(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記陽極円筒の外周には、前記中心軸方向の一端側に、外周に沿って突出する円環状の第1のビードが設けられているとともに、前記中心軸方向の他端側に、外周に沿って突出する円環状の第2のビードが設けられ、
前記冷却ジャケットの前記中心軸方向の一端部の内側と、前記陽極円筒の第1のビードが溶接されるとともに、前記冷却ジャケットの前記中心軸方向の他端部の内側と、前記陽極円筒の第2のビードが溶接される
ことを特徴とする請求項1に記載のマグネトロン。
前記第1の金属封着体及び前記第2の金属封着体と、前記陽極円筒の前記中心軸方向の一端部の内側及び他端部の内側とが溶接された後、前記陽極円筒内を真空にする排気が行われ、その後、前記陽極円筒と前記冷却ジャケットとが溶接される
ことを特徴とする請求項1に記載のマグネトロン。
前記陽極円筒の一端部の内側と前記第1の金属封着体との溶接部分と、前記冷却ジャケットの一端部と前記陽極円筒の一端部の外側との溶接部分との溶接部分とが、溶接方向が同じへり継手形状の構造でなり、前記陽極円筒の他端部の内側と前記第2の金属封着体との溶接部分と、前記冷却ジャケットの他端部と前記陽極円筒の他端部の外側との溶接部分とが、溶接方向が同じへり継手形状の構造でなる
ことを特徴とする請求項1に記載のマグネトロン。
中心軸に沿って延びる円筒状の陽極円筒の前記中心軸方向の一端部の内側と、第1の金属封着体とを溶接するとともに、前記陽極円筒の前記中心軸方向の他端部の内側と第2の金属封着体とを溶接する第1の溶接工程と、
前記第1の溶接工程の後に、前記陽極円筒の前記中心軸方向の両端部の外側と、当該陽極円筒の外周との間に当該陽極円筒を冷却する為の液体が通る流路を形成する冷却ジャケットとを溶接する第2の溶接工程と
を具備し、
前記陽極円筒の一端部の内側と前記第1の金属封着体との溶接部分と、前記冷却ジャケットの一端部と前記陽極円筒の一端部の外側との溶接部分とが、溶接方向が同じ構造でなるとともに、前記陽極円筒の他端部の内側と前記第2の金属封着体との溶接部分と、前記冷却ジャケットの他端部と前記陽極円筒の他端部の外側との溶接部分とが、溶接方向が同じ構造でなり、
前記第2の溶接工程では、前記第1の溶接工程で行う前記陽極円筒の一端部の内側と前記第1の金属封着体との溶接と同じ溶接方向で、前記冷却ジャケットの他端部と前記陽極円筒の他端部の外側との溶接を行うとともに、前記第1の溶接工程で行う前記陽極円筒の他端部の内側と前記第2の金属封着体との溶接と同じ溶接方向で、前記冷却ジャケットの他端部と前記陽極円筒の他端部の外側との溶接を行う
ことを特徴とするマグネトロンの製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的なマグネトロンは、発振部の上下に磁石が設けられ、その周りをヨークが囲って磁気回路を形成している。さらに発振部の下方には入力部と、この入力部に接続されるフィルターが設けられ、さらにこれらを覆うようにシールドボックスが設けられている。
【0003】
マグネトロンは、その動作時に、発振部の特に陽極が高温になる為、空冷又は液冷などによる強制冷却が必要である。そこで、
図6(A)に示すように、家庭用の電子レンジなどに搭載される比較的低出力のマグネトロンでは、空冷による冷却構造として空冷フィンからなるラジエータ100が発振部101の陽極円筒102の外周に圧入されている。
【0004】
一方で、工業用や業務用などのマグネトロンのように大出力のものだと、空冷での強制冷却では冷却性能が十分ではない為、液冷による強制冷却を行う場合が多い。また、例えば、クリーンルーム内で使用される用途のマグネトロンでは、空冷での強制冷却自体が問題となる為、液冷による強制冷却を行う場合が多い。
【0005】
液冷の場合、その冷却構造には幾つかのタイプがあり、例えば
図6(B)に示すように、冷却水が通る流通管路が内部に形成された冷却ブロック110を、陽極円筒111の外周に接触させるようにして組み込んだものがある。また、例えば
図6(C)に示すように、冷却水が通る冷却パイプ120を、陽極円筒121の外周に巻き付けてロー付けで固定したものがある。さらに、例えば
