特許第6343611号(P6343611)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JX日鉱日石エネルギー株式会社の特許一覧

特許6343611電気化学還元装置および、芳香族化合物の水素化体の製造方法
<>
  • 特許6343611-電気化学還元装置および、芳香族化合物の水素化体の製造方法 図000002
  • 特許6343611-電気化学還元装置および、芳香族化合物の水素化体の製造方法 図000003
  • 特許6343611-電気化学還元装置および、芳香族化合物の水素化体の製造方法 図000004
  • 特許6343611-電気化学還元装置および、芳香族化合物の水素化体の製造方法 図000005
  • 特許6343611-電気化学還元装置および、芳香族化合物の水素化体の製造方法 図000006
  • 特許6343611-電気化学還元装置および、芳香族化合物の水素化体の製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343611
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】電気化学還元装置および、芳香族化合物の水素化体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/00 20060101AFI20180604BHJP
   C25B 3/04 20060101ALI20180604BHJP
   C25B 15/02 20060101ALI20180604BHJP
   C25B 11/03 20060101ALN20180604BHJP
【FI】
   C25B9/00 G
   C25B3/04
   C25B15/02 302
   !C25B11/03
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-529377(P2015-529377)
(86)(22)【出願日】2014年7月23日
(86)【国際出願番号】JP2014003883
(87)【国際公開番号】WO2015015769
(87)【国際公開日】20150205
【審査請求日】2017年3月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-158129(P2013-158129)
(32)【優先日】2013年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 康司
(72)【発明者】
【氏名】三好 康太
(72)【発明者】
【氏名】中川 幸次郎
(72)【発明者】
【氏名】小堀 良浩
(72)【発明者】
【氏名】大島 伸司
【審査官】 関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/122155(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/015905(WO,A1)
【文献】 特開平08−246177(JP,A)
【文献】 特開平09−184086(JP,A)
【文献】 特開2011−174139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 9/00
C25B 3/04
C25B 15/02
C25B 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン伝導性を有する電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に設けられ、芳香族化合物を核水素化するための還元触媒を含む還元電極と、前記電解質膜の他方の側に設けられた酸素発生用電極と、を含んで構成される電極ユニットと、
前記還元電極と前記酸素発生用電極との間に電圧Vaを印加する電力制御部と、
前記還元電極に供給される芳香族化合物の濃度を取得する濃度取得部と、
前記還元電極と前記酸素発生用電極との間に流れる電流値Iを、前記濃度取得部によって得られる芳香族化合物濃度Cに応じて定められる最大電流値Imax(C)に対してI≦Imax(C)
なる関係を満たすように前記電力制御部を制御する制御部と、
を備え、
前記最大電流値Imax(C)は、ファラデー効率が所定の値以上になるように定められることを特徴とする電気化学還元装置。
【請求項2】
最大電流値Imax(C)は、前記芳香族化合物濃度Cが小さいほど低く設定される請求項1に記載の電気化学還元装置。
【請求項3】
前記所定の値が80%である請求項1または2に記載の電気化学還元装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気化学還元装置を用い、
前記電極ユニットの前記還元電極側に芳香族化合物を導入し、前記酸素発生用電極側に水または加湿したガスを流通させ、前記還元電極側に導入された芳香族化合物を核水素化することを特徴とする芳香族化合物の水素化体の製造方法。
【請求項5】
前記還元電極側へ導入する芳香族化合物を、反応温度において液体の状態で前記還元電極側へ導入する、請求項4に記載の芳香族化合物の水素化体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族化合物を電気化学的に水素化する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロヘキサンやデカリンといった環状有機化合物は、水素ガスを用いて対応する芳香族炭化水素化合物(ベンゼン、ナフタレン)を核水素化することで効率的に得られることが知られている。この反応には、高温かつ高圧の反応条件が必要なため、小〜中規模での環状有機化合物の製造には不向きである。これに対して、電解セルを用いる電気化学反応は、水を水素源として用いることができるためガス状の水素を扱う必要がない。また、反応条件も比較的温和(常温〜200℃程度、常圧)で進行することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−045449号公報
