特許第6343717号(P6343717)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343717
(24)【登録日】2018年5月25日
(45)【発行日】2018年6月13日
(54)【発明の名称】粘着剤、粘着シートおよび表示体
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/14 20060101AFI20180604BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20180604BHJP
   C09J 7/00 20180101ALI20180604BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20180604BHJP
【FI】
   C09J133/14
   C09J11/06
   C09J7/00
   G06F3/041 495
【請求項の数】9
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-525735(P2017-525735)
(86)(22)【出願日】2015年6月30日
(86)【国際出願番号】JP2015068905
(87)【国際公開番号】WO2017002218
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2017年12月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小澤 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】荒井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 洋一
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/081032(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/175306(WO,A1)
【文献】 特開2011−153169(JP,A)
【文献】 特開2012−153827(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00〜201/10
G06F 3/041
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材とを貼合するための粘着剤を形成する粘着性組成物を架橋してなる粘着剤であって、
前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材は、少なくとも貼合される側の面に、酸化されていない金属を主成分とする金属電極を有し、
前記粘着性組成物が、
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、
メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)と
を含有し、
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを15質量%以上、35質量%以下含有し、
前記粘着剤のゲル分率が、30%以上、90%以下である
ことを特徴とする粘着剤。
【請求項2】
前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)は、メルカプト基含有オリゴマー型シランカップリング剤であることを特徴とする請求項1に記載の粘着剤。
【請求項3】
前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)を構成する有機ケイ素化合物のメルカプト基当量は、100g/モル以上、1000g/モル以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の粘着剤。
【請求項4】
前記粘着性組成物中における前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)の含有量は、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上、5質量部以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の粘着剤。
【請求項5】
前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50質量%以上、85質量%以下含有し、さらに、前記アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、ホモポリマーとしてのガラス転移温度が0℃を超えるハードモノマーと、ホモポリマーとしてのガラス転移温度が0℃以下のソフトモノマーとを、5:95〜40:60の質量比で含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘着剤。
【請求項6】
前記粘着性組成物は、さらに架橋剤(C)を含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の粘着剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の粘着剤からなる粘着剤層を有する粘着シート。
【請求項8】
前記粘着シートは、2枚の剥離シートを備えており、
前記粘着剤層は、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持されている
ことを特徴とする請求項7に記載の粘着シート。
【請求項9】
少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、
第2の表示体構成部材と、
前記第1の表示体構成部材および前記第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層と
を備えた表示体であって、
前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に、酸化されていない金属を主成分とする金属電極を有し、
前記粘着剤層が、請求項7または8に記載の粘着シートの粘着剤層である
ことを特徴とする表示体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル等の表示体に使用することのできる粘着性組成物、粘着剤および粘着シート、ならびにそれらを使用した表示体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のスマートフォンやタブレット端末等の各種モバイル電子機器では、ディスプレイとして、タッチパネルが使用されることが多くなってきている。タッチパネルの方式としては、抵抗膜方式、静電容量方式等があるが、上記のようなモバイル電子機器では、静電容量方式が主として採用されている。
【0003】
最近はタッチパネルの大型化が図られており、かかるタッチパネル用の電極材料として、メッシュ状の金属電極、例えば銅電極または銀電極が検討されている。しかし、従来の粘着剤を金属電極、特に銅電極または銀電極に接触させて使用すると、イオンマイグレーション(=エレクトロケミカルマイグレーション;以下単に「マイグレーション」という。)が発生する場合がある。具体的には、正極では電極が溶解して断線したり、負極では正極成分の析出によるデンドライトが形成されて短絡が生じたりする。
【0004】
このマイグレーションは、高温高湿下で電極に電圧が印加されたときに特に発生し易い。このようなマイグレーションが発生すると、タッチパネルが正常に駆動しなくなってしまう。特に、電極の微細化や狭ピッチ化が進んでいる最近では、マイグレーションによる電極の断線・短絡が発生し易くなっている。
【0005】
ところで、特許文献1には、防錆剤としてベンゾトリアゾール化合物を含有する、タッチパネル用の粘着剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−177611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、防錆剤としてのベンゾトリアゾール化合物は、金属配線の腐食防止効果はあったとしても、マイグレーションを十分に防止・抑制することはできなかった。
