(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸線回りに回転させられるエンドミル本体の先端部外周に複数条の切屑排出溝が周方向に間隔をあけて形成されるとともに、これらの切屑排出溝の先端部には内周側に延びるギャッシュが形成され、このギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面と、この壁面に交差する上記エンドミル本体先端部の先端逃げ面との交差稜線部に、上記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有して先端側に凸となる半球状をなす底刃がそれぞれ形成されており、これらの底刃のうち少なくとも2つの底刃は上記エンドミル本体の先端における上記軸線の近傍に延長させられていて、これら少なくとも2つの底刃のうちさらに周方向に隣接する2つの底刃が形成された2つの上記ギャッシュは、エンドミル回転方向側に位置する第1のギャッシュが上記エンドミル本体先端上の上記軸線を越えて延びるとともに、エンドミル回転方向後方側に位置する第2のギャッシュは上記エンドミル本体先端上の上記軸線を越えることがないように形成され、上記2つの底刃のうち上記第1のギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面に形成された第1の底刃は上記軸線に交差しているとともに、この第1の底刃に交差する第1の先端逃げ面は、上記第2のギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面に上記2つの底刃のうちの第2の底刃を介して交差する第2の先端逃げ面に向けて延長させられており、この第1の先端逃げ面の延長部と上記第2の先端逃げ面との間には、上記第1の先端逃げ面の延長部に凹曲折して連なり外周側に延びる凹曲折面が形成されていて、上記第2の底刃またはその延長線が、上記凹曲折面またはその延長面と上記第2の底刃のすくい面との交差稜線部、あるいは上記凹曲折面またはその延長面と上記第2の底刃の先端逃げ面との交差稜線部に鈍角に交差することにより、上記第2の底刃が、上記凹曲折面に鈍角に交差する方向に延びて連なっていることを特徴とするボールエンドミル。
上記第2の底刃またはその延長線と上記凹曲折面またはその延長面との交点と上記底刃の回転軌跡がなす半球の中心とを結ぶ直線と、上記軸線とがなす挟角が1°〜10°の範囲とされていることを特徴とする請求項1に記載のボールエンドミル。
上記エンドミル本体の先端における上記軸線の近傍には3つの上記底刃が延長させられており、これらの底刃が形成された3つの上記ギャッシュのうち上記第2のギャッシュのエンドミル回転方向後方側に位置する第3のギャッシュは上記エンドミル本体先端上の上記軸線を越えることがないように形成され、上記第2の先端逃げ面は、上記第3のギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面に上記3つの底刃のうちの第3の底刃を介して交差する第3の先端逃げ面に向けて延長させられており、この第2の先端逃げ面の延長部と上記第3の先端逃げ面との間にも、上記第2の先端逃げ面の延長部に凹曲折して連なり外周側に延びる凹曲折面が形成されていて、この凹曲折面に、上記第3の底刃が鈍角に交差する方向に延びるようにして連なっていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のボールエンドミル。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、通常このようなボールエンドミルにおいては、エンドミル本体の先端部外周に形成された切屑排出溝のさらに先端部に、断面凸V字形や台形状の外周面を有するギャッシュ砥石によって断面凹V字形や台形の凹溝状のギャッシュを内周側に延びるように形成し、このギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面とエンドミル本体先端の先端逃げ面との交差稜線部に、軸線回りの回転軌跡がエンドミル本体の軸線上に中心を有して先端側に凸となる半球状をなす上記底刃が形成されるようにしている。
【0005】
