(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の放射性元素を含む液に前記複数の放射性元素に対する複数の吸着剤を添加して所定時間攪拌する吸着剤添加・攪拌工程と、前記吸着剤添加・攪拌工程後に前記液を電解する電解工程と、前記電解工程後に前記液中の固形分を分離する固形分分離工程と、を含む液中からの放射性元素の分離・除去方法において、
前記液中に複数の放射性元素が含まれていることが判明している場合には、前記吸着剤添加・攪拌工程の実施前に、前記複数の放射性元素のそれぞれについて除去率が最も高い吸着剤を予め選定しておき、前記予め選定された吸着剤を用いた前記吸着剤添加・攪拌工程、前記電解工程及び前記固形分分離工程を、前記液中に含まれている前記複数の放射性元素の全てについて繰り返すことを特徴とする液中からの放射性元素の分離・除去方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明の実施例に係る滞留水からの放射性元素の分離・除去方法について具体的に説明する。
(放射性元素の分離・除去)
本実施例では、海水に分離対象元素(放射性元素)を添加した溶液を「模擬滞留水」という。この模擬滞留水として、平均塩分濃度が3.4wt%の海水を使用した。表1は、分離対象元素と、その分離対象元素の海水中での溶解形態と、分離対象元素の海水中での濃度をまとめた表である。
【表1】
【0022】
この模擬滞留水の調整は、日本原子力研究開発機構(東海村)近郊の海から採取した海水に、滞留水中に含まれると想定されている核種の内、検討が必要とされる表1に記載の対象元素をコールド試薬にて添加し調製した。この表に示すように添加元素は、海水に可溶な形態として、ヨウ素はヨウ化ナトリウム、その他は塩化物を選定した。
【0023】
表2は、本実施例で使用する吸着剤と、その吸着剤によって分離される対象元素の一部をまとめた表である。また表3は、凝集・分離速度を速めるために本実施例で使用する凝集促進剤の成分を示した表である。この凝集促進剤は、例えば株式会社イガデン社製の天然木質系燃焼灰の混合物である。
【表2】
【表3】
【0024】
図1は、本実施例で使用する電解試験装置の概略構成図である。図中の1は模擬滞留水2を入れたビーカ、3a,3bは対向するようにして模擬滞留水2内に浸漬されたAl−Mg合金からなる電極、4はその電極3a,3bを支持するスタンド、5は直流電源、6はビーカ1中の模擬滞留水2を混合・攪拌するマグネチックスターラである。
【0025】
図2は、本実施例に係る模擬滞留水2からの放射性元素の分離・除去の手順を説明するためのフローチャートである。
まず最初、ステップ(以下、Sと略記する)1で200mLの海水に表1に示す対象元素を添加、溶解して模擬滞留水2を作製する。次に、吸着剤添加・攪拌工程として、S2で前記表2に示す各種吸着剤(添加試薬)を個別に3.0g/mLの割合で添加して、マグネチックスターラ6の回転数を500rpmにして、15分間混合・攪拌して、対象元素を吸着剤に吸着させる。
【0026】
このようにして模擬滞留水2と吸着剤を所定時間接触させた後、電解工程として、S3で電解を行う。
図1に示す直流電源5として、菊水電子株式会社製REGULATED DC POWER SUPPLY、形式:PAD35−10L、消費電力:最大350W、出力:最大DC35V−10Aを使用する。また電解条件は、電解電流:10A、通電時間:30秒間とした。この電解中もマグネチックスターラ6の回転(回転数:500rpm)により模擬滞留水2を混合・攪拌する。
【0027】
次にS4で前記表3に示す凝集促進剤を、模擬滞留水2に溶解した対象元素に合わせて、個別に0.5g/mLの割合で添加して、マグネチックスターラ6の回転数を500rpmにして、5分間混合・攪拌する。その後、固形分分離工程として、模擬滞留水2を静置してフロック(固形物)を沈降し(S5)、濾過して(S6)、濾過液(S7)とフロック(S8)に分けることにより、各種対象元素を海水から分離・除去することができる。本実施例では固液分離後のフロックを「凝集沈殿物」という。
【0028】
表4は、各種吸着剤による各元素に対する除去率をまとめた表である。なお、Zrについては、海水中においてZr
