特許第6343404号(P6343404)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水メディカル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6343404-遺伝子変異検出法 図000040
  • 特許6343404-遺伝子変異検出法 図000041
  • 特許6343404-遺伝子変異検出法 図000042
  • 特許6343404-遺伝子変異検出法 図000043
  • 特許6343404-遺伝子変異検出法 図000044
  • 特許6343404-遺伝子変異検出法 図000045
  • 特許6343404-遺伝子変異検出法 図000046
  • 特許6343404-遺伝子変異検出法 図000047
  • 特許6343404-遺伝子変異検出法 図000048
  • 特許6343404-遺伝子変異検出法 図000049
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343404
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】遺伝子変異検出法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20180604BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20180604BHJP
【FI】
   C12Q1/68 AZNA
   !C12N15/00 A
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-549546(P2017-549546)
(86)(22)【出願日】2017年3月29日
(86)【国際出願番号】JP2017012820
(87)【国際公開番号】WO2017170644
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2017年9月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-71361(P2016-71361)
(32)【優先日】2016年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-182728(P2016-182728)
(32)【優先日】2016年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390037327
【氏名又は名称】積水メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】海老沼 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】内田 桂
(72)【発明者】
【氏名】塚本 百合子
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2001/042498(WO,A1)
【文献】 特開2003−310300(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/020708(WO,A1)
【文献】 特開2005−160430(JP,A)
【文献】 特開2010−035532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12N 15/00−15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリメラーゼ連鎖反応を利用して、核酸試料中に含まれる一塩基多型部位の一塩基置換を検出する方法であって、該方法が、
(a) 3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基が前記一塩基多型の変異型ヌクレオチドの塩基に対応し、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基が当該核酸の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基を有し、かつ、その他のヌクレオチドの塩基が当該核酸の対応するヌクレオチドの塩基と相補的である変異型用プライマーを、当該核酸にハイブリダイズさせる工程、
(b) DNAポリメラーゼとその基質であるデオキシリボヌクレオシド三リン酸により変異型用プライマーを伸長させる工程、及び
(c) ポリメラーゼ連鎖反応の増幅産物の有無により、変異型用プライマーが伸長されたか否かを判定し、それによって当該核酸試料中に含まれる一塩基置換を検出する工程を組み合わせることを特徴とする一塩基置換を検出する方法。
【請求項2】
前記一塩基多型部位が、隣接する第一及び第二の一塩基多型部位であり、(a)の工程が、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基は前記第一の一塩基多型の変異型ヌクレオチドの塩基に対応するが、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基は当該第一の一塩基多型の変異型ヌクレオチドを有する核酸の対応するヌクレオチドの塩基とは相補的でなく、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基は前記第二の一塩基多型の変異型ヌクレオチドの塩基に対応するが、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基は当該第二の一塩基多型の変異型ヌクレオチドを有する核酸の対応するヌクレオチドの塩基とは相補的でなく、かつ、その他のヌクレオチドの塩基は当該核酸の対応するヌクレオチドの塩基と相補的である変異型用プライマーを、当該核酸にハイブリダイズさせる工程である、請求項1に記載の一塩基置換を検出する方法。
【請求項3】
一塩基置換がEGFR遺伝子、KRAS遺伝子もしくはNRAS遺伝子の一塩基置換である、請求項1又は2に記載の一塩基置換を検出する方法。
【請求項4】
ポリメラーゼ連鎖反応の増幅産物の有無により、変異型用プライマーが伸長されたか否かを判定し、それによって核酸試料中に含まれる一塩基多型部位の一塩基置換を検出する方法に使用するための変異型用プライマーを含む試薬であって、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基が前記一塩基置換の変異型ヌクレオチドの塩基に対応し、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基が当該核酸の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基を有し、かつ、その他のヌクレオチドの塩基が当該核酸の対応するヌクレオチドの塩基と相補的である変異型用プライマーを含む試薬。
【請求項5】
