【実施例】
【0051】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0052】
実施例1 G-CSF投与のDC誘導に対する効果
患者:
90例の進行癌患者の108例(乳癌(17)、結腸/直腸癌(19)、肺癌(12)、卵巣癌(11)、膵臓癌(33)、胃癌(16)を含む)のアフェレーシス(成分採血)実施患者を対象として、GM-CSF(Granulocyte Macrophage colony-stimulating Factor:顆粒白血球-マクロファージ・コロニー刺激因子)及びinterleukin(IL)-4を用いた単球由来の樹状細胞(DC)作製結果について分析した。108例中、47例は、成分採血の24時間前以内に患者にrhG-CSF(遺伝子組換えヒトG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)製剤を投与し、26例は24〜96時間前に投与した。また、35例はG-CSF非投与群とした。ヒトG-CSF製剤としては、グラン(商品名)又はノイトロジン(商品名)を用い、それぞれ75μg、100μgを皮下注射により投与した。
【0053】
DCの調製:
5200mlの患者末梢血から、成分採血装置(AS TEC204, Fresenius, Germany)を使って、処理量400ml×13サイクルによって、185mlの末梢血単核細胞を回収した。500 ng/mlのGM-CSF(Primmune Inc., Kobe, Japan)及び250 ng/mlのIL-4 (R&D Systems Inc., Minneapolis, MN)添加AIM-V培地(Gibco, Gaithersburg, MD)を用いた接着法による5日間培養で未熟なDCs(immatureDCs; iDCs)を得た。iDCsをOK-432(10μg/ml)とprostaglandin E2(50 ng/ml; Daiichi Fine Chemical Co. LTD., Toyama, Japan)を添加した培地を用いて、24時間培養することにより成熟したDCs(matureDCs: mDCs)を調製した。mDCsはDC療法のための投与日まで液体窒素保管され、治療時に解凍、洗浄後、生理食塩水に再浮遊した。
【0054】
mDCsの表面マーカー解析:
CD14
-, HLA-DR
+, HLA
-, ABC
+, CD80
+, CD83
+, CD86
+, CD40
+, CCR7
+の表現型は、mDCsとして定義される。凍結保管サンプル中のDCの生細胞に対して、以下の抗体パネルを適用しFACSCalibur(BD Biosciences, San Jose, CA)で測定した: FITC標識抗ヒトCD14(クローン61D3,eBiocience,San Diego,CA)、CD40(クローン5C3,eBiocience)、CD80(クローンL307.4,BD Biosciences)、HLA-ABC(クローンW6/32,eBiocience)、CD3(クローンSK7,BD Biosciences)、PE標識抗ヒトCD11c(クローンB-ly6,BD Biosciences)、CD83(クローンHB15e,eBiocience)、CD86(クローンIT2.2,eBiocience)、CD19(クローン4G7,BD Biosciences)、HLA-DR(クローンLN3,eBiocience)。
【0055】
PCRアレイ法による接着因子遺伝子群の同定:
hrG-CSF(75μg filgrastim、グラン(登録商標))によって増幅される接着因子遺伝子群をスクリーニングし同定した。DC療法を行う患者4名を対象とし、hrG-CSFの投与前及び投与後の末梢血を採取した。比重分離法により単球を分離後、CD14 Micro Bead(Miltenyi Biotec)を反応させ、Auto MACS(磁気分離装置)を用いてCD14陽性細胞を分離純化した。純度98%のCD14陽性細胞よりQIAamp RNA Blood Mini Kit (QIAGEN)を用いてRNAを抽出し、RT2 First Strand Kit(QIAGEN)を用いてcDNAを合成した。RT2 SYBR(登録商標) Green/ROX
TMqPCR Master Mix(QIAGEN)を用いてPCR反応液を作製し、RT2 Profiler
TM PCR Array(QIAGEN)のウェルに添加した。ABI 7900 real time PCR(Applied Biosystems, Maryland)により95℃:10min(95℃:15sec→60℃:1min)40サイクルの条件でPCRを行い、その後95℃:15sec、 60℃:15sec、 95℃:15secの条件下で解離曲線を得た。