【特許文献2】特開2005−126288号公報
【特許文献3】特開2005−239479号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】市川勝,J.Jpn.Inst.Energy,85巻,517(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トルエン等の芳香族炭化水素化合物を電気化学的に核水素化する例として、ガス状に気化させたトルエンを還元電極側に送り込み、水電解に類似の構成で、水素ガスの状態を経由せずに核水素化体であるメチルシクロヘキサンを得る手法も報告されている(非特許文献1参照)。しかし、この手法では、電極面積あたり、あるいは時間あたりに転化できる物質量(電流密度)は大きくなく、工業的に芳香族炭化水素化合物を核水素化することが困難であった。
【0006】
本発明者らは、これに対する改善策として芳香族炭化水素化合物を電解セルの還元極側に直接液体で導入する手法を検討した。この場合、気化させた芳香族炭化水素化合物を導入する方法に比べて、高い電流密度で電解水素化反応を進行させることができる。しかし、この手法では、電流密度がある値を超えると、電解水素化反応と水素発生反応が競争となり、流れた電気量当たりの電解水素化体の収率であるファラデー効率が低下する問題があった。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、芳香族化合物を高効率で電気化学反応により高選択的に核水素化することができる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、電気化学還元装置である。当該電気化学還元装置は、イオン伝導性を有する電解質膜と、前記電解質膜の一方の側に設けられ、芳香族化合物を核水素化するための還元触媒を含む還元電極と、前記電解質膜の他方の側に設けられた酸素発生用電極と、を含んで構成される電極ユニットと、前記還元電極と前記酸素発生用電極との間に電圧Vaを印加する電力制御部と、前記還元電極に供給される芳香族化合物の濃度を取得する濃度取得部と、前記還元電極と前記酸素発生用電極との間に流れる電流値Iを、前記濃度取得部によって得られる芳香族化合物濃度Cに応じて定められる最大電流値Imax(C)に対してI≦Imax(C)なる関係を満たすように前記電力制御部を制御する制御部と、を備え、前記最大電流値Imax(C)は、ファラデー効率が所定の値以上になるように定められることを特徴とする。
【0009】
上記態様の電気化学還元装置において、最大電流値Imax(C)は、前記芳香族化合物濃度Cが小さいほど低く設定されてもよい。また、前記所定の値は80%でもよい。
【0010】
本発明の他の態様は、芳香族化合物の水素化体の製造方法である。当該芳香族化合物の水素化体の製造方法は、上述したいずれかの態様の電気化学還元装置を用い、前記電極ユニットの前記還元電極側に芳香族化合物を導入し、前記酸素発生用電極側に水または加湿したガスを流通させ、前記還元電極側に導入された芳香族化合物を核水素化することを特徴とする。
【0011】
上記態様の製造方法において、前記還元電極側へ導入する芳香族化合物を、反応温度において液体の状態で前記還元電極側へ導入してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、芳香族化合物を電気化学反応により高選択的に核水素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1に係る電気化学還元装置の概略構成を示す模式図である。
図2】実施の形態1に係る電気化学還元装置が有する電極ユニットの概略構成を示す図である。
図3】電流密度を一定とした条件下における、トルエン濃度とファラデー効率との関係を示すグラフである。
図4】ファラデー効率が80%、95%となるときの、トルエン濃度と電流密度との関係を示すグラフである。
図5】制御部による電流制御の一例を示すフローチャートである。
図6】実施の形態2に係る電気化学還元装置の概略構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0015】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態に係る電気化学還元装置10の概略構成を示す模式図である。図2は、実施の形態に係る電気化学還元装置10が有する電極ユニットの概略構成を示す図である。図1に示すように、電気化学還元装置10は、電極ユニット100、電力制御部20、有機物貯蔵槽30、濃度取得部34、水貯蔵槽40、気水分離部50および制御部60を備える。図2に示すように、電極ユニット100は、電解質膜110、還元電極120、酸素発生用電極130、液体拡散層140a、140b、およびセパレータ150a、150bを有する。以下、電解質膜110、還元電極120、酸素発生用電極130、液体拡散層140a,140b、およびセパレータ150a,150bを組み合わせたものを「セル」と称する。
【0016】