前記の変異型用プライマーが、EGFR遺伝子、KRAS遺伝子もしくはNRAS遺伝子の変異型遺伝子を増幅させる、請求項4に記載の試薬。
【請求項6】
以下の工程を含む、ヌクレオチド断片を増幅する方法:
(i) 第一のプライマー及び第二のプライマーを、それぞれ、試料中の一塩基多型部位を含むデオキシリボ核酸(DNA)分子の一方の鎖及び他方の鎖にハイブリダイズさせる工程;
(ii) デオキシリボヌクレオシド三リン酸の存在下で、第一のプライマー及び第二のプライマーを、DNAポリメラーゼにより伸長させる工程;
(iii) 伸長した第一のプライマーに第二のプライマーをハイブリダイズさせ、かつ、伸長した第二のプライマーに第一のプライマーをハイブリダイズさせる工程;
(iv) デオキシリボヌクレオシド三リン酸の存在下で、伸長した第一のプライマーにハイブリダイズした第二のプライマー、及び、伸長した第二のプライマーにハイブリダイズした第一のプライマーを、DNAポリメラーゼにより伸長させる工程;及び
(v) 随意により、上記の(iii)及び(iv)の工程を1〜50回繰り返す工程;
ここで、第一のプライマーのヌクレオチド配列は、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基が当該一塩基多型の一つの遺伝子型を特徴づける塩基に対応、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基は前記DNA分子の前記一方の鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でなく、かつ、その他のヌクレオチドの塩基は当該DNA鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的であり、
第二のプライマーのヌクレオチド配列は、前記DNA分子の前記他方の鎖と相補的であり、
第一のプライマーと第二のプライマーの3’末端は、試料中の一塩基多型部位を含むDNA分の鎖にハイブリダイズした際に、互いに他方のプライマーの3’末端から見て3’側に位置する。
【請求項7】
前記一塩基多型部位が、隣接する第一及び第二の一塩基多型部位であり
一のプライマーのヌクレオチド配列は
当該第一の一塩基多型部位を含むDNA分子の前記一方の鎖にハイブリダイズする場合には、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基が当該第一の一塩基多型の一つの遺伝子型を特徴づける塩基に対応、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基は前記DNA分子の前記一方の鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でなく、かつ、その他のヌクレオチドの塩基は当該DNA鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的であり、かつ
当該第二の一塩基多型部位を含むDNA分子の前記一方の鎖にハイブリダイズする場合には、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基が当該第二の一塩基多型の一つの遺伝子型を特徴づける塩基に対応、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基は前記DNA分子の前記一方の鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でなかつ、その他のヌクレオチドの塩基は当該DNA鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的である、
請求項6に記載のヌクレオチド断片を増幅する方法。
【請求項8】
以下の工程を含む、ヌクレオチド断片を増幅する方法:
(i) 第一のプライマー及び第二のプライマーを、それぞれ、試料中の一塩基多型部位を含むデオキシリボ核酸(DNA)分子の一方の鎖及び他方の鎖にハイブリダイズさせる工程;
(ii) デオキシリボヌクレオシド三リン酸の存在下で、第一のプライマー及び第二のプライマーを、DNAポリメラーゼにより伸長させる工程;
(iii) 伸長した第一のプライマーに第二のプライマーをハイブリダイズさせ、かつ、伸長した第二のプライマーに第一のプライマーをハイブリダイズさせる工程;
(iv) デオキシリボヌクレオシド三リン酸の存在下で、伸長した第一のプライマーにハイブリダイズした第二のプライマー、及び、伸長した第二のプライマーにハイブリダイズした第一のプライマーを、DNAポリメラーゼにより伸長させる工程;及び
(v) 随意により、上記の(iii)及び(iv)の工程を1〜50回繰り返す工程;
ここで、第一のプライマーのヌクレオチド配列は、1つの塩基を除いて前記DNA分子の前記一方の鎖と相補的であり、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基が当該一塩基多型の一つの遺伝子型を特徴づける塩基に対応するが、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基は当該DNA鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でなく、
第二のプライマーのヌクレオチド配列は、前記DNA分子の前記他方の鎖と相補的であり、
第一のプライマーと第二のプライマーの3’末端は、試料中の一塩基多型部位を含むDNA分子の鎖にハイブリダイズした際に、互いに他方のプライマーの3’末端から見て3’側に位置する。
【請求項9】
前記一塩基多型部位が、隣接する第一及び第二の一塩基多型部位であり、第一のプライマーのヌクレオチド配列は、1つの塩基を除いて前記DNA分子の前記一方の鎖と相補的であり、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基が当該第一の一塩基多型の一つの遺伝子型を特徴づける塩基に対応するが、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基は当該DNA鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でなく、かつ、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基が当該第二の一塩基多型の一つの遺伝子型を特徴づける塩基に対応するが、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基は当該DNA鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない、請求項8に記載のヌクレオチド断片を増幅する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸試料中に含まれる特定の一塩基多型(SNP)若しくは点変異などの特異的な検出方法に関する。
【0002】
