特許第6343631号(P6343631)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6343631-電子写真機器用導電性ロール 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343631
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】電子写真機器用導電性ロール
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/00 20060101AFI20180604BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20180604BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20180604BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20180604BHJP
   C08K 5/10 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   G03G15/00 551
   C08L27/12
   C08K3/04
   C08K5/42
   C08K5/10
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-107138(P2016-107138)
(22)【出願日】2016年5月30日
(65)【公開番号】特開2017-215358(P2017-215358A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2018年4月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正則
(72)【発明者】
【氏名】伊東 邦夫
【審査官】 松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−102222(JP,A)
【文献】 特開2011−184664(JP,A)
【文献】 特開2014−142529(JP,A)
【文献】 特開2007−72200(JP,A)
【文献】 特開2011−232380(JP,A)
【文献】 特開2012−242433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/00
C08K 3/04
C08K 5/10
C08K 5/42
C08L 27/12
G03G 15/02
G03G 15/08
G03G 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、前記軸体の外周に形成された弾性体層と、前記弾性体層の外周に形成された表層と、を備え、
前記表層が、下記の(A)〜(D)を含有することを特徴とする電子写真機器用導電性ロール。
(A)フッ素樹脂およびフッ素変性アクリル樹脂から選択される1種以上の樹脂
(B)カーボンブラック
(C)エステル系高分子分散剤
(D)スルホン酸系分散剤
【請求項2】
前記(D)が、スルホン酸基を有するフタロシアニン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項3】
前記(C)が、カルボン酸基またはアミド基を有することを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項4】
前記表層のバインダー樹脂全体に対し、前記(A)が50質量%以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項5】
前記(B)の粒子径が0.01〜5μmの範囲内であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項6】
前記表層が、前記(A)に加えて、さらにアクリル樹脂を含有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項7】
前記(C)と前記(D)の質量割合が、(C):(D)=1:1〜4:1の範囲内であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項8】
前記(A)が、溶媒に可溶性を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器において好適に用いられる電子写真機器用導電性ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器では、帯電ロール、現像ロール、転写ロール、トナー供給ロールなどの導電性ロールが用いられている。
【0003】
従来、導電性ロールにおいて、環境による抵抗値の変動を小さくするとともにトナーの付着を防止するために、導電性ロールの最外層にフッ素樹脂を用いることが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、帯電ロールにおいて、カーボンブラック等の導電性粒子の分散を制御して均一抵抗性を満足するために、被覆層のバインダーとしてポリウレタン樹脂を用いるとともに導電性微粒子に対してフタロシアニン化合物およびアクリル系高分子分散剤を用いることが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−268613号公報
