特許第6343610号(P6343610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6343610多官能(メタ)アクリレート、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343610
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】多官能(メタ)アクリレート、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/54 20060101AFI20180604BHJP
   C07C 67/26 20060101ALI20180604BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20180604BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   C07C69/54 BCSP
   C07C67/26
   C09D4/02
   C08F20/18
【請求項の数】12
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-522833(P2015-522833)
(86)(22)【出願日】2014年6月11日
(86)【国際出願番号】JP2014065489
(87)【国際公開番号】WO2014203786
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2017年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2013-130877(P2013-130877)
(32)【優先日】2013年6月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100101362
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】原田 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 一郎
【審査官】 黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−021839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1-II)
【化1】
(式中、環Z1はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で表される多官能(メタ)アクリレート化合物。
【請求項2】
下記式(1)
【化2】
(式中、環Z1はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、Rは水素原子又はメチル基を示す。n1、n2は、n1=2若しくは3且つn2=1、又はn1=3若しくは4且つn2=0である)
で表される多官能(メタ)アクリレート化合物を2種以上含む混合物。
【請求項3】
下記式(2)
【化3】
(式中、環Z2はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する隣接した炭素原子2個が酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を1個形成した環であり、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表される化合物又は下記式(3)
【化4】
(式中、環Z3はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する2組の隣接した炭素原子2個がそれぞれ酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を2個形成した環である)
で表される化合物と(メタ)アクリル酸を反応させて得られる、下記式(1)
【化5】
(式中、環Z1はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、Rは水素原子又はメチル基を示す。n1、n2は、n1=2若しくは3且つn2=1、又はn1=3若しくは4且つn2=0である)
で表される多官能(メタ)アクリレート化合物を2種以上含む、混合物の製造方法。
【請求項4】
下記式(1')
【化6】
(式中、環Z1はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表されるジ(メタ)アクリレート化合物と、下記式(4)
【化7】
(式中、環Z4はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する炭素−炭素一重結合の1つが炭素−炭素二重結合となった環であり、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表されるモノ(メタ)アクリレート化合物を含む(メタ)アクリレート化合物の混合物であって、混合物に含まれる全(メタ)アクリレート化合物の10重量%以上が前記ジ(メタ)アクリレート化合物である混合物。
【請求項5】
ルイス酸触媒の存在下、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン1モルに対して、(メタ)アクリル酸1.1モル以上を反応させて得られる混合物の製造方法であって、
前記混合物が、下記式(1')
【化8】
(式中、環Z1はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表されるジ(メタ)アクリレート化合物と、下記式(4)
【化9】
(式中、環Z4はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する炭素−炭素一重結合の1つが炭素−炭素二重結合となった環であり、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表されるモノ(メタ)アクリレート化合物を含む、混合物の製造方法。
【請求項6】
ルイス酸触媒が三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体である請求項5に記載の混合物の製造方法。
【請求項7】
下記式(2)
【化10】
(式中、環Z2はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する隣接した炭素原子2個が酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を1個形成した環であり、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表される化合物又は下記式(3)
【化11】
(式中、環Z3はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する2組の隣接した炭素原子2個がそれぞれ酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を2個形成した環である)
で表される化合物と(メタ)アクリル酸を反応させて、下記式(1)
【化12】