図6(D)に示すように、陽極円筒130の外周に冷却ジャケット131を形成して、この陽極円筒130と冷却ジャケット131との間に設けられる隙間に冷却水を通すようにしたものがある(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来の液冷の冷却構造のうち、冷却ブロックを設けるタイプや、冷却パイプを巻き付けるタイプの場合、陽極円筒に冷却水が直接触れず、間に冷却ブロックや冷却パイプが介在する為、陽極円筒に冷却水が直接触れる冷却ジャケットを設けるタイプと比べて、冷却性能が落ちる。
【0008】
ゆえに、冷却性能を考えれば、液冷の冷却構造としては、冷却ジャケットを設けるタイプを採用することが望ましい。
【0009】
一方で、冷却ジャケットを設けるタイプの場合、陽極円筒と冷却ジャケットとの間に冷却水を通す為の隙間(すなわち流路)を設けつつ冷却水が漏洩しないようにこの流路を密閉(流路の入出口は除く)する必要がある。この為、従来の冷却ジャケットを設けるタイプでは、例えば、陽極円筒にベインをロー付けして陽極部を生成する工程で、同時に陽極円筒に冷却ジャケットをロー付けするようになっていた。
【0010】
しかしながら、ロー付けの為のロー材は高価である為、このように陽極円筒に冷却ジャケットをロー付けすると、例えば、一般的な溶接を行う場合と比して材料コストが高くつく。また、このように陽極部の生成時に陽極円筒に冷却ジャケットを取り付けてしまうと、その後、発振部内を真空にする為の排気によって流路内に付着した酸化膜を取り除くときに、流路が既に入出口以外密閉されている為、酸化膜の除去に非常に手間がかかり、結果として、製造コストが高くついてしまう。
【0011】
このように、従来の冷却ジャケットを設けるタイプの冷却構造では、冷却性能は高いものの、コストが高くつくという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、上記課題を解決する為になされたものであり、コストを抑えつつ良好な冷却性能を得ることのできるマグネトロン及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成する為に、本発明の実施の形態に係るマグネトロンは、中心軸に沿って延びる円筒状の陽極円筒と、前記陽極円筒の前記中心軸方向の一端部の内側と溶接される第1の金属封着体と、前記陽極円筒の前記中心軸方向の他端部の内側と溶接される第2の金属封着体と、前記陽極円筒の前記中心軸方向の両端部の外側と溶接され、当該陽極円筒の外周との間に当該陽極円筒を冷却する為の液体が通る流路を形成する冷却ジャケットとを具備し、前記陽極円筒の一端部の内側と前記第1の金属封着体との溶接部分と、前記冷却ジャケットの一端部と前記陽極円筒の一端部の外側との溶接部分とが、溶接方向が同じ構造でなるとともに、前記陽極円筒の他端部の内側と前記第2の金属封着体との溶接部分と、前記冷却ジャケットの他端部と前記陽極円筒の他端部の外側との溶接部分とが、溶接方向が同じ構造でなる、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の実施の形態に係るマグネトロンの製造方法は、中心軸に沿って延びる円筒状の陽極円筒の前記中心軸方向の一端部の内側と、第1の金属封着体とを溶接するとともに、前記陽極円筒の前記中心軸方向の他端部の内側と第2の金属封着体とを溶接する第1の溶接工程と、前記第1の溶接工程の後に、前記陽極円筒の前記中心軸方向の両端部の外側と、当該陽極円筒の外周との間に当該陽極円筒を冷却する為の液体が通る流路を形成する冷却ジャケットとを溶接する第2の溶接工程とを具備し、前記陽極円筒の一端部の内側と前記第1の金属封着体との溶接部分と、前記冷却ジャケットの一端部と前記陽極円筒の一端部の外側との溶接部分とが、溶接方向が同じ構造でなるとともに、前記陽極円筒の他端部の内側と前記第2の金属封着体との溶接部分と、前記冷却ジャケットの他端部と前記陽極円筒の他端部の外側との溶接部分とが、溶接方向が同じ構造でなり、前記第2の溶接工程では、前記第1の溶接工程で行う前記陽極円筒の一端部の内側と前記第1の金属封着体との溶接と同じ溶接方向で、前記冷却ジャケットの他端部と前記陽極円筒の他端部の外側との溶接を行うとともに、前記第1の溶接工程で行う前記陽極円筒の他端部の内側と前記第2の金属封着体との溶接と同じ溶接方向で、前記冷却ジャケットの他端部と前記陽極円筒の他端部の外側との溶接を行う、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施の形態によれば、陽極円筒と冷却ジャケットとの接合を、陽極円筒と第1及び第2の金属封着体との接合と同じ溶接にしたことで、ロー材を用いて接合する場合と比べて材料コストを抑えることができる。また、陽極円筒と冷却ジャケットとの接合がロー付けではない為、陽極部の生成時に、陽極円筒に冷却ジャケットを接合する必要がなく、排気後に、露出している陽極円筒の外周面に付着している酸化膜を取り除いてから陽極円筒に冷却ジャケットを接合すれば良いので、従来と比して酸化膜を取り除く工程を簡略化することができ、製造コストを抑えることができる。