【特許文献2】特開2011−232380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
帯電ロールや現像ロールなどの導電性ロールの最外層となる表層には、離型性、抵抗均一性、表面均一性などが求められる。このため、表層の材料としては、ウレタン樹脂やアクリル樹脂のような樹脂にカーボンブラックのような導電剤をビーズミル等で高分散させた塗料をコーティングして用いることが多い。しかし、表層のバインダー樹脂がウレタン樹脂やアクリル樹脂であると、例えばカートリッジに組み付けられた状態で導電性ロールが長期間放置されたときに、表層下の基層成分が表層の表面までブリードし、導電性ロールに接する感光体等を汚染することがある。また、表層のバインダー樹脂としてフッ素樹脂を用いると、カーボンブラックのような導電剤との相性が悪く、分散性が悪化し、均一な抵抗が得られにくい。特許文献2に記載の技術は、ポリウレタン樹脂を表層のバインダー樹脂としたものであり、ポリウレタン樹脂との関係においてカーボンブラック等の導電性粒子の分散を制御する技術である。フッ素樹脂を表層のバインダー樹脂としたときには、フタロシアニン化合物およびアクリル系高分子分散剤を用いても、カーボンブラック等の導電性粒子の分散性は不十分であり、均一な抵抗が得られにくい。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、基層成分のブリードを抑えるとともに導電剤の分散性を向上させて均一な抵抗が得られる表層を備えた電子写真機器用導電性ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る電子写真機器用導電性ロールは、軸体と、前記軸体の外周に形成された弾性体層と、前記弾性体層の外周に形成された表層と、を備え、前記表層が、下記の(A)〜(D)を含有することを要旨とするものである。
(A)フッ素樹脂およびフッ素変性アクリル樹脂から選択される1種以上の樹脂
(B)カーボンブラック
(C)エステル系高分子分散剤
(D)スルホン酸系分散剤
【0009】
前記(D)は、スルホン酸基を有するフタロシアニン化合物であることが好ましい。前記(C)は、カルボン酸基またはアミド基を有することが好ましい。前記表層のバインダー樹脂全体に対し、前記(A)が50質量%以上であることが好ましい。前記(B)の粒子径は0.01〜5μmの範囲内であることが好ましい。前記表層は、前記(A)に加えて、さらにアクリル樹脂を含有してもよい。前記(C)と前記(D)の質量割合は、(C):(D)=1:1〜4:1の範囲内であることが好ましい。前記(A)は、溶媒に可溶性を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る電子写真機器用導電性ロールによれば、表層のバインダー樹脂としてフッ素樹脂およびフッ素変性アクリル樹脂から選択される1種以上の樹脂を用いたことから、バリア性が高く、基層成分のブリードを抑えることができる。そして、カーボンブラックに対し高分子分散剤を用いているので、その立体障害によりカーボンブラックの凝集を抑えることができる。さらに、マイナス電位になりやすいフッ素樹脂やフッ素変性アクリル樹脂と同電位となるスルホン酸系分散剤を用いるとともに上記高分子分散剤としてエステル系高分子分散剤を用いたことで、エステル系高分子分散剤とフッ素樹脂、フッ素変性アクリル樹脂とが相溶化することができ、その結果、フッ素樹脂やフッ素変性アクリル樹脂中にカーボンブラックを高分散させることができる。これにより、均一な抵抗が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第一実施形態に係る電子写真機器用導電性ロールの外観模式図(a)と、そのA−A線断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る電子写真機器用導電性ロール(以下、単に導電性ロールということがある。)について詳細に説明する。図1は、本発明の第一実施形態に係る電子写真機器用導電性ロールの外観模式図(a)と、そのA−A線断面図(b)である。
【0013】
導電性ロール10は、軸体12と、軸体12の外周に形成された弾性体層14と、弾性体層14の外周に形成された表層16と、を備える。弾性体層14は、導電性ロール10のベースとなる層(基層)である。表層16は、導電性ロール10の表面に現れる層(最外層)となっている。
【0014】
表層16は、下記の(A)〜(D)を含有する。
(A)フッ素樹脂およびフッ素変性アクリル樹脂から選択される1種以上の樹脂
(B)カーボンブラック
(C)エステル系高分子分散剤
(D)スルホン酸系分散剤
【0015】
上記(A)は、表層16におけるバインダー樹脂である。フッ素樹脂およびフッ素変性アクリル樹脂は、フッ素基を含む樹脂である。これらは、バリア性が高く、基層成分のブリードを抑えることができる。また、防汚性に優れ、表層16に対し、トナーやトナー外添剤などの付着を抑えることができる。
【0016】
フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体(THV)、テトラフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体などが挙げられる。
【0017】
フッ素変性アクリル樹脂は、アクリレート樹脂のポリマー側鎖にフッ素化有機基を有する樹脂である。フッ素化有機基としては、パーフルオロアルキル基、部分フッ素化アルキル基などが挙げられる。フッ素化有機基の炭素数は特に限定されるものではないが、1〜20の炭素数のものが好適である。フッ素変性アクリル樹脂は、例えば、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート、部分フッ素化アルキル(メタ)アクリレートなどのアクリルエステルからなるフッ素化(メタ)アクリレートの1種または2種以上の重合体、またはフッ素化(メタ)アクリレートの1種または2種以上とフッ素変性されていない(メタ)アクリレートの1種または2種以上との重合体が挙げられる。フッ素変性されていない(メタ)アクリレートには、必要に応じて、ポリシロキサン基含有(メタ)アクリレートが含まれていてもよい。ポリシロキサン基含有(メタ)アクリレートの共重合によって、フッ素変性アクリル樹脂の防汚性をさらに高めることができる。なお、フッ素変性アクリル樹脂は、特開平7−228820号公報に示されている。
【0018】
上記(A)は、表層16を塗工により均一な層として形成することができるなどの観点から、溶媒に可溶性を有することが好ましい。溶媒としては、水、有機溶媒のいずれでもよい。有機溶媒としては、MEK、MIBK、ヘキサン、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、THF、DMF、NMPなどが挙げられる。塗料の固形分濃度は、例えば3〜50質量%の範囲に調整すればよい。溶媒に可溶性を有する観点から、上記(A)の樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン・四フッ化エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン・六フッ化プロピレン、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン共重合体(THV)などのフッ素樹脂や、フッ素変性アクリル樹脂が好ましい。
【0019】
上記(B)は、導電剤(電子導電剤)として配合されるものである。表層16の体積抵抗率を所望の範囲とするべく配合される。表層16の体積抵抗率は、用途などに応じて10〜1011Ω・cm、10〜1010Ω・cmの範囲などに適宜設定すればよい。表層16の体積抵抗率を好適範囲に設定するなどの観点から、上記(B)の配合量は、バインダー樹脂100質量部に対し、3.0〜80質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは7〜70質量部の範囲内である。
【0020】
上記(B)は、分散性の向上の観点から、その粒子径(分散径)が0.01〜5.0μmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.1〜1μmの範囲内である。上記(C)を用いることで、上記(B)の粒子径を上記範囲内にすることができる。上記(B)の粒子径は、マイクロトラック社製 UPAにより測定することができる。分散径は、溶媒を含む調製液中の上記(B)の粒子径や、表層中の上記(B)の粒子径である。分散剤で覆われている状態にあり、調製液中の分散径と表層中の分散径に変化はない。使用するカーボンブラックの1次粒子径は、5〜100nmの範囲であることが好ましい。より好ましくは10〜50nmの範囲内である。
【0021】
上記(C)エステル系高分子分散剤は、高級脂肪酸エステルからなる分散剤やポリエステルからなる分散剤などが挙げられる。上記(B)カーボンブラックの表面に付着して物理的な立体障害によって上記(B)カーボンブラックの凝集を抑えやすいなどの観点から、高級脂肪酸エステルの分子量は、1000〜15万が好ましい。より好ましくは5000〜10万である。ポリエステルの分子量(重量平均分子量)は、特に限定されるものではないが、上記(B)カーボンブラックの表面に付着して物理的な立体障害によって上記(B)カーボンブラックの凝集を抑えやすいなどの観点から1000〜15万が好ましい。より好ましくは5000〜10万である。上記(C)エステル系高分子分散剤は、カルボン酸基またはアミド基を有するものであってもよい。これにより、上記(D)スルホン酸系分散剤との相溶性がより向上するという利点がある。
【0022】
