特許第6343939号(P6343939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6343939
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】健康管理支援システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/22 20180101AFI20180611BHJP
   A61B 5/00 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   G06Q50/22
   A61B5/00 102E
   A61B5/00 D
【請求項の数】12
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2014-4141(P2014-4141)
(22)【出願日】2014年1月14日
(65)【公開番号】特開2015-132991(P2015-132991A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2016年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100106622
【弁理士】
【氏名又は名称】和久田 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(72)【発明者】
【氏名】和田 洋貴
(72)【発明者】
【氏名】尾林 慶一
(72)【発明者】
【氏名】小久保 綾子
【審査官】 貝塚 涼
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−235920(JP,A)
【文献】 特開2006−116037(JP,A)
【文献】 竹内裕之,生活習慣と健康状態に関する時系列データ解析手法の開発,電子情報通信学会 第19回データ工学ワークショップ論文集,日本,電子情報通信学会データ工学研究専門委員会,2008年 4月 7日,DEWS2008 E1-5
【文献】 黛勇気,クラウドコンピューティングによる個人健康管理,第4回データ工学と情報マネジメントに関するフォーラム論文集 第10回日本データベース学会年次大会,日本,電子情報通信学会データ工学研究専門委員会,2012年 7月13日,DEIM Forum 2012 D11-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00 − 99/00
G16H 10/00 − 80/00
A61B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者が実施した活動の量を示す活動指標についての時系列データを取得する活動指標データ取得部と、
前記対象者から計測される健康に関わる生体指標についての時系列データを取得する生体指標データ取得部と、
前記活動指標の時系列データと前記生体指標の時系列データとを比較した結果に基づいて、前記活動指標の変化が前記生体指標の変化として現れる時間遅れ量を推定する時間遅れ推定部と、
前記時間遅れ推定部の推定結果に基づいて、前記対象者の活動に因る効果がその実施時点よりも前記時間遅れ量後の前記生体指標の値に現れていることを示す支援情報を、前記対象者に提供する情報提供部と、
を有し、
前記支援情報は、前記活動指標の時系列データを前記時間遅れ量だけシフトしてプロットしたグラフと、前記生体指標の時系列データをプロットしたグラフとを含む
ことを特徴とする健康管理支援システム。
【請求項2】
対象者が実施した活動の量を示す活動指標についての時系列データを取得する活動指標データ取得部と、
前記対象者から計測される健康に関わる生体指標についての時系列データを取得する生体指標データ取得部と、
前記活動指標の時系列データと前記生体指標の時系列データとを比較した結果に基づいて、前記活動指標の変化が前記生体指標の変化として現れる時間遅れ量を推定する時間遅れ推定部と、
前記時間遅れ推定部の推定結果に基づいて、前記対象者の活動に因る効果がその実施時点よりも前記時間遅れ量後の前記生体指標の値に現れていることを示す支援情報を、前記対象者に提供する情報提供部と、
を有し、
前記支援情報は、前記生体指標の時系列データをプロットしたグラフにおいて、前記活動指標の増加に因る前記生体指標の正の変化が現れている区間を示す情報を含む
ことを特徴とする健康管理支援システム。
【請求項3】
対象者が実施した活動の量を示す活動指標についての時系列データを取得する活動指標データ取得部と、
前記対象者から計測される健康に関わる生体指標についての時系列データを取得する生体指標データ取得部と、
前記活動指標の時系列データと前記生体指標の時系列データとを比較した結果に基づいて、前記活動指標の変化が前記生体指標の変化として現れる時間遅れ量を推定する時間遅れ推定部と、
前記時間遅れ推定部の推定結果に基づいて、前記対象者の活動に因る効果がその実施時点よりも前記時間遅れ量後の前記生体指標の値に現れていることを示す支援情報を、前記対象者に提供する情報提供部と、
を有し、
前記支援情報は、前記生体指標の時系列データをプロットしたグラフにおいて、前記活動指標の減少に因る前記生体指標の負の変化が現れている区間を示す情報を含む
ことを特徴とする健康管理支援システム。
【請求項4】
前記支援情報は、前記活動指標の時系列データを前記時間遅れ量だけシフトしてプロットしたグラフと、前記生体指標の時系列データをプロットしたグラフとを含む
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の健康管理支援システム。
【請求項5】
前記支援情報は、前記生体指標の時系列データをプロットしたグラフにおいて、前記活動指標の増加に因る前記生体指標の正の変化が現れている区間を示す情報を含む
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の健康管理支援システム。
【請求項6】
前記支援情報は、前記時間遅れ量を示す情報を含む
ことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の健康管理支援システム。