(式中、環Z1はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を示し、n1、n2は、n1=2若しくは3且つn2=1、又はn1=3若しくは4且つn2=0である。Rは前記に同じ)
で表される多官能(メタ)アクリレート化合物を得る多官能(メタ)アクリレート化合物の製造方法。
【請求項8】
下記式(4)
【化13】
(式中、環Z4はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する炭素−炭素一重結合の1つが炭素−炭素二重結合となった環であり、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表される化合物と過酸を反応させて、下記式(2)
【化14】
(式中、環Z2はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する隣接した炭素原子2個が酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を1個形成した環であり、Rは前記に同じ)
で表される化合物を得、得られた式(2)で表される化合物と(メタ)アクリル酸を反応させる請求項7に記載の多官能(メタ)アクリレート化合物の製造方法。
【請求項9】
下記式(5)
【化15】
(式中、環Z5はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する炭素−炭素一重結合の2つが炭素−炭素二重結合となった環である)
で表される化合物と過酸を反応させて、下記式(3)
【化16】
(式中、環Z3はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する2組の隣接した炭素原子2個がそれぞれ酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を2個形成した環である)
で表される化合物を得、得られた式(3)で表される化合物と(メタ)アクリル酸を反応させる請求項7に記載の多官能(メタ)アクリレート化合物の製造方法。
【請求項10】
請求項1に記載の多官能(メタ)アクリレート化合物に由来するモノマー単位を有するポリマー。
【請求項11】
請求項1に記載の多官能(メタ)アクリレート化合物、又は請求項2若しくは4に記載の混合物を含む高硬度ハードコート剤。
【請求項12】
請求項11に記載の高硬度ハードコート剤の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋かけ環式炭素環に2以上の(メタ)アクリロイル基を有する新規の化合物、及びその製造方法に関する。前記新規化合物を重合して得られるポリマーは、ガラス代替材料として有用である。本願は、2013年6月21日に日本に出願した、特願2013−130877号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
活性エネルギー線重合性化合物には種々の(メタ)アクリレートが含まれ、導波路(光導波路など)、混載基板、光ファイバー、応力緩和型接着剤、封止剤、アンダーフィル、インクジェット用インク、カラーフィルター、ナノインプリント、フレキシブル基板等に多く用いられている。
【0003】
前記活性エネルギー線重合性化合物のなかでも特に橋かけ環式炭素環骨格を有する多官能(メタ)アクリレートは、ガラスに比べて硬度が高く耐久性に優れ、重量がガラスの約半分程度と軽いこと、及び射出成形に付すことが可能であることから形状自由度が高く、複数部材の一体成形が可能であり車両デザインや生産性の向上に寄与することができるため、ガラス代替材料として注目されており、例えば、フロントガラス等の自動車用グレージング、携帯通信機器又は携帯情報機器用高硬度ハードコートフィルム、光学シート等として利用することが期待されている。
【0004】
橋かけ環式炭素環骨格を有する多官能(メタ)アクリレートとして、例えば、トリシクロデカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等は硬度、耐久性に優れた硬化物を形成できることが知られている(特許文献1)。しかし、用途によっては未だ不十分の場合があり、より一層優れた硬度、耐久性を有する硬化物を形成することができるモノマーが求められていた。また、トリシクロデカンジオールジ(メタ)アクリレートは合成が困難であり、その上、硬度及び耐久性を付与するための官能基の導入率が低いため実用的でなかった。従って、簡便な方法で効率よく製造することができるモノマーであって、重合することにより硬度及び耐久性に優れた硬化物を形成することができるモノマーが見いだされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−315960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、硬化性に優れ、硬度及び耐久性に優れたポリマー若しくは硬化物を形成することができる多官能(メタ)アクリレート化合物を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記多官能(メタ)アクリレート化合物を簡便且つ選択的に製造する製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記多官能(メタ)アクリレート化合物を含む混合物であって、硬化性に優れ、硬度及び耐久性に優れた硬化物を形成することができる混合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンを構成する炭素−炭素一重結合の1つ又は2つが炭素−炭素二重結合となった化合物を原料として、前記炭素−炭素二重結合をエポキシ化してエポキシ基を形成し、更に該エポキシ基を(メタ)アクリル化する簡便な方法によりトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環に(メタ)アクリロイル基を2〜4個有する化合物を選択的に製造することができること、前記製造方法により得られる化合物や、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環に(メタ)アクリロイル基を1又は2個有する化合物を特定割合で含有する混合物は重合することにより硬度及び耐久性に優れた硬化物を形成することができることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、下記式(1)
【化1】
(式中、環Z1はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、Rは水素原子又はメチル基を示す。n1、n2は、n1=2若しくは3且つn2=1、又はn1=3若しくは4且つn2=0である)
で表される多官能(メタ)アクリレート化合物を提供する。
【0009】
本発明は、また、下記式(1)
【化2】
(式中、環Z1はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、Rは水素原子又はメチル基を示す。n1、n2は、n1=2若しくは3且つn2=1、又はn1=3若しくは4且つn2=0である)
で表される多官能(メタ)アクリレート化合物を含む混合物を提供する。
【0010】
本発明は、また、下記式(2)
【化3】
