特許第6343821号(P6343821)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6343821血液ポンプのパージ液循環装置及び補助人工心臓システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343821
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】血液ポンプのパージ液循環装置及び補助人工心臓システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/10 20060101AFI20180611BHJP
   A61M 1/12 20060101ALI20180611BHJP
   F04D 29/12 20060101ALI20180611BHJP
   F04D 29/06 20060101ALI20180611BHJP
   F04D 29/056 20060101ALI20180611BHJP
   F16J 15/34 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   A61M1/10 121
   A61M1/10 113
   A61M1/12
   F04D29/12 Z
   F04D29/06
   F04D29/056 A
   F16J15/34 F
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-573166(P2016-573166)
(86)(22)【出願日】2015年2月6日
(86)【国際出願番号】JP2015053443
(87)【国際公開番号】WO2016125313
(87)【国際公開日】20160811
【審査請求日】2017年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】392000796
【氏名又は名称】株式会社サンメディカル技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】木下 妃咲
(72)【発明者】
【氏名】北野 智哉
【審査官】 宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−085913(JP,A)
【文献】 米国特許第05263825(US,A)
【文献】 特表昭61−500058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/10 − A61M 1/12
F04D 29/12
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の体内に埋め込まれる血液ポンプの内部に設けられ、環状の第1摺動面を有する固定側摺動部材と環状の第2摺動面を有する回転側摺動部材とを有し、前記第1摺動面と前記第2摺動面とを対向させた状態で、かつ、前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各外周側を血液に接触させた状態で使用する摺動装置と、
前記血液ポンプの内部の潤滑性能、冷却性能及びシール性能を維持する機能を有するパージ液を前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各内周側を通して循環させるパージ液循環ユニットと、
前記パージ液循環ユニットから前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各内周側を通って前記パージ液循環ユニットに戻るように構成されているパージ液循環経路と、
を備える血液ポンプのパージ液循環装置であって、
前記パージ液循環ユニットは、
前記パージ液を貯留するパージ液貯留部と、
前記パージ液貯留部に貯留されているパージ液に一方向の移動力を与えるパージ液循環ポンプと、
前記パージ液貯留部のパージ液入口付近に設けられ、前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各内周側を通って前記パージ液貯留部に戻るときの当該パージ液の流量調整が可能な流量調整バルブと、
を有することを特徴とする血液ポンプのパージ液循環装置。
【請求項2】
請求項1に記載の血液ポンプのパージ液循環装置において、
接触状態にある前記第1摺動面と前記第2摺動面とが、前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各内周側に存在するパージ液の圧力によって非接触状態となるときの前記パージ液の圧力をパージ液の乖離圧としたとき、
前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各内周側に存在するパージ液の圧力が、前記パージ液の乖離圧よりもわずかに低い圧力となるように、前記パージ液循環ポンプ及び前記流量調整バルブの少なくとも一方を制御する機能を有するパージ液循環ユニット制御部をさらに備えることを特徴とする血液ポンプのパージ液循環装置。
【請求項3】
請求項2に記載の血液ポンプのパージ液循環装置において、
パージ液循環ユニット制御部は、
前記流量調整バルブを閉塞した状態として、前記パージ液循環ポンプが一定の流量でパージ液を送り続ける過程で、前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各内周側に存在するパージ液の圧力の上昇が停止して当該パージ液の圧力が急激に下降し始めるときのパージ液の圧力を前記乖離圧として測定する機能をさらに有することを特徴とする血液ポンプのパージ液循環装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の血液ポンプのパージ液循環装置において、
前記パージ液の乖離圧よりもわずかに低い圧力は、前記乖離圧の85%〜95%の範囲の圧力であることを特徴とする血液ポンプのパージ液循環装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の血液ポンプのパージ液循環装置において、
前記パージ液循環ユニットは、
前記パージ液循環ポンプの下流側に設けられ、前記パージ液循環経路を循環するパージ液に含まれている不要物質を除去するフィルターと、
前記フィルターのパージ液入口付近におけるパージ液の圧力を検出する第1圧力検出部と、
前記フィルターのパージ液出口付近におけるパージ液の圧力を検出する第2圧力検出部と、
前記流量調整バルブのパージ液入口付近における前記パージ液の圧力を検出する第3圧力検出部と、
をさらに有することを特徴とする血液ポンプのパージ液循環装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の血液ポンプのパージ液循環装置において、
前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材のうちの少なくとも一方の摺動部材は、炭化ケイ素からなることを特徴とする血液ポンプのパージ液循環装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の血液ポンプのパージ液循環装置において、
前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各外周には、抗血栓処理がなされていることを特徴とする血液ポンプのパージ液循環装置。
【請求項8】
体内に埋め込まれる血液ポンプと、当該血液ポンプと心臓の血流とを接続するための人工血管と、前記血液ポンプの駆動及び制御を行う血液ポンプ制御装置と、血液ポンプの内部にパージ液を循環させるための血液ポンプのパージ液循環装置とを備える補助人工心臓システムであって、
前記血液ポンプのパージ液循環装置は、請求項1〜7のいずれかに記載の血液ポンプのパージ液循環装置であることを特徴とする補助人工心臓システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液ポンプ内部の潤滑性能、冷却性能及びシール性能を維持する機能を有するパージ液を循環させるための血液ポンプのパージ液循環装置及び当該血液ポンプのパージ液循環装置を用いた補助人工腎臓システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、補助人工心臓システムに用いる血液ポンプの内部に、水や生理食塩水などからなる液体を循環させて、血液ポンプ内部の潤滑、冷却及びシール性能の維持などの機能を有した血液ポンプが知られている(例えば、特許文献1参照。)。なお、「補助人工心臓システム」とは、重症心不全患者を対象に用いる医療機器であり、患者の生命を維持するために心臓の機能の一部を補うシステムのことをいう。また、血液ポンプの内部を循環させる水や生理食塩水などからなる液体は、クールシール液又はパージ液と呼称されることもある。この明細書においては、「パージ液」と表記することにする。
【0003】
図8は、従来の血液ポンプ900の断面図である。図8(a)は血液ポンプ900の断面図であり、図8(b)は図8(a)の符号Aで示す範囲を拡大して示す図である。
