(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343399
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】医療用液体のアプリケータ
(51)【国際特許分類】
A61M 35/00 20060101AFI20180604BHJP
【FI】
A61M35/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-524625(P2017-524625)
(86)(22)【出願日】2016年6月17日
(86)【国際出願番号】JP2016002924
(87)【国際公開番号】WO2016208166
(87)【国際公開日】20161229
【審査請求日】2017年10月23日
(31)【優先権主張番号】特願2015-128033(P2015-128033)
(32)【優先日】2015年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-172589(P2015-172589)
(32)【優先日】2015年9月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 真里
(72)【発明者】
【氏名】橋本 宗祐
【審査官】
今関 雅子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−513880(JP,A)
【文献】
特表2008−515484(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2001/0055511(US,A1)
【文献】
国際公開第2013/163552(WO,A2)
【文献】
米国特許出願公開第2004/0240927(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 35/00
A61L 2/00− 2/28
B05C 7/00−21/00
B65D 47/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の筒状部材と、該筒状部材に内蔵されている液体容器と、該液体容器の開裂手段とを備えたハンドル部;及び、前記筒状部材の下端に傾斜断面となるように固着されている塗布パッドの取付板と、該取付板に付着された塗布パッドとを備えた塗布部;を有する医療用液体のアプリケータであって、
前記取付板には、周縁が肉厚に形成された土手部、中央が凹部に形成された基底部、基底部中央付近に前記液体容器から解放放出された溶液が取付板先端方向に向かって流出するように、基底部に対して傾斜開口している傾斜流出孔、及び、該傾斜流出孔から取付板先端方向の基底部に傾斜流出孔を円弧の中心側とする円弧状又は三日月状に堰が設けられていることを特徴とする医療用液体のアプリケータ。
【請求項2】
筒状部材が、下方に向かって細くなるテーパーを有する円筒形状であることを特徴とする請求項1記載のアプリケータ。
【請求項3】
液体容器の開裂手段が、筒状部材に挿入されているアクチュエータ・スリーブであることを特徴とする請求項1又は2記載のアプリケータ。
【請求項4】
塗布パッドと取付板が略オムスビ形状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のアプリケータ。
【請求項5】
取付板上面を基準として、筒状部材の中心軸が取付板上面に対して、40〜50°傾斜していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか記載のアプリケータ。
【請求項6】
取付板上面を基準として、取付板上面に対して垂直方向の高さにおいて堰が土手部よりも0.1〜1mm高いことを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載のアプリケータ。
【請求項7】
堰が土手部よりも0.25〜0.75mm高いことを特徴とする請求項6記載のアプリケータ。
【請求項8】
