特許第6343711号(P6343711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6343711シームトラッキングシステム及び金属製品製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6343711
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】シームトラッキングシステム及び金属製品製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/044 20140101AFI20180604BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20180604BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20180604BHJP
   B23K 26/26 20140101ALI20180604BHJP
   B23K 9/127 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   B23K26/044
   B23K26/21 F
   B23K26/03
   B23K26/26
   B23K9/127 501A
   B23K9/127 508B
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-213141(P2017-213141)
(22)【出願日】2017年11月2日
【審査請求日】2017年11月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207816
【氏名又は名称】大豊精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100120994
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100174713
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧川 彰人
(72)【発明者】
【氏名】小林 一也
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 一訓
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−40049(JP,A)
【文献】 特開平11−287619(JP,A)
【文献】 特開2017−205789(JP,A)
【文献】 特許第3719764(JP,B2)
【文献】 特開平10−105717(JP,A)
【文献】 特開2008−260043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の進行方向に進行しつつワークを撮像する画像センサと、前記画像センサに追従する溶接ヘッドと、前記画像センサが撮像した撮像データに基づいて前記ワークの突き合わせ部分に影として表れる溶接対象となる溶接線を検出し、前記溶接線に基づいて前記溶接ヘッドの溶接位置を制御する制御装置と、を備えるシームトラッキングシステムであって
前記制御装置は、
前記撮像データにおいて前記進行方向に直交する方向に延びる仮想直線を走査線とすると、前記撮像データの明るさに基づいて、前記撮像データの所定の前記走査線上の最も一方側に位置する、前記溶接線と推定される一方側推定点を検出する一方側検出部と、
前記撮像データの明るさに基づいて、前記走査線上の最も他方側に位置する、前記溶接線と推定される他方側推定点を検出する他方側検出部と、
複数の前記走査線上で検出された前記一方側推定点及び前記他方側推定点に基づいて、近似直線又は近似曲線を算出する近似線算出部と、
前記近似直線又は前記近似曲線を前記溶接線に設定し、前記溶接線上を溶接するように前記溶接ヘッドの溶接位置を制御する位置制御部と、
を備え、
前記近似線算出部は、同一の前記走査線上における離間距離が所定閾値以上である前記一方側推定点及び前記他方側推定点を除いて、前記近似直線又は前記近似曲線を算出するシームトラッキングシステム。
【請求項2】
前記近似線算出部は、前記近似直線又は前記近似曲線が算出された状態において、同一の前記走査線上における離間距離が前記所定閾値以上である前記一方側推定点及び前記他方側推定点の位置情報を前記近似直線又は前記近似曲線上に移動させる請求項1に記載のシームトラッキングシステム。
【請求項3】
前記所定閾値は、開先形状及び突き合わされた2つの前記ワークの厚みの差の少なくとも一方に基づいて予め設定されている請求項1又は2に記載のシームトラッキングシステム。