(式中、環Z2はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する隣接した炭素原子2個が酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を1個形成した環であり、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表される化合物又は下記式(3)
【化4】
(式中、環Z3はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する2組の隣接した炭素原子2個がそれぞれ酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を2個形成した環である)
で表される化合物と(メタ)アクリル酸を反応させて得られる前記の混合物を提供する。
【0011】
本発明は、また、下記式(1’)
【化5】
(式中、環Z1はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表されるジ(メタ)アクリレート化合物と、下記式(4)
【化6】
(式中、環Z4はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する炭素−炭素一重結合の1つが炭素−炭素二重結合となった環であり、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表されるモノ(メタ)アクリレート化合物を含む(メタ)アクリレート化合物の混合物であって、混合物に含まれる全(メタ)アクリレート化合物の10重量%以上が前記ジ(メタ)アクリレート化合物である混合物を提供する。
【0012】
本発明は、また、ルイス酸触媒の存在下、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン1モルに対して、(メタ)アクリル酸1.1モル以上を反応させて得られる前記の混合物を提供する。
【0013】
本発明は、また、ルイス酸触媒が三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体である前記の混合物を提供する。
【0014】
本発明は、また、下記式(2)
【化7】
(式中、環Z2はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する隣接した炭素原子2個が酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を1個形成した環であり、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表される化合物又は下記式(3)
【化8】
(式中、環Z3はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する2組の隣接した炭素原子2個がそれぞれ酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を2個形成した環である)
で表される化合物と(メタ)アクリル酸を反応させて、下記式(1)
【化9】
(式中、環Z1はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を示し、n1、n2は、n1=2若しくは3且つn2=1、又はn1=3若しくは4且つn2=0である。Rは前記に同じ)
で表される多官能(メタ)アクリレート化合物を得る多官能(メタ)アクリレート化合物の製造方法を提供する。
【0015】
本発明は、また、下記式(4)
【化10】
(式中、環Z4はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する炭素−炭素一重結合の1つが炭素−炭素二重結合となった環であり、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表される化合物と過酸を反応させて、下記式(2)
【化11】
(式中、環Z2はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する隣接した炭素原子2個が酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を1個形成した環であり、Rは前記に同じ)
で表される化合物を得、得られた式(2)で表される化合物と(メタ)アクリル酸を反応させる前記の多官能(メタ)アクリレート化合物の製造方法を提供する。
【0016】
本発明は、また、下記式(5)
【化12】
(式中、環Z5はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する炭素−炭素一重結合の2つが炭素−炭素二重結合となった環である)
で表される化合物と過酸を反応させて、下記式(3)
【化13】
(式中、環Z3はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する2組の隣接した炭素原子2個がそれぞれ酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を2個形成した環である)
で表される化合物を得、得られた式(3)で表される化合物と(メタ)アクリル酸を反応させる前記の多官能(メタ)アクリレート化合物の製造方法を提供する。
【0017】
本発明は、また、前記の多官能(メタ)アクリレート化合物に由来するモノマー単位を有するポリマーを提供する。
【0018】
本発明は、また、前記の多官能(メタ)アクリレート化合物、又は前記の混合物を含む高硬度ハードコート剤を提供する。
【0019】
本発明は、また、前記の高硬度ハードコート剤を硬化して得られる硬化物を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明の多官能(メタ)アクリレート化合物は上記構成を有するため、硬化性(重合性)に優れ、高い硬度と弾性率を有し、強度に優れたポリマー若しくは硬化物を形成することができる。そのため、ガラス代替材料等として有用である。
また、本発明の多官能(メタ)アクリレート化合物のうち、ヒドロキシル基を有する化合物は、該ヒドロキシル基を特定の化学基に容易に変換することができ、それにより特定の優れた機能を有する樹脂(=機能性樹脂)の原料(=機能性モノマー)とすることもできる。例えば、ヒドロキシル基にイソシアネート化合物を反応させて得られる化合物はウレタン結合を有するため、重合することにより柔軟性、基板密着性に優れたポリマー若しくは硬化物を形成することができる。そのため、本発明の多官能(メタ)アクリレート化合物は機能性モノマーの前駆体としても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の多官能(メタ)アクリレート化合物は、下記式(1)
【化14】
(式中、環Z1はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、Rは水素原子又はメチル基を示す。n1、n2は、n1=2若しくは3且つn2=1、又はn1=3若しくは4且つn2=0である)
で表される。
【0022】
本発明の多官能(メタ)アクリレート化合物としては、下記式(1-a)〜(1-k)で表される化合物(endo体、exo体等の立体異性体を含む)が含まれる。尚、下記式中の複数のRは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0023】
【化15】
【0024】
【化16】
【0025】
【化17】
【0026】
