(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[セルスタック装置100]
図1は、セルスタック装置100の斜視図である。セルスタック装置100は、マニホールド200と、セルスタック250とを備える。
【0011】
[マニホールド200]
図2は、マニホールド200の斜視図である。マニホールド200は、「合金部材」の一例である。
【0012】
マニホールド200は、燃料ガス(例えば、水素など)を各燃料電池セル300に分配するように構成されている。マニホールド200は、中空状であり、内部空間を有している。マニホールド200の内部空間には、導入管204を介して燃料ガスが供給される。
【0013】
マニホールド200は、天板201と、容器202とを有する。天板201は、平板状に形成される。容器202は、コップ状に形成される。天板201は、容器202の上方開口を塞ぐように配置される。
【0014】
天板201は、接合材103(
図2では不図示、
図6参照)によって容器202に接合される。接合材103としては、例えば、結晶化ガラス、非晶質ガラス、ろう材、及びセラミックスなどが挙げられる。本実施形態において、結晶化ガラスとは、全体積に対する「結晶相が占める体積」の割合(結晶化度)が60%以上であり、全体積に対する「非晶質相及び不純物が占める体積」の割合が40%未満のガラスである。このような結晶化ガラスとしては、例えば、SiO
2−B
2O
3系、SiO
2−CaO系、又はSiO
2−MgO系が挙げられる。
【0015】
天板201には、複数の挿入孔203が形成されている。各挿入孔203は、燃料電池セル300の配列方向(z軸方向)に並べられる。各挿入孔203は、互いに間隔をあけて配置される。各挿入孔203は、マニホールド200の内部空間と外部に連通する。
【0016】
マニホールド200の詳細な構成については後述する。
【0017】
[セルスタック250]
図3は、セルスタック装置100の断面図である。セルスタック250は、複数の燃料電池セル300と、複数の集電部材301とを有する。
【0018】
各燃料電池セル300は、マニホールド200から延びている。詳細には、各燃料電池セル300は、マニホールド200の天板201から上方(x軸方向)に延びている。すなわち、各燃料電池セル300の長手方向(x軸方向)は、上方に延びている。各燃料電池セル300の長手方向(x軸方向)の長さは、100〜300mm程度とすることができるが、これに限られるものではない。
【0019】
各燃料電池セル300の基端部は、マニホールド200の挿入孔203に挿入される。各燃料電池セル300は、接合材101によって挿入孔203に固定される。燃料電池セル300は、挿入孔203に挿入された状態で、接合材101によってマニホールド200に固定されている。接合材101は、燃料電池セル300と挿入孔203の隙間に充填される。接合材101としては、例えば、結晶化ガラス、非晶質ガラス、ろう材、及びセラミックスなどが挙げられる。
【0020】
各燃料電池セル300は、長手方向(x軸方向)及び幅方向(y軸方向)に広がる板状に形成されている。各燃料電池セル300は、配列方向(z軸方向)に間隔をあけて配列されている。隣り合う2つの燃料電池セル300の間隔は特に制限されないが、1〜5mm程度とすることができる。
【0021】
各燃料電池セル300は、内部にガス流路11を有している。セルスタック装置100の運転中、マニホールド200から各ガス流路11に燃料ガス(水素など)が供給されるとともに、各燃料電池セル300の外周に酸化剤ガス(空気など)が供給される。
【0022】
隣接する2つの燃料電池セル300は、集電部材301によって電気的に接続されている。集電部材301は、接合材102を介して、隣接する2つの燃料電池セル300それぞれの基端側に接合される。接合材102は、例えば、(Mn,Co)
3O
4、(La,Sr)MnO
3、及び(La,Sr)(Co,Fe)O
3などから選ばれる少なくとも1種である。
【0023】
[燃料電池セル300]
図4は、燃料電池セル300の斜視図である。
図5は、
図4のQ−Q断面図である。
【0024】
燃料電池セル300は、支持基板10と、複数の発電素子部20と有する。
【0025】
(支持基板10)
支持基板10は、支持基板10の長手方向(x軸方向)に沿って延びる複数のガス流路11を内部に有している。各ガス流路11は、支持基板10の基端側から先端側に向かって延びている。各ガス流路11は、互いに実質的に平行に延びている。
【0026】
