(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記位相調整装置は、前記治具を前記ワークの周囲において前記盤本体に対して回転させることにより、前記ワークに対する前記治具の位置を調整する回転駆動装置をさらに有する
請求項1に記載のブローチ盤。
前記位置調整装置は、前記治具と前記支持部とが前記ワークを挟み込んだ状態のときに前記ワークを前記クランプ装置に対して移動させることにより、前記クランプ装置によりクランプされる前記ワークの部位を調整する機能を有する
請求項4に記載のブローチ盤。
【背景技術】
【0002】
従来のブローチ盤は、例えば、電動パワーステアリング装置の構成要素の1つであるラックシャフトに歯を形成するために用いられる。一方、電動パワーステアリング装置の駆動方式の1つとして、ステアリングシャフトと連結された第1のピニオンシャフト、および、アシストモータの出力軸と連結された第2のピニオンシャフトをそれぞれラックシャフトに噛み合わせるデュアルピニオン式が知られている。特許文献1は、このような電動パワーステアリング装置の一例を開示している。
【0003】
この電動パワーステアリング装置のラックシャフトによれば、第1のピニオンシャフトに噛み合わせられる複数の第1の歯、および、第2のピニオンシャフトに噛み合わせられる複数の第2の歯が、それぞれ、ラックシャフト上における互いに異なる部分に形成される。
【0004】
このようなラックシャフトを製造するための従来の製造方法によれば、例えば、サーフェスブローチのための機能を有するブローチ盤が用いられる。このブローチ盤は、工具が取り付けられる工具保持装置、ワークをクランプするクランプ装置、および、クランプ装置を工具保持部に対して移動させるクランプ駆動装置を有する。
【0005】
このブローチ盤を用いた製造方法によれば、一例として、次の各工程を経てワークからラックシャフトが製造される。最初に、クランプ装置がワークをクランプし、次に、クランプ駆動装置がクランプ装置とともにワークを移動させることにより、複数の第1の歯を形成するための工具にワークを接触させてワークに複数の第1の歯を形成する。
【0006】
次に、クランプ装置がワークをアンクランプし、次に、ブローチ盤とは別に配置されているワーク搬送装置がアンクランプされたワークをクランプ装置に対して動かし、クランプ装置によりクランプされるワークの部位が複数の第2の歯を形成するための部位に設定されるようにワークをクランプ装置にセットする。次に、クランプ装置がワークを再びクランプし、次に、クランプ駆動装置がクランプ装置とともにワークを移動させることにより、複数の第2の歯を形成するための工具にワークを接触させてワークに複数の第2の歯を形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ラックシャフトの設計時には、ラックシャフトの長手方向の中心軸まわりにおける第1の歯の位相と、その中心軸まわりにおける第2の歯の位相との位相差である相対位相について公差が設定される。
【0009】
一方、上記製造方法によれば、ワーク搬送装置がアンクランプされたワークを動かすため、例えば、そのときの搬送装置とワークとの接触等に起因して、ワークの長手方向の中心軸まわりの位相が所定の位相からずれるおそれがある。そして、ワークの位相がそのようにずれた場合には、次の工程において、複数の第2の歯が、本来形成されるべき位相からずれた位相でワークに形成されることがある。このように第2の歯が形成される位相にずれが生じた場合、第1の歯と第2の歯との相対位相が予め設定された公差を外れ、例えば、第2のピニオンシャフトがラックシャフトと適切に噛み合わないおそれが生じる。
【0010】
なお、ここでは、電動パワーステアリング装置のラックシャフトを例にその課題について検討したが、第1の歯および第2の歯を異なる工程において形成するシャフトの製造方法であれば、上記と同様の問題が生じると考えられる。
【0011】
本発明の目的は、ワークに形成される第1の歯と第2の歯との相対位相が公差内に収められやすいブローチ盤、および、このブローチ盤を用いたラックシャフトの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
〔1〕本ブローチ盤の独立した一形態によれば、第1の歯が形成されたワークをクランプおよびアンクランプするクランプ装置と、前記ワークに第2の歯を形成するための工具が取り付けられる工具保持装置と、前記第1の歯が形成され、前記第2の歯が形成されていない前記ワークにおける前記第1の歯の位相を調整する位相調整装置と、前記クランプ装置によりクランプされた前記ワークに前記第2の歯が形成されるように前記工具保持装置に対して前記クランプ装置を動かすクランプ駆動装置と、少なくとも前記工具保持装置および前記位相調整装置を支持する盤本体とを有し、前記位相調整装置は、前記ワークに形成された前記第1の歯と噛み合わせられる固定歯が形成された治具と、前記治具を前記ワークに対して移動させることにより前記固定歯を前記第1の歯に押し付ける調整用駆動装置と、前記固定歯が押し付けられる前記ワークを支持する支持部とを有する。