【0016】
さらに、陽極円筒の一端部分と第1の金属封着体との溶接部分が、陽極円筒の第1の突出部と冷却ジャケットとの溶接部分と、溶接方向が同じ構造でなり、前記陽極円筒の他端部分と前記第2の金属封着体との溶接部分が、前記陽極円筒の第2の突出部と前記冷却ジャケットとの溶接部分と、溶接方向が同じ構造でなる為、陽極円筒を第1及び第2の金属封着体に溶接するときと同じ溶接設備を用いて、同じ溶接方向から、陽極円筒に冷却ジャケットを溶接することができるので、一段と製造コストを抑えることができる。
【0017】
かくして、コストを抑えつつ良好な冷却性能を得ることのできるマグネトロン及びその製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るマグネトロンの一実施の形態を、図面を参照して説明する。尚、以下の実施の形態は、単なる例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
[第1の実施の形態]
まず、第1の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態のマグネトロン1の概略を示す縦断面図である。
【0021】
マグネトロン1は、マグネトロン本体2と、フィルターボックス3とを有している。マグネトロン本体2は、マイクロ波を発振する発振部4と、発振部4に電力を供給する入力部5と、発振部4によって発振されたマイクロ波をマグネトロン本体2外に取り出す出力部6とで構成され、発振部4の管軸m方向の一端側に入力部5が設けられ、他端側に出力部6が設けられている。発振部4と、入力部5及び出力部6は、管軸m方向に延びる筒状の鉄でなる金属封着体7及び8によって、真空気密に接合されている。
【0022】
尚、管軸mは、マグネトロン本体2の中心軸である。また、以下の説明では、マグネトロン本体2の管軸m方向の一端側を下端側及び入力側と定義すると共に、他端側を上端側及び出力側と定義する。
【0023】
発振部4は、陽極部9と陰極部10とで構成され、陽極部9は、管軸m方向に延びる円筒状の銅でなる陽極円筒11と、この陽極円筒11の内周面から管軸mに向かって突出する複数個のベイン12とを有している。ベイン12は、ロー付けにより陽極円筒11に固定されている。この発振部4は、詳しくは後述するが、陽極円筒11の上下両端部の内側と金属封着体7、8の最外周部とが気密に溶接されることで、入力部5及び出力部6と真空気密に接合されるようになっている。
【0024】
陰極部10は、フィラメント13と、一対のエンドハット14、15と、陰極センターリード16と、陰極サイドリード17とを有している。フィラメント13は、管軸m上に配設されていて、エンドハット14、15は、フィラメント13の上下両端部に設けられている。
【0025】
陰極センターリード16は、上端がエンドハット14に固定され、当該エンドハット14を介してフィラメント13と接続されている。陰極サイドリード17は、上端がエンドハット15に固定され、当該エンドハット15を介してフィラメント13と接続されている。また、陰極センターリード16と陰極サイドリード17は、それぞれその下端が、マグネトロン本体2の下端側に位置する入力部5に向かって延びている。
【0026】
ベイン12は、その先端である遊端が、フィラメント13との間に所定の間隔を保つように配設されている。ベイン12の遊端とフィラメント13との間に形成される環状空間が作用空間となっている。
【0027】
陽極円筒11の上端側と下端側には、内周側に、略漏斗状(略すり鉢状)の一対のポールピース18、19が、作用空間を管軸m方向(すなわち上下方向)に挟んで対向して設けられている。ポールピース18、19は、詳しくは後述するが、陽極円筒11の上下両端部の内側と、金属封着体7、8の最外周部との間で挟持されて、陽極円筒11と金属封着体7、8との溶接によってこれらに固定されている。
