(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343567
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】モータシャフト、モータ及びモータ構造体
(51)【国際特許分類】
H02K 7/116 20060101AFI20180604BHJP
H02K 7/00 20060101ALI20180604BHJP
F16C 3/02 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
H02K7/116
H02K7/00 A
F16C3/02
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-4452(P2015-4452)
(22)【出願日】2015年1月13日
(65)【公開番号】特開2016-131437(P2016-131437A)
(43)【公開日】2016年7月21日
【審査請求日】2016年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】大塚 誠
(72)【発明者】
【氏名】鴨木 豊
(72)【発明者】
【氏名】大村 準
【審査官】
安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭56−115013(JP,U)
【文献】
特開2014−126048(JP,A)
【文献】
特表2005−534876(JP,A)
【文献】
特開2007−010117(JP,A)
【文献】
特開平02−150541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 7/00−7/20
F16C 3/02
F16D 1/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被圧入物に形成されている穴に圧入されるモータシャフトであって、
シャフト本体と、
前記シャフト本体の半径方向外向きに突出し、前記穴の内周面に接触する第1の環状突起部と、
前記シャフト本体の半径方向外向きに突出し、前記穴の内周面に接触し、前記第1の環状突起部の形成位置よりも軸方向後端側に形成されている第2の環状突起部と、
を有し、
前記第1の環状突起部は、複数の環状突起を含む突起群から構成され、
前記第2の環状突起部は、複数の環状突起を含む突起群から構成され、
軸方向において、前記第1の環状突起部における隣接する前記環状突起の間隔、および前記第2の環状突起部における隣接する前記環状突起の間隔は、当該第1の環状突起部と当該第2の環状突起部との間隔より小さい、モータシャフト。
【請求項2】
前記第1の環状突起部は、前記第2の環状突起部から離間して形成されている、請求項1に記載のモータシャフト。
【請求項3】
前記第1の環状突起部は、圧入された前記シャフト本体の前記穴との圧入面の軸方向先端側近傍に形成され、
前記第2の環状突起部は、圧入された前記シャフト本体の前記穴との圧入面の軸方向後端側近傍に形成されている、請求項2に記載のモータシャフト。
【請求項4】
前記第1の環状突起部の最外径は、前記第2の環状突起部の最外径よりも小さい、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のモータシャフト。
【請求項5】
前記被圧入物の硬さより低い硬さを有する材料で形成されている、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のモータシャフト。
【請求項6】
SUS303から形成されている、請求項5に記載のモータシャフト。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載のモータシャフトと、
前記モータシャフトに設けられたマグネットと、
前記マグネットとの間の電磁相互作用により、前記マグネットとともに前記モータシャフトを回転させるコイルと、
を備える、モータ。
【請求項8】
穴が形成されている被圧入物と、
請求項7に記載のモータと、
を備える、モータ構造体。
【請求項9】
前記被圧入物の前記穴は、
前記モータシャフトが圧入される入口側近傍に形成され、内周面に前記第2の環状突起部が食い込みつつ接触する第1の圧入穴と、