電力制御部20は、例えば、電力源の出力電圧を所定の電圧に変換するDC/DCコンバータである。電力制御部20の正極出力端子は、電極ユニット100の酸素発生用電極(正極)130に接続されている。電力制御部20の負極出力端子は、電極ユニット100の還元電極(負極)120に接続されている。これにより、電極ユニット100の酸素発生用電極130と還元電極120との間に所定の電圧が印加される。なお、電力制御部20には、正および負極の電位検知の目的で参照極を設けてもよい。この場合、参照極入力端子は、後述する電解質膜110に設けられた参照電極112と接続されている。電力制御部20の正極出力端子および負極出力端子の出力は、参照電極112の電位を基準としたときの酸素発生用電極130および還元電極120の電位が所望の電位になるように、制御部60によって制御される。なお、電力源としては、特に限定されないが、通常の系統電力を用いてもよく、太陽光や風力などの自然エネルギー由来の電力も好ましく用いることができる。制御部60による酸素発生用電極130および還元電極120間に流れる電流制御の態様については後述する。
【0017】
有機物貯蔵槽30には、芳香族化合物が貯蔵されている。本実施の形態で用いられる芳香族化合物は、少なくとも1つの芳香環を含む芳香族炭化水素化合物、または含窒素複素環式芳香族化合物である。例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ジフェニルエタン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、N−アルキルピロール、N−アルキルインドール、N−アルキルジベンゾピロールなどが挙げられる。また、上述の芳香族炭化水素および含窒素複素環式芳香族化合物の芳香環の1乃至4の水素原子がアルキル基で置換されていてもよい。ただし、上記芳香族化合物中の「アルキル」は、炭素数1〜6の直鎖アルキル基または分岐アルキル基である。例えばアルキルベンゼンとしては、トルエン、エチルベンゼンなど,ジアルキルベンゼンとしてキシレン,ジエチルベンゼンなど,トリアルキルベンゼンとしてメシチレンなどが挙げられる。アルキルナフタレンとしては、メチルナフタレンが挙げられる。また、上述の芳香族炭化水素および含窒素複素環式芳香族化合物の芳香環は1乃至3の置換基を有してもよい。なお、以下の説明で、本発明で用いられる芳香族炭化水素化合物および含窒素複素環式芳香族化合物を「芳香族化合物」と呼ぶ場合がある。芳香族化合物は、常温で液体であることが好ましい。また、上述の芳香族化合物のうち複数を混合したものを用いる場合は、混合物として液体であればよい。これによれば、加熱や加圧などの処理を行うことなく、液体の状態で芳香族化合物を電極ユニット100に供給することができるため、電気化学還元装置10の構成の簡便化を図ることができる。液体の状態の芳香族炭化物化合物の濃度は、0.1%以上、好ましくは0.3%以上、より好ましくは0.5%以上である。
【0018】
有機物貯蔵槽30に貯蔵された芳香族化合物は、第1液体供給装置32によって電極ユニット100の還元電極120に供給される。第1液体供給装置32は、例えば、ギアポンプあるいはシリンダーポンプ等の各種ポンプ、または自然流下式装置等を用いることができる。なお、芳香族化合物に代えて、上述した芳香族化合物のN−置換体を用いてもよい。有機物貯蔵槽30と電極ユニット100の還元電極120との間に循環経路が設けられている。そして、電極ユニット100によって核水素化された芳香族化合物および未反応の芳香族化合物は、循環経路を経て有機物貯蔵槽30に貯蔵される。電極ユニット100の還元電極120で進行する主反応ではガスは発生しないが、ガスが副生する場合には循環経路の途中に気液分離手段を設けてもよい。
【0019】
濃度取得部34は、電極ユニット100の還元電極120に供給される有機液体中の芳香族化合物の濃度を取得する。濃度取得部34で取得された芳香族化合物の濃度は制御部60に送信される。本実施の形態では、電極ユニット100の還元電極120の手前(本実施の形態では、第1液体供給装置32と有機物貯蔵槽30との間)に濃度取得部34が設けられているが、芳香族化合物用の循環経路内のどこに設けてもよい。電極ユニット100の還元電極120の手前に濃度取得部34を設けた場合には、これから電極ユニット100で処理する芳香族化合物の濃度が取得される。電極ユニット100の還元電極120の出口側に濃度取得部34を設けた場合には、電極ユニット100の還元電極120で流れた電気量分だけ芳香族化合物用が消費されているため、取得された濃度に消費分を加える補正をすることにより、電極ユニット100の還元電極120に供給される有機液体中の芳香族化合物の濃度を取得することができる。
【0020】
濃度取得部34としては、光学的検知手段、誘電率などの変化を検知する手段により芳香族化合物の濃度をインラインで取得する方法や、芳香族化合物の濃度をオフラインで取得する方法が挙げられる。
【0021】
光学的検知手段としては、原料である芳香族化合物と、生成物である水素付加体との光学的な性質の差を利用する手法が挙げられる。たとえば、一般に芳香族化合物はUV領域(254nm)に強い吸収域を持つ。そのため、UV領域付近の波長の光を照射し、透過する光の強度から吸光度を算出し、所定の検量線から芳香族化合物の濃度を算出することができる。この目的で、芳香族化合物を供給あるいは循環する配管の一部を当該光学検知に利用するために、測定波長において略透明にすることが好ましい。UV吸収以外にも、たとえば、配管を流通する有機液体の屈折率を測定し、得られた屈折率を芳香族化合物の濃度に換算する手法も用いることができる。
【0022】
オフラインに芳香族化合物の濃度を高精度で算出する手段として、ガスクロマトグラフ(GC)、液体クロマトグラフ(LC)、マススペクトル(MS)などの分析装置を用いることが挙げられる。芳香族化合物を還元電極120に供給するための配管内、あるいは有機物貯蔵槽30、から有機液体をサンプリングしてこれらの分析装置で測定することにより芳香族化合物の濃度を取得することができる。この場合に、一定周期で配管内あるいは有機物貯蔵槽30から有機液体をサンプリングするオートサンプラー等を用いてもよい。また、GCやLCはMSと組み合わせて用いてもよい。
【0023】