図5に示すように、支持基板10は、複数の第1凹部12を有する。本実施形態において、各第1凹部12は、支持基板10の両主面に形成されているが、一方の主面にだけ形成されていてもよい。各第1凹部12は支持基板10の長手方向において互いに間隔をあけて配置されている。
【0027】
支持基板10は、電子伝導性を有さない多孔質の材料によって構成される。支持基板10は、例えば、CSZ(カルシア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、支持基板10は、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とY
2O
3(イットリア)とから構成されてもよいし、MgO(酸化マグネシウム)とMgAl
2O
4(マグネシアアルミナスピネル)とから構成されてもよい。支持基板10の気孔率は、例えば、20〜60%程度である。
【0028】
(発電素子部20)
各発電素子部20は、支持基板10に支持されている。本実施形態において、各発電素子部20は、支持基板10の両主面に形成されているが、一方の主面にだけ形成されていてもよい。各発電素子部20は、支持基板10の長手方向において、互いに間隔をあけて配置されている。すなわち、本実施形態に係る燃料電池セル300は、いわゆる横縞型の燃料電池セルである。長手方向に隣り合う発電素子部20は、インターコネクタ31によって互いに電気的に接続されている。
【0029】
発電素子部20は、燃料極4、電解質5、空気極6及び反応防止膜7を有する。
【0030】
燃料極4は、電子伝導性を有する多孔質の材料から構成される焼成体である。燃料極4は、燃料極集電部41と燃料極活性部42とを有する。
【0031】
燃料極集電部41は、第1凹部12内に配置されている。詳細には、燃料極集電部41は、第1凹部12内に充填されており、第1凹部12と同様の外形を有する。燃料極集電部41は、第2凹部411及び第3凹部412を有している。第2凹部411内には、燃料極活性部42が配置されている。また、第3凹部412には、インターコネクタ31が配置されている。
【0032】
燃料極集電部41は、電子伝導性を有する。燃料極集電部41は、燃料極活性部42よりも高い電子伝導性を有していることが好ましい。燃料極集電部41は、酸素イオン伝導性を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0033】
燃料極集電部41は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、燃料極集電部41は、NiO(酸化ニッケル)とY
2O
3(イットリア)とから構成されてもよいし、NiO(酸化ニッケル)とCSZ(カルシア安定化ジルコニア)とから構成されてもよい。燃料極集電部41の厚さ、及び第1凹部12の深さは、50〜500μm程度である。
【0034】
燃料極活性部42は、酸素イオン伝導性を有するとともに、電子伝導性を有する。燃料極活性部42は、燃料極集電部41よりも酸素イオン伝導性を有する物質の含有率が大きい。詳細には、燃料極活性部42における、気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合は、燃料極集電部41における、気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合よりも大きい。
【0035】
燃料極活性部42は、例えば、NiO(酸化ニッケル)とYSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)とから構成され得る。或いは、燃料極活性部42は、NiO(酸化ニッケル)とGDC(ガドリニウムドープセリア)とから構成されてもよい。燃料極活性部42の厚さは、5〜30μmである。
【0036】
電解質5は、燃料極4上を覆うように配置されている。詳細には、電解質5は、あるインターコネクタ31から隣のインターコネクタ31まで長手方向に延びている。すなわち、支持基板10の長手方向(x軸方向)において、電解質5とインターコネクタ31とが交互に連続して配置されている。電解質5は、支持基板10の両主面を覆うように構成されている。
【0037】
電解質5は、イオン伝導性を有し且つ電子伝導性を有さない緻密な材料から構成される焼成体である。電解質5は、例えば、YSZ(8YSZ)(イットリア安定化ジルコニア)から構成され得る。或いは、電解質5は、LSGM(ランタンガレート)から構成されてもよい。電解質5の厚さは、例えば、3〜50μm程度である。
【0038】
空気極6は、電子伝導性を有する多孔質の材料から構成される焼成体である。空気極6は、電解質5を基準にして、燃料極4と反対側に配置されている。空気極6は、空気極活性部61と空気極集電部62とを有している。