【0004】
従来の血液ポンプ900は、図8に示すように、摺動装置901を備える。摺動装置901は、環状の第1摺動面914を有する固定側摺動部材912と、環状の第2摺動面924を有する回転側摺動部材922とを備え、第1摺動面914と第2摺動面924とを対向させた状態で、かつ、固定側摺動部材912及び回転側摺動部材922の各外周側が血液に接する状態で使用するものである。この摺動装置901は、メカニカルシールの構成要素でもある。
【0005】
従来の血液ポンプ900は、摺動装置901の他に固定部910、回転部920、回転駆動装置930及び血液ポンプ900内のパージ液循環経路940を備える。なお、血液ポンプ900内のパージ液循環経路940を「血液ポンプ内パージ液循環経路940」と呼称することとする。
固定側摺動部材912は、固定部910を構成する部材でもある。
回転側摺動部材922は、回転部920を構成する部材でもある。
回転部920は、回転側摺動部材922の他に、インペラ926及び回転シャフト928を有する。
【0006】
血液ポンプ内パージ液循環経路940は、血液ポンプ900内においてパージ液を循環させる経路である。当該血液ポンプ内パージ液循環経路940は、パージ液入口942、パージ液供給室944、パージ液通過室946及びパージ液出口948を有する。
パージ液通過室946は、摺動装置901における固定側摺動部材912及び回転側摺動部材922の各内周側に位置する。
【0007】
このように構成されている血液ポンプ900は、摺動装置901における固定側摺動部材912及び回転側摺動部材922の各内周側にパージ液を通過させながら使用する血液ポンプである。なお、特許文献1には明記されていないが、補助人工心臓システムにおいては、パージ液を循環させるためのパージ液循環装置が設けられていて、当該パージ液循環装置によってパージ液を循環させるようにしている。
【0008】
当該パージ液循環装置(従来のパージ液循環装置という。)は、使用者の体外で使用するパージ液循環ユニットを有し、当該パージ液循環ユニットと血液ポンプ900との間でチューブ(送り側チューブ及び戻り側チューブ)を介してパージ液を循環させる。具体的には、図示は省略するが、パージ液循環ユニット内に設けられているパージ液貯留部(リザーバーともいう。)に貯留されているパージ液を、パージ液循環ポンプによって送り出して、摺動装置901における固定側摺動部材912及び回転側摺動部材922の各内周側を通過させた後、リザーバーに戻し、再び、パージ液循環ポンプによって送り出すというようにパージ液を循環させている。また、パージ液が血液ポンプ内を通過したときに血液がパージ液に混入する場合もあるため、パージ液循環ユニットには、パージ液に混入した血液などを除去するためのフィルターも設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013−85913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、血液ポンプの技術分野においては、動作安定性を一層高くしたいという要求がある。ここでの動作安定性というのは、血液ポンプ900の動作に必要な電力消費を安定させること及び回転部920の回転を安定させることであるとする。
動作安定性を一層高くするには、第1に摺動装置901の潤滑性能を高くすること、第2に摺動装置901のシール性能を高くすることが挙げられる。なお、シール性能というのは、密封性能又は漏れ性能とも言われており、摺動装置901の外周側にある血液が摺動装置901の内周側に入り込む(漏れる)のを抑制する性能のことをいう。
【0011】
ここで、動作安定性を低下させる要因としては、第1摺動面914と第2摺動面924との間にパージ液が供給されにくかったり、摩耗によって第1摺動面及び第2摺動面の形状が変化することにより摩擦係数が増大したり、第1摺動面914と第2摺動面924との間に、血液中の特定成分(主に血漿タンパク質)が堆積したりすることが挙げられる。これらの要因の発生を抑えて動作安定性を一層高くするには、摺動装置901の潤滑性能を高くするとともに、摺動装置901のシール性能を高くすることが重要である。
【0012】
摺動装置901の潤滑性能を高くするとともに、摺動装置901のシール性能を高くするためには、摺動装置901における固定側摺動部材912及び回転側摺動部材922の各内周側に存在するパージ液の圧力を適切な圧力に設定して、安定した状態でパージ液を第1摺動面914と第2摺動面924との間に供給することが重要である。これは、摺動装置901におけるパージ液の圧力が低いと、血液が第1摺動面914と第2摺動面924との間に入り込み、さらに、摺動装置901における固定側摺動部材912及び回転側摺動部材922の各内周側に入り込んでくる場合もあり得るからである。
なお、摺動装置901の潤滑性能を高くするとともに、摺動装置901のシール性能を高くすることを、「摺動装置901の潤滑性能及びシール性能を高くする」と略記する。
【0013】
ところで、上記したように、リザーバーに貯留されているパージ液は、パージ液循環ポンプによって送り出されて、血液ポンプ内を通過した後、リザーバーに戻ってくるというような循環を行っている。摺動装置901は、送り側チューブと戻り側チューブとのほぼ中間位置としていることが一般的であるため、摺動装置901における固定側摺動部材912及び回転側摺動部材922の各内周側に存在するパージ液の圧力は、パージ液循環ユニットにおける出口付近のパージ液の圧力とリザーバーのパージ液の圧力(大気圧であってこれを0KPaとする。)とのほぼ平均値となる。
なお、「摺動装置901における固定側摺動部材912及び回転側摺動部材922の各内周側に存在するパージ液の圧力」のことを、「摺動装置901におけるパージ液の圧力」と略記する。
【0014】
ここで、パージ液循環ユニットにおける出口付近のパージ液の圧力は、パージ液循環ポンプの性能にもよるが、10KPa〜100KPaの範囲で設定可能であって、仮に30KPaに設定されていたとすると、摺動装置901におけるパージ液の圧力は、この場合、15KPaとなる。なお、パージ液循環ユニットにおける出口付近のパージ液の圧力(この場合、30KPa)は、リザーバー内におけるパージ液の圧力を大気圧として、当該リザーバー内の圧力を基準(0KPa)とした場合の相対的な圧力である。
【0015】
このように、摺動装置901におけるパージ液の圧力は、パージ液循環ユニットの出口付近のパージ液の圧力のほぼ1/2となってしまう。ただし、人間の血圧(収縮期と拡張期との平均血圧とする。)を仮に100mmHg(13KPa)とした場合、摺動装置901におけるパージ液の圧力が15KPa程度となっていれば、多くの場合、パージ液の圧力は血圧に勝るため、パージ液は血液の抵抗に打ち勝って、第1摺動面914と第2摺動面924との間に供給されることとなる。
【0016】
しかし、血圧がパージ液の圧力に勝(まさ)ってしまう場合もあり、このような場合、パージ液が第1摺動面914と第2摺動面924との間に供給されにくくなってしまい、摺動装置の潤滑性能及びシール性能が低くなってしまうという課題がある。
【0017】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、摺動装置におけるパージ液の圧力を適切な圧力に設定することによって、従来のパージ液循環装置よりも摺動装置の潤滑性能及びシール性能を高くすることが可能な血液ポンプのパージ液循環装置を提供することを目的とする。また、本発明の血液ポンプのパージ液循環装置を備える補助人工心臓システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
[1]本発明の血液ポンプのパージ液循環装置は、使用者の体内に埋め込まれる血液ポンプの内部に設けられ、環状の第1摺動面を有する固定側摺動部材と環状の第2摺動面を有する回転側摺動部材とを有し、前記第1摺動面と前記第2摺動面とを対向させた状態で、かつ、前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各外周側を血液に接触させた状態で使用する摺動装置と、前記血液ポンプの内部の潤滑性能、冷却性能及びシール性能を維持する機能を有するパージ液を前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各内周側を通して循環させるパージ液循環ユニットと、前記パージ液循環ユニットから前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各内周側を通って前記パージ液循環ユニットに戻るように構成されているパージ液循環経路と、を備える血液ポンプのパージ液循環装置であって、前記パージ液循環ユニットは、前記パージ液を貯留するパージ液貯留部と、前記パージ液貯留部に貯留されているパージ液に一方向の移動力を与えるパージ液循環ポンプと、前記パージ液貯留部のパージ液入口付近に設けられ、前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各内周側を通って前記パージ液貯留部に戻るときの当該パージ液の流量調整が可能な流量調整バルブと、を有することを特徴とする。