しかしながら、このようなギャッシュ砥石の外周面がなす断面凸V字形の突端や台形の角部は、厳密に鋭角等の角度をもって交差するように形成することは困難であり、実際には丸みを帯びることになる。また、ギャッシュ砥石によってギャッシュを形成するうちにも、摩耗による、いわゆるダレによってV字の突端や台形の角部は丸みを帯びることになる。従って、特許文献1に記載のボールエンドミルのようにランドのエッジすなわち底刃のすべてを頂点中心部すなわちエンドミル本体先端における軸線上に接するようにしようとしても、ギャッシュ同士が重なり合って軸線上に底刃が形成されなくなるため現実的には難しい。
【0006】
このため、実際にはギャッシュをエンドミル本体先端における軸線上から僅かに離れた位置までに形成して、そのエンドミル回転方向を向く壁面と先端逃げ面との交差稜線部に底刃を形成しなければならないが、その場合には、ギャッシュ内周端の丸みを帯びた部分と先端逃げ面との交差稜線部は、回転軌跡が半球状をなす底刃部分よりも僅かにエンドミル回転方向に延びることになる。
【0007】
ところが、先端逃げ面にはエンドミル回転方向後方側に向かうに従い上記回転軌跡がなす半球から後退するように逃げ角が与えられており、逆にエンドミル回転方向に向けては上記半球から突出することになるため、このようにギャッシュ内周端にエンドミル回転方向に延びる部分が形成されると、エンドミル本体先端における軸線近傍に先端側に尖った突起部が形成されてしまい、切削加工時にこの突起部によってワークの加工面に筋が入って加工精度を劣化させたり、尖った突起部が折損して底刃に噛み込まれることにより底刃の欠損を招いたりするおそれがある。このような課題は、特許文献2においても指摘されている。
【0008】
一方、特許文献2に記載されたボールエンドミルは、このような特許文献1に記載のボールエンドミルの課題を解決するものとされているが、底刃から変曲して次刃まで延伸させた切刃の逃げ面には小さいながらも逃げ角が与えられ、このような逃げ面が軸心まで形成されているので、実際には特許文献1に記載のボールエンドミルと同様に、軸心の位置に尖った突起部が形成されてしまい、やはり加工精度の劣化や底刃の欠損を招くおそれがある。また、こうして3枚以上の底刃から変曲して延伸させた切刃の逃げ面がすべて軸心まで形成されているので、エンドミル本体先端の軸線近傍における上記切刃による切屑の排出性が損なわれるおそれもある。
【0009】
本発明は、このような背景の下になされたもので、エンドミル本体先端における軸線の近傍に尖った突起部が形成されるのを防いで加工精度の向上や底刃の欠損防止を図ることができるとともに、このエンドミル本体先端の軸線近傍における切屑排出性の向上を図ることも可能なボールエンドミルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明は、軸線回りに回転させられるエンドミル本体の先端部外周に複数条の切屑排出溝が周方向に間隔をあけて形成されるとともに、これらの切屑排出溝の先端部には内周側に延びるギャッシュが形成され、このギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面と、この壁面に交差する上記エンドミル本体先端部の先端逃げ面との交差稜線部に、上記軸線回りの回転軌跡が該軸線上に中心を有して先端側に凸となる半球状をなす底刃がそれぞれ形成されており、これらの底刃のうち少なくとも2つの底刃は上記エンドミル本体の先端における上記軸線の近傍に延長させられていて、これら少なくとも2つの底刃のうちさらに周方向に隣接する2つの底刃が形成された2つの上記ギャッシュは、エンドミル回転方向側に位置する第1のギャッシュが上記エンドミル本体先端上の上記軸線を越えて延びるとともに、エンドミル回転方向後方側に位置する第2のギャッシュは上記エンドミル本体先端上の上記軸線を越えることがないように形成され、上記2つの底刃のうち上記第1のギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面に形成された第1の底刃は上記軸線に交差しているとともに、この第1の底刃に交差する第1の先端逃げ面は、上記第2のギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面に上記2つの底刃のうちの第2の底刃を介して交差する第2の先端逃げ面に向けて延長させられており、この第1の先端逃げ面の延長部と上記第2の先端逃げ面との間には、上記第1の先端逃げ面の延長部に凹曲折して連なり外周側に延びる凹曲折面が形成されていて、