【0008】
本発明は、上記のような実状に鑑みてなされたものであり、マイグレーションを効果的に防止・抑制することのできる粘着性組成物、粘着剤、粘着シートおよび表示体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1に本発明は、少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材とを貼合するための粘着剤を形成する粘着性組成物であって、前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に電極を有し、前記粘着性組成物が、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)とを含有することを特徴とする粘着性組成物を提供する(発明1)。
【0010】
上記発明(発明1)に係る粘着性組成物から得られる粘着剤によれば、特にメルカプト基を有するシランカップリング剤(B)の作用により、当該粘着剤が接触する第1の表示体構成部材および/または第2の表示体構成部材の電極におけるマイグレーションを効果的に防止・抑制することができる。
【0011】
上記発明(発明1)において、前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)は、メルカプト基含有オリゴマー型シランカップリング剤であることが好ましい(発明2)。
【0012】
上記発明(発明1,2)において、前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)を構成する有機ケイ素化合物のメルカプト基当量は、100g/モル以上、1000g/モル以下であることが好ましい(発明3)。
【0013】
上記発明(発明1〜3)において、前記粘着性組成物中における前記メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)の含有量は、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、0.01質量部以上、5質量部以下であることが好ましい(発明4)。
【0014】
上記発明(発明1〜4)において、前記(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを3質量%以上、35質量%以下含有することが好ましい(発明5)。
【0015】
上記発明(発明1〜5)において、前記粘着性組成物は、さらに架橋剤(C)を含有することが好ましい(発明6)。
【0016】
第2に本発明は、前記粘着性組成物(発明1〜6)を架橋してなる粘着剤を提供する(発明7)。
【0017】
第3に本発明は、前記粘着剤(発明7)からなる粘着剤層を有する粘着シートを提供する(発明8)。
【0018】
上記発明(発明8)において、前記粘着シートは、2枚の剥離シートを備えており、前記粘着剤層は、前記2枚の剥離シートの剥離面と接するように前記剥離シートに挟持されていることが好ましい(発明9)。
【0019】
第4に本発明は、少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材と、前記第1の表示体構成部材および前記第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層とを備えた表示体であって、前記第1の表示体構成部材および/または前記第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に電極を有し、前記粘着剤層が前記粘着シート(発明8,9)の粘着剤層であることを特徴とする表示体を提供する(発明10)。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る粘着性組成物、粘着剤、粘着シートおよび表示体によれば、マイグレーションを効果的に防止・抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る粘着シートの断面図である。
図2】タッチパネルの一構成例を示す断面図である。
図3】試験例3のマイグレーション防止効果の評価における評価基準の参考画像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。
〔粘着性組成物〕
本実施形態に係る粘着性組成物(以下「粘着性組成物P」という場合がある。)は、少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材(第1の表示体構成部材および/または第2の表示体構成部材は、少なくとも貼合される側の面に電極を有する)とを貼合するための粘着剤を形成する粘着性組成物であって、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)とを含有し、好ましくはさらに架橋剤(C)を含有する。本明細書において、(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。また、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。なお、表示体および表示体構成部材については、後述する。
【0023】
本実施形態に係る粘着性組成物Pがメルカプト基を有するシランカップリング剤(B)を含有することにより、粘着性組成物Pから得られる粘着剤が電極に接触したときに、正極では電極が溶解することが防止・抑制され、負極ではデンドライトが形成されることが防止・抑制される。すなわち、電極におけるマイグレーションが効果的に防止・抑制される(本効果を「マイグレーション防止効果」という場合がある)。これにより、上記粘着剤が、例えば微細化・狭ピッチ化された電極に接触したときにも、電極の断線や短絡が防止される。特に上記電極がタッチパネルの電極の場合には、電極の断線や短絡に起因するタッチパネルの駆動不良が防止される。
【0024】
ここで、上記電極としては、例えば、銅、銀等からなる金属電極(メッシュ状・グリッド状のものを含む)、スズドープ酸化インジウム(ITO)等からなる透明導電膜(パターニングされたものを含む)などが挙げられる。上記電極の中でも、酸化されていない金属を主成分とする金属電極、具体的には、銅または銀からなる金属電極が好ましい。酸化されていない金属は、ITO等の金属酸化物よりもイオン化傾向が高いが、本実施形態に係る粘着性組成物Pから得られる粘着剤によれば、その場合でも、電極の断線や短絡が効果的に防止される。
【0025】
また、メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)を含有する粘着性組成物Pから得られる粘着剤からなる粘着剤層は、被着体である表示体構成部材との界面に、メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)由来の成分が存在することにより、表示体構成部材との密着性が高く、段差追従性に優れたものとなる。具体的には、当該粘着剤層を、段差を有する表示体構成部材に貼付し、高温高湿条件に所定時間(例えば、85℃、85%RHにて72時間)曝した場合であっても、段差近傍に気泡、浮き、はがれ等が生じることが抑制される(高温高湿条件下での段差追従性に優れる)。これにより、段差近傍にて光の反射損失が生じることが抑制され、表示体の画質を良好に維持することができる。
【0026】
(1)(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することで、好ましい粘着性を発現することができる。かかる観点から、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、下限値として50質量%以上含有することが好ましく、特に60質量%以上含有することが好ましく、さらには70質量%以上含有することが好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50質量%以上含有すると、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は好適な粘着性を発揮することができる。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを、上限値として97質量%以下含有することが好ましく、特に90質量%以下含有することが好ましく、さらには85質量%以下含有することが好ましい。上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルを97質量%以下含有することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に他のモノマー成分を好適な量導入することができる。
