸で中和されたアミノ酸を好ましくは使用する。アミノ酸の中和に用いられる酸の例として、硫酸、リン酸、カルボン酸、有機スルホン酸などが挙げられ、単分子、二量体、三量体、オリゴマー又は高分子化合物等のいかなる形態の酸性化合物も使用することができる。ある場合において、アミン化合物やアンモニアで中和されても良い。好ましくは、室温及び常圧(25℃、1気圧)条件で沸点が300℃超(例えば、300〜500℃)の酸性化合物を使用できる。
【0019】
本発明の主成分である還元糖とアミノ酸は、植物由来のデンプン、糖蜜等を加水分解や発酵工程を経て得られる。後記する多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物は、植物油の加工中に形成されるグリセリン、ソルビトール等とエピクロロヒドリン(グリセリンより誘導可能)とを反応させて製造することができる。そのため、天然資源の減少の問題がなく、製造時と廃棄時に発生する二酸化炭素の量を最小限にすることができる。更に、製品の製造工程中、及び最終製品内でフェノール、ホルムアルデヒド等の有毒物質を含まず、発生させることもなく、環境への悪影響を低減することができる。
【0020】
本発明のバインダー組成物は、酸化数が2以上の(例えば、2〜7価)多価アルコール、すなわちヒドロキシ基を2以上含む化合物のポリグリシジルエーテル化合物を一つ以上含む。多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物に含まれるグリシジル基の数は、2〜7が好ましく、2〜5がより好ましく、2〜3が最も好ましい。本発明のバインダー組成物は、繊維状材料に噴霧する前には水溶液又は水分散液の形態になっているので、噴霧前のバインダー溶液のコロイド安定性の確保のために前述した多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物の水分許容度(Water tolerance)(本発明において、水分許容度は、室温、常圧下でエポキシ化合物に水を溶解したときに、相分離なく、均一な溶液を維持するためのエポキシ化合物に対する水の重量%を意味する。)は高いことが好ましい。多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物の水分許容度は、具体的には25重量%以上であれば良い。多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物の水分許容度が低すぎると、バインダー水溶液の製造時に、多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物が十分に溶解せず、硬化能を十分に発揮できないおそれがある。
【0021】
本発明で用いる多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物は、石油化学ベースの原料または天然源から製造することができ、地球環境の保護の観点からは持続的に生産が可能な天然源から製造された化合物が好ましい。例えば、植物油由来のグリセリンを原料としたエピクロロヒドリン、及びグリセリンから製造されたグリセリンポリグリシジルエーテルまたはソルビトールポリグリシジルエーテル、天然源由来のソルビトール等を好ましく使用することができる。
【0022】
本発明で用いることができる多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物として、ヒドロキシ基を2個以上有するジオール、トリオール又はポリオール化合物のジ−、トリ−、又はポリグリシジルエーテル化合物の一つ以上が挙げられる。具体的な例として、グリセリンポリグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、及びソルビトールポリグリシジルエーテルよりなる群から選ばれる一つ以上が挙げられるが、本発明で用いることができる多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物の種類はこれらに限定されない。即ち、種々の多価アルコールとグリシジル化合物を反応させて、多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物を形成することができ、これらは全て本発明の範囲に含まれ得る。
【0023】
本発明のバインダー組成物に含まれる多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物の含量は、還元糖とアミノ酸の合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部、更に好ましくは0.1〜3重量部である。本発明のバインダー組成物内の多価アルコールのポリグリシジルエーテル化合物の含量が、還元糖とアミノ酸の合計100重量部に対して、0.1重量部未満のとき、不十分な硬化によって製品の耐水性等の物性が低下する場合があり、10重量部を超えると、接着剤硬化物が壊れ易くなるか未反応のエポキシ化合物が残る場合があり、製品の物性に好ましくない影響を及ぼすおそれがある。
【0024】