【請求項4】
前記近似線算出部は、同一の前記走査線上における前記一方側推定点及び前記他方側推定点の少なくとも一方が一方側限界値よりも一方側にある場合、又は前記一方側推定点及び前記他方側推定点の少なくとも一方が他方側限界値よりも他方側にある場合、前記離間距離の大小にかかわらず、当該両推定点を除いて前記近似直線又は前記近似曲線を算出する請求項1〜3の何れか一項に記載のシームトラッキングシステム。
【請求項5】
所定の進行方向に進行しつつ金属製のワークを撮像する画像センサと、前記画像センサに追従する溶接ヘッドと、前記画像センサが撮像した撮像データに基づいて前記ワークの突き合わせ部分に影として表れる溶接対象となる溶接線を検出し、前記溶接線に基づいて前記溶接ヘッドの溶接位置を制御する制御装置と、を備えるシームトラッキングシステムを用いた金属製品製造方法であって、
前記撮像データにおいて前記進行方向に直交する方向に延びる仮想直線を走査線とすると、
前記制御装置が、前記撮像データの明るさに基づいて、前記撮像データの前記走査線上の最も一方側に位置する、前記溶接線と推定される一方側推定点を検出する一方側検出工程と、
前記制御装置が、前記撮像データの明るさに基づいて、前記走査線上の最も他方側に位置する、前記溶接線と推定される他方側推定点を検出する他方側検出工程と、
前記制御装置が、複数の前記走査線上で検出された前記一方側推定点及び前記他方側推定点に基づいて、近似直線又は近似曲線を算出する近似線算出工程と、
前記近似直線又は前記近似曲線を前記溶接線に設定し、前記溶接線上を溶接するように前記溶接ヘッドの溶接位置を制御する位置制御工程と、
を含み、
前記近似線算出工程では、前記制御装置が、同一の前記走査線上における離間距離が所定閾値以上である前記一方側推定点及び前記他方側推定点を除いて、前記近似直線又は前記近似曲線を算出する金属製品製造方法。
【請求項6】
前記近似線算出工程では、前記近似直線又は前記近似曲線が算出された状態において、前記制御装置が、同一の前記走査線上における離間距離が前記所定閾値以上である前記一方側推定点及び前記他方側推定点の位置情報を前記近似直線又は前記近似曲線上に移動させる請求項5に記載の金属製品製造方法。
【請求項7】
前記所定閾値は、開先形状及び突き合わされた2つの前記ワークの厚みの差の少なくとも一方に基づいて予め設定されている請求項5又は6に記載の金属製品製造方法。
【請求項8】
前記近似線算出工程では、同一の前記走査線上における前記一方側推定点及び前記他方側推定点の少なくとも一方が一方側限界値よりも一方側にある場合、又は前記一方側推定点及び前記他方側推定点の少なくとも一方が他方側限界値よりも他方側にある場合、前記制御装置が、前記離間距離の大小にかかわらず、当該両推定点を除いて前記近似直線又は前記近似曲線を算出する請求項5〜7の何れか一項に記載の金属製品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像センサを用いて溶接するシームトラッキングシステム及び金属製品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シームトラッキングシステムは、溶接ヘッドに先行する画像センサにより溶接線(シーム線)を検出し、溶接ヘッドの位置を当該溶接線上に制御する自動溶接システムである。このシームトラッキングシステムでは、画像センサによる溶接線の検出精度により、溶接品質が左右されるため、当該溶接線の検出精度を高めることが求められている。この溶接線の検出については、例えば特開平9−201673号公報及び特開平10−193148号公報に記載されている。これらの技術では、複数の検出点から近似直線を算出し、算出した近似直線から所定距離以上離れた検出点については、誤検出として処理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−201673号公報
【特許文献2】特開平10−193148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、近似直線を算出した後に誤検出か否かを判別し、誤検出があった場合に当該誤検出点を除いて再度近似直線を算出しなければならない。つまり、一度近似直線が算出できるだけの検出点データを集めた後に、近似直線の修正処理を繰り返さなければならない。これにより、計算がフィードバックを含んだ複雑なものとなり、近似直線の演算・設定に遅れが出るおそれがある。また、近似直線が算出されるまでは、検出点が誤検出点であるか否かを判定できない。