(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343419
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】改良されたガス拡散電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/08 20060101AFI20180604BHJP
B01J 23/50 20060101ALI20180604BHJP
C25B 11/03 20060101ALI20180604BHJP
H01M 12/06 20060101ALI20180604BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20180604BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20180604BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
C25B11/08 A
B01J23/50 M
C25B11/03
H01M12/06 F
H01M12/08 K
H01M4/86 M
H01M4/90 M
H01M4/90 B
【請求項の数】20
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-208583(P2012-208583)
(22)【出願日】2012年9月21日
(65)【公開番号】特開2013-67859(P2013-67859A)
(43)【公開日】2013年4月18日
【審査請求日】2015年9月16日
(31)【優先権主張番号】10 2011 083 314.5
(32)【優先日】2011年9月23日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】512137348
【氏名又は名称】バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ブラン
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン・キントルップ
(72)【発明者】
【氏名】ノルベルト・シュミッツ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル・カルペンコ
(72)【発明者】
【氏名】イェンス・アスマン
【審査官】
菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−024565(JP,A)
【文献】
特開平11−246986(JP,A)
【文献】
特開2006−328534(JP,A)
【文献】
特開2008−127631(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/102331(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B11/00−11/18
H01M 4/00− 4/62
H01M 4/86− 4/98
H01M12/00−16/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極空間及び陽極空間を備える電解セルの陰極空間及び陽極空間を分離するイオン交換膜に接して配置される酸素消費電極であって、
(1)少なくとも1つの平板構造状キャリヤー、
(2)ガス拡散層を有する被膜、および
(3)触媒活性成分
を含むとともに、表面に親水性細孔を有し、電解セルの作動時に、液体が、イオン交換膜、親水性細孔を通って、触媒活性成分に接し、酸素消費電極の液体またはイオン交換膜に面する側に、20〜100nmの範囲の平均粒径を有する微粉親水性成分を更に含んでなる酸素消費電極において、
微粉親水性成分が、酸素消費電極において親水性細孔の入口領域の5〜80%を覆っている、酸素消費電極。
【請求項2】
微粉親水性成分が酸素の還元を触媒する、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項3】
微粉親水性成分が銀である、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項4】