4+となり、溶解度が非常に小さいヒドロキシ錯体を形成し、前記調整段階で沈殿してしまい、海水における除去率の評価ができなかった。そのためNaCl水溶液からなる模擬溶液で除去率の評価を行なった。このように評価方法が他の元素と違うので、Zrの欄に*印を付した。
また比較例として、吸着剤を添加しないで電解のみを行なった場合の各元素に対する除去率も併記した。
【表4】
【0029】
この表4の結果から、各吸着剤がどの元素に対して高い除去率が得られるか、すなわちどの元素に対して除去効果が発揮できるかを、吸着剤別にまとめれば下記のようになる。なお、この例では除去率が30%を超えたものを除去効果が高いと評価した。
○フェロシアン化カリウム:Cs,Zr,Ru,Nd,Ce。
○フェロシアン化ニッケルカリウム:Cs,Zr,Ru,Nd,Ce。
○フェロシアン化鉄:Zr,Ru。
○モルデナイト:Ru。
○タングストリン酸アンモニウム:Cs,Ru。
○水酸化鉄(III):Ru。
○硫酸ナトリウム+塩化バリウム:Zr,Ru。
○チタン酸ナトリウム:Ru。
○銀ゼオライト:I,Zr,Ru。
【0030】
また、放射性元素別に適用可能な吸着剤をまとめれば、下記のようになる。()内の数値は除去率である。
○Csに対しては、フェロシアン化ニッケルカリウム(99.3%)、フェロシアン化カリウム(62.7%)、
タングストリン酸アンモニウム(36.1%)、モルデナイト(20.3%)、フェロシアン化鉄(6.8%)、水酸化鉄(5.6%)などの適用が可能。
○Srに対しては、(硫酸ナトリウム+塩化バリウム)(12.6%)、フェロシアン化ニッケルカリウム(6.9%)、水酸化鉄(6.2%)などの適用が可能。
○Iに対しては、銀ゼオライト(92.4%)、モルデナイト(12.2.%)、水酸化鉄(10.5%)などの適用が可能。
○Zrに対しては、フェロシアン化カリウム(99.9%)、(硫酸ナトリウム+塩化バリウム)(96.0%)、フェロシアン化ニッケルカリウム(94.8%)、銀ゼオライト(69.2%)、フェロシアン化鉄(51.1%)などの適用が可能。
○Ruに対しては、フェロシアン化ニッケルカリウム(96.3%)、チタン酸ナトリウム(93.4%)、銀ゼオライト(90.5%)、タングストリン酸アンモニウム(86.6%)、(硫酸ナトリウム+塩化バリウム)(85.2%)、モルデナイト(84.6%)、フェロシアン化鉄(80.0%)、水酸化鉄(78.9%)、フェロシアン化カリウム(73.3%)などの適用が可能。
○Ndに対しては、フェロシアン化カリウム(51.4%)、フェロシアン化ニッケルカリウム(48.6%)、銀ゼオライト(28.7%)、チタン酸ナトリウム(25.9%)、タングストリン酸アンモニウム(20.8%)、(硫酸ナトリウム+塩化バリウム)(20.4%)、水酸化鉄(19.4%)、モルデナイト(16.2%)などの適用が可能。
○Ceに対しては、フェロシアン化ニッケルカリウム(34.3%)、フェロシアン化カリウム(33.3%)、銀ゼオライト(27.8%)、(硫酸ナトリウム+塩化バリウム)(24.5%)、チタン酸ナトリウム(19.9%)、タングストリン酸アンモニウム(14.8%)、水酸化鉄(13.9%)、モルデナイト(12.5%)、フェロシアン化鉄(11.1%)などの適用が可能。
【0031】
また、吸着剤ならびに凝縮促進剤を添加しないで電解のみを行なった比較例(試験No.10)と本実施例(試験No.1〜9)のものを比較すると、Csに関してはフェロシアン化ニッケルカリウムの場合は約26倍、Srに関しては(硫酸ナトリウム+塩化バリウム)の場合は約4.2倍、Iに関しては銀ゼオライトの場合は約8.8倍、Ndに関してはフェロシアン化カリウムの場合は約4.3倍、Ceに関してはフェロシアン化ニッケルカリウムの場合は約4.2倍、それぞれ除去率が向上している。
【0032】
なお、表4は除去率の一例であり、吸着剤の添加量、模擬滞留水と吸着剤の接触時間ならびに電解条件などを適切に選択することにより、除去率をさらに改善することができる。
【0033】
貯留水中に複数の除去対象の放射性元素(例えばA,B元素)が含まれていると想定される場合、次のような処理を行うことで、前記複数の放射性元素の除去が一連の操作で可能となる。