前記第1の圧入穴よりも深奥側に、前記第1の圧入穴の内径よりも小さい内径に形成され、内周面に前記第1の環状突起部が食い込みつつ接触する第2の圧入穴と、
を有する、請求項8に記載のモータ構造体。
【請求項10】
前記第1の環状突起部と前記第2の環状突起部との間の距離は前記第1の圧入穴の深さよりも短い、請求項9に記載のモータ構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータシャフト、モータ及びモータ構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
ギアなどの被圧入物をモータシャフトに固定する方法としては、被圧入物にモータシャフトを挿入する穴を設け、被圧入物の穴の内径をモータシャフトの外径よりわずかに小さくなるように加工し、モータシャフトを被圧入物の穴に圧入して固定する方法がある。
【0003】
モータシャフトを被圧入物に圧入するために必要な力は、近似的には、圧入締め代((モータシャフトの外径)−(被圧入物の内径))に、圧入長さを乗じた値に比例する。圧入に必要な力がモータシャフトの許容圧縮応力より大きいと、モータシャフトを被圧入物に圧入する際、モータシャフトが座屈する虞がある。圧入長さを短くすることで、モータシャフトを座屈させないように圧入に必要な力を小さくすることができる。しかし、圧入長さを短くすると、モータシャフトを被圧入物に圧入した際、モータシャフトの軸と被圧入物の軸とに傾きが生じやすく、モータシャフトに被圧入物を高い精度で固定することは容易でない。
【0004】
これに対して、圧入長さを長くすると、モータシャフトに被圧入物を高い精度で固定することができる。圧入長さを長くすると、圧入に必要な力がモータシャフトの許容圧縮応力より小さくなるように、圧入締め代の上限を小さくする必要がある。圧入締め代の上限が小さくなるように、モータシャフトの外径及び被圧入物の穴の内径の公差を設計上定めることはできる。しかし、実際の製造工程でモータシャフトの外径及び被圧入物の内径を設計通り加工することは困難である。このため、圧入に必要な力がモータシャフトの許容圧縮応力より小さくなるように、加工したモータシャフト及び被圧入物を層別するなどの製造工程での調整が必要である。従って、モータシャフトが座屈しないようにするために、小さい力で被圧入物に圧入できるモータシャフトが求められている。
【0005】
特許文献1に、小さい力で雌型部品に圧入できるセレーション加工したモータシャフトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−257389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のモータシャフトでも、圧入に必要な力は圧入長さに比例して大きくなる。このため、圧入長さを長くすると、圧入に必要な力がモータシャフトの許容圧縮応力より小さくなるように、加工したモータシャフト及び雌型部品を層別するなどの製造工程での調整が必要となる。
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑みなされたものであり、小さい力で被圧入物に圧入でき、高い精度で被圧入物を固定できるモータシャフト、そのモータシャフトを備えたモータ及びモータ構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るモータシャフトは、
被圧入物に形成されている穴に圧入されるモータシャフトであって、
シャフト本体と、
前記シャフト本体の半径方向外向きに突出し、前記穴の内周面に接触する第1の環状突起部と、
前記シャフト本体の半径方向外向きに突出し、前記穴の内周面に接触し、前記第1の環状突起部の形成位置よりも軸方向後端側に形成されている第2の環状突起部と、
を有
し、
前記第1の環状突起部は、複数の環状突起を含む突起群から構成され、
前記第2の環状突起部は、複数の環状突起を含む突起群から構成され、
軸方向において、前記第1の環状突起部における隣接する前記環状突起の間隔、および前記第2の環状突起部における隣接する前記環状突起の間隔は、当該第1の環状突起部と当該第2の環状突起部との間隔より小さい。
【0010】
前記第1の環状突起部は、前記第2の環状突起部から離間して形成されているとよい。
【0011】
前記第1の環状突起部は、圧入された前記シャフト本体の前記穴との圧入面の軸方向先端側近傍に形成され、