銀、酸化銀(I)、酸化銀(II)またはそれらの混合物を触媒活性成分として含んでなる、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項5】
微粉親水性成分の他に、触媒活性成分として70〜95重量%の酸化銀、0〜15重量%の金属銀および3〜15重量%の不溶性フッ素化ポリマーを含有する混合物を含んでなる、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項6】
キャリヤー要素として導電性平板構造物を有する、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項7】
請求項1に記載の酸素消費電極を含んでなる、燃料電池または金属/空気電池。
【請求項8】
(1)0.1〜50重量%の濃度を有する懸濁液中の微粉親水性成分を、少なくとも1つの平板構造状キャリヤー、ガス拡散層を有する被膜、および触媒活性成分を含んでなる平板ベース電極に適用または噴霧する工程、および
(2)続いて、懸濁液媒体を蒸発によって除去する工程
を含む、請求項1に記載の酸素消費電極の製造方法。
【請求項9】
懸濁液媒体が50〜150℃の沸点を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
懸濁液媒体がアルコールである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
適用する微粉成分の量が電極面積1m2あたり100mg〜10gである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
使用するベース電極が使用済みまたは漏れのある酸素消費電極である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
微粉親水性成分が40〜80nmの範囲の平均粒径を有する、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項14】
微粉親水性成分が50〜70nmの範囲の平均粒径を有する、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項15】
酸化銀が酸化銀(I)であり、不溶性フッ素化ポリマーがPTFEである、請求項5に記載の酸素消費電極。
【請求項16】
導電性平板構造物がニッケルまたは銀被覆ニッケルに基づく、請求項6に記載の酸素消費電極。
【請求項17】
微粉親水性成分が1〜20重量%の濃度で懸濁液中に存在する、請求項8に記載の方法。
【請求項18】
懸濁液媒体が60〜100℃の沸点を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項19】
懸濁液媒体がイソプロパノールである、請求項8に記載の方法。
【請求項20】
適用する微粉成分の量が電極面積1m2あたり1〜5gである、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に塩素アルカリ電解において使用するための、改良された触媒被膜を有する酸素消費電極、および電気分解装置に関する。本発明は更に、酸素消費電極の製造方法、および塩素アルカリ電解または燃料電池技術における酸素消費電極の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、ガス拡散電極の形態をとり、典型的には、導電性キャリヤー、ガス拡散層および触媒活性成分を含んでなる、自体既知の酸素消費電極から出発している。
【0003】
酸素消費電極(以下、略してOCEとも称する)は、ガス拡散電極の1つの形態である。ガス拡散電極は、物質の三態(固体、液体および気体)が互いに接触し、固体電子伝導触媒が液相と気相との電気化学反応を触媒する電極である。固体触媒は通常、典型的には200μmを超える厚さを有する多孔質膜にプレスされている。
【0004】
工業規模で電解セルにおいて酸素消費電極を作動させるための様々な試みは、先行技術から基本的に知られている。基本的な考え方は、電気分解(例えば塩素アルカリ電解)における水素発生陰極を酸素消費電極(陰極)に置き換えることである。可能な電解セルの設計および方法の概説は、Moussallemらの文献 "Chlor-Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects", J. Appl. Electrochem. 38 (2008) 1177-1194に見られる。