【0028】
陽極円筒11の下端側に設けられている入力側のポールピース19の下方には、フィラメント印加用電流及びマグネトロン駆動用高電圧を供給する為の入力部5が設けられている。入力部5は、フィルターボックス3に覆われていて、陰極センターリード16及び陰極サイドリード17を保持するセラミックステム20を有している。
【0029】
また、陽極円筒11の上端側に設けられている出力側のポールピース18の上方には、マイクロ波を伝送し放射する為のアンテナリード21を有する出力部6が設けられている。
【0030】
出力部6は、アンテナリード21と、絶縁筒22と、排気管23とを有している。排気管23は、絶縁筒22の上端に接合されている。アンテナリード21は、下端が複数のベイン12のうちの1つに接続され、上端が管軸mに沿って上方へと延び、絶縁筒22内を通り排気管23に挟持され固定されている。
【0031】
入力側のポールピース19の下方と出力側のポールピース18の上方には、金属封着体7、8の外側に、一対のフェライトでなる環状永久磁石24、25が、陽極円筒11を管軸m方向(すなわち上下方向)に挟んで対向して設けられている。
【0032】
陽極円筒11と、環状永久磁石24、25は、枠状ヨーク26、27により覆われている。環状永久磁石24、25は、ポールピース18、19と対向する面とポールピース18、19とが磁気的に結合されると共に、その反対側の面と枠状ヨーク26、27とが磁気的に結合されることにより形成された磁気回路によって、ベイン12とフィラメント13との間の作用空間に磁界を供給している。
【0033】
さらに、
図1にくわえて
図2に示すように、マグネトロン1は、陽極円筒11の外側に、陽極円筒11の外周との間に冷却水が通る流路を形成する円筒状の冷却ジャケット30が焼嵌されている。この冷却ジャケット30は、銅でなり、詳しくは後述するが、その上下両端部の内側と、陽極円筒11の上下両端部の外周から管軸m方向と直交する水平方向(陽極円筒11の径方向)に突出する円環状のビード31、32とが気密に溶接されることで、陽極円筒11の外周との間に密閉された流路を形成するようになっている。
【0034】
また、陽極円筒11の外周には、上側のビード31と下側のビード32との間の中央にもう1本ビード33が設けられていて、これにより、流路が上側の流路と下側の流路とに分けられている。さらに、中央のビード33は、その一部が上下方向に切り欠かれていることにより、この切り欠き部分で、上側の流路と下側の流路とが繋がっている。
【0035】
また、冷却ジャケット30には、その上部に、上側の流路と繋がる管状の入口部34が設けられているとともに、その下部に、下側の流路と繋がる管状の出口部35が設けられている。
【0036】
そして、実際、マグネトロン1の動作時、冷却ジャケット30の入口部34から、上側の流路、そして下側の流路へと冷却水が流れ、このとき陽極円筒11の外周に直接冷却水が触れることで陽極円筒11が冷却され、その後、温まった冷却水が、下側の流路から出口部35へと流れて出口部35から外に排出される。
【0037】
このように、マグネトロン1は、冷却性能が高い冷却ジャケット30を設けるタイプの冷却構造を有している。マグネトロン1の構成の概略は、以上のようになっている。
【0038】
次に、
図3(A)及び(B)を用いて、陽極円筒11と金属封着体7、8との溶接部分の構造、及び陽極円筒11と冷却ジャケット30との溶接部分の構造と、これらの溶接方法について、詳しく説明する。
【0039】
まず、陽極円筒11と第1の金属封着体としての金属封着体8及び第2の金属封着体としての金属封着体7との溶接部分の構造と、その溶接方法について説明する。尚、陽極円筒11と金属封着体7との溶接部分の構造とその溶接方法と、陽極円筒11と金属封着体8との溶接部分の構造とその溶接方法は同一である為、ここでは、陽極円筒11と金属封着体8との溶接部分の構造とその溶接方法について説明することとする。
【0040】
陽極円筒11は、出力側となる上端部40の内側に、円環状の段差41が設けられていて、この段差41よりも先端側の部分がこの段差41よりも中央側の部分より薄く形成されている。出力側の金属封着体8は、水平部分の最外周部42が、出力側のポールピース18側(すなわち下側)に折り曲げられ下側に延びている。
【0041】