前記第2の環状突起部は、圧入された前記シャフト本体の前記穴との圧入面の軸方向後端側近傍に形成されているとよい。
【0012】
前記第1の環状突起部の最外径は、前記第2の環状突起部の最外径よりも小さいとよい。
【0015】
前記モータシャフトは、前記被圧入物の硬さより低い硬さを有する材料で形成されるとよい。
【0016】
前記モータシャフトは、SUS303であるとよい。
【0017】
さらに、上記目的を達成するため、本発明の第2の観点に係るモータは、
前記モータシャフトと、
前記モータシャフトに設けられたマグネットと、
前記マグネットとの間の電磁相互作用により、前記マグネットとともに前記モータシャフトを回転させるコイルと、
を備えることを特徴とする。
【0018】
さらに、上記目的を達成するため、本発明の第3の観点に係るモータ構造体は、
穴が形成されている被圧入物と、
前記モータと、
を備えることを特徴とする。
【0019】
前記被圧入物の前記穴は、
前記モータシャフトが圧入される入口側近傍に形成され、内周面に前記第2の環状突起部が食い込みつつ接触する第1圧入穴と、
前記第1の圧入穴よりも深奥側に、前記第1の圧入穴の内径よりも小さい内径に形成され、内周面に前記第1の環状突起部が食い込みつつ接触する第2の圧入穴と、
を有するとよい。
【0020】
前記第1の環状突起
部と前記第2の環状突起
部との間の距離は前記第1の圧入穴の深さよりも短いとよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、小さい力で被圧入物に圧入でき、高い精度で被圧入物を固定できるモータシャフト、そのモータシャフトを備えたモータ及びモータ構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るモータ構造体を示す断面図である。
【
図2】(A)は、本発明の第1の実施の形態に係るモータシャフトの側面図であり、(B)は、本発明の第1の実施の形態に係るモータシャフトの正面図である。
【
図3】(A)は、本発明の第1の実施の形態に係るモータシャフトが圧入される被圧入物を示す正面図であり、(B)は、本発明の第1の実施の形態に係るモータシャフトが圧入される被圧入物を示すA−A’断面図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係るモータシャフトを被圧入物に圧入する際の荷重と押込量との関係を示す図である。
【
図5】従来のモータシャフトを被圧入物に圧入する際の荷重と押込量との関係を示す図である。
【
図6】(A)は、本発明の第2の実施の形態に係るモータシャフトの側面図であり、(B)は、本発明の第2の実施の形態に係るモータシャフトの正面図である。
【
図7】本発明の第2の実施の形態に係るモータシャフトを被圧入物に圧入した状態を示す断面図である。
【
図8】本発明の第2の実施の形態に係るモータシャフトを被圧入物に圧入する際の荷重と押込量との関係を示す図である。
【
図9】本発明の第1の変形例に係るモータシャフトをマグネットに圧入した状態を示す断面図である。
【
図10】本発明の第2の変形例に係るモータシャフトの側面図である。
【
図11】従来のモータシャフトを被圧入物に圧入した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態に係るモータシャフト、モータ及びモータ構造体を、図面を参照しながら説明する。なお、図中同一又は相当する部分は同一符号を付す。
【0024】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るモータ構造体の断面図である。
図1に示すように、モータ構造体100は、モータシャフト1を備えるモータ101と被圧入物4とを有する。モータ101は、モータシャフト1に加えて、モータシャフト1に設けられたマグネット12と、モータシャフト1を回転可能に支持する一組の軸受け13a、13bと、コイル14と、上記各部を収容するケース11とを有する。
【0025】
ケース11は、直方体状の中空部材である。ケース11の
図1中左側と右側には、軸方向に貫通する円形の開口がそれぞれ形成されている。モータシャフト1は、先端部が、右側の開口から外部へ突出した状態で、一組の軸受け13a、13bによって回転可能に支持されている。
【0026】
マグネット12は、モータシャフト1が貫通する貫通孔を有する円筒状の部材である。マグネット12は、貫通孔に挿入されたモータシャフト1に固定されている。