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、誤検出による溶接線の検出精度の低減を抑制しつつ、より容易に溶接線を決定することができるシームトラッキングシステム及び金属製品製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のシームトラッキングシステムは、所定の進行方向に進行しつつワークを撮像する画像センサと、前記画像センサに追従する溶接ヘッドと、前記画像センサが撮像した撮像データに基づいて前記ワークの突き合わせ部分に影として表れる溶接対象となる溶接線を検出し、前記溶接線に基づいて前記溶接ヘッドの溶接位置を制御する制御装置と、を備えるシームトラッキングシステムであって、前記制御装置は、前記撮像データにおいて前記進行方向に直交する方向に延びる仮想直線を走査線とすると、前記撮像データの明るさに基づいて、前記撮像データの所定の前記走査線上の最も一方側に位置する、前記溶接線と推定される一方側推定点を検出する一方側検出部と、前記撮像データの明るさに基づいて、前記走査線上の最も他方側に位置する、前記溶接線と推定される他方側推定点を検出する他方側検出部と、複数の前記走査線上で検出された前記一方側推定点及び前記他方側推定点に基づいて、近似直線又は近似曲線を算出する近似線算出部と、前記近似直線又は前記近似曲線を前記溶接線に設定し、前記溶接線上を溶接するように前記溶接ヘッドの溶接位置を制御する位置制御部と、を備え、前記近似線算出部は、同一の前記走査線上における離間距離が所定閾値以上である前記一方側推定点及び前記他方側推定点を除いて、前記近似直線又は前記近似曲線を算出する。
【0007】
また、本発明の金属製品製造方法は、所定の進行方向に進行しつつ金属製のワークを撮像する画像センサと、前記画像センサに追従する溶接ヘッドと、前記画像センサが撮像した撮像データに基づいて前記ワークの突き合わせ部分に影として表れる溶接対象となる溶接線を検出し、前記溶接線に基づいて前記溶接ヘッドの溶接位置を制御する制御装置と、を備えるシームトラッキングシステムを用いた金属製品製造方法であって、前記撮像データにおいて前記進行方向に直交する方向に延びる仮想直線を走査線とすると、前記制御装置が、前記撮像データの明るさに基づいて、前記撮像データの前記走査線上の最も一方側に位置する、前記溶接線と推定される一方側推定点を検出する一方側検出工程と、前記制御装置が、前記撮像データの明るさに基づいて、前記走査線上の最も他方側に位置する、前記溶接線と推定される他方側推定点を検出する他方側検出工程と、前記制御装置が、複数の前記走査線上で検出された前記一方側推定点及び前記他方側推定点に基づいて、近似直線又は近似曲線を算出する近似線算出工程と、前記近似直線又は前記近似曲線を前記溶接線に設定し、前記溶接線上を溶接するように前記溶接ヘッドの溶接位置を制御する位置制御工程と、を含み、前記近似線算出工程では、同一の前記走査線上における離間距離が所定閾値以上である前記一方側推定点及び前記他方側推定点を除いて、前記近似直線又は前記近似曲線が算出される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一方側推定点と他方側推定点との離間距離(ずれ)の大小に基づいて、近似直線又は近似曲線の演算要素の可否を判定するため、近似直線又は近似曲線の算出前後にかかわらず誤検出を判定することができる。つまり、誤検出の判定に予め近似直線又は近似曲線を算出する必要がない。これにより、容易に(素早く)溶接線を演算・設定することができる。また、走査線上の両推定点の離間距離が大きい場合、少なくとも一方の推定点がワークの傷や影による誤検出である可能性が高く、それを演算要素から排除することで、溶接線の検出精度は維持又は向上される。このように、本発明によれば、誤検出による溶接線の検出精度の低減を抑制しつつ、より容易に溶接線を決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態のシームトラッキングシステムの構成図である。
図2】本実施形態の画像センサの撮像データの概念図である。
図3】本実施形態の近似直線の概念図である。
図4】本実施形態の処理の流れを示すフローチャートである。
図5】ダレがある対象ワークの模式断面図である。
図6】本実施形態の変形態様における画像センサの撮像データの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。説明に用いる各図は概念図であり、各部の形状は必ずしも厳密なものではない。本実施形態のシームトラッキングシステム1は、図1に示すように、画像センサ2と、溶接ヘッド3と、制御装置4と、を備えている。画像センサ2は、対象ワークWの溶接線(シーム線)Sを検出するために、所定の進行方向に進行しつつ対象ワークWを撮像する装置である。本実施形態の対象ワークWは、突き合わされた2つの金属製の板状のワークW1、W2で構成されている。溶接線Sは、一方側ワークW1の端部と他方側ワークW2の端部とが当接(対面)して形成された線である。当該突き合わせ部分を開先ともいう。なお、説明において、対象ワークWにおける溶接ヘッド3に対向する面、すなわち対象ワークWの溶接線Sが露出した面を、対象ワークWの表面とする。