【0039】
空気極活性部61は、反応防止膜7上に配置されている。空気極活性部61は、酸素イオン伝導性を有するとともに、電子伝導性を有する。空気極活性部61は、空気極集電部62よりも酸素イオン伝導性を有する物質の含有率が大きい。詳細には、空気極活性部61おける、気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合は、空気極集電部62における、気孔部分を除いた全体積に対する酸素イオン伝導性を有する物質の体積割合よりも大きい。
【0040】
空気極活性部61は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O
3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、空気極活性部61は、LSF=(La,Sr)FeO
3(ランタンストロンチウムフェライト)、LNF=La(Ni,Fe)O
3(ランタンニッケルフェライト)、又は、LSC=(La,Sr)CoO
3(ランタンストロンチウムコバルタイト)等から構成されてもよい。空気極活性部61は、LSCFから構成される第1層(内側層)とLSCから構成される第2層(外側層)との2層によって構成されてもよい。空気極活性部61の厚さは、例えば、10〜100μmである。
【0041】
空気極集電部62は、空気極活性部61上に配置されている。また、空気極集電部62は、空気極活性部61から、隣の発電素子部に向かって延びている。燃料極集電部41と空気極集電部62とは、発電領域から互いに反対側に延びている。発電領域とは、燃料極活性部42と電解質5と空気極活性部61とが重複する領域である。
【0042】
空気極集電部62は、電子伝導性を有する多孔質の材料から構成される焼成体である。空気極集電部62は、空気極活性部61よりも高い電子伝導性を有していることが好ましい。空気極集電部62は、酸素イオン伝導性を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0043】
空気極集電部62は、例えば、LSCF=(La,Sr)(Co,Fe)O
3(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)から構成され得る。或いは、空気極集電部62は、LSC=(La,Sr)CoO
3(ランタンストロンチウムコバルタイト)から構成されてもよい。或いは、空気極集電部62は、Ag(銀)、Ag−Pd(銀パラジウム合金)から構成されてもよい。空気極集電部62の厚さは、例えば、50〜500μm程度である。
【0044】
反応防止膜7は、緻密な材料から構成される焼成体である。反応防止膜7は、電解質5と空気極活性部61との間に配置されている。反応防止膜7は、電解質5内のYSZと空気極6内のSrとが反応して電解質5と空気極6との界面に電気抵抗が大きい反応層が形成される現象の発生を抑制するために設けられている。
【0045】
反応防止膜7は、希土類元素を含むセリアを含んだ材料から構成されている。反応防止膜7は、例えば、GDC=(Ce,Gd)O
2(ガドリニウムドープセリア)から構成され得る。反応防止膜7の厚さは、例えば、3〜50μm程度である。
【0046】
インターコネクタ31は、支持基板10の長手方向(x軸方向)に隣り合う発電素子部20を電気的に接続するように構成されている。詳細には、一方の発電素子部20の空気極集電部62は、他方の発電素子部20に向かって延びている。また、他方の発電素子部20の燃料極集電部41は、一方の発電素子部20に向かって延びている。そして、インターコネクタ31は、一方の発電素子部20の空気極集電部62と、他方の発電素子部20の燃料極集電部41とを電気的に接続している。インターコネクタ31は、燃料極集電部41の第3凹部412内に配置されている。詳細には、インターコネクタ31は、第3凹部412内に埋設されている。
【0047】
インターコネクタ31は、電子伝導性を有する緻密な材料から構成される焼成体である。インターコネクタ31は、例えば、LaCrO
3(ランタンクロマイト)から構成され得る。或いは、インターコネクタ31は、(Sr,La)TiO
3(ストロンチウムチタネート)から構成されてもよい。インターコネクタ31の厚さは、例えば、10〜100μmである。
【0048】
[マニホールド200の詳細構成]
次に、マニホールド200の詳細構成について、図面を参照しながら説明する。
図6は、
図2のP−P断面図である。
図7は、
図6の領域Aの拡大図である。
【0049】
天板201と容器202は、接合材103によって接合されている。天板201と容器202の間には、燃料ガスが供給される内部空間S1が形成されている。