すなわち、
1回目の処理で、想定したA元素に適合した吸着剤Xの添加・吸着→電解→凝集促進剤の添加・攪拌→静置→濾過を行い、
2回目の処理で、想定したB元素に適合した吸着剤Yの添加・吸着→電解→凝集促進剤の添加・攪拌→静置→濾過を行う。
【0034】
この具体例として、例えば貯留水の事前調査でCsが100ppm、Iが100ppm含有されていることが分かり、それらの放射性元素を分離・除去する場合について説明する。
前記表4の実験結果から、Csの分離・除去にはフェロシアン化ニッケルカリウムが、また、Iの分離・除去には銀ゼオライトが、それぞれ最も効果的であることが予め分かっている。
【0035】
1回目の処理ではフェロシアン化ニッケルカリウムを吸着剤として使用して分離・除去処理を行なう。その場合、Csの除去率は99.3%であるから貯留水中のCs残量濃度は0.7ppmとなるが、Iは分離・除去できない。次に2回目の処理では銀ゼオライトを吸着剤として使用して分離・除去処理を行なう。その場合の除去率は92.4%であるから貯留水中のIの残量濃度は7.6ppmとなり、この2回の処理で、許容される量以下の元素残渣量の滞留水となる。
【0036】
このように、貯留水中の含有元素の事前調査から、分離・除去処理の内容が事前に設計(計画)でき、作業効率を含めて効率の高い放射性元素の分離・除去が可能となる。
【0037】
表5は、各種吸着剤によって生成したフロックの沈降速度を測定してまとめた表である。この沈降速度の測定に用いる各種試料は、前記除去率の評価に用いたものと同じ条件の試料を用いた。
【0038】
この沈降速度の測定は、次のような手順で行なった。
まず、前述の電解後に凝集促進剤を添加して、攪拌速度500rpmで5分間溶液を攪拌することにより、生成したフロックと凝縮促進剤を十分に混合する。そして攪拌後に液を5分間静止して、その間に液とフロックの界面が液の水面から沈降した距離Xを計測し、次式によって演算される単位時間当たりに沈降した距離を沈降速度(mm/sec)とする。
【0039】
沈降速度=X/(5×60)
図3は、攪拌直後を示した図(a)と、5分間経過後のビーカ1内の溶液の状態を示した図(b)であり、
同図に示したように5分間で液とフロックの界面が液の水面8から沈降した距離Xを計測する。
【表5】
【0040】
この表5から明らかなように、本実施例に係る試験No.1〜9のものは沈降速度が0.19〜0.5mm/secと速く、フロックの分離性が良いことを示している。なお、この表5には記載していないが、吸着剤のみ添加して、電解を行なわない場合は、3分間経過後も殆どフロックの沈降が見られないことが確認され、フロックの分離性が悪いことが分かる。
【0041】
(電解の凝集分離性能へ及ぼす影響)
次に、本実施例に係る電解凝集の一連の操作(吸着剤の添加・接触−電解−凝集促進剤の添加・接触の一連の操作)におけるフロックの各挙動から、電解の凝集分離性能へ及ぼす影響について確認した結果を説明する。
【0042】
この試験では、添加元素の影響を排除するため、Csのみ200ppm溶解した海水200mLを用い、吸着剤(添加試薬)はフェロシアン化ニッケルカリウム(3.0g/L)を使用し、凝集促進剤は表3に示す組成の燃焼灰を使用した。電解試験装置は
図1に示す装置を使用し、吸着剤(添加試薬)と溶液の接触時間は15分間、電解電流は10A、通電時間は30秒間とした。
【0043】
電解凝集操作は吸着剤(添加試薬)の添加・接触、電解、凝集促進剤の添加・接触の順に行い、各操作毎の3分間経過後のフロックの沈降状態を写真に撮り、その写真を線図化したものを
図4に示す。同図(a)は吸着剤(添加試薬)を添加した後の状態、同図(b)は吸着剤(添加試薬)を添加して電解を行った後の状態、同図(c)は吸着剤(添加試薬)を添加して、電解を行って、凝集促進剤を添加した後の状態を示す図である。
【0044】
この
