特許第6343797号(P6343797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343797
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】車両のエンジン冷却装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 11/04 20060101AFI20180611BHJP
   A01M 7/00 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   B60K11/04 F
   A01M7/00 N
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-96291(P2015-96291)
(22)【出願日】2015年5月11日
(65)【公開番号】特開2016-210310(P2016-210310A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2017年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000186784
【氏名又は名称】株式会社ショーシン
(74)【代理人】
【識別番号】100088579
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 茂
(72)【発明者】
【氏名】根津 雅彦
【審査官】 結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−123579(JP,A)
【文献】 特開2002−225573(JP,A)
【文献】 特開平11−299410(JP,A)
【文献】 実公昭39−34009(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/04
A01M 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の動力源となるエンジンを冷却液により冷却するラジエータ及びこのラジエータに熱交換用の外気を通過させて冷却液を冷却する冷却ファンを備える車両のエンジン冷却装置において、通気出口を、前記冷却ファンを覆うシュラウドに形成して当該冷却ファンの上流側の送風中又は下流側の送風中に臨ませ、かつ通気入口を、前記ラジエータに流入する外気をガイドするエアダクトに形成して当該ラジエータを通過しない非熱交換外気中に臨ませるとともに、前記通気入口と前記通気出口間に通気路形成部材を付設し、前記ラジエータを通過する空気量よりも少ない空気量の前記非熱交換外気を、前記冷却ファンの上流側の送風中又は前記下流側の送風中に放出する補助通気路を設けてなることを特徴とする車両のエンジン冷却装置。
【請求項2】
前記補助通気路の通気出口は、前記冷却ファンの送風方向に対する直角方向の位置であって、冷却対象とする周辺機器の位置に対応して配することを特徴とする請求項1記載の車両のエンジン冷却装置。
【請求項3】
前記冷却対象とする周辺機器には、少なくとも、オルタネータ,バッテリの一方又は双方を含むことを特徴とする請求項2記載の車両のエンジン冷却装置。
【請求項4】
前記車両には、少なくとも、スピードスプレーヤを含むことを特徴とする請求項1記載の車両のエンジン冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに付設することによりエンジンの冷却を行うラジエータ及びこのラジエータを空冷する冷却ファンを備える車両のエンジン冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンを動力源とするスピードスプレーヤ等の車両は、エンジンを冷却液により冷却するラジエータ及びこのラジエータに熱交換用の外気を通過させて冷却液を冷却する冷却ファンを用いたエンジン冷却装置を搭載する。
【0003】
