特許第6343929号(P6343929)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

特許6343929高レベル放射性廃液中のルテニウム除去方法及び装置
<>
  • 特許6343929-高レベル放射性廃液中のルテニウム除去方法及び装置 図000002
  • 特許6343929-高レベル放射性廃液中のルテニウム除去方法及び装置 図000003
  • 特許6343929-高レベル放射性廃液中のルテニウム除去方法及び装置 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343929
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】高レベル放射性廃液中のルテニウム除去方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/16 20060101AFI20180611BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20180611BHJP
   G21F 9/08 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   G21F9/16 541B
   G21F9/06 551Z
   G21F9/08 511B
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-268231(P2013-268231)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-125025(P2015-125025A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上野 俊一朗
(72)【発明者】
【氏名】中野 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】前川 弘道
(72)【発明者】
【氏名】綾部 統夫
【審査官】 右田 純生
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−307103(JP,A)
【文献】 特開昭62−115399(JP,A)
【文献】 特開昭63−247698(JP,A)
【文献】 特開平03−027000(JP,A)
【文献】 特開平07−024485(JP,A)
【文献】 特開昭63−247700(JP,A)
【文献】 特開平06−180392(JP,A)
【文献】 米国特許第03202479(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0202593(US,A1)
【文献】 特開昭62−135798(JP,A)
【文献】 特開昭61−260196(JP,A)
【文献】 特開2015−152554(JP,A)
【文献】 特開2013−257262(JP,A)
【文献】 特開昭63−243232(JP,A)
【文献】 特開2002−267798(JP,A)
【文献】 特開平08−013177(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2001/0021361(US,A1)
【文献】 米国特許第03891741(US,A)
【文献】 米国特許第05248496(US,A)
【文献】 吉田 一雄,「再処理廃液の沸騰実験の分析」,日本,日本原子力研究開発機構,2011年 8月,p.4-7,[平成30年2月23日検索],インターネット,URL,http://jolissrch-inter.tokai-sc.jaea.go.jp/pdfdata/JAEA-Research-2011-020.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/00− 9/36
G21C 19/46
C22B 61/00
C01G 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融炉に投入される前における高レベル放射性廃液のルテニウム除去方法であって、