【請求項7】
前記時間遅れ推定部は、複数の時間遅れ量について前記活動指標の時系列データと前記生体指標の時系列データとのあいだの因果の強度を評価し、相関の強度が最大となる時間遅れ量を、前記活動指標の変化が前記生体指標の変化として現れる時間遅れ量として選ぶことを特徴とする請求項1〜6のうちいずれか1項に記載の健康管理支援システム。
【請求項8】
前記時間遅れ推定部は、移動エントロピーを用いて、前記活動指標の時系列データと前記生体指標の時系列データとのあいだの因果の強度を評価する
ことを特徴とする請求項7に記載の健康管理支援システム。
【請求項9】
前記情報提供部は、前記対象者が有する端末に対し有線又は無線により前記支援情報を提供するものである
ことを特徴とする請求項1〜8のうちいずれか1項に記載の健康管理支援システム。
【請求項10】
コンピュータを、
対象者が実施した活動の量を示す活動指標についての時系列データを取得する活動指標データ取得部と、
前記対象者から計測される健康に関わる生体指標についての時系列データを取得する生体指標データ取得部と、
前記活動指標の時系列データと前記生体指標の時系列データとを比較した結果に基づいて、前記活動指標の変化が前記生体指標の変化として現れる時間遅れ量を推定する時間遅れ推定部と、
前記時間遅れ推定部の推定結果に基づいて、前記対象者の活動に因る効果がその実施時点よりも前記時間遅れ量後の前記生体指標の値に現れていることを示す支援情報を、前記
対象者に提供する情報提供部と、して機能させ、
前記支援情報は、前記活動指標の時系列データを前記時間遅れ量だけシフトしてプロットしたグラフと、前記生体指標の時系列データをプロットしたグラフとを含む
ことを特徴とするプログラム。
【請求項11】
コンピュータを、
対象者が実施した活動の量を示す活動指標についての時系列データを取得する活動指標データ取得部と、
前記対象者から計測される健康に関わる生体指標についての時系列データを取得する生体指標データ取得部と、
前記活動指標の時系列データと前記生体指標の時系列データとを比較した結果に基づいて、前記活動指標の変化が前記生体指標の変化として現れる時間遅れ量を推定する時間遅れ推定部と、
前記時間遅れ推定部の推定結果に基づいて、前記対象者の活動に因る効果がその実施時点よりも前記時間遅れ量後の前記生体指標の値に現れていることを示す支援情報を、前記対象者に提供する情報提供部と、して機能させ、
前記支援情報は、前記生体指標の時系列データをプロットしたグラフにおいて、前記活動指標の増加に因る前記生体指標の正の変化が現れている区間を示す情報を含む
ことを特徴とするプログラム。
【請求項12】
コンピュータを、
対象者が実施した活動の量を示す活動指標についての時系列データを取得する活動指標データ取得部と、
前記対象者から計測される健康に関わる生体指標についての時系列データを取得する生体指標データ取得部と、
前記活動指標の時系列データと前記生体指標の時系列データとを比較した結果に基づいて、前記活動指標の変化が前記生体指標の変化として現れる時間遅れ量を推定する時間遅れ推定部と、
前記時間遅れ推定部の推定結果に基づいて、前記対象者の活動に因る効果がその実施時点よりも前記時間遅れ量後の前記生体指標の値に現れていることを示す支援情報を、前記対象者に提供する情報提供部と、して機能させ、
前記支援情報は、前記生体指標の時系列データをプロットしたグラフにおいて、前記活動指標の減少に因る前記生体指標の負の変化が現れている区間を示す情報を含む
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの健康管理を支援するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ウォーキングなどの運動が、血圧の低下、体重・体脂肪・腹囲の減少などに効果があり、生活習慣病の予防もしくは治療に有効であることが知られている。ただし、一時的に負荷の強い運動をするだけでは意味がなく、適度な運動を継続的に実施することが重要である。そのため、運動継続に対するモチベーションを維持するための工夫として、血圧、体重などの変化をグラフ表示する機能や、運動および生活習慣に関するアドバイスを行うような機能をもつシステムが従来から提案されている。例えば、特許文献1のシステムでは、体重、BMI、体脂肪率、歩数、消費カロリー、最高血圧、最低血圧、脈拍、血糖値、尿糖値、コレステロール値などの時系列データを一つのグラフ上に表示することで、ユーザ自身が複数の生体指標の推移を比較しながら確認できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−230099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、多数の被験者データを分析した結果から、(1)運動の効果(例えば、血圧の降下、体重の減少など)は即座に現れず、運動の実施時期とその効果の発現時期とのあいだには一定の時間遅れがあること、(2)時間遅れ量は数日から数週間のように比較的長い可能性があること、(3)さらに、時間遅れ量は人によって相違すること、を見出した。しかし、従来のシステムでは、このような運動効果の遅延特性(特に、時間遅れの個人差)がまったく考慮されていない。例えば特許文献1のシステムのように歩数と体重の時系列データをグラフ化したとしても、ユーザが運動効果の遅延特性を知らない場合には、運動したのに効果がないと思い込んだり、歩数と体重のあいだに因果関係がないと勘違いし、運動に対するモチベーションを失ってしまう可能性がある。また、システムが運動や生活習慣に関するアドバイスを行う場合にも、時間遅れの個人差を正しく考慮しなければ、誤ったアドバイスを提示してしまうおそれがある。
【0005】
なお、ここまで運動とその効果の関係について説明したが、運動に限らず、健康(生体指標)に影響を与え得る他の活動(例えば食事、睡眠など)に関しても、活動の実施時期とその効果の発現時期とのあいだに同様の時間遅れがみられる場合がある。