図4に示されているように、吸着剤(添加試薬)を添加しただけのもの〔同図(a)〕は、3分間経過した後もフロックの沈降は殆ど認められず、凝集分離性能が非常に悪い。これに比べて吸着剤(添加試薬)を添加して電解を行ったもの〔同図(b)〕は、フロックの沈降速度が速く、凝集分離性能が良好である。また、その後に凝集促進剤を添加したもの〔同図(c)〕は、電解を実施したものに比べて更にフロックの沈降速度が速く、同図(c)から明らかなように、3分間経過後には液とフロックの界面が水面から約1/4近くの所まで下がっており、凝集分離性能が極めて良好であり、効率の良い分離・除去が行なわれる。
【0045】
また、各操作毎に濾液中の元素分析(AA)ならびに凝集沈殿物中の元素分析(XRD)を行い、各操作におけるCsの除去率を調べ、その結果を表6に示した。なお、この表6は、Csのみを添加したときの実験結果であるから、多核種添加した表4に記載されているCsの除去率と若干異なっている。
【表6】
【0046】
この表6から明らかなように、吸着剤(添加試薬)を添加して電解を行ったものは吸着剤(添加試薬)を添加しただけのものに比べて除去率も向上しており、電解によりフロックが大きく成長したことにより、添加元素を捕集する効果が増加したものと考えられる。また、その後に凝集促進剤を添加したものは、添加元素の除去率がさらに向上している。このように電解後に凝集促進剤を添加したものは、フロックの沈降速度が最も速く、しかも添加元素の除去率が高いという特長を有している。
【0047】
(電解凝集のメカニズム)
電解凝集反応の基本原理は、粒子がイオンを含む液体中の存在するとき、粒子の表面電荷の影響で、イオンが粒子側に引き寄せられる。この粒子が液体中を動くとき、引き寄せられたイオンは粒子と一体になって動くが、粒子の表面電荷が及ぼす影響には限界がある。この表面電荷が影響を及ぼす限界の部分を「滑り面」と呼び、その「滑り面」での電位を「ゼータ電位」と呼ぶ。また、「滑り面」から粒子表面までの層を「拡散電気二重層」と呼ぶ。前記ゼータ電位が大きければ(すなわち、拡散電気二重層が厚ければ)、粒子は互いに静電的に反発し合い、粒子の分散状態を維持するが、ゼータ電位が0に近ければ(すなわち、拡散電気二重層が薄ければ)、静電的な反発力の影響が弱まり、分子間力により粒子が凝集する。
【0048】
本実施例では、陽極に用いたAl−Mg合金から電解反応により金属イオン(Al
3+,Mg
2+)が溶出し、白色のフロックが生成する。そのフロックはAl(OH)
3,Mg(OH)
2などの水酸化物であると考えられる。生成した水酸化物フロックが溶液中でおそらく負に帯電しているゼオライトやフェロシアン化物など吸着剤の粒子に吸着されて凝集が起こり、この凝集は電解により促進されてフロックが成長して、凝集沈殿物が効果的に分離されると考えられる。
【0049】
その際、粒子とは逆符号に帯電していると予測する凝集促進剤を添加することで、凝集した粒子が凝集促進剤に取り込まれ、さらに固液分離効果が向上するものと推測できる。
【0050】
(凝集沈殿物の性状)
次に、回収した凝集沈殿物の外観の観察をマイクロスコープ、SEMを用いて行なった結果について説明する。
図5はSEM画像で、同図の(a−1)は吸着剤(試薬)として使用するフェロシアン化ニッケルカリウムのSEM画像、(a−2)ならびに(a−3)は同吸着剤を使用して得られた凝集沈殿物のSEM画像で、異なる位置でのSEM画像である。また、同図の(b−1)は吸着剤(試薬)として使用する銀ゼオライトのSEM画像、(b−2)ならびに(b−3)は同吸着剤使用して得られた凝集沈殿物のSEM画像で、異なる位置でのSEM画像である。
【0051】
図5の(a−1)ならびに(b−1)に示すように、吸着剤として使用するフェロシアン化ニッケルカリウムならびに銀ゼオライトは、多くが細かい粒子であり、それら粒子は個々に分散している状態である。なお、フェロシアン化ニッケルカリウムの粒径は約1μm、銀ゼオライトの粒径は約6μmである。これが電解凝集後にはa−2),(a−3)ならびに(b−2),(b−3)に示すように粒子が大きく成長し、その大きな粒子に細かい粒子などが集まり大きな塊(粒径約10μm以上)を作っていることが確認できた。
フェロシアン化ニッケルカリウムならびに銀ゼオライト以外の吸着剤においても、電解凝集後には凝集沈殿物の粒子が成長していることが、他の実験で確認されている。
【0052】
次に、凝集沈殿物中の元素分析をXRDで行なった結果について説明する。