【0011】
画像センサ2は、対象ワークWの表面から離間して配置され、所定の進行方向に移動可能に構成されている。画像センサ2は、カメラ21と、光源22と、を備えている。カメラ21は、例えばCCDカメラであって、対象ワークWの表面に対向するように配置されている。カメラ21は、対象ワークWの表面を撮像し、撮像データを制御装置4に送信する。光源22は、撮像のために対象ワークWに光を照射する装置である。
【0012】
画像センサ2は、所定移動距離毎に対象ワークWを撮像するように設定されている。図2に示すように、本実施形態において、撮像データにおいて画像センサ2の進行方向に直交する方向に延びる仮想直線を走査線とする。また、本実施形態の説明において、進行方向を「前後方向」とし、進行方向に直交し対象ワークWの延在方向(表面)に平行な方向を「左右方向」とする。なお、カメラ21は、水平走査方向が左右方向となるように配置されている。
【0013】
溶接ヘッド3は、ワークを溶接する装置であって、画像センサ2の移動に追従するように構成されている。つまり、溶接ヘッド3は、画像センサ2の後方に配置され、画像センサ2の前進と連動して(一体的に)前進する。画像センサ2及び溶接ヘッド3は、例えば、所定速度で前進するように設定されている。溶接ヘッド3は、例えばレーザ光を照射する溶接トーチであって、対象ワークWの溶接線Sに対向するように配置される。溶接ヘッド3は、前進しながら対象ワークWの溶接線Sを溶接目標として溶接していく。溶接ヘッド3は、溶接線Sと溶接位置とのずれに対応するために、制御装置4の制御に応じて左右方向にも移動可能に構成されている。なお、本実施形態の画像センサ2及び溶接ヘッド3は、レーザ溶接装置(例えばロボットアームを含む溶接装置)Aの一部を構成している。換言すると、レーザ溶接装置Aは、画像センサ2と、溶接ヘッド3と、を備えている。また、溶接準備段階として、対象ワークWは、レーザ溶接装置Aに対して、目視により溶接線Sが溶接ヘッド3の予定進行経路(前後方向に延びる直線)と一致するように配置されている。
【0014】
制御装置4は、レーザ溶接装置Aに接続された、CPUやメモリ等を備えるコンピュータ(例えばパーソナルコンピュータ)である。制御装置4は、画像センサ2が撮像した撮像データに基づいて溶接線Sを検出し、当該溶接線Sに基づいて溶接ヘッド3の溶接位置を制御する。つまり、制御装置4は、画像センサ2及び溶接ヘッド3を前方に移動させつつ、検出された溶接線Sに応じて溶接ヘッド3の溶接位置(溶接目標位置)を左右に移動させる。
【0015】
制御装置4は、機能として、一方側検出部41と、他方側検出部42と、近似線算出部43と、位置制御部44と、を備えている。一方側検出部41は、撮像データの所定の走査線上の最も一方側に位置する、溶接線Sと推定される一方側推定点を検出するように構成されている。換言すると、一方側検出部41は、撮像データの所定の走査線上を一方端部から他方端部に向けて解析し、溶接線Sと推定される点/位置(一方側推定点)を検出する。一方側検出部41は、所定の走査線上を一方向(右方向)に画像解析し、対象ワークWのうちの一方側ワークW1の他端部(右端部)の位置を検出するともいえる。
【0016】
より具体的に、図2に示すように、一方側検出部41は、撮像データに対し画像処理を実行し、走査線上の最も一方側(左側)に位置する明るさが所定値未満の点(暗い点)を検出し、その点を一方側推定点に設定する。一方側検出部41は、撮像データを走査線上の一方端部から他方端部に向けて画像処理を実行し、明るさが所定値未満の点を検出すると、その点を一方側推定点に設定する。一方側検出部41は、一方側推定点の位置情報(座標情報)を近似線算出部43に送信する。位置情報は、例えば、左右方向をX軸方向とし、前後方向をY軸方向として、(X、Y)座標で記録できる。なお、位置情報は、上下方向をZ軸方向として加えた3次元の座標情報(X、Y、Z)であっても良い。
【0017】
他方側検出部42は、撮像データの所定の走査線上の最も他方側に位置する、溶接線Sと推定される他方側推定点を検出するように構成されている。換言すると、他方側検出部42は、撮像データの所定の走査線上を他方端部から一方端部に向けて解析し、溶接線Sと推定される点/位置(他方側推定点)を検出する。他方側検出部42は、所定の走査線上を他方向(左方向)に画像解析し、対象ワークWのうちの他方側ワークW2の一端部(左端部)の位置を検出するともいえる。