本発明の多官能(メタ)アクリレート化合物は、下記式(2)
【化18】
(式中、環Z2はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する隣接した炭素原子2個が酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を1個形成した環であり、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表される化合物又は下記式(3)
【化19】
(式中、環Z3はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する2組の隣接した炭素原子2個がそれぞれ酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を2個形成した環である)
で表される化合物と(メタ)アクリル酸を反応させることにより、エポキシ基を(メタ)アクリル化して製造することができる。
【0027】
前記環Z2はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する隣接した炭素原子2個が酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を1個形成した環であり、例えば、下記式(2-1)、(2-2)で表される環(立体異性体を含む)を挙げることができる。
【化20】
【0028】
前記環Z3はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する2組の隣接した炭素原子2個がそれぞれ酸素原子1個と互いに結合することによりエポキシ基を2個形成した環であり、例えば、下記式(3-1)で表される環(立体異性体を含む)を挙げることができる。
【化21】
【0029】
式(1)で表される化合物において、n1=2且つn2=1である化合物(下記式(1-I)で表される化合物)は、式(2)で表される化合物1モルに対して、(メタ)アクリル酸を、1〜10モル程度反応させることにより製造することができる。その他、式(2)で表される化合物と過剰量の(メタ)アクリル酸を仕込み、1〜20時間程度反応させることにより製造することもできる。
【0030】
式(1)で表される化合物において、n1=3且つn2=0である化合物(下記式(1-II)で表される化合物)は、式(2)で表される化合物1モルに対して、(メタ)アクリル酸を、2〜10モル程度反応させることにより製造することができる。その他、式(2)で表される化合物と過剰量の(メタ)アクリル酸を仕込み、1〜20時間程度反応させることにより製造することもできる。
【0031】
【化22】
【0032】
式(1)で表される化合物において、n1=3且つn2=1である化合物(下記式(1-III)で表される化合物)は、式(3)で表される化合物1モルに対して、(メタ)アクリル酸を、1〜20モル程度反応させることにより製造することができる。その他、式(3)で表される化合物と過剰量の(メタ)アクリル酸を仕込み、1〜20時間程度反応させることにより製造することもできる。
【0033】
式(1)で表される化合物において、n1=4且つn2=0である化合物(下記式(1-IV)で表される化合物)は、式(3)で表される化合物1モルに対して、(メタ)アクリル酸を、2〜10モル程度反応させることにより製造することができる。その他、式(3)で表される化合物と過剰量の(メタ)アクリル酸を仕込み、1〜20時間程度反応させることにより製造することもできる。
【0034】
【化23】
【0035】
上記反応は重合禁止剤の存在下で行うことが好ましい。重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、フェノチアジン、4,4'−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、4,4'−ブチリデンビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、1,1,3−トリス(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタン、p−メトキシフェノール、6−t−ブチル−2,4−キシレノール等を挙げることができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。前記重合禁止剤の使用量は、生成する式(1)で表される多官能(メタ)アクリレート化合物1モルに対して、例えば0.001〜0.5モル程度、好ましくは0.005〜0.1モルである。重合禁止剤の使用量が上記範囲を下回ると、十分な重合禁止効果が得られない場合がある。一方、重合禁止剤の使用量が上記範囲を上回ると、生成物の物性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0036】
また、反応系に分子状酸素を含む成分(例えば、空気、窒素等で希釈した酸素)を共存させることによっても、重合反応を抑制することができる。上記反応は分子状酸素含有ガス雰囲気下で行うことが好ましい。酸素濃度は安全面を考慮して適宜選択される。
【0037】
上記反応は130℃以下の温度(例えば、50℃〜130℃)で行うことが好ましい。反応温度が上記範囲を下回ると、十分な反応速度が得られない場合がある。一方、反応温度が上記範囲を上回ると、熱によるラジカル重合反応が進行して二重結合部が架橋し、ゲル化する場合がある。
【0038】
上記反応は、通常、塩基の存在下で行われる。塩基には有機塩基及び無機塩基が含まれる。前記有機塩基としては、例えば、トリエチルアミン、N−メチルピペリジン等の第3級アミン;ピリジン等の窒素原子含有芳香族複素環化合物;ナトリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;酢酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸カリウム等の有機酸アルカリ金属塩等を挙げることができる。前記無機塩基としては、例えば、ナトリウム等のアルカリ金属単体;水酸化ナトリム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明においては、なかでもアルカリ金属単体、又は有機酸アルカリ金属塩を使用することが好ましい。塩基の使用量は、式(2)又は式(3)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001〜0.5モル程度、好ましくは0.01〜0.4モルである。塩基は大過剰量用いることもできる。
【0039】
上記反応は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては反応の進行を阻害しないものであれば特に限定されることがなく、例えば、トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素;ヘキサン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;酢酸エチル等のエステル類等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0040】
反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィー等の分離精製手段やこれらを組み合わせた手段により分離精製できる。