【0019】
本発明の血液ポンプのパージ液循環装置によれば、パージ液循環ポンプに加えてパージ液貯留部に戻るときの当該パージ液の流量調整が可能な流量調整バルブを有している。これにより、パージ液循環ポンプ及び流量調整バルブの少なくとも一方の制御を行うことによって、固定側摺動部材及び回転側摺動部材の各内周側に存在するパージ液の圧力を適切な圧力(例えば、摺動装置の外周面に存在する血液の圧力よりも確実に高い圧力)に設定することができる。
【0020】
なお、「固定側摺動部材及び回転側摺動部材の各内周側に存在するパージ液の圧力」は、ここでも「摺動装置におけるパージ液の圧力」と略記する。また、この明細書において、パージ液循環ポンプを制御するというのは、パージ液循環ポンプの回転数を制御することによって、パージ液の単位時間あたりの送り出し量を制御することを意味しており、また、流量調整バルブを制御するということは、流量調整バルブの開度(流量調整バルブを流れるパージ液の流量)を制御することを意味している。
【0021】
このように、本発明の血液ポンプのパージ液循環装置によれば、パージ液循環ポンプ及び流量調整バルブの少なくとも一方を制御することによって、摺動装置におけるパージ液の圧力を、適切な圧力(例えば、摺動装置の外周面に存在する血液の圧力よりも確実に高い圧力)に、設定することができる。このため、固定側摺動部材の第1摺動面と回転側摺動部材の第2摺動面との間に強制的にパージ液を供給することができ、固定側摺動部材の第1摺動面と回転側摺動部材の第2摺動面との間に潤滑膜を安定して形成することができる。これにより、血液が摺動装置の内周側に入り込むことを防ぐことができ、従来のパージ液循環装置よりも摺動装置の潤滑性能及びシール性能を高くすることができる。
【0022】
[2]本発明の血液ポンプのパージ液循環装置においては、接触状態にある前記第1摺動面と前記第2摺動面とが、前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各内周側に存在するパージ液の圧力によって非接触状態となるときの前記パージ液の圧力をパージ液の乖離圧としたとき、前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各内周側に存在するパージ液の圧力が、前記パージ液の乖離圧よりもわずかに低い圧力となるように、前記パージ液循環ポンプ及び前記流量調整バルブの少なくとも一方を制御する機能を有するパージ液循環ユニット制御部をさらに備えることが好ましい。
【0023】
これにより、摺動装置におけるパージ液の圧力を、パージ液の乖離圧よりもわずかに低い値に設定することができる。このように、摺動装置におけるパージ液の圧力を、パージ液の乖離圧よりもわずかに低い値に設定することによって、摺動装置におけるパージ液の圧力は、パージ液を単に循環させる場合に比べると、より高い値となる。これにより、固定側摺動部材の第1摺動面と回転側摺動部材の第2摺動面との間に強制的にパージ液を供給することができ、固定側摺動部材の第1摺動面と回転側摺動部材の第2摺動面との間に潤滑膜を安定して形成することができる。これにより、血液が摺動装置の内周側に入り込むことを防ぐことができる。
【0024】
[3]本発明の血液ポンプのパージ液循環装置においては、パージ液循環ユニット制御部は、前記流量調整バルブを閉塞した状態として、前記パージ液循環ポンプが一定の流量でパージ液を送り続ける過程で、前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各内周側に存在するパージ液の圧力の上昇が停止して当該パージ液の圧力が急激に下降し始めるときのパージ液の圧力を前記乖離圧として測定する機能をさらに有することが好ましい。
【0025】
これにより、パージ液の乖離圧を測定することができる。すなわち、流量調整バルブを閉塞した状態として、パージ液循環ポンプが一定の流量でパージ液を送り続けると、摺動装置におけるパージ液の圧力が上昇して行く。そして、パージ液の圧力によって固定側摺動部材の第1摺動面と回転側摺動部材の第2摺動面とが接触状態から非接触状態(乖離した状態)となると、摺動装置におけるパージ液の圧力の上昇が停止して当該パージ液の圧力が急激に下降し始める。このときの圧力(摺動装置におけるパージ液の圧力の上昇が停止して当該パージ液の圧力が急激に下降し始めるときの圧力)を「パージ液の乖離圧」として測定することができる。
【0026】
[4]本発明の血液ポンプのパージ液循環装置においては、前記パージ液の乖離圧よりもわずかに低い圧力は、前記乖離圧の85%〜95%の範囲の圧力であることが好ましい。
【0027】
前記パージ液の乖離圧よりもわずかに低い圧力をこのような範囲に設定することにより、摺動装置におけるパージ液の圧力を適切な圧力(例えば、摺動装置の外周面に存在する血液の圧力よりも確実に高い圧力)とすることができる。なお、パージ液の乖離圧よりもわずかに低い圧力は、85%〜95%の範囲のうちの90%程度とすることがより好ましい。
【0028】
[5]本発明の血液ポンプのパージ液循環装置においては、前記パージ液循環ユニットは、前記パージ液循環ポンプの下流側に設けられ、前記パージ液循環経路を循環するパージ液に含まれている不要物質を除去するフィルターと、前記フィルターのパージ液入口付近におけるパージ液の圧力を検出する第1圧力検出部と、前記フィルターのパージ液出口付近におけるパージ液の圧力を検出する第2圧力検出部と、前記流量調整バルブのパージ液入口付近における前記パージ液の圧力を検出する第3圧力検出部と、をさらに有することが好ましい。
【0029】
パージ液循環ユニットの構成要素としてフィルターを設けることにより、循環するパージ液に含まれる血液及び雑菌などの不要物質を除去することができる。また、パージ液循環ユニットの構成要素として第1圧力検出部を設けることにより、フィルターの目詰まりを検出することができる。
【0030】
また、パージ液循環ユニットの構成要素として第2圧力検出部は、フィルターのパージ液出口付近におけるパージ液の圧力を検出するものであり、当該第2圧力検出部は、フィルターのパージ液出口付近におけるパージ液の圧力を、パージ液循環ユニットの出口側圧力として検出することができる。このため、第2圧力検出部によって検出されるフィルター出口側圧力は、「パージ液循環ユニットの出口側圧力」と言うことができる。また、当該第2圧力検出部を設けることにより、パージ液循環ユニットと血液ポンプとの間に存在するパージ液循環経路(パージ液循環ユニットと血液ポンプとを接続する接続チューブ)の折れ曲がりや捻じれによる狭窄を検出することもできる。
【0031】
また、パージ液循環ユニットの構成要素として第3圧力検出部を設けることにより、流量調整バルブに流入するパージ液の圧力を検出することができる。なお、パージ液が循環している状態においては、この第3圧力検出部が検出する圧力と上記第2圧力検出部が検出する圧力とに基づいて、摺動装置におけるパージ液の圧力がどの程度の圧力となっているかを知ることができる。また、当該第3圧力検出部は、流量調整バルブのパージ液入口付近におけるパージ液の圧力を検出するものであるため、第3圧力検出部が検出するバルブ入口側圧力は、「パージ液循環ユニットの入口側圧力」と言うことができる。
【0032】
[6]本発明の血液ポンプのパージ液循環装置においては、前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材のうちの少なくとも一方の摺動部材は、炭化ケイ素からなることが好ましい。
【0033】
炭化ケイ素(SiC)は、硬度、耐久性及び生体適合性に優れる材料であり、血液の中でも安全に使用できる。このため、上記のような構成とすることにより、固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の硬度及び耐久性を高くして、摺動面が弾性変形することによる影響を抑制することが可能となる。
【0034】
なお、固定側摺動部材及び回転側摺動部材の両方が炭化ケイ素からなる摺動部材であるとも好ましいが、固定側摺動部材及び回転側摺動部材の一方は炭化ケイ素でなり、他方は炭素からなる摺動部材であることも好ましい。炭素は、炭化ケイ素とともに用いるのに適した比較的軟質の材料であり、生体適合性にも優れ、血液の中でも安全に使用できる。
【0035】
また、炭化ケイ素からなる摺動部材は、摺動装置として組まれる前に、ケイ素酸化物の水和物を摺動面に形成する処理である「なじみ処理」が施されたものであることが好ましい。このような構成とすることにより、炭化ケイ素からなる摺動部材の摺動面が、トライボケミカル反応により「高い親水性を有するケイ素酸化物の水和物」を有することとなる。このため、血液が摺動面に付着し難くなり、その結果、血液中で用いた場合の摺動抵抗を、「なじみ処理」を施さない摺動装置に比べて低減することが可能となる。
【0036】
「なじみ処理」とは、所定の手順に沿って荷重を増大させながら摺動面に摩擦を与える処理をいう。なじみ処理は、例えば、一定荷重において摩擦係数の変化率が所定の値(例えば、5%)以内になるまで摺動面に摩擦を与えた後、荷重を所定の値(例えば、50N)ずつ増加させることにより行うことができる。なじみ処理は、例えば、水中で行う。なじみ処理中に与える最大の荷重は、摺動装置を実際に使用するときにかかる荷重よりも大きいことが好ましく、荷重の10倍以上であることが一層好ましい。