【0013】
本ブローチ盤によれば、例えば、次の各工程を経ることにより、第1の歯および第2の歯が形成されたワークを製造することができる。最初に、第1の歯が形成され、第2の歯が形成されていないワークが、クランプ装置によりクランプされる。次に、位相調整装置の調整用駆動装置が治具をワークに対して移動させ、その固定歯を第1の歯に押し付ける。このとき、クランプ装置がワークをアンクランプしているため、固定歯が押し付けられているワークが支持部により支持された状態において、固定歯に対する第1の歯の位相のずれが解消されるように治具に対するワークの位相が変化する。このため、ワークの長手方向の中心軸まわりの位相が、治具により規定される所定の位相に調整される。なお、この所定の位相は、第2の歯がワークに形成されるべき本来の位相でワークに形成されるように予め規定されている。
【0014】
次に、このように位相が調整されたワークをクランプ装置が再びクランプし、クランプ駆動装置がそのクランプ装置を工具保持装置に対して動かすことにより、工具保持装置に取り付けられている第2の工具にワークが接触し、そのワークに第2の歯が形成される。
【0015】
このように、本ブローチ盤によれば、ワークの位相が位相調整装置により調整された後に、そのワークに第2の歯が形成されるため、ワークに形成される第1の歯と第2の歯との相対位相が公差内に収められやすくなる。
【0016】
〔2〕前記ブローチ盤に従属する一形態によれば、前記位相調整装置は、前記治具を前記ワークの周囲において前記盤本体に対して回転させることにより、前記ワークに対する前記治具の位置を調整する回転駆動装置をさらに有する。
【0017】
本ブローチ盤によれば、ワークの第1の歯と第2の歯との相対位相が治具により決められる。このため、ワークの周囲における治具の位置が変化することにより、治具の固定歯がワークの第1の歯に押し付けられたときに設定される第1の歯と第2の歯との相対位相が変化する。このため、回転駆動装置を有する本ブローチ盤によれば、第1の歯と第2の歯との相対位相をワーク毎に設定することができる。
【0018】
〔3〕前記ブローチ盤に従属する一形態によれば、前記位相調整装置は、油圧により前記治具を前記ワークに対して移動させる。
調整用駆動装置の形態の一例として、治具を電力により駆動する形態が考えられる。この場合には、盤本体に対して回転する治具に配線する必要があるため、ブローチ盤の製造過程における配線の取り回しに手間がかかる。一方、上記〔3〕の調整用駆動装置は、その動力源に油圧を用いているため、上述のような問題が生じることがない。
【0019】
〔4〕前記ブローチ盤に従属する一形態によれば、前記支持部は、前記ワークを前記第1の歯が形成されている部分の背面側から支持し、前記治具は、その固定歯が前記第1の歯に押し付けられることにより、前記ワークを前記支持部との間に挟み込み、前記ブローチ盤は、前記位相調整装置が前記ワークから離れるように前記盤本体に対して前記位相調整装置を移動させる位置調整装置をさらに有する。
【0020】
本ブローチ盤によれば、治具の固定歯がワークの第1の歯に押し付けられたとき、治具と支持部とによりワークが挟み込まれるため、固定歯が押し付けられてもワークの姿勢が不安定になりにくい。一方、このようなブローチ盤の構成によれば、治具によりワークの位相が調整され、そのワークがクランプ装置によりクランプされた後において、第2の歯を形成するためのワークの動きが支持部により妨げられる。他方、本ブローチ盤によれば、クランプ装置がワークをクランプした後、位置調整装置により位相調整装置をワークから離すことができる。このため、第2の歯を形成するブローチ盤の機能を損なうことなく、治具の固定歯が押し付けられたときのワークの姿勢を安定化させる効果をさらに得ることができる。
【0021】
〔5〕前記ブローチ盤に従属する一形態によれば、前記位置調整装置は、前記治具と前記支持部とが前記ワークを挟み込んだ状態のときに前記ワークを前記クランプ装置に対して移動させることにより、前記クランプ装置によりクランプされる前記ワークの部位を調整する機能を有する。
【0022】