遺伝子変異には、遺伝的に受け継がれる生殖細胞系列変異と後天的に各々の細胞内で引き起こされる体細胞変異があるが、生殖細胞系列変異の中の特定の遺伝子の特定の一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism; SNP)や代表的な体細胞変異である点変異(一塩基変異)が、各種疾病に関連していることが報告されており、近年それらの変異の検出が、特定の薬剤の効果が期待される患者の選別に利用されている。
【0003】
例えば、大腸癌の治療薬である抗EGFR抗体は、患者のKRAS遺伝子及びNRAS遺伝子のエクソン2、3、4領域に点変異が認められる場合、治療効果が期待されないことが判明し、KRAS遺伝子及びNRAS遺伝子のコドン12、13、59、61、117及び146における合計48種類のアミノ酸置換を伴うRAS(KRAS/NRAS)遺伝子変異を検出できるキットの開発が行われている(非特許文献1)。RASにおける点変異の特徴として、3つの塩基で構成される各コドンにおける点変異の位置が様々であることが挙げられ、非常に多くの種類の一塩基置換を検出する必要がある。
【0004】
また、肺がんの治療薬であるチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)の薬効判断のために、EGFRの遺伝子変異検査が行われている。EGFRの遺伝子変異は、欠失・挿入・点変異など様々な変異様式が認められるのが特徴である。いくつかある点変異の中で、エクソン18のコドン719においては、2155番目の塩基GがAやTに、若しくは2156番目の塩基GがCに置換される点変異が生じ、結果として3種類のアミノ酸置換が生じる。また、EGFR遺伝子エクソン20のコドン790において、2369番目の塩基CがTに置換されると、TKI耐性が与えられるが、最近、第3世代のTKIに対する耐性を与える遺伝子変異として、エクソン20のコドン797の点変異が新たに報告された(非特許文献2)が、それは2389番目の塩基TがAに、若しくは2390番目の塩基GがCに置換される、2つの様式の点変異である。
【0005】
上述したように、RAS遺伝子やEGFR遺伝子変異の一部においては、1つのコドン内で2つ以上の点変異が起こる場合の一塩基置換の検出にも対応する必要があり、できるだけ簡易で、且つ識別力(discriminatory power)が確保される変異検出方法が所望される。
【0006】
そのような一塩基置換を判別する代表的な方法として、アレル特異的プライマー(Allele Specific Primer; ASP)とポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)を組み合わせたASP-PCR法がある。ASPは、一般に、プライマーの3’末端のヌクレオチドをSNPの変異型(又は野生型)ヌクレオチドに対応させて設計され、変異型(又は野生型)の鋳型には3’末端がハイブリダイズするので伸長反応が進むが、野生型(又は変異型)の鋳型には3’末端がハイブリダイズしないので伸長反応が進まない。一塩基置換の有無は、ASPに起因する増幅産物が得られるかどうかによって判定する。
【0007】
ところが、3’末端の1ヌクレオチドのみの違いで識別力を確保するためには、反応時の温度条件等を極めて厳密に制御する必要がある。そこで、プライマー設計方法に工夫がなされている。例えば、被検核酸試料の検査しようとする特定の塩基に相補的な塩基を3’末端に有し、かつ3’末端から2番目の塩基は被検核酸の塩基に相補的であり、3番目より上流の少なくとも1つの塩基を被検核酸塩基に相補的である塩基と異なる塩基(人工ミスマッチ)に置換した検出用プライマーを用いることで、簡便に精度よく一塩基置換の検出を行う方法が開示されている(特許文献1)。更に、野生型用プライマーの3’末端より2番目の塩基が一塩基多型部位の予想される野生型ヌクレオチドに対応し、該プライマーの3’末端の3番目から5’末端までの1つの塩基が、染色体又はその断片中の該プライマーがハイブリダイズする鎖の塩基と相補的でない塩基に置換されていてもよく、該プライマー中のその他の塩基は前記染色体又はその断片中の該プライマーがハイブリダイズする鎖の塩基と相補的である野生型用プライマー、並びに、変異型用プライマーの3’末端より2番目の塩基が一塩基多型部位の予想される変異型ヌクレオチドに対応し、該プライマーの3’末端の3番目から5’末端までの1つの塩基が、染色体又はその断片中の該プライマーがハイブリダイズする鎖の塩基と相補的でない塩基に置換されていてもよく、該プライマー中のその他の塩基は前記染色体又はその断片中の該プライマーがハイブリダイズする鎖の塩基と相補的である変異型用プライマー、を用いることで、容易に明確な判定を可能にする手法が開示されている(特許文献2)。
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法においては、プライマー伸長反応により生成した人工ミスマッチを含む塩基配列に相補的な配列を有する捕獲用オリゴヌクレオチドプローブを使用する必要があり、特許文献2の方法においては、野生型用プライマー及び1種又は2種の変異型用プライマーを使用する必要がある。ここで、ASPは原則1塩基毎の変異に対応して設計されるため、検出したい一塩基置換の数が多くなると多数のプライマーを用意する必要があり、RAS遺伝子やEGFR遺伝子変異の一部の点変異のように、1つのコドン内で2つ以上の点変異が起こる場合には、設計すべきプライマーの種類は必然的に多くなる。そのため、捕獲用オリゴヌクレオチドプローブを必要とする特許文献1の方法や、野生型用及び変異型用の合計2種又は3種のプライマーを必要とする特許文献2の方法では、場合によっては、変異検出用試薬のコストが上昇する懸念が生じる。従って、簡便性と識別力を兼ね備えた新たなプライマーの設計方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005-160430号公報
【特許文献2】特許第3937136号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Yoshino T, Muro K, Yamaguchi K, Nishina T, Denda T, Kudo T, Okamoto W, Taniguchi H, Akagi K, Kajiwara T, Hironaka S, Satoh T. Clinical Validation of a Multiplex Kit for RAS Mutations in Colorectal Cancer: Results of the RASKET (RAS KEy Testing) Prospective, Multicenter Study. EBioMedicine. 2015 Feb 14;2(4):317-23.