【0037】
[7]本発明の血液ポンプのパージ液循環装置においては、前記固定側摺動部材及び前記回転側摺動部材の各外周には、抗血栓処理がなされていることが好ましい。
【0038】
このような構成とすることにより、固定側摺動部材及び回転側摺動部材の各外周における血栓の発生や血液の付着を抑制することが可能となる。
なお、抗血栓処理としては、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマーによるコーティング処理を例示することができる。
【0039】
[8]本発明の補助人工心臓システムは、体内に埋め込まれる血液ポンプと、当該血液ポンプと心臓の血流とを接続するための人工血管と、前記血液ポンプの駆動及び制御を行う血液ポンプ制御装置と、血液ポンプの内部にパージ液を循環させるための血液ポンプのパージ液循環装置とを備える補助人工心臓システムであって、前記血液ポンプのパージ液循環装置は、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の血液ポンプのパージ液循環装置であることを特徴とする。
【0040】
本発明の補助人工心臓システムによれば、前記[1]〜[7]のいずれかにに記載の本発明の血液ポンプのパージ液循環装置を備えるため、前記[1]〜[7]のいずれかに記載の本発明の血液ポンプのパージ液循環装置と同様の効果を有する。これにより、本発明の補助人工心臓システムは、信頼性の高い補助人工心臓システムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】実施形態に係る補助人工心臓システム100を説明するために示す図である。
図2図1に示す補助人工心臓システム100に用いられる血液ポンプ110の断面図である。
図3図2に示す血液ポンプに用いられる摺動装置1を説明するために示す図である。
図4】実施形態に係る血液ポンプのパージ液循環装置200を説明するために示す図である。
図5】流量調整バルブ214を閉塞した状態(開度がゼロの状態)として、パージ液を低流量(流量一定とする。)で送るようにパージ液循環ポンプ212を運転したときの圧力変化を模式的に示す図である。
図6】摺動装置1におけるパージ液の圧力の様子を模式的に示す図である。
図7】第1摺動面14と第2摺動面24との間におけるパージ液と血液との関係を模式的に示す図である。
図8】従来の血液ポンプ900の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の血液ポンプのパージ液循環装置及び補助人工心臓システムについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。なお、各図は模式図であり、各構成要素のサイズなどは必ずしも実際のものを厳密に反映したものではない。
【0043】
図1は、実施形態に係る補助人工心臓システム100を説明するために示す図である。
図2は、図1に示す補助人工心臓システム100に用いられる血液ポンプ110の断面図である。
図3は、図2に示す血液ポンプに用いられる摺動装置1を説明するために示す図である。図3(a)は摺動装置1及びその近辺の斜視図であり、図3(b)は摺動装置1及びその近辺の断面図である。
図4は、実施形態に係る血液ポンプのパージ液循環装置200を説明するために示す図である。
【0044】
実施形態に係る補助人工心臓システム100は、図1に示すように、体内に埋め込まれる血液ポンプ110(詳細は図2参照。)と、血液ポンプ110と心臓の血流とを接続するための人工血管120,130と、可搬型の補助人工心臓システム本体部300と、血液ポンプ110と可搬型の補助人工心臓システム本体部300とを接続する接続ケーブル400とを備えている。
【0045】
このように構成されている実施形態に係る補助人工心臓システム100のうち、血液ポンプ110内に設けられている摺動装置1(詳細は図3参照。)と、補助人工心臓システム本体部300内に収納されているパージ液循環ユニット210(詳細は図4参照。)と、同じく補助人工心臓システム本体部300内に収納されているパージ液循環ユニット制御部220(図4参照。)と、接続ケーブル400の構成要素の1つであるパージ液循環チューブ410(図4参照。)とによって、本発明の血液ポンプのパージ液循環装置(ここでは、実施形態に係る血液ポンプのパージ液循環装置200とする。)が構成されている。
【0046】
また、補助人工心臓システム本体部300には、図示は省略するが、血液ポンプ110の駆動及び制御を行うための血液ポンプ制御装置も収納されている。なお、血液ポンプ制御装置が血液ポンプ110の駆動及び制御を行うための制御信号線(図示せず。)は、接続ケーブル400に含まれている。
【0047】
血液ポンプ110は、図2に示すように、固定部10と、回転部20と、回転駆動装置30と、血液ポンプ室32とを備える。このように構成されている血液ポンプ110は、摺動装置1における固定側摺動部材12及び回転側摺動部材22の各内周側に位置するパージ液通過室46(後述する。)に、パージ液を通過させながら使用するポンプである。
【0048】
固定部10は、筒状の固定側摺動部材12(いわゆるシートリング)を有する。
回転部20は、回転側摺動部材22(いわゆるシールリング)、インペラ26及び回転シャフト28を有する。インペラ26は、血液に移動力を付加する。回転シャフト28は、回転駆動装置30と接続されており、使用時には回転駆動装置30により回転力を与えられて回転部20全体を回転させる。
【0049】
固定側摺動部材12及び回転側摺動部材22は摺動装置1を構成する。摺動装置1は、血液ポンプにおけるメカニカルシールを構成する構成要素の1つである。また、摺動装置1は、実施形態に係る血液ポンプのパージ液循環装置200の構成要素の1つでもある。摺動装置1については、後で詳しく説明する。なお、図示、符号の表示及び詳細な説明は省略するが、メカニカルシールは、摺動装置1の他にも、回転側摺動部材22の回転軸a(図3参照。)に沿う方向に所定の荷重を与える荷重付加機構(例えば、マグネットを用いたもの)や、回転側摺動部材22とインペラ26との間に配置されるクッションリングなど、メカニカルシールに必要な構成要素を備える。
【0050】
回転駆動装置30は、回転モーターを備え、インペラ26に回転力を与える。血液ポンプ室32は、血液がインペラ26により移動力を付加される場所である。
【0051】
血液ポンプ110内には、パージ液が循環する経路40(血液ポンプ内パージ液循環経路40と呼称する。)が設けられている。当該血液ポンプ内パージ液循環経路40は、パージ液をパージ液入口42からパージ液供給室44、パージ液通過室46の順で血液ポンプ110内を通過させ、パージ液出口48から排出させる。
【0052】
パージ液は、血液ポンプ110内の潤滑、冷却、シール性を維持する機能を有する。具体的には、回転シャフト28と固定部10との間の潤滑及び冷却を行う機能、固定側摺動部材12の第1摺動面14と回転側摺動部材22の第2摺動面24との隙間から血液が入り込むのを抑制する機能、第1摺動面14及び第2摺動面24を洗浄する機能などを有する。
【0053】
次に、摺動装置1について説明する。
摺動装置1は、図3に示すように、環状の第1摺動面14を有する固定側摺動部材12と、環状の第2摺動面24を有する回転側摺動部材22とを備える。摺動装置1は、第1摺動面14と第2摺動面24とを対向させた状態で、かつ、固定側摺動部材12及び回転側摺動部材22の各外周側を血液に接触させた状態で使用する摺動装置である。なお、摺動装置1は、血液ポンプ110の構成要素の1つであるが、実施形態に係る血液ポンプのパージ液循環装置200の構成要素でもある。
【0054】
摺動装置1は、非使用時においては第1摺動面14と第2摺動面24とが接触する。なお、実施形態に係るパージ液循環装置200においては、摺動装置1における第1摺動面14と第2摺動面24とは、設計上、同一の内周直径及び外周直径を有している。このため、第1摺動面14と第2摺動面24とはそれぞれの面全体で接触する(図3(b)及び図3(c)参照。)。
【0055】
ここで、非使用時において、第1摺動面14と第2摺動面24とが接触するようにするための構成は、メカニカルシールの荷重付加機構を用いて固定側摺動部材12と回転側摺動部材22との間に荷重をかけることにより実現することができる。荷重の大きさは、第1摺動面14及び第2摺動面24の面積にもよるが、例えば、10KPa〜200KPaとすることができる。
【0056】
摺動装置1は、固定側摺動部材12と回転側摺動部材22との間に、回転側摺動部材22の回転軸aに沿う方向に所定の荷重が与えられた状態で使用する摺動装置(いわゆるスラスト軸受け構造の摺動装置)である。
【0057】
摺動装置1は、使用時においては、固定側摺動部材12及び回転側摺動部材22の各内周側、すなわち、パージ液通過室46(図2参照。)にパージ液を通過させながら使用する。
【0058】