【0005】
酸素消費電極(以下、略してOCEとも称する)は、工業的電解セルに用いられるために一連の基本要件を満たさなければならない。例えば、使用する触媒および全ての他の材料は、典型的には80〜90℃の温度で、約32重量%の水酸化ナトリウム溶液および純酸素に対して化学的に安定でなければならない。それと同時に、電極は通常、2m
2を越える面積(工業寸法)を有する電解セルに組み込んで作動させるので、高度の力学的安定性が要求される。更なる特性は、以下である:高い電気伝導性、小さい層厚さ、大きい内部表面積、および電解触媒の高い電気化学活性。気体空間および液体空間が互いに分離したままとなる程度に非透質であるように、気体および電解液が導通するのに適した疎水性および親水性細孔並びに適当な細孔構造が必要とされる。長期安定性および低い製造コストは、工業的に使用可能な酸素消費電極の更なる特定要件である。
【0006】
塩素アルカリ電解においてOCE技術を使用するための別の開発動向は、ゼロギャップ技術の使用である。この場合、OCEは、電解セルにおいて陰極空間から陽極空間を分離するイオン交換膜と直接接触する。この場合、水酸化ナトリウム溶液を含むギャップは存在しない。この装置は典型的には、燃料電池技術にも用いられる。その際の欠点は、生成する水酸化ナトリウム溶液がOCEを通って気体側へ通過し、次いでOCEに沿って下向きに流れなければならないことである。この過程において、OCEの細孔は水酸化ナトリウム溶液によって閉塞されてはならないし、水酸化ナトリウムは細孔内で結晶化してはならない。極めて高い水酸化ナトリウム溶液濃度がここで生じることもあるが、イオン交換膜がこれらの高い濃度に対して長期安定性を有さないことが見出されている(Lippら、J. Appl. Electrochem. 35 (2005)1015 - Los Alamos National Laboratory "Peroxide formation during chlor-alkali electrolysis with carbon-based ODC")。
【0007】
常套の酸素消費電極は典型的には、触媒活性成分を有するガス拡散層が適用された導電性キャリヤー要素からなる。使用する疎水性成分は一般にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、加えて、これは触媒のポリマーバインダーとして役立つ。銀触媒を有する電極の場合、銀は親水性成分として役立つ。炭素担持触媒の場合、使用する担体は親水性細孔を有する炭素であり、液体は細孔を通って移動できる。
【0008】
使用する触媒は一般に、金属、金属化合物、非金属化合物、或いは金属化合物または非金属化合物の混合物である。しかしながら、炭素担体に適用された金属(特に白金族金属)も知られている。
【0009】
しかしながら、アルカリ性溶液中で酸素を還元するための触媒として実際に重要なものは、白金および銀のみである。
【0010】
白金は、もっぱら担持した形態で使用される。好ましい担体は炭素である。炭素は白金触媒に電流を流す。炭素粒子の細孔を表面酸化によって親水化し、水の移動に適するようにしてもよい。
【0011】
銀は担体としての炭素と共に先行技術に従って使用してもよく、微粉金属銀の形態で使用してもよい。
【0012】
非担持銀触媒を有するOCEを製造する場合、少なくとも部分的に酸化銀形態で銀を導入し、次いで金属銀に還元してよい。還元は、銀化合物の還元条件下に既にある電気分解の初期段階において、或いは当業者に知られている電気化学的方法、化学的方法または他の方法により電極の作動開始前の独立した工程において実施する。銀粒子の寸法は、0.1μm超〜100μmの範囲であり、典型的な粒径は1μm〜20μmである。
【0013】
非担持銀触媒を有する酸素消費電極の製造は基本的に、乾燥製造法と湿潤製造法に分類することができる。
【0014】
乾燥法では、触媒およびポリマー成分の混合物を微粒子に粉砕する。次いで、この前駆体を、導電性キャリヤー要素上に分布させ、室温でプレスする。そのような方法は、EP 1728896 A2に記載されている。
【0015】
