(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0012】
〔実施形態1〕
図1は本発明による医療用超音波診断訓練システムの実施形態1を示す系統図である。
図1に示されるように、医療用超音波診断訓練システム10は、人体に近似する構成とされた擬似検体20と、超音波診断訓練装置30とを有する。尚、
図1において擬似検体20の構成は、説明の便宜上簡略化して示してあり、詳細は後述する。
【0013】
超音波診断訓練装置30は、超音波発振器40及び探触子140と別体に構成されており、例えば、既に超音波発振器40及び探触子140が設置されている検査室に追加して設置することが可能である。
【0014】
また、超音波診断訓練装置30は、筐体32内の擬似血液循環経路100に擬似血液タンク50、ポンプ60、逆流防止弁80が配置された擬似血液循環ユニット120を有する。擬似血液循環ユニット120は、当該擬似血液循環経路100を介して擬似検体20の内部に形成された擬似血管110(
図1中破線で示す)に擬似血液を循環させる。また、超音波診断訓練装置30の上部には、擬似検体20が搭載されているので、運搬しやすく、適宜移動することが可能である。
【0015】
また、擬似血管110には、訓練用の擬似狭窄部Xが設けられている。尚、擬似血液としては、例えば、水、又は水を赤色に着色した液体を使用する。また、訓練の再現性を高めるために血液と同じような超音波透過特性を有する液体、例えば、固有音響インピーダンスを1.6〜1.7×10
5(kg/m/sec)となるように調整した液体などを擬似血液として使用しても良い。
【0016】
擬似血液タンク50は、ポンプ60の回転数の変動に応じて擬似血液が不足しないように所定容量の擬似血液が貯留されている。また、逆流防止弁80は、擬似血管110の圧力が擬似血液循環経路100の圧力より相対的に低い場合に開弁し、擬似血管110の圧力が擬似血液循環経路100の圧力より相対的に高くなった場合に閉弁する。
【0017】
ポンプ60は、擬似血液が流れるU字状チューブを回転するローラによりしごいて押し出すローラーポンプである。ローラーポンプのローラ回転数は、擬似検体20に内蔵された擬似血管110の直径に応じた血流及び脈拍を再現するように任意の数値(例えば、高血圧や低血圧の症状に応じた数値)に設定可能である。
【0018】
超音波発振器40及び探触子140は、超音波診断訓練装置30と別体のものであり、別個に購入しても良いし、予め設置されたものを使用しても良い。従って、超音波診断訓練装置30を用いて超音波診断の訓練を行う際は、電源スイッチをオンにしてポンプ60を駆動させることで、擬似血液循環経路100及び擬似血管110に擬似血液が循環されて、訓練可能となる。尚、ポンプ60の回転数は、想定される症状に応じた訓練用の回転数に設定されているため、訓練者は探触子140の操作に集中することができる。また、超音波発振器40には、小型モニタが設けられており、訓練者は探触子140の位置に応じた超音波の送受信による模擬画像を見ながら超音波診断の訓練を行える。
【0019】
探触子140は、超音波診断を行う際に擬似検体20の外側に接触される。そして、探触子140から送信された超音波は、擬似筋肉180を伝播して擬似血管110に至る。擬似血管110の内部には、擬似血液が流れているので、超音波が反射して探触子140で受信され、探触子140から超音波受信信号が出力される。このとき、探触子140を擬似検体20の表面に沿うように移動させることで、擬似検体20の内部に配された擬似血管110の形状に応じた超音波画像が作成される。
【0020】
また、擬似血管110には、血流を絞る狭窄に相当する擬似狭窄部Xが任意の位置に設けられている。この擬似狭窄部Xは、予め複数のパターンのものを用意し、適宜交換することで、異なる場所の狭窄の存在を検知する訓練や、狭窄の位置を探し出す訓練が可能になる。擬似狭窄部Xは、擬似血管110の内部流路を狭くしており、擬似血液の流量が絞られ、高血圧の症状とほぼ同じになるように設定されている。そのため、探触子140を操作しても超音波の反射波が弱いため、擬似狭窄部Xを探しだすことが難しい。しかしながら、訓練者は、当該擬似検体20に設けられた狭窄部分Xの存在位置を探し出す訓練を繰り返すことで、探触子140の操作方法を実際に近い状況で練習することができ、超音波診断能力をより高められる。
【0021】
また、擬似検体20には、擬似血管110に連通された第1接続カップリング112、114が設けられている。一方、筐体32の上面には、擬似血液循環経路100の両端に連通された第2接続カップリング34、36が設けられている。