【0041】
また、上記式(2)で表される化合物は、例えば、下記式(4)
【化24】
(式中、環Z4はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する炭素−炭素一重結合の1つが炭素−炭素二重結合となった環であり、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表される化合物と過酸を反応させることにより、前記式(4)で表される化合物の炭素−炭素二重結合をエポキシ化して製造することができる。
【0042】
更に、上記式(3)で表される化合物は、例えば、下記式(5)
【化25】
(式中、環Z5はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する炭素−炭素一重結合の2つが炭素−炭素二重結合となった環である)
で表される化合物と過酸を反応させることにより、前記式(5)で表される化合物の炭素−炭素二重結合をエポキシ化して製造することができる。
【0043】
前記環Z4はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する炭素−炭素一重結合の1つが炭素−炭素二重結合となった環であり、例えば、下記式(4-1)、(4-2)で表される環(立体異性体を含む)を挙げることができる。
【化26】
【0044】
前記環Z5はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する炭素−炭素一重結合の2つが炭素−炭素二重結合となった環であり、例えば、下記式(5-1)で表される環(立体異性体を含む)を挙げることができる。
【化27】
【0045】
前記過酸としては、例えば、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、メタクロロ過安息香酸、トリフルオロ過酢酸等を用いることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
過酸の使用量は、例えば、式(4)又は式(5)で表される化合物における炭素−炭素二重結合1モルに対して例えば0.5〜6モル程度、好ましくは1〜3モルである。
【0047】
上記反応は溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒としては反応の進行を阻害しないものであれば特に限定されることがなく、例えば、トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素;ヘキサン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;酢酸エチル等のエステル類等を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0048】
反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。また、反応温度は、例えばマイナス20℃〜80℃程度、好ましくは0℃〜60℃である。反応時間は、例えば1〜10時間程度である。
【0049】
反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィー等の分離精製手段やこれらを組み合わせた手段により分離精製できる。
【0050】
更に、上記式(4)で表される化合物は、上記式(5)で表される化合物に(メタ)アクリル酸を反応させることにより製造することができる。
【0051】
(メタ)アクリル酸の使用量としては、式(5)で表される化合物1モルに対して例えば0.5〜20モル程度、好ましくは1〜10モルである。
【0052】
上記反応は触媒の存在下で行うことが好ましい。前記触媒としては、例えば、無水塩化アルミニウム、無水臭化アルミニウム、無水塩化鉄、四塩化チタン、四塩化スズ、塩化亜鉛、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体、無水三酸化ホウ素、濃硫酸などの一般にフリーデルクラフツ反応に使用し得るルイス酸触媒やトリフルオロメタンスルホン酸などのスルホン酸を挙げることができる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0053】
触媒の使用量は、前記式(5)で表される化合物1モルに対して例えば0.001〜0.5モル程度、好ましくは0.01〜0.1モルである。
【0054】
上記反応は、重合禁止剤の存在下で行うことが好ましい。重合禁止剤としては、上記と同様の例を挙げることができる。重合禁止剤の使用量は、生成する式(4)で表される化合物1モルに対して、例えば0.001〜0.5モル程度、好ましくは0.005〜0.1モルである。
【0055】
反応の雰囲気は反応を阻害しない限り特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気等の何れであってもよい。また、反応温度は、例えば30〜130℃程度、好ましくは40〜120℃である。反応時間は、例えば0.5〜10時間程度である。
【0056】
反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行うこともできる。反応終了後、反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、吸着、カラムクロマトグラフィー等の分離精製手段やこれらを組み合わせた手段により分離精製できる。
【0057】
上記製造方法によれば、上記式(1)で表される多官能(メタ)アクリレート化合物を効率よく(収率は、例えば80%以上)製造することができる。
【0058】
上記製造方法によれば、上記式(1)で表される多官能(メタ)アクリレート化合物における全ての立体異性体や位置異性体から選択される1種又は2種以上の混合物が得られる。
【0059】
上記製造方法により得られる式(1)で表される多官能(メタ)アクリレート化合物は重合性に優れ、単独で又は他の重合性化合物(例えば、式(1)で表される多官能(メタ)アクリレート化合物以外の(メタ)アクリレート化合物等)と共に、溶液重合、塊状重合、懸濁重合、塊状−懸濁重合、乳化重合等の慣用の方法により重合してポリマーを形成することができる。重合の際には、重合開始剤等を添加してもよい。
【0060】
そして、本発明の混合物は、上記式(1)で表される多官能(メタ)アクリレート化合物(立体異性体や位置異性体を含む)を含む(好ましくは、前記化合物から選択される2種以上を含む)。
【0061】
本発明の混合物は、なかでも、式(1)においてn1=2、n2=1であるヒドロキシジ(メタ)アクリレート化合物と、式(1)においてn1=3、n2=0であるトリ(メタ)アクリレート化合物を含有する混合物[前記ヒドロキシジ(メタ)アクリレート化合物とトリ(メタ)アクリレート化合物の含有量の和が混合物全量の例えば50重量%以上(好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上、100重量%以下)である混合物]が好ましい。また、前記ヒドロキシジ(メタ)アクリレート化合物とトリ(メタ)アクリレート化合物の含有量の比(前者:後者;重量比)は、例えば99.5:0.5〜60:40、好ましくは99:1〜70:30、特に好ましくは98.5:1.5〜80:20、最も好ましくは98:2〜90:10である。
【0062】