【0050】
天板201は、基材210と、酸化クロム膜211と、被覆膜212とを有する。容器202は、基材220と、酸化クロム膜221と、被覆膜222とを有する。
【0051】
天板201及び容器202は、それぞれ「合金部材」の一例である。基材210及び基材220は、それぞれ「基材」の一例である。酸化クロム膜211及び酸化クロム膜221は、それぞれ「酸化クロム膜」の一例である。被覆膜212及び被覆膜222は、それぞれ「被覆膜」の一例である。
【0052】
容器202の構成は、天板201の構成と同様であるため、以下においては、
図7を参照しながら、天板201の構成について説明する。
【0053】
基材210は、板状に形成される。基材210は、平板状であってもよいし、曲板状であってもよい。基材210の厚みは特に制限されないが、例えば0.5〜4.0mmとすることができる。
【0054】
基材210は、Cr(クロム)を含有する合金材料によって構成される。このような金属材料としては、Fe−Cr系合金鋼(ステンレス鋼など)やNi−Cr系合金鋼などを用いることができる。基材210におけるCrの含有割合は特に制限されないが、4〜30質量%とすることができる。
【0055】
基材210は、Ti(チタン)やAl(アルミニウム)を含有していてもよい。基材210におけるTiの含有割合は特に制限されないが、0.01〜1.0at.%とすることができる。基材210におけるAlの含有割合は特に制限されないが、0.01〜0.4at.%とすることができる。基材210は、TiをTiO
2(チタニア)として含有していてもよいし、AlをAl
2O
3(アルミナ)として含有していてもよい。
【0056】
基材210は、表面210a、環状凸部210b及び凹部210cを有する。表面210aは、基材210の外側の表面である。基材210は、表面210aにおいて酸化クロム膜211と接合される。
【0057】
環状凸部210bは、表面210aに形成される。環状凸部210bは、酸化クロム膜211に突出している。表面210aを平面視した場合、環状凸部210bは環状に形成されている。環状凸部210bの平面形状は、典型的には円形の環状であるが、多角形の環状であってもよく、それ以外の複雑形の環状であってもよい。環状凸部210bの先端部には、開口S2が形成されている。
【0058】
基材210の厚み方向における環状凸部210bの突出高さは特に制限されないが、0.5〜30μmとすることができる。厚み方向に垂直な面方向における環状凸部210bの幅は特に制限されないが、0.5〜30μmとすることができる。
【0059】
凹部210cは、環状凸部210bの内部に形成される。凹部210cは、部分的に表面210aより内側に配置されていてもよいし、全体が表面210aより外側に配置されていてもよい。凹部210cは、環状凸部210bの開口S2に近づくほど狭くなっている。厚み方向における凹部210cの深さは特に制限されないが、0.5〜30μmとすることができる。なお、環状凸部210bの開口S2は、凹部210cの開口でもある。
【0060】
酸化クロム膜211は、基材210の表面上に形成される。酸化クロム膜211は、基材210の表面の略全面を覆っていてもよいが、基材210の表面の少なくとも一部を覆っていればよい。酸化クロム膜211は、酸化クロムを主成分として含有する。
【0061】
酸化クロム膜211は、表面211aと、埋設部211bとを有する。表面211aは、酸化クロム膜211の外側の表面である。酸化クロム膜211は、表面211aにおいて被覆膜212と接合される。
【0062】
埋設部211bは、基材210の環状凸部210bの内部に埋設される。埋設部211bは、凹部210cの内部に配置される。埋設部211bは、凹部210cの全体に充填されていてもよいし、凹部210cの一部分に配置されていてもよい。
【0063】
埋設部211bは、環状凸部210bの開口S2でくびれている。すなわち、埋設部211bは、開口S2付近で局所的に細くなっている。このようなボトルネック構造によって、埋設部211bが凹部210cに係止されアンカー効果が生まれるため、酸化クロム膜211の基材210に対する密着力を向上させることができる。その結果、被覆膜212が基材210から剥離することを抑制できる。
【0064】
基材210の厚み方向に沿った断面において、凹部210c(本実施形態では、環状凸部210bと同義)の開口S2の最小幅W1は、酸化クロム膜211の埋設部211bの最大幅W2よりも小さい。開口S2の最小幅W1は、表面210aに垂直な断面において、凹部210cの開口S2の最短距離を結ぶ直線CLの長さである。開口S2の最小幅W1は、凹部210cの最小内径であってもよい。埋設部211bの最大幅W2は、表面210aに垂直な断面において、直線CLに平行な方向における埋設部211bの最大外径である。
