特許第6343470号(P6343470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343470
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】NF膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/68 20060101AFI20180604BHJP
   B01D 69/06 20060101ALI20180604BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20180604BHJP
   C08J 5/22 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   B01D71/68
   B01D69/06
   C02F1/44 A
   C08J5/22 101
   C08J5/22CEZ
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-66107(P2014-66107)
(22)【出願日】2014年3月27日
(65)【公開番号】特開2015-188778(P2015-188778A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年9月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】和田 法寿
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特表平11−506387(JP,A)
【文献】 特開2013−240765(JP,A)
【文献】 特表2008−542022(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102580553(CN,A)
【文献】 特開平09−010565(JP,A)
【文献】 特開2013−215640(JP,A)
【文献】 特開2009−028602(JP,A)
【文献】 特開2001−070767(JP,A)
【文献】 RAHIMPOUR,A , et al.,The influence of sulfonated polyethersulfone(SPES) on surface nano-morphology and performance of polyethersulfone(PES) membrane,Applied Surface Science,2010年 1月 1日,Vol.256,No.6,P.1825-1831
【文献】 NOEL J K ,et al.,Sulfonated polyethersulfone-based membranes for metal ion removal via a hybrid process,Journal of Materials Science,2014年 1月,Vol.49,No.1,P.114-122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 69/06
B01D 71/68
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤と溶媒とを含み、開孔剤の量がスルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンの総量100重量部に対して0.1〜15重量部である樹脂組成物を、水を用いた相分離法に付すことにより膜分離機能層を形成する工程を含む、前記膜分離機能層を有するNF膜の製造方法。
【請求項2】
スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンの合計量中の含有割合が、スルホン化ポリエーテルスルホン25〜85重量%、ポリエーテルスルホン75〜15重量%である請求項1記載のNF膜の製造方法。
【請求項3】
スルホン化ポリエーテルスルホンのスルホン化度が0.04〜0.22である請求項1又は2記載のNF膜の製造方法。
【請求項4】
開孔剤が、ポリエチレングリコール及びポリビニルピロリドンからなる群より選択された少なくとも1種である請求項1〜3の何れか1項に記載のNF膜の製造方法。
【請求項5】
回収率10%の運転条件において、純水透過係数(PWP)が15L/m2/hr/0.1MPa以上である請求項1〜4の何れか1項に記載のNF膜の製造方法。
【請求項6】
NF膜が平膜型NF膜である請求項1〜5の何れか1項に記載のNF膜の製造方法。
【請求項7】
樹脂組成物中の開孔剤の割合が0.005〜1.5重量%である、請求項1〜6の何れか1項に記載のNF膜の製造方法。
【請求項8】
樹脂組成物中のスルホン化ポリエーテルスルホンの割合が5〜40重量%である、請求項1〜7の何れか1項に記載のNF膜の製造方法。