水貯蔵槽40には、イオン交換水、純水、あるいはこれらに硫酸等の酸を加えた水溶液等(以下、単に「水」という)が貯蔵されている。水貯蔵槽40に貯蔵された水は、第2液体供給装置42によって電極ユニット100の酸素発生用電極130に供給される。第2液体供給装置42は、第1液体供給装置32と同様に、例えば、ギアポンプあるいはシリンダーポンプ等の各種ポンプ、または自然流下式装置等を用いることができる。水貯蔵槽40と電極ユニット100の酸素発生用電極130との間に循環経路が設けられており、電極ユニット100において未反応の水は、循環経路を経て水貯蔵槽40に貯蔵される。なお、未反応の水を電極ユニット100から水貯蔵槽40へ送り返す経路の途中に気水分離部50が設けられている。気水分離部50によって、電極ユニット100における水の電気分解によって生じた酸素が水から分離されて系外に排出される。
【0024】
電極ユニット100を構成するセルは、単数または複数であってもよい。電極ユニット100が複数のセルによって構成される場合は、各セルに所望の電圧Vaが印加されるように電力制御部20の負極出力端子および正極出力端子の間に印加する電圧を決定すればよい。なお、図1では、電極ユニット100が簡略化されて図示されており、液体拡散層140a、140b、およびセパレータ150a、150bが省略されている。
【0025】
電解質膜110は、プロトン伝導性を有する材料(イオノマー)で形成されており、プロトンを選択的に伝導する一方で、還元電極120と酸素発生用電極130との間で物質が混合したり拡散することを抑制する。電解質膜110の厚さは、5〜300μmが好ましく、10〜150μmがより好ましく、20〜100μmが最も好ましい。電解質膜110の厚さが5μm未満であると、電解質膜110のバリア性が低下し、クロスリークが生じやすくなる。また、電解質膜110の厚さが300μmより厚くなると、イオン移動抵抗が過大になるため好ましくない。
【0026】
電解質膜110の面積抵抗、即ち幾何面積当たりのイオン移動抵抗は、2000mΩ・cm以下が好ましく、1000mΩ・cm以下がより好ましく、500mΩ・cm以下が最も好ましい。電解質膜110の面積抵抗が2000mΩ・cmより高いと、プロトン伝導性が不足する。プロトン伝導性を有する材料(カチオン交換型のイオノマー)としては、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸ポリマーが挙げられる。カチオン交換型のイオノマーのイオン交換容量(IEC)は、0.7〜2meq/gが好ましく、1〜1.2meq/gがより好ましい。カチオン交換型のイオノマーのイオン交換容量が0.7meq/g未満の場合には、イオン伝導性が不十分となる。一方、カチオン交換型のイオノマーのイオン交換容量が2meq/gより高い場合には、イオノマーの水への溶解度が増大するため、電解質膜110の強度が不十分になる。
【0027】
なお、電解質膜110には、還元電極120および酸素発生用電極130から離間した領域において、電解質膜110に接するように参照電極112を設けてもよい。すなわち、参照電極112は、還元電極120および酸素発生用電極130から電気的に隔離されている。参照電極112は、参照電極電位VRefに保持される。参照電極112としては、標準水素還元電極(参照電極電位VRef=0V)、Ag/AgCl電極(参照電極電位VRef=0.199V)が挙げられるが、参照電極112はこれらに限られない。なお、参照電極112を設置する場合、参照電極112は還元電極120側の電解質膜110の表面に設置されることが好ましい。
【0028】
還元電極120を流れる電流Iは、電流検出部113によって検出される。電流検出部113で検出された電流Iの値は制御部60に入力される。
【0029】
還元電極120は、電解質膜110の一方の側に設けられている。還元電極120は、芳香族化合物を核水素化するための還元触媒を含む還元極触媒層である。還元電極120に用いられる還元触媒は、特に限定されないが、例えば、Pt、Pdの少なくとも一方を含む。なお、還元触媒は、Pt、Pdの少なくとも一方からなる第1の触媒金属(貴金属)と、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Mo、Ru、Sn、W、Re、Pb、Biから選択される1種または2種以上の第2の触媒金属とを含む金属組成物で構成されてもよい。この場合、当該金属組成物の形態は、第1の触媒金属と第2の触媒金属との合金、あるいは、第1の触媒金属と第2の触媒金属からなる金属間化合物である。第1の触媒金属と第2の触媒金属の総質量に対する第1の触媒金属の割合は、10〜95wt%が好ましく、20〜90wt%がより好ましく、25〜80wt%が最も好ましい。第1の触媒金属の割合が10wt%より低いと、耐溶解性などの点から耐久性の低下を招くおそれがある。一方、第1の触媒金属の割合が95wt%より高いと、還元触媒の性質が貴金属単独の性質に近づくため、電極活性が不十分となる。以下の説明で、第1の触媒金属と第2の触媒金属とをまとめて「触媒金属」と呼ぶ場合がある。
【0030】
上述した触媒金属は導電性材料(担体)に担持されていてもよい。導電性材料の電気伝導度は、1.0×10−2S/cm以上が好ましく、3.0×10−2S/cm以上がより好ましく、1.0×10−1S/cm以上が最も好ましい。導電性材料の電気伝導度が1.0×10−2S/cm未満の場合には、十分な導電性を付与することができない。当該導電性材料として多孔性カーボン、多孔性金属、多孔性金属酸化物のいずれかを主成分として含有する導電性材料が挙げられる。多孔性カーボンとしては、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、バルカン(登録商標)などのカーボンブラックが挙げられる。窒素吸着法で測定した多孔性カーボンのBET比表面積は、100m/g以上が好ましく、150m/g以上がより好ましく、200m/g以上が最も好ましい。