【0027】
アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル等が挙げられ、中でも、粘着性をより向上させる観点から、アルキル基の炭素数が4〜8の(メタ)アクリル酸エステルが含まれることが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルにおけるアルキル基とは、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキル基をいう。
【0028】
また、アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃を超える(好ましくは70℃以上の)ハードモノマーと、ホモポリマーとしてのガラス転移温度(Tg)が0℃以下のソフトモノマーとを組み合わせて使用することも好ましい。ソフトモノマーにより粘着性および柔軟性を確保しつつ、ハードモノマーで凝集力を向上させることにより、ディスプレイパネル(タッチパネル)における段差追従性をより優れたものにすることができるからである。
【0029】
上記ハードモノマーとソフトモノマーとの質量比は、5:95〜40:60であることが好ましく、特に20:80〜30:70であることが好ましい。
【0030】
上記ハードモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル(Tg10℃)、メタクリル酸メチル(Tg105℃)、アクリル酸イソボルニル(Tg94℃)、メタクリル酸イソボルニル(Tg180℃)、アクリル酸アダマンチル(Tg115℃)、メタクリル酸アダマンチル(Tg141℃)等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
上記ハードモノマーの中でも、粘着性や透明性等の他の特性への悪影響を防止しつつハードモノマーの性能をより発揮させる観点から、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸イソボルニルが好ましい。粘着性をも考慮すると、アクリル酸メチルおよびメタクリル酸メチルがより好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0032】
上記ソフトモノマーとしては、炭素数が2〜12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルが好ましく挙げられる。例えば、アクリル酸2−エチルヘキシル(Tg−70℃)、アクリル酸n−ブチル(Tg−54℃)等が好ましく挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマーを含むことが好ましい。この反応性官能基含有モノマー由来の反応性官能基は、後述する架橋剤(C)と反応し、これにより架橋構造(三次元網目構造)が形成され、所望の凝集力を有する粘着剤が得られる。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として含有する反応性官能基含有モノマーとしては、分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)、分子内にカルボキシル基を有するモノマー(カルボキシル基含有モノマー)、分子内にアミノ基を有するモノマー(アミノ基含有モノマー)などが好ましく挙げられる。これらの中でも、架橋剤(C)との反応性および耐湿熱白化性に優れ、電極への悪影響の少ない水酸基含有モノマーが特に好ましい。
【0035】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。中でも、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)における水酸基の架橋剤(C)との反応性および他の単量体との共重合性の点から(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルまたは(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。中でも、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)におけるカルボキシル基の架橋剤(C)との反応性および他の単量体との共重合性の点からアクリル酸が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
アミノ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸n−ブチルアミノエチル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを、下限値として3質量%以上含有することが好ましく、特に10質量%以上含有することが好ましく、さらには15質量%以上含有することが好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、水酸基含有モノマーを、上限値として35質量%以下含有することが好ましく、特に30質量%以下含有することが好ましく、さらには25質量%以下含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)がモノマー単位として上記の量で水酸基含有モノマーを含有すると、得られる粘着剤中に、所定量の水酸基が残存することとなる。水酸基は親水性基であり、そのような親水性基が所定量粘着剤中に存在すると、粘着剤が高温高湿条件下に置かれた場合でも、その高温高湿条件下で粘着剤に浸入した水分との相溶性が良く、その結果、常温常湿に戻したときの粘着剤の白化が抑制されることとなる(耐湿熱白化性に優れる)。
【0039】
白化抑制の程度としては、高温高湿条件を施した後、常温常湿に戻したときの粘着剤層のヘイズ値(JIS K7136:2000に準じて測定した値)が、1.0%以下であることが好ましく、特に0.9%以下であることが好ましく、さらには0.8%以下であることが好ましい。なお、粘着剤層は、常態時でも上記のようなヘイズ値を有することが好ましい。ヘイズ値が1.0%以下であると、透明性が非常に高く、光学用途として好適なものとなる。
【0040】
ただし、上記のように親水性基が所定量粘着剤中に存在すると、粘着剤は水を取り込み易くなり、当該粘着剤に接触する電極にマイグレーションが発生し易くなる。しかしながら、本実施形態に係る粘着性組成物Pは、メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)を含有することにより、接触する電極にマイグレーションが発生することを効果的に防止・抑制することができる。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、当該重合体を構成するモノマー単位として、カルボキシル基含有モノマーを含有しないことが好ましいが、所定量含有することは許容される。カルボキシル基は酸成分であるため、通常は対象部材のマイグレーションが懸念されるが、本実施形態に係る粘着剤は、メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)を含有する粘着性組成物Pから得られることにより、カルボキシル基が存在しても、マイグレーション防止効果を発揮することができるからである。具体的には、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)中に、モノマー単位として、カルボキシル基含有モノマーを5質量%以下、好ましくは2質量%以下の量で含有することが許容される。
