(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6343863
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】地震予測システム、及び地震予測方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/00 20060101AFI20180611BHJP
【FI】
G01V1/00 E
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-6192(P2018-6192)
(22)【出願日】2018年1月18日
【審査請求日】2018年2月1日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】313011847
【氏名又は名称】株式会社地震科学探査機構
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 正哲
(72)【発明者】
【氏名】村井 俊治
【審査官】
素川 慎司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−080164(JP,A)
【文献】
特開平09−133777(JP,A)
【文献】
特開2001−281346(JP,A)
【文献】
特開2008−145351(JP,A)
【文献】
特開2013−195411(JP,A)
【文献】
米国特許第05625348(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00 − 99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
100Hz以下の超低周波の電磁波を利用して、地震の発生を予測するシステムであって、
電磁波を受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した電磁波から前記超低周波の電磁波を抽出するとともに、該超低周波の電磁波を増幅する増幅手段と、
前記増幅手段で増幅された電磁波に対して高速フーリエ変換を行うことによって、周波数と信号強度の関係を表す信号波形を得る変換手段と、
前記変換手段で得られた信号波形のピーク強度があらかじめ定めた強度閾値を超えるものを異常ピークとし、さらに単位時間あたりに生ずる該異常ピークの数を異常件数として、周波数別に該異常件数を計上する異常件数計上手段と、を備え、
前記異常件数があらかじめ定めた件数閾値を超えたときに地震の発生を予測する、
ことを特徴とする地震予測システム。
【請求項2】
前記増幅手段が、イコライザーを具備するデジタルミキサーである、
ことを特徴とする請求項1記載の地震予測システム。
【請求項3】
時刻を示す座標軸と周波数を示す座標軸からなる平面座標系に、色又は輝度によって信号強度を表示する強度分布図作成手段を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の地震予測システム。
【請求項4】
前記異常件数が前記件数閾値を超える単位時間が、あらかじめ定めた限界超過回数だけ連続すると、地震の発生を予測する、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか記載の地震予測システム。
【請求項5】
地震の発生を予測したとき、最多の前記異常件数を示す周波数に応じて、前記受信手段から震源までの距離を推定する震源距離推定手段を、さらに備えた、
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか記載の地震予測システム。
【請求項6】
2以上の個所に前記受信手段が設置され、
2以上前記受信手段の位置と、前記震源距離推定手段で推定された前記受信手段ごとの震源までの距離と、に基づいて震源の位置を推定する震源位置推定手段を、
さらに備えた、ことを特徴とする請求項5記載の地震予測システム。
【請求項7】
100Hz以下の超低周波の電磁波を利用して、地震の発生を予測する方法であって、
受信手段によって電磁波を受信する受信工程と、
前記受信手段で受信した電磁波から前記超低周波の電磁波を抽出するとともに、該超低周波の電磁波を増幅する増幅工程と、
前記増幅工程で増幅された電磁波に対して高速フーリエ変換を行うことによって、周波数と信号強度の関係を表す信号波形を得る変換工程と、