円弧状又は三日月状に設けられている堰が、基底部表面を基準として、円弧の中心側からしてその上端に行くにしたがって遠ざかる方向に40〜50°傾斜していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載のアプリケータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外科手術の分野で特に有用な、消毒液等の医療用液体を皮膚に塗布するためのアプリケータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手術前の外科用洗浄剤や消毒液を皮膚に塗布するためのアプリケータとしては、手術前の外科用洗浄又は塗布剤を皮膚に塗布するのに特に有用である、破断可能なタンク容器内に収納された液体を表面に塗布するための送り出し装置を備えた液体アプリケータ(特許文献1)や、液体入りガラス・アンプルを受け入れる柔軟な細長い中空円筒体を有するとともに、液体を小分け排出するためにアンプルの破砕機構を備えた携帯型液体アプリケータ(特許文献2)や、容器を備える中空の細長い部材と、前記中空の細長い部材から半径方向に外側に延びるフランジと、前記フランジに取り付けられている分配器要素とを有する、流体を塗布又は供給するためのアプリケータであって、前記分配器要素は、少なくとも2つのオリフィスと、少なくとも2つのオリフィスを分離する突出要素と、前記分配器要素の前記第1の側に取り付けられている吸収パッドとを含む、アプリケータ(特許文献3)が知られている。
【0003】
また、所望の表面に消毒剤を塗布するための、並びに消毒剤に由来する望ましくない副産物を選択的に除去するためのアプリケータ(特許文献4)、流体を収容するためのパケットと、パケットに外部圧力を印加してパケットを圧縮し、流体をパケットから解放することを可能にするように構成された可撓性の蓋を有するハンドルを備えたアプリケータ・デバイス(特許文献5)や、細長い中空体と塗布パッドと中空体内に挿入されるアクチュエータ・スリーブを有し、長手方向突出部を有するアクチュエータ・スリーブが中空体内を移動するとき、中空体の中の液体容器の蓋部に対して作用して開放し、液体容器から塗布パッドに液体を放出する塗布具(特許文献6)や、筒状に形成された本体部と、該本体部の一方の端部に装着された薬液を含浸する多孔質体と、他方の端部に嵌合されたスリットを有するキャップと、からなる外容器と、摘み部を有する蓋材にてシールされ前記薬液が封入された内容器と、からなる液体塗布具であって、前記内容器が、前記本体部に収納され、前記摘み部が前記キャップの方向に折り返され、前記スリットを通して前記外容器の外側に飛び出していることを特徴とする液体塗布具(特許文献7)が知られている。
【0004】
そしてまた、一方の端部に開口口を有し、他方の端部に含浸性を有する多孔質体が装着された、筒状に延長された本体と、薬液が充填され口部をシール材で封止されたボトルと、前記本体と前記ボトルとを連結する略筒状の接続体と、からなる液体塗布具であって、前記接続体は、内面に前記ボトルの口元と螺合するためのネジ状部と、外面に前記開口口に連携して可動する凸状リブと、が形成され、前記開口口は、側壁に、前記凸状リブをガイドする略S字状のガイド溝が形成され、内面に、中間棚が形成され、該中間棚の内面に前記シール材を破材するための穴を有した先端が鋭角な内筒が、軸線に沿って前記口部の方向に形成されていることを特徴とする液体塗布具(特許文献8)や、液体充填アンプルを受容するのに好適な中空本体と一体的に形成された、ヒンジ、握り部および足部を有するレバーを備え、足部はアンプルに隣接して位置付けられ、かつレバーが押し下げられるとアンプルを破砕して液体を放出するアプリケータ(特許文献9)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−277297号公報
【特許文献2】特表2004−515285号公報
【特許文献3】特表2008−515484号公報
【特許文献4】特表2009−526624号公報
【特許文献5】特表2012−513879号公報
【特許文献6】特表2012−513880号公報
【特許文献7】特開2013−23271号公報
【特許文献8】特開2013−23282号公報