【0018】
より具体的に、他方側検出部42は、撮像データに対し画像処理を実行し、走査線上の最も他方側(右側)に位置する明るさが所定値未満の点(暗い点)を検出し、その点を他方側推定点に設定する。他方側検出部42は、撮像データを走査線上の他方端部から一方端部に向けて画像処理を実行し、明るさが所定値未満の点を検出すると、その点を他方側推定点に設定する。他方側検出部42は、他方側推定点の位置情報(座標情報)を近似線算出部43に送信する。
【0019】
一方側検出部41と他方側検出部42は、撮像データに対する共通の画像処理により、それぞれ同時進行で推定点を検出することができる。所定の走査線は、撮像データの所定点(所定座標)を通る直線であって、1つの撮像データに1本又は複数本設定されている。本実施形態では、1つの撮像データに対して所定の走査線(解析位置)が1本設定されている。
【0020】
近似線算出部43は、複数の走査線上の一方側推定点及び他方側推定点に基づいて、近似直線を算出するように構成されている。近似線算出部43は、1つの(同一の)走査線上で取得された一方側推定点と他方側推定点を1セットとして、両方の推定点を記録する。近似線算出部43は、同一走査線上で検出された一方側推定点と他方側推定点との離間距離を算出する。つまり、近似線算出部43は、1セット毎に、一方側推定点のX座標と他方側推定点のX座標との差分(絶対値)を算出する。近似線算出部43は、当該離間距離(すなわち当該差分)が所定閾値以上であるか否かを判定する。なお、理想的には、一方側推定点と他方側推定点とは一致しており、差分(ずれ)は0となる。
【0021】
図3に示すように、近似線算出部43は、走査線上における離間距離が所定閾値以上であるセット(一方側推定点と他方側推定点)を除いて、近似直線を算出する。換言すると、近似線算出部43は、離間距離が所定閾値未満であるセットのみを用いて、近似直線を算出する。近似直線の算出は、例えば、一方側推定点と他方側推定点とが同じ位置(座標)である場合、当該1点を当該セットの推定点として用い、両推定点の位置が異なる場合(離間距離が所定閾値未満)は、一方側推定点と他方側推定点の中間点(中間座標)を、当該セットの推定点として用いて行うことができる。なお、図3の黒丸は、離間距離が0の一方側推定点及び他方側推定点(すなわち一致点)、又は離間距離が所定閾値未満である一方側推定点と他方側推定点との中間点を示す。また、図3の白丸は、離間距離が所定閾値以上である一方側推定点と他方側推定点を示す。
【0022】
近似線算出部43は、離間距離が所定閾値以上であるセットを誤検出セット(2つの誤検出点)として、近似直線の演算から除外する。近似線算出部43は、近似直線を算出した後、除外した誤検出点を近似直線上に移動(オフセット)させる。図3の黒の菱形は、オフセット後の推定点を示す。なお、図3の破線は、一例として、他方側推定点の近似直線を基準とした場合の、離間距離が所定閾値未満である領域(正常判定領域)の境界を示したものである。これは例えば他方のワークW2の突き合わせ部分のみが垂直面状である場合(図5参照)など、他方側推定点の推定精度(端部検出精度)が高いと考えられる場合の考え方である。この場合、他方側推定点を基準として正常判定領域(破線で挟まれた領域)を設定することができる。この場合、例えば、一方側推定点がこの領域外(上の破線よりも上側)で検出されると、誤検出と判定され、当該推定点は演算要素から除外される。ただし、図3の破線は本実施形態とは別の例であって、本実施形態では、一方側推定点と他方側推定点との離間距離と所定閾値との比較によって、誤検出か否かを判定している。
【0023】
近似線算出部43は、所定数の推定点セットに基づいて近似直線を算出し、その後に取得した推定点セットについても、離間距離が所定閾値未満である推定点セットは当該推定点を近似直線の演算要素に加えて所定数毎に近似直線を更新し、離間距離が所定閾値以上である推定点セットは当該誤検出点を近似直線上に移動させる。
【0024】
このように、近似線算出部43は、同一走査線上における一方側推定点と他方側推定点との離間距離が所定閾値未満(又は以上)であるか否かを判定する判定部と、離間距離が所定閾値未満である一方側推定点と他方側推定点のみを用いて近似直線を算出する算出部と、近似直線が計算(設定)された状態において、離間距離が所定閾値以上である一方側推定点と他方側推定点とを近似直線上に移動させるオフセット部と、を備えているといえる。
【0025】