【非特許文献2】Thress KS, Paweletz CP, Felip E, Cho BC, Stetson D, Dougherty B, Lai Z, Markovets A, Vivancos A, Kuang Y, Ercan D, Matthews SE, Cantarini M, Barrett JC, Jaenne PA, Oxnard GR. Acquired EGFR C797S mutation mediates resistance to AZD9291 in non-small cell lung cancer harboring EGFR T790M. Nat Med. 2015 Jun;21(6):560-2.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、前記の課題を解決するために、ASP-PCR法をベースとした一塩基置換の検出方法において、反応性及び識別力を確保した新たなプライマーの設計方法を提供すると共に、アンプリコンが重複する複数の点変異、特に、隣接する2つの一塩基多型部位の一塩基置換を簡易に検出する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の〔1〕〜〔7〕の構成からなる。
【0013】
〔1〕核酸増幅反応を利用して、核酸試料中に含まれる一塩基多型部位の一塩基置換を検出する方法であって、該方法が、
(a)3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基が前記一塩基多型の変異型ヌクレオチドの塩基に対応し、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基が当該核酸の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基を有し、かつ、その他のヌクレオチドの塩基が当該核酸の対応するヌクレオチドの塩基と相補的である変異型用プライマーを、当該核酸にハイブリダイズさせる工程、
(b)DNAポリメラーゼとその基質であるデオキシリボヌクレオシド三リン酸により変異型用プライマーを伸長させる工程、及び
(c) 変異型用プライマーが伸長されたか否かによってその核酸試料中に含まれる一塩基置換を検出する工程を組み合わせることを特徴とする一塩基置換を検出する方法。
〔2〕前記一塩基多型部位が、隣接する第一及び第二の一塩基多型部位であり、(a)の工程が、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基は前記第一の一塩基多型の変異型ヌクレオチドの塩基に対応するが、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基は当該第一の一塩基多型の変異型ヌクレオチドを有する核酸の対応するヌクレオチドの塩基とは相補的でなく、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基は前記第二の一塩基多型の変異型ヌクレオチドの塩基に対応するが、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基は当該第二の一塩基多型の変異型ヌクレオチドを有する核酸の対応するヌクレオチドの塩基とは相補的でなく、かつ、その他のヌクレオチドの塩基は当該核酸の対応するヌクレオチドの塩基と相補的である変異型用プライマーを、当該核酸にハイブリダイズさせる工程である、上記〔1〕に記載の一塩基置換を検出する方法。
〔3〕一塩基置換がEGFR遺伝子、KRAS遺伝子もしくはNRAS遺伝子の一塩基置換である、上記〔1〕又は〔2〕に記載の一塩基置換を検出する方法。
〔4〕核酸増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応である、上記〔1〕〜〔3〕の何れかに記載の方法。
〔5〕ポリメラーゼ連鎖反応の増幅産物の有無により、変異型用プライマーが伸長されたか否かを判定する、上記〔4〕に記載の方法。
〔6〕核酸試料中に含まれる一塩基多型部位の一塩基置換を、核酸増幅反応を利用して検出する方法に使用するための変異型用プライマーを含む試薬であって、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基が前記一塩基置換の変異型ヌクレオチドの塩基に対応し、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基が当該核酸の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基を有し、かつ、その他のヌクレオチドの塩基が当該核酸の対応するヌクレオチドの塩基と相補的である変異型用プライマーを含む試薬。
〔7〕前記の変異型用プライマーが、EGFR遺伝子、KRAS遺伝子もしくはNRAS遺伝子の変異型遺伝子を増幅させる、上記〔6〕に記載の試薬。
〔8〕核酸増幅反応がポリメラーゼ連鎖反応である、上記〔6〕又は〔7〕に記載の試薬。
〔9〕以下の工程を含む、ヌクレオチド断片を増幅する方法:
(i)第一のプライマー及び第二のプライマーを、試料中の一塩基多型部位を含むデオキシリボ核酸(DNA)分子にハイブリダイズさせる工程;
(ii)デオキシリボヌクレオシド三リン酸の存在下で、第一のプライマー及び第二のプライマーを、DNAポリメラーゼにより伸長させる工程;
(iii)伸長した第一のプライマーに第二のプライマーをハイブリダイズさせ、かつ、伸長した第二のプライマーに第一のプライマーをハイブリダイズさせる工程;
(iv)デオキシリボヌクレオシド三リン酸の存在下で、伸長した第一のプライマーにハイブリダイズした第二のプライマー、及び、伸長した第二のプライマーにハイブリダイズした第一のプライマーを、DNAポリメラーゼにより伸長させる工程;及び
(v)随意により、上記の(iii)及び(iv)の工程を1〜50回、好ましくは5〜45回、10〜45回、10〜40回、10〜35回、15〜35回、20〜35回、又は25〜35回繰り返す工程;
ここで、第一のプライマーのヌクレオチド配列は、前記DNA分子の一方の鎖と相補的であり、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基が当該一塩基多型の一つの遺伝子型を特徴づける塩基に対応するが、3’末端より2番目の塩基は当該DNA鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でなく、
第二のプライマーのヌクレオチド配列は、前記DNA分子の他方の鎖と相補的であり、
第一のプライマーと第二のプライマーの3’末端は、試料中の一塩基多型部位を含むデオキシリボ核酸(DNA)分子にハイブリダイズした際に、互いに他方のプライマーの3’末端から見て3’側に位置する。
〔10〕前記一塩基多型部位が、隣接する第一及び第二の一塩基多型部位であり、第一のプライマーのヌクレオチド配列は、前記DNA分子の一方の鎖と相補的であり、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基が当該第一の一塩基多型の一つの遺伝子型を特徴づける塩基に対応するが、3’末端より2番目の塩基は当該DNA鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でなく、かつ、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基が当該第二の一塩基多型の一つの遺伝子型を特徴づける塩基に対応するが、3’末端より3番目の塩基は当該DNA鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない、上記〔9〕に記載のヌクレオチド断片を増幅する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、塩基配列の検出、とりわけ一塩基置換の検出を行うための方法を提供し、検出に際して特殊な機器、設備を必要とせずに安価で簡便に、しかも精度よく多数の検体を効率よく検出できるといった、格段の効果を有する検出方法、検出試薬及びキットを提供することを可能にした。