【特許文献9】特表2015−514551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、塗布パッドから適量の消毒液等の医療用液体が均一に滲出し、所定量を正確に塗布することができる医療用液体のアプリケータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来、下端に塗布パッドを有する中空の筒状部材に内蔵した消毒液等の液体を収容した容器を開裂させて、液体を筒状部材内に解放放出し、筒状部材の底部の孔から液体を流出させ、流出した液体を塗布パッドに浸透させ、皮膚に塗布するタイプのアプリケータにおいては、液体容器の開裂直後に液体が急激且つ一方向的に流出し、不均一に塗布パッドに浸透した結果、塗布する前や塗布中に液体が塗布パッドから滴下・液漏れすることがあったり、逆に液体の塗布パッドへの浸透量が部分的に少なくなり、スムーズに塗布パッドで均一に塗布できないことがあるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明者らは上記課題を解決すべく、塗布パッドの形状、塗布パッドの表面状態、塗布パッドの材質、塗布パッドの取付板における周縁土手部に囲まれた凹部の容積、取付板の基底部に傾斜して開口している傾斜流出孔の大きさ、容器の開裂の仕方、消毒薬の種類等について種々検討する過程で、堰を設けることで流量や流れ方向を調節することができないかとの考えに至った。そして堰の形状や高さ・傾きについて試行錯誤を繰り返した結果、傾斜流出孔を円弧の中心側とする円弧状や三日月状の堰を設ける、とりわけ取付板周縁の土手部より僅かに高い堰を設けることにより、上記課題が解決できることを見いだした。
【0009】
すなわち本発明は以下のとおりである。
[1]中空の筒状部材と、該筒状部材に内蔵されている液体容器と、該液体容器の開裂手段とを備えたハンドル部;及び、前記筒状部材の下端に傾斜断面となるように固着されている塗布パッドの取付板と、該取付板に付着された塗布パッドとを備えた塗布部;を有する医療用液体のアプリケータであって、
前記取付板には、周縁が肉厚に形成された土手部、中央が凹部に形成された基底部、基底部中央付近に前記液体容器から解放放出された溶液が取付板先端方向に向かって流出するように、基底部に対して傾斜開口している傾斜流出孔、及び、該傾斜流出孔から取付板先端方向の基底部に傾斜流出孔を円弧の中心側とする円弧状又は三日月状に堰が設けられていることを特徴とする医療用液体のアプリケータ。
[2]筒状部材が、下方に向かって細くなるテーパーを有する円筒形状であることを特徴とする上記[1]記載のアプリケータ。
[3]液体容器の開裂手段が、筒状部材に挿入されているアクチュエータ・スリーブであることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のアプリケータ。
[4]塗布パッドと取付板が略オムスビ形状であることを特徴とする上記[1]〜[3]のいずれか記載のアプリケータ。
[5]取付板上面を基準として、筒状部材の中心軸が取付板上面に対して、40〜50°傾斜していることを特徴とする上記[1]〜[4]のいずれか記載のアプリケータ。
[6]取付板上面を基準として、取付板上面に対して垂直方向の高さにおいて堰が土手部よりも0.1〜1mm高いことを特徴とする上記[1]〜[5]のいずれか記載のアプリケータ。
[7]堰が土手部よりも0.25〜0.75mm高いことを特徴とする上記[6]記載のアプリケータ。
[8]円弧状又は三日月状に設けられている堰が、基底部表面を基準として、円弧の中心側からしてその上端に行くにしたがって遠ざかる方向に40〜50°傾斜していることを特徴とする上記[1]〜[7]のいずれか記載のアプリケータ。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアプリケータによると、塗布パッドから消毒液等の医療用液体がしたたり落ちることなく、塗布パッドから適量の消毒液等の医療用液体が均一に滲出し、皮膚に所定量を正確に塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のアプリケータ(25mL)の正面図である。
【
図2】本発明のアプリケータ(25mL)の平面図である。
【
図3】本発明のアプリケータ(25mL)の底面図である。
【
図4】塗布パッドを除いた本発明のアプリケータ(25mL)の底面図である。
【
図5】
図4のA−A部の拡大図(塗布パッドの取付板の正面図)である。
【
図7】他の態様の本発明のアプリケータ(10mL)の塗布パッドの取付板の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の説明において、上下とは、
図1〜4における右側を「上」、左側を「下」といい、先端とは、
図5及び7における左側、
図6における左斜め上をいう。