上記第2の底刃またはその延長線が、上記凹曲折面またはその延長面と上記第2の底刃のすくい面との交差稜線部、あるいは上記凹曲折面またはその延長面と上記第2の底刃の先端逃げ面との交差稜線部に鈍角に交差することにより、上記第2の底刃が、
上記凹曲折面に鈍角に交差する方向に延びて連なっていることを特徴とする。
【0011】
このような構成のボールエンドミルでは、まず、エンドミル本体先端における軸線の近傍に延長させられた少なくとも2つの底刃のうち周方向に隣接する第1、第2の2つの底刃が形成された第1、第2の2つのギャッシュにおいて、そのうちエンドミル回転方向側に位置する第1のギャッシュがエンドミル本体先端上の軸線を越えて延びるように形成されているので、この第1のギャッシュにより、切屑排出溝に連通するポケットの容量を軸線近傍で大きく確保して第1の底刃による切屑の排出性向上を図ることができる。
【0012】
そして、第1のギャッシュに第1の底刃を介して交差する第1の先端逃げ面は、そのエンドミル回転方向後方側に隣接する第2の先端逃げ面に向けて延長させられていて、この延長部と第2の先端逃げ面との間には、第1の先端逃げ面の延長部に凹曲折して連なり外周側に延びる凹曲折面が形成されていて、この凹曲折面に、第2の底刃が鈍角に交差する方向に延びるようにして連なっている。このため、内周端が軸線から離れた第2のギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面と第2の先端逃げ面との交差稜線部に、そのまま第2の底刃が形成された場合には突起部が形成されてしまうのを、エンドミル回転方向後方側に向かうに従い底刃の回転軌跡がなす半球から後退する第1の先端逃げ面を延長するとともに凹曲折面を形成することによって防ぐことができる。
【0013】
すなわち、上記構成のボールエンドミルにおいては、上述のような突起部が形成される部分が、第1の先端逃げ面の延長部と凹曲折面とによって面取りされたような構成とされているので、切削加工時に突起部によって加工面に筋が入ったり、折損した突起部が底刃に噛み込まれて底刃欠損を招いたりすることがなく、加工精度の向上とエンドミル寿命の延長を図ることが可能となる。しかも、第1の底刃は軸線と交差しているため、第1の底刃の軸線回りの回転軌跡自体が該軸線上に中心を有する半球となり、一層の加工精度の向上を図ることができる。さらに、第2の底刃は、第1の先端逃げ面の延長部に凹曲折して連なって外周側に延びる凹曲折面に、鈍角に交差する方向に延びるようにして連なっているので、第2の底刃の内周端における強度も確保して欠損等を防止することができる。
【0014】
ここで、第2の底刃と凹曲折面とは鈍角の角度をもって直接交差するようにされていてもよく、また間に面取部や丸みを帯びた凸曲部等を介して、第2の底刃の延長線と凹曲折面の延長面とが鈍角に交差するようにされていてもよいが、いずれの場合も、第2の底刃またはその延長線と上記凹曲折面またはその延長面との交点と底刃の回転軌跡がなす半球の中心とを結ぶ直線と、軸線とがなす挟角は1°〜10°の範囲とされるのが望ましく、この挟角が上記範囲よりも大きくなると、第2の底刃の内周端が軸線から離れすぎてしまい、エンドミル本体先端の軸線近傍では第1の底刃だけで切削が行われることになって、この第1の底刃への負担が大きくなりすぎるおそれが生じる。また、上記挟角が上記範囲よりも小さいと、第1の先端逃げ面の上記延長部および凹曲折面が小さくなりすぎて突起部が形成されるのを確実に防ぐことができなくなるおそれが生じる。なお、第2の底刃が凹曲折面に鈍角に交差する方向に延びて連なるには、第2の底刃またはその延長線が、上記凹曲折面またはその延長面と第2の底刃のすくい面との交差稜線部、あるいは上記凹曲折面またはその延長面と第2の底刃の先端逃げ面との交差稜線部に鈍角に交差していればよい。
【0015】