【0027】
コイル14は、マグネット12を包囲するように配置されている。コイル14は、マグネット12との間の電磁相互作用により、マグネット12とともにモータシャフト1を回転させる。
【0028】
モータシャフト1の先端には、被圧入物4が固定されている。モータシャフト1は、被圧入物4を固定する部分に環状突起2を有し、軸受け13a、13bに回転自在に軸支されケース11に備えられている。磁界を発生させるコイル14は、ケース11に固定されている。
【0029】
モータ101に電流が供給されると、コイル14は回転磁界を発生する。この回転磁界によってマグネット12が力を受け、モータシャフト1が回転する。つぎに、第1の実施の形態のモータシャフト1を説明する。
【0030】
第1の実施の形態のモータシャフト1は、
図2に示すように、直径aの円柱状のシャフト本体10と、軸方向の4箇所に形成され、モータシャフト1を被圧入物4に圧入すると圧入穴5の内周面に接触する環状突起2と、を有する。
【0031】
環状突起2は、シャフト本体10の半径方向外向きに突出し、外周面を一周する突起である。第1の環状突起2aは、圧入されたシャフト本体10の圧入穴5との圧入面の軸方向先端近傍に隣接して2つ形成されている。この2つの第1の環状突起2aは、第1の環状突起群3aを構成している。隣接する第1の環状突起2aの間隔はXである。第2の環状突起2bは、圧入されたシャフト本体10の圧入穴5との圧入面の軸方向後端近傍に隣接して2つ形成されている。この2つの第2の環状突起2bは、第2の環状突起群3bを構成している。隣接する第2の環状突起2bの間隔は、間隔Xである。第1の環状突起群3aと、第2の環状突起群3bとは、軸方向に離間して形成されている。第1の環状突起群3aと第2の環状突起3bとの間隔は、間隔Xより大きい間隔Yである。第1の環状突起2aの外径は、外径bであり、第2の環状突起2bの外径は、外径bより大きい外径cである。第1の環状突起2a及び第2の環状突起2bの軸方向の長さは、長さdである。
【0032】
被圧入物4は、
図3に示すように、圧入長さは、長さLであり、モータシャフト1が圧入される入口側近傍に形成され、内周面に第2の環状突起2bが食い込みつつ接触する直径Cの第1の圧入穴5aと、第1の圧入穴5aよりも深奥側に、内周面に第1の環状突起2aが食い込みつつ接触する、直径Cより小さい直径Bの第2の圧入穴5bと、から構成される圧入穴5を有する。被圧入物4は、モータシャフト1に固定され、モータシャフト1と共に回転する部品であり、具体的には、ギアなどである。第1の圧入穴5aの軸方向の長さはEである。長さLは、間隔Yより長い。直径Bは、環状突起2の外径bよりわずかに小さい。圧入締め代は、外径b−直径Bで表される。圧入締め代が適切な値になるように、直径Bを1とすると、外径bは、1.001〜1.020であることが好ましい。直径Cは、環状突起2の外径cよりわずかに小さい。圧入締め代は、外径c−直径Cで表され、圧入締め代が適切な値になるように直径Cを1とすると、外径cは、1.001〜1.020であることが好ましい。また、直径Bは、直径aより大きいかほぼ同じである。モータシャフト1の環状突起2以外の部分と圧入穴5の内周面とが接触し、モータシャフト1と被圧入物4とが空回りすることを防ぐことができるように、直径Bは、直径aとほぼ同じであることが好ましい。また、圧入に必要な力を小さくするために、直径Cは、外径bより大きいことが好ましい。
【0033】
つぎに、モータシャフト1を被圧入物4に圧入する方法を説明する。
【0034】
治具などを用いて被圧入物4を固定する。固定した被圧入物4の圧入穴5の軸とモータシャフト1の軸とが同軸になるように位置合わせを行う。モータシャフト1を軸方向に移動させ、第1の圧入穴5aの側からモータシャフト1を圧入穴5に押し込む。所定位置までモータシャフト1を押し込むと、モータシャフト1と被圧入物4との固定が完了する。
【0035】
つぎに、モータシャフト1を被圧入物4に圧入するときの押込量と圧入に必要な力(押し込むための荷重)との関係について説明する。間隔Yは、第1の圧入穴5aの軸方向の長さEより短いとする。モータシャフト1を圧入穴5に押し込む押込量と荷重との関係を任意単位で表したグラフを