多孔性カーボンのBET比表面積が100m/gより小さいと、触媒金属を均一に担持させることが難しくなる。このため、触媒金属表面の利用率が低下し、触媒性能の低下を招く。多孔性金属としては、例えば、Ptブラック、Pdブラック、フラクタル状に析出させたPt金属などが挙げられる。多孔性金属酸化物としては、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wの酸化物が挙げられる。この他、触媒金属を担持するための多孔性の導電性材料として、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wなどの金属の窒化物、炭化物、酸窒化物、炭窒化物、部分酸化した炭窒化物(以下、これらをまとめて多孔性金属炭窒化物等と呼ぶ)が挙げられる。窒素吸着法で測定した多孔性金属、多孔性金属酸化物および多孔性金属炭窒化物等のBET比表面積は、1m/g以上が好ましく、3m/g以上がより好ましく、10m/g以上が最も好ましい。多孔性金属、多孔性金属酸化物および多孔性金属炭窒化物等のBET比表面積が1m/gより小さいと、触媒金属を均一に担持させることが難しくなる。このため、触媒金属表面の利用率が低下し、触媒性能の低下を招く。
【0031】
還元電極120には、前述の導電性酸化物やカーボンブラックなどの導電性を有する材料を、触媒金属を担持した導電性化合物とは別に添加してもよい。これによって、還元触媒粒子間の電子伝導経路を増やすことができ、還元触媒層の幾何面積当たりの抵抗を下げることができる場合もある。
【0032】
還元電極120は、添加剤としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂を含んでもよい。
【0033】
還元電極120は、プロトン伝導性を有するイオノマーを含んでもよい。還元電極120には、上述の電解質膜110と同一または類似の構造を有するイオン伝導性物質(イオノマー)を所定の質量比で含んでいることが好ましい。これによれば、還元電極120におけるイオン伝導性を向上させることができる。特に、触媒担体が多孔性の場合において還元電極120がプロトン伝導性を有するイオノマーを含有することにより、イオン伝導性の向上に大きく寄与する。プロトン伝導性を有するイオノマー(カチオン交換型のイオノマー)としては、ナフィオン(登録商標)、フレミオン(登録商標)などのパーフルオロスルホン酸ポリマーが挙げられる。カチオン交換型のイオノマーのイオン交換容量(IEC)は、0.7〜3meq/gが好ましく、1〜2.5meq/gがより好ましく、1.2〜2meq/gが最も好ましい。触媒金属が多孔性カーボン(カーボン担体)に担持されている場合には、カチオン交換型のイオノマー(I)/カーボン担体(C)の質量比I/Cは、0.1〜2が好ましく、0.2〜1.5がより好ましく、0.3〜1.1が最も好ましい。質量比I/Cが0.1より低いと、十分なイオン伝導性を得ることが困難になる。一方、質量比I/Cが2より大きいと、触媒金属に対するイオノマーの被覆厚みが増えることにより、反応物質である芳香族化合物が触媒活性点に接触することが阻害されたり、電子伝導性が低下することにより電極活性が低下する。
【0034】
また、還元電極120に含まれるイオノマーは、還元触媒を部分的に被覆していることが好ましい。これによれば、還元電極120における電気化学反応に必要な3要素(芳香族化合物、プロトン、電子)を効率的に反応場に供給することができる。
【0035】
液体拡散層140aは、電解質膜110と反対側の還元電極120の面に積層されている。液体拡散層140aは、後述するセパレータ150aから供給された液状の芳香族化合物を還元電極120に均一に拡散させる機能を担う。液体拡散層140aとして、例えば、カーボンペーパ、カーボンクロスが用いられる。
【0036】
セパレータ150aは、電解質膜110と反対側の液体拡散層140aの面に積層されている。セパレータ150aは、カーボン樹脂、Cr−Ni−Fe系、Cr−Ni−Mo−Fe系、Cr−Mo−Nb−Ni系、Cr−Mo−Fe−W−Ni系などの耐食性合金で形成される。セパレータ150aの液体拡散層140a側の面には、単数または複数の溝状の流路152aが併設されている。流路152aには、有機物貯蔵槽30から供給された液状の芳香族化合物が流通しており、液状の芳香族化合物は流路152aから液体拡散層140aに染み込む。流路152aの形態は、特に限定されないが、例えば、直線状流路、サーペンタイン流路を採用しうる。また、金属材料をセパレータ150aに用いる場合には、セパレータ150aは球状やペレット状の金属微粉末を焼結した構造体であってもよい。
【0037】
酸素発生用電極130は、電解質膜110の他方の側に設けられている。酸素発生用電極130は、RuO、IrOなどの貴金属酸化物系の触媒を含むものが好ましく用いられる。これらの触媒は、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Nb、Mo、Ta、Wなどの金属あるいはそれらを主成分とする合金などの金属ワイヤ、メッシュなどの金属基材に分散担持またはコーティングされていてもよい。特に、IrOは高価であるため、IrOを触媒として用いる場合には、金属基材に薄膜コーティングすることにより、製造コストを低減することができる。
【0038】
液体拡散層140bは、電解質膜110と反対側の酸素発生用電極130の面に積層されている。液体拡散層140bは、後述するセパレータ150bから供給された水を酸素発生用電極130に均一に拡散させる機能を担う。液体拡散層140bとして、例えば、カーボンペーパ、カーボンクロスが用いられる。
【0039】