従来、この種のエンジン冷却装置を搭載した車両(スピードスプレーヤ)としては、特許文献1で開示される薬剤散布車及び特許文献2で開示される自走型スピードスプレーヤが知られている。同文献1で開示される薬剤散布車は、エンジン室において、エンジン本体の長手方向をスピードスプレーヤの前後方向とし、ラジエータを、スピードスプレーヤの前後方向ヘエンジン本体と重複させつつ、配設し、冷却ファンを、エンジン室内の空気がエンジン室外へ排出する方向へ作動させるスピードスプレーヤにおいて、エンジン室の換気効率を増大させることを目的としたものであり、特に、ラジエータを、スピードスプレーヤの真横に対して、噴頭部から放出される放出噴霧風の方へ向く斜めの向きで配設したものである。
【0004】
また、同文献2で開示される自走型スピードスプレーヤは、エンジンルームを形成した上面カバーに穿設した排気口と排水溝の改良を目的としたものであり、具体的には、運転席、薬液タンク、エンジンルーム及び散布部を搭載してなる自走型スピードスプレーヤであり、エンジンルームはエンジンを前後、左右及び上面を封鎖して形成されるもので、上部を被覆する上面カバーに対して進行方向に向けて直交する略V字状断面の溝部を形成し、このV字状断面の前面壁に排気口を設けるとともに、溝部の低面が排水溝と通じるように構成して、エンジンを冷却した後の排温風を上面から直接排出して、さらに溝部底面は排水作用を兼用するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平09−271699号公報
【特許文献2】特開平11−299410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した車両(スピードスプレーヤ)に備える従来のエンジン冷却装置は、次のような問題点があった。
【0007】
即ち、ラジエータ及び冷却ファンを用いた冷却装置の場合、エンジン自体の冷却は、エンジンに形成されたウォータージャケットを循環する冷却液により行われるとともに、この冷却液は、冷却ファンによる空冷方式により冷却される。このため、冷却ファンによる送風(外気)は、ラジエータ通過時の熱交換により温められるとともに、この温められた送風はエンジンを配したエンジンルーム内に放出される。
【0008】
ところで、エンジンルーム内には、オルタネータ(発電機),バッテリ,スタータモータ等の周辺機器(電装機器)が配設されるため、温められた送風がエンジンルーム内に放出された場合、エンジンルーム内の温度上昇により周辺機器の温度上昇も招いてしまう。通常、この程度の温度上昇はほとんど問題となることはないが、高度の信頼性が要求される場合などには必ずしも十分とはいえなくなる。したがって、周辺機器の無用な高温化を回避し、周辺機器の信頼性をより高める観点からは、更なる改善の余地があった。
【0009】
なお、周辺機器の高温化を回避する方法としては、例えば、別途の冷却ファンを追加するなどにより、周辺機器に対して個別に冷却(空冷)する方法も考えられるが、車両、特に、スピードスプレーヤの場合、大型の薬液タンク等を搭載することから、エンジンルームの広さは制限され、エンジンルームが狭くなる傾向がある。結局、追加的な冷却ファンの配設は容易でないとともに、仮に、追加する場合には、車両の大型化及びコストアップを招く要因ともなる。
【0010】
本発明は、このような背景技術に存在する課題を解決した車両のエンジン冷却装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、車両Mの動力源となるエンジンEを冷却液により冷却するラジエータ2及びこのラジエータ2に熱交換用の外気Aを通過させて冷却液を冷却する冷却ファン3を備える車両のエンジン冷却装置1を構成するに際して、通気出口5eを、冷却ファン3を覆うシュラウド11に形成して当該冷却ファン3の上流側の送風中又は下流側の送風中に臨ませ、かつ通気入口5iを、ラジエータ2に流入する外気Aをガイドするエアダクト12に形成して当該ラジエータ2を通過しない非熱交換外気As中に臨ませるとともに、通気入口5iと通気出口5e間に通気路形成部材13を付設し、ラジエータ2を通過する空気量Qrよりも少ない空気量Qsの非熱交換外気Asを、冷却ファン3の上流側の送風中又は下流側の送風中に放出する補助通気路5を設けてなることを特徴とする。
【0012】
この場合、発明の好適な態様により、補助通気路5の通気出口5eは、冷却ファン3の送風方向Fwに対する直角方向の位置であって、冷却対象とする周辺機器(Pa,Pb…)の位置に対応して配することができる。一方、冷却対象とする周辺機器(Pa,Pb…)には、少なくとも、オルタネータPa,バッテリPbの一方又は双方を含ませることができる。なお、車両Mには、少なくとも、スピードスプレーヤMsを含ませることが臨ましい。