【請求項9】
基材上に、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤と溶媒とを含む樹脂組成物層を形成した後、該樹脂組成物層を水を用いた相分離法に付すことにより膜分離機能層を形成してNF平膜を製造する請求項1〜8の何れか1項に記載のNF膜の製造方法。
【請求項10】
スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと溶媒とを含む溶液に開孔剤を添加溶解させて調製した製膜溶液を基材上に塗工して前記樹脂組成物層を形成する請求項9記載のNF膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載のNF膜の製造方法によりNF膜を製造し、得られたNF膜を用いて膜モジュールを製造する、NF膜を有する膜モジュールの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の膜モジュールの製造方法によりNF膜を有する膜モジュールを製造し、得られた膜モジュールを用いて水処理装置を製造する、膜モジュールを備えた水処理装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水道水、天然水中の硬度成分を除去するためのNF膜とその製造方法、前記NF膜を有する膜モジュール、及び前記NF膜を有する膜モジュールを備えた水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水等の原水から、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の硬度成分を除去する方法としては、イオン交換樹脂を用いる軟水化方法、水酸化カルシウム等の凝結剤を用いる方法、逆浸透膜やナノ濾過膜(NF膜)を用いる方法が知られている。
【0003】
イオン交換樹脂を用いる軟水化方法では、イオン交換樹脂に硬度成分が吸着して飽和すると、食塩を用いてイオン交換樹脂を再生する必要がある。このため、硬度成分の濃度が高くなると、再生頻度が高くなり、手間と費用がかかることとなる。
【0004】
水酸化カルシウム等の凝結剤を用いる方法では、硬度成分の除去率を上げるためには凝結剤の添加量を増加することから、前記除去率を高めることが困難である。
【0005】
逆浸透膜やナノ濾過膜(NF膜)を用いる方法では、従来の逆浸透膜やナノ濾過膜は原水側に高い圧力を作用させて硬度成分を除去しなければならず、処理水量当たりの運転動力が大きくなり、エネルギー効率が悪かった。また、低圧で硬度成分の除去率の高い膜も得られているが(特許文献1、2)、その場合においても、透水量が低く、処理効率に問題が残っていた。さらに、代表的なポリアミド系、あるいはポリイミド系の逆浸透膜やナノ濾過膜は耐熱性が低く、加熱処理による熱水殺菌等を行いにくい問題があった。なお、ナノ濾過膜としてスルホン化ポリエーテルスルホン(SPES)膜が注目されているが、水道水の透水速度が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-10566号公報
【特許文献2】特開2001-968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、硬度成分、特に2価イオン(カルシウムイオン、マグネシウムイオン等)の除去率が高く、しかも透水速度が大きく、かつ耐熱性の高い軟水化用として好適なNF膜とその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記の優れた特性をもつNF膜を有する膜モジュール、前記NF膜を有する膜モジュールを備えた水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、NF膜を製造するに際し、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤と溶媒とを含む樹脂組成物層を、水を用いた相分離法に付すと、硬度成分の除去率を実用レベルに保持しつつ透水速度を著しく向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤と溶媒とを含む樹脂組成物を、水を用いた相分離法に付すことにより形成された膜分離機能層を有するNF膜を提供する。
【0010】
前記NF膜において、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンの合計量中の含有割合は、スルホン化ポリエーテルスルホン25〜85重量%、ポリエーテルスルホン75〜15重量%であってもよい。
【0011】
また、スルホン化ポリエーテルスルホンのスルホン化度は、例えば0.04〜0.22である。
【0012】
前記開孔剤は、ポリエチレングリコール及びポリビニルピロリドンからなる群より選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