また、本発明の混合物には、下記式(1’)
【化28】
(式中、環Z1はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表されるジ(メタ)アクリレート化合物と、下記式(4)
【化29】
(式中、環Z4はトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環を構成する炭素−炭素一重結合の1つが炭素−炭素二重結合となった環であり、Rは水素原子又はメチル基を示す)
で表されるモノ(メタ)アクリレート化合物を含む(メタ)アクリレート化合物の混合物[前記モノ(メタ)アクリレート化合物とジ(メタ)アクリレート化合物の含有量の和は、混合物全量の例えば50重量%以上、好ましくは70重量%以上、特に好ましくは80重量%以上、最も好ましくは90重量%以上、100重量%以下]であって、混合物に含まれる全(メタ)アクリレート化合物の10重量%以上(好ましくは15重量%以上、特に好ましくは20重量%以上、最も好ましくは25重量%)が前記ジ(メタ)アクリレート化合物である混合物も含まれる。尚、前記混合物におけるジ(メタ)アクリレート化合物の含有量の上限は、例えば99重量%、好ましくは90重量%、更に好ましくは60重量%、特に好ましくは50重量%、最も好ましくは40重量%、更に好ましくは35重量%である。
【0063】
前記モノ(メタ)アクリレート化合物とジ(メタ)アクリレート化合物を含む混合物におけるモノ(メタ)アクリレート化合物の含有量は、混合物に含まれる全(メタ)アクリレート化合物の、例えば10重量%以上(好ましくは20重量%以上、特に好ましくは30重量%以上、最も好ましくは40重量%)である。また、前記混合物におけるモノ(メタ)アクリレート化合物の含有量の上限は、例えば90重量%、好ましくは80重量%、より好ましくは70重量%、更に好ましくは65重量%、特に好ましくは60重量%、最も好ましくは55重量%である。
【0064】
前記モノ(メタ)アクリレート化合物とジ(メタ)アクリレート化合物を含む混合物におけるモノ(メタ)アクリレート化合物とジ(メタ)アクリレート化合物の含有量の比(前者:後者(重量比))は、例えば10:90〜80:20、好ましくは30:70〜80:20、更に好ましくは40:60〜70:30、特に好ましくは45:55〜70:30、最も好ましくは55:45〜65:35である。
【0065】
前記モノ(メタ)アクリレート化合物とジ(メタ)アクリレート化合物を含む混合物は、例えば、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体等のルイス酸触媒の存在下、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン(=ジシクロペンタジエン)1モルに対して、(メタ)アクリル酸を1.1モル以上(好ましくは1.1〜20モル、特に好ましくは2〜10モル)反応させることにより製造することができる。
【0066】
本発明の式(1)で表される多官能(メタ)アクリレート化合物、及び本発明の混合物は上記構成を有する為、紫外線等を照射することにより硬化させることができ、高い硬度と弾性率を有し、且つ塑性変形仕事量が小さく、変形しにくい特性を有する硬化物を形成することができる。そのため、高硬度ハードコート剤原料として有用である。
【0067】
本発明の式(1)で表される多官能(メタ)アクリレート化合物の硬化物、及び本発明の混合物の硬化物は耐熱性に優れ、ガラス転移温度(Tg)が例えば230℃以上、好ましくは240〜270℃である。更に、高い硬度(マルテンス硬度は、例えば300N/mm2以上、好ましくは350N/mm2以上であり、押込み硬度は、例えば420N/mm2以上、好ましくは500N/mm2以上、特に好ましくは550N/mm2以上)と弾性率(例えば7000N/mm2以上、好ましくは7500N/mm2以上、特に好ましくは7700N/mm2以上)を有し、且つ塑性変形仕事量が小さく(塑性変形仕事量は、例えば3.3×10-11N・m以下、好ましくは3.0×10-11N・m以下、特に好ましくは2.5×10-11N・m以下)、変形しにくい特性を有する。
【0068】
本発明の高硬度ハードコート剤は、ラジカル重合性化合物としての上記式(1)で表される多官能(メタ)アクリレート化合物又は上記混合物と、ラジカル重合開始剤を少なくとも含有する。ラジカル重合開始剤の含有量はラジカル重合性化合物100重量部に対して、例えば0.1〜10重量部である。本発明の高硬度ハードコート剤は、上記成分以外にも本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含有していても良い。
【0069】
本発明の高硬度ハードコート剤は上記構成を有するため、耐熱性に優れ、高い硬度と弾性率を有し、且つ塑性変形仕事量が小さく、変形しにくい特性を有する硬化物を形成することができる。そのため、携帯通信機器又は携帯情報機器用高硬度ハードコートフィルムや、光学シート等に好適に使用することができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。尚、反応生成物の純度はガスクロマトグラフィーを使用して測定した。
【0071】
実施例1
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下ロート、空気(酸素8%含有)バブリング通気ラインを備えた300mL4口フラスコにハイドロキノン0.6588g(5.98mmol)、メタクリル酸48.84g(567mmol)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体2.36g(16.65mmol)を仕込んだ。
200mL滴下ロートにはジシクロペンタジエン50g(378.19mmol)とメタクリル酸48.84g(567.28mmol)を仕込み、混ぜて溶液にした。
窒素置換後、空気(酸素8%含有)を300mL/minで通気を開始し、70℃に加熱した。70℃で滴下ロート中の溶液を20分かけて滴下した。滴下開始時間を反応開始時間とし、反応開始1時間後、温水バスを冷却して反応液を室温まで冷却した。
反応液にノルマルヘプタンを68gと5%炭酸ナトリウム水溶液を134.78gを追加して分液ロートにて抽出操作を行った。下層(水層)抜取後、水134.78gとアセトニトリル33.69gを加えて抽出操作を行った。その後、再び下層を抜取した後、水134.78gを加えて抽出操作を行った。その後、更にまた下層を抜取した後、上層(有機層)を払い出し、有機層をエバポレーターにて70℃、20mmHg程度で粗濃縮を行い、有機層中のノルマルヘプタン、アセトニトリルを留去した。
更に粗濃縮液を単蒸留(バス温度:180℃)でゆっくり減圧して初留としてメタクリル酸を留去した。メタクリル酸の留出が止まると、さらに減圧(70〜100Pa)して留出ライン温度を100℃以上としたところ、ジシクロペンテニルモノメタクリレートの留出が始まった。留出が止まるまで待って、液体のジシクロペンテニルモノメタクリレート(=下記式(E1)で表される化合物における立体異性体と位置異性体の混合物)66gを得た。ジシクロペンテニルモノメタクリレートの純度は96%、収率は80%であった。
【0072】
【化30】
【0073】
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下ロート、窒素通気ラインを備えた500mL4口フラスコに、得られたジシクロペンテニルモノメタクリレート40g(183.23mmol)、酢酸エチル60gを仕込んだ。