【0015】
本発明は、反応性及び識別力を確保した新たなASPの設計方法を提供すると共に、当該方法と従来のASPの設計方法を組み合わせることにより、アンプリコンが重複する複数の点変異、特に、隣接する2つの一塩基多型部位の一塩基置換を、最小限のASPを用いて検出する方法を提供することを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1はEGFR遺伝子のエクソン20のT790M変異を含むDNAからPCR産物を選択的に増幅した結果を示す。
図2図2はEGFR遺伝子のエクソン20のC797S変異を含むDNAからPCR産物を選択的に増幅した結果を示す。
図3図3はEGFR遺伝子のエクソン18のG719A変異及びG719S変異を含むDNAからPCR産物を選択的に増幅した結果を示す。
図4図3はEGFR遺伝子のエクソン18のG719A変異及びG719C変異を含むDNAからPCR産物を選択的に増幅した結果を示す。
図5図5はKRAS遺伝子のエクソン2のコドン12のG12S及びG12D変異を含むDNAからPCR産物を選択的に増幅した結果を示す。
図6図6はKRAS遺伝子のエクソン2のコドン12のG12R及びG12A異を含むDNAからPCR産物を選択的に増幅した結果を示す。
図7図7はKRAS遺伝子のエクソン2のコドン12のG12C及びG12V変異を含むDNAからPCR産物を選択的に増幅した結果を示す。
図8図8はKRAS遺伝子のエクソン2のコドン13のG13S及びG13A変異を含むDNAからPCR産物を選択的に増幅した結果を示す。
図9図9はKRAS遺伝子のエクソン2のコドン13のG13R及びG13V異を含むDNAからPCR産物を選択的に増幅した結果を示す。
図10図10はKRAS遺伝子のエクソン2のコドン13のG13C及びG13D変異を含むDNAからPCR産物を選択的に増幅した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は変異型用プライマーを標的となる核酸試料中の核酸にハイブリダイズさせ、一塩基置換を含むDNA配列のみを選択的に増幅させることにより、一塩基置換を検出する方法に関する発明である。
【0018】
核酸試料とは、核酸が含まれる試料であれば特に限定されない。核酸試料としては、抽出や合成された核酸を含んだ試料や、血液、髄液などの各種体液や、粘膜、毛髪などの組織やそれら由来の細胞を含む生体試料でもよく、更には単細胞生物や微生物など生物個体そのものを含んだ試料でもよい。それらの核酸の由来は限定されず、あらゆる生物種やウイルス種由来の核酸が使用できる。また、細胞核内の核酸や、ミトコンドリアや葉緑体や核小体等に代表されるオルガネラが保持する核外由来の核酸でもよい。更に、人工的合成された核酸や、一般にベクターとして用いられるプラスミドやウイルスベクターでもよい。
【0019】
核酸の種類はDNAとRNAのどちらでもよい。DNAの場合、一般に知られている種々のDNAが使用可能であり、ゲノムDNAや、相補的DNA(cDNA)のようにmRNAを逆転写して得られたDNAでもよい。RNAは、一般に知られているmRNAやrRNAやウイルスRNAなどの種々のRNAが使用できる。
【0020】
本発明で核酸増幅に行われる方法は特に限定されないが、従来から知られている方法で行うことができ、一般的に知られているPCR法などで実施が可能である。
【0021】
増幅の対象となる核酸配列は特に限定されない。核酸配列であれば任意の配列を増幅でき、DNAとRNAのいずれも増幅可能である。生物由来の核酸は増幅可能であり、その生物種は特に限定されない。また、ORF(Open Reading Frame)に当たる領域でも、それ以外の部分でも増幅可能である。また、好ましくは、生体由来の核酸は、1ないしは2つ以上のヌクレオチドの変異による一塩基多型が認められる領域を含む。更に好ましくは、生体由来の核酸は、隣接する2つの一塩基多型部位が認められる領域を含む。更に、好ましくは、生体由来の核酸は、ヒト種のEGFR遺伝子、KRAS遺伝子もしくはNRAS遺伝子の一塩基多型を含むDNA領域を含む。EGFR遺伝子の一塩基多型を含むDNA領域は、好ましくは、コドン719、790、797のうち何れか1コドン、若しくは複数のコドンを含むDNA領域が好ましい。KRAS遺伝子の一塩基多型を含むDNA領域は、好ましくは、コドン12、13、59、61、117、146のうち何れか1コドン、若しくは複数のコドンを含むDNA領域である。NRAS遺伝子の一塩基多型を含むDNA領域は、好ましくは、コドン12、13、59、61、117、146のうち何れか1コドン、若しくは複数のコドンを含むDNA領域である。
【0022】
本発明に用いられる変異型用プライマーは、通常のPCRで用いることができるプライマーであれば特に限定されない。変異型用プライマーの配列は、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基が、標的核酸の該プライマーがハイブリダイズする鎖の一塩基多型部位の変異型ヌクレオチドの塩基と相補的であり、且つ3’末端より2番目の塩基が、標的核酸の該プライマーがハイブリダイズする鎖の対応する塩基と相補的でない塩基に置換され、その他の塩基は標的核酸の該プライマーがハイブリダイズする鎖の対応する塩基と相補的である。該変異型用プライマーを用いて核酸増幅を行う際の該変異型用プライマーは、フォワード、リバースどちらか一方に該当していればよく、他方は任意の配列でよい。また、フォワード、リバース、両プライマー共が、変異型用プライマーであってもよい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0024】
[実施例1]EGFR遺伝子のエクソン20のT790M及びC797S変異を含むDNAの選択的増幅
【0025】
本発明により設計したASPの識別力に関して評価するために、ヒトEGFR遺伝子のエクソン20のT790M及びC797S変異を含むDNA(変異型DNA)、並びに、当該2つの遺伝子変異を含まないDNA(野生型DNA)を用意した。変異型DNAとしては、それぞれの遺伝子変異を含む配列(配列番号2、配列番号3及び4)を組み込んだプラスミドDNAを用意し(ユーロフィンジェノミクス株式会社へ委託)、また、野生型DNAとしては、K562細胞株より抽出精製したゲノムDNAを用いた。
【0026】