前記NF膜は、回収率10%の運転条件において、純水透過係数(PWP)が15L/m2/hr/0.1MPa以上であることが好ましい。
【0014】
前記NF膜は、例えば平膜型NF膜であってもよい。
【0015】
本発明は、また、前記NF膜の製造方法であって、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤と溶媒とを含む樹脂組成物を、水を用いた相分離法に付すことにより膜分離層を形成する工程を含むNF膜の製造方法を提供する。
【0016】
上記製造方法において、基材上に、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤と溶媒とを含む樹脂組成物層を形成した後、該樹脂組成物層を、水を用いた相分離法に付すことにより膜分離機能層を形成してNF平膜を製造してもよい。この際、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと溶媒とを含む溶液に開孔剤を添加溶解させて調製した製膜溶液を基材上に塗工して前記樹脂組成物層を形成してもよい。
【0017】
本発明は、さらに、前記NF膜を有する膜モジュールを提供する。
【0018】
本発明は、さらにまた、前記NF膜を有する膜モジュールを備えた水処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明のNF膜によれば、膜分離機能層が、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤と溶媒とを含む樹脂組成物層を、水を用いた相分離法に付すことにより形成された層であるため、硬度成分の除去率を実用レベルに保持しつつ透水速度を著しく向上できるとともに、耐熱性にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[NF膜]
本発明のNF膜は膜分離機能層を有する。NF膜の型式は特に限定されず、例えば、平膜型NF膜(NF平膜)、中空子型NF膜、管状型NF膜等のいずれであってもよい。これらの中でも、平膜型NF膜が好ましい。
【0021】
平膜型NF膜は、通常、基材と該基材上に形成された膜分離機能層とを有している。基材は分離膜機能層を支持するためのものである。基材としては、耐水性のほか、可撓性があるものが好ましく、例えば、不織布、織布、プラスチックシート等からなるものを使用することができる。基材の厚みは、例えば80〜300μm、好ましくは100〜200μmである。
【0022】
本発明において、前記膜分離機能層は、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤と溶媒とを含む樹脂組成物層を、水を用いた相分離法に付すことにより形成された層である。
【0023】
スルホン化ポリエーテルスルホンは、例えば、特開平02-208322号公報、あるいは米国特許第4508852号明細書に記載の製造方法を適用して製造することができる。
【0024】
スルホン化ポリエーテルスルホンのスルホン化度(置換度)は、例えば0.04〜0.22、好ましくは0.06〜0.20、さらに好ましくは0.10〜0.18である。スルホン化度が前記範囲内であると、NF膜としたときの硬度成分の除去率と純水透過係数の両方を高めることができる。
【0025】
スルホン化ポリエーテルスルホンのスルホ基は塩型及び酸型のものを使用できるが、溶媒に対する溶解性を高めることができるため酸型が好ましい。また、酸型のものを用いることにより、ドープ溶液中の異物ゲル量が減り、得られるNF膜の膜リークが少なくなる効果も得られる。さらに、酸型のものを用いる場合、NF膜の膜強度が高まるため、長期使用においてもより安定性が向上した分離膜を得ることができる。
【0026】
ポリエーテルスルホンとしては、特に限定されず、公知乃至慣用の方法により製造したものを使用することができる。また、市販品を用いることできる。
【0027】
スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンの合計量中の含有割合は、スルホン化ポリエーテルスルホンは25〜85重量%が好ましく、30〜80重量%がより好ましく、35〜75%重量%が特に好ましい。また、ポリエーテルスルホンは75〜15重量%が好ましく、70〜20重量%がより好ましく、65〜25重量%が特に好ましい。両成分の割合が前記範囲内であると、NF膜の硬度成分の除去率と純水透過係数の両方を高めることができる。
【0028】
開孔剤としては、水を用いた相分離法により膜分離機能層を形成する際に、該膜分離機能層に微孔を形成できるものであればよいが、該方法により容易に微孔を形成できる点から、水溶性ポリマーが好ましい。このような水溶性ポリマーとして、、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸又はその塩、水溶性多糖類などが挙げられる。開孔剤は1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0029】