前記変換工程で得られた信号波形のピーク強度があらかじめ定めた強度閾値を超えるものを異常ピークとし、さらに単位時間あたりに生ずる該異常ピークの数を異常件数として、周波数別に該異常件数を計上する異常件数計上工程と、を備え、
前記異常件数があらかじめ定めた件数閾値を超えたときに地震の発生を予測する、
ことを特徴とする地震予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電磁波を利用した地震予測に関するものであり、より具体的には、地震前に地球深部から表層部に伝搬する超低周波の電磁波を検知することで地震を予測する地震予測システム、及び地震予測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我が国は地震が頻発する国として知られ、近年では、東北地方太平洋沖地震をはじめ、兵庫県南部地震、新潟県中越地震など大きな地震が発生し、そのたびに甚大な被害を被ってきた。例えば、兵庫県南部地震では強い直下型地震による衝撃が原因で多くの家屋が倒壊し、また東日本大震災では津波によって夥しい数の家屋が壊滅的な被害を受けた。
【0003】
過去の経験から巨大地震の前には、動物等の異常行動や、電波障害、インフラサウンドと呼ばれる非可聴音の異変、地震雲といったいわゆる宏観異常現象が現れることが国際的に広く知られている。そして、この宏観異常現象を察知することによって地震を予測する試みがこれまでにも行われてきた。しかしながらいずれの手法も、それぞれ問題を指摘することができる。
【0004】
例えばギリシャでは、地下に流れる地電流の電位差を測定することによって地震を予測しようとしているが、地下鉄の直流モーターからのノイズは無視できないほど大きいため我が国ではこの手法を採用することは難しい。
【0005】
地震発生の際、地下の震源周辺では岩石破壊が起こり、これに伴って発生する電磁波やイオン、放射性ガスが電離圏の異常を来すという現象を利用して地震を予測する手法も知られている。具体的には、電離圏が異常な状態であれば3−300KHzの超長波(VLF:Very Low Frequency)が電離圏で反射する際に遅延が生じるため、VLF搬送波を受信するときに検出される到達時間の遅延に基づいて地震を予測するわけである。しかしながらこの方法によれば、極めて大量のVLFの発信と受信アンテナを配置する必要がある。
【0006】
地震発生の前に電離圏で電子数が異常に増加する現象を利用して地震を予測するという取り組みも行われている。具体的には、測位衛星の信号から得られる情報を分析することによって地震を予測する手法である。しかしながら、現状では十分な検証が行われていない段階であり、リアルタイムで電子数の異常増加を的確に検知するには至っていない。
【0007】
特許文献1では、ラジオで使用されるAM/FM波に地震の前兆信号が混入するという現象を利用して地震を予測する手法を提案している。いわゆる逆ラジオと呼ばれるこの手法は、自然界の電磁波成分のみを検出するため人工的なノイズを除去しなければならないが、雷電流などのノイズを適切に分離することは著しく困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−122068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
宏観異常現象による地震予測は極めて有効な手法であり、これまで地震予測を達成する上でその実現が強く求められてきた。しかしながら、上記したとおりこれまで取り組まれてきた宏観異常現象による地震予測は、それぞれ看過しがたい問題を抱えており、いずれも現実的な手法とはいえない。
【0010】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち有効でしかもコストをかけることなく宏観異常現象による地震予測を実現することであり、超低周波の電磁波を用いた地震予測システム、及び地震予測方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の発明者らは、地震を予測するにあたって、大地震の前に超低周波の電磁波が地球深部から表層部に伝搬するという宏観異常現象に着目した。そして、一般的に受信される電磁波には人工的なノイズが混入しているが、極めて周波数が低い超低周波には著しくノイズが少ないことを発明者らは見出した。本願発明は、超低周波の電磁波を分析することで地震を予測するという点に着目して開発されたものであり、従来にはない発想に基づいて行われた発明である。