本発明のバインダー組成物は、好ましくは、室温及び常圧下(25℃、1気圧)で沸点が300℃超(例えば、300〜500℃)の酸性化合物を更に含んでいてもよい。このような高沸点の酸性化合物は、アミノ酸の水に対する溶解度を高めるものであり、繊維状集合体に噴霧後、焼付工程での硬化反応速度を高めるために使用しても良い。高温硬化反応時の揮発を抑制するために、室温及び常圧条件で沸点300℃以上であることが好ましい。高沸点の酸性化合物の具体的な例として、硫酸、リン酸、カルボン酸、有機スルホン酸等が挙げられ、その形態には単分子、二量体、三量体、オリゴマー、又は高分子化合物等のいかなる形態の酸性化合物も使用することができる。ある場合において、酸性化合物はアミン化合物やアンモニアで中和した形態で使用しても良い。
【0025】
本発明のバインダー組成物に高沸点の酸性化合物が含まれる場合、その量は、還元糖とアミノ酸の合計100重量部に対して、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部、更に好ましくは0.1〜3重量部である。バインダー組成物内の高沸点の酸性化合物の含量は、還元糖とアミノ酸の合計100重量部に対して、0.1重量部未満であれば、十分な硬化が起きず硬化物の物性が低下する場合があり、10重量部を超えると壊れやすい硬化物が発生する場合がある。
【0026】
本発明のバインダー組成物は、前述した成分以外に本発明の目的を達成できる範囲内で、必要に応じて選択的に一つ以上の添加剤を更に含んでも良い。有用な添加剤として、繊維状集合体の耐水性を高めるための撥水剤、設備の腐食を防止するための防錆剤、製品の粉塵の発生を低減するための防塵油(dust oil)、pHを制御するための緩衝剤、又は粘着力向上のためのカップリング剤等を用いることができる。しかし、これらに限定されず、この技術分野で広く使用されているいかなる添加剤も使用することができる。このような追加の添加剤に特別な制限は無く、還元糖とアミノ酸との合計100重量部に対して、それぞれ添加剤を0.1〜10重量部で用いることができるが、これに限定されない。
【0027】
本発明のバインダー組成物は、上記成分を繊維状材料に均一に噴霧するために、水(工業用水、地下水、廃水)等の希釈剤を使用し、その固形分含量を2〜50重量%、好ましくは5〜20重量%(即ち、組成物全体100重量%に対して、水の含量を50〜98重量%、好ましくは80〜95重量%)に制御することができる。希釈剤としての水が多すぎると、水を揮発させるためのエネルギーが過度に消費されるが、水が少な過ぎると、バインダー組成物を繊維状材料上に十分に噴霧できなくなる場合があり、その結果、最終製品内のバインダー含量が不必要に高くなって好ましくない。
【0028】
本発明のバインダー組成物を熱処理(例えば、120℃以上の温度)すれば、還元糖のアルデヒド基とアミノ酸のアミン基とのアマドリ中間体で起こるメイラード反応、アミノ酸のカルボキシ酸性基とアミン基とのアミド反応、還元糖のヒドロキシ基とアミノ酸のカルボキシ酸性基とのエステル反応、グリシジル基とヒドロキシ基、グリシジル基とカルボキシ基、又はグリシジル基とアミノ基との硬化反応等の多様な硬化反応が起こり、その結果、水不溶性の高分子が形成されるので、耐水性等の物性に非常に優れた有用な接着剤として用いることができる。
【0029】
従って、本発明の他の態様として、本発明の水性熱硬化性バインダー組成物を繊維状材料に噴霧する工程、及び噴霧したバインダー組成物を熱硬化する工程、を含むバインディングする方法、及び本発明の水性熱硬化性バインダー組成物を用いてバインディングされた繊維状材料が提供される。
【0030】
本発明の繊維状材料をバインディングする方法において、上記水性熱硬化性バインダー組成物は、硬化されていない水溶液又は水分散液の状態で繊維状材料に噴霧される。上記繊維状材料の具体的な例として、無機繊維(例えば、岩綿、ガラス綿、セラミック繊維等)又は天然及び合成樹脂から得られる繊維等の繊維集合体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
更に、バインダー組成物が噴霧された繊維状材料の集合体を熱処理して熱硬化させる。硬化のための熱処理温度は120℃以上(例えば、120〜300℃、好ましくは150〜250℃)が好ましい。熱処理温度が低すぎると硬化が不十分となるが、高過ぎると硬化し過ぎて、粉塵発生の問題を引き起こす可能性がある。
【0032】
本発明により製造される繊維状材料内の硬化したバインダー含量は、バインディングされた繊維状材料100重量部に対して、例えば2〜15重量%であっても良い。
【実施例】
【0033】
以下、下記実施例を通じて本発明を具体的に説明するが、いかなる意味でも本発明の範囲はこれら実施例に限定されるべきではない。
【0034】
実施例1
グルコース(D−グルコース)(固形分:91重量%)376kg、グルタミン酸(固形分:98重量%)58kg、グリセリントリグリシジルエーテル(JSI社製、EJ−300、固形分99%、水分許容度75重量%)2.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水4050kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0035】
実施例2