さらに、特許文献1、2に記載されたボールエンドミルのように、上記エンドミル本体の先端における上記軸線の近傍に3つの上記底刃が延長させられている場合には、これらの底刃が形成された3つの上記ギャッシュのうち上記第2のギャッシュのエンドミル回転方向後方側に位置する第3のギャッシュを上記エンドミル本体先端上の上記軸線を越えることがないように形成し、上記第2の先端逃げ面を、上記第3のギャッシュのエンドミル回転方向を向く壁面に上記3つの底刃のうちの第3の底刃を介して交差する第3の先端逃げ面に向けて延長させて、この第2の先端逃げ面の延長部と上記第3の先端逃げ面との間にも、上記第2の先端逃げ面の延長部に凹曲折して連なり外周側に延びる凹曲折面を形成し、この凹曲折面に、上記第3の底刃を鈍角に交差する方向に延びるようにして連ねることにより、エンドミル本体先端における強度をさらに確実に確保しつつ、この第3の先端逃げ面によって突起部が形成されるのも防ぐことができる。
【0016】
なお、上記凹曲折面は、第1の先端逃げ面を第2の先端逃げ面に向けて延長して上記延長部を形成する際に、この第1の先端逃げ面を研削加工によって形成する研削砥石を第2の先端逃げ面に干渉させて、第2の先端逃げ面の内周部を削り取ることによって形成することができる。これは、エンドミル本体先端における軸線の近傍に3つの底刃を延長して第3の先端逃げ面に第2の先端逃げ面の延長部と凹曲折面とを形成する場合でも同様である。
【0017】
また、エンドミル本体の先端部には、上述のようにエンドミル本体先端における軸線の近傍に延長させられた底刃、いわゆる長底刃の他に、軸線から例えば上記挟角の範囲よりも大きく離れた位置に内周端を有して、上記長底刃とともに回転軌跡が凸半球をなすようにされた、いわゆる短底刃が形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、エンドミル本体先端における軸線の近傍において、第1の底刃を軸線に交差させて底刃の回転軌跡を確実に半球状とするとともに第1の底刃の切屑排出性を向上させることができ、さらにはこの軸線近傍に突起部が形成されるのを防いで、このような突起部によってワークの加工面に筋が入ったり、切削加工時に突起部が折損して底刃に噛み込まれることによって欠損が生じたりするのを防止して、長寿命で加工精度の高いボールエンドミルを提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1ないし
図4は、本発明の一実施形態を示すものである。本実施形態において、エンドミル本体1は、超硬合金等の硬質材料により形成されて、軸線Oを中心とした円柱状をなし、その後端部(
図1において右上側部分、
図2においては上側部分)は円柱状のままのシャンク部2とされるとともに、先端部(
図1において左下側部分、
図2においては下側部分)は切刃部3とされている。このようなボールエンドミルは、シャンク部2が工作機械の主軸に把持されて軸線O回りにエンドミル回転方向Tに回転されつつ、該軸線Oに交差する方向に送り出されて切刃部3によりワークを切削加工する。
【0021】
エンドミル本体1先端部の切刃部3には、その外周に複数条の切屑排出溝4が周方向に間隔をあけて形成されている。本実施形態では、6条の切屑排出溝4が形成されるとともに、各切屑排出溝4は軸線O方向後端側に向かうに従いエンドミル回転方向Tの後方側に向けて螺旋状に捩れるように形成されている。これらの切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く壁面と、この壁面に交差する外周逃げ面5との交差稜線部には、該壁面をすくい面として切屑排出溝4と同様に螺旋状に捩れる外周刃6が形成されており、6条の切屑排出溝4にそれぞれ形成された6つの外周刃6同士は、軸線Oを中心とした1つの円筒面上に位置させられている。
【0022】
また、切屑排出溝4の先端部には、この切屑排出溝4のエンドミル回転方向Tを向く上記壁面からエンドミル本体1外周側を向く底面、およびエンドミル回転方向T後方側を向く壁面のうちのさらにエンドミル回転方向T後方側の部分を切り欠くようにしてギャッシュ7が形成されている。このギャッシュ7は、エンドミル回転方向Tを向く壁面とエンドミル回転方向T後方側を向く壁面とを備えた例えば断面V字の凹溝状のものであり、これらの壁面が交差するギャッシュ7の谷底線は、先端側に向かうに従いエンドミル本体1の内周側に向けて延びている。なお、この谷底部分は、実際には凹円弧等の断面凹曲線状をなしてギャッシュ7の両壁面に連なり、またはこれらの壁面に交差する方向に延びる底面を備えて、ただしこの底面と両壁面とが交差する部分はやはり断面凹曲線状とされる。
【0023】