出力側のポールピース18は、最外周部の金属封着体8と対向する側に、円環状の段差43が形成されていて、この段差43に出力側の金属封着体8の最外周部42が嵌合され、この最外周部42と、陽極円筒11の段差41との間で管軸m方向(すなわち上下方向)に挟持される。
【0042】
図3(A)に示すように、陽極円筒11の上端部40は、溶接される前、段差41との間でポールピース18を挟持している金属封着体8の水平部分よりも上方に所定量だけ突出するようになっている。そして、溶接時、この上端部40の外側から、矢印Aで示す斜めの溶接方向に電極50を当ててアークを発生させTIG(Tungsten Inert Gas)溶接を行うことで、陽極円筒11の上端部40が金属封着体8の上に被さるように溶けて金属封着体8と溶接される。尚、本実施の形態の場合、矢印Aで示す斜めの溶接方向は、陽極円筒11の上端部40の外側から内側へ向かう方向であり、管軸m方向(上下方向)と直交する水平方向に対して20度の角度を持つ方向であるとする。
【0043】
このTIG溶接を、陽極円筒11の上端部40の全周に亘って行う。これにより、陽極円筒11の内側に出力側の金属封着体8が気密に溶接される。また、陽極円筒11の入力側でも、同様のTIG溶接を、陽極円筒11の下端部の全周に亘って行う。これにより、陽極円筒11の内側に入力側の金属封着体7が気密に接合される。このようにして、陽極円筒11と金属封着体7、8とが溶接されるようになっている。
【0044】
次に、陽極円筒11と冷却ジャケット30との溶接部分の構造と、その溶接方法について説明する。尚、陽極円筒11と冷却ジャケット30は、上側と下側の2箇所で溶接されるが、どちらも、溶接部分の構造及び溶接方法については同じである。
【0045】
冷却ジャケット30は、上端部60及び下端部61の内側に、円環状の段差62、63が設けられていて、この段差62、63よりも先端側の部分がこの段差62と63の間の部分より薄く形成されている。
【0046】
そして、この冷却ジャケット30は、陽極円筒11の外周から突出する第1のビードとしての上側のビード31が上側の段差62に当接するとともに、第2のビードとしての下側のビード32が下側の段差63に当接するようにして、上側のビード31と下側のビード32との間で挟持される。
【0047】
図3(A)に示すように、冷却ジャケット30の上端部60は、溶接される前、上側のビード31よりも上方に所定量だけ突出するようになっている。ここで、冷却ジャケット30の上側の段差62より先端側の部分は、その厚さ及び突出量が、陽極円筒11の上側の段差41より先端側の部分の厚さ及び突出量と同一になっている。
【0048】
つまり、冷却ジャケット30の上端部60と陽極円筒11の上側のビード31との溶接部分の構造は、陽極円筒11の上端部40と金属封着体8との溶接部分の構造と同一形状であり、溶接方法も同一となっている。よって、
図3(B)に示すように、冷却ジャケット30の上端部60と、陽極円筒11の上側のビード31との溶接時、冷却ジャケット30の上端部60の外側から、矢印Aで示す斜めの溶接方向に電極50を当ててアークを発生させTIG溶接を行うことで、冷却ジャケット30の上端部60が陽極円筒11の上側のビード31の上に被さるように溶けて陽極円筒11と溶接される。
【0049】
このTIG溶接を、冷却ジャケット30の上端部60の全周に亘って行う。また、冷却ジャケット30の下端側でも、同様のTIG溶接を、冷却ジャケット30の下端部61の全周に亘って行う。これにより、陽極円筒11の外側に冷却ジャケット30が気密に接合される。このようにして、陽極円筒11と冷却ジャケット30とが溶接されるようになっている。
【0050】
実際の陽極部9の生成から冷却ジャケット30の取り付けまでの主な工程としては、陽極円筒11にベイン12をロー付けするなどして陽極部9を生成した後、陽極円筒11と金属封着体7、8とを上述の溶接方法で溶接することで、発振部4と入力部5及び出力部6とを気密に接合する。その後、発振部4内を真空にする為の排気を行う。次に、排気時の加熱によって陽極円筒11の外周面に形成された酸化膜を除去する。その後、陽極円筒11と金属封着体7、8とを溶接したときと同一の溶接方法で、陽極円筒11と冷却ジャケット30とを溶接する。
【0051】
