【実施例1】
【0010】
<1>全体構成(
図1,2)
本発明の第1実施例について、
図1,2を参照しながら説明する。
本実施例では、衝撃吸収体としてポケット式防護網を想定している。
図1は、衝撃吸収体の構造を示す概略正面図であり、
図2は、横ロープ30の図示を省略した衝撃吸収体の概略側面図である。
図1に示すように、本実施例に係る衝撃吸収体は、斜面Xの幅方向に間隔を空けて立設する支柱10と、支柱10から斜面Xの谷側に向かって吊設するネット20と、ネット20の上下方向に間隔を設けて複数配置する横ロープ30と、斜面に設置する横アンカー60と、横ロープ30と接続して複数の分配ロープ71に分配する分配金具70と、分配ロープ71と横アンカー60との間に介設する緩衝装置80と、を少なくとも具備している。
さらに、
図2に示すように、本実施例に係る衝撃吸収体は、ネット20と斜面Xとの間の空間を、落石を受け入れて斜面Xの谷側へと誘導する誘導空間Aを形成している。
以下、各構成要素の詳細について説明する。
【0011】
<2>支柱
支柱10は、ネット20を吊設するための部材である。
支柱10は、斜面Xに設けた基礎やアンカーを介して固定する方法や、斜面Xに載置して別途控えをとりながら位置決めする方法など、その他公知の方法でもって斜面Xに立設するよう構成する。
支柱10の頭部近傍には、各種控え材または各種ロープの連結または挿通を行うことが可能な連結部(図示せず)を設けている。
【0012】
<3>ネット
ネット20は、斜面Xの山側からの衝突物を受けとめるための部材である。
この衝突物には、落石・土砂・積雪・雪崩などが含まれる。
ネット20の形状、材質は、落石要因に対する所望の衝撃吸収性能によって適宜決定することができる。
ネット20として特に好適な例としては、厚み方向において横方向に連続する空間を有するタイプの金網(菱形金網など)である。これは、後述するネット20の側部50において、横ロープ30をネット20内に略直線上に挿通してからワイヤークリップ51で把持して構成するためである。
本実施例では、ネット20を、厚み方向において横方向に連続する空間(
図2に示す挿通空間22)を有する菱形金網で構成する。
【0013】
<4>横ロープ
横ロープ30は、ネット20の縦方向に所定間隔毎に設けて、斜面Xに設けた横アンカー60へと直接または間接的に接続するための部材である。
横ロープ30の材質、配置位置、配置本数などは、落石要因に対する所望の衝撃吸収性能によって適宜決定されるものであり、本発明において特段限定するものではない。
本実施例では、ネット20の上縁部分および下縁部分を除き、ネット20の縦方向に向かって等間隔で横ロープ30を複数本設けている。
【0014】
<5>ネットに対する横ロープの取付構造(
図3,4)
本発明では、横ロープ30をネット20に取りつけるにあたり、ネット20の横方向におけるネット20の中間部40と側部50とで、異なる取付構造を採用する。
以下、各取付構造の詳細について説明する。
【0015】
<5.1>中間部(
図3)
中間部40は、衝突物の受撃時にネット20に対する横ロープ30の縦移動を抑制するための箇所である。
本発明では、中間部40を、螺旋形状を呈する素線の端部を折曲してなる折曲端411を設けた結合コイル41を、ネット20および横ロープ30を巻き込むように取り付けた構造とする。
当該構造とすることで、衝突物の受撃によってネット20が変形し始めたとき、結合コイル41の折曲端411が、ネット20の列線21へと係止する。
その後、ネット20の変形にともなう結合コイル41の伸びが発生しても、列線21の係止によって結合コイル41の螺旋軌跡がほどけることが無くなるため、ネット20の変形に対してする横ロープ30の縦移動を抑制することができる。
【0016】
<5.2>側部(
図4)
側部50は、ネット20に対する横ロープ30の位置を保持するための箇所である。
本発明では、菱形金網の厚みによって形成されるネット20の挿通空間22に横ロープ30を挿通してから、菱形金網の網目から横ロープ30をワイヤークリップ51で把持した構造とする。
そして、ワイヤークリップ51は、横ロープ30の把持部分が位置する菱形金網の網目から、隣接する網目に向かって抜け出ることができない態様とし、例えば、ワイヤークリップ51の前後長を菱形金網の厚さよりも大きくする方法などが考えられる。
当該構造とすることで、衝突物の受撃時には、ワイヤークリップ51が菱形金網の列線21と干渉することで、ネット20の網目間をワイヤークリップ51が乗り越えずに、ネット20に対する横ロープ30の位置を保持することができる。
【0017】
<6>横アンカー
横アンカー60は、斜面Xに打ち込んで、横ロープ30からの緊張力に抵抗するための部材である。
横アンカー60は、公知のアンカー装置を用いることができる。
【0018】
<7>横ロープと横アンカーとの間の介設部材(
図5)
本実施例では、横ロープ30と横アンカー60との間に、分配金具70と緩衝装置80を介設している。
以下、各部材の詳細について説明する。
【0019】
<7.1>分配金具
分配金具70は、衝突物の受撃に伴って、横ロープ30に伝達される引張力を、複数の緩衝金具へとそれぞれ接続する分配ロープ71へと分配するための部材である。