固定側摺動部材12は、炭化ケイ素からなり、回転側摺動部材22は、炭素からなる。
固定側摺動部材12及び回転側摺動部材22の各外周には、抗血栓処理がなされている。抗血栓処理としては、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマーによるコーティング処理を例示することができる。
【0059】
次に、実施形態に係る血液ポンプのパージ液循環装置200について説明する。血液ポンプのパージ液循環装置200(以下、「血液ポンプの」を省略して「パージ液循環装置200」と表記する場合もある。)は、図4に示すように、血液ポンプ110内に設けられている摺動装置1と、血液ポンプ110内にパージ液を循環させるパージ液循環ユニット210と、パージ液循環ユニット210を制御するパージ液循環ユニット制御部220とを有している。
【0060】
なお、パージ液循環ユニット制御部220は、パージ液循環ユニット210に設けられているパージ液循環ポンプ212及び流量調整バルブ214を主に制御するものであり、図示しない回路基板に、例えばパッケージングされた電子回路として搭載されている。
【0061】
このように構成されているパージ液循環装置200は、当該パージ液循環装置200の殆どの構成要素が、可搬型の人工心臓システム本体部300(図1参照。)に収納されている。そして、当該パージ液循環装置200のパージ液循環ユニット210は、可撓性を有する接続ケーブル400(図1参照。)を介して血液ポンプ110内の血液ポンプ内パージ液循環経路40に接続されている。なお、接続ケーブル400には、上記したように、パージ液を循環させるパージ液循環チューブ410と、血液ポンプ制御装置(図示せず。)からの制御信号線(図示せず。)とが含まれている。
【0062】
パージ液循環チューブ410は、パージ液循環ユニット210から送り出されるパージ液を血液ポンプ110に送るための送り側チューブ411と、血液ポンプ内パージ液循環経路40を循環したパージ液がパージ液循環ユニット160に戻ってくる戻り側チューブ412とからなり、送り側チューブ411は、パージ液入口42(図2参照。)に接続され、戻り側チューブ412はパージ液出口48(図2参照。)に接続されている。
【0063】
パージ液循環ユニット210は、補助人工心臓システム本体部300に着脱自在に収納されている。このため、パージ液循環ユニット210は、必要に応じて交換が可能となっている。
【0064】
パージ液循環ユニット210は、図4に示すように、パージ液を貯留するパージ液貯留部(以下、リザーバーと呼称する。)211と、リザーバー211に貯留されているパージ液に一方向の移動力を与えることによりパージ液を循環させるパージ液循環ポンプ(例えば、ダイアフラムポンプ)212と、パージ液循環ポンプ212の下流側に設けられ、循環するパージ液に含まれている血液及び雑菌などの不要物質を除去するフィルター213と、リザーバー211に戻るパージ液の流量調整を行うことによって、摺動装置1におけるパージ液の圧力を所定の圧力に設定可能な流量調整バルブ214と、フィルター213のパージ液入口付近におけるパージ液の圧力を検出する第1圧力検出部215と、フィルター213のパージ液出口付近におけるパージ液の圧力をパージ液循環ユニットの出口側圧力として検出する第2圧力検出部216と、流量調整バルブ214のパージ液入口付近におけるパージ液の圧力をパージ液循環ユニットの入口側圧力として検出する第3圧力検出部217とを有している。
【0065】
なお、パージ液循環ポンプ212は、回転数の制御によって、パージ液の単位時間当たりの送り出し量を所定範囲内の任意の送り出し量で送り出すことが可能なポンプである。
また、流量調整バルブ214は、バルブの開度の調整によってパージ液の流量を調整することができる。このため、例えば、「流量調整バルブ214においてパージ液の流量を減少(又は増加)させる」ことを「流量調整バルブ214のバルブの開度を小さく(又は大きく)する」というように表記する場合もある。
【0066】
パージ液循環ユニット210の内部におけるパージ液の循環経路(ユニット内パージ液循環経路と呼称する。)は、リザーバー211からパージ液循環ポンプ212経てフィルター213を通るユニット内送り側循環経路218と、流量調整バルブ214を通ってリザーバー211に入るユニット内戻り側循環経路219とが存在する。そして、ユニット内送り側循環経路218は、パージ液循環チューブ410の送り側チューブ411に接続され、ユニット内戻り側循環経路219は、パージ液循環チューブ410の戻り側チューブ412に接続されている。
【0067】
ここで、パージ液循環ユニット210内のユニット内送り側循環経路218及びユニット内戻り側循環経路219と、血液ポンプ内パージ液循環経路40(図2参照。)と、パージ液循環チューブ410の送り側チューブ411及び戻り側チューブ412とを含めたパージ液の全体的な循環経路420を「パージ液循環経路420」と呼称する。従って、この明細書において、単に「パージ液循環経路420」として表記した場合には、これら全体を指すものとする。
【0068】
第1圧力検出部215は、フィルター213のパージ液入口付近におけるパージ液の圧力(フィルター入口側圧力P1と呼称する。)を検出する。第2圧力検出部216は、フィルター213のパージ液出口付近におけるパージ液の圧力(フィルター出口側圧力P2と呼称する。)を検出する。第3圧力検出部217は、流量調整バルブ214のパージ液入口付近におけるパージ液の圧力(バルブ入口側圧力P3と呼称する。)を検出する。
【0069】
なお、第2圧力検出部216は、フィルター213のパージ液出口付近におけるパージ液の圧力をパージ液循環ユニット210の出口側圧力として検出するものである。このため、第2圧力検出部216によって検出されるフィルター出口側圧力P2は、「パージ液循環ユニット210の出口側圧力」と言うことができる。
【0070】
また、第3圧力検出部217は、流量調整バルブ214のパージ液入口付近におけるパージ液の圧力をパージ液循環ユニット210の入口側圧力として検出するものである。このため、第3圧力検出部217が検出するバルブ入口側圧力P3は、「パージ液循環ユニット210の入口側圧力」と言うことができる。
【0071】
第1圧力検出部215が検出したフィルター入口側圧力P1、第2圧力検出部216が検出したフィルター出口側圧力(パージ液循環ユニット210の出口側圧力)P2及び第3圧力検出部217が検出したバルブ入口側圧力(パージ液循環ユニット210の入口側圧力)P3は、パージ液循環ユニット制御部220にそれぞれ与えられる。
【0072】
第1圧力検出部215は、フィルター213の目詰まりを検出するものであり、第2圧力検出部216は、パージ液循環ユニット210の出口側圧力を検出する機能を有している。また、当該第2圧力検出部216は、パージ液循環ユニット210と血液ポンプ110との間に存在する接続チューブ411の折れ曲がりや捻じれによる狭窄を検出する機能も有している。
【0073】
なお、フィルター213の目詰まりの検出及び接続チューブ411の折れ曲がりや捻じれによる狭窄の検出は、パージ液循環ユニット制御部220が、第1圧力検出部215が検出したフィルター入口側圧力P1及び第2圧力検出部216が検出したフィルター出口側圧力(パージ液循環ユニット210の出口側圧力)P2を監視することによって行うことができる。すなわち、パージ液循環ユニット制御部220は、フィルター入口側圧力P1及びフィルター出口側圧力を検出した結果、フィルター入口側圧力P1が所定値以上であった場合には、アラームを発生するとともに、フィルター出口側圧力P2が所定値以上であった場合にも、アラームを発生する。
【0074】
なお、アラームとしては、例えば、ランプを点灯させたり、警報音発生部から警報音を発生したりすることを例示できる。なお、ランプはフィルター入口側圧力P1及びフィルター出口側圧力P2にそれぞれ対応した色を点灯したり、警報音はフィルター入口側圧力P1及びフィルター出口側圧力P2にそれぞれ対応した音を発生したりすることが可能である。このようなランプ及び警報音発生部は、図示は省略するが、補助人工システム本体部300(図1参照。)の所定箇所に設けられている。
【0075】
ところで、フィルター213に目詰まりがなく、また、パージ液循環チューブ410に折れ曲がりや捻じれもなくパージ液が正常に循環している際においては、フィルター出口側圧力(パージ液循環ユニット210の出口側圧力)P2は、10KPa〜100KPaの範囲での設定が可能であるとする。なお、上記したように、フィルター出口側圧力P2は、パージ液循環ユニット210の出口側圧力とも言えるため、フィルター出口側圧力P2は、パージ液循環ユニット210の出口側圧力を指すものとする。
【0076】
なお、フィルター出口側圧力P2は、より能力の高いパージ液循環ポンプを用いることによって、100KPaよりも大きな値とすることは可能であるが、コスト及びサイズなどの実用性を考慮してパージ液循環ポンプを選択する必要がある。このような点を考慮してパージ液循環ポンプを選択した結果、実施形態に係る血液ポンプのパージ液循環装置200において採用したパージ液循環ポンプ212は、フィルター出口側圧力P2が、10KPa〜100KPaの範囲での設定が可能である。