【0022】
擬似検体20は、筐体32の上面に載置して下方に押圧するだけで、第1接続カップリング112、114に第2接続カップリング34、36を結合させることができる。このように第1接続カップリング112、114と第2接続カップリング34、36とは、挿入することで着脱自在に連結され、互いを嵌合させることで内部のロック機構が動作して連結状態で固定される構造になっている。また、第1接続カップリング112、114の外周に設けられた操作リングを軸方向にスライドさせることで、ロック解除させることができる。そのため、擬似検体20と筐体32との間の接続が容易に行えると共に、分離操作も短時間で行える。
【0023】
また、第1接続カップリング112、114及び第2接続カップリング34、36は、内部に逆流防止弁が内蔵されており、接続と共に内蔵された各逆流防止弁が開弁して連通され、分離されたときには各逆流防止弁が閉弁にして液漏れが防止される。
【0024】
〔実施形態1の変形例〕
図2は擬似検体20を擬似血液循環ユニット120に固定する固定機構を示す図である。
図2に示されるように、実際の擬似検体20は、箱形ではなく人体に近い形状に製作されるため、筐体32の上面に設けられた固定機構(固定手段)170により固定することで、安定した状態で訓練することが可能になる。固定機構170としては、例えば筐体32の上面の支持部172に鉤形状の固定部材174が回動可能に設けられている。この固定部材174の爪部176が擬似検体20に設けられた凹部22に係合して擬似検体20を固定する。尚、固定部材174は、トーションバネなどの付勢部材により凹部22に嵌合する位置に付勢されているので、擬似検体20は固定部材174の爪部176が凹部22を掛止することで、容易に固定できる。
【0025】
〔擬似検体20の構成例〕
図3は擬似検体20の構成例を模式的に示す図である。
図3に示されるように、擬似検体20は、例えば、人体の頭部と胴体とを有する上半身に相当する形状とされ、内部に樹脂製チューブからなる擬似血管110が配置されている。また、擬似血管110は、例えば、心臓A、肝臓B、胃C、腎臓D、肺E、脳Fなどの各臓器の模型に接続されており、動脈及び静脈に分かれている。また、擬似血管110は、各部位に応じた直径のチューブが用いられている。さらに、擬似血管110の周囲は、筋肉に近い超音波透過特性を有する材質の樹脂材により形成された擬似筋肉180に覆われている。
【0026】
また、上記頭部と胴体を組み合わせた擬似検体20以外にも、例えば、腕のみの擬似検体や、脚のみの擬似検体等を超音波診断訓練装置30に接続して超音波診断訓練を行うことも可能である。従って、擬似検体20は、想定される症状に応じた擬似血管110が個別に設けられた複数個用意され、超音波診断訓練装置30に対して交換可能に接続される。
【0027】
図4は全身模型からなる擬似検体の変形例を示す図である。
図4に示されるように、全身模型からなる擬似検体20Aは、より人体に近い構成になっており、両手、両脚もあり、全身に擬似血管110が設けられている。そのため、より人体に近い擬似検体20Aにより超音波診断の訓練の精度がより高まる。尚、この全身の擬似検体20Aの場合も、
図3に示す上半身のものと同様に、擬似血管110に擬似狭窄部Xが設けられている。
【0028】
さらに、擬似検体20Aは、例えば、胴体部200、頭部210、腕部220,230、脚部240、250といった具合に各部毎に分離可能な構成としても良い。その場合、胴体部200、頭部210、腕部220、230、脚部240、250のうち訓練内容に応じた部位のみを使用することが可能になる。また、各部位の境界に位置する擬似血管110には、
図1に示すような接続カップリングを設けることで接続、分離作業の容易さ、及び分離時の液漏れを防止できる。
【0029】
〔実施形態2〕
図5は本発明による医療用超音波診断訓練システムの実施形態2を示す系統図である。
図5に示されるように、医療用超音波診断訓練システム10Aの超音波診断訓練装置30Aは、筐体32内に超音波発振器40と、擬似血液タンク50、ポンプ60、流量計70、逆流防止弁80、制御部90とを有する。なお、
図5に示す超音波診断訓練装置30Aは、
図1に示す実施形態1のものと流量計70以外、同じ構成であるので、同一部分については、同一符号を付してその説明を省略する。
【0030】