【0065】
開口S2の最小幅W1は、埋設部211bの最大幅W2の99%以下であることが好ましい。これによって、埋設部211bによるアンカー効果をより向上させることができる。開口S2の最小幅W1は、埋設部211bの最大幅W2の95%以下がより好ましく、90%以下が特に好ましい。
【0066】
開口S2の最小幅W1は特に制限されないが、0.3〜30μmとすることができる。開口S2の最小幅W1は、0.5μm以上であることが好ましい。これによって、埋設部211b自体の強度を確保することができる。
【0067】
埋設部211bの最大幅W2は特に制限されないが、0.5〜35μmとすることができる。埋設部211bの最大幅W2は、1μm以上であることが好ましい。これによって、酸化クロム膜211と基材210の密着性をより高めることができる。
【0068】
埋設部211bの円相当径は特に制限されないが、0.5〜35μmとすることができる。埋設部211bの円相当径とは、FE−SEM(Field Emission − Scanning Electron Microscope:電界放射型走査型電子顕微鏡)によって3000倍に拡大した画像において、埋設部211bと同じ面積を有する円の直径である。埋設部211bの面積とは、表面210aに垂直な断面において、酸化クロム膜211のうち開口S2の最短距離を結ぶ直線CLよりも凹部210cの内側に存在する部分の面積である。
【0069】
酸化クロム膜211は、埋設部211bを複数有していることが好ましい。これによって、酸化クロム膜211の基材210に対する密着力をより向上させることができるため、被覆膜212が基材210から剥離することをより抑制できる。
【0070】
酸化クロム膜211が複数の埋設部211bを有する場合、凹部210cの開口S2の平均最小幅W1’は0.3〜30μmとすることができ、埋設部211bの平均最大幅W2’は0.5〜35μmとすることができる。平均最小幅W1’及び平均最大幅W2’のそれぞれは、FE−SEM画像上において無作為に選出した10個の凹部210cそれぞれの最小幅W1及び最大幅W2を算術平均した値である。
【0071】
酸化クロム膜211が複数の埋設部211bを有する場合、複数の埋設部211bの平均円相当径は、0.5〜35μmとすることができる。平均円相当径とは、FE−SEM画像上において無作為に選出した10個の埋設部211bの円相当径を算術平均した値である。埋設部211bの円相当径とは、表面210aに垂直な断面において、埋設部211bの面積と同じ面積を有する円の直径である。平均円相当径を求める場合には、無作為に選出した10箇所のFE−SEM画像から埋設部211bを無作為に10個選出することが好ましい。
【0072】
酸化クロム膜211が複数の埋設部211bを有する場合、面方向における複数の埋設部211bの平均存在率は、5個/mm以上であることが好ましい。これによって、被覆膜212の剥離を抑制できるだけでなく、埋設部へ生じる応力を分散することができ、酸化クロム膜211及び被覆膜212に軽微な欠陥が生じることも抑制できる。また、面方向における複数の埋設部211bの平均存在率は、100個/mm以下であることがより好ましい。これによって、凹部210cどうしが連結してしまうことを抑制できるため、凹部210cの形状を制御し易くできる。
【0073】
埋設部211bの存在率とは、単位長さ当たりに配置された埋設部211bの個数である。埋設部211bの存在率は、上述したFE−SEM画像上において、埋設部211bの全数を面方向における酸化クロム膜211の全長で除した値である。埋設部211bの全数を数える場合、FE−SEM画像に一部分だけで写っている埋設部211bも1個として数える。平均存在率とは、平均円相当径の測定に用いた各FE−SEM画像における存在率を算術平均した値である。
【0074】
被覆膜212は、酸化クロム膜211の表面211aの少なくとも一部を覆う。詳細には、被覆膜212は、酸化クロム膜211の表面211aのうち、セルスタック装置100の運転中に酸化剤ガスと接触する領域の少なくとも一部を覆う。被覆膜212は、酸化クロム膜211のうち酸化剤ガスと接触する領域の全面を覆っていることが好ましい。被覆膜212の厚みは特に制限されないが、例えば3〜200μmとすることができる。
【0075】
被覆膜212は、基材210の表面からCrが揮発することを抑制する。これにより、各燃料電池セル300の電極(本実施形態では、空気極6)がCr被毒によって劣化することを抑制できる。
【0076】