セパレータ150bは、電解質膜110と反対側の液体拡散層140bの面に積層されている。セパレータ150bは、Cr/Ni/Fe系,Cr/Ni/Mo/Fe系、Cr/Mo/Nb/Ni系、Cr/Mo/Fe/W/Ni系などの耐食性合金、または、これらの金属表面が酸化物皮層で被覆された材料で形成される。セパレータ150bの液体拡散層140b側の面には、単数または複数の溝状の流路152bが併設されている。流路152bには、水貯蔵槽40から供給された水が流通しており、水は流路152bから液体拡散層140bに染み込む。流路152bの形態は、特に限定されないが、例えば、直線状流路、サーペンタイン流路を採用しうる。また、金属材料をセパレータ150bに用いる場合には、セパレータ150bは球状やペレット状の金属微粉末を焼結した構造体であってもよい。
【0040】
本実施の形態では、酸素発生用電極130に液体の水が供給されるが、液体の水に代えて、加湿されたガス(例えば、空気)を用いてもよい。この場合、加湿ガスの露点温度は、室温〜100℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
【0041】
芳香族化合物としてトルエンを用いた場合の電極ユニット100における反応は以下のとおりである。
<酸素発生用電極での電極反応>
3HO→1.5O+6H+6e:E=1.23V
<還元電極での電極反応>
トルエン+6H+6e→メチルシクロヘキサン:E=0.153V(vs RHE)
すなわち、酸素発生用電極130での電極反応と、還元電極120での電極反応とが並行して進行する。酸素発生用電極130での電極反応によって、水の電気分解により生じたプロトンが電解質膜110を介して還元電極120に供給され、還元電極120での電極反応において、芳香族化合物の核水素化に利用される。
【0042】
ここで、制御部60による制御の根底にある考え方について実験データを参照しながら説明する。
実験に用いた電極ユニットのセル構成は以下のとおりである。
還元電極:30重量%Pt−23.3重量%Ru/カーボンブラック電極、0.5mg−Pt/cm、イオノマー(Nafion2020CS)/カーボン比0.8
電解質膜:Nafion NR212CS(厚さ50μm)
酸素発生用電極:IrO表面形成TiO繊維電極(厚さ約300μm)
【0043】
電流密度を一定とした条件下で、還元電極120に供給されるトルエンの濃度を検出した。また、ガスクロマトグラフィーによるトルエン濃度変化から転換物質量を、電気化学測定装置による電流値時間推移の時間積分から電気量をそれぞれ求め、転換物質量を電気量で割ることにより、各時点でのファラデー効率を求めた。具体的には、電流密度の中心制御値を50mA/cm、100mA/cm、200mA/cm、300mA/cm、400mA/cmの5条件で一定として測定を行った。
【0044】
図3は、電流密度を上記値で一定とした条件下における、トルエン濃度とファラデー効率との関係を示すグラフである。図3に示したグラフから、上記各値での電流密度一定条件下において、ファラデー効率が80%、95%となるトルエン濃度を求めた。図4は、ファラデー効率が80%、95%となるときの、トルエン濃度と電流密度との関係を示すグラフである。たとえば、あるトルエン濃度のとき、ファラデー効率が80%となるときの電流密度以下に電流密度を保てば、ファラデー効率を80%以上に維持することが可能となる。言い換えると、トルエン濃度Cが小さくなるにつれて電流密度を下げることにより、ファラデー効率を80%に維持することが可能となる。
【0045】
以上のような知見に基づいて、制御部60は、還元電極120と酸素発生用電極130との間に流れる電流値Iが下記式を満たすように電力制御部20を制御する。
I≦Imax(C)
上記式中、最大電流値Imax(C)は、ファラデー効率が少なくとも80%以上になるように、濃度取得部34で得られた芳香族化合物濃度Cに応じて定められる。たとえば、図4を参照すると、ファラデー効率が80%となるときの線で表される関係がファラデー効率が80%以上に維持するための最大電流値Imax(C)の関数そのものであり、最大電流値Imax(C)はトルエン濃度Cが小さくなるにつれて低くなる。目標とするファラデー効率が80%よりも高い場合、例えば95%であれば,ファラデー効率が95%となるImax(C)が別途定義され、これに対してI≦Imax(C)の制御を行えば、ファラデー効率を95%以上に維持することが出来る。
【0046】
この他、電気化学還元装置10を用いて芳香族化合物を核水素化する場合の反応条件として、以下が挙げられる。電極ユニット100の温度は、室温〜100℃が好ましく、40〜80℃がより好ましい。電極ユニット100の温度が室温より低いと、電解反応の進行が遅くなる虞れ、あるいは、電極ユニット100の温度を室温より低く維持するために本反応の進行に伴い発生する熱の除去に多大なエネルギーを要するため好ましくない。一方、電極ユニット100の温度が100℃より高いと、酸素発生用電極130においては水の沸騰が生じ、還元電極120においては有機物の蒸気圧が高くなるため、両極とも液相で反応を行う電気化学還元装置10としては好ましくない。
【0047】
図5は、制御部60による電流制御の一例を示すフローチャートである。
【0048】
まず、制御部60は、電力制御部20に還元電極120と酸素発生用電極130との間にVaを印加する(S10)。このときの印加電圧は、電流値を制御するために変化させるべきものであり、特に制限されないが、1.4V〜2.2Vとすることが好ましい。
【0049】
次に、濃度取得部34によって還元電極120に供給される有機液体中の芳香族化合物の濃度Cが取得される(S20)。
【0050】
続いて、濃度取得部34によって取得された芳香族化合物の濃度Cに基づいて、最大電流値Imax(C)を設定する(S30)。最大電流値Imax(C)は、たとえば、ROMなどのメモリに予め格納された芳香族化合物の濃度Cと最大電流値Imax(C)との対応関係を参照することにより、芳香族化合物の濃度Cに応じて最大電流値Imax(C)を適宜定められる。なお、芳香族化合物の濃度Cと最大電流値Imax(C)との対応関係は、ファラデー効率が80%以上の異なる条件(80%、85%、90%、95%など)について用意され、ユーザが維持したいファラデー効率の条件を適宜設定できるようにしてもよい。なお、電流Iは、Imax以下、かつ、可能な範囲で大きな値とすることが好ましい。これにより、ファラデー効率を高く維持しつつ、電解所要時間の過度な長期化を抑制することができる。