ここまで説明したように、第1の実施の形態のマグネトロン1では、陽極円筒11に冷却ジャケット30を接合するタイプの冷却構造を採用したことにより、他のタイプと比べて良好な冷却性能を得ることができる。そのうえで、陽極円筒11と冷却ジャケット30との接合を、陽極円筒11と金属封着体7、8との接合と同じ溶接にしたことで、高価なロー材を用いて接合する場合と比べて材料コストを抑えることができる。
【0052】
また、マグネトロン1では、陽極円筒11と冷却ジャケット30との接合が、陽極部9を生成するときに用いるロー付けではない為、陽極部9の生成時に、陽極円筒11に冷却ジャケット30をロー付けする必要がなく、陽極円筒11と冷却ジャケット30との溶接を排気後の工程とすることができる。
【0053】
この為、排気時には、陽極円筒11の外側に冷却ジャケット30がまだ接合されていない状態であることから、陽極円筒11を直接加熱して排気することができ、これにより、従来と比べて迅速に発振部4内の真空度を所定の値へ到達させることができる、もしくは、従来と比べて発振部4内の真空度をより高くすることができる。
【0054】
さらに、排気後には、露出している陽極円筒11の外周面にしか酸化膜が付着しない為、ホーニング処理やサンドブラスト処理などの表面処理を行うだけで簡単に酸化膜を除去することができ、従来のように密閉された流路の中に付着した酸化膜を除去する場合と比べて、酸化膜を取り除く工程を大幅に簡略化することができる。
【0055】
また、このように、排気前の工程では、陽極円筒11に冷却ジャケット30が取り付けられていない為、例えば、陽極円筒11に金属封着体7、8を溶接するときなどに、冷却ジャケット30が邪魔にならず、排気前の製造工程を簡易化することができる。
【0056】
このように、第1の実施の形態のマグネトロン1では、従来と比して酸化膜を取り除く工程を簡略化することができると共に、排気前の製造工程を簡易化することができるので、従来と比して、製造コストを抑えることができる。
【0057】
さらに、第1の実施の形態のマグネトロン1では、陽極円筒11の上端部40と金属封着体8との溶接部分が、陽極円筒11の上側のビード31と冷却ジャケット30の上端部60との溶接部分と、構造、溶接方向及び溶接種類が同じでなる為、陽極円筒11と金属封着体8とを溶接するときと同じ溶接設備を用いて、電極50の角度は変えずに、高さと水平方向の位置を調整するだけで、陽極円筒11の上側のビード31と冷却ジャケット30の上端部60とを溶接することができる。
【0058】
また、同様に、陽極円筒11の下端部と金属封着体7との溶接部分が、陽極円筒11の下側のビード32と冷却ジャケット30の下端部61との溶接部分と、構造、溶接方向及び溶接種類が同じでなる為、陽極円筒11と金属封着体7とを溶接するときと同じ溶接設備を用いて、電極50の角度は変えずに、高さと水平方向の位置を調整するだけで、陽極円筒11の下側のビード32と冷却ジャケット30の下端部61とを溶接することができる。よって、第1の実施の形態のマグネトロン1では、溶接設備の調整が最小限で済み、一段と製造コストを抑えることができる。
【0059】
このように、第1の実施の形態のマグネトロン1では、材料コストや製造コストを抑えつつ良好な冷却性能を得ることができる。
【0060】
尚、この第1の実施の形態では、溶接により溶ける部分の材質(銅)と厚さを、陽極円筒11の上端部40と金属封着体8との溶接部分と、陽極円筒11の上側のビード31と冷却ジャケット30の上端部60との溶接部分とで同一とすることで、溶接電流などの条件も同一とすることができ、より迅速且つ容易に、陽極円筒11と冷却ジャケット30とを溶接することができるようにもなっている。
【0061】
[第2の実施の形態]
次に、第2の実施の形態について説明する。この第2の実施の形態は、第1の実施の形態とは、溶接部分の構造と溶接方向が異なる実施の形体であり、それ以外の部分については、第1の実施の形態と同様の為、第1の実施の形態の説明を援用する。
【0062】
図4及び
図5に、第2の実施の形態による、陽極円筒11と金属封着体7、8との溶接部分の構造、及び陽極円筒11と冷却ジャケット30との溶接部分の構造を示す。
【0063】
まず、陽極円筒11と金属封着体7、8との溶接部分の構造と、その溶接方法について説明する。尚、陽極円筒11と金属封着体7との溶接部分の構造とその溶接方法と、陽極円筒11と金属封着体8との溶接部分の構造とその溶接方法は同一である為、ここでは、陽極円筒11と金属封着体8との溶接部分の構造とその溶接方法について説明することとする。