【0077】
なお、フィルター出口側圧力P2におけるパージ液の圧力が10KPa〜100KPaというのは、リザーバー211内におけるパージ液の圧力を大気圧として、当該リザーバー211内の圧力を基準(0KPa)とした場合の相対的な圧力である。このことは、他の位置におけるパージ液の圧力も同様である。
【0078】
ここで、フィルター出口側圧力P2を所定の圧力(例えば、30KPa)に設定するには、パージ液循環ユニット制御部220が、第2圧力検出部216によって検出されたフィルター出口側圧力P2に基づいてパージ液循環ポンプ212を制御することによって可能となる。すなわち、パージ液循環ユニット制御部220は、フィルター出口側圧力P2を監視し、フィルター出口側圧力P2が所定の圧力となるようにパージ液循環ポンプ212を制御する。これにより、フィルター出口側圧力P2を所定の圧力(例えば、30KPa)に設定することができる。
【0079】
ところで、摺動装置1における固定側摺動部材12及び回転側摺動部材22の各内周側に存在するパージ液の圧力(この圧力のことを実施形態の説明においても、「摺動装置1におけるパージ液の圧力」と略記する。)は、当該摺動装置1が送り側チューブ411と戻り側チューブ412とのほぼ中間位置にあるため、フィルター出口側圧力P2とバルブ入口側圧力P3とのほぼ平均値となる。換言すれば、摺動装置1は、当該摺動装置1におけるパージ液の圧力がフィルター出口側圧力P2とバルブ入口側圧力P3とのほぼ平均値となるような位置に設けられている。このため、摺動装置1におけるパージ液の圧力は、フィルター出口側圧力P2とバルブ入口側圧力P3とのほぼ平均値となる。
【0080】
従って、仮に、流量調整バルブ214のバルブの開度が全開であれば、流量調整バルブ214のバルブ入口側圧力P3は、リザーバー211内におけるパージ液の圧力(0KPa)とほぼ等しくなるため、フィルター出口側圧力P2のほぼ1/2となる。例えば、フィルター出口側圧力P2が30KPaである場合においては、摺動装置1におけるパージ液の圧力は、ほぼ15KPaとなる。
【0081】
摺動装置1における潤滑性能及びシール性能をより向上させるには、摺動装置1におけるパージ液の圧力をより高くする必要があることが好ましい。そこで、実施形態に係る血液ポンプのパージ液循環装置200においては、摺動装置1におけるパージ液の圧力を、パージ液の乖離圧(下記参照。)よりもわずかに低い値に設定している。
【0082】
この明細書において、パージ液の乖離圧というのは、接触状態にある固定側摺動部材12の第1摺動面14と回転側摺動部材22の第2摺動面24とが、摺動装置1におけるパージ液の圧力によって非接触状態(乖離した状態)となったときの摺動装置1におけるパージ液の圧力をいう。
【0083】
すなわち、固定側摺動部材12の第1摺動面14と回転側摺動部材22の第2摺動面24とには、これら第1摺動面14と第2摺動面24とを接触させるための押さえ付け力が働いていて、これら第1摺動面14と第2摺動面24とが比較的強い力で接触した状態となっている。
【0084】
第1摺動面14と第2摺動面24とを接触させるための押さえ付け力としては、メカニカルシールの荷重付加機構による固定側摺動部材12と回転側摺動部材22との間に働く荷重(マグネットによる押さえ付け力)と、血圧による押さえ付け力とを挙げることができ、これらの押さえ付け力を足したものに、さらに変動要素による押さえ付け力が加わる。なお、変動要素としては、第1摺動面14及び第2摺動面24の摩耗、血液中の血漿タンパクなどの影響を挙げることができる。
【0085】
このように、第1摺動面14と第2摺動面24とが比較的強い力で接触した状態であっても、摺動装置1におけるパージ液の圧力を高くして行くと、接触した状態となっていた固定側摺動部材12の第1摺動面14と回転側摺動部材22の第2摺動面24とが、当該摺動装置1におけるパージ液の圧力によって非接触状態(乖離した状態)となる。
【0086】
すなわち、摺動装置1におけるパージ液の圧力を高くして行くと、当該摺動装置1におけるパージ液の圧力によって、固定側摺動部材12と回転側摺動部材22との間に働く荷重(マグネットによる押さえ付け力)と、血圧による押さえ付け力と、変動要素による押さえ付け力とを足した合計値がゼロとなる。このときに、第1摺動面14と第2摺動面24とが非接触状態(乖離した状態)となる。このときの摺動装置1におけるパージ液の圧力を「パージ液の乖離圧」とする。このパージ液の乖離圧に「Ps」の符号を付す。パージ液の乖離圧Psは、次のようにして測定することができる。なお、以下、「パージ液の乖離圧」のことを単に「乖離圧」と表記する場合もある。
【0087】
図5は、流量調整バルブ214を閉塞した状態(開度がゼロの状態)として、パージ液を低流量(流量一定とする。)で送るようにパージ液循環ポンプ212を運転したときの圧力変化を模式的に示す図である。図5において、横軸は時間を示しており、縦軸は摺動装置1におけるパージ液の圧力を示している。
【0088】
なお、図5は、乖離圧Psを測定するにあたって、流量調整バルブ214を閉塞した状態(開度がゼロの状態)として、パージ液を低流量(一定とする。)で送ることにより、摺動装置1におけるパージ液の圧力が上昇して、当該摺動装置1における圧力が乖離圧に達したときに圧力が低下する動作を複数回繰り返して行った場合を示している。
【0089】
乖離圧を測定する際には、まず、流量調整バルブ214を閉塞した状態(開度がゼロの状態)とする。この状態で、低流量(流量一定とする。)でパージ液を送り続けると、当該パージ液を送り続ける過程で、摺動装置1におけるパージ液の圧力が上昇して行く。その後、接触状態にある固定側摺動部材12の第1摺動面14と回転側摺動部材22の第2摺動面24とが非接触状態(乖離した状態)となると、固定側摺動部材12と回転側摺動部材22の外周側に存在する血液側にパージ液が漏れて、摺動装置1におけるパージ液の圧力の上昇が停止して当該パージ液の圧力が急激に下降し始める。
【0090】
このときの圧力(摺動装置1におけるパージ液の圧力の上昇が停止して当該パージ液の圧力が急激に下降し始めるときの圧力)を「乖離圧Ps」として測定することができる。圧力の上昇が停止したか否かは、第3圧力検出部217により検出されるバルブ入口側圧力P3を監視することによって判断できる。なお、摺動装置1におけるパージ液の圧力の上昇が停止して当該パージ液の圧力が急激に下降し始めるときの圧力を「Pmax」とし、当該Pmaxを乖離圧Psとする。
【0091】
なお、乖離圧Psを測定するにあたって、図5に示すように、摺動装置1におけるパージ液の圧力を上昇させる動作(摺動装置1におけるパージ液圧力を徐々に上昇させて乖離に至らせる動作)を複数回繰り返して行った場合においては、各回ごとに取得される圧力(パージ液の圧力が急激に下降し始めたときの圧力Pmax)が、わずかずつ異なる場合もあり得る。その場合においては、各回ごとに取得された圧力(パージ液の圧力が急激に下降し始めたときの圧力Pmax)の平均を取るようにしてもよい。
【0092】
上記のようにして乖離圧Psが測定されると、摺動装置1におけるパージ液の圧力が、当該乖離圧Psよりもわずかに低い圧力(この圧力を「Ps’」とする。)となるように、パージ液循環ポンプ212及び流量調整バルブ214の少なくとも一方を制御する。ここで、パージ液循環ポンプ212を制御するというのは、上記したように、パージ液循環ポンプ212の回転数を制御することを意味し、また、流量調整バルブ214を制御するということは、流量調整バルブ214の開度を制御することを意味している。
【0093】
なお、乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’は、乖離圧Psの85%〜95%の範囲の圧力とすることが好ましく、当該範囲のうちの90%程度とすることがより好ましい。例えば、乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’を乖離圧Psの90%とした場合、乖離圧Psが上記したように28KPaであれば、乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’は、ほぼ25KPaとなる。
【0094】
実施形態に係るパージ液循環装置200においては、乖離圧Psを測定することと、摺動装置1におけるパージ液の圧力が乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となるようにすることは、パージ液循環ユニット制御部220によって自動的に行うものとする。
【0095】
このように、乖離圧Psを測定することと、測定した乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となるようにすることをパージ液循環ユニット制御部220によって自動的に行う場合には、パージ液循環ユニット制御部220からの制御信号によってパージ液循環ポンプ212の回転数を制御可能とするとともに、流量調整バルブ214のバルブの開度を制御可能としておく。
【0096】