【0006】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであり、活動効果が現れるまでの時間遅れに考慮した健康管理支援を可能とするための技術を提供することを目的とする。また、本発明のさらなる目的は、活動効果が現れるまでの時間遅れ量に個人差がある場合でも、対象者が実施した活動とその効果との因果関係を分かりやすく提示し、活動継続に対するモチベーションを維持させるための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、
対象者が実施した活動の量を示す活動指標についての時系列データを取得する活動指標データ取得部と、
前記対象者から計測される健康に関わる生体指標についての時系列データを取得する生
体指標データ取得部と、
前記活動指標の時系列データと前記生体指標の時系列データとを比較した結果に基づいて、前記活動指標の変化が前記生体指標の変化として現れる時間遅れ量を推定する時間遅れ推定部と、
前記時間遅れ推定部の推定結果に基づいて、前記対象者の活動に因る効果がその実施時点よりも前記時間遅れ量後の前記生体指標の値に現れていることを示す支援情報を、前記対象者に提供する情報提供部と、
を有する
ことを特徴とする健康管理支援システムである。
【0008】
ここで、「生体指標」とは、人又は人から採取されたものから計測される、人の健康に関わる指標である。例えば、血圧、脈拍、体重、体脂肪率、体脂肪量、筋肉率、筋肉量、腹囲、BMI、コレステロールレベル、血糖値、尿糖値、体温などが、生体指標に該当する。「活動」とは、健康(生体指標)に対して影響を与え得る、動き又は行為である。ウォーキング、ジョギング、水泳などの運動が典型的な活動であるが、運動以外にも、例えば、生活における身体活動(通勤、家事など)、睡眠、休養、食事、薬の服用・投与、サプリメントの摂取なども活動に該当する。そして、「活動指標」とは、活動の量を数値化した指標であり、例えば、歩数、距離、運動時間、運動量(消費カロリー)、活動量(運動強度と時間の積)、睡眠時間、休養時間・回数、摂取カロリー、薬の用量、サプリメントの摂取量などが該当する。
【0009】
請求項1に係る発明によれば、活動指標の変化が生体指標の変化として現れる時間遅れ量を推定し、その推定結果に基づいて、対象者の活動に因る効果がその実施時点よりも前記時間遅れ量後の生体指標の値に現れていることを示す支援情報を対象者に提供する。したがって、活動効果が現れるまでの時間遅れを考慮した健康管理支援が可能となる。加えて、対象者本人の活動指標及び生体指標のデータを用いて活動効果が現れるまでの時間遅れを推定するので、時間遅れ量に個人差がある場合でも、対象者が実施した活動とその効果との因果関係を分かりやすく提示し、活動継続に対するモチベーションを維持させることが可能となる。
【0010】
請求項2に係る発明は、
前記支援情報は、前記時間遅れ量を示す情報を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の健康管理支援システムである。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、対象者は、活動効果がどの程度遅れて現れるかという本人固有の生理学的特性を知ることができる。したがって、対象者は、活動指標の増減と生体指標の変化のどこを見比べればよいかを理解でき、過去に行った活動の成果を確認したり、逆に怠けに因る生体指標の悪化に気づくことができる。また、対象者は、自分自身の生理学的特性を考慮した健康管理(例えば、運動計画、ダイエット目標、薬の用量や服用タイミングの決定など)が可能となる。
【0012】
請求項3に係る発明は、
前記支援情報は、前記活動指標の時系列データを前記時間遅れ量だけシフトしてプロットしたグラフと、前記生体指標の時系列データをプロットしたグラフとを含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の健康管理支援システムである。
【0013】
請求項3に係る発明によれば、対象者は、二つのグラフを見比べることで、活動指標の増減と生体指標の変化の因果関係を直観的に理解できる。
【0014】
請求項4に係る発明は、
前記支援情報は、前記生体指標の時系列データをプロットしたグラフにおいて、前記活動指標の増加に因る前記生体指標の正の変化が現れている区間を示す情報を含む
ことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の健康管理支援システムである。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、対象者は、活動指標の増加(例えば、過去の努力)が生体指標の正の変化(つまり健康増進)に直接結びついていることを容易に把握できるため、活動の実施及び継続に対するモチベーションを得ることができる。
【0016】
請求項5に係る発明は、
前記支援情報は、前記生体指標の時系列データをプロットしたグラフにおいて、前記活動指標の減少に因る前記生体指標の負の変化が現れている区間を示す情報を含む
ことを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の健康管理支援システムである。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、対象者は、活動指標の減少(例えば、過去の怠け)が生体指標の負の変化(つまり健康低下)に直接結びついていることを容易に把握できる。これにより、対象者に反省を促し、活動の継続的な実施の必要性を気づかせることが可能となる。
【0018】
請求項6に係る発明は、
前記時間遅れ推定部は、複数の時間遅れ量について前記活動指標の時系列データと前記生体指標の時系列データとのあいだの因果の強度を評価し、相関の強度が最大となる時間遅れ量を、前記活動指標の変化が前記生体指標の変化として現れる時間遅れ量として選ぶことを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の健康管理支援システムである。
【0019】
請求項6に係る発明によれば、活動指標の増減に対する生体指標の変化の時間遅れ量を好適に求めることができる。
【0020】
請求項7に係る発明は、
前記時間遅れ推定部は、移動エントロピーを用いて、前記活動指標の時系列データと前記生体指標の時系列データとのあいだの因果の強度を評価する