別途、三角フラスコにメタクロロ過安息香酸(以後、「mCPBA」と称する場合がある)63.24g(256.53mmol)と酢酸エチル208.70gを入れ、撹拌して溶解し、mCPBA/酢酸エチル溶液を得た。
得られたmCPBA/酢酸エチル溶液を滴下ロートに仕込み、反応系内を窒素置換後、溶液温度を20℃になるように調整した。溶液温度20℃を維持した状態でmCPBA/酢酸エチル溶液の滴下を開始し、反応開始とした。mCPBA/酢酸エチル溶液は20分かけて滴下し、滴下開始後、7時間反応を行った。
反応終了後、反応液にノルマルヘプタンを186.97g、5%チオ硫酸ナトリウム水溶液240gを追加し、分液ロートにてクエンチ操作を行った。
下層(水層)抜取後、5%水酸化ナトリウム水溶液240gを加えて抽出するアルカリクエンチ操作を2回行った。
更に、下層抜取後、水185.97gを加えて水洗する操作を2回行った。
抽出上層液を払い出し、エバポレーターにて40℃以下で濃縮を行い、液体のエポキシ化ジシクロペンタニルモノメタクリレート(=下記式(E2)で表される化合物における立体異性体と位置異性体の混合物)76gを得た。エポキシ化ジシクロペンタニルモノメタクリレートの純度は94%、収率は86%であった。
エポキシ化ジシクロペンタニルモノメタクリレートの構造確認は1H−NMR分析及び質量分析(MS)により行った。
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ=6.06(d,1H), 5.54(d,1H), 4.68(m,1H), 3.47(d,1H), 3.28(d,1H), 1.34-2.37(m,13H)
Mass(EI,M+):234,148,69
【0074】
【化31】
【0075】
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下ロート、空気(酸素8%含有)バブリング通気ラインを備えた300mL4口フラスコにハイドロキノン1.8697g(16.98mmol)、メタクリル酸カリウム6.30g(50.76mmol)、メタクリル酸73.49g(853mmol)を仕込んだ。
滴下ロートにはエポキシ化ジシクロペンタニルモノメタクリレート40g(170.72mmol)とメタクリル酸73.49g(853.91mmol)を仕込んだ。
反応系内を窒素置換後、空気(酸素8%含有)300mLのバブリングを開始し、オイルバスにて120℃まで加熱した。120℃にて滴下を開始し、反応開始とした。10分間かけて滴下を行った。そのまま12時間反応を行って、ヒドロキシジシクロペンタニルジメタクリレート(=下記式(E3)で表される化合物における立体異性体と位置異性体の混合物)、及びジシクロペンタニルトリメタクリレート(=下記式(E4)で表される化合物における立体異性体と位置異性体の混合物)を含む反応液を得た。ガスクロマトグラフィーを使用した面積百分率法(GC面積%)による、ヒドロキシジシクロペンタニルジメタクリレートの収率は83.5%、ジシクロペンタニルトリメタクリレートの収率は1%、エポキシ化ジシクロペンタニルモノメタクリレートの転化率は93%であった。
ヒドロキシジシクロペンタニルジメタクリレートの構造確認は1H−NMR分析及び質量分析(MS)により行った。
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ=6.12(d,1H), 6.07(d,1H), 5.60(d,1H), 5.53(d,1H), 4.82-4.87(m,1H), 4.63-4.64(m,1H), 3.70-3.74(m,1H), 3.20(br,1H), 1.17-2.44(m,16H)
Mass(EI,M+):234,148,69
ジシクロペンタニルトリメタクリレートの構造確認は質量分析(MS)により行った。
Mass(EI,M+):389(M+1),303,217,69
【0076】
【化32】
【0077】
分液ロートに反応液190gと飽和食塩水190gを入れて50℃で15分抽出した。下層液を抜き取り、その後、水190gとノルマルヘプタン190gを追加して室温で抽出を行った。下層液を抜取後、水190gを入れて再度抽出を行い、下層液を抜き取った。上層液にハイドロキノン0.1914gをアセトン2.4gに溶かした溶液を添加し、エバポレーターにて100℃、フル減圧にて濃縮を行い、溶媒とメタクリル酸を留去して、茶色の、不揮発分(ヒドロキシジシクロペンタニルジメタクリレートとジシクロペンタニルトリメタクリレート)を71重量%含む濃縮液を61g得た。
以上の操作を4回繰り返して濃縮液を合成した。
【0078】
得られた濃縮液189.6gについて、シリカゲル、展開溶媒(酢酸エチル:ヘキサン=1:2)を使用してカラム精製を行った。その結果、液体成分40gと固体成分30gが得られた。
【0079】
カラム精製を経て得られた液体成分及び固体成分をそれぞれガスクロマトグラフィー[商品名「GC−2010」((株)島津製作所製)、カラム:DB−1]を使用して分析した。結果を下記表にまとめて示す。尚、表1中の数値はGC面積%である。
【表1】
※ ジ体:ヒドロキシジシクロペンタニルジメタクリレート
トリ体:ジシクロペンタニルトリメタクリレート
【0080】
実施例2
カラム精製を経て得られた、ヒドロキシジシクロペンタニルジメタクリレート(ジ体)86.55GC面積%と、ジシクロペンタニルトリメタクリレート(トリ体)4.69GC面積%を含む液体成分(ジ体とトリ体の含有量の比[前者:後者(重量%)]=94.8:5.2)を使用して、下記表2に記載の処方に従って硬化性組成物を得、バーコーター(♯8)を使用して前記硬化性組成物の塗膜(ウェット膜厚:40μm)を形成し、窒素雰囲気下で紫外線を照射[2kW×2.25m/分、1パス(450mW/cm2、1000mJ/cm2)]して硬化物を得た。尚、紫外線の照射にはUV装置(アイグラフィックス(株)製、商品番号「ECS−401GX」)を使用した。
【0081】
得られた硬化物について振り子型粘弾性測定装置(DDV)を使用してガラス転移温度(Tg:℃)を測定した。
【0082】
更に、得られた硬化物について微小硬度計を使用してマルテンス硬度(N/mm2)、押込み硬度(N/mm2)、弾性率(N/mm2)、及び塑性変形仕事(N・m)を測定した。
【0083】
比較例1、2
硬化性組成物を下記表2の処方に変更した以外は実施例2と同様に行った。
【0084】
【表2】
※トリプロピレングリコールジアクリレート:商品名「TPGDA」、ダイセル・オルネクス(株)製
トリシクロデカンジメタノールジアクリレート:商品名「IRR214−K」、ダイセル・オルネクス(株)製
5% Irg.184:ラジカル重合開始剤、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンの5%希釈液、商品名「IRGACURE 184」、BASFジャパン社製
【0085】
実施例3
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下ロート、空気(酸素6%含有)バブリング通気ラインを備えた2Lの4口フラスコにハイドロキノン3.18g(28.88mmol)、フェノチアジン0.1g(0.5mmol)、アクリル酸817.6g(11.3mol)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体40.26g(283.6mmol)を仕込んだ。