【0051】
次に、電流検出部113によって、還元電極120を流れる電流Iが検出される(S40)。
【0052】
次に、検出された電流IがI≦Imax(C)という関係を満たすかどうかが判定される(S50)。I≦Imax(C)という関係が満たされている場合には、S50のyesに進み、タイマーにより所定時間(たとえば、60秒)が経過したことをカウント(S60)した後、S20以下の処理に戻る。一方、I≦Imax(C)という関係が満たされていない場合には、電圧Vaを調節する(S70)。ここでは、電圧Vaを一定量下げることで電流Iの減少が図られる。電圧Vaの下げ幅は、特に限定されないが、たとえば、10mVである。電圧Vaを低下させた後、S40以下の処理に戻り、電流Iが再検出される。
【0053】
以上説明した電気化学還元装置10によれば、芳香族化合物の濃度Cに応じて、還元電極120に流れる電流Iをファラデー効率が80%以上得られるような最大電流値Imax(C)以下に適宜保つことにより、ファラデー効率を80%以上で高く維持しながら芳香族化合物の核水素化反応が優位となる範囲で電極反応を進行させることができる。特に、芳香族化合物濃度Cが徐々に低くなる状況下において、刻々と変化する芳香族化合物濃度Cに応じて上述したように電流Iを制御することにより、ファラデー効率が所望の値より低くなることを抑制しながら電極反応を進行させることができる。
【0054】
(実施の形態2)
図6は、実施の形態2に係る電気化学還元装置の概略構成を示す模式図である。図6に示すように、電気化学還元装置10は、それぞれ独立した電極ユニット100A、100B、および100Cを有する。本実施の形態では、電極ユニット100の数Nは3であるがNは2以上であればよい。なお、個々の電極ユニット100の構成は実施の形態1と同様であり、適宜説明を省略する。図6では、電極ユニット100が簡略化されて図示されており、図2に示された液体拡散層140a、140b、およびセパレータ150a、150bが省略されている。
【0055】
本実施の形態では、電力制御部20は、各電極ユニット100の酸素発生用電極130と還元電極120との間にそれぞれ独立に電圧Va(A)、電圧Va(B)、電圧Va(C)を印加する。また、制御部60は、電極ユニット100毎に、それぞれ独立に最大電流値Imaxを設定する。なお、各電極ユニット100毎に設けられた電力制御部20の参照極入力端子は、各電極ユニット100の電解質膜110にそれぞれ設けられた参照電極112A、参照電極112B、参照電極112Cと接続されている。電力制御部20の参照電極入力端子は、各参照電極112の電位を基準としたときの酸素発生用電極130および還元電極120の電位が所望の電位になるように、制御部60によって制御される。
【0056】
電極ユニット100毎に、電極ユニット100の還元電極と有機物貯蔵槽とを経由する循環経路300A、300B、300Cが設けられている。循環経路300B、300Cは、循環経路300Aと同様であるため、以下では循環経路300Aを例にとって説明し、循環経路300B、300Cの説明を適宜省略する。循環経路300Aは、電極ユニット100Aの還元電極120と有機物貯蔵槽30Aとの間で芳香族化合物を循環させるための配管である。有機物貯蔵槽30Aの下流側に順に濃度取得部34A、第1液体供給装置32A、三方弁310Aが設けられている。
【0057】
三方弁310Aは、第1液体供給装置32Aから電極ユニット100Aの還元電極への経路と、第1液体供給装置32Aから有機物貯蔵槽30Bへの経路とを切り替え可能である。循環経路300Bに設けられた三方弁310Bは、第1液体供給装置32Bから電極ユニット100Bの還元電極120への経路と、第1液体供給装置32Bから有機物貯蔵槽30Cへの経路とを切り替え可能である。また、循環経路300Cに設けられた三方弁310Cは、第1液体供給装置32Cから電極ユニット100Cの還元電極への経路と、第1液体供給装置32Cから有機物貯蔵槽30Dへの経路とを切り替え可能である。有機物貯蔵槽30Dは、電極ユニット集合体200によって処理された最終生成物を格納する。本実施の形態では、三方弁310A〜Cは制御部60によって制御される電磁弁である。
【0058】
水貯蔵槽40と各電極ユニット100の酸素発生用電極130との間に水用の循環経路が設けられている。水貯蔵槽40に貯蔵された水は、第2液体供給装置42によって各電極ユニット100の酸素発生用電極130に供給される。具体的には、第2液体供給装置42の下流側において水用の循環経路を構成する配管が分岐しており、各電極ユニット100の酸素発生用電極130に水が分配供給される。各電極ユニット100において未反応の水は、水貯蔵槽40に連通する配管に合流した後、当該配管を経て水貯蔵槽40に貯蔵される。
【0059】
各電極ユニット100の電解質膜110に、実施の形態1と同様に、還元電極120および酸素発生用電極130から離間した領域において、電解質膜110に接するように参照電極112A、112B、112Cがそれぞれ設けられている。
【0060】
電極ユニット100Aの還元電極120に流れる電流が電流検出部113Aにより計測され、得られた電流に関する信号が制御部60に送信される。同様に、電極ユニット100B、100Cの還元電極120に流れる電流が電流検出部113B、113Cによりそれぞれ計測され、得られた電流に関する信号が制御部60に送信される。
【0061】