上記(C)エステル系高分子分散剤としては、具体的には、例えばビックケミー社の「DISPERBYK−130」、「DISPERBYK−161」、「DISPERBYK−162」、「DISPERBYK−163」、「DISPERBYK−170」、「DISPERBYK−171」、「DISPERBYK−174」、「DISPERBYK−180」、「DISPERBYK−182」、「DISPERBYK−183」、「DISPERBYK−184」、「DISPERBYK−185」、「DISPERBYK−2000」、「DISPERBYK−2001」、「DISPERBYK−2020」、「DISPERBYK−2050」、「DISPERBYK−2070」、「DISPERBYK−2096」、「DISPERBYK−2150」、チバスペシャルティーケミカルズ社の「EFKA1503」、「EFKA4010」、「EFKA4020」、「EFKA4300」、「EFKA4330」、「EFKA4340」、「EFKA4520」、「EFKA4530」、「EFKA5054」、「EFKA7411」、「EFKA7422」、「EFKA7431」、「EFKA7441」、「EFKA7461」、「EFKA7496」、「EFKA7497」、ルーブリゾール社の「ソルスパース3000」、「ソルスパース9000」、「ソルスパース13240」、「ソルスパース13650」、「ソルスパース13940」、「ソルスパース17000」、「ソルスパース18000」、「ソルスパース20000」、「ソルスパース21000」、「ソルスパース20000」、「ソルスパース24000」、「ソルスパース26000」、「ソルスパース27000」、「ソルスパース28000」、「ソルスパース32000」、「ソルスパース36000」、「ソルスパース37000」、「ソルスパース38000」、「ソルスパース41000」、「ソルスパース42000」、「ソルスパース43000」、「ソルスパース46000」、「ソルスパース54000」、「ソルスパース71000」、味の素ファインテクノ社のアジスパー「PB−711」、「アジスパーPB−821」、「アジスパーPB−822」、「アジスパーPB−814」、「アジスパーPB−824」などを用いることが可能である。
【0023】
上記(C)エステル系高分子分散剤の配合量は、特に限定されるものではないが、上記(B)カーボンブラックの凝集を抑える効果に優れるなどの観点から、上記(B)カーボンブラック100質量部に対し、1〜100質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは5〜40質量部の範囲内である。
【0024】
上記(D)スルホン酸系分散剤は、スルホン酸基を有する分散剤である。スルホン酸基は、スルホン酸(−SOH)およびスルホン酸塩(−SOM)の両方を含む。Mは、1価以上の金属もしくはアミンを表す。上記(D)スルホン酸系分散剤は、スルホン酸基を有することで、マイナス電位になりやすいフッ素樹脂やフッ素変性アクリル樹脂と同電位となるため、上記(A)のフッ素樹脂、フッ素変性アクリル樹脂と上記(C)のエステル系高分子分散剤とを相溶化させる効果があり、その結果、フッ素樹脂やフッ素変性アクリル樹脂中にカーボンブラックを高分散させることができる。これにより、均一な抵抗が得られる。
【0025】
上記(D)スルホン酸系分散剤としては、CBと高分子分散剤、フッ素との相溶性の観点から、スルホン酸基を有するフタロシアニン化合物が好ましい。スルホン酸基を有するフタロシアニン化合物としては、スルホン酸基を有する銅フタロシアニンなどのスルホン酸基を有する金属フタロシアニンなどが挙げられる。
【0026】
上記(D)スルホン酸系分散剤の配合量は、特に限定されるものではないが、前記(C)と前記(D)の質量割合は、(C):(D)=1:1〜4:1の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、(C):(D)=1.5:1〜3:1の範囲内である。
【0027】
表層16におけるバインダー樹脂は、上記(A)のみで構成されていてもよいし、上記(A)に加え、表層のバインダー樹脂として用いられる他の樹脂を少なくとも上記バリア性が確保される範囲で用いてもよい。このためには、バインダー樹脂全体に対し、上記(A)は50質量%以上であることが好ましい。より好ましくは60質量%以上である。他の樹脂としては、アクリル樹脂、エステル樹脂、カーボネート樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂などが好適なものとして挙げられる。上記(A)に加えて用いられるアクリル樹脂は、変性アクリル樹脂、非変性アクリル樹脂のいずれであってもよいが、少なくともフッ素変性されていないアクリル樹脂である。このようなアクリル樹脂としては、具体的には、アクリル酸若しくはメタクリル酸のアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル、グリシジルエステルなどが挙げられる。アルキルエステルのアルキルとしては、メチル、エチル、ブチル、オクチル、ドデシルなどが挙げられる。ヒドロキシアルキルエステルのヒドロキシアルキルとしては、ヒドロキシエチル、ヒドロキシブチルなどが挙げられる。
【0028】
表層16は、上記(A)〜(D)に加えて、添加剤を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。添加剤としては、レベリング剤、カップリング剤、導電剤、安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、染料、顔料、難燃剤などが挙げられる。導電剤としては、イオン導電剤(4級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤など)や電子導電剤(グラファイト、c−TiO、c−ZnO、c−SnO(c−は、導電性を意味する。)など)が挙げられる。
【0029】