【発明の効果】
【0013】
このような構成を有する本発明に係る車両のエンジン冷却装置1によれば、次のような顕著な効果を奏する。
【0014】
(1) 通気出口5eを、冷却ファン3の上流側の送風中又は下流側の送風中に臨ませるとともに、通気入口5iを、ラジエータ2を通過しない非熱交換外気As中に臨ませることにより、ラジエータ2を通過する空気量Qrよりも少ない空気量Qsの非熱交換外気Asを、冷却ファン3の上流側の送風中又は下流側の送風中に放出する補助通気路5を設けたため、ラジエータ2の通過により温められた外気に対して、ラジエータ2を通過しない非熱交換外気Asが所定の比率で混合され、エンジンルーム内の温度上昇が抑制される。したがって、特に、周辺機器Pa,Pb…の無用な高温化を回避でき、周辺機器Pa,Pb…の信頼性をより高めることができる。
【0015】
(2) 補助通気路5を構成するに際し、冷却ファン3を覆うシュラウド11に通気出口5eを形成し、かつラジエータ2に流入する外気Aをガイドするエアダクト12に通気入口5iを形成するとともに、この通気入口5iと通気出口5e間に通気路形成部材13を付設して構成したため、単一部品(単純部品)として形成できる通気路形成部材13を追加することにより構成でき、無用な大型化を招くことなく極めて容易かつ低コストに実施できる。
【0016】
(3) 好適な態様により、補助通気路5の通気出口5eを、冷却ファン3の送風方向Fwに対する直角方向の位置であって、冷却対象とする周辺機器(Pa,Pb…)の位置に対応して配すれば、通気出口5eから供給されるラジエータ2を通過しない非熱交換外気Asを、冷却対象となる周辺機器(Pa,Pb…)に向けてより有効(効率的)に放出できるため、冷却対象の周辺機器(Pa,Pb…)をより効果的に冷却できる。
【0017】
(4) 好適な態様により、冷却対象とする周辺機器(Pa,Pb…)に、少なくとも、オルタネータPa,バッテリPbの一方又は双方を含ませれば、冷却対象として最も重要度の高い周辺機器(Pa,Pb…)となるオルタネータPaとバッテリPbを冷却できるため、最も望ましい形態として実施できる。
【0018】
(5) 好適な態様により、車両Mに、少なくとも、スピードスプレーヤMsを含ませれば、特に、スピードスプレーヤMsのように、大型の薬液タンク等が搭載され、エンジンルームの広さが制限される場合であっても、スピードスプレーヤMs(エンジンルーム)の大型化及びコストアップを招くことなく実施できるなど、スピードスプレーヤMsに適用して最適となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の好適実施形態に係るエンジン冷却装置の原理的構成図、
図2】同エンジン冷却装置の外観構成を示す平面図(通気路形成部材の抽出拡大図を含む)、
図3】同エンジン冷却装置の斜め前方から見た外観構成図、
図4】同エンジン冷却装置の斜め後方から見た外観構成図、
図5】同エンジン冷却装置の製作方法を説明するための模式的平面図、
図6】同エンジン冷却装置の製作方法を説明するための他の模式的平面図、
図7】同エンジン冷却装置の冷却効果を示す温度測定データ、
図8】参考実施形態に係るエンジン冷却装置の原理的構成図、
図9】本発明に係るエンジン冷却装置を備えるスピードスプレーヤの側面図、
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る好適実施形態を挙げ、図面に基づき詳細に説明する。
【0021】
まず、本実施形態に係るエンジン冷却装置1の理解を容易にするため、エンジン冷却装置1を備えるスピードスプレーヤMs(車両M)の概要について、図9及び図2を参照して説明する。
【0022】
図9は、スピードスプレーヤMsの外観全体構成を示す。スピードスプレーヤMsにおいて、40はシャーシであり、このシャーシ40の前側に左右一対の前輪41…を備えるとともに、後側に左右一対の後輪42…を備え、後述するエンジンEと前輪41…及び後輪42…による四輪駆動方式により走行する。また、シャーシ40上にはボディ43を備え、前後方向の中間部が中間ボディ部43mを構成する。そして、この中間ボディ部43mの内部前側には薬液タンク44を搭載する。さらに、ボディ43の前部は前ボディ部43fを構成し、ダッシュボード46dを含む運転席46を備えるとともに、この運転席46の前方、即ち、前ボディ部43fの前端には、ヘッドライト等の灯火器やバックミラー等の必要な車両設備を備える。