【0012】
本願発明の地震予測システムは、超低周波(あらかじめ定めた限界周波数を下回る周波数)の電磁波を利用して地震の発生を予測するシステムであり、電磁波を受信する受信手段と、増幅手段、変換手段、異常件数計上手段を備えたものである。増幅手段は、受信手段で受信した電磁波から超低周波の電磁波を抽出するとともにこの超低周波の電磁波を増幅する手段であり、変換手段は、増幅手段で増幅された電磁波に対して高速フーリエ変換を行うことによって周波数と信号強度の関係を表す「信号波形」を得る手段である。また異常件数計上手段は、変換手段で得られた信号波形のピーク強度があらかじめ定めた強度閾値を超えるものを「異常ピーク」とし、さらに単位時間あたりに生ずるこの異常ピークの数を「異常件数」とし、この異常件数を周波数別に計上する手段である。そして、異常件数があらかじめ定めた件数閾値を超えたときに地震の発生を予測する。
【0013】
本願発明の地震予測システムは、イコライザーを具備するデジタルミキサーを増幅手段とするシステムとすることもできる。
【0014】
本願発明の地震予測システムは、さらに強度分布図作成手段を備えたシステムとすることもできる。この強度分布図作成手段は、時刻を示す座標軸と周波数を示す座標軸からなる平面座標系に、色又は輝度によって信号強度を表示する手段である。
【0015】
本願発明の地震予測システムは、異常件数が件数閾値を超える単位時間があらかじめ定めた限界超過回数だけ連続したときに地震の発生を予測するシステムとすることもできる。
【0016】
本願発明の地震予測システムは、さらに震源距離推定手段を備えたシステムとすることもできる。この震源距離推定手段は、地震の発生を予測したときに最多の異常件数を示す周波数に応じて、受信手段から震源までの距離(震源距離)を推定する手段である。
【0017】
本願発明の地震予測システムは、さらに震源位置推定手段を備えたシステムとすることもできる。この震源位置推定手段は、2以上受信手段の位置と、震源距離推定手段で推定された受信手段ごとの震源距離に基づいて、震源の位置を推定する手段である。したがってこの場合は、受信手段が2以上の個所に設置される。
【0018】
本願発明の地震予測方法は、超低周波の電磁波を利用して地震の発生を予測する方法であり、電磁波を受信する受信工程と、増幅工程、変換工程、異常件数計上工程を備えた方法である。増幅工程は、受信した電磁波から超低周波の電磁波を抽出するとともにこの超低周波の電磁波を増幅する工程であり、変換工程は、増幅工程で増幅された電磁波に対して高速フーリエ変換を行うことによって周波数と信号強度の関係を表す信号波形を得る工程である。また異常件数計上工程は、変換工程で得られた信号波形のピーク強度があらかじめ定めた強度閾値を超えるものを異常ピークとし、さらに単位時間あたりに生ずるこの異常ピークの数を異常件数とし、この異常件数を周波数別に計上する工程である。そして、異常件数があらかじめ定めた件数閾値を超えたときに地震の発生を予測する。
【発明の効果】
【0019】
地震予測システム、及び地震予測方法には、次のような効果がある。
(1)人工的なノイズが著しく少ない超低周波の電磁波を用いることから有効に地震を予測することができる。
(2)例えば市販されているなど従来から用いられている機器(イコライザー内臓のデジタルミキサーやコイルアンテナなど)を利用して構成することができることから、コストをかけることなく実施することができる。
(3)巨大地震発生を予測することができることから、これまで以上に早期の避難勧告を可能にするとともに、企業等の事業継続計画の一環として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本願発明の地震予測システムの主な構成を示すブロック図。
【
図3】小笠原諸島南西沖地震における異常件数の時間変動を示すグラフ図。
【
図4】薩摩半島西方沖地震における異常件数の時間変動を示すグラフ図。
【
図5】3個所に設置された受信手段から得られる電磁波に基づいて推定された震源位置を示す説明図。
【
図7】本願発明の地震予測方法の主な工程の流れを示すフロー図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本願発明の地震予測システム、及び地震予測方法の一例を、図に基づいて説明する。
【0022】
1.地震予測システム