流量計70は、擬似血液循環経路100を流れる擬似血液の流量を計測し、流量計測信号を制御部90に出力する。制御部90は、流量計70からの流量計測信号を積算して単位時間当たりの瞬時流量を演算すると共に、ポンプ60の回転数による流量(計測値)が予め設定された設定値となるようにポンプ60のモータを制御する。
【0031】
図6は実施形態2の超音波診断訓練制御処理1を説明するためのフローチャートである。
図6に示されるように、制御部90は、ステップS11において、電源スイッチがオンに操作されると、ステップS12に進み、予めメモリに登録されたポンプ駆動周期のパラメータを読み込み、今回の訓練内容に応じたポンプ駆動周期を設定する。
【0032】
次のステップS13では、ポンプ60を駆動する。これにより擬似血液タンク50に貯留された擬似血液が流量計70及び逆流防止弁80を通過して擬似検体20、20Aの擬似血管110に供給される。また、擬似血管110を通過した擬似血液は、擬似血液タンク50に回収されて循環される。
【0033】
次のステップS14では、流量計70により計測された流量計測値を読み込み、単位時間当たりの瞬時流量Qを演算する。続いて、ステップS15に進み、計測された瞬時流量Qが予め設定された目標流量Q1に等しいか否かをチェックする。ステップS15において、計測された瞬時流量Qが予め設定された目標流量Q1に等しくない場合(NOの場合)、ステップS16に進み、ポンプ60の回転数を加速又は減速して調整する。そして、上記S13〜S15の処理を繰り返す。
【0034】
また、ステップS15において、計測された瞬時流量Qが予め設定された目標流量Q1に等しい場合(YESの場合)、S17に進み、電源スイッチがオフか否かをチェックする。S17において、電源スイッチがオフの場合(YESの場合)、今回の制御処理を終了する。また、S17において、電源スイッチがオンの場合(NOの場合)、上記S14に戻り、S14、S15の処理を繰り返す。
【0035】
訓練者は、探触子140を擬似検体20の表面に沿うように移動させることで、擬似検体20の内部に配された擬似血管110の形状に応じた超音波画像が作成される。また、訓練者は、当該擬似検体20に設けられた狭窄部分Xの存在位置を探し出す訓練を繰り返すことで、探触子140の操作方法を実際に近い状況で練習することができ、超音波診断能力をより高められる。
【0036】
〔実施形態3〕
図7は本発明による医療用超音波診断訓練システムの実施形態3を示す系統図である。
図7に示されるように、医療用超音波診断訓練システム10Bの超音波診断訓練装置30Bは、筐体32内に超音波発振器40と、擬似血液タンク50、ポンプ60、流量計70、逆流防止弁80、制御部90とを有する。
【0037】
さらに、筐体32の上面には、超音波診断画像を表示するモニタ(報知手段)130が設けられている。また、超音波発振器40は、予め設定された周波数(例えば、数MHz〜数十MHz)の信号を信号線42を介して探触子140に送信する。探触子140は、棒状ケースの内部に振動子、振動板などの超音波送受信器を有する。また、探触子140は、擬似検体20内で反射された超音波を受信すると共に、信号線44を介して受信信号を制御部90に出力する。
【0038】
制御部90は、探触子140から信号に基づいて得られた超音波画像を生成してモニタ130に表示させると共に、予め登録された狭窄部画像と比較して当該超音波画像により擬似血管110及び擬似狭窄部Xの存在(位置)が検知された否かを判定し、判定結果を報知する。
【0039】
図8は、実施形態3の超音波診断訓練制御処理2を説明するためのフローチャートである。
図8に示されるように、制御部90は、前述したステップS11〜S16(説明は省略)の処理を実行する。
【0040】
また、ステップS15において、計測された瞬時流量Qが予め設定された目標流量Q1に等しい場合(YESの場合)、ステップS17aに進み、超音波発振器40を起動させる。これにより、超音波発振器40は、予め設定された周波数(例えば、数MHz〜数十MHz)の信号を信号線42を介して探触子140に送信する。これで、訓練者は、探触子140を手に持って擬似検体20の表面に接触させて訓練を行う。
【0041】
探触子140から送信された超音波は、擬似検体20の擬似筋肉180を伝播して擬似血管110に至る。擬似血管110の内部には、擬似血液が流れているので、超音波が反射して探触子140で受信され、探触子140から超音波受信信号が出力される。このとき、探触子140を移動させることで、擬似検体20の内部に配された擬似血管110の形状に応じた超音波画像が作成される。これにより、擬似狭窄部Xからの反射波による画像がモニタ130に表示されるまで、訓練者は探触子140を操作して擬似狭窄部Xの画像を視覚的に検知する。