【0056】
データの解析は、SA Biosciences社web上のポータルサイトのデータ解析テンプレートファイルを用いて、リアルタイムPCRより得られたCt(Threshold Cycle)値を入力し解析した。hrG-CSF投与前に比較してhrG-CSF投与後では、Matrix metalloproteinase-9(MMP-9)発現のみが有意に7.62倍に増加していた(
図1)。
【0057】
発現解析によって有意に発現が上表していたMMP-9は血管基底膜の主要構成成分であるtype IV、Vコラーゲンの分解活性を有している。がんにおいては、転移過程における血管基底膜分解酵素として癌の浸潤、転移に関与している。MMP-9のもつ分解活性は、浸潤、遊走能、慢性的な炎症の組織再生などの様々な単球/マクロファージの機能に必要と考えられている。
【0058】
MMP-9はヒト末梢血単球においても少量分泌されており、in vitroの実験においては、単球を培養する際にPMA(Phorbol myristate acetate)又はM-CSFを加えると,MMP-9の分泌量が増加し(mRNAレベルでそれぞれ7倍、5倍)、単球の接着性、伸展性を促進することが報告されている。
【0059】
hrG-CSFによるMMP-9の特異的増強作用の分析:
DC調製工程におけるMMP-9の影響を評価するために、単球MMP-9阻害薬の存在下及び未処理を対象(N=6)としてmDCsの製造サンプルの比較検討を行った。成分採血の16〜18時間前に、75μgのrhG-CSFを投与されている患者由来の末梢血単球をフィコール勾配遠心分離を使って分離した。末梢血単核球は6mLのAIM-V媒体で100mmディッシュにつき8×10
7細胞で種をまかれて、細胞接着のために、5%CO
2で37℃で静置した。非接着細胞の除去の後、iDCsを製造するためにIL-4(50ng/mL)とGM-CSF(50ng/mL)添加AIM-V培地で、5日間接着法により培養された。成熟工程のために、さらに24時間OK432(10ug/mL)、IL-4(5ng/mL)、GM-CSF(5ng/mL)とプロスタグランジンE-2(50ng/ml)を含んでいるAIM-V培地で、iDCsは培養され,浮遊細胞を回収した。MMP-9阻害薬I (IC50=5nM) (Calbiochem Corp., San Diego, CA, USA)は、各々の工程において培地に加えられ,mDCs製造産物の生細胞と接種した単球数との比を計算し比較した。
【0060】
統計解析:
IBM SPSS Statistics 21.0, (International Business Machines Corp., New York)を用いて解析した。
【0061】
結果
108例の患者のアフェレーシスを行う日に計数した末梢血単球数とhrG-CSF投与後のアフェレーシス単球数の相関性を
図2に示す(R=0.828, p<0.0001, N=108であった。(Spearman’s rank-order correlation))。図に示すようにアフェレーシス単球数と末梢血単球数は相関していた。
【0062】
アフェレーシス単球から調製したDC(Dendritic cell:樹状細胞)とアフェレーシス単球数の相関性を
図3に示す(R=0.435, p<0.0001, N=108(Spearman’s rank-order correlation))。図に示すように、調製されたDC数はアフェレーシス単球数に依存していた。平均作製DC数=20.2×10
7であった。また、作製DC数/アフェレーシス単球数比率=17.0±7.7%(平均±標準偏差)であった。
【0063】
DCの収率を
図4に示す。図に示すように、凍結保管前DC数及びその生細胞率は,それぞれ20.2 ± 9.6×10
7 及び95.6± 4.3%であった。また、DC特異的マーカーであるCD11c
+CD14
-及びHLA-ABC
+DR
+細胞分画は,それぞれ97.2 ± 6.7%及び97.4± 4.3%(平均±標準偏差)であった。
【0064】
調製されたDCの表面マーカーの発現を
図5に示す。図に示すように、DCは、CD11c、CD40、CD86、HLA-ABC、及びHLA-DRを強く発現しており、FACS分析では、これらのマーカーの陽性DCは90%以上を示していた(平均±標準偏差)。
【0065】
アフェレーシス前のhrG-CSF投与の単球数に対する影響の後方視的分析の結果を
図6に示す。
図6Aは末梢血単球数を示し、