はじめに、本願発明の地震予測システムの実施形態の一例について詳しく説明する。
図1は、本願発明の地震予測システム100の主な構成を示すブロック図である。この図に示すように本願発明の地震予測システム100は、受信手段101と、増幅手段102、FFT変換手段104、異常件数計上手段106を含んで構成され、さらにA/D変換器103や、信号波形記憶手段105、震源距離推定手段107、震源位置推定手段108、強度分布図作成手段109を含んで構成することもできる。以下、
図1に示す構成要素ごとに詳しく説明する。
【0023】
(受信手段)
本願発明は、地震の前に超低周波の電磁波が地球深部から表層部に伝搬するという宏観異常現象を検知することによって地震を予測するものである。しかしながら、一般的に受信される電磁波には人工的なノイズが混入しており、このノイズを除去しなければ宏観異常現象としての電磁波を適切に検知することができない。そこで本願発明では、人工的なノイズが著しく少ない超低周波の電磁波を利用するという点に着目した。なお、ここでいう「超低周波の電磁波」とは、あらかじめ定めた「限界周波数」を下回る低周数の電磁波のことであり、この限界周波数としては100Hz以下の周波数(例えば、50Hzや30Hzなど)を与えることができる。
【0024】
本願発明の地震予測システム100に用いられる受信手段101は、電磁波を計測することができれば従来から用いられているものを含め種々の計測器を利用することができる。特に、鋼製の芯(例えば、鉄芯)にエナメル電線を多重に巻き回したループアンテナ(コイルアンテナ)を受信手段101とすると、超低周波の電磁波を捉えることができて好適となる。なお発明者らは、約4kmのエナメル電線を鉄芯に巻き回したループアンテナを使用すれば、30Hz以下の周波数の電磁波を計測することができることを確認している。
【0025】
超低周波の電磁波は地中および地表を伝搬するため、受信手段101は必ずしも屋外に設置する必要がなく(もちろん屋外に設置してもよい)、室内の所望の場所に設置することができる。なお、1個所に設置された受信手段101によって地震の予測を行うこともできるが、後述するように震源の位置を推定する場合は、2以上の個所に受信手段101を設置する。
【0026】
(増幅手段)
増幅手段102は、受信手段101で受信した電磁波から超低周波の電磁波を抽出し、さらに抽出した超低周波の電磁波を増幅するものであり、具体的にはハイパスフィルター機能と電磁波の増幅機能を有するもので、従来使用されている機器の組み合わせ(あるいは機器単体)とすることができる。
【0027】
発明者らは、増幅手段102としてイコライザー内臓のデジタルミキサーを利用すると極めて好適であることを見出した。受信手段101で受信した電磁波はアナログ信号である電圧であり、これを通常使われる増幅装置(いわゆるアンプ)によって所望のレベルまで増幅しようとすると、複数回の操作が必要となる。一方、イコライザー内臓のデジタルミキサーを利用した場合、これに入力された電磁波(電圧)は内部でデジタル信号に変換され、しかも人が適切にイコライザー機能の操作を行うことで超低周波の電磁波のみ抽出して増幅することができるわけである。このように増幅手段102で捉えた微弱な電圧を、音響装置(イコライザー内臓のデジタルミキサー)を活用して処理するという発想はこれまでにはなかったものである。
【0028】
(変換手段)
増幅手段102としてのイコライザー内臓のデジタルミキサーは、アナログ信号を出力する。このアナログ信号はA/D変換器103によってデジタル信号に変換され、FFT変換手段104に入力される。このFFT変換手段104は、入力されたデジタルシ信号(つまり増幅された電磁波)に対して高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Transform)を行うものであり、コンピュータを利用するとよい。
【0029】
FFT変換手段104によってFFT変換されたデジタル信号は、周波数と信号強度の関係を表す波形(以下、「信号波形」という。)となる。
図2は、ある時刻における信号波形を示すグラフ図である。なおこの図では、横軸を周波数(Hz)、縦軸を信号強度(デシベル)としている。この信号波形は、受信手段101が電磁波を受信している間、定期的に、あるいは連続して、又は断続的に出力され、信号波形記憶手段105によって記憶されていく。
【0030】
(異常件数計上手段)