槽内で高レベル放射性廃液に含まれるルテニウムを酸化剤によって酸化して四酸化ルテニウムにするとともに同一槽内で高レベル放射性廃液を該高レベル放射性廃液の沸点未満に加熱して四酸化ルテニウムを蒸発させ
前記酸化剤は、オゾンであり、
前記高レベル放射性廃液は、トリブチルリン酸及び、その分解生成物を含み、
前記オゾンは、廃液中のルテニウムを酸化して四酸化ルテニウムにするとともに、トリブチルリン酸及び、その分解生成物をオゾン分解することを特徴とする高レベル放射性廃液のルテニウム除去方法。
【請求項2】
溶融炉に投入される前における高レベル放射性廃液のルテニウム除去装置であって、
高レベル放射性廃液が供給される反応追い出し槽と、
前記反応追い出し槽へ酸化剤を供給する酸化剤供給手段と、
前記反応追い出し槽へ投入された高レベル放射性廃液を、該高レベル放射性廃液の沸点未満に加熱する加熱手段と、を備え
前記酸化剤供給手段から反応追い出し槽へ供給される酸化剤は、オゾンであり、
前記反応追い出し槽へ供給される高レベル放射性廃液は、トリブチルリン酸及び、その分解生成物を含み、
前記オゾンは、廃液中のルテニウムを酸化して四酸化ルテニウムにするとともに、トリブチルリン酸及び、その分解生成物をオゾン分解するよう前記酸化剤供給手段から反応追い出し槽へ供給されることを特徴とする高レベル放射性廃液のルテニウム除去装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融炉内へ投入される前における高レベル放射性廃液中のルテニウム除去方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所で発生した使用済燃料は、再処理によってウラン及びプルトニウムを回収し原子燃料として再利用されている。ウラン及びプルトニウムが回収されたのちに残る廃液は、非常に強い放射能をもち、長寿命の放射性核種を含み高レベル放射性廃液(HALW)と呼ばれている。この高レベル放射性廃液(以下、廃液と称する)は、高レベル放射性廃液ガラス固化施設の溶融炉により溶融されたガラスと混合され、ガラス固化体として処理された後、放射性廃棄物保管施設に保管される。
【0003】
前記溶融炉においては、溶融炉本体の投入口から高レベル放射性廃液及び原料ガラスを投入し、先ず、主電極間に電流を流すことでその間の溶融ガラスのジュール熱によりその表層部付近の高レベル放射性廃液及び原料ガラスを充分に溶かし合わせる。続いて、主電極と底部電極との間に電流を流してジュール熱により底部電極上部のガラスを加熱した後、その流下孔から延びる流下ノズルを、ノズル用高周波誘導加熱コイルへ通電を行うことにより加熱してその内部に詰まっている固化ガラスを溶かして下方へ抜き出す。これにより、溶融炉本体内の溶融ガラスをその下部にセットしたキャニスタ内に流下させ、ガラス固化体として密閉収容するようになっている。
【0004】
ここで、廃液に含まれる金属元素のうち、白金族元素のルテニウム(Ru)は、溶融ガラスに溶解せずに浮遊し、次第に溶融炉の底に沈降して堆積する。そして、堆積したルテニウムは、溶融ガラスよりも電気抵抗が小さいことから電極から供給される電流が堆積したルテニウムに流れてしまい、溶融炉内の溶融ガラスに流れる電流が小さくなって溶融ガラスの加熱性能を低下させていた。また、堆積したルテニウムは、針状結晶となって溶融ガラスの粘性を高め、ノズルからキャニスタへの安定した溶融ガラスの排出を妨げる等、溶融炉の運転に悪影響を与えていた。よって、廃液中のルテニウムは、溶融炉内へ投入される前に除去されていることが好ましい。
【0005】
ここで、従来における廃液のルテニウム除去方法(以下、従来の方法)として、廃液を反応槽に導いて廃液中のルテニウムをオゾンによって酸化させて揮発性の高い四酸化ルテニウム(RuO)にし、その後、追い出し槽へ導いて四酸化ルテニウムを含んだ廃液を加熱することでルテニウムを廃液から蒸発させる方法がある(非特許文献1)。
【0006】
従来の方法では、酸化剤が廃液に溶解する速さが律速であると考えられていた。また、酸化の反応速度は、温度を高めれば高めるほど早くなるが、温度を高めると酸化剤が廃液に対して溶解し難くなっていた。このため、従来の方法は、反応槽の廃液の温度を追い出し槽の廃液の温度よりも低い温度にして酸化剤を溶解し易くしていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】石川島播磨技報 平成元年9月 第29巻 第5号 P.332〜336