【0013】
本発明の医療用液体のアプリケータは、中空の筒状部材と、該筒状部材に内蔵されている液体容器と、該液体容器の開裂手段とを備えたハンドル部;及び、前記筒状部材の下端に傾斜断面となるように固着されている塗布パッドの取付板と、該取付板に付着された塗布パッドとを備えた塗布部を有していれば特に制限されないが、塗布パッドの取付板の構造に特徴を有するものであり、ハンドル部や塗布パッドについては、前述の特許文献1〜9に開示された技術を基本的に適用することができる。
【0014】
本発明のアプリケータのハンドル部を形成する中空の細長い筒状部材としては、開裂手段により、筒状部材に内蔵されている液体容器が開裂され、液体容器から液体が解放・放出され、解放・放出された液体が筒状部材の上部から流失することなく、取付板の基底部に設けられた傾斜流出孔から流出する構造を有しておればよく、例えば、長さが10〜20cm、直径や長辺が2〜4cmの断面円形、楕円、矩形等の細長い中空筒状部材を挙げることができるが、下方に向かって縮径するテーパー状の円筒形状を好適に例示することができる。筒状容器の下端には、傾斜断面となるように塗布パッドの取付板が一体的に固着されている。また、取付板上面を水平基準とすると、筒状部材の中心軸は取付板上面に対して、30〜60°、好ましくは40〜50°傾斜して立設されている。筒状部材はプラスティック製で、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂;ポリアミド樹脂;メチルメタクリレートブタジエンスチレン、メチルメタクリレートブタジエンスチレンn-ブチルアクリレートなどのMBS樹脂等で作製されるが、成型性、剛性などから適宜樹脂の選定、厚みの設定をすればよく、成型方法としては、射出成形、押出成形等を挙げることができる。
【0015】
上記液体容器としては、消毒液、洗浄液等の医薬用液体が収容されており、筒状部材に内蔵することができ、開裂手段により液体が解放・放出され、解放・放出された液体が筒状部材の上部から流失することなく、取付板の基底部に設けられた傾斜流出孔から流出することができればよく、例えば、脆性アンプル、圧潰可能な容器、穿孔可能な容器、キャップが外れる容器などを挙げることができる。
【0016】
上記開裂手段としては、筒状部材に内蔵されている液体容器を開裂し、液体容器から液体を解放・放出することができ、解放・放出された液体が筒状部材の上部から流失することなく、取付板の基底部に設けられた傾斜流出孔から流出させることができる手段であればよく、例えば、上端にキャップのある筒状部材に内蔵された脆性アンプルに対するレバー等のアンプル破壊用手段(特許文献1〜4及び9)、液体を収容するバケットを圧縮させる外部圧力印加手段(特許文献5)、筒状部材中を下方に押し下げることにより、液体容器の蓋を外すアクチュエータ・スリーブ(特許文献6)、液体容器を開封するためのシール剥がし手段(特許文献7及び8)等を挙げることができるが、液体容器の蓋を外すアクチュエータ・スリーブを好適に例示することができる。
【0017】
上記塗布パッドの形状としては、例えば、1.5〜2mm程度の厚みを有する平面視が略オムスビ形状、長方形状、長円形状、円形状、三角形状、楕円形状等を挙げることができるが、塗布のスムーズさや取り扱いやすさの点で略オムスビ形状とすることが好ましい。また、塗布パッドの材質としては、消毒液等の液体を浸透含浸する性質を有する多孔質材料を好適に例示することができるが、その他の織物、不織布なども使用することができる。かかる多孔質材料等の原料としては、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエチレテレフタレート系などの樹脂やセルロース系の線維を挙げることができる。かかる塗布パッドは、取付板に形成された土手部の頂面に熱融着又は接着剤により装着することができる。
【0018】
上記取付板には、周縁が肉厚で頂面が平坦に形成された土手部、中央が凹部で底面が平坦に形成された基底部、基底部中央付近に前記溶液が取付板先端方向に向かって流出するように、基底部に対して傾斜開口している傾斜流出孔、及び、該傾斜流出孔から取付板先端方向の基底部に傾斜流出孔を円弧の中心側とする円弧状又は三日月状に堰が設けられている。また、上記取付板の形状としては、上記塗布パッドと同形状が好ましく、例えば略オムスビ形状の場合、基底部の形状も略オムスビ形状となり、その中心部附近に傾斜流出孔が設けられることになる。