グルコース(D−グルコース)(固形分:91重量%)376kg、L−アスパラギン(固形分:98重量%)54kg、硫酸(98%)5kg、グリセリントリグリシジルエーテル(JSI社製、EJ−300、固形分99重量%、水分許容度70重量%)2.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水4050kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0036】
実施例3
グルコース(D−グルコース)(固形分:91重量%)376kg、液相L−リシン(固形分:50重量%)116kg、硫酸(98%)5kg、グリセリントリグリシジルエーテル(JSI社製、EJ−300、固形分99%、水分許容度70重量%)2.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水3980kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0037】
実施例4
グルコース(D−グルコース)(固形分:91重量%)329kg、硫酸で中和された固相リシン(L−リシン)(固形分:98重量%)102kg、グリセリントリグリシジルエーテル(JSI社製、EJ−300、固形分99%、水分許容度70重量%)2.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水4050kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0038】
実施例5
グルコース(D−グルコース)(固形分:91重量%)376kg、L−アルギニン(固形分:98重量%)54kg、グリセリントリグリシジルエーテル(JSI社製、EJ−300、固形分99%、水分許容度70重量%)2.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水4050kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0039】
実施例6
グルコース(D−グルコース)(固形分:91重量%)376kg、グルタミン(固形分:98重量%)58kg、硫酸(98%)5kg、グリセリントリグリシジルエーテル(JSI社製、EJ−300、固形分99%、水分許容度70重量%)2.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水4050kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0040】
実施例7
グルコース(D−グルコース)(固形分:91重量%)376kg、グルタミン(固形分:98重量%)58kg、硫酸(98%)5kg、ソルビトールテトラグリシジルエーテル(JSI社製、EJ−190)(固形分99%、水分許容度78重量%)2.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水4050kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0041】
実施例8
グルコース(D−グルコース)(固形分:91重量%)376kg、グルタミン(固形分:98重量%)58kg、硫酸(98%)5kg、エチレングリコールジグリシジルエーテル(JSI社製、EJ−1030、固形分99重量%、水分許容度100重量%)2.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水4050kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0042】
実施例9
グルコース(D−グルコース)(固形分:91重量%)376kg、グルタミン(固形分:98重量%)58kg、硫酸(98%)5kg、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、EX−321、固形分99重量%、水分許容度27重量%)2.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水4050kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0043】
実施例10
グルコース(D−グルコース)(固形分:91重量%)376kg、グルタミン(固形分:98重量%)58kg、p−トルエンスルホン酸(pTSA、98%)5kg、グリセリントリグリシジルエーテル(JSI社製、EJ−190、固形分99重量%、水分許容度78重量%)2.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水4050kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0044】
比較例1:フェノール/ホルムアルデヒド樹脂を用いたバインダーの製造
フェノール/ホルムアルデヒド樹脂(KCC社製)404kg、蒸留水3800kg、撥水剤(KCC−SI1460Z)2kg、及び防塵油(Garo217S)3kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0045】
比較例2:ポリカルボン酸を用いたバインダーの製造(特許文献4の実施例1)