【0042】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、所望により、当該重合体を構成するモノマー単位として、他のモノマーを含有してもよい。他のモノマーとしては、反応性官能基含有モノマーの作用を妨げないためにも、反応性を有する官能基を含まないモノマーが好ましい。かかる他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリロイルモルホリン等の非架橋性の3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0044】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の下限値は、20万以上であることが好ましく、特に30万以上であることが好ましく、さらには40万以上であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の下限値が上記以上であると、粘着剤が高温高湿条件下での段差追従性に優れたものとなる。なお、本明細書における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0045】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の上限値は、100万以下であることが好ましく、特に90万以下であることが好ましく、さらには70万以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重量平均分子量の上限値が上記以下であると、粘着剤が貼付時の段差追従性に優れたものとなる。
【0046】
なお、粘着性組成物Pにおいて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
(2)メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)
メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)は、分子内にメルカプト基を少なくとも1個、アルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物から構成される。得られる粘着剤の用途を考慮すると、メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)は、光透過性を有するもの、例えば実質上透明なものが好適である。
【0048】
メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)の具体例としては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有低分子型シランカップリング剤;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有シラン化合物と、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有シラン化合物との共縮合物などのメルカプト基含有オリゴマー型シランカップリング剤などが挙げられる。中でも、マイグレーション防止効果により優れ、作業性も良好なメルカプト基含有オリゴマー型シランカップリング剤が好ましく、特にメルカプト基含有シラン化合物とアルキル基含有シラン化合物との共縮合物が好ましく、さらには3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとメチルトリエトキシシランとの共縮合物が好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)を構成する有機ケイ素化合物のメルカプト基当量の下限値は、100g/モル以上であることが好ましく、特に120g/モル以上であることが好ましく、さらには150g/モル以上であることが好ましい。下限値を上記のように設定することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)との極性差を適切な範囲内とし、上記シランカップリング剤(B)の粘着剤中への分散性を好適なものとすることができる。
【0050】
メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)を構成する有機ケイ素化合物のメルカプト基当量の上限値は、1000g/モル以下であることが好ましく、特に800g/モル以下であることが好ましく、さらには500g/モル以下であることが好ましい。上限値を上記のように設定することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)との相分離による光学特性の悪化を防止することができる。
【0051】
粘着性組成物P中におけるメルカプト基を有するシランカップリング剤(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、下限値として0.01質量部以上であることが好ましく、特に0.05質量部以上であることが好ましく、さらには0.1質量部以上であることが好ましい。また、上限値として5質量部以下であることが好ましく、特に1.5質量部以下であることが好ましく、さらには1.0質量部以下であることが好ましい。メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)の含有量が上記の範囲にあることで、マイグレーション防止効果がより優れたものとなる。
【0052】
また、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100g当たりの、シランカップリング剤(B)におけるメルカプト基のモル数(メルカプト基量)の下限値は、0.01mmol以上であることが好ましく、特に0.1mmol以上であることが好ましく、さらには0.2mmol以上であることが好ましい。また、上記モル数の上限値は、30mmol以下であることが好ましく、特に5mmol以下であることが好ましく、さらには1.5mmol以下であることが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)に対するシランカップリング剤(B)のメルカプト基のモル数が上記範囲にあることで、マイグレーション防止効果をより優れたものにすることができる。
【0053】
(3)架橋剤(C)
粘着性組成物Pは、架橋剤(C)を含有することが好ましい。粘着性組成物Pは、架橋剤(C)を含有することで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を架橋して三次元網目構造を形成し、得られる粘着剤の凝集力を向上させ、高温高湿条件下での段差追従性をより向上させることができる。
【0054】
架橋剤(C)としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が有する反応性基と反応するものであればよく、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が、当該重合体を構成するモノマー単位として水酸基含有モノマーを含有する場合、その水酸基との反応性に優れたイソシアネート系架橋剤を使用することが好ましい。なお、架橋剤(C)は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0055】
イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。中でも水酸基との反応性の観点から、トリメチロールプロパン変性の芳香族ポリイソシアネート、特にトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートが好ましい。
【0056】
粘着性組成物P中における架橋剤(C)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部に対して、下限値として0.001質量部以上であることが好ましく、特に0.01質量部以上であることが好ましく、さらには0.02質量部以上であることが好ましい。また、上限値として10質量部以下であることが好ましく、特に5質量部以下であることが好ましく、さらには1質量部以下であることが好ましい。
【0057】
架橋剤(C)の含有量が上記の範囲にあることにより、得られる粘着剤の凝集力が好ましいものとなり、粘着剤の段差追従性、特に高温高湿条件下での段差追従性がより向上する。
【0058】
(4)各種添加剤