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来の方法は、反応と追い出しを異なる温度で行うために、反応槽と追い出し槽の二つの槽を必要とし、設備が複雑でコスト高になっていた。
【0009】
そこで、本発明は、従来の方法よりも簡単、且つ、コストを抑えて、溶融炉へ投入される前の高レベル放射性廃液からルテニウムを除く方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の溶融炉に投入される前における高レベル放射性廃液のルテニウム除去方法は、槽内で高レベル放射性廃液に含まれるルテニウムを酸化剤によって酸化して四酸化ルテニウムにするとともに同一槽内で高レベル放射性廃液を該高レベル放射性廃液の沸点未満に加熱して四酸化ルテニウムを蒸発させ
前記酸化剤は、オゾンであり、
前記高レベル放射性廃液は、トリブチルリン酸及び、その分解生成物を含み、
前記オゾンは、廃液中のルテニウムを酸化して四酸化ルテニウムにするとともに、トリブチルリン酸及び、その分解生成物をオゾン分解することを特徴としている。
【0013】
本発明の溶融炉に投入される前における高レベル放射性廃液のルテニウム除去装置は、高レベル放射性廃液が供給される反応追い出し槽と、前記反応追い出し槽へ酸化剤を供給する酸化剤供給手段と、前記反応追い出し槽へ投入された高レベル放射性廃液を、該高レベル放射性廃液の沸点未満に加熱する加熱手段と、を備え
前記酸化剤供給手段から反応追い出し槽へ供給される酸化剤は、オゾンであり、
前記反応追い出し槽へ供給される高レベル放射性廃液は、トリブチルリン酸及び、その分解生成物を含み、
前記オゾンは、廃液中のルテニウムを酸化して四酸化ルテニウムにするとともに、トリブチルリン酸及び、その分解生成物をオゾン分解するよう前記酸化剤供給手段から反応追い出し槽へ供給されることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の高レベル放射性廃液中のルテニウム除去方法及び装置によれば、従来の方法よりも簡単、且つ、費用を抑えて高レベル放射性廃液からルテニウムを除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のレベル放射性廃液中のルテニウム除去方法を行うルテニウム除去装置を示した模式図である。
図2】酸化剤をオゾンとし、廃液を30℃、40℃、50℃、80℃に加熱した際の時間と廃液中の未酸化ルテニウム量の関係を示す図である。
図3】廃液を80℃に加熱した場合の時間と廃液中の全ルテニウム量及び気中に揮発した積算ルテニウム量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態の例(実施例)を、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の高レベル放射性廃液中のルテニウム除去方法を行うルテニウム除去装置を示した模式図である。
【0017】
高レベル放射性廃液中のルテニウム除去装置1は、溶融炉2に投入される前における高レベル放射性廃液(以下、廃液と称する)のルテニウムを除去する装置であり、反応追い出し槽3と、酸化剤供給手段5と、温度計6(温度測定手段)と、制御装置7と、ヒータ8(加熱手段)と、を備えている。
【0018】
反応追い出し槽3は、上下方向に延びる仕切り板10によって底側を除く部分が一方側と他方側に二分されている。反応追い出し槽3には、高レベル放射性廃液供給槽11から30℃〜40℃の廃液が、一方側から供給される。反応追い出し槽3の一方側へ供給された廃液は、底側を通って他方側へ導かれたのち、他方側からオーバーフローにて、溶融炉2へ導かれる。
【0019】
ここで、本発明の反応追い出し槽3に供給される廃液は、溶融炉2の運転に悪影響を与えるルテニウムを含んだ廃液であることは勿論のこと、ルテニウムとともにジブチルリン酸(DBP)も含んだ廃液の場合も含む。このジブチルリン酸は、トリブチルリン酸(TBP)の加水分解生成物であり、溶融炉2の運転に悪影響を与えることが判明している。このため、廃液にジブチルリン酸も含まれている場合は、これもできるだけ除去されていることが好ましい。
【0020】