開孔剤としては、上記の中でも、ポリエチレングリコール及びポリビニルピロリドンから選択された少なくとも1種を用いるのが好ましい。
【0030】
前記膜分離機能層を形成する際に用いる溶媒としては、水を用いた相分離法により性能の良好な膜分離機能層を形成できる点から、スルホン化ポリエーテルスルホン及びポリエーテルスルホンの良溶媒であって、且つ水溶性を有する有機溶媒が好ましい。前記溶媒として、例えば、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、これらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、ジメチルスルホキシドが特に好ましい。
【0031】
本発明のNF膜の厚みは特に制限されるものではないが、好ましくは150〜550μm、より好ましくは180〜350μmである。このうち、基材厚みを除いた膜分離機能層(スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンを含む層)の厚み(但し、基材内部に浸透した部分は含まない)は、好ましくは50〜250μm、より好ましくは80〜150μmである。
【0032】
本発明のNF膜は、下記式から求められる硬度成分除去率(脱塩率)が3%以上のものが好ましく、5%以上のものがより好ましく、8%以上のものがさらに好ましい。硬度成分除去率の上限は100%であるが、例えば50%程度であってもよい。
硬度成分除去率(%)
=〔1−(透過液中の硬度成分量)/(供給液中の硬度成分量)〕×100
【0033】
本発明のNF膜は、例えば回収率10%の運転条件において、純水透過係数(PWP)が15L/m2/hr/0.1MPa以上のものが好ましく、20L/m2/hr/0.1MPa以上のものがより好ましく、25L/m2/hr/0.1MPa以上のものがさらに好ましい。前記純水透過係数(PWP)の上限は、例えば、100L/m2/hr/0.1MPaである。
【0034】
本発明のNF膜における硬度成分除去率と純水透過係数の関係は、一般に、硬度成分除去率が高くなると純水透過係数が低下し、純水透過係数が高くなると硬度成分除去率が低くなる傾向となる。このため、硬度成分除去率と純水透過係数をバランスよく高いレベルで維持させる観点から、硬度成分の除去率を5%以上(より好ましくは8%以上)に維持し、且つ純水透過係数を20L/m2/hr/0.1MPa以上(より好ましくは25L/m2/hr/0.1MPa以上)に維持することが好ましい。
【0035】
本発明のNF膜は、水道水、河川水、湖沼水、海水等から硬度成分等を除去して軟水を製造するための膜として好適である。本発明のNF膜は、軟水製造器、海水淡水化の前処理、人工透析用等の医療用精製水製造の前処理、浄水器等に適用することができる。
【0036】
[NF膜の製造]
本発明のNF膜の製造法は、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤と溶媒とを含む樹脂組成物を、水を用いた相分離法に付すことにより膜分離層を形成する工程を含む。
【0037】
平膜型NF膜(NF平膜)は、基材上に、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤と溶媒とを含む樹脂組成物層を形成した後、該樹脂組成物層を、水を用いた相分離法に付すことにより膜分離機能層を形成する工程を経ることにより製造できる。
【0038】
前記樹脂組成物層は、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤と溶媒とを含む製膜溶液を基材上に塗工することにより形成できる。
【0039】
製膜溶液は、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤とを溶媒に溶解させて調製する。この際、溶媒にスルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤を一緒に添加して溶解させてもよいが、溶媒に先にスルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンとを添加溶解させた後、開孔剤を添加溶解させることが望ましい。また、溶媒にまずスルホン化ポリエーテルスルホンを添加溶解させた後、ポリエーテルスルホンを添加溶解させ、その後開孔剤を添加溶解させることが特に望ましい。各成分を溶媒に溶解させる際には、加熱してもよい。また、各成分を溶解させた後、脱泡させるのが好ましい。
【0040】
製膜溶液中のスルホン化ポリエーテルスルホン、ポリエーテルスルホン、開孔剤及び溶媒の割合としては、スルホン化ポリエーテルスルホンは5〜40重量%が好ましく、8〜30重量%がより好ましく、ポリエーテルスルホンは3〜40重量%が好ましく、5〜30重量%がより好ましく、開孔剤は0.005〜1.5重量%が好ましく、0.03〜1重量%がより好ましい。溶媒の量は合計で100重量%となる調整量である。