【0023】
一方、中間ボディ部43mの内部後側にはエンジンルーム(ボンネット)45(図2参照)を備える。このエンジンルーム45内には、スピードスプレーヤMsの動力源となるエンジンEを搭載するとともに、このエンジンEに付設する本実施形態に係るエンジン冷却装置1を備える。なお、符号31は、中間ボディ部43mの側面に設けた外気取込口であり、この外気取込口31から空冷用の外気Aが取り込まれる。
【0024】
他方、中間ボディ部43mの後方には薬液噴霧機構47を備える。薬液噴霧機構47は、風洞51に覆われた送風機を有する送風部52を備え、この送風部52とエンジンルーム45間に設けられる噴射空間Siには、整流筒53及びこの整流筒53に沿って配した多数の噴射ノズル54…を配設する。これにより、各噴射ノズル54…から噴射される薬液は、送風部52からの送風によって噴射空間Siから放射方向の所定範囲に噴霧される。なお、55は噴霧遮断装置であり、特定の方向に対する薬液の噴霧を遮断可能な開閉式の遮断カバー55cを備える。
【0025】
次に、本実施形態に係るエンジン冷却装置1の構成について、図1図4を参照して具体的に説明する。
【0026】
図2は、上述したエンジンルーム45内部の平面視構造を示している。Eはエンジンであり、このエンジンEの左側(図中、下側)における前側(図中、左側)には、エンジンEの周辺機器であるオルタネータ(発電機)Paを配設するとともに、オルタネータ(発電機)Paの後方には、スタータモータPcを配設する。また、エンジンEの左方(図中、下方)にはバッテリPbを搭載する。
【0027】
一方、エンジンEの前方(図中、左方)には、本実施形態に係るエンジン冷却装置1を配設する。エンジン冷却装置1は、基本的な冷却構造部分Bcとこの冷却構造部分Bcに追加した追加構造部分により全体を構成する。
【0028】
まず、基本的な冷却構造部分Bcについて説明する。冷却構造部分Bcは、冷却液(冷却水)をエンジンEに循環させてエンジンEの冷却を行うラジエータ2を備えるとともに、このラジエータ2に熱交換用の外気Aを通過させることにより、ラジエータ2の冷却液を冷却(空冷)する冷却ファン3を備える。この場合、エンジンEには、ウォータージャケット(水路)が形成されているため、ウォータージャケットを流れた冷却液はラジエータ2に戻され、このラジエータ2を通過する外気Aとの間で熱交換される。即ち、ラジエータ2では、温められた冷却液の放熱が行われ、熱交換により冷却(空冷)された冷却液が再びウォータージャケットに供給される冷却液の循環が行われる。したがって、エンジンE自体の冷却はラジエータ2から送られる冷却液による水冷(液冷)方式により行われるとともに、冷却液の放熱はラジエータ2による空冷方式により行われる。
【0029】
この場合、エンジンルーム45の前方には薬液噴霧機構47を配設するため、前方から外気Aを取り込むことができない。したがって、スピードスプレーヤMsの場合、前述した中間ボディ部43mの側面に設けた外気取込口31から外気Aを取り込み、エアダクト12を介してラジエータ2に供給される。また、冷却ファン3はエンジンEから前方に突出した回転シャフトEsに取付けられるため、ラジエータ2を通過した外気Aはエンジンルーム45内に放出される。以上が、エンジン冷却装置1における基本的な冷却構造部分Bcとなる。
【0030】
本実施形態に係るエンジン冷却装置1は、この冷却構造部分Bcに対して、新たに補助通気路5を追加したものである。この場合、補助通気路5は基本形態として、通気入口5iと通気出口5eを備え、この通気出口5eは、冷却ファン3の上流側の送風中となるラジエータ2と冷却ファン3間の吸気空間Swに臨ませるとともに、通気入口5iは、ラジエータ2を通過しない非熱交換外気As中に臨ませる。これにより、通気出口5eからは外気取込口31から取り込まれた外気Aの一部が非熱交換外気Asとして放出される。
【0031】
この場合、通気出口5eから放出される非熱交換外気Asの量(空気量Qs)は、ラジエータ2を通過する空気量Qrよりも少なくなるように、通気出口5e等により補助通気路5の開口面積を選定する。具体的には、ラジエータ2の開口面積をKrとし、補助通気路5における最も狭い通路部分の開口面積をKsとした場合、Ksは、Krに対して、概ね5〜10〔%〕程度に選定できる。なお、この数値は、図1図4に示した実施形態にの例示的数値であり、エンジン冷却装置1の冷却性能や様々な構造要因等を考慮して任意の大きさに選定できる。