ことを特徴とする請求項6に記載の健康管理支援システムである。
【0021】
請求項7に係る発明によれば、移動エントロピーにより、活動指標(原因)と生体指標(結果)の因果強度を評価できるため、活動指標の増減に対する生体指標の変化の時間遅れ量をより適切に求めることができる。
【0022】
請求項8に係る発明は、
前記情報提供部は、前記対象者が有する端末に対し有線又は無線により前記支援情報を提供するものである
ことを特徴とする請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の健康管理支援システムである。
【0023】
請求項8に係る発明によれば、対象者が有する端末において、活動指標の増減と生体指標の変化の因果関係を確認できるため、便利である。また、端末と健康管理支援システムのあいだをインターネットなどの広域ネットワークで接続する構成を採用することで、いわゆるクラウドを利用した健康管理支援サービスの提供が実現できる。
【0024】
請求項9に係る発明は、
請求項8に記載の健康管理支援システムと有線又は無線により通信可能な端末であって、
支援情報の要求を当該端末を有する対象者を識別する情報とともに前記健康管理支援システムに送信する要求部と、
前記健康管理支援システムから受信した前記支援情報を表示する表示部と、を有する
ことを特徴とする端末である。
【0025】
請求項9に係る発明によれば、対象者が有する端末において、活動指標の増減と生体指標の変化の因果関係を確認できるため、便利である。また、端末と健康管理支援システムのあいだをインターネットなどの広域ネットワークで接続する構成を採用することで、いわゆるクラウドを利用した健康管理支援サービスを享受できる。また、端末側で活動指標や生体指標のデータを蓄積したり、時間遅れや支援情報を計算したりする必要がないので、端末の構成を簡易にでき、端末コストを抑えることができる。
【0026】
請求項10に係る発明は、
前記対象者が実施した活動指標のデータ及び/又は前記対象者から計測された生体指標のデータを前記健康管理支援システムに送信するデータ送信部をさらに有する請求項9に記載の端末である。
【0027】
請求項10に係る発明によれば、健康管理支援システムでのデータの収集及び管理が容易に実現できる。
【0028】
請求項11に係る発明は、
前記活動指標を計測する計測部を有する
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の端末である。
【0029】
請求項11に係る発明によれば、一つの端末が活動指標の計測器と健康管理支援情報の提供装置とを兼ねることとなり、便利である。
【0030】
請求項12に係る発明は、
前記生体指標を計測する計測部を有する
ことを特徴とする請求項9又は10に記載の端末である。
【0031】
請求項11に係る発明によれば、一つの端末が生体指標の計測器と健康管理支援情報の提供装置とを兼ねることとなり、便利である。
【0032】
請求項13に係る発明は、
コンピュータを、
対象者が実施した活動の量を示す活動指標についての時系列データを取得する活動指標データ取得部と、
前記対象者から計測される健康に関わる生体指標についての時系列データを取得する生体指標データ取得部と、
前記活動指標の時系列データと前記生体指標の時系列データとを比較した結果に基づいて、前記活動指標の変化が前記生体指標の変化として現れる時間遅れ量を推定する時間遅れ推定部と、
前記時間遅れ推定部の推定結果に基づいて、前記対象者の活動に因る効果がその実施時点よりも前記時間遅れ量後の前記生体指標の値に現れていることを示す支援情報を、前記対象者に提供する情報提供部と、して機能させる
ことを特徴とするプログラムである。
【0033】
請求項13に係る発明によれば、活動指標の変化が生体指標の変化として現れる時間遅れ量を推定し、その推定結果に基づいて、対象者の活動に因る効果がその実施時点よりも前記時間遅れ量後の生体指標の値に現れていることを示す支援情報を対象者に提供するシステムを実現できる。このシステムにより、活動効果が現れるまでの時間遅れを考慮した健康管理支援が可能となる。加えて、対象者本人の活動指標及び生体指標のデータを用いて活動効果が現れるまでの時間遅れ量を推定するので、時間遅れ量に個人差がある場合でも、対象者が実施した活動とその効果との因果関係を分かりやすく提示し、活動継続に対するモチベーションを維持させることが可能となる。
【0034】
請求項14に係る発明は、
請求項8に記載の健康管理支援システムと有線又は無線により通信可能な端末を、
支援情報の要求を当該端末を有する対象者を識別する情報とともに前記健康管理支援システムに送信する要求部と、
前記健康管理支援システムから受信した前記支援情報を表示する表示部と、して機能させる
ことを特徴とするプログラムである。
【0035】
請求項14に係る発明によれば、対象者が有する端末において、活動指標の増減と生体指標の変化の因果関係を確認できるため、便利である。また、端末と健康管理支援システムのあいだをインターネットなどの広域ネットワークで接続する構成を採用することで、いわゆるクラウドを利用した健康管理支援サービスを享受できる。また、端末側で活動指標や生体指標のデータを蓄積したり、時間遅れ量や支援情報を計算したりする必要がないので、端末の構成を簡易にでき、端末コストを抑えることができる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、活動効果が現れるまでの時間遅れに考慮した健康管理支援が可能となる。また、本発明によれば、活動効果が現れるまでの時間遅れ量に個人差がある場合でも、対象者が実施した活動とその効果との因果関係を分かりやすく提示し、活動継続に対するモチベーションを維持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】健康管理支援システムの機能ブロック図。
図2】健康管理支援システムの構成例。
図3】健康管理支援システムの構成例。
図4】データ蓄積部に蓄積された歩数と血圧のデータの例。
図5】健康管理支援システムの処理の流れを示すフローチャート。