所定閾値は、実験やシミュレーション等により、開先形状及び突き合わされた2つのワークW1、W2の厚みの差の少なくとも一方に基づいて予め設定されている。例えば、少なくとも一方のワークW1、W2の開先形状が、ダレを有する湾曲形状であった場合、開先形状が直角同士の状況に比べて、撮像データに影ができやすく、一方側推定点と他方側推定点とのずれ(離間距離)が大きくなりやすいと考えられる。また、同様に、例えば、ワークW1、W2の厚み(板厚)が異なる場合、厚みが同じである状況と比べて、撮像データに影ができやすく、一方側推定点と他方側推定点とのずれが大きくなりやすいと考えられる。このようにワークW1、W2の状態に応じて、予め所定閾値を設定することができる。
【0026】
位置制御部44は、近似直線を溶接線Sとして設定し、設定した当該溶接線S上を溶接するように溶接ヘッド3の溶接位置を制御するように構成されている。位置制御部44は、溶接ヘッド3の前進に伴って、溶接位置が近似直線上の座標を通るように、溶接ヘッド3の左右位置を調節する。溶接ヘッド3は、位置制御部44からの指令により、左右に移動する。位置制御部44は、画像センサ2及び溶接ヘッド3の前進中又は停止中に、画像センサ2の左右位置は固定のまま、溶接ヘッド3の左右位置を制御する。基本的に、画像センサ2と溶接ヘッド3とは、前後方向(Y軸方向)の離間距離を変化させずに一体的に前進する。
【0027】
本実施形態は、金属製品製造方法としても記載することができる。すなわち、本実施形態の金属製品製造方法は、シームトラッキングシステム1を用いてワークを溶接することで金属製品を製造する方法であって、図4に示すように、制御装置4が、撮像データの所定の走査線上の最も一方側に位置する、溶接線Sと推定される一方側推定点を検出する一方側検出工程S101と、制御装置4が、走査線上の最も他方側に位置する、溶接線Sと推定される他方側推定点を検出する他方側検出工程S102と、制御装置4が、複数の走査線で検出された一方側推定点及び他方側推定点に基づいて、近似直線を算出する近似線算出工程S103と、近似直線を溶接線Sに設定し、溶接線S上を溶接するように溶接ヘッド3の溶接位置を制御する位置制御工程S104と、を含み、近似線算出工程S103では、制御装置4が、同一の走査線上における離間距離が所定閾値以上である一方側推定点及び他方側推定点を除いて、近似直線を算出する。
【0028】
ここで、近似線算出工程S103は、制御装置4が、同一走査線上における一方側推定点と他方側推定点との離間距離を算出し、当該離間距離が所定閾値未満であるか否かを判定する判定工程S1031と、制御装置4が、離間距離が所定閾値未満である一方側推定点と他方側推定点のみを用いて近似直線を算出する算出工程S1032と、を含んでいる。
【0029】
検出された一方側推定点と他方側推定点との離間距離が所定閾値未満である場合(S1031:Yes)、制御装置4が、当該推定点を近似直線の算出で用いる演算要素として設定する(S1032)。制御装置4は、所定数の演算要素を取得すると、近似直線を算出する(S1032)。一方、検出された一方側推定点と他方側推定点との離間距離が所定閾値未満でない場合(S1031:No)、当該推定点を近似直線の算出で用いる点として設定せず、演算要素から除外する(S1033)。ここで、すでに近似直線が算出されている場合、制御装置4は、演算要素から除外される当該推定点を近似直線上にオフセットさせる(S1033)。つまり、本方法は、近似直線が算出されている場合において、検出された一方側推定点と他方側推定点との離間距離が所定閾値未満でない場合、制御装置4が、当該両推定点を近似直線上に移動させるオフセット工程S1033を含んでいる。例えば、このような処理の流れが、走査線毎に(本実施形態では撮像データ毎に)実行される。なお、工程S101、S102は同時進行で行われても良い。当該溶接を経て、金属製品(例えば車両用部品)が製造される。
【0030】
本実施形態によれば、一方側推定点と他方側推定点との離間距離(ずれ)の大小に基づいて、近似直線の演算要素の可否を判定するため、近似直線の算出前後にかかわらず誤検出を判定することができる。つまり、誤検出の判定に予め近似直線を算出する必要がなく、例えば推定点の検出毎に誤検出の判定をすることができる。これにより、容易に(素早く)溶接線を演算・設定することができる。
【0031】
また、走査線上の両推定点の離間距離が大きい場合、少なくとも一方の推定点がワークW1、W2の傷や影による誤検出である可能性が高く、それを演算要素から排除することで、溶接線の検出精度は維持又は向上される。また、画像センサ2自体の繰り返し検出によるバラツキが原因の誤検出も、演算要素から排除することができる。このように、本発明によれば、誤検出による溶接線の検出精度(トラッキング精度)の低減を抑制しつつ、より容易に溶接線を決定することができる。