【0032】
また、例示の場合、補助通気路5を構築するに際し、冷却構造部分Bcの一部を利用して構成した。即ち、図1図4に示すように、冷却ファン3の周囲を覆うシュラウド11の左側面11pに通気出口5eを設け、ラジエータ2に流入する外気Aをガイドするエアダクト12に通気入口5iを設けるとともに、この通気入口5iと通気出口5e間に通気路形成部材13を付設して構成した。この通気路形成部材13は、図2に抽出拡大図で示すように、一枚のプレート部材Rpにより一体成形することが可能であり、具体的には、エアダクト12に取付けるプレート取付部13p,シュラウド11に取付けるカバー取付部13c,このカバー取付部とプレート取付部13p間に形成する通気路形成側面部13p,この通気路形成側面部13pの上端縁における開口を閉塞する通気路形成上面部13u及び通気路形成側面部13pの下端縁における開口を閉塞する通気路形成下面部13dを有する。なお、図中、13s…は、シュラウド11に存在するフランジ部11fを逃がすためのスリットを示す。
【0033】
このように、補助通気路5を構成するに際し、冷却ファン3を覆うシュラウド11に通気出口5eを形成し、かつラジエータ2に流入する外気Aをガイドするエアダクト12に通気入口5iを形成するとともに、この通気入口5iと通気出口5e間に通気路形成部材13を付設して構成すれば、単一部品(単純部品)として形成できる通気路形成部材13を追加することにより構成できるため、無用な大型化を招くことなく極めて容易かつ低コストに実施できる利点がある。
【0034】
また、この場合、補助通気路5の通気出口5eは、冷却ファン3の送風方向Fwに対する直角方向の位置であって、冷却対象とする周辺機器の位置に対応して配することが望ましい。冷却対象、特に、無用な高温化を回避する必要のある重要度の高い周辺機器としては、例示の場合、少なくとも、オルタネータPaとバッテリPbが該当する。このオルタネータPaとバッテリPbは、エンジンEの左側(図2中、下側)に配設するため、通気出口5eもこれらの位置に対応、即ち、冷却ファン3の左側に位置する左側面11pに設ける。
【0035】
このように、補助通気路5の通気出口5eを、冷却ファン3の送風方向Fwに対する直角方向の位置であって、冷却対象とする周辺機器(Pa,Pb)の位置に対応して配すれば、通気出口5eから供給されるラジエータ2を通過しない非熱交換外気Asを、冷却対象となる周辺機器(Pa,Pb)に向けてより有効(効率的)に放出できるため、冷却対象の周辺機器(Pa,Pb)をより効果的に冷却できる利点がある。特に、冷却対象とする周辺機器として、例示の場合、少なくとも、オルタネータPa,バッテリPbの一方又は双方を含ませたため、冷却対象として最も重要度の高い周辺機器(Pa,Pb…)となるオルタネータPaとバッテリPbを冷却可能となり、最も望ましい形態として実施できる。
【0036】
次に、本実施形態に係るエンジン冷却装置1の製造方法について、図5及び図6を参照して説明する。
【0037】
図5は、前述した基本的な冷却構造部分Bcを模式的に示す平面図である。補助通気路5を設けていない冷却構造部分Bcは、いわば従来技術の構造であり、通気入口5i及び通気出口5eは形成されていないとともに、通気路形成部材13も取付けられていない。したがって、エアダクト12によりガイドされて取込まれる外気Aは、矢印Fiで示すように、ほぼ全量(100〔%〕)がラジエータ2を通過する。
【0038】
一方、本実施形態に係るエンジン冷却装置1は、この冷却構造部分Bcに補助通気路5を追加することにより製作することができる。この場合、まず、図6に示すように、シュラウド11の左側面11pに開口を形成して通気出口5eを設けるとともに、エアダクト12に開口を形成して通気入口5iを設ける。例示の場合、通気入口5i及び通気出口5eの形状は、図3に示すように縦長の長方形状となる。
【0039】
次いで、通気路形成部材13を用意し、シュラウド11とエアダクト12間に取付ける。即ち、図2に示すように、通気路形成部材13のプレート取付部13pをエアダクト12に対して図に現れないボルトナット等の固定具により取付固定するとともに、通気路形成部材13のカバー取付部13cをシュラウド11に対して図に現れないボルトナット等の固定具により取付固定する。これにより、本実施形態に係るエンジン冷却装置1を得ることができる。