1L滴下ロートにはジシクロペンタジエン500g(3.78mol)とアクリル酸272.5g(3.78mol)を仕込み、混ぜて溶液にした。
窒素置換後、空気(酸素6%含有)を750mL/minで通気を開始し、70℃に加熱した。70℃で滴下ロート中の溶液を30分かけて滴下した。滴下開始時間を反応開始時間とし、滴下後、反応温度を100℃に昇温した。滴下開始後6時間反応を継続した後、冷却して反応液を室温まで冷却した。
反応液にノルマルヘプタンを408gと5%炭酸ナトリウム水溶液を1663gを追加して5Lセパラブルフラスコにて抽出操作を行った。下層(水層)抜取後、水1663gとを加えて抽出操作を行った。その後、再び下層を抜取した後、水1663gを加えて抽出操作を行った。抽出後の有機層をエバポレーター50℃にて溶媒のノルマルヘプタンを留去して、透明感のある茶色のジシクロペンタニルジアクリレート(以下、「DCPDA」と称する場合がある)33重量%、ジシクロペンテニルモノアクリレート(以下、「DCPA」と称する場合がある)43重量%、高沸点成分23重量%からなる混合物(1)700gを得た。
得られた混合物(1)150gをアセトニトリル抽出に付して濃縮液を得、得られた濃縮液をノルマルヘプタン300g、アセトニトリル23g、及び水3gと混合し、分液ロートで抽出を行った。下層液(アセトニトリル層)を抜取後、上層液に再度アセトニトリルを10g入れる抽出操作を2回実施した。合計3回アセトニトリル抽出を行い、抜き取った下層液にノルマルヘプタンを約100g入れて逆抽出(下層液からの回収)を行った。回収の上層液(ノルマルヘプタン層)と抽出上層液を合わせて、エバポレーターにて50℃フル減圧にて溶媒のノルマルヘプタンを留去して、DCPDA29.6重量%、DCPA49.8重量%、高沸点成分20.6重量%からなる混合物(2)116gを得た。
得られた混合物(2)10重量部に、Irg.184を0.5重量部を添加して硬化性組成物を得た。
【0086】
実施例4
撹拌装置、温度計、冷却管、滴下ロート、空気(酸素6%含有)バブリング通気ラインを備えた1Lの4口フラスコにハイドロキノン1.27g(11.55mmol)、フェノチアジン0.04g(0.2mmol)、アクリル酸327.0g(4.6mol)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体16.10g(113.6mmol)を仕込んだ。
500mL滴下ロートにはジシクロペンタジエン200g(1.51mol)とアクリル酸109.0g(1.51mol)を仕込み、混ぜて溶液にした。
窒素置換後、空気(酸素6%含有)を320mL/minで通気を開始し、70℃に加熱した。70℃で滴下ロート中の溶液を30分かけて滴下した。滴下開始時間を反応開始時間とし、滴下後、反応温度を100℃に昇温した。滴下開始後2時間反応を継続した後、冷却して反応液を室温まで冷却した。
反応液にノルマルヘプタンを490gと5%炭酸ナトリウム水溶液を654gを追加して3L分液ロートにて抽出操作を行った。下層(水層)抜取後、水654gとを加えて抽出操作を行った。その後、再び下層を抜取した後、水654gを加えて抽出操作を行った。抽出後の有機層をエバポレーター50℃にて溶媒のノルマルヘプタンを留去して、透明感のある茶色のDCPDA24重量%、DCPA66重量%、高沸点成分10重量%からなる混合物(3)291gを得た。
得られた混合物(3)130gに高沸点溶媒(商品名「GR−175」、松村石油(株)製)を26g、フェノチアジン0.065gを入れて均一にした。WFE蒸留装置(薄膜蒸発装置、旭製作所、神鋼パンテック製)を使用して、140℃、120Paで薄膜蒸留を行い、無色の混合物(4)92gを得た。GC分析(島津製作所製)から、混合物(4)はDCPDA21重量%、DCPA78重量%を含むことがわかった。
得られた混合物(4)10重量部に、Irg.184を0.5重量部を添加して硬化性組成物を得た。
【0087】
実施例5
実施例3で得られた混合物(1)200gに高沸点溶媒(商品名「GR−175」、松村石油(株)製)40g、フェノチアジン0.1gを添加、混合し、145℃、100Paにて薄膜蒸留を行い、無色の混合物(5)110gを得た。GC分析から、混合物(5)はDCPDA38重量%、DCPA62重量%を含むことがわかった。
得られた混合物(5)10重量部に、Irg.184を0.5重量部を添加して硬化性組成物を得た。
【0088】
実施例6
実施例4で得られた混合物(4)130gにノルマルヘプタン650を入れて溶液にした。そこに、粉末活性炭13gを入れて、室温で30分撹拌した。その後、加圧ろ過を行い、活性炭を除去した。同様の方法で、活性炭処理を合計3回実施した。溶媒のノルマルヘプタンを50℃エバポレーターにて留去して、微黄色の混合物(6)101gを得た。GC分析から、混合物(6)はDCPDA21重量%、DCPA75重量%を含むことがわかった。
得られた混合物(6)10重量部に、Irg.184を0.5重量部を添加して硬化性組成物を得た。
【0089】
実施例7
実施例3で得られた混合物(1)21gをシリカゲルカラム精製(シリカゲル1000g、展開溶媒;ノルマルヘプタン95%、酢酸エチル5%)に付した。DCPA、DCPDAの順に検出し、DCPDA含有フラクションを濃縮して微黄色の混合物(7)(DCPDA90重量%、DCPA10重量%)を得た。
得られた濃縮液(7)10重量部に、Irg.184を0.5重量部を添加して硬化性組成物を得た。
【0090】
実施例8
実施例7で得られた混合物(7)と実施例3で得られた混合物(1)を混合して混合物(8)(DCPDA51重量%、DCPA49重量%)を得た。
得られた混合物(8)10重量部に、Irg.184を0.5重量部を添加して硬化性組成物を得た。
【0091】
評価
実施例3〜8で得られた硬化性組成物、及び比較例3、4として下記表3に記載の硬化性組成物(単位:重量部)について、塗膜(ウェット膜厚:40μm)を形成し、窒素雰囲気下で紫外線を照射[2kW×2.25m/分、1パス(450mW/cm2、1000mJ/cm2)]して硬化物を得、得られた硬化物について実施例2と同様の方法で評価した。尚、比較例4ではジシクロペンテニルモノアクリレートとして、商品名「FS−511AS」(日立化成(株)製)を使用した。
【0092】
【表3】
※トリシクロデカンジメタノールジアクリレート:商品名「IRR214−K」、ダイセル・オルネクス(株)製
5% Irg.184:ラジカル重合開始剤、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンの5%希釈液、商品名「IRGACURE 184」、BASFジャパン社製
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の多官能(メタ)アクリレート化合物、及び混合物は硬化性(重合性)に優れ、高い硬度と弾性率を有し、強度に優れたポリマー若しくは硬化物を形成することができる。そのため、ガラス代替材料等として有用である。
また、本発明の多官能(メタ)アクリレート化合物のうち、ヒドロキシル基を有する化合物は、該ヒドロキシル基を特定の化学基に容易に変換することができ、それにより特定の優れた機能を有する樹脂(=機能性樹脂)の原料(=機能性モノマー)とすることもできる。そのため、本発明の多官能(メタ)アクリレート化合物は機能性モノマーの前駆体としても有用である。