湿潤製造法では、銀微粒子およびポリマー成分を含んでなるペースト状または懸濁液状前駆体を使用する。使用する懸濁液媒体は一般に水であるが、他の液体、例えばアルコールまたはアルコールと水との混合物を使用することもできる。ペーストまたは懸濁液の調製において、その安定性を高めるために、界面活性物質を添加することができる。ペーストは、スクリーン印刷またはカレンダリングによってキャリヤー要素に適用し、粘性のより低い懸濁液は典型的には、キャリヤー要素に噴霧する。ペーストまたは懸濁液は、乳化剤を濯ぎ落とした後に穏やかに乾燥し、次いで、ポリマーの融点付近の温度で焼結する。そのような方法は、例えばUS 20060175195 A1に記載されている。
【0016】
上記した非担持銀触媒を有する酸素消費電極は、アルカリ金属塩化物の電気分解の条件下で、良好な長期安定性を有する。
【0017】
ガス拡散電極の作動に重要な前提条件は、液相および気相の両方が、電極の細孔系に同時に存在できることである。気体は、疎水性表面を有する細孔に移動する。これらは主として、フッ素重合体マトリックスによって形成された細孔である。親水性表面を有するよう特定の処理が施されていないかぎり、疎水性細孔は炭素にも存在する。液体は、親水性表面を有する細孔に移動する。これらは一般に、銀触媒によって形成された細孔であるが、触媒用担体として使用されるような親水化炭素の細孔の場合もある。気体が移動する細孔は、好ましくは、液体が移動する細孔より大きい直径を有する。後者は液体で完全に満たされ、毛細管力が気体圧力に対抗する。気体圧力が高すぎると、液体は疎水性細孔から排出される。逆に、液体側の圧力が過剰であると、疎水性細孔は溢れる。小さい疎水性細孔より大きい疎水性細孔の方が毛細管作用が小さいので、液体は、より容易に排出される。
【0018】
OCEは、10〜60mbarの範囲の気体空間と液体空間の圧力差で不透質でなければならない。本発明において「不透質」とは、気泡の電解液空間への漏れを肉眼で観察できず、液体の10g/(h×cm
2)未満がOCEを通過することを意味する(g=液体の質量、h=時間、cm
2=幾何学的電極表面積)。多すぎる液体がOCEを通過すると、液体は、気体側に面する側を下向きに流れることしかできない。これにより、気体のOCEへの接近を妨げる、従ってOCEの性能に著しい悪影響(酸素の供給不足)を及ぼす液膜が生じることがある。過剰の気体が電解液空間に流入すると、気泡が電極および膜領域の一部を封鎖し、それによって電流密度がシフトし、電解セルの定電流操作において電流密度が局所的に上昇し、電解セル全体にわたって電解セル電圧の望ましくない上昇が起こる。
【0019】
既知の乾燥法および湿潤法による電極の製造により、様々な寸法および分布の細孔が形成される。寸法および分布は、ポリマーおよび触媒の選択および前処理、並びにキャリヤーへの適用方法によって制御することができる。酸素消費電極の製造過程で、細孔形成成分を添加することもできる。既知の例は、炭酸アンモニウム粉末の、触媒とポリマー成分の混合物への添加である。これは、触媒混合物の圧縮後に加熱することによって排出される。
【0020】
細孔中の流れ抵抗は、細孔径に反比例する。既知のOCE製造法により、十分な物質移動が確保された細孔分布は生じる。しかしながら、ある割合の小さすぎたり大きすぎたりする細孔が常に存在する。小さい細孔は全く問題にならないが、大きい細孔は小さすぎる気体流抵抗をもたらし、これにより、気体の望ましくない電極通過が容易に起こる。
【0021】
先に記載したプレス工程および焼結工程において、チャンネルおよびクラックがガス拡散層において生じることもあり、それらを通じて気体が液相に更に流入することがある。そのようなチャンネルおよびクラックは、酸素消費電極の作動時に生じることもあり、耐用期間にわたって性能を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】EP 1728896 A2
【特許文献2】US 20060175195 A1
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】Moussallemら、"Chlor-Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects", J. Appl. Electrochem. 38 (2008) 1177-1194