一方、切刃部3の先端部には、6条の外周刃6の外周逃げ面5にそれぞれ連なって先端内周側に延びる先端逃げ面8が形成されている。本実施形態では、各先端逃げ面8は、エンドミル回転方向T側に位置する略一定幅の先端第1逃げ面(二番面)8aと、この先端第1逃げ面8aのエンドミル回転方向T後方側に連なり、先端第1逃げ面8aよりも大きな逃げ角が与えられた先端第2逃げ面8bとにより形成されている。また、先端第2逃げ面8bのエンドミル回転方向T後方側には、各先端逃げ面8のエンドミル回転方向T後方側に隣接するギャッシュ7のエンドミル回転方向T後方側を向く上記壁面が交差させられている。
【0024】
さらに、上記ギャッシュ7のエンドミル回転方向Tを向く壁面と、各ギャッシュ7のエンドミル回転方向T後方側に連なる先端逃げ面8の先端第1逃げ面8aとの交差稜線部には、軸線O回りの回転軌跡が該軸線O上に中心Cを有してエンドミル本体1の先端側に凸となる1つの半球状をなす底刃9が、外周刃6の先端に連なるようにそれぞれ形成されている。これらの底刃9も、
図2に示すように本実施形態ではエンドミル本体1の後端側に向かうに従いエンドミル回転方向T後方側に向かうように捩れている。
【0025】
本実施形態では、6つの外周刃6に連なるこれら6つの底刃9のうち、周方向に1つおきの第1ないし第3の3つの底刃9A〜9Cがエンドミル本体1先端における軸線Oの近傍にまで延長させられて、いわゆる長底刃とされている。さらに、これら長底刃とされた第1ないし第3の底刃9A〜9Cのうち、第1の底刃9Aは、
図4に示すようにエンドミル本体1の先端において軸線Oに交差させられており、この第1の底刃9Aのエンドミル回転方向T後方側に隣接して位置する長底刃とされた底刃9が第2の底刃9Bとされ、さらにこの第2の底刃9Bのエンドミル回転方向T後方側に隣接して位置する長底刃とされた底刃9が第3の底刃9Cとされる。
【0026】
また、第1の底刃9Aがエンドミル回転方向Tを向く壁面に形成されたギャッシュ7は第1のギャッシュ7Aとされ、同様に第2、第3の底刃9B、9Cがエンドミル回転方向Tを向く壁面に形成されたギャッシュ7は、それぞれ第2、第3のギャッシュ7B、7Cとされる。さらに、第1のギャッシュ7Aの上記壁面に第1の底刃9Aを介して交差する先端逃げ面8は第1の先端逃げ面8Aとされ、やはり同様に第2、第3のギャッシュ7Bの上記壁面に第2、第3の底刃9Bを介して交差する先端逃げ面8は、それぞれ第2、第3の先端逃げ面8B、8Cとされる。
【0027】
ここで、第1の底刃9Aが軸線Oに交差するのに伴い、
図4(a)に示すように第1のギャッシュ7Aは、切刃部3の外周側からエンドミル本体1先端上の軸線Oを越えて延びている。これに対して、第2、第3のギャッシュ7B、7Cは、本実施形態では第1のギャッシュ7Aと交差することなく、また互いにも交差することなく間隔をあけて、軸線Oを越えることがないようにして軸線Oから離れた位置までに形成されている。なお、この
図4(a)や
図5に示すように、第3のギャッシュ7Cは第2のギャッシュ7Bよりも軸線Oとの間隔が大きくされていて、第1ないし第3の3つのギャッシュ7A〜7Cの軸線Oとの間隔すなわちギャッシュ深さは互いに異なる大きさとされている。
【0028】
また、第1、第2、第3のギャッシュ7A、7B、7Cは順に、それぞれそのエンドミル回転方向T側に隣接する第3、第1、第2の先端逃げ面8C、8A、8Bの先端第1逃げ面8aに交差している。さらに、第1のギャッシュ7Aは、上述のようにエンドミル本体1先端上の軸線Oを越えて延びていることから、第2の先端逃げ面8Bの先端第1逃げ面8aにも交差している。
【0029】
そして、上記第1の先端逃げ面8Aは、上記第2の先端逃げ面8Bに向けてエンドミル回転方向T後方側に延長させられており、この第1の先端逃げ面8Aが延長させられた延長部8cと第2の先端逃げ面8Bとの間には、この第1の先端逃げ面8Aの延長部8cに凹曲折して連なり、外周側に延びる凹曲折面10(第1の凹曲折面10A)が形成されている。さらに、第2の底刃9Bは、その内周端Pにおいて、この第1の凹曲折面10Aに鈍角に交差している。
【0030】
なお、
図7(b)に示すように、この第2の底刃9Bと凹曲折面10との交点すなわち第2の底刃9Bの上記内周端Pと底刃9が軸線O回りの回転軌跡においてなす半球の中心Cとを結ぶ直線Lと、該軸線Oとがなす挟角θは、1°〜10°の範囲とされており、第1の先端逃げ面8Aの延長部8cおよび凹曲折面10は、エンドミル本体1先端における軸線Oの近傍の極小さな範囲に形成される。ただし、