図6】時間遅れ量の推定処理を説明するための図。
図7】ユーザ支援用グラフの生成処理を説明するための図。
図8】運動効果発現区間の検出処理の流れを示すフローチャート。
図9】正の運動効果発現区間SP−posiの検出例を示す図。
図10】連続区間の結合例を示す図。
図11】ユーザ支援用グラフの一例を示す図。
図12】支援メッセージパターン記憶部に格納されたテンプレートの一例。
図13】ユーザに提供する支援情報の表示例。
図14】ある被験者のデータ分析結果の一例。
図15】ある被験者のデータ分析結果の一例。
図16】ある被験者のデータ分析結果の一例。
図17】約2000ケースの被験者データをプロットした結果。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の好ましい実施形態として、活動に因る効果が現れるまでの時間遅れを考慮した健康管理支援システム、より詳しくは、時間遅れの個人差を考慮し、個人の特性に合わせた支援情報を提供可能な個人適応型の健康管理支援システムについて説明する。以下では、まず、「活動」とその「効果」の一例として「運動(ウォーキング)」と「降圧効果」の関係について説明し、その後で、歩数と血圧の時系列データに基づいて両者の因果関係や時間遅れ量を提示したり、個人に適した支援情報の提供を行ったりするための具体的な構成を例示する。
【0039】
<運動と降圧効果の関係>
ウォーキングなどの有酸素運動の継続が降圧効果をもたらし高血圧症の治療や予防に有効であることは古くから知られている。しかし、運動の実施時点とそれに因る降圧効果の発現時期との関係を定量的にとらえることは従来なされていなかった。
【0040】
そこで本発明者らは、「移動エントロピー(Transfer Entropy:TE)」という情報理論の概念を用いて多数の被験者データの解析を行い、その結果、多くのケースで運動量(歩数)の増減と収縮期血圧の変化のあいだに有意な因果関係が認められることを確認した。加えて、歩数の増減と血圧の変化のあいだには一定の時間遅れ(遅延)があること、時間遅れ量(時間遅れの幅)は人によって相違しており、短い人で1週程度、長い人で8週(2月)程度であること、などの新たな知見を得るに至った。
【0041】
移動エントロピーとは、二つの事象X、Yのあいだの時間遅れを考慮した因果関係を評価する尺度ないし手法であり、事象Xから時間s後の事象Yへと移動した情報量(エントロピー)を、事象X(因)が時間s後に事象Y(果)に与える影響の強さ(つまり因果強度)とみなす考え方である。なお、似た概念に相関係数があるが、相関係数は事象XとYのあいだの関連の強さ(分布の類似度)を評価するだけであり、因果の方向(どちらの事象が因でとちらが果か)および時間遅れを考慮していない点で、移動エントロピーとは異なる。
【0042】
事象X、Yそれぞれの時系列データをx(t)、y(t)とし、確率密度関数をP(x(t))、P(y(t))とすると、事象Xを因、事象Yを果とする、時間遅れ量sに関する移動エントロピーTEXY(s)は、次式で計算できる。
【数1】

ここで、P(a,b)は、P(a)とP(b)の結合確率密度変数を表し、[*]は*の時間平均を表す。
【0043】
上式から分かるように、移動エントロピーは、二つの事象X、Yの時系列データと時間遅れ量sを与えることで計算できる。ここで、事象X、Yのあいだに、Xを因、Yを果とする因果関係が存在する場合には、TEXY(s)の値と、因と果を入れ替えて計算したTEYX(s)の値とのあいだに、TEXY(s)>TEYX(s)が成立する。よって、TEXY(s)とTEYX(s)の値の大小関係を評価することにより、因果関係の存在および因果の方向を判断できる。また、sの値を変えながら移動エントロピーTEXY(s)を計算し、TEXY(s)を最大とするsの値を求めることで、事象X(因)に対する事象Y(果)の時間遅れ量sを判断できる。
【0044】
図14は、ある被験者のデータ分析結果を示したものである。図14(a)は、歩数と収縮期血圧の時系列データをプロットしたグラフであり、横軸が時間[週]、縦軸が歩数[歩]と血圧値[mmHg]を示している。また、図14(b)は、歩数を「因」、血圧値を「果」とする移動エントロピーが最大となる時間遅れ量がsd[週]であったときに、歩数の時系列データをsdだけシフトしてプロットしたグラフである。この例ではsd=1週である。図14(b)のグラフを見ると、歩数の増加/減少が約1週後に血圧値の降下/上昇となって現れていることが分かる。図14(c)に、移動エントロピーが最大となる時間遅れ量sd[週]、そのときの移動エントロピーTEmax、歩数と血圧値の相関係数(つまり図14(a)の歩数と血圧値の相関係数)、sdだけシフトした歩数と血圧値の相関係数(つまり図14(b)の歩数と血圧値の相関係数)を示す。これより、歩数と1週後の血圧値とのあいだに明らかな負の相関があること、すなわち、運動に因る効果が約1週遅れで発現していることが分かる。
【0045】
図15図16は、それぞれ別の被験者のデータ分析結果を示したものである。図15のケースでは、運動に因る効果が約3週遅れで発現しており、図16のケースでは、運動に因る効果が約8週遅れで発現している。
【0046】
図17は、約2000ケースの被験者データをプロットした結果であり、横軸が移動エントロピーが最大となる時間遅れ量sd[週]であり、縦軸が最大移動エントロピーTEmaxを示す。時間遅れ量sdは人によって相違しており、短い人で1週程度、長い人で8週(2月)程度であることが分かる。
【0047】
<システム構成>
図1は、本実施形態に係る健康管理支援システム(以下、単に「本システム」ともいう。)の全体構成を示す機能ブロック図である。
【0048】
本システムは、活動指標記録部1、生体指標記録部2、データ送信部3、データ蓄積部4、データ取得部5、時間遅れ推定部6、グラフ描画部7、支援メッセージ生成部8、支援メッセージパターン記憶部9、描画合成部10、出力部11などの機能ブロックを有している。これらの機能ブロックは、一つの装置で構成することもできるし、有線又は無線で相互に通信可能な複数の装置で構成することもできる(具体的な装置構成例については後述する。)。
【0049】