図6Bはアフェレーシス単球数を示す。図に示すように、アフェレーシス前のG-CSF(granulocyte-colony stimulating factor;顆粒球コロニー刺激因子)投与群では、非投与群に比較して、末梢血及びアフェレーシス単球数の有意な増加を認めた。(Unpaired t-test)
【0066】
アフェレーシス前のhrG-CSF投与のDC作製に対する影響の後方視的分析の結果を
図7に示す。
図7AはDC数を示し、
図7BはDC/アフェレーシス単球比率を示す。図に示すように、アフェレーシス前24時間以内の遺伝子組換えヒトG-CSF製剤(hrG-CSF)投与群では、非投与群及び24〜96時間前投与群に比べ、作製DC数及びDC/アフェレーシス単球比率において,有意な増加を認めた。(Unpaired t-test)
【0067】
アフェレーシス前のhrG-CSF投与のDC表面マーカーの発現に対する影響を
図8に示す。
図8A、
図8B及び
図8Cは、それぞれCD11c、CD14及びCD80の結果を示す。図に示すように、アフェレーシス前24時間以内hrG-CSF投与群では,非投与群及び24〜96時間前投与群に比べ、作製DCの表面マーカーCD11c及びCD80は有意に増強し、CD14陽性細胞は減少していた。(Unpaired t-test)
【0068】
アフェレーシス前にhrG-CSFを投与した場合のアフェレーシス前及び24時間後の末梢血単球の数を
図9に示す。図に示すように、アフェレーシス前16〜18時間前にhrG-CSF(75μg filgrastim)投与されている症例(N=40)では、前及び後の末梢血単球数はそれぞれ410±195 /μL and 586±238 /μLと1.5倍の増加があった。(Paired t-test)
【0069】
低用量(75μg)のhrG-CSFを投与し、in vivoでhrG-CSFにさらされた単球における接着性分子の発現量をリアルタイムPCRに解析したところ、84の接着性分子のうちMMP-9(Matrix metalloproteinase-9)がhrG-CSF投与前に比較して増加した。この結果より、低用量(75μg)のhrG-CSF投与16〜18時間後、単球数の増加だけでなく、MMP-9の発現量の増加を介して培養シャーレへの接着性が増強し、DC作製において相乗的な役割を果たしている可能性が示唆されたので、MMP-9の特異性を検証するために、MMP-9阻害剤添加による培養の抑制試験を行った。結果を
図10に示す。図に示すように、培養樹状細胞の作製数の有意な低下を確認した(p=0.028, N=6)。(Wilcoxon signed rank test)
【0070】
以上のことより、ex vivoのDC作製において、hrG-CSFにはMMP-9を介した機能的な増強作用を有することが示唆された。また、上記の結果は、生体より単離した単球からin vitroでGM-CSF及びIL-4等のDC誘導活性を有するサイトカイン存在下で培養しDCを分化誘導する際に、あらかじめ単球をG-CSF存在下で培養するか、あるいはDC誘導活性を有するサイトカインとG-CSFの共存したで培養することにより効率的にDCが分化誘導し得ることを示す。
【0071】
実施例2 G-CSF投与により得られた樹状細胞による抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導
G-CSFをアフェレーシスの前投与無、およびアフェレーシス24時間以前投与群(I))、あるいはアフェレーシスの18〜22時間前に投与した(24時間以内に投与した群(II))。実施例1と同様の方法で、GM-CSFとIL-4でアフェレーシス由来の末梢血単核球を培養して、成熟型DCワクチンを作製した。改変型WT1(HLA-A*24:02)ペプチドに適合する樹状細胞ワクチン療法を群IおよびIIを対象とした。1×E7(10の7乗)DCワクチンを2週毎に1コース7回完遂例に対して、WT1-CTLを検出するためにDCワクチン初回および7回目の改変型WT1(HLA-A*24:02)ペプチドテトラマー解析により比較分析した。培養操作を加えず、採血分離した末梢血単核球を用いて治療前後においてWT1-CTLが増加、かつCD8+細胞に対して0.08%以上を陽性と判定した。
【0072】
群Iでは24例中4例(17%)、一方、群IIでは41例中13例(32%)に陽性であり、群IIにおいて抗原特異的なCTLの検出の増加が確認された。
【0073】
免疫療法における通常の感度・特異度の免疫学的モニタリングと同様に、ELISpot法によりIFN-γの再生を確認すると共に、ELISpot法と相関性のある改変型WT1(A*24:02)-テトラマー解析を実施し、抗原特異的なCTLを選択的に検出した。