【0032】
また、誤検出された推定点を近似直線上にオフセットさせることで、当該走査線に対して推定点を検出した事実を残しつつ(例えば制御装置4による未検出等のエラー認識を防ぎつつ)、後の近似直線の演算の妨げになることを抑制することができる。なお、制御装置4は、誤検出された推定点を削除したり、誤検出点として認識したりするように構成されても良い。
【0033】
また、所定閾値が開先形状及び突き合わされた2つの前記ワークの厚みの差の少なくとも一方に基づいて決定されることで、より対象ワークWの状態や2つのワークW1、W2の組み合わせに応じた溶接が可能となる。例えば、図5に示すように、一方のワークW1の突き合わせ部分にダレが形成されている場合(及び/又は互いに厚みが異なる場合)、当該ダレ等でできる影の影響を考慮して所定閾値を設定することで、対象ワークWの状態に応じた精度の良い溶接線Sの検出が可能となる。
【0034】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、近似線算出部43は、近似曲線を算出するように設定されても良い。また、推定点の検出は、上記実施形態のように、一方側推定点を撮像データの一端から他端に向けた画像処理(検出処理)により検出し、他方側推定点を撮像データの他端から一端に向けた画像処理により検出することが効率的であるが、それ以外の方法で実行されても良い。また、1つの撮像データに複数の走査線(検出線ともいえる)を設定しても良い。また、各推定点は検出点ともいえる。
【0035】
また、制御装置4には、所定閾値の他に、X座標において一方側限界値(上限値)及び他方側限界値(下限値)が設定されても良い。この場合、例えば、近似線算出部43は、一方側推定点及び他方側推定点の少なくとも一方が一方側限界値よりも一方側にある場合、又は一方側推定点及び他方側推定点の少なくとも一方が他方側限界値よりも他方側にある場合、離間距離の大小にかかわらず、当該両推定点を近似直線の演算要素から除くように構成されても良い。また、これらの推定点を近似直線上にオフセットさせても良い。このような構成にすることで、明らかに誤検出である場合には、離間距離の演算を省略することができる。また、離間距離は所定閾値未満であるが共に限界値の外側にある推定点についても、演算要素から除外することができる。つまり、より精度の低減を抑制することができる。
【0036】
また、近似直線の演算要素(推定点)の設定は上記実施形態に限られない。例えば、近似直線の演算要素として一方側推定点と他方側推定点との中間点を用いるのではなく、近似直線の演算要素が予め設定された側の推定点(一方側推定点又は他方側推定点)に近づくように、重み付けをしたうえで近似直線の演算要素を決定しても良い。例えば、図5及び図6に示すように、一方のワークW1の突き合わせ部分にのみダレがある場合、当該ダレにより一方側推定点のみが実際の溶接線Sから離れて検出される可能性が高い。このような場合、離間距離が所定閾値未満である一方側推定点及び他方側推定点のうち、他方側推定点のみを用いて、又は中間点よりも他方側推定点に近い点を用いて、近似直線を算出しても良い。これにより、さらに対象ワークWの状態・組み合わせに応じた溶接線Sの決定が可能となる。重み付けは、例えば、実験等により、開先形状やワークW1、W2の厚みの差などに基づいて決定することができる。複数の演算要素が設定されれば、近似直線又は近似曲線の算出は、公知の方法で実行できる。
【符号の説明】
【0037】
1…シームトラッキングシステム、2…画像センサ、21…カメラ、22…光源、3…溶接ヘッド、4…制御装置、41…一方側検出部、42…他方側検出部、43…近似線算出部、44…位置制御部、W…対象ワーク、W1、W2…ワーク。
【要約】
【課題】誤検出による溶接線の検出精度の低減を抑制しつつ、より容易に溶接線を決定することができるシームトラッキングシステムを提供する。
【解決手段】本発明は、撮像データの所定の走査線上の最も一方側に位置する、溶接線Sと推定される一方側推定点を検出する一方側検出部41と、走査線上の最も他方側に位置する、溶接線Sと推定される他方側推定点を検出する他方側検出部42と、複数の走査線上で検出された一方側推定点及び他方側推定点に基づいて、近似直線又は近似曲線を算出する近似線算出部43と、近似直線又は近似曲線を溶接線Sに設定し、溶接線S上を溶接するように溶接ヘッド3の溶接位置を制御する位置制御部44と、を備え、近似線算出部43は、同一の走査線上における離間距離が所定閾値以上である一方側推定点及び他方側推定点を除いて、近似直線又は近似曲線を算出する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6