粘着性組成物Pには、所望により、アクリル系粘着剤に通常使用されている各種添加剤、例えば帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、充填剤、屈折率調整剤などを添加することができる。また、前述のメルカプト基を有するシランカップリング剤(B)とは別に、その他のシランカップリング剤を併せて添加してもよい。ただし、防錆剤、特にベンゾトリアゾール系防錆剤は、粘着性組成物Pの架橋を阻害する作用を有するため、添加しないことが好ましい。
【0059】
なお、粘着性組成物Pは、粘着剤層中に、そのまま、あるいは反応した状態で、残存する各種成分の混合物を表すものであって、乾燥工程等で除去される成分、例えば、後述の重合溶媒や希釈溶媒は、粘着性組成物Pに含まれない。
【0060】
(5)粘着性組成物の製造
粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を製造し、得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)と、メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)とを混合するとともに、所望により、架橋剤(C)および添加剤を加えることで製造することができる。
【0061】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)は、重合体を構成するモノマー単位の混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法等により行うことができる。重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0062】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン1−カルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2'−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]等が挙げられる。
【0063】
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0064】
なお、上記重合工程において、2−メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
【0065】
(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)が得られたら、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の溶液に、メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)、ならびに所望により、架橋剤(C)、添加剤および希釈溶剤を添加し、十分に混合することにより、溶剤で希釈された粘着性組成物P(塗布溶液)を得る。
【0066】
上記希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0067】
このようにして調製された塗布溶液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、粘着性組成物Pの濃度が10〜40質量%となるように希釈する。なお、塗布溶液を得るに際して、希釈溶剤等の添加は必要条件ではなく、粘着性組成物Pがコーティング可能な粘度等であれば、希釈溶剤を添加しなくてもよい。この場合、粘着性組成物Pは、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の重合溶媒をそのまま希釈溶剤とする塗布溶液となる。
【0068】
〔粘着剤〕
本実施形態に係る粘着剤は、前述した粘着性組成物Pを架橋してなるものである。粘着性組成物Pの架橋は、加熱処理により行うことができる。なお、この加熱処理は、塗布した粘着性組成物Pの希釈溶剤等を揮発させる際の乾燥処理で兼ねることもできる。
【0069】
加熱処理を行う場合、加熱温度は、50〜150℃であることが好ましく、特に70〜120℃であることが好ましい。また、加熱時間は、30秒〜10分であることが好ましく、特に50秒〜2分であることが好ましい。加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で1〜2週間程度の養生期間を設けてもよい。この養生期間が必要な場合は、養生期間経過後、養生期間が不要な場合には、加熱処理終了後、粘着剤層が形成される。
【0070】
本実施形態に係る粘着剤のゲル分率の下限値は、30%以上であることが好ましく、特に40%以上であることが好ましく、さらには50%以上であることが好ましい。粘着剤のゲル分率の下限値が上記以上であると、粘着剤の凝集力が高くなり、高温高湿条件下での段差追従性に優れたものとなる。また、上記ゲル分率の上限値は、90%以下であることが好ましく、特に85%以下であることが好ましく、さらには80%以下であることが好ましい。粘着剤のゲル分率の上限値が上記以下であると、粘着剤が硬くなり過ぎず、貼付時の段差追従性が優れたものとなる。ここで、粘着剤のゲル分率の測定方法は、後述する試験例に示す通りである。
【0071】
〔粘着シート〕
図1に示すように、本実施形態に係る粘着シート1は、2枚の剥離シート12a,12bと、それら2枚の剥離シート12a,12bの剥離面と接するように当該2枚の剥離シート12a,12bに挟持された粘着剤層11とから構成される。ただし、粘着シート1において剥離シート12a,12bは必須の構成要素ではなく、粘着シート1の使用時に剥離・除去されるものである。なお、本明細書における剥離シートの剥離面とは、剥離シートにおいて剥離性を有する面をいい、剥離処理を施した面および剥離処理を施さなくても剥離性を示す面のいずれをも含むものである。
【0072】
(1)粘着剤層
粘着剤層11は、前述した粘着剤から構成される。粘着剤層11の厚さ(JIS K7130に準じて測定した値)の下限値は、10μm以上であることが好ましく、特に25μm以上であることが好ましく、さらには50μm以上であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの下限値が上記以上であることにより、優れた粘着力が十分に発揮される。また、粘着剤層11の厚さの上限値は、300μm以下であることが好ましく、特に250μm以下であることが好ましく、さらには100μm以下であることが好ましい。粘着剤層11の厚さの上限値が上記以下であることにより、加工性が良好になる。なお、粘着剤層11は単層で形成してもよいし、複数層を積層して形成することもできる。
【0073】
(2)剥離シート
剥離シート12a,12bとしては、特に限定されることはなく、公知のプラスチックフィルムを用いることができる。例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
【0074】
上記剥離シート12a,12bの剥離面(特に粘着剤層11と接する面)には、剥離処理が施されていることが好ましい。剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。なお、剥離シート12a,12bのうち、一方の剥離シートを剥離力の大きい重剥離型剥離シートとし、他方の剥離シートを剥離力の小さい軽剥離型剥離シートとすることが好ましい。
【0075】
剥離シート12a,12bの厚さについては特に制限はないが、通常20〜150μm程度である。
【0076】
(3)粘着シートの製造
粘着シート1の一製造例としては、一方の剥離シート12a(または12b)の剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを架橋し、塗布層を形成した後、その塗布層に他方の剥離シート12b(または12a)の剥離面を重ね合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。加熱処理および養生の条件については、前述した通りである。
【0077】
粘着シート1の他の製造例としては、一方の剥離シート12aの剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12aを得る。また、他方の剥離シート12bの剥離面に、上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布し、加熱処理を行って粘着性組成物Pを架橋し、塗布層を形成して、塗布層付きの剥離シート12bを得る。そして、塗布層付きの剥離シート12aと塗布層付きの剥離シート12bとを、両塗布層が互いに接触するように貼り合わせる。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、上記の積層された塗布層が粘着剤層11となる。これにより、上記粘着シート1が得られる。この製造例によれば、粘着剤層11が厚い場合であっても、安定して製造することが可能となる。