本ブローチ盤によれば、例えば、次の各工程を経て第2の歯をワークに形成することができる。工具保持装置に対するワークの位相が位相調整装置により調整された後、クランプ装置によりクランプされるワークの部位を位置調整装置が調整し、次に、クランプ装置がワークを再びクランプする。そして、クランプ駆動装置がそのクランプ装置を工具保持装置に対して動かすことにより、ワークが工具保持装置に取り付けられている第2の工具に接触し、そのワークに、位置調整装置により調整された位置に応じて第2の歯が形成される。このように、本ブローチ盤によれば、ワークに形成される第2の歯の位置をワーク毎に設定することができる。
【0023】
〔6〕本ラックシャフトの製造方法の独立した一形態によれば、複数の第1の歯、および、複数の第1の歯とは軸方向において異なる位置に複数の第2の歯が形成されるラックシャフトの製造方法であって、上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載のブローチ盤を用いて前記複数の第2の歯を形成する。
【0024】
本製造方法により製造されたラックシャフトによれば、ラックシャフトの位相が位相調整装置により調整された後に、そのラックシャフトに第2の歯が形成されるため、ラックシャフトに形成される第1の歯と第2の歯との相対位相が公差内に収められやすくなる。
【発明の効果】
【0025】
本ブローチ盤およびラックシャフトの製造方法によれば、ワークに形成される第1の歯と第2の歯との相対位相が公差内に収められやすい。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1を参照して、ラックシャフト226を有するデュアルピニオン型の電動パワーステアリング装置200の構成について説明する。
ステアリング装置200は、ステアリングホイール210の操作に基づいて転舵輪250を転舵させる操舵機構220と、ステアリングホイール210の操作を補助するアシスト機構230と、アシスト機構230を制御する制御装置260とを備えている。
【0028】
操舵機構220は、ステアリングホイール210の回転軸となるステアリングシャフト221を有している。ステアリングシャフト221は、ステアリングホイール210が連結されたコラムシャフト222、コラムシャフト222の下端部に連結されたインターミディエイトシャフト223、および、インターミディエイトシャフト223の下端部に連結されたピニオンシャフト224を有している。ピニオンシャフト224の下部は、ラックアンドピニオン機構225を介してラックシャフト226に連結されている。ラックシャフト226の両端部には、タイロッド227およびナックル(図示略)を介して転舵輪250が連結されている。ラックアンドピニオン機構225は、ピニオンシャフト224に形成された複数の歯224Aおよびラックシャフト226に形成された複数の第1の歯226Aから構成されている。
【0029】
この操舵機構220によれば、ステアリングホイール210が操作されるとき、コラムシャフト222、インターミディエイトシャフト223、および、ピニオンシャフト224が一体的に回転する。ピニオンシャフト224の回転運動がラックアンドピニオン機構225を介してラックシャフト226の長手方向の移動に変換される。このラックシャフト226の移動によりタイロッド227を介して転舵輪250が転舵する。
【0030】
アシスト機構230は、アシストモータ231を有している。アシストモータ231の出力軸は、減速機232を介してピニオンシャフト233に接続されている。ピニオンシャフト233の下部は、ラックアンドピニオン機構234を介してラックシャフト226に連結されている。ラックアンドピニオン機構234は、ピニオンシャフト233に形成された複数の歯233Aおよびラックシャフト226に形成された複数の第2の歯226Bから構成されている。
【0031】
このアシスト機構230によれば、制御装置260がステアリングシャフト221にかかるトルクに基づいてアシストモータ231が駆動するとき、アシストモータ231の回転力が減速機232を介してピニオンシャフト233を回転させる。ピニオンシャフト233の回転運動が減速機232およびラックアンドピニオン機構234を介してアシスト力としてラックシャフト226に付与される。このアシスト力により、ステアリングホイール210の操作が補助される。
【0032】
図2を参照して、ラックシャフト226の構造について説明する。
ラックシャフト226は、複数の第1の歯226Aおよび複数の第2の歯226Bが軸方向の異なる位置に形成されている。複数の第1の歯226Aと複数の第2の歯226Bとは、ラックシャフト226の周方向において所定の相対位相になるようにラックシャフト226の外周に形成されている。なお、
図2に示すラックシャフト226の複数の第1の歯226Aと複数の第2の歯226Bとの相対位相は「0」度である。