図4に示す。モータシャフト1を圧入穴5に押し込むと、第2の環状突起群3bの先端側の第2の環状突起2bと第1の圧入穴5aの端とが接触し、押し込むための荷重が大きくなる。第1の圧入穴5aの端が先端側の第2の環状突起2bを通過する途中で荷重がピークになる。さらに押し込むと荷重は小さくなるが第1の圧入穴5aの端が第2の環状突起群3bの後端側の第2の環状突起2bと接触し始めると荷重は再び大きくなり、第1の圧入穴5aの端が後端側の第2の環状突起2bを通過する時点で荷重はピークになる。その後、押し込むための荷重が小さくなる。つぎに、モータシャフト1を圧入穴5にさらに押し込むと、第1の環状突起群3aの先端側の第1の環状突起2aと第2の圧入穴5bの端とが接触し、押し込むための荷重が大きくなる。第2の圧入穴5bの端が先端側の第1の環状突起2aを通過する途中で荷重がピークになる。さらに押し込むと荷重は小さくなるが第2の圧入穴5bの端が第1の環状突起群3aの後端側の第1の環状突起2aと接触し始めると荷重は再び大きくなり、第2の圧入穴5bの端が後端側の第1の環状突起2aを通過する時点で荷重はピークになる。その後、さらに押し込むと、押し込むための荷重が小さくなる。この先の2つのピークの押込量の幅及び後の2つのピークの押込幅は、間隔Xと同じである。また、先の2つのピークと後の2つのピークの幅は、間隔Yより小さい。
【0036】
これに対して、
図11に示す環状突起2を有さない従来のモータシャフトSを被圧入物4に圧入するときの押込量と荷重との関係について説明する。モータシャフトSを被圧入物4に押し込む押込量と荷重との関係を任意単位で表したグラフを
図5に示す。モータシャフトSの先端と圧入穴5の端とが接触し始めると荷重が大きくなり、ピークを形成する。一旦、荷重は小さくなるが、その後直線的に大きくなり、モータシャフトSが圧入穴5に完全に押し込まれると荷重が最大になる。圧入にさらにモータシャフトSを被圧入物4に押し込む場合はその最大の荷重が必要である。また、従来のモータシャフトSを被圧入物4に押し込む際、荷重が必要な押し込み距離は長さLである。
【0037】
つぎに、モータシャフト1を被圧入物4に圧入するために必要な力Pを、モータシャフトSを被圧入物4に圧入するために必要な力pと、比較して説明する。圧入に必要な力は、(圧入締め代)×(モータシャフトと被圧入物とが接触する軸方向の長さ)にほぼ比例する。このことから、モータシャフト1を被圧入物4に圧入するために必要な力Pは、(圧入締め代)×(被圧入物4とモータシャフト1とが接触する軸方向の長さd×4(環状突起2の個数))にほぼ比例する。これに対して、モータシャフトSを被圧入物4に圧入するために必要な力pは、(圧入締め代)×(被圧入物4の圧入穴5の軸方向の長さL)にほぼ比例する。モータシャフトSの外径はeであり、外径eは直径Bよりわずかに大きく、圧入締め代は外径e−直径Bで表される。
【0038】
以上、説明したように、第1の実施の形態によれば、シャフト本体10に被圧入物4の圧入穴5の内周面と接触する環状突起2を形成することで、圧入に必要な力は、環状突起2ごとに大きくなるが、環状突起2以外の部分では小さくなる。また、圧入時に荷重が発生するタイミングがずれるようにモータシャフト1及び被圧入物4の寸法(Y及びE)を設定することにより、圧入に必要な押し込み距離を短くすることができる。また、圧入するために必要な力Pは、圧入締め代外径b−直径Bと外径c−直径Cと外径e−直径Bとが同じであるとすると、圧入するために必要な力pの(長さd×4)/長さL倍である。具体的には、長さd=長さL/40であるとすると、圧入に必要な力Pは、圧入に必要な力pの10分の1である。このため、モータシャフト1は、モータシャフトSに比べて小さい荷重で被圧入物に圧入することができる。つまり、
図4に示すモータシャフト1を被圧入物4に圧入する荷重の最大値は、
図5に示すモータシャフトSを被圧入物4に圧入する荷重の最大値より小さい。また、圧入するために必要な力Pは、圧入締め代が同じであっても、長さdを変えることにより調整することができる。また、モータシャフト1の許容圧縮応力とモータシャフトSの許容圧縮応力とが同じであるとすると、モータシャフト1が座屈しない圧入締め代の上限は、モータシャフトSが座屈しない圧入締め代の上限の長さL/(長さd×4)倍である。具体的には、長さd=長さL/40であるとすると、モータシャフト1が座屈しない圧入締め代の上限は、モータシャフトSが座屈しない圧入締め代の上限の10倍である。このように、モータシャフト1は環状突起2を形成することで、圧入締め代の上限を大きくすることができ、製造工程で層別するなどのすりあわせの負担を低減できる。