【0019】
傾斜流出孔は、基底部表面では先後方向に長い長円形状で開口し、孔の大きさはアプリケータの大きさにもよるが、通常長径が4〜6.5mm、短径3〜5mm程度である。また、堰は、基底部に傾斜流出孔を円弧の中心側とする円弧状又は三日月状に設けられるが、堰に対する傾斜流出孔の位置は、円弧の弦上から円弧と弦の間の円弧よりまで基底部の大きさにより適宜位置決めすることができ、傾斜流出孔(長円)先端から堰までの最短距離は2〜3mmとすることが好ましい。
【0020】
円弧状又は三日月状に設けられている堰が、基底部表面を基準として、その上端に行くにしたがって円弧の中心側からして同心円状に遠ざかる方向に40〜50°傾斜していることが好ましい。このように基底部表面に対して傾斜曲面として形成されていることにより、堰により阻まれた液体の流れを効率よく反転逆流させることができ、その結果溶液の一方的な先端方向への流れを規制して、塗布パッドに溶液を均一に浸透させることができる。
【0021】
また、取付板上面を基準として、取付板上面に対して垂直方向の高さにおいて堰が土手部よりも高くすることが好ましく、高い部分(以下「突出部」ということもある)が、例えば0.1〜1mm、とりわけ0.25〜0.75mmであることが好ましい。土手部よりも堰が高いことにより、堰の頂上部が塗布パットに食い込むことによって、液流が堰を乗り越えることを防止し、確実に反転逆流させることができる。特に、堰が傾斜曲面状の場合は液流が堰を乗り越えやすくなるので、堰を土手部よりも高くして堰の頂上部を塗布パットに食い込ませて、確実に反転逆流させることが好ましい。
【0022】
上記医療用液体としては、消毒液や洗浄液を挙げることができ、より具体的には、ポビドンヨード液、エタノール液、イソプロパノール液、ヨウ化カリウム液、塩化ベンザルコニウム液、塩化ベンゼトニウム液、グルコン酸クロルヘキシジン液、グルタルアルデヒド液、オラネキシジン[1−(3,4−ジクロロベンジル)−5−オクチルビグアニド]液等を挙げることができ、これらは二種以上混合して用いることもできる。かかる医療用液体は、手術の直前に局所領域に塗布して用いることができる。
【0023】
上記医療用液体は消毒成分や洗浄成分などの有効成分を液剤化したものであれば特に限定されず、例えば有効成分を精製水で希釈した水性製剤であってもよいし、エタノールやイソプロパノールなどの精製アルコールやこれらの水溶液で希釈したアルコール製剤であってもよい。有効成分の濃度も任意である。またアルコール製剤の場合のアルコール濃度も任意である。本医療用液体には有効成分の他、通常水性製剤やアルコール製剤として用いられている添加剤、例えば防腐剤、保湿剤、増粘剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、抗酸化剤、香料、着色剤等も使用できる。液剤の粘度は塗布パッドを使用して塗布するのに実用上の支障がない範囲であれば限定されるものではないが、0.5〜15.0mPa・sが好ましい。また、本発明のアプリケータは液漏れしやすい低粘度の液剤、即ち粘度が0.5〜4.0mPa・s、特に0.5〜2.5mPa・sである液剤にも好適に用いることができる。ここで上記粘度はJIS Z8803 液体の粘度測定方法 円すい−平板形回転粘度計による粘度測定方法に準拠して測定される数値であり、測定温度は20℃である。
【0024】
本発明のアプリケータは、手術の直前に対象の局所領域に適用され、まず、ハンドル部の開裂手段を用いて液体容器を破砕、脱シール、脱蓋等により液体容器から液体を筒状部材内に解放・放出させ、傾斜流出孔から塗布部へと流出させる。傾斜流出孔から流出した液体の殆どは、取付板先端方向に向かって流れるが、堰により阻まれて一度後方へ反転・逆流し、土手部と堰の間の左右2つの隙間から回り込むようにして基底部先端方向へ流れ込むことになり、液体の流れが調節される。そして、液体が塗布パッドに十分浸透した後に皮膚に塗布される。
【0025】
以下、本発明の医療用液体のアプリケータの実施態様を図面により説明する。
図1〜6に示されているアプリケータ1は、中空の筒状部材2と、該筒状部材2に内蔵されている液体容器3と、筒状部材2に挿入されているアクチュエータ・スリーブ4とを備えたハンドル部、及び、筒状部材2の下端に傾斜断面となるように固着されている塗布パッド5の取付板10と、該取付板10に付着された略オムスビ形状の塗布パッド5とを備えた塗布部から構成されている。筒状部材2と取付板10とはメチルメタクリレートブタジエンスチレン樹脂製で一体成形されており、塗布パッド5は空隙率87%のポリエチレン製である。