異常件数計上手段106は、信号波形記憶手段105から読み出された信号波形を対象として、周波数別に異常件数を計上するものであり、FFT変換手段104と同様、コンピュータを利用するとよい。ここで「異常件数」とは単位時間(例えば、1時間)あたりに発生した異常ピークの数であり、また「異常ピーク」とは信号波形のうちその信号強度があらかじめ定めた「強度閾値」を超えるピーク(信号波形の極値点)のことである。
図2に示す信号波形から、周波数に対応する異常ピークを抽出することができ、単位時間分の信号波形を読み出すことにより周波数別の異常件数を求めることができる。
【0031】
(地震予測)
平常時であっても、相当数の異常件数が計上されることもある。しかしながら、地震発生の前には平常時とは比較にならないほど突出した異常件数が計上される。
図3は、2015年6月23日に起きた小笠原諸島南西沖地震(M6.9、最大震度4)における異常件数の時間変動を示すグラフ図、
図4は、2015年11月14日に起きた薩摩半島西方沖地震(M7.0、最大震度4)における異常件数の時間変動を示すグラフ図である。これらの図からもわかるように、地震発生の前に異常件数が急激に増加し、地震発生時(点線で表す時点)に最多の異常件数を計上している。
【0032】
そこで本願発明の地震予測システム100では、あらかじめ異常件数の閾値(以下、「件数閾値」という。)を設定し、異常件数がこの件数閾値を超えたときに地震が発生すると予測することとした。なお件数閾値は、予測しようとする地震の規模に応じて適宜設定することができ、例えば1時間当たり25万回や30万回、50万回などの値で設定するとよい。また、1度でも異常件数が件数閾値を超えると地震発生を予測することとしてもよいし、指定回数(以下、「限界超過回数」という。)連続して異常件数が件数閾値を超えたときに地震発生を予測することとしてもよい。例えば異常件数を計上する単位時間を1時間とした場合、限界超過回数を3回とすれば3時間以上連続して異常件数が件数閾値を超えたときに地震発生を予測するわけである。
【0033】
(震源距離推定手段)
発明者らは、異常件数が件数閾値を超える電磁波の周波数が低いほど、受信手段101から震源地までの距離(以下、「震源距離」という。)が短いことを見出した。具体的には、1〜10Hzの周波数を示す電磁波で異常件数が件数閾値を超えると、その地震の震源地まではおおよそ100〜200kmであり、10Hz以上の周波数を示す電磁波で異常件数が件数閾値を超えたときは、その地震の震源地までは200km以上であることを把握している。
【0034】
震源距離推定手段107は、本願発明の地震予測システム100が地震発生を予測したときに震源距離を推定するものである。以下、震源距離推定手段107が震源距離を推定する処理について詳しく説明する。まず、あらかじめ複数の周波数帯域を設定し、さらに設定した周波帯域ごとに震源距離を付与しておく。そして地震予測システム100が地震発生を予測すると、震源距離推定手段107は、最も異常件数を計上した周波数(以下、「着目周波数」という。)を求め、その着目周波数がどの周波数帯域にあるかによって震源距離を推定する。なお、異常件数計上手段106は周波数別の異常件数を求めるものであるから、最も異常件数を計上した「着目周波数」も得られるわけである。例えば、帯域1〜10Hzの周波数を「第1周波数帯域」、帯域10Hz以上の周波数を「第2周波数帯域」として設定するとともに、第1周波数帯域に震源距離100km、第2周波数帯域に震源距離200km以上を付与する。この場合、震源距離推定手段107は、着目周波数が第1周波数帯域であれば震源距離として100kmを推定し、着目周波数が第2周波数帯域であれば震源距離として200km以上を推定するわけである。
【0035】
(震源位置推定手段)
一定の距離(例えば、200km)だけ離れた位置に2以上の受信手段101を設置しておくと、震源位置推定手段108は、それぞれの受信手段101で推定した震源距離に基づいておおよその震源位置を推定する。
図5は、3個所に設置された受信手段101から得られる電磁波に基づいて推定された震源位置を示す説明図である。震源距離推定手段107によって3個所の受信手段101における震源距離が推定されると、震源位置推定手段108は、受信手段101を中心とし震源距離を半径とする円を描き、3つの円が交差する位置を震源位置として推定する。
【0036】
(強度分布図作成手段)
強度分布図作成手段109は、時刻と、周波数、信号強度の関係を表す「強度分布図」を作成するものである。