被覆膜212は、セラミックス材料であり、適用箇所に応じて適宜好適な材料を選択することができる。導電性を求められる集電部材の被覆膜に適用するセラミックス材料としては、LaおよびSrを含有するペロブスカイト形複合酸化物やMn,Co,Ni,Fe,Cu等の遷移金属から構成されるスピネル型複合酸化物が挙げられる。一方、絶縁性を求められる燃料マニホールドの被覆膜に適用するセラミックス材料としては、アルミナ、シリカ、ジルコニア、結晶化ガラスなどが挙げられる。ただし、被覆膜212は、Crの揮発を抑制できればよく、被覆膜212の構成材料は上記セラミックス材料に限られるものではない。
【0077】
[マニホールド200の製造方法]
マニホールド200の製造方法について、図面を参照しながら説明する。なお、容器202の製造方法は、天板201の製造方法と同様であるため、以下においては、天板201の製造方法について説明する。
【0078】
まず、
図8に示すように、基材210の表面210aに凹部210cを形成する。例えばショットピーニング、サンドブラストを用いることによって、所定形状の凹部210cを効率的に形成することができる。この際、凹部210cの幅を調整することによって、後述する埋設部211bの最大幅W2を制御できる。また、凹部210cの幅及び深さを調整することによって、埋設部211bの円相当径を制御できる。また、凹部210cの個数を調整することによって、埋設部211bの存在率を制御できる。
【0079】
次に、
図9に示すように、基材210の表面210aでローラーを転がすことによって、凹部210cの開口S2を狭くする。この際、ローラーによる押圧力を調整することによって、開口S2の最小幅W1を制御できる。
【0080】
次に、
図10に示すように、基材210を大気雰囲気で熱処理(800〜900℃、5〜20時間)することによって、基材210の表面210a上に酸化クロム膜211を形成する。この際、凹部210cの内部に酸化クロム膜211の埋設部211bが形成される。
【0081】
次に、
図11に示すように、酸化クロム膜211上にセラミックス材料ペーストを塗布して、熱処理(800〜900℃、1〜5時間)することによって、被覆膜212を形成する。
【0082】
(他の実施形態)
本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0083】
上記実施形態では、本発明に係る合金部材をマニホールド200に適用することとしたが、これに限られるものではない。本発明に係る合金部材は、セルスタック装置100及びセルスタック250の一部を構成する部材として用いることができる。例えば、本発明に係る合金部材は、隣接する2つの燃料電池セル300を電気的に接続する集電部材301に好適に用いることができる。
【0084】
上記実施形態において、セルスタック250は、横縞型の燃料電池を有することとしたが、いわゆる縦縞型の燃料電池を有していてもよい。縦縞型の燃料電池は、絶縁性の支持基板と、支持基板の一主面上に配置される発電部(燃料極、固体電解質層及び空気極)と、支持基板の他主面上に配置されるインターコネクタとを備える。
【0085】
上記実施形態において、基材210は、内部に凹部210cを形成する環状凸部210bを有することとしたが、これに限られるものではない。
図12に示すように、基材210は、表面210aに形成された凹部210cを有していればよく、環状凸部210bを有さなくてもよい。このような凹部210cは、
図9に示したように基材210の表面210aでローラーを転がす際に、ローラーを表面210aに押しつけることによって形成することができる。このような凹部210cに酸化クロム膜211の埋設部211bが埋設されている場合であっても、被覆膜212が基材210から剥離することを抑制できる。
【実施例】
【0086】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0087】
(比較例1、4)
以下のようにして、比較例1、4に係る合金部材を作製した。
【0088】
まず、表1に示す合金部材(SUS430)を打ち抜き加工することによって、20mm×40mm×0.5mmの基材を作製した。
【0089】
次に、基材を大気雰囲気で熱処理(900℃、1時間)することによって、基材の表面上に酸化クロム膜を形成した。
【0090】
次に、表1に示すセラミックス材料スラリー(結晶化ガラス、又は、(Mn,Co)
3O
4)を酸化クロム膜上に塗布して熱処理(900℃、1時間)することによって被覆膜を形成した。
【0091】
(比較例2,3、5,6および実施例1〜23)
以下のようにして、比較例2,3,5,6および実施例1〜23に係る合金部材を作製した。
【0092】