ここで、パージ液循環ユニット制御部220が行う制御について説明する。まず、乖離圧Psを測定する場合について説明する。乖離圧Psを測定する場合においては、パージ液循環ニット制御部220は、パージ液循環ポンプ212に対しては低回転で一定となるように制御し、流量調整バルブ214に対しては、バルブを閉塞する(開度をゼロとする)ように制御する。
【0097】
そして、第3圧力検出部217が検出するバルブ入口側圧力P3を監視し、当該バルブ入口側圧力P3の上昇が停止して、当該バルブ入口側圧力P3が急激に下降し始めるときのバルブ入口側圧力P3(図5における「Pmax」)を測定する。このバルブ入口側圧力P3が急激に下降し始めるときのバルブ入口側圧力P3(Pmax)は、このときの摺動装置1におけるパージ液の圧力であり、これを乖離圧Psとする。このようにすることにより、乖離圧Psを自動的に測定することができる。
【0098】
なお、乖離圧Psを測定する際には、上記したように、流量調整バルブ214を閉塞した状態として、パージ液循環ポンプ212が一定の流量でパージ液を送るようにしているため、パージ液循環経路420のうちの第2圧力検出部216から摺動装置1を経て第3圧力検出部217までの間においては、パージ液の圧力は同じ圧力となる。従って、乖離圧は第2圧力検出部216又は第3圧力検出部217のいずれかを検出することによって測定できる。
【0099】
また、乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’の設定を行う場合においては、パージ液循環ユニット制御部220はパージ液が循環している状態において、摺動装置1におけるパージ液の圧力が、乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となるようにパージ液循環ポンプ212及び流量調整バルブ214の少なくとも一方を制御する。すなわち、パージ液循環ユニット制御部220は、第3圧力検出部217が検出するバルブ入口側圧力P3を監視し、その監視結果に基づいて、バルブ入口側圧力P3が所定の圧力となるようにパージ液循環ポンプ212及び流量調整バルブ214の少なくとも一方を制御する。
【0100】
具体的には、パージ液循環ユニット制御部220は、乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’を、仮に25KPaに設定する場合においては、パージ液が循環している状態において、当該25KPaを目標値としてパージ液循環ユニット制御部220に設定する。これにより、パージ液循環ユニット制御部220においては、摺動装置1におけるパージ液の圧力が25KPaとなるように、パージ液循環ポンプ212及び流量調整バルブ214の少なくとも一方を制御する。
【0101】
なお、このとき、第3圧力検出部217に表示されるバルブ入口側圧力P3は、パージ液が循環している場合においては、摺動装置1におけるパージ液の圧力の値そのものではなく、それよりも低い値である。従って、摺動装置1におけるパージ液の圧力を、仮に25KPaとするには、バルブ入口側圧力P3をどのような値に設定すればよいか求めて、バルブ入口側圧力P3が当該求めた値となるようにパージ液循環ポンプ212及び流量調整バルブ214の少なくとも一方を制御する。
【0102】
具体的には、摺動装置1におけるパージ液の圧力を25KPaに設定しようとする場合においては、第2圧力検出部216が検出するフィルター出口圧力P2が30KPaであるとすれば、第3圧力検出部217に表示されるバルブ入口側圧力P3は20KPaとすればよい。従って、この場合においては、バルブ入口側圧力P3が20KPaとなるように流量調整バルブ214を制御すればよい。
【0103】
なお、この場合は、フィルター出口圧力P2を30KPaを一定として、バルブ入口側圧力P3を制御することにより、摺動装置1におけるパージ液の圧力が、乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となるようにしたが、フィルター出口圧力P2とバルブ入口側圧力P3との両方を制御して、摺動装置1におけるパージ液の圧力が、乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となるようにしてもよい。
【0104】
パージ液循環ユニット制御部220がこのような制御を行うことによって、摺動装置1におけるパージ液の圧力は、乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’とすることができる。
【0105】
図6は、摺動装置1におけるパージ液の圧力の様子を模式的に示す図である。乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’を目標値としてパージ液循環ユニット制御部220に設定することにより、パージ液循環ユニット制御部220においては、摺動装置1におけるパージ液の圧力が目標値となるように、パージ液循環ポンプ212及び流量調整バルブ214の少なくとも一方を制御する。これによって、摺動装置1にけるパージ液の圧力は、図6に示すように、乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’を維持できる。
【0106】
このように、摺動装置1におけるパージ液の圧力が、乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となっていることにより、回転側摺動部材22が回転しているときにおいては、第1摺動面14と第2摺動面24との間にパージ液が強制的に入り込むようになる。このとき、血液も第1摺動面14と第2摺動面24との間に入り込もうとするが、第1摺動面14と第2摺動面24との間に強制的に入り込むパージ液の圧力によって、血液は、第1摺動面14と第2摺動面24との間に入り込みにくくなり、血液が摺動装置1における固定側摺動部材12及び回転側摺動部材22の各内周側に入り込むことを確実に防ぐことができる。
【0107】
すなわち、摺動装置1におけるパージ液の圧力が当該乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となっていることにより、摺動装置1におけるパージ液の圧力を、適切な圧力(例えば、摺動装置1の外周面に存在する血液の圧力よりも高い圧力)に設定することができる。このため、固定側摺動部材12の第1摺動面14と回転側摺動部材22の第2摺動面24との間に強制的にパージ液を供給することができ、固定側摺動部材12の第1摺動面14と回転側摺動部材22の第2摺動面24との間に潤滑膜を安定して形成することができる。これにより、血液が摺動装置1の内周側に入り込むことを防ぐことができ、従来のパージ液循環装置よりも摺動装置の潤滑性能及びシール性能を高くすることができる。
【0108】
図7は、第1摺動面14と第2摺動面24との間におけるパージ液と血液との関係を模式的に示す図である。
【0109】
図7(a)は摺動装置1におけるパージ液の圧力が乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となるように、パージ液循環ポンプ212及び流量調整バルブ214の少なくとも一方を制御した場合の第1摺動面14と第2摺動面24との間におけるパージ液と血液との関係を示す図である。
【0110】
また、図7(b)はパージ液循環ポンプ212が一定圧力(30KPaとする。)でパージ液を送り出し、かつ、流量調整バル214が全開となっている場合の第1摺動面14と第2摺動面24との間におけるパージ液と血液との関係を示す図である。パージ液循環ポンプ212が30KPaでパージ液を送り出している場合は、摺動装置1におけるパージ液の圧力は、前述したように、15KPa程度であるため、上記圧力Ps’よりもさらに低い圧力となっている。
【0111】
図7(a)及び図7(b)において、パージ液は薄い灰色で示されており、血液は黒色で示されている。また、図7(a)及び図7(b)においては、第1摺動面14上におけるパージ液と血液との関係を示し、第2摺動面24は図示されていない。実際には、当該第1摺動面14に対向して第2摺動面24が存在する。また、図7(a)及び図7(b)は、第1摺動面14上におけるパージ液と血液との関係を示すものであるため、第1摺動面14以外の他の構成要素(例えば、回転シャフト28など)の図示は省略されている。
【0112】
図7(a)に示すように、摺動装置1におけるパージ液の圧力が乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となるように、パージ液循環ポンプ212及び流量調整バルブ214の少なくとも一方を制御すると、摺動装置1におけるパージ液の圧力は、パージ液が第1摺動面14と第2摺動面24との間に強制的に入り込むような圧力となる。
【0113】
このため、第1摺動面14と第2摺動面24との間は、殆どがパージ液で占められた状態となる。この状態で、血液が第1摺動面14と第2摺動面24との間に入り込もうとしても、第1摺動面14と第2摺動面24との間に強制的に入り込むパージ液の圧力によって、第1摺動面14及び第2摺動面24の外周部に近いわずかの部分にしか入り込めない。これにより、血液が摺動装置1の内周側に入り込むことを確実に防ぐことができる。