【0041】
また、硬度成分除去率と純水透過係数をバランスよく高いレベルで維持させる観点から、開孔剤の量は、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンの総量100重量部に対して、例えば0.1〜20重量部、好ましくは0.1〜15重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部である。
【0042】
また、膜強度を高めるため、製膜溶液中のスルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンの合計濃度は、20〜40重量%であることが好ましく、25〜35重量%であることがより好ましい。
【0043】
前記製膜溶液の塗工により樹脂組成物層を形成する方法としては、基材(不織布等)に製膜溶液を塗布する方法、基材(不織布等)を製膜溶液中に浸漬する方法等が挙げられる。塗布法を採用する場合、好ましくは脱泡した製膜溶液(必要に応じて加温する)を基材面積100cm2に対して例えば1〜20ml程度塗布することができる。また、浸漬法を採用する場合、好ましくは脱泡した製膜溶液(必要に応じて加温する)中に基材が完全に浸かった状態で例えば1〜30分間保持することができる。
【0044】
次いで、基材上に樹脂組成物層が形成された積層体を、水(好ましくは加温した水)中に浸漬すると、相分離により膜分離機能層が形成され、NF平膜が得られる。こうして得られたNF平膜は、純水(好ましくは室温の純水)に浸漬して、湿潤状態で保管するのが好ましい。
【0045】
中空子型NF膜は、スルホン化ポリエーテルスルホンとポリエーテルスルホンと開孔剤と溶媒を含む樹脂組成物を、二重紡糸ノズルの外周部から吐出させると同時に、中央孔から水を吐出させ、紡糸した中空糸を二重紡糸ノズルから乾燥空間を通して、水の入った凝固槽に導いて凝固させることにより製造できる。前記樹脂組成物としては、前記平膜型NF膜(NF平膜)の製造に用いる製膜溶液と同様のものを使用できる。管状型NF膜は、上記中空子型NF膜の製造法に準じて製造することができる。
【0046】
[膜モジュール]
本発明の膜モジュール(NF膜モジュール)は上記のNF膜(平膜型NF膜等)を有するものである。膜モジュールの型は、シート型、スパイラル型、回転平膜型等のいずれであってもよい。具体的には、特開2004−8958号公報に記載されたスパイラル型のナノ濾過膜モジュール(図3)を挙げることができる。
【0047】
[水処理装置]
本発明の水処理装置は上記のNF膜(平膜型NF膜等)を有する膜モジュールを備えた装置である。水処理装置は、前記膜モジュールとともに、他の膜装置(RO膜装置、UF膜装置等)、活性炭処理装置、プレフィルター、UV装置、凝集装置等の公知の水処理用の各種装置と組み合わせることができる。
【0048】
例えば、特開2010−58101号公報に記載の低濃度海水の製造方法の発明を実施するための図1に示された装置、特開2002−292248号公報に記載のミネラル液の製造方法を実施するための図1図4に示された装置、特開2009−39696号公報の医療用精製水の製造方法を実施するための図1に示された装置、特表平11−504564号公報に記載の水性溶液のナノ濾過方法を実施するための図1に示された装置のNF膜モジュールとして本発明のNF膜モジュールを使用することができる。
【実施例】
【0049】
以下に、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0050】
スルホン化ポリエーテルスルホンのスルホン化度の算出方法、NF膜の純水透過係数(PWP)の測定方法、NF膜の硬度成分除去率(脱塩率)の測定方法は以下の通りである。
【0051】
(1)スルホン化度(置換度)
精製、乾燥後のスルホン化ポリエーテルスルホンを重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、600MHz 1H−NMR(BRUKER AVANCE 600)より測定した。1H−NMRスペクトルで得られた芳香環水素のピーク積分値及び下式(A)より、スルホン化度(置換度)(%)を算出した。
スルホン化度(置換度)(%)
={[8.2〜8.5ppmの積分値(下記式中の(1))/{([6.8〜8.2ppmの積分値(下記式中の(2)〜(5))−[8.2〜8.5ppmの積分値]×2]/4+[8.2〜8.5ppmの積分値])×10 ・・・(A)
なお、下記式はスルホン化ポリエーテルスルホンの繰り返し構造単位を示す式であり、nはそれぞれ、正の整数を表す。
【0052】
【化1】
【0053】
(2)純水透過係数(PWP)