配列番号2は、EGFR遺伝子のT790M変異を含む配列であり、コドン790を下線で示し、一塩基多型部位を太字で示す。配列番号3及び4は、EGFR遺伝子の配列番号2と同じ領域の配列であるが、それぞれ、異なるC797S変異を含む配列である。コドン797を下線で示し、一塩基多型部位を太字で示す。配列番号1は、EGFR遺伝子の配列番号2〜4と同じ領域の野生型配列の一部である。
【0027】
配列番号1(EGFR遺伝子の野生型配列の一部)
【化1】
【0028】
配列番号2(EGFR遺伝子のT790M変異配列[ATG]フラグメント)
【化2】
【0029】
配列番号3(EGFR遺伝子のC797S変異配列[AGC]フラグメント)
【化3】
【0030】
配列番号4(EGFR遺伝子のC797S変異配列[TCC]フラグメント)
【化4】
【0031】
(1)EGFR遺伝子のエクソン20のT790M及びC797S変異検出用のプライマー
【0032】
配列番号5〜8に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、プライマー1〜4と示す)の合成をDNA合成受託会社(シグマアルドリッチ株式会社)に委託した。
【0033】
プライマー1は、ヒトEGFR遺伝子のコドン790を含む変異型核酸の一方の鎖(配列番号2の相補鎖)に相補的な配列を有し、その3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基(T)が一塩基多型部位に対応するが、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基は当該鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基(C)を有する(即ち、プライマー1は配列番号2の相補鎖に1塩基のミスマッチを持ってハイブリダイズする)。
【0034】
プライマー2は、ヒトEGFR遺伝子のコドン797を含む変異型核酸の一方の鎖(配列番号4の鎖)に相補的な配列を有し、その3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基(G)が配列番号4に示す一塩基多型部位に対応するが、3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基は当該鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基(T)を有する(即ち、プライマー2は配列番号4の鎖に1塩基のミスマッチを持ってハイブリダイズする)。更に、プライマー2は、ヒトEGFR遺伝子のコドン797を含む変異型核酸の一方の鎖(配列番号3の鎖)に相補的な配列を有し、その3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基(T)が配列番号3に示す一塩基多型部位に対応するが、3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基は当該鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基(G)を有する(即ち、プライマー2は配列番号3の鎖に1塩基のミスマッチを持ってハイブリダイズする)。プライマー2は、ヒトEGFR遺伝子のコドン797を含む野生型核酸の一方の鎖(配列番号1の鎖)に相補的な配列を有するが、3’末端より3番目及び2番目のヌクレオチドの塩基は当該鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基(GT)を有する(即ち、プライマー2は配列番号1の鎖に2塩基のミスマッチを持ってハイブリダイズする)。
【0035】
プライマー3は、プライマー1と対になるリバースプライマーであり、プライマー4は、プライマー2と対になるフォワードプライマーである。プライマー1及び2の一塩基多型部位に対応する塩基を太字で示し、該プライマーがハイブリダイズする鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基を下線で示す。
【0036】
配列番号5(プライマー1)
【化5】
【0037】
配列番号6(プライマー2)
【化6】
【0038】
配列番号7(プライマー3)
【化7】
【0039】
配列番号8(プライマー4)
【化8】
【0040】
(2)ASP-PCR法によるEGFR遺伝子のエクソン20のT790M及びC797S変異の解析
【0041】
(a)試薬及び増幅条件
【0042】
以下の試薬を含む25μLの反応溶液を調製し、CFX96(バイオラッド社)を用いて2ステップのリアルタイムPCRによる解析を行った。
【表1】
【0043】
その結果を図1及び図2に示す。本発明で設計したプライマーを用いると、40サイクルまで、野生型DNAからの有意な増幅は認められず、変異型DNAを選択的に増幅する(変異型DNAを野生型DNAから識別する)ことが可能であった。特に、EGFR遺伝子のコドン797の場合、2つの様式の変異を1種類のプライマーで同時に選択的に増幅することができるので、効率的である。
【0044】
[実施例2]EGFR遺伝子のエクソン18のG719A、G719S、及びG719C変異を含むDNAからの選択的増幅
【0045】
本発明により設計したASPの識別力に関して評価するために、ヒトEGFR遺伝子のエクソン18のコドン719の3種類の変異(G719A、S、C)を含むDNA(変異型DNA)、並びに、当該3つの遺伝子変異を含まないDNA(野生型DNA)を用意した。変異型DNAとしては、それぞれの遺伝子変異を含む配列(配列番号10、11、及び12)を組み込んだプラスミドDNAを用意し(ユーロフィンジェノミクス株式会社へ委託)、また、野生型DNAとしては、実施例1と同様、K562細胞株より抽出精製したゲノムDNAを用いた。
【0046】
配列番号10、11、及び12は、それぞれ、EGFR遺伝子のG719A変異、G719S変異、及びG719C変異を含む配列であり、コドン719を下線で示し、一塩基多型部位を太字で示す。配列番号10、11、及び12は、いずれもEGFR遺伝子の同じ領域の配列である。配列番号9は、EGFR遺伝子の配列番号10〜12と同じ領域の野生型配列の一部である。
【0047】
配列番号9(EGFR遺伝子の野生型配列の一部)
【化9】
【0048】
配列番号10(EGFR遺伝子のG719A変異配列[GCC]フラグメント)
【化10】
【0049】
配列番号11(EGFR遺伝子のG719S変異配列[AGC]フラグメント)
【化11】
【0050】
配列番号12(EGFR遺伝子のG719C変異配列[TGC]フラグメント)
【化12】
【0051】
(1)EGFR遺伝子のエクソン18のG719A、S、C変異検出用のプライマー
【0052】
配列番号13〜15に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、プライマー5〜7と示す)の合成をDNA合成受託会社(シグマアルドリッチ株式会社)に委託した。
【0053】