【0026】
下方に向かって細くなるテーパーを有する円筒形状の筒状部材2は、その最大外径約28mmで長さ(中心軸)が約18.5cmであり、取付板上面11を基準として、筒状部材2の中心軸が取付板上面11に対して、略45°傾斜している。取付板10の形状も塗布パッド5より少し小さめの相似形である略オムスビ形状をしており、先後方向の長さ約6cm、後方部の幅が約4.5cmである。
【0027】
上記取付板10には、周縁が肉厚に形成された土手部12、中央が凹部に形成された基底部13、基底部中央付近に前記溶液が取付板先端方向に向かって流出するように、基底部13に対して傾斜開口している傾斜流出孔14、及び、該傾斜流出孔14から取付板先端方向の基底部13に傾斜流出孔14を円弧の中心側とする円弧状に堰15が設けられている。土手部12に対する基底部13の深さは約2mmであり、また傾斜流出孔14の径(長径と短径の中間値)は約3.5mm(25mL)又は約4.5mm(10mL)であり、円弧と弦の間の円弧よりに傾斜流出孔14が設けられている。
【0028】
堰15は、取付板上面11を基準として、取付板上面11に対して垂直方向の高さにおいて土手部12よりも0.5mm高く(突出部0.5mm)、また、円弧状に設けられている堰15は、基底部表面16を基準として、その上端に行くにしたがって円弧の中心側からして同心円状に遠ざかる方向に45°傾斜して設けられている。堰15の厚みは約1.5mmである。
【0029】
[実施例1]
空隙率87%のポリエチレン製塗布パッドと突出部を有する堰を備えた本発明のアプリケータ(25mL)を用いて、オラネキシジン液(OPB)の液漏れ試験を実施した。傾斜流出孔の孔径(長径と短径の中間値)は、3.25mm、3.5mm、又は4.0mmとし、突出部は0.25mm、0.5mm、又は0.75mmとした。結果を表1に示す。表中の分数表記の分母は総サンプル数、分子は液漏れサンプル数を表す。表1からわかるように、傾斜流出孔の孔径が3.25〜4.0mmでは液漏れはなかった。
【0031】
[実施例2]
空隙率87%のポリエチレン製塗布パッドと突出部を有する堰を備えた本発明のアプリケータ(10mL)を用いて、オラネキシジン液(OPB)とポピドンヨード液(PVI)の液漏れ試験を実施した。傾斜流出孔の孔径(長径と短径の中間値)は、実施例1より少し大きく4.25mm又は4.5mmとし、突出部は0.25mm又は0.5mmとした。結果を表2と表3に示す。その結果、孔径を大きくしても、ほとんど液漏れしないことがわかった。
【0034】
[比較例]
空隙率87%のポリエチレン製塗布パッドを備え、堰を備えていない、傾斜流出孔の孔径(長径と短径の中間値)2.5mmの従来のアプリケータ(10mL)及びアプリケータ(25mL)を用いて、オラネキシジン液(OPB)とポピドンヨード液(PVI)のそれぞれ液漏れ試験を実施した。PVIについては、アプリケータ(10mL)及びアプリケータ(25mL)の両方とも液漏れが認められなかったが、OPBについては、孔径2.5mmにもかかわらず、アプリケータ(10mL)及びアプリケータ(25mL)の両方ともかなりの液漏れが認められた。
【0035】
上記実施例1、2及び比較例で用いたオラネキシジン液は、オラネキシジンの濃度が1.5%であるグルコン酸とポリアルキレングリコールを含む水溶液であり、その粘度は1.2mPa・sであった。また、実施例2、及び比較例で用いたポピドンヨード液は10%ポピドンヨード製剤であり、グリセリン、ヨウ化カリウム、ラウロマクロゴール、無水リン酸一水素ナトリウム、クエン酸水和物及び水酸化ナトリウムを含む水溶液であり、その粘度は4.5mPa・sであった。粘度はJIS Z8803 液体の粘度測定方法 円すい−平板形回転粘度計による粘度測定方法に準拠し、温度20℃で測定された。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の医療用液体のアプリケータは、外科手術等の医療分野で有用である。
【符号の説明】
【0037】
1 アプリケータ
2 筒状部材
3 液体容器
4 アクチュエータ・スリーブ
5 塗布パッド
10 取付板
11 取付板上面
12 土手部
13 基底部
14 傾斜流出孔
15 堰
16 基底部表面