図7(b)では説明のために底刃9の回転軌跡がなす半球の半径が
図7(a)に対して小さく示されており、挟角θは逆に大きく示されている。
【0031】
ここで、本実施形態では、第1の先端逃げ面8Aの先端第1逃げ面8aが、第2のギャッシュ7Bの断面凹曲線状の谷底部分が第1の先端逃げ面8Aの先端第1逃げ面8aと交差してなす凹曲線を越える位置まで、または第2のギャッシュ7Bの谷底部分の底面とエンドミル回転方向Tを向く壁面とが交差する断面凹曲線状の部分が第1の先端逃げ面8Aの先端第1逃げ面8aと交差してなす凹曲線を越える位置まで、そのままの逃げ角でエンドミル回転方向T後方側に向かうに従い第1の底刃9Aの回転軌跡から後退するように延長されて延長部8cとされている。
【0032】
また、この第1の先端逃げ面8Aの延長部8cは、本実施形態では第2の先端逃げ面8Bと交差稜線Mを介して鈍角に交差しており、この交差稜線Mは
図4(b)に示すようにエンドミル本体1の先端において軸線Oに交差させられている。さらに、第1の凹曲折面10Aは、この第1の先端逃げ面8Aの延長部8cに対して鈍角の開き角で凹曲折して連なり、エンドミル回転方向T後方側および第2の底刃9Bが延びる方向に沿って外周側に向かうに従い漸次隆起して、第2の先端逃げ面8Bの先端第1逃げ面8aおよび第2の底刃9Bに鈍角に交差するように形成されている。
【0033】
さらにまた、本実施形態では、第2の先端逃げ面8Bも、そのエンドミル回転方向T後方側に隣接する第3の先端逃げ面8Cに向けて延長させられており、この第2の先端逃げ面8Bが延長させられた延長部8cと第3の先端逃げ面8Cとの間にも、第2の先端逃げ面8Bの延長部8cに凹曲折して連なり、外周側に延びる凹曲折面10(第2の凹曲折面10B)が形成されている。そして、第3の底刃9Cは、その内周端Pにおいて、この第2の凹曲折面10Bに鈍角に交差している。
【0034】
この第2の先端逃げ面8Bの延長部8cも、第2の先端逃げ面8Bの先端第1逃げ面8aが、そのままの逃げ角でエンドミル回転方向T後方側に向かうに従い第1の底刃9Aの回転軌跡から後退するように延長されて形成されている。ただし、この第2の先端逃げ面8Bの延長部8cは、第3の先端逃げ面8Cと交差することはなく、上述のように第2の先端逃げ面8Bの先端第1逃げ面8aに交差した第1、第3のギャッシュ7A、7C間に亙って延びている。
【0035】
また、第2の凹曲折面10Bは、この第2の先端逃げ面8Bの延長部8cにやはり鈍角の開き角で凹曲折して連なり、エンドミル回転方向T後方側および外周側に向かうに従い漸次隆起して、第3の先端逃げ面8Cの先端第1逃げ面8aおよび第3の底刃9Cに鈍角に交差している。さらに、図示は略するが、第2の凹曲折面10Bとの交点となる第3の底刃9Cの上記内周端Pと底刃9が軸線O回りの回転軌跡においてなす半球の中心Cとを結ぶ直線と該軸線Oとの挟角も、第2の底刃9Bの内周端Pと中心Cとを結ぶ直線Lが軸線Oに対してなす挟角θと同様に1°〜10°の範囲とされている。
【0036】
なお、上述のようにエンドミル本体1の先端における軸線Oの近傍まで延長されて長底刃とされたこれら第1ないし第3の底刃9A〜9Cに対し、その間に形成される周方向に1つおきの残りの3つの底刃9は短底刃9Dとされ、その先端逃げ面8Dの内周部が切り欠かれることにより、これらの短底刃9Dの内周端Pは、上記中心Cとを結ぶ直線が軸線Oに対してなす挟角が、上記第2、第3の底刃9B、9Cの内周端Pがなす挟角θの上記範囲よりも大きくなるようにされている。また、これらの短底刃9Dがエンドミル回転方向Tを向く壁面に形成されるギャッシュ7Dは、その内周部がエンドミル回転方向T後方側に隣接する第1ないし第3のギャッシュ7A〜7Cに連通して、軸線Oの近傍にまで延長されることはない。
【0037】
このように構成されたボールエンドミルでは、上述のように第1の先端逃げ面8Aが第2の先端逃げ面8Bに向けて延長されて延長部8cが形成されるとともに、この延長部8cと第2の先端逃げ面8Bとの間には、延長部8cに対して凹曲折して外周側に延びる凹曲折面10(第1の凹曲折面10A)が形成されているので、軸線Oから離れた第2のギャッシュ7Bのエンドミル回転方向Tを向く壁面と第2の先端逃げ面8Bとの交差稜線部にそのまま第2の底刃9Bを形成した場合のように、その内周端に突起部が形成されるのを防ぐことができる。さらに、本実施形態では、同じく軸線Oから離れて第3のギャッシュ7Cが形成されているのに対し、第2の先端逃げ面8Bも第3の先端逃げ面8Cに向けて延長されて延長部8cと第2の凹曲折面10Bが形成されているので、第3の底刃9Cの内周端に突起部が形成されるのも防ぐことができる。