【非特許文献2】Lippら、J. Appl. Electrochem. 35 (2005)1015 - Los Alamos National Laboratory "Peroxide formation during chlor-alkali electrolysis with carbon-based ODC"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明の目的は、先に記載した欠点を解消し、塩素アルカリ電解における低い作動電圧を可能にする、アルカリ性条件下で酸素を還元するため、例えば塩素アルカリ電解において使用するための酸素消費電極を提供することである。
本発明の特定の目的は、従来の電極より低い気体透過性を有する酸素消費電極を提供することである。
本発明の別の目的は、漏れ始めた、性能が不十分であるまたは性能が不十分になった、既存の酸素消費電極の簡単な改良または修理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
この目的は、液体またはイオン交換膜に面する側に微粉親水性成分を有する自体既知の酸素消費電極(OCE)であって、蒸発により除去可能な懸濁液媒体中に懸濁した微粉親水性成分が適用された酸素消費電極を提供することによって達成される。
【0026】
本発明の態様は、
(1)少なくとも1つの平板構造状キャリヤー、
(2)ガス拡散層を有する被膜、および
(3)触媒活性成分
を含んでなり、作動時に液体またはイオン交換膜に面する側に20〜100nmの範囲の平均粒径を有する微粉親水性成分を更に含んでなる酸素消費電極である。
【0027】
本発明の別の態様は、微粉親水性成分が酸素の還元を触媒する前記酸素消費電極である。
【0028】
本発明の別の態様は、微粉親水性成分が銀である前記酸素消費電極である。
【0029】
本発明の別の態様は、微粉親水性成分が酸素消費電極において親水性細孔の入口領域の5〜80%を覆っている前記酸素消費電極である。
【0030】
本発明の別の態様は、銀、酸化銀(I)、酸化銀(II)またはそれらの混合物を触媒活性成分として含んでなる前記酸素消費電極である。
【0031】
本発明の別の態様は、微粉親水性成分の他に、触媒活性成分として70〜95重量%の酸化銀、0〜15重量%の金属銀および3〜15重量%の不溶性フッ素化ポリマーを含有する混合物を含んでなる前記酸素消費電極である。
【0032】
本発明の別の態様は、キャリヤー要素として導電性平板構造物を有する前記酸素消費電極である。
【0033】
本発明の更に別の態様は、前記酸素消費電極を含んでなる燃料電池または金属/空気電池である。
【0034】
本発明の更に別の態様は、
(1)0.1〜50重量%の濃度を有する懸濁液中の微粉親水性成分を、少なくとも1つの平板構造状キャリヤー、ガス拡散層を有する被膜、および触媒活性成分を含んでなる平板ベース電極に適用または噴霧する工程、および
(2)続いて、懸濁液媒体を蒸発によって除去する工程
を含む、前記酸素消費電極の製造方法である。
【0035】
本発明の別の態様は、懸濁液媒体が50〜150℃の沸点を有する前記方法である。
【0036】
本発明の別の態様は、懸濁液媒体がアルコールである前記方法である。
【0037】
本発明の別の態様は、適用する微粉成分の量が電極面積1m
2あたり100mg〜10gである前記方法である。
【0038】
本発明の別の態様は、使用するベース電極が使用済みまたは漏れのある酸素消費電極である前記方法である。
【0039】
本発明の別の態様は、微粉親水性成分が40〜80nmの範囲の平均粒径を有する前記酸素消費電極である。
【0040】
本発明の別の態様は、微粉親水性成分が50〜70nmの範囲の平均粒径を有する前記酸素消費電極である。
【0041】
本発明の別の態様は、酸化銀が酸化銀(I)であり、不溶性フッ素化ポリマーがPTFEである、前記酸素消費電極である。
【0042】
本発明の別の態様は、導電性平板構造物がニッケルまたは銀被覆ニッケルに基づく前記酸素消費電極である。
【0043】
本発明の別の態様は、微粉親水性成分が1〜20重量%の濃度で懸濁液中に存在する前記方法である。
【0044】
本発明の別の態様は、懸濁液媒体が60〜100℃の沸点を有する前記方法である。
【0045】
本発明の別の態様は、懸濁液媒体がイソプロパノールである前記方法である。
【0046】
本発明の別の態様は、適用する微粉成分の量が電極面積1m
2あたり1〜5gである前記方法である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】本発明の方法によって処理する前の酸素消費電極の表面を示す。
【