【0040】
次に、本実施形態に係るエンジン冷却装置1の作用(機能)について、図1を参照して説明するとともに、その冷却効果について、図7に示す温度測定データ及び図2を参照して説明する。
【0041】
まず、エンジン冷却装置1の基本作用について説明する。図示を省略した冷却液循環ポンプの作動により、冷却液がエンジンEに設けたウォータージャケットとラジエータ2間を循環し、冷却液によるエンジンEの冷却が行われる。また、冷却ファン3の作動により、図1に示す矢印Fw方向に送風が行われる。この結果、冷却ファン3による吸気作用により、外気Aが図1図9)に示す外気取込口31から中間ボディ部43mの内部のエアダクト12に沿って取り込まれ、ラジエータ2及び冷却ファン3を通過する。これにより、冷却液と外気A間の熱交換、即ち、冷却液の放熱(冷却)が行われる。なお、図1中、矢印DfがスピードスプレーヤMsの走行方向(前方)となる。
【0042】
この際、エアダクト12に沿って流れる外気Aの一部は、通気入口5iから補助通気路5に吸入され、補助通気路5を通るとともに、通気出口5eからラジエータ2と冷却ファン3間の吸気空間Swに、非熱交換外気Asとして放出される。この場合、吸気空間Sw内は冷却ファン3により負圧が生じているとともに、ラジエータ2を通過する外気Aよりも非熱交換外気Asの方が空気抵抗が少なくなることから安定した空気量Qsが確保され、バイパス経路を流通する。
【0043】
これにより、ラジエータ2を通過した温められた外気Aに対して、ラジエータ2を通過しない所定割合の非熱交換外気Asが混入するため、エンジンルーム45内に放出される外気Aの温度上昇が抑制される。特に、補助通気路5の通気出口5eは、冷却ファン3の送風方向Fwに対する直角方向の位置であって、冷却対象とするオルタネータPaとバッテリPbの位置に対応して配されるため、非熱交換外気Asは、オルタネータPaとバッテリPbに対して、より有効に作用し、オルタネータPaとバッテリPbの無用な高温化が回避される。
【0044】
図7には、温度測定データを示す。図7において、符号Ta〜Tjは、図2に示す測定ポイントTa〜Tjに一致する。なお、数値は気温40℃への換算値である。この場合、Taはエンジンルーム(ボンネット)45内の温度、Tbはエンジンオイルの温度、Tcはエアクリーナ入口の温度、Tdはラジエータ2の入口における冷却風(外気A)の温度、Teはラジエータ2の出口(冷却ファン出口)における冷却風(外気A)の温度、Tfはラジエータ2に流入する冷却液の温度、Tgはラジエータ2から流出する冷却液の温度、ThはバッテリPbの表面温度、TiはスタータモータPcの表面温度、TjはオルタネータPaの表面温度をそれぞれ示す。また、TkはATB(Air To Boil)の温度を示している。
【0045】
これより明らかなように、バッテリPbの表面温度Thは、補助通気路5が無い場合、76.3〔℃〕であるのに対して、補助通気路5が有る場合、66.6〔℃〕となり、−9.7〔℃〕の降温効果を得ることができた。また、オルタネータPaの表面温度Tjは、補助通気路5が無い場合、87.6〔℃〕であるのに対して、補助通気路5が有る場合、76.6〔℃〕となり、−11.0〔℃〕の降温効果を得ることができた。即ち、ATBをほとんど下げることなく、冷却対象となるオルタネータPaとバッテリPbの温度上昇を効果的に抑制することができ、オルタネータPaとバッテリPbの無用な高温化を回避できる。
【0046】
このように、本実施形態に係るエンジン冷却装置1によれば、通気出口5eを、冷却ファン3の上流側の送風中又は下流側の送風中に臨ませるとともに、通気入口5iを、ラジエータ2を通過しない非熱交換外気As中に臨ませることにより、ラジエータ2を通過する空気量Qrよりも少ない空気量Qsの非熱交換外気Asを、冷却ファン3の上流側の送風中又は下流側の送風中に放出する補助通気路5を設けたため、ラジエータ2の通過により温められた外気に対して、ラジエータ2を通過しない非熱交換外気Asが所定の比率で混合され、エンジンルーム内の温度上昇が抑制される。したがって、特に、周辺機器Pa,Pb…の無用な高温化を回避でき、周辺機器Pa,Pb…の信頼性をより高めることができる。特に、車両MとしてスピードスプレーヤMsを適用したため、スピードスプレーヤMsのように、大型の薬液タンク等が搭載され、エンジンルームの広さが制限される場合であっても、スピードスプレーヤMs(エンジンルーム)の大型化及びコストアップを招くことなく実施できるなど、スピードスプレーヤMsにとって最適となる。