【0078】
上記粘着性組成物Pの塗布液を塗布する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を利用することができる。
【0079】
(4)粘着力
本実施形態に係る粘着シート1のソーダライムガラスに対する粘着力の下限値は、5N/25mm以上であることが好ましく、特に8N/25mm以上であることが好ましく、さらには10N/25mm以上であることが好ましい。粘着シート1の粘着力の下限値が上記以上であると、高温高湿条件下での段差追従性に優れたものとなる。一方、上記粘着力の上限値は特に制限されないが、使用時における剥離シート12a,12bの粘着剤層11からの剥がし易さ等を考慮すれば、50N/25mm以下であることが好ましく、特に30N/25mm以下であることが好ましい。さらにリワーク性をも考慮すれば、26N/25mm以下であることが好ましい。その場合、貼合ミスが生じた場合でも表示体構成部材の再利用が容易となる。
【0080】
ここで、本明細書における粘着力は、基本的にはJIS Z0237:2009に準じた180度引き剥がし法により測定した粘着力をいうが、測定サンプルは25mm幅、100mm長とし、当該測定サンプルを被着体に貼付し、0.5MPa、50℃で20分加圧した後、常圧、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、剥離速度300mm/minにて測定するものとする。
【0081】
〔表示体〕
本実施形態に係る表示体は、少なくとも貼合される側の面に段差を有する第1の表示体構成部材と、第2の表示体構成部材と、第1の表示体構成部材および第2の表示体構成部材を互いに貼合する粘着剤層とを備える。当該粘着剤層は、前述した本実施形態に係る粘着剤からなる。ここで、第1の表示体構成部材および/または第2の表示体構成部材は、少なくとも貼合される側(粘着剤層側)の面に電極を有する。好ましい構成としては、第2の表示体構成部材が、少なくとも貼合される側の面に電極を有する。
【0082】
表示体としては、例えば、液晶(LCD)ディスプレイ、発光ダイオード(LED)ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ、電子ペーパー等が挙げられ、タッチパネルであってもよい。また、表示体としては、それらの一部を構成する部材であってもよい。
【0083】
第1の表示体構成部材は、ガラス板、プラスチック板等の他、それらを含む積層体などからなる保護パネルであることが好ましい。第1の表示体構成部材は、粘着剤層側の面に段差を有しており、具体的には、印刷層による段差を有することが好ましい。この印刷層は、額縁状に形成されることが一般的である。
【0084】
上記ガラス板としては、特に限定されることなく、例えば、化学強化ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、ソーダライムガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、アルミノケイ酸ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス等が挙げられる。ガラス板の厚さは、特に限定されないが、通常は0.1〜5mmであり、好ましくは0.2〜2mmである。
【0085】
上記プラスチック板としては、特に限定されることなく、例えば、アクリル板、ポリカーボネート板等が挙げられる。プラスチック板の厚さは、特に限定されないが、通常は0.2〜5mmであり、好ましくは0.4〜3mmである。
【0086】
なお、上記ガラス板やプラスチック板の片面または両面には、各種の機能層(電極層、シリカ層、ハードコート層、防眩層等)が設けられていてもよいし、光学部材が積層されていてもよい。
【0087】
印刷層を構成する材料は特に限定されることなく、印刷用の公知の材料が使用される。印刷層の厚さ、すなわち段差の高さの下限値は、3μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましく、7μm以上であることが特に好ましく、10μm以上であることが最も好ましい。下限値が上記以上であることにより、電気配線を視認者側から見えなくする等の隠蔽性を十分に確保することができる。また、上限値は、50μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましく、25μm以下であることが特に好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。上限値が上記以下であることにより、当該印刷層に対する粘着剤層の段差追従性の悪化を防止することができる。
【0088】
第2の表示体構成部材は、第1の表示体構成部材に貼付されるべき光学部材、表示体モジュール(例えば、液晶(LCD)モジュール、発光ダイオード(LED)モジュール、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)モジュール等)、表示体モジュールの一部としての光学部材、または表示体モジュールを含む積層体であって、少なくとも粘着剤層側の面に電極を有するものであることが好ましい。
【0089】
上記光学部材としては、例えば、電極フィルム、透明導電性フィルム、フィルムセンサー、金属ナノワイヤーフィルム、ワイヤーグリッド偏光フィルム等が挙げられる。
【0090】
上記電極としては、例えば、銅、銀等からなる金属電極(メッシュ状・グリッド状のものを含む)、スズドープ酸化インジウム(ITO)等からなる透明導電膜(パターニングされたものを含む)などが挙げられる。前述した通り、上記電極の中でも、酸化されていない金属を主成分とする金属電極、具体的には、銅または銀からなる金属電極が好ましい。
【0091】
本実施形態に係る表示体の一例として、図2に静電容量方式のタッチパネル2を示す。タッチパネル2は、表示体モジュール3と、その上に粘着剤層4を介して積層された第1のフィルムセンサー5aと、その上に第1の粘着剤層11を介して積層された第2のフィルムセンサー5bと、その上に第2の粘着剤層11を介して積層されたカバー材6とを備えて構成される。カバー材6の第2の粘着剤層11側の面には、印刷層7が形成されており、したがって、印刷層7の有無による段差が存在する。本実施形態では、カバー材6が上記第1の表示体構成部材に該当し、第2のフィルムセンサー5bが上記第2の表示体構成部材に該当する。
【0092】
上記タッチパネル2における少なくとも第2の粘着剤層11は、上記粘着シート1の粘着剤層11であり、マイグレーション防止効果を考慮すれば、第1の粘着剤層11および第2の粘着剤層11の両者とも上記粘着シート1の粘着剤層11であることが好ましい。なお、第1の粘着剤層11が上記粘着シート1の粘着剤層11でない場合、当該第1の粘着剤層11を構成する粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられ、中でもアクリル系粘着剤が好ましい。
【0093】
粘着剤層4は、上記粘着シート1の粘着剤層11によって形成してもよいし、他の粘着剤または粘着シートによって形成してもよい。後者の場合、粘着剤層4を構成する粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられるが、中でもアクリル系粘着剤が好ましい。
【0094】
本実施形態における第1のフィルムセンサー5aおよび第2のフィルムセンサー5bは、それぞれ基材フィルム51と、基材フィルム51に形成された電極52とを備える。基材フィルム51としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、アクリルフィルム、ポリカーボネートフィルム等が使用される。
【0095】
電極52は、例えば、銅、銀等からなる金属電極、スズドープ酸化インジウム(ITO)等からなるパターン化透明導電膜などからなる。
【0096】
第1のフィルムセンサー5aの電極52および第2のフィルムセンサー5bの電極52は、通常、一方がX軸方向の回路パターンを構成し、他方がY軸方向の回路パターンを構成する。