有機物貯蔵槽30Aに供給された芳香族化合物は、第1液体供給装置32Aにより循環経路300Aを循環する間に電極ユニット100Aの還元電極において核水素化されることで徐々に核水素化物となり、芳香族化合物およびその核水素化物を含む有機液体における芳香族化合物の濃度が低下する。制御部60は、濃度取得部34Aで取得された芳香族化合物の濃度が所定の濃度下限値になるまで有機液体が循環経路300Aを流通するように三方弁310Aを制御する。たとえば、原料として濃度100%の芳香族化合物が第1液体供給装置32Aに供給される場合には、濃度が50%になるまで循環経路300Aが形成される。このとき、制御部60は、濃度取得部34Aで取得された芳香族化合物濃度Cに応じてI≦Imax(C)となるように電力制御部20を制御する。制御部60による電流Iの制御の態様は実施の形態1と同様である。
【0062】
次に、濃度取得部34Aで取得された芳香族化合物の濃度が所定の濃度下限値に達した場合には、制御部60は、三方弁310Aを制御して、第1液体供給装置32Aから有機物貯蔵槽30Bへの経路を開く。これにより、循環経路300A内の有機液体が有機物貯蔵槽30Bに貯蔵される。
【0063】
有機物貯蔵槽30Bに供給された有機液体に含まれる芳香族化合物が第1液体供給装置32Bにより循環経路300Bを循環する間に電極ユニット100Bの還元電極において核水素化されることで徐々に有機液体中の芳香族化合物の濃度が低下する。制御部60は、濃度取得部34Bで取得された芳香族化合物の濃度が所定の濃度下限値になるまで有機液体が循環経路300Bを流通するように三方弁310Bを制御する。たとえば、濃度50%の芳香族化合物が第1液体供給装置32Bに供給される場合には、濃度が20%になるまで循環経路300Bが形成される。このとき、制御部60は、濃度取得部34Bで取得された芳香族化合物濃度Cに応じてI≦Imax(C)となるように電力制御部20を制御する。制御部60による電流Iの制御の態様は実施の形態1と同様である。
【0064】
次に、濃度取得部34Bで取得された芳香族化合物の濃度が所定の濃度下限値に達した場合には、制御部60は、三方弁310Bを制御して、第1液体供給装置32Bから有機物貯蔵槽30Cへの経路を開く。これにより、循環経路300B内の有機液体が有機物貯蔵槽30Cに貯蔵される。
【0065】
有機物貯蔵槽30Cに供給された有機液体に含まれる芳香族化合物が第1液体供給装置32Cにより循環経路300Cを循環する間に電極ユニット100Cの還元電極において核水素化されることで徐々に有機液体中の芳香族化合物の濃度が低下する。制御部60は、濃度取得部34Cで取得された芳香族化合物の濃度が所定の濃度下限値になるまで有機液体が循環経路300Cを流通するように三方弁310Cを制御する。たとえば、濃度20%の芳香族化合物が第1液体供給装置32Cに供給される場合には、濃度が5%になるまで循環経路300Cが形成される。このとき、制御部60は、濃度取得部34Cで取得された芳香族化合物濃度Cに応じてI≦Imax(C)となるように電力制御部20を制御する。制御部60による電流Iの制御の態様は実施の形態1と同様である。
【0066】
次に、濃度取得部34Cで取得された芳香族化合物の濃度が所定の濃度下限値に達した場合には、制御部60は、三方弁310Cを制御して、第1液体供給装置32Cから有機物貯蔵槽30Dへの経路を開く。これにより、循環経路300C内の有機液体が有機物貯蔵槽30Dに貯蔵される。このように、原料として供給される芳香族化合物は、電極ユニット100Aの還元電極、電極ユニット100Bの還元電極、電極ユニット100Cの還元電極を順番に通過して核水素化された後、有機物貯蔵槽30Dに貯蔵される。
【0067】
以上説明した電気化学還元装置10によれば、各電極ユニットにおいてファラデー効率が80%以上になるように保証しつつ、濃度が異なる芳香族化合物の核水素化反応を、電極ユニット100A、電極ユニット100B、電極ユニット100Cで並行して行うことができる。このため、単一の電極ユニットを用いて芳香族化合物の核水素化を行う場合に比べて、単位時間当たりに処理できる芳香族化合物の量を大幅に増やすことができる。
【0068】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0069】
上述した各実施の形態では、還元電極120は、プロトン伝導性を有するイオノマーを含んでいるが、還元電極120は、ヒドロキシイオン伝導性を有するイオノマーを含んでもよい。
【0070】
また、上述した実施の形態2では、三方弁310A〜Cによって、電極ユニット100A〜Cに対応する循環経路と、下流側の電極ユニット100への供給路とが切り替えられているが、各濃度取得部34で取得された芳香族化合物の濃度が各電極ユニット100に設定された濃度下限値に近づくにつれて、下流側の電極ユニット100への供給路との配分が循環経路への配分に比べて大きくなるように、各三方弁310の開度を調節してもよい。
【0071】
また、上述した実施の形態2で説明した水の循環経路では、水貯蔵槽40から各電極ユニット100に分配される並列型の経路が形成されているが、水貯蔵槽40から供給された水が、電極ユニット100A〜Cの酸素発生用電極130に順番に通過する直列型の経路が形成されてもよい。
【符号の説明】
【0072】
10 電気化学還元装置、20 電力制御部、30 有機物貯蔵槽、34 濃度取得部、40 水貯蔵槽、50 気水分離部、60 制御部、100 電極ユニット、112、参照電極、113 電流検出部、110 電解質膜、120 還元電極、130 酸素発生用電極、140a,140b 液体拡散層、150a,150b セパレータ
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明は、芳香族化合物を電気化学的に水素化する技術に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6