【0039】
また、第1の環状突起2aの外径は、外径bであり、第2の環状突起2bの外径は、外径bより大きい外径cであるため、モータシャフト1を圧入穴5に圧入する際、第1の圧入穴5aと第2の環状突起2bとが接触するまでは、小さい力でモータシャフト1を被圧入物4に圧入できる。
【0040】
また、環状突起2は隣接して形成され、環状突起群3を構成することにより、突起の先端部が削れたものが突起間に残り食いつきを大きくする効果があり、また、環状突起2の数がより多く形成できるので、環状突起2の突起の潰れや被圧入物4の圧入穴5の内周面との食い込みがより生じ、締結力を大きくできる。また、環状突起2は、シャフト本体10の軸方向に複数設けられているので、モータシャフト1の軸と被圧入物4の軸との傾きを防止できる。間隔Yが大きいと被圧入物4の軸方向の傾きをより防止できるため、間隔Yは大きくすることが好ましい。また、モータシャフト1を被圧入物4のビッカース硬さより低いビッカース硬さを有する材料で作製すると、環状突起2が潰れ被圧入物4の圧入穴5の内周面とかじりが発生し、強固に固定される。例えば 、被圧入物4が焼結金属などであった場合、シャフトの材料はステンレス鋼のSUS303などが好適である。
【0041】
これに対して、環状突起2を有さないモータシャフトSでは、圧入に必要な力は直線的に大きくなり、途中で小さくなることはなく、圧入に必要な押し込み距離は長さLであり、短くすることができない。
【0042】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態のモータシャフト1は、
図6に示すように、直径aの円柱状のシャフト本体10と、軸方向の2箇所に形成され、モータシャフト1を被圧入物4に圧入すると圧入穴5の内周面に接触する環状突起2とを有する。
【0043】
環状突起2は、シャフト本体10の半径方向外向きに突出し、外周面を一周する突起である。第1の環状突起2aは、圧入されたシャフト本体10の圧入穴5との圧入面の軸方向先端近傍に形成されている。第2の環状突起2bは、圧入されたシャフト本体10の圧入穴5との圧入面の軸方向後端近傍に形成されている。第1の環状突起2aの外径は、外径b、軸方向の長さは、長さdである。第2の環状突起2bの外径は、外径c、軸方向の長さは、長さdである。第1の環状突起2aと第2の環状突起2bとの軸方向の間隔は、間隔Yである。
【0044】
被圧入物4は、第1の実施の形態と同様である。モータシャフト1を被圧入物4に圧入する方法は、第1の実施の形態と同様である。被圧入物4に圧入したモータシャフト1を
図7に示す。
【0045】
つぎに、モータシャフト1を被圧入物4に圧入するときの押込量と圧入に必要な力(押し込むための荷重)との関係について説明する。間隔Yは、第1の圧入穴5aの軸方向の長さEより短いとする。モータシャフト1を圧入穴5に押し込む押込量と荷重との関係を任意単位で表したグラフを
図8に示す。モータシャフト1を圧入穴5に押し込むと、第2の環状突起2bと第1の圧入穴5aの端とが接触し始め、押し込むための荷重が大きくなり、第1の圧入穴5aの端が第2の環状突起2bを通過する時点で荷重がピークになる。その後、荷重は小さくなり、第1の環状突起2aと第2の圧入穴5bの端が接触し始めると荷重は大きくなり、第2の圧入穴5bの端が第1の環状突起2aを通過する時点で荷重がピークになる。その後、荷重は小さくなる。この2つのピークの押込量の幅は、間隔Yより短い。
【0046】
以上、説明したように、第2の実施の形態によれば、シャフト本体10に被圧入物4の圧入穴5の内周面と接触する環状突起2を形成することで、圧入に必要な力は、環状突起2ごとに大きくなるが、環状突起2以外の部分では小さくなる。これに対して、環状突起2を有さないモータシャフトSでは、圧入に必要な力は直線的に大きくなり、途中で小さくなることはない。また、モータシャフト1を被圧入物4に圧入するために必要な力Pは、第1の実施の形態のモータシャフト1と同様に、圧入締め代が同じであるとすると、環状突起2を有さないモータシャフトSに比べて小さくできる。このため、第2の実施の形態のモータシャフト1は第1の実施の形態のモータシャフト1と同様に、環状突起2を有さないモータシャフトSに比べて小さい荷重で被圧入物4に圧入することができる。また、モータシャフト1が座屈しない圧入締め代の上限は、第1の実施形態のモータシャフト1と同様に、モータシャフト1は環状突起2を形成することで、圧入締め代の上限を大きくすることができ、製造工程で層別するなどのすりあわせの負担を低減できる。