図6はそのXRDの結果を示すチャートで、同図(a)はCsの除去を対象としてフェロシアン化ニッケルカリウムを用いて凝集させた沈殿物のチャート、同図(b)はSrの除去を対象として(硫酸ナトリウム+塩化バリウム)を用いて凝集させた沈殿物のチャート、同図(c)はIの除去を対象として銀ゼオライトを用いて凝集させた沈殿物のチャートである。
【0053】
同図(a)に示すように、Csの除去を対象としてフェロシアン化ニッケルカリウムを使用した凝集沈殿物は、Csが吸着された状態であると考えられ、Cs化合物としてのピークは見られなかった。同図(b)に示すように、Srの除去を対象として(硫酸ナトリウム+塩化バリウム)を使用した凝集沈殿物は、BaとSrの硫酸塩(Ba
xSr
(1−x)SO
4)として存在していることを確認した。また、同図(c)に示すように、Iの除去を対象として銀ゼオライトを使用した凝集沈殿物は、AgIとして存在していること確認した。
【0054】
次に、凝集沈殿物の酸・アルカリへの溶解性について検討した結果について説明する。このことは、凝集沈殿物のその後の湿式処理、あるいは配管などへの付着時の洗浄などでの安全性を検討する上で非常に重要である。
【0055】
試験装置として、主にビーカ(200mL)とホットプレートを使用した。対象試料として、前記表4に記載の本実施例の試験No.2(吸着剤:フェロシアン化ニッケルカリウム使用)、試験No.7(吸着剤:硫酸ナトリウム+塩化バリウム使用)、および試験No.9(吸着剤:銀ゼオライト使用)と同様の処理方法で得られた凝集沈殿物を使用した。
【0056】
試験条件については、溶媒として、酸は金属の溶解に多く用いられ、核燃料再処理(Purex法)でも使用されている硝酸溶液、アルカリは一般的な洗浄剤の主剤として用いられる水酸化ナトリウム溶液を選定した。濃度と温度は、溶液中添加元素の最大モル数からそれらが全量溶解するのに十分な濃度で、かつ、急激な発熱反応に対する裕度を考慮して、硝酸溶液ならびに水酸化ナトリウム溶液を共に3mol/Lとし、溶解温度は50℃、保持時間は60分間とした。また、溶質は、酸、アルカリとも回収した凝集沈殿物量と分析を考慮して0.2gとした。
【0057】
試験の手順は次の通りである。
(1)乾燥した凝集沈殿物をサンプル瓶より所定量(0.2g)分取し、酸、アルカリの所定の溶液50mLに添加、撹拌しながら50℃まで加熱し、その温度で60分間保持する。
(2)60分間保持後、濾過し、濾過液と凝集沈殿物の残渣を分離する。
(3)分離した濾過液から30mL採取して、所定の容器に保管する。
(4)濾過液中の元素分析をICP−AES、AAで行なう。
(5)分離した凝集沈殿物は、乾燥した後、重量を測定して、所定の容器に保管する。
【0058】
凝集沈殿物の酸、アルカリに対する溶解挙動を確認し、それらの後処理(溶解などの化学的処理)、取り扱いに対する安全性を評価した。その結果を、表7に酸溶液に対する溶解度、表8にアルカリ溶液に対する溶解度として示した。なお、表中の溶解率(%)は、溶解する凝集沈殿物中に存在する各元素質量を100とし、溶解試験後の溶液中に存在する各元素質量の割合から算出した。
【表7】
【表8】
【0059】
元素Csついて考察すると、フェロシアン化ニッケルカリウムを使用して生成した凝集沈殿物では、除去したCsが酸溶液よりもアルカリ溶液によく溶解している。Cs以外の元素については、アルカリ溶液にはほとんど溶解せず、酸溶液に対しては少量ではあるが溶解する傾向が見られる。これは、フェロシアン化物はアルカリによる結合が弱くなる傾向があることから、Csとの結合力が弱まり、溶液中に溶解したものと考えられる。
【0060】
一方、(硫酸ナトリウム+塩化バリウム)および銀ゼオライトを使用して生成した凝集沈殿物では、酸溶液とアルカリ溶液に対する溶解率の差は見られなかった。そのうち、銀ゼオライトを使用して生成した凝集沈殿物では、化学的な反応ではなく、ゼオライトに吸着していたものが溶解したものと考えられる。
【0061】
次に元素Srついて考察すると、どの凝集沈殿物もアルカリ溶液よりも酸溶液に溶解し易い傾向が見られた。(硫酸ナトリウム+塩化バリウム)を使用して生成した凝集沈殿物が酸溶液に対しては比較的高い溶解率を示しているが、これはSrSO