純水透過係数(PWP)は撹拌式セル(ミリポア社製)を用いて測定した。セルの原水側から水道水を0.2MPaで供給し、約240分間運転して安定状態になった後、NF平膜から一定時間に透過する水道水の重量を測定した。この重量を採取時間(hr)、NF平膜内表面の膜面積(m2)、圧力(0.2MPa)で除して、純水透過係数〔L/m2/hr/0.1MPa〕を求めた。なお、純水透過係数(PWP)は回収率10%の運転条件で測定した。回収率(%)は、以下の式で算出される値である。
回収率(%)=〔(透過液量)/(供給液量)〕×100
【0054】
(3)硬度成分除去率(脱塩率)
硬度成分除去率(脱塩率)は、撹拌式セル(メルクミリポア社製、Amicon8200型)を用いて測定した。セル容量は180ml、有効膜面積28.7cm2であり、このセルに20L原水タンクを接続して、連続通液運転した。セルの原水タンクから水道水を0.2MPaで供給し、NF平膜から一定時間に透過する水道水の重量を測定した。安定状態の下(前記の濾過条件で約240分間運転した後)、供給液、透過液を採取し、全硬度分の測定により硬度を測定した。全硬度分は、ドロップテスト(共立理化学研究所社製、WAD−TH)を用いて測定を行った。試料液それぞれの硬度測定値(硬度成分量とする)を用いて、下記式から硬度成分除去率(%)を求めた。
硬度成分除去率(%)
=〔1−(透過液中の硬度成分量)/(供給液中の硬度成分量)〕×100
【0055】
実施例1
(SPES及びPESを含む溶液の調製)
ジメチルスルホキシド(DMSO)67.9重量部にスルホン化度(置換度)0.1の酸型スルホン化ポリエーテルスルホン(SPES)23.0重量部を加え、90℃で約1時間加熱して溶解させた。次に、前記溶液にポリエーテルスルホン(PES)(住友化学(株)製、住化エクセル5003)9.0重量部を加え、90℃で約6時間加熱溶解して、溶液を得た。その後、前記溶液を60℃で15時間かけて脱泡した。
(開孔剤の導入)
上記溶液を60℃で加熱し、開孔剤としてポリビニルピロリドン(PVPK)(和光純薬工業(株)製、分子量35000)0.2重量部を加えて、室温にて撹拌溶解させた。その後、60℃で15時間かけて脱泡し、製膜溶液とした。
(平膜の作製)
脱泡した製膜溶液10mlを60℃にして、基材となる不織布(日本バイリーン社製、MF90、厚さ150μm)300cm2にバーコーターにて室温で塗布した。製膜溶液を塗布した不織布を60℃の水に浸漬させて相分離法にて平膜基材(NF平膜)を作製した。その後、室温の水に浸して15時間静置した。平膜基材(NF平膜)における分離膜機能層の厚みは、100μmであった。
【0056】
実施例2
(SPES及びPESを含む溶液の調製)
ジメチルスルホキシド(DMSO)68.0重量部にスルホン化度0.175の酸型SPES12.0重量部を加え、90℃で約1時間加熱して溶解させた。次に、前記溶液にPES(住友化学(株)製、住化エクセル5003)19.9重量部を加え、90℃で約6時間加熱溶解して、溶液を得た。その後、前記溶液を60℃で15時間かけて脱泡した。
(開孔剤の導入)
上記溶液を60℃で加熱し、開孔剤としてポリエチレングリコール(PEG)(和光純薬工業(株)製、分子量200)0.05重量部を加えて、室温にて撹拌溶解させた。その後、60℃で15時間かけて脱泡し、製膜溶液とした。
(平膜の作製)
実施例1と同様にして、NF平膜を作製した。
【0057】
実施例3
(SPES及びPESを含む溶液の調製)
ジメチルスルホキシド(DMSO)67.9重量部にスルホン化度0.175の酸型SPES12.0重量部を加え、90℃で約1時間加熱して溶解させた。次に、前記溶液にPES(住友化学(株)製、住化エクセル5003)20.0重量部を加え、90℃で約6時間加熱溶解して、溶液を得た。その後、前記溶液を60℃で15時間かけて脱泡した。
(開孔剤の導入)
上記溶液を60℃で加熱し、開孔剤としてポリエチレングリコール(PEG)(和光純薬工業(株)製、分子量200)0.1重量部を加えて、室温にて撹拌溶解させた。その後、60℃で15時間かけて脱泡し、製膜溶液とした。
(平膜の作製)
実施例1と同様にして、NF平膜を作製した。
【0058】
比較例1
開孔剤導入工程を省いた以外は実施例1と同様にして(すなわち、開孔剤添加前の溶液を製膜溶液とした)、NF平膜を作製した。
【0059】
比較例2
開孔剤導入工程を省いた以外は実施例2と同様にして(すなわち、開孔剤添加前の溶液を製膜溶液とした)、NF平膜を作製した。
【0060】
実施例及び比較例で得られたNF平膜について、純水透過係数(PWP)及び硬度成分除去率(脱塩率)を測定した。その結果を表1に示す。なお、表中、濃度(重量%)は、製膜溶液中のスルホン化ポリエーテルスルホン(SPES)とポリエーテルスルホン(PES)と開孔剤の合計量を100重量%とした時の各成分の濃度を意味する。表1に示されるように、実施例のNF平膜は、実用的レベルの硬度成分除去率を有しつつ、非常に高い純水透過係数を有している。これに対し、比較例のNF平膜は純水透過係数が低く、実用性の点で劣る。
【0061】
【表1】