グルコース(D−グルコース)(固形分:91重量%)158kg、クエン酸(固形分:98重量%)44kg、アンモニア水(25%)50kg、蒸留水3800kg、撥水剤(KCC−SI1460Z)2kg、及び防塵油(Garo217S)3kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は5.0重量%だった。
【0046】
比較例3:エポキシエマルション樹脂を用いたバインダーの製造
グルコース(D−グルコース)(固形分:91重量%)376kg、グルタミン(固形分:98重量%)58kg、エポキシエマルション樹脂(KBM−128−70、Kukdo Chemical、固形分70重量%)3.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水4049kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0047】
比較例4:非還元糖を用いたバインダーの製造
スクロース(固形分:60重量%)570kg、グルタミン(固形分:98重量%)58kg、硫酸(98%)5kg、グリセリントリグリシジルエーテル(JSI社製、EJ−300)2.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水3850kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0048】
比較例5:非還元糖を用いたバインダーの製造
マルトデキストリン(固形分:99重量%)345kg、グルタミン(固形分:98重量%)58kg、硫酸(98%)5kg、グリセリントリグリシジルエーテル(JSI社製、EJ−300)2.4kg、防塵油(Govi−Garo217S)3kg、シリコーン撥水剤(シリコーン系撥水剤)(KCC−SI1460Z)2kg、及び蒸留水4070kgを混合容器に投入し、撹拌機で30分間撹拌して、バインダーを製造した。得られたバインダーの固形分は9重量%であった。
【0049】
実験例:バインダーを用いた繊維状材料のバインディング
高温の溶融したガラスを2100kg/時間の速度で紡績機に通して繊維化し、収集器(collecting vessel)に達したガラス繊維に、上記実施例1〜10及び比較例1、2、4、5で製造したそれぞれのバインダーを47L/分の割合で噴射した。その後、乾燥工程を経てガラス綿の断熱材(insulator)を得た。比較例3のバインダーの場合、凝集粒子が発生したためスプレー噴射できなかった。
【0050】
製造したそれぞれのガラス綿に対し、下記試験を行った。
【0051】
耐水性
100mm(横)×100mm(縦)×50mm(厚さ)のガラス綿試料を準備して、標準48時間の耐水性試験を行った。ビーカー内の純水に試料を浮かして、完全に沈むまでにかかる時間を測定した。耐水性等級は0に近いほど不良であり、5に近いほど優れていることを示す。試験結果を下記表1、2に示す。
【0052】
浸水性
100mm(横)×100mm(縦)×50mm(厚さ)のガラス綿試料を準備して、標準72時間の浸水性試験を行った。純水を満たした2Lビーカー内に試料を完全に浸水させて、色の変化を測定した。濃度に応じた色の変化を客観的に数値化した。浸水性等級は0に近いほど不良であり、5に近いほど優れていることを示す。試験結果を表1、2に示す。
【0053】
ホルムアルデヒドの放出量
小型チャンバー法により、試料を小型チャンバーに入れて、7日後にチャンバー内の空気を集めた。集めた空気をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で分析した。より具体的な方法は、韓国空気清浄協会で規定された方法(KS M ISO 16000、KS M 1998)に従って、7日目にその結果を分析した。試験結果を表1、2に示す。
【0054】
引張強度
測定試料の3個全てを4cmのサイズに調整した。引張棒を試料の長さより短く設置し、試料を棒に垂直にしながら、試料を引張棒に垂直に固定した。引張強度の試験機の速度を15mm/分とし、ロッド表示内でスケールをゼロに設定した。次いで、その試験機を作動させた。試験機が自動で止まった後に表示された最大荷重を測定し、平均値を算出した。試験結果を表1、2に示す。
【0055】
粉塵率
測定試料を各4個ずつ幅1.5cm、長さ10cmの測定試料を準備した。測定前の試料の重さを量った後、試料を粉塵率測定器にセットして、1m/分の速度で縦横に揺らした。合計測定時間は試料当たり10分とし、試験機が自動で止まった後に、試料を計量した。粉塵率は、粉塵率=[(測定後の重さ/測定前の重さ)−1]×100の計算式で算出して、%で示した。試験結果を表1に示す。
【0056】
復元率
10m(横)×1m(縦)×0.05m(厚さ)のガラス綿試料を準備し、これをロール状にして、室温で8週間保持した。8週間後に巻かれていない状態にした後、試料の厚さの変化を測定した。試験結果を表1、2に示す。
【0057】
かび抵抗性
かび抵抗性はASTM G21−09試験法によって測定し、試料のかび成長率を1月間の観察の後に測定した。その結果を表1、2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】