図2】本発明の方法によって処理した後の酸素消費電極の表面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0048】
本発明は、少なくとも1つの平板構造状キャリヤー、ガス拡散層を有する被膜、および
触媒活性成分を含んでなり、作動時に液体またはイオン交換膜に面する側(以下、略して液体側とも称する)に20〜100nm、好ましくは40〜80nm、より好ましくは50〜70nmの範囲の平均粒径を有する微粉親水性成分を更に有することを特徴とする酸素消費電極を提供する。
【0049】
好ましくは、微粉親水性成分は、8〜12m
2/gの範囲の比表面積(BET DIN ISO 9277に従った窒素による被覆面積)を有する。
【0050】
作動時に液体に面する側に、酸素の還元を触媒する微粉親水性成分を有することを特徴とする、新規な酸素消費電極が好ましい。酸素消費電極の液体に面する側は、電解セルへの組み込み後、イオン交換膜にも面する。
【0051】
微粉親水性成分は、より好ましくは銀粒子を含んでなる。
【0052】
本発明の技術的解決策におけるアプローチは、親水性微粒子の堆積によって、酸素消費電極の液体側にある大きすぎる親水性細孔またはクラックの寸法を小さくすると同時に、十分な液体移動を確実にし、付加的な触媒活性部位をもたらすことである。
【0053】
親水性微粒子の平均径は、典型的には、ポリマーマトリックス中に配合した触媒粒子の平均径の1/2〜1/10である。微粉成分は、20〜100nm、好ましくは40〜80nm、より好ましくは50〜70nmの範囲の平均粒径を有する(粒径は、電子顕微鏡法またはそれと同等の方法によって測定する)。同等の微粒子の製造方法は基本的に知られている。相応の粒子の製造方法の記載は、例えばDE 102006017696 A1またはUS 7201888 B2に見られる。しかしながら、本発明において見られるような用途は開示されていない。
【0054】
微粉成分は親水性であり、同様に親水性の触媒粒子上に堆積する。適当な粒径および親水性表面、即ち標準条件下で90°未満の水に対する接触角を有する表面を有する物質を使用することができる。
【0055】
微粉親水性成分は、より好ましくは、酸素の還元を触媒する物質からなる。そのような触媒活性物質を使用する場合、気体/液体/固体三相領域における触媒活性部位数は増加する。電極の性能は向上し、作動電圧は著しく低下する。銀に基づく親水性粒子が特に好ましい。
【0056】
新規な酸素消費電極は、液相に面する側に特有の構造を有する。走査型電子顕微鏡で、小粒子のフィリグリー状凝集物が表面上に見られる。フィリグリー状凝集物は、マトリックス内に結合されている触媒粒子の間の空間に取り込まれ、そこに接触している。小粒子は、個々の触媒粒子の間で畝を形成する。結合されている触媒粒子の間の細孔の開口面積は低減する。
図1および
図2に、本発明の方法による処理前および処理後の酸素消費電極表面の概略図を示す。
【0057】
新規な酸素消費電極では、電極面積1m
2あたり好ましくは100mg〜10g、より好ましくは1g〜5gの親水性微粒子が存在する。親水性粒子は好ましくは、酸素消費電極表面上の親水性細孔開口部に堆積し、細孔内により深く侵入しない。親水性粒子は特に互いに連結し、マトリックス内に結合されている触媒粒子の一部の間で橋を形成する。親水性粒子は、細孔開口部の一部を覆う。酸素消費電極における親水性細孔の入口領域の5〜80%が覆われていることが好ましい。
【0058】
微粉親水性成分は、親水性微粒子が、ポリマーマトリックスに配合した触媒粒子によって形成されている細孔内、または触媒粒子上に堆積するように適用する。適用は好ましくは、キャリヤー、ガス拡散層および触媒活性成分から予備形成した酸素消費電極上へ、懸濁液中で実施する。懸濁液中の親水性粒子濃度は、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは1〜20重量%である。
【0059】
本発明は、懸濁液中0.1〜50重量%、好ましくは1〜20重量%の濃度を有する微粉親水性成分を、少なくとも1つの平板構造状キャリヤー、ガス拡散層を有する被膜、および触媒活性成分を含んでなる平板ベース電極に適用または噴霧する工程、および続いて、懸濁液媒体を蒸発によって除去する工程を特徴とする、酸素消費電極の製造方法も提供する。
【0060】
新規な方法において使用するベース電極は好ましくは、使用済みまたは漏れのある(即ち、作動時、気体または液体の比較的多量の通過という問題が生じている)酸素消費電極である。