プライマー5は、ヒトEGFR遺伝子のコドン719を含む変異型核酸の一方の鎖(配列番号10の鎖)に相補的な配列を有し、その3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基(G)がG719A変異の一塩基多型部位に対応するが、その3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基は当該鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補でないヌクレオチド(T)を有する(即ち、プライマー5は配列番号10の鎖に1塩基のミスマッチを持ってハイブリダイズする)。更に、プライマー5は、ヒトEGFR遺伝子のコドン719を含む変異型核酸の一方の鎖(配列番号11の鎖)に相補的な配列を有し、その3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基(T)がG719S変異の一塩基多型部位に対応するが、その3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基は当該鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補でないヌクレオチド(G)を有する(即ち、プライマー5は配列番号11の鎖に1塩基のミスマッチを持ってハイブリダイズする)。プライマー5は、ヒトEGFR遺伝子のコドン719を含む変異型核酸の一方の鎖(配列番号12の鎖)に相補的な配列を有するが、3’末端より3番目及び2番目のヌクレオチドの塩基は当該鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基(GT)を有する(即ち、プライマー5は配列番号12の鎖に2塩基のミスマッチを持ってハイブリダイズする)。プライマー5は、ヒトEGFR遺伝子のコドン719を含む野生型核酸の一方の鎖(配列番号9の鎖)に相補的な配列を有するが、3’末端より3番目及び2番目のヌクレオチドの塩基は当該鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基(GT)を有する(即ち、プライマー5は配列番号9の鎖に2塩基のミスマッチを持ってハイブリダイズする)。
【0054】
プライマー6は、ヒトEGFR遺伝子のコドン719を含む変異型核酸の一方の鎖(配列番号10の鎖)に相補的な配列を有し、その3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基(G)がG719A変異の一塩基多型部位に対応するが、その3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基は当該鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補でないヌクレオチド(A)を有する(即ち、プライマー6は配列番号10の鎖に1塩基のミスマッチを持ってハイブリダイズする)。更に、プライマー6は、ヒトEGFR遺伝子のコドン719を含む変異型核酸の一方の鎖(配列番号12の鎖)に相補的な配列を有し、その3’末端より2番目のヌクレオチドの塩基(A)がG719C変異の一塩基多型部位に対応するが、その3’末端より3番目のヌクレオチドの塩基は当該鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補でないヌクレオチド(G)を有する(即ち、プライマー6は配列番号12の鎖に1塩基のミスマッチを持ってハイブリダイズする)。プライマー6は、ヒトEGFR遺伝子のコドン719を含む変異型核酸の一方の鎖(配列番号11の鎖)に相補的な配列を有するが、3’末端より3番目及び2番目のヌクレオチドの塩基は当該鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基(GA)を有する(即ち、プライマー6は、配列番号11の鎖に2塩基のミスマッチを持ってハイブリダイズする)。プライマー6は、ヒトEGFR遺伝子のコドン719を含む野生型核酸の一方の鎖(配列番号9の鎖)に相補的な配列を有するが、3’末端より3番目及び2番目のヌクレオチドの塩基は当該鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基(GA)を有する(即ち、プライマー6は、配列番号9の鎖に2塩基のミスマッチを持ってハイブリダイズする)。
【0055】
プライマー7は、プライマー5及び6と対になる共通のフォワードプライマーである。プライマー5及び6の一塩基多型部位に対応する塩基を太字で示し、該プライマーがハイブリダイズする鎖の対応するヌクレオチドの塩基と相補的でない塩基を下線で示す。
【0056】
配列番号13(プライマー5)
【化13】
【0057】
配列番号14(プライマー6)
【化14】
【0058】
配列番号15(プライマー7)
【化15】
【0059】
(2)ASP-PCR法によるEGFR遺伝子のエクソン18のG719A、S、C変異の解析
【0060】
(a)試薬及び増幅条件
【0061】
実施1と同じ条件で行った。
【0062】
その結果を図3及び図4に示す。本発明で設計したプライマーを用いると、40サイクルまで、野生型DNAからの有意な増幅は認められず、変異型DNAを選択的に増幅する(特定の変異型DNAを、野生型DNA及び別の変異型DNAから識別する)ことが可能であった。特に、EGFR遺伝子のコドン719の場合、3つの様式の変異を2種類のプライマーで選択的に増幅することができるので、効率的である。
【0063】
[実施例3]KRAS遺伝子のエクソン2のコドン12、13の選択的増幅
【0064】
ヒトKRAS遺伝子のエクソン2のコドン12及び13は、表2に示すように、それぞれ6種類の点変異が生じることが知られている。コドンを構成する3つの塩基のうち、1番目又は2番目の塩基が変異する様式がそれぞれ3種類ずつ存在することから、それぞれを組み合わせて本発明に従ってASPを設計すると、コドン12及び13の12パターンの変異検出用としては、半分の6種類のプライマーで選択的に増幅させることが可能となり、検出試薬及び操作の簡便化・省力化に貢献できる。
【0065】
【表2】
【0066】
それぞれの遺伝子変異配列(配列番号17〜28)を組み込んだプラスミドDNAを用意(ユーロフィンジェノミクス株式会社へ委託)し、また、2つの遺伝子変異を認めない遺伝子配列(配列番号16)も、野生型として同様に用意し、本発明により設計したASPの識別力に関して評価した。
【0067】
配列番号16(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン12変異配列[GGT]及びコドン13変異配列[GGC]共通フラグメント)
【化16】
【0068】
配列番号17(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン12変異配列G12S[AGT]フラグメント)
【化17】
【0069】
配列番号18(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン12変異配列G12R[CGT]フラグメント)
【化18】