【0097】
本実施形態における第2のフィルムセンサー5bの電極52は、図2中、第2のフィルムセンサー5bの上側に位置している。一方、第1のフィルムセンサー5aの電極52は、図2中、第1のフィルムセンサー5aの上側に位置しているが、これに限定されるものではなく、第1のフィルムセンサー5aの下側に位置してもよい。
【0098】
上記タッチパネル2の製造方法の一例を、以下に説明する。
粘着シート1として、第1の粘着シート1および第2の粘着シート1を用意する。第1の粘着シート1から一方の剥離シート12aを剥離し、露出した粘着剤層11(第1の粘着剤層)を、第1のフィルムセンサー5aの電極52と接するように、当該第1のフィルムセンサー5aと貼合する。また、第2の粘着シート1から一方の剥離シート12aを剥離し、露出した粘着剤層11(第2の粘着剤層11)を、第2のフィルムセンサー5bの電極52と接するように、当該第2のフィルムセンサー5bと貼合する。
【0099】
そして、第1の粘着シートにおける他方の剥離シート12bを剥離し、露出した第1の粘着剤層11が、上記第2のフィルムセンサー5bにおける第2の粘着剤層11が積層された側とは反対側の面(第1のフィルムセンサー5bの基材フィルム51の露出面)に接するように、両者を貼合する。これにより、剥離シート12b、第2の粘着剤層11、第2のフィルムセンサー5b、第1の粘着剤層11および第1のフィルムセンサー5aが順次積層されてなる積層体が得られる。
【0100】
次に、上記積層体の第1のフィルムセンサー5a側の面(第1のフィルムセンサー5aの基材フィルム51の露出面)に、剥離シート上に設けられた粘着剤層4を貼合する。続いて、上記積層体から剥離シート12bを剥離し、露出した第2の粘着剤層11に対して、カバー材6の印刷層7側が当該第2の粘着剤層11に接するように、当該カバー材6を貼合する。このとき、第2の粘着剤層11は、貼付時の段差追従性に優れるため、印刷層7による段差近傍に隙間や浮きが生じることが抑制される。上記貼合により、カバー材6、第2の粘着剤層11、第2のフィルムセンサー5b、第1の粘着剤層11、第1のフィルムセンサー5a、粘着剤層4および剥離シートが順次積層されてなる構成体が得られる。
【0101】
最後に、上記構成体から剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層4が表示体モジュール3に接するように、当該構成体を表示体モジュール3に貼合する。これにより、図2に示されるタッチパネル2が製造される。
【0102】
上記タッチパネル2が高温高湿条件下に置かれ、その状態で電極52に電圧が印加された場合でも、電極52に接触している粘着剤層11が、メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)に由来する成分を含有することにより、電極52のマイグレーションが効果的に抑制される。これにより、電極52の断線や短絡に起因するタッチパネル2の駆動不良が防止される。
【0103】
また、上記粘着剤層11は高温高湿条件下でも段差追従性に優れるため、タッチパネル2が、高温高湿条件に所定時間(例えば、85℃、85%RHにて72時間)曝された場合であっても、印刷層7による段差近傍に気泡、浮き、剥がれ等が発生することが効果的に抑制される。
【0104】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0105】
例えば、粘着シート1における剥離シート12a,12bのいずれか一方は省略されてもよい。
【実施例】
【0106】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0107】
〔実施例1〕
1.(メタ)アクリル酸エステル共重合体の調製
アクリル酸2−エチルヘキシル60質量部、メタクリル酸メチル20質量部およびアクリル酸2−ヒドロキシエチル20質量部を共重合させて、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を調製した。この(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)の分子量を後述する方法で測定したところ、重量平均分子量(Mw)60万であった。
【0108】
2.粘着性組成物の調製
上記工程1で得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)100質量部(固形分換算値;以下同じ)と、メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)としての3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとメチルトリエトキシシランとの共縮合物(信越化学工業社製,商品名「X−41−1810」,オリゴマー型,メルカプト基当量:450g/モル)0.05質量部と、架橋剤(C)としてのトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製,製品名「コロネートL」)0.23質量部とを混合し、十分に撹拌して、メチルエチルケトンで希釈することにより、固形分濃度38質量%の粘着性組成物の塗布溶液を得た。
【0109】
ここで、(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)を100質量部(固形分換算値)とした場合の粘着性組成物の各配合(固形分換算値)を表1に示す。なお、表1に記載の略号等の詳細は以下の通りである。
[(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)]
2EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
MMA:メタクリル酸メチル
HEA:アクリル酸2−ヒドロキシエチル
[メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)]
X−41−1810:3−メルカプトプロピルトリメトキシシランとメチルトリエトキシシランとの共縮合物(信越化学工業社製,商品名「X−41−1810」,オリゴマー型,メルカプト基当量:450g/モル)
KBM−803:3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製,商品名「KBM−803」,低分子型,メルカプト基当量:196.4g/モル)
[他のシランカップリング剤]
KBM−403:3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製,商品名「KBM−403」,低分子型)
KBE−9007:3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン(信越シリコーン社製,商品名「KBE−9007」,低分子型)
【0110】
3.粘着シートの製造
上記工程2で得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した重剥離型剥離シート(リンテック社製,商品名「SP−PET382150」,厚さ:38μm)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布したのち、90℃で1分間加熱処理して塗布層(厚さ:25μm)を形成した。同様に、上記工程2で得られた粘着性組成物の塗布溶液を、ポリエチレンテレフタレートフィルムの片面をシリコーン系剥離剤で剥離処理した軽剥離型剥離シート(リンテック社製,製品名「SP−PET382120」)の剥離処理面に、ナイフコーターで塗布したのち、90℃で1分間加熱処理して塗布層(厚さ:25μm)を形成した。
【0111】
次いで、上記で得られた塗布層付きの重剥離型剥離シートと、上記で得られた塗布層付きの軽剥離型剥離シートとを、両塗布層が互いに接触するように貼合し、23℃、50%RHの条件下で7日間養生することにより、重剥離型剥離シート/粘着剤層(厚さ:50μm)/軽剥離型剥離シートの構成からなる粘着シートを作製した。
【0112】
〔実施例2〜10,比較例1〜10〕