本実施例では、分配金具70を、U字ボルトと、該U字ボルトの開口部を閉塞するプレートおよびナットで構成しており、前記プレート側に横ロープ30の端部を係留し、前記U字ボルト側に3本の分配ロープ71の端部を係留している。
【0020】
<7.2>緩衝装置
緩衝装置80は、横ロープ30(または分配ロープ71)と、横アンカー60との間に介設する部材である。
この緩衝装置80によって、横ロープ30は、横アンカー60へと間接的に固定された状態となる。
本実施例では、緩衝装置80の一端側を横アンカー60に固定しており、他端側に設けた複数の緩衝金具81にそれぞれ分配ロープ71を把持させている。
分配ロープ71に所定値以上の緊張力が生じたときに、緩衝装置80は、分配ロープ71を緩衝金具の内部でスリップさせることで衝撃吸収機能を発揮することができる。
【0021】
<8>その他(
図1)
衝撃吸収体を構成するその他の部材等について、以下に説明する。
【0022】
<8.1>上縁ロープ、下縁ロープ
上縁ロープ91、下縁ロープ92は、ネット20の上縁部分および下縁部分において、横方向に配置する部材である。
上縁ロープ91および下縁ロープ92の材質、取付構造は、落石要因に対する所望の衝撃吸収性能によって適宜決定されるものであり、本発明において特段限定するものではない。よって、前記した横ロープ30と同様の態様を採用することができる。
本実施例では、上縁ロープ91および下縁ロープ92を、ネット20と重なる部分の全長にわたって結合コイル911
、921でネット20を巻き込むように取り付けた構造としている。
【0023】
<8.2>山側控え材など
支柱10には、適宜山側アンカーB2と接続する山側控え材B1などを設けておくことができる。
これらの部材の配置態様は、現場の条件に応じて適宜設計すればよい。
また、各アンカーと控え材との間には、別途緩衝具(図示せず)を介設してもよい。
この緩衝具は、前記した緩衝装置80と同一のものでも、異なるものであってもよい。
【0024】
<8.3>縦ロープの不採用
なお、本発明に係る衝撃吸収体では、ネット20の縦方向に配置するロープ(いわゆる「縦ロープ」)を配置しない。
これは、本発明に係る横ロープ30は、縦方向への移動が抑制される態様でネット20に取り付けられているため、横ロープ30の目開きを防止する必要が無いからである。
【0025】
<9>受撃時の挙動(
図6,7)
上記構造を呈する衝撃吸収体において、衝突物Yを受撃した際の挙動の詳細について以下に説明する。
【0026】
<9.1>中間部の挙動(
図6)
衝突物Yを受撃したネット20は、ネット20を構成する菱形金網の列線21の伸びによって衝撃力を吸収する。
また、当該衝撃力によるネット20の変形に伴い、中間部40にある横ロープ30は、衝突物Yの受撃位置をはさんで、ネット20との原位置から縦方向にずれるように押し広がろうとする。
このとき、
図6(a)に示す従来の結合コイルcでは、ネットaと横ロープbとの間で縦方向に引っ張ろうとする力によって、結合コイルcを構成する素線の端部が菱形金網の網目から引き抜かれて、前記素線の螺旋がほどける形状へと遷移し、その結果、結合コイルcを介したネットaと横ロープbとの一体性が失われて、ネットaで受けた衝撃力が横ロープbに伝達されにくくなる。
一方、
図6(b)に示す本発明に係る結合コイル41では、中間部40を構成する結合コイル41の端部に設けた折曲端411が、ネット20を構成する菱形金網の列線21に係止されるため、素線の端部は菱形金網の網目から引き抜かれることはなく、結合コイル41の螺旋形状は維持される。
よって、結合コイル41を介した横ロープ30とネット20との一体性は失われないことから、ネット20が受けた衝撃力は結合コイル41を介してロス無く横ロープ30へと伝達されることとなる。
【0027】
<9.2>側部の挙動(
図7)
側部50では、菱形金網の厚みによって形成されるネット20の挿通空間22に挿通してある横ロープ30をワイヤークリップ51で把持しているため、衝突物Yの受撃時には、ワイヤークリップ51が菱形金網の列線21と干渉し、ネット20に対する横ロープ30の位置は保持され、ネット20に対する横ロープ30の横移動は抑制される。
その結果、受撃の前後において、側部50と分配金具70との離隔距離は一定に保たれる(L
1=L
3)こととなり、金網から衝撃力を伝達した横ロープ30は、引張力を端部に接続する緩衝装置80へと確実に伝達するよう作用。
所定以上の引張力を受けた際には、
図7(b)に示すように、緩衝装置80でもって分配ロープ71をスリップさせて、衝撃力を吸収する。
よって、衝突物Yの受撃後の横アンカー60と分配金具70との離隔距離は、受撃前と比較してスリップした分だけ長くなる(L
4>L
2)。
【0028】
<10>まとめ
このように、本実施例に係る衝撃吸収柵によれば、ネット20の中間部40および側部50でもって、横ロープ30とネット20との一体性が失われないため、ネット20で受けた衝撃力を、横アンカー60に接続した緩衝装置80までロス無く伝達することができる。
また、前記の通り、ネット20に対する横ロープ30の位置を保持することができるため、ネット20に対して横ロープ30がずれることによって生じる列線21の摩耗・切断を防止することもできる。