【0070】
配列番号19(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン12変異配列G12C[TGT]フラグメント)
【化19】
【0071】
配列番号20(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン12変異配列G12D[GAT]フラグメント)
【化20】
【0072】
配列番号21(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン12変異配列G12A[GCT]フラグメント)
【化21】
【0073】
配列番号22(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン12変異配列G12V[GTT]フラグメント)
【化22】
【0074】
配列番号23(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン13変異配列G13S[AGC]フラグメント)
【化23】
【0075】
配列番号24(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン13変異配列G13R[CGC]フラグメント)
【化24】
【0076】
配列番号25(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン13変異配列G13C[TGC]フラグメント)
【化25】
【0077】
配列番号26(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン13変異配列G13D[GAC]フラグメント)
【化26】
【0078】
配列番号27(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン13変異配列G13A[GCC]フラグメント)
【化27】
【0079】
配列番号28(KRAS遺伝子のエクソン2のコドン13変異配列G13V[GTC]フラグメント)
【化28】
【0080】
(1)KRAS遺伝子のエクソン2のコドン12及びコドン13変異検出用のプライマー
【0081】
配列番号29〜35に示される塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、プライマー8〜14と示す)の合成をDNA合成委託会社(シグマアルドリッチ株式会社)に委託した。
【0082】
プライマー8はヒトKRAS遺伝子のエクソン2のコドン12のG12S及びG12Dの変異型核酸に相補的な配列を有し、その3’末端より3番目の塩基はG12D塩基多型部位の変異型ヌクレオチドに相補的なヌクレオチド(T)を有するが、それはG12Sでは非相補的な関係にあり、且つその3’末端より2番目の塩基はG12Dと相補でないヌクレオチド(T)を有するが、それはG12S塩基多型部位(A)に相補的である。
【0083】
プライマー9はヒトKRAS遺伝子のエクソン2のコドン12のG12R及びG12Aの変異型核酸に相補的な配列を有し、その3’末端より3番目の塩基はG12A塩基多型部位の変異型ヌクレオチドに相補的なヌクレオチド(G)を有するが、それはG12Rでは非相補的な関係にあり、且つその3’末端より2番目の塩基はG12Aと相補でないヌクレオチド(G)を有するが、それはG12R塩基多型部位(C)に相補的である。
【0084】
プライマー10はヒトKRAS遺伝子のエクソン2のコドン12のG12C及びG12Vの変異型核酸に相補的な配列を有し、その3’末端より3番目の塩基はG12V塩基多型部位の変異型ヌクレオチドに相補的なヌクレオチド(A)を有するが、それはG12Cでは非相補的な関係にあり、且つその3’末端より2番目の塩基はG12Vと相補でないヌクレオチド(A)を有するが、それはG12C塩基多型部位(T)に相補的である。
【0085】
プライマー11はヒトKRAS遺伝子のエクソン2のコドン13のG13S及びG13Aの変異型核酸に相補的な配列を有し、その3’末端より3番目の塩基はG13A塩基多型部位の変異型ヌクレオチドに相補的なヌクレオチド(G)を有するが、それはG13Sでは非相補的な関係にあり、且つその3’末端より2番目の塩基はG13Aと相補でないヌクレオチド(T)を有するが、それはG13S塩基多型部位(A)に相補的である。
【0086】
プライマー12はヒトKRAS遺伝子のエクソン2のコドン13のG13R及びG13Vの変異型核酸に相補的な配列を有し、その3’末端より3番目の塩基はG13V塩基多型部位の変異型ヌクレオチドに相補的なヌクレオチド(A)を有するが、それはG13Rでは非相補的な関係にあり、且つその3’末端より2番目の塩基はG13Vと相補でないヌクレオチド(G)を有するが、それはG13R塩基多型部位(C)に相補的である。
【0087】
プライマー13はヒトKRAS遺伝子のエクソン2のコドン13のG13C及びG13Dの変異型核酸に相補的な配列を有し、その3’末端より3番目の塩基はG13D塩基多型部位の変異型ヌクレオチドに相補的なヌクレオチド(T)を有するが、それはG13Cでは非相補的な関係にあり、且つその3’末端より2番目の塩基はG13Dと相補でないヌクレオチド(A)を有するが、それはG13C塩基多型部位(T)に相補的である。
【0088】
プライマー14は、プライマー8〜13と対になる共通のフォワードプライマーである。
【0089】
配列番号29(プライマー8)
【化29】
【0090】
配列番号30(プライマー9)
【化30】
【0091】
配列番号31(プライマー10)
【化31】
【0092】
配列番号32(プライマー11)
【化32】
【0093】
配列番号33(プライマー12)
【化33】
【0094】
配列番号34(プライマー13)
【化34】
【0095】
配列番号35(プライマー14)
【化35】
【0096】
(2)ASP-PCR法によるKRAS遺伝子のエクソン2のコドン12及び13変異の解析
【0097】
(a)試薬及び増幅条件
【0098】
以下の試薬を含む25μLの反応溶液を調製し、CFX96(バイオラッド社)にて2ステップのリアルタイムPCRによる解析を行った。
【表3】
【0099】
コドン12の結果を図5〜7に、コドン13の結果を図8〜10示す。本発明で設計したプライマーを用いると、野生型からの増幅は認められず、変異型を特異的に増幅することが可能であることが言える。特に、KRAS遺伝子の場合、コドン12及び13の12パターンの変異検出用としては、半分の6種類のプライマーで特異的に増幅させることが可能となり、検出試薬の簡便化・省力化に貢献できる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のプライマー設計方法を利用したプライマーは、生体試料を用いた遺伝子診断方法、遺伝子診断試薬、家系解析方法、家系解析用試薬、植物品種識別方法、植物品種識別試薬、食肉品種鑑定方法、食肉品種鑑定試薬、法医学解析方法、及び法医学解析試薬などに利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]