シランカップリング剤(メルカプト基を有するシランカップリング剤(B)および他のシランカップリング剤)の種類および割合、ならびに架橋剤(C)の割合を表1に示すように変更する以外、実施例1と同様にして粘着シートを製造した。なお、比較例7〜10については、防錆剤としてN,N−ビス(2−エチルヘキシル)−(4又は5)−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン(BASF社製,商品名「IRGMET 39」)を表1に示す割合で粘着性組成物に配合した。
【0113】
ここで、前述した重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定(GPC測定)したポリスチレン換算の重量平均分子量である。
<測定条件>
・GPC測定装置:東ソー社製,HLC−8020
・GPCカラム(以下の順に通過):東ソー社製
TSK guard column HXL−H
TSK gel GMHXL(×2)
TSK gel G2000HXL
・測定溶媒:テトラヒドロフラン
・測定温度:40℃
【0114】
〔試験例1〕(ゲル分率の測定)
実施例および比較例で得られた粘着シートを80mm×80mmのサイズに裁断して、その粘着剤層をポリエステル製メッシュ(メッシュサイズ200)に包み、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM1とする。
【0115】
次に、上記ポリエステル製メッシュに包まれた粘着剤を、室温下(23℃)で酢酸エチルに24時間浸漬させた。その後粘着剤を取り出し、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、24時間風乾させ、さらに80℃のオーブン中にて12時間乾燥させた。乾燥後、その質量を精密天秤にて秤量し、上記メッシュ単独の質量を差し引くことにより、粘着剤のみの質量を算出した。このときの質量をM2とする。ゲル分率(%)は、(M2/M1)×100で表される。結果を表2に示す。
【0116】
〔試験例2〕(粘着力の測定)
実施例および比較例で得られた粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「PET A4300」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合し、重剥離型剥離シート/粘着剤層/PETフィルムの積層体を得た。得られた積層体を25mm幅、100mm長に裁断し、これをサンプルとした。
【0117】
23℃、50%RHの環境下にて、上記サンプルから重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層をソーダライムガラス(日本板硝子社製)に貼付したのち、栗原製作所社製オートクレーブにて0.5MPa、50℃で、20分加圧した。その後、23℃、50%RHの条件下で24時間放置してから、引張試験機(オリエンテック社製,テンシロン)を用い、剥離速度300mm/min、剥離角度180度の条件で粘着力(N/25mm)を測定した。ここに記載した以外の条件はJIS Z 0237:2009に準拠して、測定を行った。結果を表2に示す。
【0118】
〔試験例3〕(マイグレーション防止効果の評価)
(1)配線基板の作製
銅箔(厚さ:18μm)とポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ:50μm)とを積層してなる銅張積層板(ニッカン工業社製,製品名「ニカフレックス」)の銅箔表面に、スクリーン印刷法にてエッチングレジストパターンを印刷した。その後、エッチングにて不要な銅箔を除去して櫛形電極を形成した。各電極のライン幅は300μmであり、電極相互間の間隙は50μmであった。
【0119】
(2)マイグレーション防止効果の評価
実施例および比較例で得られた粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製,製品名「PET A4300」,厚さ:100μm)の易接着層に貼合し、重剥離型剥離シート/粘着剤層/PETフィルムの積層体を得た。次いで、上記積層体から重剥離型剥離シートを剥離し、露出した粘着剤層を、上記櫛形電極上に貼付して、これをサンプルとした。
【0120】
上記サンプルを、85℃、85%RHの湿熱条件下に静置し、その状態で電極間に5Vの電圧を印加し、マイグレーション試験を行った。試験開始から8時間後、24時間後、および48時間後に、櫛形電極を光学顕微鏡(倍率:10倍)で観察し、以下に示す評価基準に基づいてマイグレーション防止効果を評価した。結果を表2に示す。
◎:電極(正極)の溶解および電極(負極)におけるデンドライトの形成が全く観られない。
○:電極(正極)の端部のみに溶解が観られ、電極(負極)におけるデンドライトの形成は観られない。
×:電極(正極)の溶解および電極(負極)におけるデンドライトの形成が観られる。
なお、上記評価基準の参考画像を図3に示す。
【0121】
〔試験例4〕(段差追従性の評価)
(a)評価用サンプルの作製
ガラス板(NSGプレシジョン社製,製品名「コーニングガラス イーグルXG」,縦90mm×横50mm×厚み0.5mm)の表面に、紫外線硬化型インク(帝国インキ社製,製品名「POS−911墨」)を塗布厚が5μm、10μm及び15μmのいずれか1つとなるように額縁状(外形:縦90mm×横50mm,幅5mm)にスクリーン印刷した。次いで、紫外線を照射(80W/cm,メタルハライドランプ2灯,ランプ高さ15cm,ベルトスピード10〜15m/分)して、印刷した上記紫外線硬化型インクを硬化させ、印刷による段差(段差の高さ:5μm、10μm及び15μmのいずれか1つ)を有する段差付ガラス板を作製した。
【0122】
実施例および比較例で得られた粘着シートから軽剥離型剥離シートを剥がし、露出した粘着剤層を、易接着層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製,PET A4300,厚さ:100μm)の易接着層に貼合した。次いで、重剥離型剥離シートを剥がし、粘着剤層を表出させた。そして、ラミネーター(フジプラ社製,製品名「LPD3214」)を用いて、粘着剤層が額縁状の印刷全面を覆うように上記積層体を各段差付ガラス板にラミネートし、これを評価用サンプルとした。
【0123】
(b)評価用サンプルの評価
得られた評価用サンプルを、50℃、0.5MPaの条件下で30分間オートクレーブ処理した後、常圧、23℃、50%RHにて24時間放置した。次いで、85℃、85%RHの耐久条件下にて72時間保管した。その後、粘着剤層(特に印刷層による段差の近傍)を目視により確認し、以下の基準により段差追従性を評価した。結果を表2に示す。
◎:気泡および浮きが全くなかった。
○:段差近傍に10個未満の気泡が見られた。
×:気泡および/または浮きがあった。
【0124】
〔試験例5〕(耐湿熱白化性の評価)
実施例または比較例で得られた粘着シートの粘着剤層を、厚さ1.1mmの無アルカリガラス2枚で挟み、その積層体をサンプルとした。得られたサンプルを、85℃、85%RHの条件下にて120時間保管した。その後、23℃、50%RHの常温常湿に戻し、目視により以下の基準により白化の有無を確認し、耐湿熱白化性を評価するとともに、粘着剤層のヘイズ値を測定した。ヘイズ値は、サンプルを常温常湿に戻してから30分以内に、ヘイズメーター(日本電色工業社製,製品名「NDH2000」)を用いて、JIS K7136:2000に準じて測定した。結果を表2に示す。
○:常温常湿に戻しても白化は確認されなかった。または一部白化したが、30分以内に消失した。
×:全体的に白化した。または一部白化した後、常温常湿下で保管しても元に戻らなかった。
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
表2から分かるように、実施例で得られた粘着シートは、マイグレーション防止効果、段差追従性および耐湿熱白化性のいずれにも優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明に係る粘着性組成物、粘着剤および粘着シートは、例えば、銅電極または銀電極を用いた静電容量方式のタッチパネルに好適に使用することができる。また、本発明に係る表示体は、例えば、銅電極または銀電極を用いた静電容量方式のタッチパネルとして好適である。
【符号の説明】
【0129】
1…粘着シート
11…粘着剤層
12a,12b…剥離シート
2…タッチパネル
3…表示体モジュール
4…粘着剤層
5a…第1のフィルムセンサー
5b…第2のフィルムセンサー
51…基材フィルム
52…電極
6…カバー材
7…印刷層
図1
図2
図3