表層16の厚みは、特に限定されるものではなく、用途などに応じて10〜30μmの範囲内などで適宜設定すればよい。
【0030】
表層16は、上記(A)〜(D)を含む表層形成用組成物を用い、これを弾性体層14の外周面に塗工し、乾燥処理を適宜行うことにより形成することができる。表層形成用組成物は、上記(A)〜(D)を溶解あるいは分散させる溶媒を用いて調製することができる。溶媒としては、水、有機溶媒のいずれでもよい。有機溶媒としては、MEK、MIBK、ヘキサン、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、THF、DMF、NMPなどが挙げられる。塗料の固形分濃度は、例えば3〜50質量%の範囲に調整すればよい。
【0031】
弾性体層14は、架橋ゴムを含有する。弾性体層14は、未架橋ゴムを含有する導電性ゴム組成物により形成される。架橋ゴムは、未架橋ゴムを架橋することにより得られる。未架橋ゴムは、極性ゴムであってもよいし、非極性ゴムであってもよい。導電性に優れるなどの観点から、未架橋ゴムは極性ゴムがより好ましい。
【0032】
極性ゴムは、極性基を有するゴムであり、極性基としては、クロロ基、ニトリル基、カルボキシル基、エポキシ基などを挙げることができる。極性ゴムとしては、具体的には、ヒドリンゴム、ニトリルゴム(NBR)、ウレタンゴム(U)、アクリルゴム(アクリル酸エステルと2−クロロエチルビニルエーテルとの共重合体、ACM)、クロロプレンゴム(CR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)などを挙げることができる。極性ゴムのうちでは、体積抵抗率が特に低くなりやすいなどの観点から、ヒドリンゴム、ニトリルゴム(NBR)がより好ましい。
【0033】
ヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリンの単独重合体(CO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド二元共重合体(ECO)、エピクロルヒドリン−アリルグリシジルエーテル二元共重合体(GCO)、エピクロルヒドリン−エチレンオキサイド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体(GECO)などを挙げることができる。
【0034】
ウレタンゴムとしては、分子内にエーテル結合を有するポリエーテル型のウレタンゴムを挙げることができる。ポリエーテル型のウレタンゴムは、両末端にヒドロキシル基を有するポリエーテルとジイソシアネートとの反応により製造できる。ポリエーテルとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。ジイソシアネートとしては、特に限定されるものではないが、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0035】
非極性ゴムとしては、イソプレンゴム(IR)、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)などが挙げられる。
【0036】
架橋剤としては、硫黄架橋剤、過酸化物架橋剤、脱塩素架橋剤を挙げることができる。これらの架橋剤は、単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0037】
硫黄架橋剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄、塩化硫黄、チウラム系加硫促進剤、高分子多硫化物などの従来より公知の硫黄架橋剤を挙げることができる。
【0038】
過酸化物架橋剤としては、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ケトンパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドなどの従来より公知の過酸化物架橋剤を挙げることができる。
【0039】
脱塩素架橋剤としては、ジチオカーボネート化合物を挙げることができる。より具体的には、キノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−メチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、6−イソプロピルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネート、5,8−ジメチルキノキサリン−2,3−ジチオカーボネートなどを挙げることができる。
【0040】
架橋剤の配合量としては、ブリードしにくいなどの観点から、未架橋ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1〜2質量部の範囲内、より好ましくは0.3〜1.8質量部の範囲内、さらに好ましくは0.5〜1.5質量部の範囲内である。
【0041】