活動指標記録部1は、対象者が実施した活動の量を示す活動指標(本実施形態では歩数)を記録する機能ブロックである。活動指標の値を手入力する構成でもよいが、好ましくは、歩数計や活動量計のような計測器により活動指標記録部1を構成し、活動指標の値を自動で計測・記録できるようにするとよい。
【0050】
生体指標記録部2は、対象者から計測された生体指標(本実施形態では血圧)を記録する機能ブロックである。これも生体指標の値を手入力する構成でもよいが、好ましくは、血圧計のような計測器により生体指標記録部2を構成し、生体指標の値を自動で計測・記録できるようにするとよい。
【0051】
データ送信部3は、活動指標記録部1によって記録された活動指標のデータと、生体指標記録部2によって記録された生体指標のデータとを、データ蓄積部4に対して送信し登録する機能ブロックである。本実施形態では、1日分の歩数のデータStと、各日の収縮期血圧のデータBpとが、データ蓄積部4に登録される。
【0052】
データ蓄積部4は、データ送信部3を介して受け付けた活動指標および生体指標のデータを時系列に記憶し管理するデータベースである。本実施形態では、歩数の時系列データ
St(t)と収縮期血圧の時系列データBp(t)が蓄積される。なお、本システムが複数のユーザに利用される場合には、ユーザ毎にデータを収集し蓄積する必要があるため、ユーザを識別するためのユーザIDとともに時系列データSt(t)、Bp(t)を管理するとよい。
【0053】
データ取得部5は、データ蓄積部4から、データ解析および支援情報の生成に用いる時系列データSt(t)、Bp(t)を取得する機能ブロックである。図1では、活動指標の時系列データを取得する活動指標データ取得部と生体指標の時系列データを取得する生体指標データ取得部を一つの機能ブロック5で示している。
【0054】
時間遅れ推定部6は、データ取得部5により取得した活動指標の時系列データと生体指標の時系列データとを比較した結果に基づいて、活動指標の変化が生体指標の変化として現れる時間遅れ量を推定する機能ブロックである。本実施形態の時間遅れ推定部6は、歩数の時系列データSt(t)と血圧の時系列データBp(t)を用いて、歩数(因)と血圧(果)のあいだの移動エントロピーを評価し、移動エントロピーが最大値TEmaxとなる時間遅れ量sdを求める。
【0055】
グラフ描画部7、支援メッセージ生成部8、支援メッセージパターン記憶部9、描画合成部10、および出力部11は、時間遅れ推定部6の推定結果に基づいて、健康管理に関する支援情報を対象者に提供する情報提供部を構成する機能ブロック群である。支援情報は、対象者の活動(歩行運動)に因る効果がその実施時点よりも時間遅れ量sd後の生体指標の値(血圧値)に現れていることを分かりやすく示すための情報であり、本実施形態では、グラフと支援メッセージとで支援情報の提供を行う。グラフ描画部7は、歩数と血圧の時系列データSt(t)、Bp(t)、および、時間遅れ推定部6で計算された時間遅れ量sd、最大移動エントロピーTEmaxなどの情報に基づきグラフの生成を行う。一方、支援メッセージ生成部8が、時間遅れ推定部6で計算された時間遅れ量sd、最大移動エントロピーTEmax、グラフ描画部7で計算された歩数変化量Ds、血圧変化量Db、運動効果発現区間SP−posi、SP−negaなどの情報に基づき、支援メッセージパターン記憶部9に登録されたメッセージテンプレートを用いて、支援メッセージの生成を行う。生成されたグラフと支援メッセージは、描画合成部10によって合成され、出力部11によって表示装置や外部端末などに出力される。支援情報の具体的な生成処理およびグラフや支援メッセージの具体例については後述する。
【0056】
<装置構成の例>
図1の健康管理支援システムは、さまざまな装置構成を採り得る。図2図3に装置構成の具体例を示す。
【0057】
図2(a)は、一つの装置20により健康管理支援システムを構成した例である。この装置20は、CPU(中央演算処理装置)、主記憶装置(メモリ)、補助記憶装置(ハードディスク、半導体ディスクなど)、入力装置(キーボード、マウス、タッチパネルなど)、表示装置(液晶モニタなど)、通信IFを有する汎用のパーソナル・コンピュータにより構成可能である。あるいは、タブレット端末、スマートフォン、PDA(携帯情報端末)のようにパーソナル・コンピュータと同等の機能を提供するデバイスにより装置20を構成することもできるし、ボードコンピュータを内蔵する専用機にて装置20を構成することもできる。図2(a)の構成の場合は、ユーザが入力装置を操作して活動指標および生体指標の入力を行い、支援情報は表示装置に出力される。
【0058】
図2(b)は、装置20に対し、歩数計21と血圧計22を組み合わせた例である。歩数計21や血圧計22で計測されたデータは、有線(例えばUSB)又は無線(例えばBluetooth(登録商標)、WiFi)により装置20に伝送される。この構成の場
合、図1の活動指標記録部1は歩数計21により、生体指標記録部2は血圧計22によりそれぞれ構成され、データ送信部3の機能は歩数計21と血圧計22に内蔵されたデータ通信機能により実現される。支援情報は、装置20の表示装置に出力してもよいし、歩数計21や血圧計22に送信し、歩数計21や血圧計22の表示部に出力してもよい。
【0059】
図3(a)は、クラウドコンピューティングの一例であり、オンラインストレージ30により図1のデータ蓄積部4を構成した例である。図3(a)の構成では、対象者が操作する端末31が、図1のデータ送信部3、データ取得部5、時間遅れ推定部6、および情報提供部の機能を有しており、歩数計21や血圧計22で計測したデータのアップロード、時系列データのダウンロード、支援情報の生成・表示などを実行する。端末31は、図2に示した装置20と同様、パーソナル・コンピュータ、タブレット端末、スマートフォン、専用機などで構成可能である。なお、歩数計21や血圧計22がインターネットアクセス可能な場合には、歩数計21や血圧計22からオンラインストレージ30にデータを直接アップロードしてもよい。
【0060】