【0114】
これに対して、図7(b)においては、図7(a)の場合に比べて、摺動装置1におけるパージ液の圧力がそれほど高くないため、血液が摺動装置1の内周側に入り込んでくる場合もある。
【0115】
ところで、図7(a)に示すように、パージ液の一部は、第1摺動面14と第2摺動面24との間を通過した後、固定側摺動部材12及び回転側摺動部材22の外周側に到達して血液中に入り込む場合もあるが、上記したように、パージ液は水や生理食塩水などからなるものであるため、血液中に入り込んでも特に問題とはならない。
【0116】
以上説明したように、実施形態に係るパージ液循環装置200によれば、摺動装置1におけるパージ液の圧力が当該乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となっていることにより、摺動装置1におけるパージ液の圧力を、適切な圧力(例えば、摺動装置1の外周面に存在する血液の圧力よりも確実に高い圧力)に設定することができる。このため、固定側摺動部材12の第1摺動面14と回転側摺動部材22の第2摺動面24との間に強制的にパージ液を供給することができ、固定側摺動部材12の第1摺動面14と回転側摺動部材22の第2摺動面24との間に潤滑膜を安定して形成することができる。これにより、血液が摺動装置1の内周側に入り込むことを防ぐことができ、従来のパージ液循環装置よりも摺動装置の潤滑性能及びシール性能を高くすることができる。
【0117】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば、以下のような変形も可能である。
【0118】
(1)摺動装置1におけるパージ液の圧力が乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となるように設定するための制御方法は、上記実施形態において説明した制御方法、すなわち、圧力Ps’を目標値としてパージ液循環ユニット制御部220に設定し、パージ液循環ユニット制御部220においては、摺動装置1におけるパージ液の圧力が目標値となるように、パージ液循環ポンプ212及び流量調整バルブ214の少なくとも一方を制御するといった制御方法に限られるものではなく、次に示す制御方法を採用することもできる。
【0119】
すなわち、摺動装置1におけるパージ液の圧力が乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となるようなパージ液循環ポンプの回転数及び流量調整バルブ214のバルブの開度を取得しておき、当該パージ液循環ポンプの回転数及びバルブの開度の少なくとも一方をパージ液循環ユニット制御部220に設定する。
【0120】
これにより、パージ液循環ユニット制御部220は、当該パージ液循環ユニット制御部220に設定されているパージ液循環ポンプの回転数及びバルブの開度の少なくとも一方に基づいてパージ液循環ポンプ及び流量調整バルブ214の少なくとも一方を制御する。このような制御であっても、摺動装置1におけるパージ液の圧力を、乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’とすることができる。なお、例えば、何らかの理由で乖離圧Psが更新された場合においては、更新された乖離圧Psよりもわずかに低い圧力Ps’となるように、パージ液循環ポンプの回転数及びバルブの開度を設定し直せばよい。
【0121】
(2)上記実施形態においては、乖離圧Psの測定及び当該乖離圧よりもわずかに低い圧力Ps’の設定は、パージ液循環ユニット制御部220によって自動的に行う場合について説明したが、乖離圧Psの測定及び当該乖離圧よりもわずかに低い圧力Ps’の設定は、操作者が第3圧力検出部217を監視しながら、流量調整バルブ214のバルブの開度を手動で調整することもできる。
【0122】
(3)上記実施形態においては、フィルター出口側圧力P2が所定の圧力(例えば30KPa)となるようにするための制御としては、パージ液循環ユニット制御部220は、当該フィルター出口側圧力P2を監視しながらパージ液循環ポンプ212を制御するようにしたが、これに限られるものではない。例えば、フィルター出口側圧力P2が所定の圧力(例えば30KPa)となるために必要なパージ液循環ポンプ212の回転数をパージ液循環ユニット制御部220に設定しておき、パージ液循環ユニット制御部220は、パージ液供給ポンプ212が設定されている回転数で動作するようにパージ液循環ポンプ212を制御するようにしてもよい。
【0123】
(4)上記実施形態において記載した構成要素の数、材質、形状、位置、大きさなどは例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【0124】
(5)上記実施形態における摺動装置1においては、炭化ケイ素からなる摺動部材(固定側摺動部材及び回転側摺動部材)は、摺動装置として組まれる前に、ケイ素酸化物の水和物を摺動面に形成する処理である「なじみ処理」が施されたものであってもよい。このような構成とすることにより、炭化ケイ素からなる摺動部材の摺動面がトライボケミカル反応により「高い親水性を有するケイ素酸化物の水和物」を有することとなる。このため、血液が摺動面に付着し難くなり、その結果、血液を含有する水性液体中で用いた場合の摺動抵抗を、「なじみ処理」を施さない摺動装置に比べて低減することが可能となる。
【0125】
(6)上記実施形態においては、血液ポンプにおけるパージ液循環装置について説明したが、本発明は、補助人工心臓システムに用いる血液ポンプの技術分野に限られるものではなく、血液や、血液中の特定成分(血球成分や血漿タンパク質など)を分散した水性液体(血液成分含有液体)を扱うポンプの技術分野にも適用可能である。
【0126】
(7)上記実施形態においては、乖離圧は、流量調整バルブ214を閉塞した状態(開度がゼロの状態)として、低流量(流量一定とする。)でパージ液を送り続けて、摺動装置1におけるパージ液の圧力の上昇が停止し、当該パージ液の圧力が急激に下降し始めるときの圧力として求めたが、乖離圧はこのようにして求めることに限られるものではなく、下記の方法によっても求めることができる。
【0127】
まず、フィルター出口側圧力P2を所定の圧力(例えば30KPaとする。)に設定するとともに、流量調整バルブ214のバルブの開度を全開としてパージ液を循環させる。この状態で、流量調整バルブ214のバルブの開度を徐々に小さくして行くと、摺動装置1におけるパージ液の圧力が上昇して行く。その後、接触状態にある固定側摺動部材12の第1摺動面14と回転側摺動部材22の2摺動面24とが非接触状態(乖離した状態)となると、摺動装置1におけるパージ液の圧力の上昇が停止して当該パージ液の圧力が急激に下降し始める。このときの圧力(摺動装置1におけるパージ液の圧力の上昇が停止して当該パージ液の圧力が急激に下降し始めるときの圧力)を「Pmax」とする。
【0128】
ここで、パージ液が循環している状態においては、摺動装置1におけるパージ液の圧力は、バルブ入口側圧力P3とフィルター出口側圧力P2とのほぼ平均値となる。例えば、摺動装置1におけるパージ液の圧力の上昇が停止したときのバルブ入口側圧力P3(P3=Pmax)が26KPaであったとする。このときの乖離圧Psは、(30kPa+26kPa)/2=28KPaと求めることができる。
【0129】
(8)上記(7)に示すような方法は、パージ液の循環を止めることなく乖離圧の測定が可能であるため、血液ポンプ110を体内に埋め込んだ後においても、乖離圧の測定が可能となる。これにより、乖離圧Psは、例えば1日1回、所定の時刻に行うというように定期的に行うことができ、また、何らかの異常を報知するアラームが発生したタイミングで行うこともできる。ここで、何らかの異常というのは、例えば、消費電力が急に増大した場合などを例示できる。また、測定される乖離圧はそのときの状況に応じて異なった値となる場合もあるため、常に最新の乖離圧に更新することも可能である。
【符号の説明】
【0130】
1・・・摺動装置、10・・・固定部、12・・・固定側摺動部材、14・・・第1摺動面、20・・・回転部、22・・・回転側摺動部材、24・・・第2摺動面、26・・・インペラ、28・・・回転シャフト、30・・・回転駆動装置、32・・・血液ポンプ室、40・・・血液ポンプ内パージ液循環経路、100・・・補助人工心臓システム、110・・・血液ポンプ、120,130・・・人工血管、200・・・血液ポンプのパージ液循環装置、210・・・パージ液循環ユニット、211・・・パージ液貯留部(リザーバー)、212・・・パージ液循環ポンプ、213・・・フィルター、214・・・流量調整バルブ、215・・・第1圧力検出部、216・・・第2圧力検出部、217・・・第3圧力検出部、218・・・ユニット内送り側循環経路、219・・・ユニット内戻り側循環経路、220・・・パージ液循環ユニット制御部、400・・・接続ケーブル、410・・・パージ液循環チューブ、411・・・送り側チューブ、412・・・戻り側チューブ、420・・・パージ液循環経路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8