架橋剤として脱塩素架橋剤を用いる場合には、脱塩素架橋促進剤を併用しても良い。脱塩素架橋促進剤としては、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(以下、DBUと略称する。)もしくはその弱酸塩を挙げることができる。脱塩素架橋促進剤は、DBUの形態として用いても良いが、その取り扱い面から、その弱酸塩の形態として用いることが好ましい。DBUの弱酸塩としては、炭酸塩、ステアリン酸塩、2−エチルヘキシル酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸塩、フェノール樹脂塩、2−メルカプトベンゾチアゾール塩、2−メルカプトベンズイミダゾール塩などを挙げることができる。
【0042】
脱塩素架橋促進剤の含有量としては、ブリードしにくいなどの観点から、未架橋ゴム100質量部に対して、0.1〜2質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.3〜1.8質量部の範囲内、さらに好ましくは0.5〜1.5質量部の範囲内である。
【0043】
弾性体層14には、導電性付与のため、カーボンブラック、グラファイト、c−TiO、c−ZnO、c−SnO(c−は、導電性を意味する。)、イオン導電剤(4級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤など)などの従来より公知の導電剤を適宜添加することができる。また、必要に応じて、各種添加剤を適宜添加しても良い。添加剤としては、滑剤、加硫促進剤、老化防止剤、光安定剤、粘度調整剤、加工助剤、難燃剤、可塑剤、発泡剤、充填剤、分散剤、消泡剤、顔料、離型剤などを挙げることができる。
【0044】
弾性体層14は、架橋ゴムの種類、イオン導電剤の配合量、電子導電剤の配合などにより、所定の体積抵抗率に調整することができる。弾性体層14の体積抵抗率は、用途などに応じて10〜1010Ω・cm、10〜10Ω・cm、10〜10Ω・cmの範囲などに適宜設定すればよい。
【0045】
弾性体層14の厚みは、特に限定されるものではなく、用途などに応じて0.1〜10mmの範囲内などで適宜設定すればよい。
【0046】
弾性体層14は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、軸体12をロール成形金型の中空部に同軸的に設置し、未架橋の導電性ゴム組成物を注入して、加熱・硬化(架橋)させた後、脱型するか、あるいは、軸体12の表面に未架橋の導電性ゴム組成物を押出成形するなどにより、軸体12の外周に弾性体層14を形成する。
【0047】
軸体12は、導電性を有するものであれば特に限定されない。具体的には、鉄、ステンレス、アルミニウムなどの金属製の中実体、中空体からなる芯金などを例示することができる。軸体12の表面には、必要に応じて、接着剤、プライマーなどを塗布しても良い。つまり、弾性体層14は、接着剤層(プライマー層)を介して軸体12に接着されていてもよい。接着剤、プライマーなどには、必要に応じて導電化を行なっても良い。
【0048】
以上の構成の導電性ロール10によれば、表層16のバインダー樹脂としてフッ素樹脂およびフッ素変性アクリル樹脂から選択される1種以上の樹脂を用いたことから、バリア性が高く、基層である弾性体層14の成分のブリードを抑えることができる。そして、カーボンブラックに対し高分子分散剤を用いているので、その立体障害によりカーボンブラックの凝集を抑えることができる。さらに、マイナス電位になりやすいフッ素樹脂やフッ素変性アクリル樹脂と同電位となるスルホン酸系分散剤を用いるとともに上記高分子分散剤としてエステル系高分子分散剤を用いたことで、エステル系高分子分散剤とフッ素樹脂、フッ素変性アクリル樹脂とが相溶化することができ、その結果、フッ素樹脂やフッ素変性アクリル樹脂中にカーボンブラックを高分散させることができる。これにより、均一な抵抗が得られる。
【0049】
本発明に係る導電性ロールの構成としては、図1に示す構成に限定されるものではない。例えば、図1に示す導電性ロール10において、軸体12と弾性体層14との間に他の弾性体層を備えた構成であってもよい。この場合、他の弾性体層は、導電性ロールのベースとなる層であり、弾性体層14が導電性ロールの抵抗調整を行う抵抗調整層などとして機能する。他の弾性体層は、例えば、弾性体層14を構成する材料として挙げられた材料のいずれかにより構成することができる。また、例えば、図1に示す導電性ロール10において、弾性体層14と表層16との間に他の弾性体層を備えた構成であってもよい。この場合、弾性体層14が導電性ロールのベースとなる層であり、他の弾性体層は、導電性ロールの抵抗調整を行う抵抗調整層などとして機能する。
【実施例】
【0050】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0051】
(実施例1〜6、比較例1〜8)
<導電性ゴム組成物の調製>
ヒドリンゴム(ECO、ダイソー製「エピクロマーCG102」)100質量部に対し、加硫助剤(酸化亜鉛、三井金属製「酸化亜鉛2種」)を5質量部、カーボン(ケッチェンブラックインターナショナル製「ケッチェンブラックEC300J」)を10質量部、加硫促進剤(2−メルカプトベンゾチアゾール、大内新興化学工業社製「ノクセラーM−P」)を0.5質量部、硫黄(鶴見化学工業社製、「サルファックスPTC」)を2質量部、充填剤(炭酸カルシウム、白石工業製「白艶華CC」)を50質量部添加し、これらを攪拌機により撹拌、混合して導電性ゴム組成物を調製した。
【0052】
<弾性体層の作製>