図3(b)もクラウドコンピューティングの一例である。図3(a)との違いは、クラウドサーバ32が、図1のデータ蓄積部4、データ取得部5、時間遅れ推定部6、および情報提供部の機能を担う点である。対象者が操作する端末33の側には、クラウドサーバ32に対して支援情報の要求を行う要求部、クラウドサーバ32から受信した支援情報を表示する表示部などの機能をもたせるだけでよい。対象者の識別は、例えば、支援情報の要求のなかにユーザIDを含めるとか、ユーザIDによる認証を行えばよい。図3(b)の構成によれば、端末側に必要なリソース(データ容量、演算能力など)を軽減し、端末33の構成を簡易にできるため、特にタブレット端末やスマートフォンなどのアプリにより健康管理支援を行うサービスに好適である。
【0061】
<システムの動作>
次に、本システムにより実行される、データ分析処理と支援情報の生成・表示処理の具体例について説明する。
【0062】
前提として、対象者がある程度の期間(例えば1月以上)にわたり歩数と血圧の記録を行い、そのデータがデータ蓄積部4にすでに蓄積されているものとする。図4は、データ蓄積部4のデータ構造の一例を示している。計測した日付の情報とともに、歩数Stと血圧Bpの情報が格納されている。
【0063】
図5のフローチャートに沿って、本システムの処理の流れを説明する。
【0064】
ステップS1では、データ取得部5が、データ蓄積部4から歩数の時系列データSt(t)と血圧の時系列データBp(t)を取得する。このとき、データ蓄積部4に蓄積されているすべての期間のデータを取得してもよいし、あらかじめ定めた期間(例えば、直近n月分)のデータを取得してもよい。
【0065】
ステップS2では、時間遅れ推定部6が、複数の時間遅れ量s=0,1,…,smについて、歩数Stを因、血圧Bpを果とする移動エントロピーTEsb(s)と、血圧Bpを因、歩数Stを果とする移動エントロピーTEbs(s)を計算する。ここで、時間遅れ量sの単位は、歩数Stおよび血圧Bpが記録される時間単位と同じ「日」とする。また、smには、運動効果が現れる可能性のある最大日数をあらかじめ設定しておく。ここでは、sm=60[日]とした。
【0066】
ステップS3では、時間遅れ推定部6が、ステップS2で計算した移動エントロピーTEsb(s)のうち、TEsb(s)>TEbs(s)を満たす(すなわち、因果の方向
が歩数→血圧となる)ものの中で最大となるものをTEmaxとし、そのときの時間遅れ量sdを記録する。この最大移動エントロピーTEmaxを歩数と血圧のあいだの因果強度と定義する。例えば、ステップS2の計算で図6に示す計算結果が得られた場合には、TEmax=0.423、sd=15と求まる。以上の処理によって、この対象者に固有の運動効果の遅延特性(時間遅れ量sd=15日)を推定することができる。
【0067】
次に、情報提供部による支援情報の生成処理に移る。本実施形態では、ステップS4においてユーザ支援用グラフが生成され、ステップS5においてユーザ支援用メッセージが生成される。以下、それぞれのステップの詳細を説明する。
【0068】
(ステップS4)ユーザ支援用グラフの生成
まずグラフ描画部7は、データ取得部5から歩数の時系列データSt(t)および血圧の時系列データBp(t)を受け取り、横軸を時間[日」、縦軸を歩数[歩]および血圧[mmHg]とする折れ線グラフを作成する。図7(a)はグラフの一例であり、符号70が歩数のグラフ、符号71が血圧のグラフである。
【0069】
次に、グラフ描画部7は、歩数のグラフ70をステップS3で求めた時間遅れ量sdだけ右にシフトする(又は、血圧のグラフ71をsdだけ左にシフトしてもよい)。図7(b)はシフト後のグラフの一例であり、符号72がsdだけ右にシフトした歩数のグラフを示している。以降、図7(b)に示すように時間遅れ量sd分だけ一方のグラフをシフトしたものを、「時間合わせした歩数と血圧のグラフ」とよぶ。
【0070】
続いて、グラフ描画部7は、時間合わせした歩数と血圧のグラフから、正の運動効果発現区間SP−posiおよび負の運動効果発現区間SP−negaを検出する。ここで、正の運動効果発現区間とは、時間合わせした歩数と血圧のグラフにおいて、歩数が増加し、血圧が減少している区間をいい、負の運動効果発現区間とは、同グラフにおいて、歩数が減少し、血圧が増加している区間をいう。正および負の運動効果発現区間の検出方法はさまざま考えられるが、図8に一例を示す。
【0071】
以降の説明において、Sday、Edayはそれぞれ計算開始日、計算終了日を示す変数であり、Db、Dsはそれぞれ血圧変化量、歩数変化量を示す変数である。Bp(t)、St(t)はそれぞれ、ある日tにおける血圧と歩数を示す(ただし、歩数St(t)は時間遅れ量sdだけシフトしたデータである)。また、以下の閾値についてはあらかじめ適当な値を設定しておくものとする。
・ThSpan …変化量を算出するための最大期間(例えば7日)。
・ThDifBp …血圧が増加/減少したと判断する差分値(正の値、例えば3mmHg)。
・ThDifSt …歩数が増加/減少したと判断する差分値(正の値、例えば1000歩)。
【0072】
図8の処理が開始すると、グラフ描画部7は、計算開始日Sdayに1を代入し(ステップS800)、計算終了日EdayにSday+1を代入する(ステップS801)。計算終了日Edayの歩数・血圧のデータがあればステップS803に進み、歩数・血圧のデータが存在しなければステップS813に移行する(ステップS802)。
【0073】
ステップS803、S804において、グラフ描画部7は、下記式により、計算開始日Sdayと計算終了日Edayのあいだの血圧変化量Dbと歩数変化量Dsを計算する。
Db=Bp(Eday)−Bp(Sday)
Ds=St(Eday)−St(Sday)
【0074】
続いて、正の運動効果発現区間SP−posiの判定を行う(ステップS805)。具体的には、グラフ描画部7は、血圧変化量Dbが条件「Db<−1×ThDifBp」を満たし、かつ、歩数変化量Dsが条件「Ds>ThDifSt」を満たす場合に(ステップS805;YES)、SdayからEdayまでの区間をSP−posiとして記録し(ステップS806)、ステップS811に進む。DbとDsが上記条件を満たさない場合は(ステップS805;NO)、正の運動効果は発現していないと判定し、ステップS807に進む。
【0075】