【0064】
図5(A)に示すように、陽極円筒11は、第1の実施の形態と同様、出力側となる上端部40の内側に、円環状の段差41が設けられていて、この段差41よりも先端側の部分がこの段差41よりも中央側の部分より薄く形成されている。出力側の金属封着体8は、最外周部42が、第1の実施の形態とは反体側(すなわち上側)に折り曲げられ上側に延びている。
【0065】
出力側のポールピース18は、第1の実施の形態とは異なり、円環状の段差が無く、単純に、金属封着体8の最外周部42と、陽極円筒11の段差41との間で管軸m方向(すなわち上下方向)に挟持される。
【0066】
陽極円筒11の上端部40と、金属封着体8の最外周部42は、溶接される前、それぞれ、金属封着体8の水平部分よりも上方に同量だけ円環状に突出していて、この突出部分がそれぞれ同じ厚さでなり、且つそれぞれの上端面が揃うように水平方向(陽極円筒11の径方向)に重ねられている。つまり、陽極円筒11の上端部40と、金属封着体8の最外周部42との溶接部分は、所謂へり継手形状となっている。
【0067】
そして、溶接時、このような溶接部分の真上から、矢印Bで示す溶接方向に電極50を当ててTIG溶接を行うことで、陽極円筒11の上端部40と金属封着体8の最外周部42とが溶けて溶接される。尚、本実施の形態の場合、矢印Bで示す溶接方向は、管軸m方向(上下方向)と平行な鉛直下方であるとする。
【0068】
このTIG溶接を、陽極円筒11の上端部40の全周に亘って行う。これにより、陽極円筒11の内側に出力側の金属封着体8が気密に溶接される。また、陽極円筒11の入力側でも、同様のTIG溶接を、陽極円筒11の下端部の全周に亘って行う。これにより、陽極円筒11の内側に入力側の金属封着体7が気密に接合される。このようにして、陽極円筒11と金属封着体7、8とが溶接されるようになっている。
【0069】
次に、陽極円筒11と冷却ジャケット30との溶接部分の構造と、その溶接方法について説明する。尚、陽極円筒11と冷却ジャケット30は、上側と下側の2箇所で溶接されるが、どちらも、溶接部分の構造及び溶接方法については同じである。
【0070】
陽極円筒11は、第1の実施の形態とは異なり、上側のビード31の最外周部に、金属封着体8の最外周部42と同様の方向(すなわち上側)に延びる円環状の突出部70が形成されている。同様に、下側のビード31の最外周部にも、金属封着体7の最外周部と同様の方向(すなわち下側)に延びる円環状の突出部71が形成されている。
【0071】
冷却ジャケット30は、第1の実施の形態と同様、上端部60と下端部61の内側に、円環状の段差62、63が設けられていて、この段差62、63よりも先端側の部分がこの段差62と63の間の部分より薄く形成されている。
【0072】
そして、この冷却ジャケット30は、陽極円筒11の外周から突出する上側のビード31が上側の段差62に当接するとともに、下側のビード32が下側の段差63に当接するようにして、上側のビード31と下側のビード32との間で挟持される。
【0073】
冷却ジャケット30の上端部60と、陽極円筒11の上側のビード31の突出部70は、溶接される前、それぞれ、上側のビード31の水平部分よりも上方に同量だけ突出していて、この突出部分がそれぞれ同じ厚さでなり、それぞれの上端面が揃うように水平方向に重ねられている。つまり、冷却ジャケット30の上端部60と陽極円筒11の上側のビード31との溶接部分も、陽極円筒11の上端部40と金属封着体8の最外周部42との溶接部分と同じへり継手形状となっている。ここで、冷却ジャケット30の上端部60の厚さ及び突出量は、陽極円筒11の上端部40の厚さ及び突出量と同一になっていて、さらに陽極円筒11の上側のビード31の突出部70の厚さ及び突出量は、金属封着体8の最外周部42の厚さ及び突出量と同一になっている。
【0074】
つまり、冷却ジャケット30の上端部60と陽極円筒11の上側のビード31との溶接部分の構造は、陽極円筒11の上端部40と金属封着体8との溶接部分の構造と同一であり、溶接方法も同一となっている。よって、
図5(B)に示すように、冷却ジャケット30の上端部60と、陽極円筒11の上側のビード31との溶接時、冷却ジャケット30の上端部60と陽極円筒11の上側のビード31との溶接部分の真上から、矢印Bで示す溶接方向に電極50を当ててアークを発生させTIG溶接を行うことで、冷却ジャケット30の上端部60と陽極円筒11の上側のビード31の突出部70とが溶けて溶接される。