【0038】
すなわち、エンドミル本体1先端における軸線Oの近傍において、
図5に示すように第1のギャッシュ7Aが軸線Oを越えて延びるとともに第2、第3のギャッシュ7B、7Cが軸線Oから離れて形成された状態から、
図6(b)に矢線Fで示すように研削砥石Gを送り出すことにより第1ないし第3の先端逃げ面8A〜8Cを研削加工して第1ないし第3の底刃9A〜9Cを形成するときに、第1、第2の先端逃げ面8A、8Bを延長せずに、第1ないし第3の底刃9A〜9Cの回転軌跡が半球状をなす部分の延長線が軸線Oに交差したところまでに形成したままであると、第2、第3のギャッシュ7B、7Cの谷底部分は上述のようにギャッシュ砥石の丸みやダレによって断面凹曲線となっているため、これら第2、第3のギャッシュ7B、7Cのエンドミル回転方向Tを向く壁面と第2、第3の先端逃げ面8B、8Cとの交差稜線部に形成される第2、第3の底刃9B、9Cの内周端Qは、
図6(a)に示すように第2、第3の底刃9B、9Cの回転軌跡が半球状をなす部分よりもエンドミル回転方向T側に僅かに突出してしまう。
【0039】
ところが、これら第2、第3の底刃9B、9Cが第2、第3のギャッシュ7B、7Cの上記壁面との交差稜線部に形成される第2、第3の先端逃げ面8B、8Cは、エンドミル回転方向T後方側に向かうに従い上記回転軌跡から後退するように逃げ角が与えられており、逆にエンドミル回転方向T側に向けては上記回転軌跡に対して突出することになる。従って、上述のように第2、第3の底刃9B、9Cの内周端Qがエンドミル回転方向T側に突出していると、軸線O回りの回転軌跡においても
図6(b)に示すように、これらの内周端Qが底刃9の回転軌跡がなす半球から突出するようにして突起部が形成されてしまう。
【0040】
これに対して、上記構成のボールエンドミルにおいては、例えば
図6(b)に示した状態から
図7(b)に符号Fで示すように軸線Oを越えてさらに研削砥石Gをエンドミル回転方向T後方側に送り出すことにより、
図7(a)に示すように第1の先端逃げ面8Aが第2の先端逃げ面8Bに向けて延長させられた延長部8cを形成することで、第2の底刃9Bの内周端Pが第2の底刃9Bの半球状の回転軌跡をなす部分よりもエンドミル回転方向T側に突出してしまうのを防ぐことができる。
【0041】
そして、これに伴い、
図7(b)に示すように軸線O回りの回転軌跡においても、第2の底刃9Bの内周端Pにおいて底刃9がなす半球から突出する突起部が形成されるのを防ぐことができるのである。同様に、第2の先端逃げ面8Bにも第3の先端逃げ面8Cに向けて延長された延長部8cが形成されているので、第3の底刃9Cの内周端Pに突起部が形成されるのを防ぐことができる。
【0042】
なお、
図7(a)では、説明のために第1、第2の先端逃げ面8A、8Bの先端第1逃げ面8aとその延長部8cとの境界線(
図6において研削砥石Gが停止した位置)Nを破線で示してあるが、研削砥石Gの研削加工による先端第1逃げ面8aと延長部8cの形成は連続して行うことができるので、実際には
図4(a)に示したようにこのような境界線Nが第1、第2の先端逃げ面8A、8Bに表れないようにすることができる。
【0043】
従って、上記構成のボールエンドミルによれば、このような突起部によりワークの加工面に筋が入って傷がつき、加工精度が劣化するのを防ぐことができる。また、切削加工時に突起部が折損して底刃9に噛み込まれ、これによって底刃9に欠損が生じるのも防ぐことができる。このため、加工精度の向上を図りつつ、ボールエンドミルの寿命の延長を促すことが可能となる。
【0044】
さらに、上記構成のボールエンドミルでは、第1の底刃9Aが軸線Oに交差させられていて、
図4(b)に実線と一点鎖線で示したように、この第1の底刃9Aの回転軌跡自体が軸線O上に中心Cを有する半球状とされることになる。このため、例えば当該ボールエンドミルによって溝加工を行う場合でも、加工した溝底面を正確に断面半円状に形成することができ、一層の加工精度の向上を図ることができる。