【0047】
次に、参考実施形態に係るエンジン冷却装置1について、図8(a),(b)を参照して説明する。
【0048】
図8(a)及び(b)は、いずれも補助通気路5を設ける際の参考実施形態となる。図8(a)は、通気路形成部材13の代わりにチューブ材又はパイプ材等の通気管部材21を使用し、一端口を通気出口5eとして吸気空間Swに臨ませるとともに、他端口を通気入口5iとしたものである。図8(a)の場合、通気出口5eは、シュラウド11の左側面11pに対して直角に位置する端面11sであって、当該左側面11pの近傍に配した。なお、通気入口5iは、前述したエアダクト12に設けた位置と同じ位置に配してもよいし、直接、外気取込口31に臨ませてもよい。また、必要により、全く異なる任意の位置に配することも可能である。図1図6に示した基本実施形態及び図8(a)に示した参考実施形態は、いずれも既存のエンジン冷却装置(冷却構造部分Bc)に、いわば後付け可能な実施形態となる。
【0049】
一方、図8(b)は、設計段階から構築する際の参考実施形態となる。即ち、予め設計段階において、ラジエータ2及び冷却ファン3の大きさ等を選定し、図8(b)に示すように、ラジエータ2とエアダクト12間に通気空間Ssを確保したものである。これにより、この通気空間Ssは吸気空間Swに直接連通し、通気出口5eとして機能するとともに、エアダクト12に、当該通気空間Ssに連通する開口による通気入口5iを形成すれば、目的の補助通気路5を設けることができる。なお、図8(a),(b)において、図1図4と同一部分には同一符号を付し、その構成を明確化するとともに、その詳細な説明は省略した。
【0050】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,数量,数値等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0051】
例えば、通気出口5eは冷却ファン3の上流側となるラジエータ2と冷却ファン3間の吸気空間Swに臨ませた場合を示したが、冷却ファン3の下流側(冷却ファン3の近傍)に臨ませてもよい。また、補助通気路5は、冷却ファン3を覆うシュラウド11に通気出口5eを形成し、かつラジエータ2に流入する外気Aをガイドするエアダクト12に通気入口5iを形成するとともに、この通気入口5iと通気出口5e間に、通気路形成部材13を付設して構成した基本実施形態、更には図8(a),(b)に示した参考実施形態を例示したが、同様の機能を発揮できる構成であれば、様々な形態により実施可能である。さらに、補助通気路5の通気出口5eは、一つ設けた場合を示したが、二つ以上であってもよい。この場合、複数の補助通気路5…を設けて構成してもよいし、複数の分岐路により複数の通気出口5e…を設けてもよい。このように、複数の通気出口5e…を異なる位置に配すれば、冷却対象とする周辺機器(Pa,Pb…)が異なる位置に設置されている場合にも同様に対応できる。実施形態では、冷却対象として重要度の高いオルタネータPaとバッテリPbを例示したが、その他、制御基板等の各種周辺機器(電装部品等)を冷却対象とすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明に係るエンジン冷却装置は、スピードスプレーヤに用いて最適となるが、その他、各種作業用車両をはじめ、一般乗用車両等、各種車両におけるエンジン冷却装置として利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1:エンジン冷却装置,2:ラジエータ,3:冷却ファン,5:補助通気路,5i:通気入口,5e:通気出口,11:シュラウド,12:エアダクト,13:通気路形成部材,M:車両,Ms:スピードスプレーヤ,E:エンジン,A:外気,As:非熱交換外気,Qr:空気量,Qs:空気量,Fw:送風方向,Pa:オルタネータ(周辺機器),Pb:バッテリ(周辺機器)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9