4として共沈していたものが再溶解したものと考えられる。銀ゼオライトを使用して生成した凝集沈殿物は、前記Csの場合と同様にゼオライトに吸着していたものが溶解したものと考えられる。
【0062】
元素Iについては、酸溶液に溶解すると飛散することから測定できなかった。また、アルカリ溶液に溶解させた際には、溶液中への溶出は確認できなかった。そのことから、凝集沈殿物中の元素Iはアルカリ溶液には溶解しないものと判断できる。
【0063】
元素Ruについては、酸溶液に溶解した条件において、凝集沈殿物の量よりも溶解後の量が約4〜20倍大きい値を示した。この原因については、試験後の凝集沈殿物の洗浄が不十分であったことも考えられるが、試験の関係上、再現性を含めて確認できなかった。
【0064】
元素Ceならびに元素Ndについては、アルカリ溶液に溶解せず、酸溶液に対しては約50%の溶解率となっている。これは、電解時に発生する水酸化物イオンと反応し、水酸化物が生成し、それが溶解したことによるものと考えられる。
【0065】
この溶解試験の全条件において、凝集沈殿物と酸溶液ならびにアルカリ溶液との急激な化学反応はなく、湿式処理を行なう場合の危険性は少ないと判断する。
【0066】
凝集沈殿物には、電解・凝集の特徴である水酸化物フロック及び凝集促進剤を含むため、保管・貯蔵時の取扱い、ならびに保管時の温度上昇に対する対応力を評価するために、凝集沈殿物を1000℃まで加熱した際の熱的挙動を確認した。
【0067】
対象試料は、本実施例の試験No.2、No.7、およびNo.9と同様の試料を使用した。各試料の熱重量分析として、示差熱・熱重量同時測定 (TG-DTA)を行なった。また、凝集沈殿物の外観観察はマイクロスコープで行なった。凝集沈殿物の熱的特性(ガラス固化を想定して1000℃まで昇温)を測定し、凝集沈殿物の後処理(熱的処理)に対する安全性を確認した。
【0068】
図7(a)は、吸着剤にフェロシアン化ニッケルカリウムを使用した場合の凝集沈殿物の重量変化と示差熱分析結果を示す特性図である。この図から明らかなように、凝集沈殿物は、300℃弱で重量が10%程度減少し、約100℃上昇する発熱反応が見られた。これは、使用したフェロシアン化ニッケルカリウム単体の熱分析結果でも同様の傾向が見られたことから、フェロシアン化ニッケルカリウムが分解したものと考えられる。
【0069】
図7(b)は、凝集沈殿物の熱処理前と熱処理後の状態を示す図であり、熱処理前と熱処理後を比較すると、明らかに熱処理後は物質が減少している。しかし、これらの反応では発熱反応の開始温度が20℃程度異なる。これは、フェロシアン化ニッケルカリウム中でCsが結合されるまたはKと入替わることにより、組成が異なることが要因と考えられる。
【0070】
図8(a)は、吸着剤に(硫酸ナトリウム+塩化バリウム)を使用した場合の凝集沈殿物の重量変化と示差熱分析結果を示す特性図である。また、
図8(b)は、その凝集沈殿物の熱処理前と熱処理後の状態を示す図である。さらに、
図9(a)は、吸着剤に銀ゼオライトを使用した場合の凝集沈殿物の重量変化と示差熱分析結果を示す特性図である。また、
図9(b)は、その凝集沈殿物の熱処理前と熱処理後の状態を示す図である。
【0071】
これらの凝集沈殿物も、1000℃までの温度上昇では反応はなく安定した物質であることが確認された。以上のことから、電解操作で発生する水酸化物フロックや凝集促進剤は、1000℃まで安定している物質であることが確認できた。
【0072】
凝集沈殿物は、放射性廃棄物として湿式処理が行なわれ、さらに、ガラス固化処理等を経て、地下貯蔵の形態をとると思われる。その際、本実施例で生成された凝集沈殿物は、酸溶液に対する挙動、アルカリ溶液に対する挙動、および熱的挙動において、急激な反応はなく、湿式処理を行う場合の危険性は少なく、安定したものであることが確認できた。
【0073】
前記実施例では海水中での放射性元素の分離・除去について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば除染した後の洗浄水、雨水、河水、下水あるいは溜り水などからの放射性元素の分離・除去にも適用可能である。