【0075】
このTIG溶接を、冷却ジャケット30の上端部60の全周に亘って行う。また、冷却ジャケット30の下端側でも、同様のTIG溶接を、冷却ジャケット30の下端部61の全周に亘って行う。これにより、陽極円筒11の外側に冷却ジャケット30が気密に接合される。このようにして、陽極円筒11と冷却ジャケット30とが溶接されるようになっている。
【0076】
このように、第2の実施の形態のマグネトロン1では、陽極円筒11の上端部40と金属封着体8との溶接部分と、冷却ジャケット30の上端部60と陽極円筒11の上側のビード31との溶接部分を、ともに溶接方向及び溶接方法(TIG溶接)が同じでなるへり継手形状の構造とした。これにより、この第2の実施の形態でも、陽極円筒11と金属封着体8とを溶接するときと同じ溶接設備を用いて、電極50の角度は変えずに、高さと水平方向の位置を調整するだけで、陽極円筒11の上側のビード31と冷却ジャケット30の上端部60とを溶接することができるので、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0077】
尚、この第2の実施の形態では、溶接により溶ける部分の厚さは、陽極円筒11の上端部60と金属封着体8との溶接部分と、冷却ジャケット30の上端部60と陽極円筒11の上側のビード31との溶接部分とで同一であるものの、溶接により溶ける部分の材質は異なっている。
【0078】
つまり、銅でなる陽極円筒11の上端部40と鉄でなる金属封着体8との溶接により溶ける部分の材質は、銅と鉄であり、銅でなる冷却ジャケット30の上端部60と銅でなる陽極円筒11の上側のビード31との溶接により溶ける部分の材質は、銅と銅である。
【0079】
このように溶ける部分の材質の組み合わせが異なっていると、溶接電流などの条件が異なってしまうので、例えば、冷却ジャケット30の材質を鉄にして、陽極円筒11の上端部40と金属封着体8との溶接による溶ける部分の材質の組み合わせと、冷却ジャケット30の上端部60と陽極円筒11の上側のビード31との溶接により溶ける部分の材質の組み合わせを、ともに銅と鉄にして、溶接電量などの条件が同じとなるようにしてもよい。また、例えば、金属封着体8の材質を銅にして、陽極円筒11の上端部40と金属封着体8との溶接による溶ける部分の材質の組み合わせと、冷却ジャケット30の上端部60と陽極円筒11の上側のビード31との溶接により溶ける部分の材質の組み合わせを、ともに銅と銅にして、溶接電量などの条件が同じとなるようにしてもよい。また、上述した第1及び第2の実施の形態では、溶接部分の両者(例えば陽極円筒11の上端部40と金属封着体8の最外周部42)の厚さを同じにしたが、両者の厚さを適宜変えるようにしてもよい。
【0080】
[変形例]
尚、上述した第1及び第2の実施の形態では、溶接方法としてTIG溶接を用いたが、これに限らず、陽極円筒11の全周に亘って連続して溶接が可能で、気密に接合できる溶接方法であれば、電子ビーム溶接などの他の溶接方法を用いるようにしてもよい。
【0081】
また、上述した第2の実施の形態では、陽極円筒11と金属封着体7、8との溶接部分の構造と、冷却ジャケット30と陽極円筒11との溶接部分の構造を、ともにへり継手形状の構造としたが、これに限らず、要は、少なくとも、これら2箇所の溶接部分の構造が、同じ溶接方向(すなわち電極50の向きが同じ)で溶接可能な構造であればよい。第1の実施の形態についても同様である。
【0082】
さらに、上述した第1の実施の形態では、溶接により溶ける部分の厚さを、陽極円筒11の上端部40と金属封着体8との溶接部分と、冷却ジャケット30の上端部60と陽極円筒11の上側のビード31との溶接部分とで同一にしたが、これに限らず、上述したように、少なくとも溶接方向が同じであれば、溶接により溶ける部分の厚さは異なっていてもよい。ただし、厚さが異なる場合、溶接電流などの条件を変える必要がでてくることは言うまでもない。
【0083】
さらに、上述した第1及び第2の実施の形態では、冷却ジャケット30の流路の構造として、上側の流路と下側の流路とが、冷却ジャケット30の中央のビード33に設けられた切り欠きによって繋がる構造としたが、これに限らず、例えば、上側から下側に向かって螺旋状に下る構造としてもよく、またこれら以外の構造であってもよい。