図6は強度分布図を示すモデル図であり、時刻を示す座標軸と周波数を示す座標軸からなる平面座標系に、信号強度を色によって表している。強度分布図は、この図に示すように信号強度を色によって表す(例えば、赤が強く、青が弱い)こともできるし、信号強度を輝度によって表す(例えば、明るい方が強く、暗い方が弱い)こともできる。強度分布図作成手段109によって作成される強度分布図を見れば、地震発生の有無や、震源距離なども容易に推定することができる。なお強度分布図は、ディスプレイやプリンタといった出力手段によって出力して利用することができる。
【0037】
2.地震予測方法
次に、本願発明の地震予測方法の実施形態の一例について詳しく説明する。なお本願発明の地震予測方法は、ここまで説明した地震予測システム100を用いて地震を予測する方法である。したがって、「1.地震予測システム」で説明した内容と重複する説明は避け、本願発明の地震予測方法特有の内容のみ説明することとする。すなわち、ここに記載されていない内容は、「1.地震予測システム」で記載したものと同様である。
【0038】
図7は、本願発明の地震予測方法の主な工程の流れを示すフロー図であり、中央の列に実施する処理を示し、左列にはその処理に必要な入力情報を、右列にはその処理から生まれる出力情報を示している。この図を参照しながら、本願発明の地震予測方法について説明する。まず受信手段101によって電磁波を受信し(Step10)、受信した電磁波から増幅手段102を用いて超低周波電磁波を抽出する(Step20)とともに、この超低周波電磁波を増幅する(Step30)。そして、増幅手段102から出力されたアナログ信号をA/D変換器103によってデジタル信号に変換した後、FFT変換手段104に入力する。FFT変換手段104では、入力されたデジタル信号をFFT変換することによって「信号波形」を出力し(Step40)、信号波形記憶手段105に記憶させる。
【0039】
異常件数計上手段106が単位時間分の信号波形に基づいて異常件数を計上し(Step50)、異常件数が件数閾値を超えると(Step60のYes)地震の発生を予測し、異常件数が件数閾値を超えないときは(Step60のNo)引き続き、受信手段101によって電磁波を受信する(Step10)。地震の発生を予測すると、強度分布図作成手段109が強度分布図を出力し、震源距離推定手段107が震源距離を推定し(Step70)、震源位置推定手段108が震源位置を推定する(Step80)。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本願発明の地震予測システム、及び地震予測方法は、国や地方自治体が市民をいち早く避難させる場合、あるいは学校や民間企業などが所属する者を避難させる場合に、極めて有効に利用することができる。本願発明が、迅速に避難を促し、ひいては多くの市民を救済しうることを考えれば、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
【符号の説明】
【0041】
100 地震予測システム
101 (地震予測システムの)受信手段
102 (地震予測システムの)増幅手段
103 (地震予測システムの)A/D変換器
104 (地震予測システムの)FFT変換手段
105 (地震予測システムの)信号波形記憶手段
106 (地震予測システムの)異常件数計上手段
107 (地震予測システムの)震源距離推定手段
108 (地震予測システムの)震源位置推定手段
109 (地震予測システムの)強度分布図作成手段
【要約】
【課題】本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解消することであり、すなわち有効でしかもコストをかけることなく宏観異常現象による地震予測を実現することであり、超低周波の電磁波を用いた地震予測システム、及び地震予測方法を提供することである。
【解決手段】本願発明の地震予測システムは、超低周波の電磁波を利用して地震の発生を予測するシステムであり、電磁波を受信する受信手段と、増幅手段、変換手段、異常件数計上手段を備えたものである。このうち異常件数計上手段は、変換手段で得られた信号波形のピーク強度が強度閾値を超えるものを異常ピーク、さらに単位時間あたりに生ずる異常ピークの数を異常件数とし、この異常件数を周波数別に計上する手段である。そして、異常件数が件数閾値を超えたときに地震の発生を予測する。
【選択図】
図1