図11にELISpot法の概要を示す。EliSpot法は、WT1等の抗原を用いて、抗原特異的にINF-γが産生されるかを確認する方法であり、スポット数はIFN-γ産生細胞数を示す。改変型WT1(HLA-A*24:02)ペプチドテトラマー解析による抗原特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)の検出法の概要を
図12に示す。免疫療法において、抗原特異的T細胞が存在することは、癌細胞を攻撃することのできるCTLが存在することを示す。
図12Aはプロトコールの概要を示し、
図12Bはテトラマーの模式図を示す。
図12に示すように、樹状細胞ワクチン療法を行った患者から、治療前および後の末梢血リンパ球を洗浄し、Fcブロッカーを添加し、ブロッキング処理を行った後、試薬を添加した。試薬としては、PE(Phycoerythrin)標識したWT1(mutant)テトラマー、FITC標識抗CD8抗体、PerCP標識した抗CD4抗体及びAPC標識した抗CD3抗体を用いた。WT1(mutant)テトラマーは、ビオチン化MHC(major histocompatibility complex)4分子を改変型WT1(A*24:02)にストレプトアビジンを介して結合させることにより作製した。試薬添加後、室温で30分間反応後洗浄し、フローサイトメーターにより解析を行い、WT1特異的CTLを検出した。テトラマー法は、試薬の手順に従って公知の方法で実施した。
【0074】
樹状細胞ワクチン療法1コースの前と後とでWT1特異的CTL(WT1-CTL)が増加し、その検出率0.80%をカットオフとして、検出率がそれ以上の場合を有意なWT1-CTLの誘導が生じたと判断した。
【0075】
図13に、ELISpot法の結果を示す。
図13に示すように、改変型WT1ペプチド(A*24:02)を標的とした免疫機能検査としてIFNγ産生リンパ球を検出するELISpot法は、CTLの表現型を検出するテトラマー法と相関性があった。ELISpot法 Human IFN-γ ELISpot PLUS kit を用いて実施した。抗IFN-γ抗体が固相化されたウェルを0.5%ヒトアルブミン添加PBSで3回洗浄し、10%FBS含有AIM培地を200μL/well加えて37℃で1時間以上ブロッキングを行った。その後、WT1抗原を10μM含む10%FBS含有AIM培地にDC初回および7回目投与時に採取したPBMCを浮遊させ、1×10
6 /wellの細胞数を基準に播種し、37℃で16-20時間反応を行った。細胞を除去した後PBSでウェルを5回洗浄し、ビオチン標識抗IFN-γ抗体(1 μg/mL)を100μL/well加え室温で2時間反応させた。洗浄後、HRP標識ストレプトアビジンを加えて室温で1時間反応させた。洗浄後、TMBを100μL/well加え約5分間発色を行った。洗浄・乾燥後、得られたスポット数をELISpot readerを用いて計測した。陰性対照として、患者群IにはHLA-A*2402 HIV env 584-592 (RYLRDQQLL)を、患者群IIにはHLA-A*0201 HIV gag 77-85 (SLYNTVATL) (MBL、日本)を使用した。なお、WT1抗原刺激および陰性対照はそれぞれ二重測定し、WT1抗原刺激時のスポット数の平均から陰性対照のスポット数の平均を差し引いたものをWT1特異的スポット数とした。さらにBrigitteらの報告17)やCarmenらの報告18)を参考にして、(i) WT1刺激時のスポット数が陰性対照のスポット数より1.5倍以上多く、かつ、(ii) WT1特異的スポット数が10
6個のPBMCあたり15個以上である場合にDCワクチン投与による能動免疫が誘導あるいは増強されたと判断し、陽性とした。
【0076】
図14に、HLA-A*24:02WT1(mutant)テトラマー解析による、抗原特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)の検出の結果を示す。
図14Aは樹状細胞ワクチン療法を遂行する前のリンパ球中のCTLの割合を示し、
図14Bは樹状細胞ワクチン療法1コースを遂行した後のリンパ球中のCTLの割合を示す。改変型WT1(HLA-A*24:02)ペプチドパルスDCワクチンを1コース7回投与した前・後のテトラマー解析の事例。CD8+細胞中のWT1-CTLは前(A)に比して、後(B)では有意な誘導を確認できた。
【0077】
図15に、樹状細胞ワクチン投与前後におけるG-CSF投与有無によるテトラマー(%)の変化を示す。
【0078】
I群では24例中4例(17%)に陽性と判断され、II群では41例13例(32%)に増加が確認され、明らかに割合が増加していた。