まず、表1に示す合金部材(SUS430、SUS445J1、又は、SUS316)を打ち抜き加工することによって、20mm×40mm×0.5mmの基材をサンプルごとに作製した。
【0093】
次に、ショットピーニングにより基材の表面に複数の凹部を形成した。この際、凹部の幅を調整することによって埋設部の平均最大幅W2’をサンプルごとに変更するとともに、凹部の個数を調整することによって埋設部の存在率をサンプルごとに変更した。
【0094】
次に、実施例1〜23では、基材の表面上でローラーを転がすことによって、各凹部の開口部の幅を狭くした。この際、ローラーの押圧力を調整することによって、凹部の開口の平均最小幅W1’をサンプルごとに変更した。一方、比較例2,3、5,6では、基材の表面上でローラーを転がさず、各凹部の開口部の幅を狭くしなかった。
【0095】
次に、基材表面に酸化クロムスラリーを塗布し、凹部内に酸化クロムペーストを充填した後、大気雰囲気で熱処理(800−1000℃、1−20時間)することによって、基材の表面上に酸化クロム膜を形成した。この酸化クロム膜は、基材表面に形成された凹部内にも充填された。
【0096】
次に、表1に示すセラミックス材料スラリー(結晶化ガラス、又は、(Mn,Co)
3O
4)を酸化クロム膜上に塗布して熱処理(800−1000℃、1−20時間)することによって被覆膜を形成した。
【0097】
(熱サイクル試験後の被覆膜の剥離)
各サンプルに対して熱サイクル試験を実施した。具体的には、温度800℃まで昇温速度300℃/hrにて昇温して1hrキープした後に300℃/hrから50℃まで降温するサイクルを10回繰り返した。
【0098】
そして、熱サイクル試験を実施した後、各サンプルについて被覆膜の剥離の有無を確認した。具体的には、目視および基材の断面をFE−SEMで3000倍に拡大した画像において、被覆膜の酸化クロム膜からの剥離の有無と、酸化クロム膜211及び被覆膜212における軽微な欠陥(微小クラック等)の有無とを判定した。判定結果を表1に示す。表1では、剥離のあったものが×と評価され、剥離は無いものの軽微な欠陥があったものが△と評価され、剥離も欠陥も無かったものが○と評価されている。
【0099】
また、実施例1〜23及び比較例2,3,5,6では、FE−SEM画像上において無作為に選出した10個の凹部について、開口の最小幅W1と埋設部の最大幅W2とのそれぞれを算術平均することによって、凹部開口の平均最小幅W1’、凹部埋設部の平均最大幅W2’、及びそれらの比(W1’/W2’)を算出した。
【0100】
また、10箇所のFE−SEM画像それぞれにおいて、埋設部の全数を面方向における酸化クロム膜の全長で除すことによって埋設部の存在率を出し、各FE−SEM画像における存在率を算術平均することによって、埋設部の平均存在率を算出した。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示すように、酸化クロム膜のうち基材の凹部に埋設された埋設部を凹部の開口でくびれるように形成した実施例1〜23では、熱サイクル試験後に被覆膜の剥離は認められなかった。これは、埋設部を凹部開口でくびれさせたことによるアンカー効果によって、酸化クロム膜の基材に対する密着力を向上させられたからである。実施例1〜23において、埋設部の平均最大幅W2’に対する凹部開口の平均最小幅W1’の比(W1’/W2’)は0.99以下であった。なお、実施例1〜12,21〜23では絶縁性の被覆膜が形成され、実施例13〜20では導電性の被覆膜が形成されているが、いずれであっても被覆膜の剥離を抑制できることが確認できた。
【0103】
一方、凹部に埋設された埋設部を設けなかった比較例1,4や、埋設部を凹部の開口でくびれさせなかった比較例2,3,5,6では、熱サイクル試験後に被覆膜の剥離が認められた。比較例2,3,5,6において、比(W1’/W2’)は1.00であり、0.99よりも大きかった。
【0104】
また、表1に示すように、埋設部の平均存在率を5個/mm以上とした実施例1〜20では、被覆膜の剥離を抑制できただけでなく、酸化クロム膜や被覆膜に軽微な欠陥が生じることも抑制できた。これは、埋設部の数を増やすことによって、酸化クロム膜の基材に対する密着力をより向上させることができたからである。
【解決手段】天板201は、クロムを含有する合金材料によって構成される基材210と、基材210の表面210aを覆う酸化クロム膜211と、酸化クロム膜211の表面211aを覆う被覆膜212とを備える。基材210は、表面210aに形成された凹部210cを有する。酸化クロム膜211は、凹部210cの内部に埋設された埋設部211bを有する。埋設部211bは、凹部210cの開口S2でくびれている。