【0033】
図3〜
図6を参照して、ラックシャフト226に第1の歯226Aおよび第2の歯226Bを形成するためのブローチ盤1の構成について説明する。なお、
図3は工具保持装置20を省略している。
【0034】
図3に示されるように、ブローチ盤1は、盤本体10、工具保持装置20、クランプ装置30、クランプ駆動装置35、および、位相調整装置40を有している。盤本体10は、図示しない床面に設置され、ブローチ盤1の各装置を支持する。
【0035】
工具保持装置20は、ワーク(図示略)の表面に1以上の歯を形成するための工具であるブローチB(
図4参照)が取り付けられている。ブローチBは、形成する歯の数に応じた数の刃を有している。ブローチBは、形成する歯の数および歯の間隔に応じたものに交換される。
【0036】
クランプ装置30は、第1クランプ31、第2クランプ32、および、突当部33を有する。クランプ装置30は、第1クランプ31および第2クランプ32によりワークを挟み込むことにより、ワークをクランプおよびアンクランプする。
【0037】
クランプ駆動装置35は、図示しないモータおよびモータの回転を直線運動に変換する機構を有し、クランプ装置30によりクランプされたワークに歯が形成されるように工具保持装置20に対してクランプ装置30を動かす。
【0038】
位相調整装置40は、ハウジング41、回転体42、支持部44、治具50、油圧式の調整用駆動装置60、および、治具50の位相を変更する回転駆動装置70、および、治具50をワークの軸方向に対して移動させる位置調整装置80を有する。
【0039】
図5に示されるように、回転駆動装置70は、サーボモータ71、ウォーム72、および、ギア73を有する。ウォーム72およびギア73は減速機を構成している。サーボモータ71の回転は、ウォーム72およびギア73を介してギア73に固定されている位相調整装置40の回転体42を回転させる。
【0040】
図3に示されるように、位置調整装置80は、サーボモータ81およびボールねじ82を有する。ボールねじ82は、盤本体10上に取り付けられている。ボールねじ82は、クランプ装置30に向かって延びている。サーボモータ81が回転するとき、ボールねじ82はボールねじ82に取り付けられているハウジング41をクランプ装置30に近づく方向およびクランプ装置30から離れる方向に移動させる。
【0041】
図6に示されるように、ハウジング41は、円筒形状を有する。回転体42は、ハウジング41の内部に取り付けられている。回転体42は、円筒形状を有する。回転体42は、回転駆動装置70によりハウジング41の内部において回転することができる。
【0042】
回転体42の外周には周溝42Aが形成されている。また、回転体42には、周溝42Aと回転体42の内周面に形成されている穴43とを連通する油孔42Bとが形成されている。
【0043】
支持部44は、回転体42の内周面に取り付けられている。支持部44は、回転体42の内周面から回転体42の中心軸に向かって突出している。
治具50は、回転体42に形成される穴43に嵌め込まれている。治具50は、穴43の底面側に位置する治具本体51と、治具本体51よりも穴43の開口側に位置する歯ブロック52とを有する。治具本体51と歯ブロック52とは互いに固定されている。穴43の底面と治具本体51との間には油圧室61が形成されている。
【0044】
歯ブロック52は、回転体42の中心軸側に固定歯53が形成されている。歯ブロック52は、着脱可能に治具本体51に取り付けられている。歯ブロック52は、支持部44とは、回転体42の中心軸を挟んで対向する位置に配置されている。
【0045】
調整用駆動装置60は、図示しないオイルポンプを有している。調整用駆動装置60が駆動してオイルが位相調整装置40に供給されるとき、周溝42Aおよび油孔42Bを介してオイルが油圧室61に供給される。このため、治具50が回転体42の中心軸側に移動する。他方、調整用駆動装置60が駆動してオイルが位相調整装置40から排出されるとき、周溝42Aおよび油孔42Bを介してオイルが油圧室61から排出される。このため、治具50が回転体42の外周側に移動する。
【0046】
図7〜
図14を参照して、ラックシャフト226の製造方法について説明する。なお、
図7、
図8、および、
図11〜
図13は工具保持装置20を省略している。
ラックシャフト226の製造方法は、第1歯切削工程および第2歯切削工程を有する。
【0047】
第1歯切削工程においては、ブローチ盤1を用いて円柱状のワークの軸方向の中央よりも第1端部101側に複数の第1の歯110(
図2の第1の歯226Aに相当)が形成される。
【0048】