【0045】
しかも、この第1の底刃9Aが形成される第1のギャッシュ7Aは、エンドミル本体1の内周側に向けて軸線Oを越えて延びるように形成されていて、切屑排出溝4に連通する第1のギャッシュ7Aによる切屑の排出ポケットを軸線Oの近傍で大きく確保することができる。従って、このように軸線Oに交差する第1の底刃9Aによって生成された切屑の排出性を向上させることができ、軸線O近傍での切屑詰まりによって第1の底刃9Aに欠損が生じたりするのも防ぐことができる。
【0046】
さらに、本実施形態においては、第1ないし第3のギャッシュ7A〜7Cは互いに交差することがなく間隔をあけて形成されているので、エンドミル本体1先端部の強度を確保することができ、第1ないし第3の底刃9A〜9Cの欠損をさらに確実に防止することができる。また、第2、第3の底刃9B、9Cは、その内周端Pにおいて上記第1、第2の凹曲折面10A、10Bに鈍角に交差しているため、これらの内周端Pにおける強度も確保することができ、これらの内周端Pから第2、第3の底刃9B、9Cに欠損が生じるようなことも防止することができる。従って、上記構成のボールエンドミルによれば、より一層の寿命の延長を図ることが可能となる。
【0047】
ただし、第2、第3のギャッシュ7B、7Cは、軸線Oを越えることがないように形成されていれば、例えば第3のギャッシュ7Cが第1のギャッシュ7Aと交差するように形成されていたりしてもよい。なお、凹曲折面10は平面状でもよく、また凹凸曲面状などでもよい。また、凹曲折面10は第1、第2の先端逃げ面8A、8Bの延長部8cに角度をもって交差していてもよく、凹曲面を介して連なっていてもよい。
【0048】
さらに、本実施形態においては、この第2の底刃9Bの内周端Pと底刃9の回転軌跡がなす半球の中心Cを結ぶ直線Lと軸線Oとの挟角θが1°〜10°の範囲とされており、第1の先端逃げ面8Aの延長部8cおよび凹曲折面10の大きさをある程度確保して突起部が形成されるのを確実に防ぎつつ、第1の底刃9Aへの切削負荷が大きくなりすぎて欠損等が生じるのを防止することができる。これは、第3の底刃9Cの内周端Pについても同様である。
【0049】
すなわち、挟角θが上記範囲よりも小さいと、第1の先端逃げ面8Aの延長部8cや凹曲折面10も小さくなってしまい、第2の底刃9Bの内周端Pに突起部が形成されるのを確実に防止することができなくなるおそれが生じる。その一方で、挟角θが上記範囲よりも大きいと、第2の底刃9Bの内周端Pが軸線Oから離れすぎて、この内周端Pよりも内周側で第1の底刃9Aだけにより切削が行われる部分が大きくなりすぎ、第1の底刃9Aへの切削時の負担も大きくなって欠損を生じたり、摩耗等が促進されたりするおそれがある。
【0050】
なお、本実施形態では、第2の底刃9Bが内周端Pにおいて凹曲折面10に直接鈍角に交差しているが、これらは互いに鈍角に交差する方向に延びるようにして連なっていればよく、すなわち第2の底刃9Bと凹曲折面10との間に面取部や丸みを帯びた凸曲部等が介されていてもよい。このような場合には、第2の底刃9Bの延長線と凹曲折面10の延長面との交点と底刃9の回転軌跡がなす半球の中心Cとを結ぶ直線Lと、軸線Oとがなす挟角θが1°〜10°の範囲とされていればよい。また、第2の底刃9Bが凹曲折面10に鈍角に交差する方向に延びるようにして連なるには、第2の底刃9Bまたはその上記延長線が、凹曲折面10またはその上記延長面と第2の底刃9Bのすくい面との交差稜線部、あるいは上記凹曲折面10またはその上記延長面と第2の底刃9Bの先端逃げ面8B(先端第1逃げ面8a)との交差稜線部に鈍角に交差していればよい。
【0051】
さらに、本実施形態では、上述のように長底刃とされる第1ないし第3の底刃9A〜9Cの間に、周方向に1つおきに3つの短底刃9Dが形成されて、エンドミル本体1の先端部外周における底刃9の負担を分散するようにしているが、このような短底刃9Dが形成されていなくてもよい。また、本実施形態では、このように合計3つの底刃9A〜9Cが軸線Oの近傍にまで延長させられているが、第1、第2の2つの底刃9A、9Bだけが軸線Oの近傍にまで延長させられていたり、あるいは4つ以上の底刃9が軸線Oの近傍にまで延長させられていて、そのうち1つの底刃9が第1の底刃9Aとして軸線Oに交差するようにされていたりしてもよい。