【0061】
使用する懸濁液媒体は、各微粉成分に適した液体であってよい。例えば、水またはアルコールのようなプロトン性懸濁液媒体、或いはアセトンまたは炭酸ジメチルのような非プロトン性極性懸濁液媒体を使用することができる。50〜150℃、好ましくは60〜100℃の沸点と、高い揮発性とを有する懸濁液媒体が好ましい。アルコールが好ましく、イソプロパノールが特に好ましい。前記懸濁液媒体の混合物も考えられる。脂肪酸またはポリビニルピロリドンのような通常の分散助剤を、懸濁液に添加することもできる。
【0062】
懸濁液は、基本的に知られている塗布技術(例えば、はけ、ローラー、コーティングバーまたは他のツールを用いた塗布、或いは直接の吹付塗布またはキャスティング)の1つによって適用してよい。塗布は、一回の操作で、または溶媒の少なくとも一部を途中で除去しながら複数の操作で実施してよい。
【0063】
電極面積1m
2あたり、好ましくは100mg〜10g、より好ましくは1〜5gの微粉親水性成分を適用する。
【0064】
適用した懸濁液は、塗布技術から基本的に知られている技術によって乾燥する。強制空気乾燥器内での乾燥が好ましく、この場合、蒸発した溶媒は回収する。例えば赤外線ラジエーターによる付加的な加熱によって、乾燥を促進してもよい。
【0065】
温度、並びに気流速度またはガス速度は、気体流によるナノ粒子の除去が起こらないように選択する。少なくとも乾燥工程の初期相における温度は、懸濁液媒体の沸点より低くなければならない。懸濁液媒体の90%超を除去した後、温度を沸点より高い範囲に上昇させてもよい。流速は好ましくは、層流が電極表面で生じるように選択する。0.45m/秒未満の流速が好ましい。
【0066】
電極は、溶媒の除去後に更に加熱することによって焼結してよい。焼結は特に、電極の
製造方法から知られている60〜330℃の温度範囲で実施する。
【0067】
電極は、溶媒の除去後に更にプレスすることによって強化してよい。プレスは、ダイ、ローラーまたは自体知られている他のプレス技術を用いて実施してよい。ローラーを用いて強化することが好ましい。本発明では、0.01〜7kN/cm(線形力)の押圧を加えることが特に好ましい。
【0068】
微粉成分は好ましくは、下流の加工工程において、既知の製造方法の1つによって製造した電極に適用する。例えば、先行技術から知られており先に記載した乾燥製造法または湿潤製造法の後、基本的に即用の酸素消費電極が第一工程で得られる。この酸素消費電極を、例えば、20〜100nm、好ましくは40〜80nm、より好ましくは50〜70nmの平均粒径を有する銀の懸濁液を吹付塗布することにより処理すると、懸濁液媒体の蒸発および続いての乾燥の後、電極が得られる。この電極は、未処理の電極と比べて著しく向上した酸素透過性を有し、低い作動電圧で機能する。
【0069】
微粉成分は、実際には、電極の完成前に適用してよい。例えば、湿潤法により製造する電極の場合、焼結工程前に、微粉成分を適用してよい。
【0070】
基本的に、ガス拡散電極の全てが、本発明の酸素消費電極を製造するための出発要素として、その構成および製造方法にかかわらず適している。
【0071】
銀、酸化銀(I)、酸化銀(II)または銀と酸化銀との混合物を触媒活性成分として有する酸素消費電極に、微粉親水性成分を適用することが好ましい。本発明において銀含量は65〜97重量%であり、不溶性フッ素化ポリマー(特にPTFE)は3〜35重量%である。
【0072】
新規な酸素消費電極はより好ましくは、触媒活性成分として70〜95重量%の酸化銀(特に酸化銀(I))、0〜15重量%の金属銀および3〜15重量%の不溶性フッ素化ポリマー(特にPTFE)を含有する混合物を含んでなる。
【0073】
キャリヤー要素は特に、メッシュ、不織布、フォーム、織布、ブレード、編物、エキスパンデッドメタルまたは他の透質平板構造物の形態で使用してよい。特に金属フィラメントからなる、好ましくは導電性の、可撓性布地構造物を使用することが好ましい。キャリヤー要素に特に適している材料は、ニッケルおよび銀被覆ニッケルである。
【0074】
従って、新規な酸素消費電極の別の好ましい態様は、酸素消費電極が、特に金属フィラメントからなる、好ましくはニッケルまたは銀被覆ニッケルからなる可撓性布地構造物をキャリヤー要素として含むことを特徴とする。
【0075】