第2歯切削工程においては、第1歯切削工程により複数の第1の歯110が形成され、複数の第2の歯(
図2の第2の歯226Bに相当)が形成されていないラックシャフト226であるワーク100に複数の第2の歯が形成される。第2歯切削工程は、準備工程、クランプ工程、位相調整工程、位置調整工程、退避工程、および、切削工程を有する。
【0049】
準備工程においては、ワーク100に複数の第2の歯を形成するためのブローチBが工具保持装置20に取り付けられる。また、第1の歯110と噛み合う固定歯53を有する歯ブロック52が治具50に取り付けられる。また、回転駆動装置70により、治具50を盤本体10に対して回転させることにより、ワーク100に対する治具50の位相を調整する。治具50の回転量は、回転駆動装置70のサーボモータ71の駆動量を変更することにより所望の回転量に設定できる。
【0050】
図7に示されるように、クランプ工程においては、複数の第1の歯110が形成されたワーク100がクランプ装置30によりクランプされる。具体的には、ワーク100の第2端部102が突当部33に突き当てられた状態において、第1クランプ31および第2クランプ32を接近させる。これにより、ワーク100のうちの第1端部101側とは反対側の第2端部102寄りの部分がクランプ装置30によりクランプされる。また、第2の歯が形成される側の面が露出するようにクランプされる。このとき、位相調整装置40は、ワーク100の第2端部102とは反対側の端部である第1端部101側であって、ワーク100から離れた位置に位置している。
【0051】
次に、
図8に示されるように、位相調整工程において、位置調整装置80により位相調整装置40がワーク100に向かって移動し、ワーク100の複数の第1の歯110が形成された部分が回転体42の内部に挿入される。このとき、
図9に示されるように、支持部44の支持面44Aはワーク100の外周面と接触している。すなわち、支持部44は、ワーク100を第1の歯110が形成されている部分の背面側から支持している。
【0052】
次に、クランプ装置30がワーク100をアンクランプし、調整用駆動装置60により歯ブロック52が回転体42の中央に向かって移動する。このため、
図10に示されるように、歯ブロック52の固定歯53が複数の第1の歯110のうちの一部の歯110に押し付けられる。このため、ワーク100が治具50と支持部44との間に挟み込まれる。このとき、クランプ装置30がワーク100をアンクランプしているため、固定歯53が押し付けられているワーク100が支持部44により支持された状態において、固定歯53と第1の歯110との位相のずれが解消されるように治具50に対するワーク100の位相が変化する。このため、工具保持装置20に対する第1の歯110の位相が、治具50により規定される位相に調整される。
【0053】
次に、
図11に示されるように、位置調整工程において、固定歯53と複数の第1の歯110のうちの一部の歯110とが噛み合った状態において、位相調整装置40が位置調整装置80によりクランプ装置30から離れる方向に移動する。これにより、ワーク100の第2端部102が突当部33から離れ、ワーク100のクランプ装置30に対する軸方向の位置が調整される。ワーク100の移動量は、位置調整装置80のサーボモータ81の駆動量を変更することにより所望の移動量に設定できる。
【0054】
次に、調整用駆動装置60により油圧室61のオイルが排出され、歯ブロック52の固定歯53がワーク100から離れる。また、位相および軸方向の位置が調整されたワーク100がクランプ装置30により再びクランプされる。そして、
図12に示されるように、退避工程において、位相調整装置40が位置調整装置80によりクランプ装置30から離れる方向に移動する。
【0055】
次に、
図13に示されるように、切削工程において、クランプ駆動装置35が、ワーク100をクランプされている位置を中心に回転させてワーク100を起ち上げる。そして、
図14に示されるように、ワーク100の表面が工具保持装置20のブローチBに接触するようにワーク100を平行移動させ、ワーク100に複数の第2の歯を形成する。
【0056】
ブローチ盤1は、以下の効果を奏する。
(1)ブローチ盤1によれば、固定歯53を第1の歯110に押し付けるとき、クランプ装置30がワーク100をアンクランプしている。このため、固定歯53が押し付けられているワーク100が支持部44により支持された状態において、固定歯53に対する第1の歯110の位相のずれが解消されるように治具50に対するワーク100の位相が変化する。このため、ワーク100の長手方向の中心軸まわりの位相が、治具50により規定される所定の位相に調整される。
【0057】