成形金型に芯金(軸体、直径6mm)をセットし、上記の導電性ゴム組成物を注入し、170℃で30分加熱した後、冷却、脱型して、芯金の外周に厚み1.5mmの弾性体層を形成した。
【0053】
<表層の作製>
固形分濃度が15質量%となるように表1に記載の配合組成にてバインダー樹脂、カーボンブラック、分散剤1,2、溶媒(MEK)を混合し、表層形成用組成物を調製した。次いで、調製した表層形成用組成物を弾性体層の表面にロールコートし、100℃で30分加熱して溶媒を除去することにより、弾性体層の外周に厚み2.5μmの表層を形成した。これにより、導電性ロールを作製した。なお、用いた材料は以下の通りである。
【0054】
(バインダー樹脂)
・フッ素樹脂:テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体(THV)、3M製「ダイニオンTHV221AZ」
・フッ素変性アクリル樹脂:東亜合成製「GF150」
・アクリル樹脂:根上工業製「ハイパールM4501」(非フッ素変性)
・ウレタン樹脂:東ソー製「ミラクトランE380PNAT」
(カーボンブラック)
・ケッチェンブラックインターナショナル製「ケッチェンブラックEC300J」
(分散剤1)
・高級脂肪酸エステル(エステル系高分子分散剤):味の素ファインテクノ製「アジスパーPN411」
・櫛形高分子エステル(エステル系高分子分散剤):日本ルーブリゾール製「ソルスパースS32000」、多価カルボン酸部分アミド含有
・櫛形高分子エーテル(エーテル系高分子分散剤):ビックケミージャパン製「DISPERBYK−182」
・アクリル系高分子分散剤:BASFジャパン製「EFKA−4406」
(分散剤2)
・スルホン酸基含有銅フタロシアニン(スルホン酸系分散剤):日本ルーブリゾール製「ソルスパースS12000」
・ポリスチレンスルホン酸Na(スルホン酸系分散剤):東ソー製「ポリナス」
・ポリエーテルリン酸エステル:楠本化成製「ディスパロンDA375」
【0055】
作製した各導電性ロールについて、画像評価(濃淡ムラ)、抵抗評価(抵抗ムラ)、ブリード評価を行った。評価結果および表層形成用組成物の配合組成を以下の表に示す。
【0056】
(画像評価)
作製した導電性ロールを実機(HP製「CLJ4525dn」)のカートリッジに取り付け、15℃×10%RH環境下にて画出しを行った。ロールピッチの濃淡ムラが発生した場合を不良「×」とし、濃淡ムラが発生しなかった場合を良好「○」とし、濃淡ムラが無く、画像のガサつきもない物を最良好「◎」とした。
【0057】
(抵抗評価)
NN環境下(23℃50%RH)において、金属棒上(φ30mm)に導電性ロールを線接触させ、軸体の両端に各々300gの荷重をかけた状態で金属棒を回転駆動し、30rpmで導電性ロールをつれ回り回転させ、軸体の端部より200Vの直流電圧を印加した場合の電流値を測定した。この際、電流値の最大値と最小値の比(最大/最小)を算出し、その比が2.0を超える場合を抵抗ムラが大きい「×」とし、その比が2.0以下の場合を抵抗ムラが小さい「○」とし、その比が1.3以下の場合を抵抗ムラが極小の「◎」とした。
【0058】
(ブリード評価)
作製した導電性ロールを実機(HP製「CLJ4525dn」)のカートリッジに取り付け、40℃×95%RH環境下にて30日放置した後、ロール表面を顕微鏡で観察した。ロール表面にブリード物が発生していることが確認された場合を「×」、確認されなかった場合を「○」とした。
【0059】
【表1】
【0060】
比較例1は、バインダー樹脂がウレタン樹脂であるため、ブリードの発生が抑えられていない。比較例2〜4は、バインダー樹脂がフッ素樹脂であり、分散剤を用いていないか、分散剤がエステル系高分子分散剤およびスルホン酸系分散剤のいずれか一方のみであり、カーボンブラックの分散が悪く、濃淡ムラ、抵抗ムラが抑えられていない。比較例5は、エステル系高分子分散剤とともに用いている分散剤がポリエーテルリン酸エステルでありスルホン酸系分散剤ではないため、カーボンブラックの分散が悪く、濃淡ムラ、抵抗ムラが抑えられていない。比較例6は、スルホン酸系分散剤とともに用いている分散剤がエステル系高分子分散剤ではなくエーテル系高分子分散剤であるため、カーボンブラックの分散が悪く、濃淡ムラ、抵抗ムラが抑えられていない。比較例7は、分散剤がエーテル系高分子分散剤とポリエーテルリン酸エステルの組み合わせであるため、カーボンブラックの分散が悪く、濃淡ムラ、抵抗ムラが抑えられていない。比較例8は、分散剤がアクリル系高分子分散剤とフタロシアニン化合物(スルホン酸基含有)の組み合わせであるが、バインダー樹脂がフッ素樹脂であるため、カーボンブラックの分散が悪く、濃淡ムラ、抵抗ムラが抑えられていない。
【0061】
比較例に対し、実施例は、バインダー樹脂としてフッ素樹脂またはフッ素変性アクリル樹脂を含み、このようなバインダー樹脂とカーボンブラックに対し分散剤としてエステル系高分子分散剤とスルホン酸系分散剤を組み合わせて用いているため、ブリードの発生が抑えられているとともに、カーボンブラックの分散良好で、濃淡ムラ、抵抗ムラが抑えられている。
【0062】
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0063】
10 導電性ロール
12 軸体
14 弾性体層
16 表層
図1