新規な酸素消費電極は、好ましくは陰極として接続され、特にアルカリ金属塩化物(好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、より好ましくは塩化ナトリウム)を電気分解するための電解セルにおいて作動する。従って、本発明は、酸素消費陰極としての上記した新規な酸素消費電極を含む、特に塩素アルカリ電解のための、電気分解装置も提供する。
【0076】
別の態様として、酸素消費電極は好ましくは、燃料電池において陽極として接続してよい。
【0077】
本発明は更に、特にアルカリ型燃料電池においてアルカリ性条件下で酸素を還元するための新規な酸素消費電極の使用、例えば次亜塩素酸ナトリウムを調製するための飲用水処理における新規な酸素消費電極の使用、または特にLiCl、KClまたはNaClを電気分解するための塩素アルカリ電解における新規な酸素消費電極の使用を提供する。
【0078】
新規な酸素消費電極は、より好ましくは塩素アルカリ電解において、本発明では特に塩化ナトリウム(NaCl)の電気分解において使用する。
【0079】
本発明の別の態様では、意外なことに、自体既知の酸素消費電極が改良される、即ち先に記載したように微粉成分を適用することによって気体不透過性について改良されることが見出された。従って、本発明は、破損したまたは使用済みの酸素消費電極を修理、シールまたは改良するための、微粉成分の懸濁液の使用も提供する。
【0080】
例えば、作動時にその不透質性が低下し、その結果、作動電圧が上昇した電極は、微粒子の懸濁液を適用することによって回復できる。
【0081】
しかしながら、気体不透過性および/または作動電圧の試験において低い性能であることが見出された、新たに製造した酸素消費電極を、微粒子の懸濁液の適用によって改良することもできる。
【0082】
本発明を、以下の実施例によって図を参照して詳細に説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【0083】
先に記載した引用文献の全てを、有用な目的の全てのために、それらの全内容を引用してここに組み込む。
【0084】
本発明を具体的に表す特定の構造物を示し、記載したが、当業者には、本発明の概念の意図および範囲から逸脱することなく、その一部を様々に変更および再構成できること、および本発明がここに示し、記載した特定の態様に限定されないことが明らかであろう。
【0085】
図面の簡単な説明
図1:本発明の方法によって処理する前の酸素消費電極の表面
図2:本発明の方法によって処理した後の酸素消費電極の表面
【0086】
図面の参照記号は、以下のように定義する。
A:PTFE
B:銀結晶
C:ナノスケール銀
D:大きすぎる親水性細孔
【実施例】
【0087】
湿潤法によって製造した酸素消費電極を、電解ハーフセルに組み込んだ。電極は、4kA/m
2で−400mVの電位(Ag/AgCl電極に対して測定)を有していた。電極は、気体側と液体側との差圧20mbarで酸素が目視される程度(小さい気泡の形成)に透質であった。
【0088】
酸素消費電極を取り外し、脱イオン水で濯ぎ、外側で乾かした。それに、イソプロパノール100g中ナノスケール銀粉末(Ferro Corporation(米国クリーヴランド)製SP-7000-95タイプ、平均粒径60nm)1.4gの懸濁液100g/m
2を噴霧した。イソプロパノールを蒸発させ、次いで、電極を乾燥室において80℃で30分間乾かし、その後、電解ハーフセルに再び組み込んだ。電極は、4kA/m
2で−320mVの電位を有しており、気体側と液体側との差圧40mbarで不透質であった。
【0089】
このように、ナノスケール銀粉末を用いた表面処理により、電位が80mV向上し、気体および液体の明らかな不透質がもたらされた。
【0090】
図1は、銀微粒子含有懸濁液で処理する前の、微視的観点での、液体に面する酸素消費電極表面の概略図を示す。触媒粒子Bは、フィラメント状PTFEマトリックスAに保持されている。酸素は、大きすぎる細孔Dを通って液体側に通過できる。
【0091】
図2は、銀微粒子含有懸濁液で処理した後の、同じ酸素消費電極表面を示す。銀微粒子Cは、触媒粒子の間に堆積している。細孔開口部の面積は低減する。細孔は、液体をより良好に保持できる。酸素の液相への通過はより困難になる。また、相界面における触媒活性部位数は増加し、これによって転化が増加する。
【符号の説明】
【0092】
A:PTFE
B:銀結晶
C:ナノスケール銀
D:大きすぎる親水性細孔