次に、このように位相が調整されたワーク100をクランプ装置30が再びクランプし、クランプ駆動装置35がそのクランプ装置30を工具保持装置20に対して動かすことにより、工具保持装置20に取り付けられているブローチBにワーク100が接触し、そのワーク100に第2の歯が形成される。
【0058】
このように、本ブローチ盤1によれば、ワーク100の位相が位相調整装置40により調整された後に、そのワーク100に第2の歯が形成されるため、ワーク100に形成される第1の歯110と第2の歯との相対位相が公差内に収められやすくなる。
【0059】
(2)ブローチ盤1によれば、ワーク100の第1の歯110と第2の歯との相対位相が治具50により決められる。このため、ワーク100の周囲における治具50の位置が変化することにより、治具50の固定歯53がワーク100の第1の歯110に押し付けられたときに設定される第1の歯110と第2の歯との相対位相が変化する。このため、回転駆動装置70を有するブローチ盤1によれば、第1の歯110と第2の歯との相対位相をワーク100毎に設定することができる。
【0060】
(3)調整用駆動装置の形態の一例として、治具50を電力により駆動する形態が考えられる。この場合には、盤本体10に対して回転する治具50に配線する必要があるため、ブローチ盤1の製造過程における配線の取り回しに手間がかかる。一方、調整用駆動装置60は、その動力源に油圧を用いているため、上述のような問題が生じることがない。
【0061】
(4)ブローチ盤1によれば、治具50の固定歯53がワーク100の第1の歯110に押し付けられたとき、治具50と支持部44とによりワーク100が挟み込まれるため、固定歯53が押し付けられてもワーク100の姿勢が不安定になりにくい。一方、このようなブローチ盤1の構成によれば、治具50によりワーク100の位相が調整され、そのワーク100がクランプ装置30によりクランプされた後において、第2の歯を形成するためのワーク100の動きが支持部44により妨げられる。他方、ブローチ盤1によれば、クランプ装置30がワーク100をクランプした後、位置調整装置80により位相調整装置40をワーク100から離すことができる。このため、第2の歯を形成するブローチ盤1の機能を損なうことなく、治具50の固定歯53が押し付けられたときのワーク100の姿勢を安定化させる効果をさらに得ることができる。
【0062】
(5)ブローチ盤1によれば、工具保持装置20に対するワーク100の位相が位相調整装置40により調整された後、クランプ装置30によりクランプされるワーク100の部位を位置調整装置80が調整し、次に、クランプ装置30がワーク100を再びクランプする。そして、クランプ駆動装置35がそのクランプ装置30を工具保持装置20に対して動かすことにより、ワーク100が工具保持装置20に取り付けられているブローチBに接触し、そのワーク100に、位置調整装置80により調整された位置に応じて第2の歯が形成される。このように、ブローチ盤1によれば、ワーク100に形成される第2の歯の位置をワーク100毎に設定することができる。
【0063】
本ブローチ盤が取り得る具体的な形態は、上記実施形態に例示された形態に限定されない。本ブローチ盤は、本発明の目的が達成される範囲において、上記実施形態とは異なる各種の形態を取り得る。以下に示される上記実施形態の変形例は、本ブローチ盤が取り得る各種の形態の一例である。
【0064】
・第2歯切削工程において、回転駆動装置70による治具50の回転を位相調整工程において実行することもできる。すなわち、調整用駆動装置60により固定歯53と第1の歯110を噛み合わせた状態において、回転駆動装置70によりワーク100の位相を所望の位相に変更する。
【0065】
・調整用駆動装置60を、電気式の調整用駆動装置に変更することもできる。
・回転駆動装置70を省略することもできる。この場合は、例えば、作業者が治具50の位相を調整するように変更することもできる。
【0066】
・位置調整装置80を省略することもできる。この場合は、例えば、作業者が位相調整装置40を移動させるように変更することもできる。
・位置調整装置80のボールねじ82に代えて、スライドレールを用いることもできる。要するに、位相調整装置40をワーク100の軸方向に移動させることができる位置調整装置80であれば、いずれの構成を採用することもできる。
【0067】
・ブローチ盤1は、ラックシャフト226以外のワーク100に1または複数の第2の歯を形成することもできる。この場合、第1の歯110が1つのワーク100に適用することもできる。
【0068】
・第1歯切削工程を、ブローチ盤1とは異なるブローチ盤により行うこともできる。
・第1の歯110をブローチBを用いない切削機械により形成することもできる。