【0042】
次のステップS18では、探触子140により受信された反射波の受信信号が制御部90に入力されたか否かをチェックする。ステップS18において、送信された超音波の反射波が受信された場合(YESの場合)、ステップS19に進み、受信信号に基づく画像データを生成してモニタ130に表示させる(画像生成手段)。また、モニタ130に表示された画像の中から擬似狭窄部Xの画像を抽出する。
【0043】
次のステップS20では、モニタ130に表示された画像の中から擬似狭窄部Xの画像が抽出されたか否かをチェックする。ステップS20において、モニタ130に表示された画像の中から擬似狭窄部Xの画像が抽出されなかった場合(NOの場合)、訓練者が擬似狭窄部X(患部)をみつけることができないので、上記ステップS18の処理に戻り、探触子140の操作を続けることになる。
【0044】
また、ステップS20において、モニタ130に表示された画像の中から擬似狭窄部Xの画像が抽出された場合(YESの場合)、訓練者が擬似狭窄部X(患部)をみつけることができたので、ステップS21に進み、患部検出を当該訓練者に報知する。尚、報知方法は、音声で報知しても良いし、あるいはモニタ130の画面に患部検出を表すマークを表示しても良い。
【0045】
これにより、初心者でも探触子140の操作しながら擬似狭窄部X(患部)が検出されたことを容易に確認することができる。訓練者は、この探触子140の操作に応じた画像を繰り返しみることで、画面の表示から分かりにくい擬似狭窄部X(患部)の視覚的に検出する訓練を効率良く行える。そのため、訓練者は、音声又はモニタ130の画面の表示により報知されることで、当該擬似検体20に設けられた狭窄部分Xの存在位置を探し出したことをその場で確認できる。これにより、訓練者は、探触子140の正しい操作方法を実際に近い状況で効率良く練習することができ、短時間で超音波診断能力を高められる。
【0046】
また、上記音声ガイド又は画面表示ガイドによる報知方法を段階的に行なうように設定にすることで、擬似狭窄部X(患部)に近づいていることを段階的に認識することが可能になり、訓練のガイド機能をより一層強化することもできる。
【0047】
〔実施形態4〕
図9は医療用超音波診断訓練システムの実施形態4を示す系統図である。
図9において、前述した実施形態1と同一部分には、同一符号を付して説明を省略する。
【0048】
図9に示されるように、医療用超音波診断訓練システム10Cの超音波診断訓練装置30Cは、筐体32内に超音波発振器40と、擬似血液タンク50、ポンプ60、流量計70、逆流防止弁80、制御部90と、濃度調整部300を有する。
【0049】
濃度調整部300は、擬似血液の含まれる粘性物質の分量を調整することで擬似血液の粘性が実際の血液に近いものとする。例えば、制御部90からの指示により血液中に含まれる赤血球の割合に応じて微粒子からなる粘性物質の混合割合を設定値に調整する。そのため、擬似血管110内を流れる擬似血液の流量又は流速が想定される病気の種類(例えば、高脂血症など)に応じた流量又は流速と同じになり、訓練精度がより高められる。
【0050】
図10は実施形態2の超音波診断訓練制御処理2を説明するためのフローチャートである。
図10に示されるように、制御部90は、ステップS31で電源スイッチがオンに操作されると、ステップS32に進み、今回の訓練に応じた所望の濃度設定値N1を設定する。次のステップS33では、濃度調整部300により擬似血液の濃度Nが濃度設定値N1と等しくなったか否かをチェックする。ステップS33において、擬似血液の濃度Nが濃度設定値N1と等しくなった場合(YESの場合)、ステップS35に進み、予めメモリに登録されたポンプ駆動周期のパラメータを読み込み、今回の訓練内容に応じたポンプ駆動周期を設定する。
【0051】
尚、ステップS35〜ステップS44は、前述した
図8のステップS12〜ステップS21の制御処理と同じため、説明を省略する。
【0052】
このように、医療用超音波診断訓練システム10Cでは、濃度調整部300により擬似血液の濃度Nを所望の濃度設定値N1に調整することができるので、血液に含まれる赤血球の割合やコレステロールの含有量などを想定して訓練することが可能になり、訓練精度がより高められる。そのため、訓練者は、擬似血液の濃度Nが病状に応じた値に調整された状況で、当該擬似検体20に設けられた狭窄部分Xの存在位置を探し出す訓練を繰り返すことにより、探触子140の操作方法を実際に近い状況で練習することができ、超音波診断能力をより高められる。