【0047】
また、環状突起2は、シャフト本体10の軸方向に複数設けられているので、モータシャフト1の軸と被圧入物4の軸との傾きを防止できる。このため、モータシャフト1と被圧入物4とを高い精度で固定することができる。間隔Yが大きいと軸方向の傾きをより防止できるため、間隔Yは大きくすることが好ましい。また、第1の環状突起2aの外径は、外径bであり、第2の環状突起2bの外径は、外径bより大きい外径cであるため、モータシャフト1を圧入穴5に圧入する際、第1の圧入穴5aと第2の環状突起2bとが接触するまでは、小さい力でモータシャフト1を被圧入物4に圧入できる。また、第2の実施の形態のモータシャフト1は、シャフトが細いなどの座屈変形が懸念される場合に好適である。
【0048】
また、モータシャフト1を被圧入物4のビッカース硬さより低いビッカース硬さを有する材料で作製すると、環状突起2が潰れ被圧入物4の圧入穴5の内周面とかじりが発生し、強固に固定される。例えば 、被圧入物が焼結金属などであった場合、シャフトの材料はステンレス鋼のSUS303などが好適である。
【0049】
(変形例)
第1及び第2の実施の形態では、モータシャフト1のケース11から突出している部分を被圧入物4に圧入する場合について説明したが、被圧入物4はシャフトを支持している2つのベアリングの間に位置している場合でもよい。また、
図9に示すように、マグネット12を挿入する部分のモータシャフト1に環状突起2を形成してもよい。モータシャフト1をマグネット12に圧入する際、モータシャフト1の先端側の環状突起2の外径を後端側の環状突起2の外径より小さくし、マグネット12の貫通穴に金属スリーブ15を隙間ばめし、金属スリーブ15の入口の内径を奥側の内径より大きくする。この場合、モータシャフト1を金属スリーブ15に圧入するとき、モータシャフト1を被圧入物4に圧入するときの効果と同様の効果を得られる。環状突起2は、モータシャフト1の軸方向に複数設けられているので、モータシャフト1とマグネット12との軸の傾きを防止できる。また、被圧入物4はタングステン製フライホイールなどのウェイトになる部品やファンモータ用のインペラを止めておく金属のハブなどの部品でもよい。
【0050】
第1の実施の形態では、2つの環状突起2が環状突起群3を構成しているが、3つ以上の環状突起2が環状突起群3を構成してもよい。また、第1の実施の形態では、2つの環状突起群3がモータシャフト1に形成されているが、3つ以上の環状突起群3がモータシャフト1に形成されていてもよい。また、第2の実施の形態では、2つの環状突起2がモータシャフト1に形成されているが、3つ以上の環状突起2がモータシャフト1に形成されていてもよい。
【0051】
モータシャフトSの直径eが小さい(6mm以下)場合、特に、圧入に必要な力が大きいとモータシャフトSが座屈しやすい。第1及び第2の実施の形態のモータシャフト1では、圧入に必要な力を小さくすることができるので、モータシャフト1の直径aが小さい(6mm以下)ときであっても、モータシャフト1が座屈することを防ぐことができる。
【0052】
第1及び第2の実施の形態では、環状突起2は、突起の断面が矩形のものについて説明したが、
図10に示すように、環状突起2は、突起の断面がアーチ状のものであってもよい。この場合、アーチの頂点が弾性変形することによりモータシャフト1と被圧入物4とが固定される。第1及び第2の実施の形態では、第1の環状突起2aの直径bは、第2の環状突起2bの直径cより小さくしているが、直径bを直径cと同じにしてもよい。この場合、被圧入物4の圧入穴5をストレートにできるため被圧入物4の作製が容易になる。
【0053】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【符号の説明】
【0054】
1 モータシャフト
2 環状突起
2a 第1の環状突起
2b 第2の環状突起
3 環状突起群
3a 第1の環状突起群
3b 第2の環状突起群
4 被圧入物
5 圧入穴
5a 第1の圧入穴
5b 第2の圧入穴
10 シャフト本体
11 ケース
12 マグネット
13a、13b 軸受け
14 コイル
15 金属スリーブ
100 モータ構造体
101 モータ