酸化剤供給手段5は、反応追い出し槽3の下部からバブラーを通じて酸化剤を廃液中に気泡として吹き出して酸化剤を廃液中に溶解させる装置である。反応追い出し槽3へ供給された酸化剤は、廃液中のルテニウムを揮発性の高い四酸化ルテニウムに酸化する。
【0021】
ここで、酸化剤は、ルテニウムを除去する場合、オゾンを用いることが好ましいがオゾンに限定されない。ルテニウムを除去する場合の酸化剤は、ルテニウムを四酸化ルテニウムに酸化でき、且つ、酸化剤が溶融炉2の運転に悪影響を与えなければ良く、例えば、酸素、過マンガン酸カリウム、四価セリウムであっても良い。ルテニウムとともにトリブチルリン酸及び、その分解生成物も除去する場合、酸化剤はオゾンとともに酸素が用いられるのが好ましいがこれに限定されない。酸化剤は、オゾンのみでも良い。ここで、オゾンは、溶解度が高く、また、トリブチルリン酸及び、トリブチルリン酸の1つのブチル基が分解して生成されたジブチルリン酸を分解する性質を有している。
【0022】
温度計6は、反応追い出し槽3の他方側に配設され、反応追い出し槽3の廃液のうち下流側の温度を測定し、制御装置7へ逐次、温度データとして送信する。
【0023】
ヒータ8は、反応追い出し槽3を囲むように配置され、反応追い出し槽3へ投入された廃液を加熱する。廃液は、加熱されるとルテニウムの酸化反応が促進されるとともに、ルテニウムが反応追い出し槽3から蒸発する。蒸発したルテニウムは、反応追い出し槽3の上側から排ガス処理系12へ導かれて回収される。
【0024】
制御装置7は、温度計6から送信された温度データに基づいて、ヒータ8を、廃液が沸点未満に保たれるように制御する。ここで、反応追い出し槽3に供給される廃液の沸点は、120℃以上である。よって、制御装置7は、例えば、反応追い出し槽3に供給される廃液が120℃未満に保たれるようにヒータ8を制御する。
【0025】
図2及び図3を参照しながら、廃液を加熱する温度について説明する。図2は、酸化剤をオゾンとし、廃液を30℃、40℃、50℃、80℃に加熱した際の時間と廃液中の未酸化ルテニウム量の関係を示す図である。図3は、廃液を80℃に加熱した場合の時間とルテニウム量との関係を示す図である。
【0026】
図2によれば、廃液を50℃以上に加熱すれば、沸点まで加熱しなくても十分にルテニウムを酸化できることが分かる。特に、廃液を80℃に加熱すれば、短時間で全てのルテニウムを酸化できる。そして、図3によれば、80℃に加熱すれば、短時間で全ての四酸化ルテニウムを蒸発できることも分かる。廃液は、沸点近くまで昇温させた方が迅速にルテニウムを除去できるので好ましいが、50℃以上に加熱すれば十分な効果が期待できる。
【0027】
本発明の高レベル放射性廃液中のルテニウム除去方法及び装置によれば、同一槽内すなわち、反応追い出し槽3で高レベル放射性廃液に含まれるルテニウムを酸化剤によって酸化して四酸化ルテニウムにするとともに高レベル放射性廃液を沸点未満に加熱して四酸化ルテニウムを蒸発させるので、ルテニウムの酸化と四酸化ルテニウムの蒸発をそれぞれ別の槽で行っていた従来の方法よりも、工程数を減らせるとともにコストも抑えることができる。
【0028】
また、本発明の高レベル放射性廃液中のルテニウム除去方法及び装置によれば、同一槽内で酸化反応と加熱による蒸発を行っているため、別々に行っていた従来の構成よりも酸化剤を円滑に反応させることができ、酸化剤の無駄を減らすことができる。これによって、酸化剤の供給を抑えることができるとともに酸化剤供給装置を小さくでき、コストを抑えることができる。
【0029】
また、本発明は、酸化剤をオゾンとすることで、溶解度の高いオゾンが廃液に迅速に溶け込んで、ルテニウムの酸化に用いられる。
【0030】
また、本発明は、酸化剤をオゾンとすることで、高レベル放射性廃液にトリブチルリン酸及び、その分解生成物も含まれていた場合、オゾンがルテニウムを酸化するととともに、溶融炉2の運転に悪影響を与えるトリブチルリン酸及び、その分解生成物もオゾン分解して減らすことができる。
【0031】
なお、本発明の高レベル放射性廃液中のルテニウム除去方法及び装置は、上述の実施例にのみ限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更できる。
【符号の説明】
【0032】
1 ルテニウム除去装置
2 溶融炉
3 反応追い出し槽
5 酸化剤供給手段
8 ヒータ(加熱手段)
12 排ガス処理系
図1
図2
図3