ステップS807では、負の運動効果発現区間SP−negaの判定を行う。具体的には、グラフ描画部7は、血圧変化量Dbが条件「Db>ThDifBp」を満たし、かつ、歩数変化量Dsが条件「Ds<−1×ThDifSt」を満たす場合に(ステップS807;YES)、SdayからEdayまでの区間をSP−negaとして記録し(ステップS808)、ステップS811に進む。DbとDsが上記条件を満たさない場合は(ステップS807;NO)、負の運動効果は発現していないと判定し、ステップS809に進む。
【0076】
その後、Edayを1だけインクリメントし(ステップS809)、EdayがThSpanに達するまでステップS802〜S809の処理を繰り返す(ステップS810)。すなわち、区間の長さを1日ずつ延ばしながら(最短で1日、最長でThSpan)、順次、運動効果発現区間に該当するかどうかの判定を行うのである。これにより、日ごとの歩数・血圧変化だけでなく、ある程度長い期間内でのマクロな変化傾向も評価できるため、運動効果発現区間の検出漏れを小さくできる。図9を用いて、区間の長さを変えることで運動効果発現区間として検出される例を説明する。
【0077】
図9は、正の運動効果発現区間SP−posiの検出例である。図9をみると、歩数St(t)は増加傾向にあり、血圧Bp(t)は減少傾向にある。しかし、区間「Sday〜(Eday−1)」は、歩数変化量Ds=St(Eday−1)−St(Sday)がDs>ThDifStという条件を満たさないため、SP−posiとは判定されない。しかし、その後の区間「Sday〜Eday」の判定処理において、血圧変化量Db=Bp(Eday−1)−Bp(Sday)が条件「Db<−1×ThDifBp」を満たし、かつ、歩数変化量Ds=St(Eday)−St(Sday)が条件「Ds>ThDifSt」を満たすため、区間「Sday〜Eday」が正の運動効果発現区間SP−posiとして検出されるのである。
【0078】
以上のように、計算開始日Sdayを起点とする区間について判定処理が終了したら、グラフ描画部7は、Sday=Eday+1により計算開始日Sdayを更新する(ステップS811)。更新後のSdayの歩数・血圧のデータが存在すれば、ステップS801に戻って処理を繰り返し、歩数・血圧のデータが存在しなければステップS813に移行する(ステップS812)。
【0079】
ステップS813では、グラフ描画部7は、検出された複数の運動効果発現区間のなかに連続するものがあれば、それら連続区間を結合する処理を行う。このとき、正の運動効果発現区間SP−posiと負の運動効果発現区間SP−negaのあいだは結合しない。図10に、連続区間の結合例を示す。図10の左側のグラフは、検出されたSP−posiとSP−negaを示し、右側のグラフは、連続区間が結合されたSP−posiとSP−negaを示す。なお、間隔なく隣り合う区間同士のみを結合してもよいが、区間同士の間隔が極めて短い(例えば1日〜数日程度)場合には連続区間とみなしそれらを結合するようにしてもよい。
【0080】
以上の処理を経て得られた情報を元に、グラフ描画部7は、ユーザに提示するためのユ
ーザ支援用グラフを生成する。図11は、ユーザ支援用グラフの一例である。この例では、2つのグラフを表示する。左側のグラフは、歩数の時系列データをプロットした歩数グラフ110と血圧の時系列データをプロットした血圧グラフ111とともに、歩数グラフ110を時間遅れ量だけシフトしてプロットした運動効果グラフ112と、時間遅れ量(この例では3日)を示す情報113が描画されている。右側のグラフは、血圧グラフ111と運動効果グラフ112の上に、正の運動効果発現区間114と負の運動効果発現区間115を描画したものである。運動効果発現区間は複数存在する可能性があるが、そのすべてをグラフ上に描画してもよいし、代表的なもの(例えば区間の長さが最大のもの)だけをグラフ上に描画してもよい。なお、各要素のキャプションは任意に設定できる。
【0081】
(ステップS5)ユーザ支援用メッセージの生成
ステップS5では、支援メッセージ生成部8が、ステップS2〜S4の処理結果に基づきユーザ支援用メッセージを生成する。ユーザの健康管理や運動継続に役立つ情報であればどのような情報をユーザ支援用メッセージとして提示してもよいが、本実施形態では、一例として、ユーザが実施した運動の評価結果及び/又は今後のアドバイスを含む第1メッセージと、当該ユーザの運動効果の遅延特性(時間遅れ量)を含む第2メッセージの2種類のユーザ支援用メッセージを提示することとする。
【0082】
図12は、支援メッセージパターン記憶部9に格納されているテンプレートの一例を示す。支援メッセージパターン記憶部9には、第1メッセージ用の複数のテンプレートが登録された第1テーブル120と、第2メッセージ用の複数のテンプレートが登録された第2テーブル121とが含まれる。これらのテンプレートは、本システムにあらかじめ登録されていてもよいし、システム管理者やユーザがテンプレートを追加・編集・削除できるようにしてもよい。各々のテンプレートは、テンプレートの選択条件と対応付けて登録されている。選択条件は、例えば、因果強度(最大移動エントロピー)TEmax、歩数St、血圧Bp、歩数変化量Ds、血圧変化量Db、時間遅れ量sdなど、ステップS2〜S4の処理で得られる値を用いて設定されるとよい。図12の例では、第1メッセージ用のテンプレートには、因果強度TEmaxの条件と血圧変化量Db又は歩数変化量Dsの条件とを組み合わせた選択条件が設定されており、第2メッセージ用のテンプレートには、因果強度TEmaxによる選択条件が設定されている。テンプレート内に埋め込まれている「<$」と「>」で挟まれた文字列は、ユーザ支援用メッセージを生成する際に、ステップS2〜S4の処理で得られた値に置換される部分である。
【0083】
例えば、ステップS2〜S4の処理結果として、
SP−posi:2013年2月5日〜2013年2月12日
TEmax:0.53
sd:3
Db:14
Ds:2050
が得られた場合、支援メッセージ生成部8は、第1テーブル120から2番目のテンプレートを選択し、
「2013年2月5日〜2013年2月12日の期間に注目してください。とても頑張った分、14mmHgも血圧が下がっていますね!お見事!」
という第1メッセージを生成するとともに、第2テーブル121から1番目のテンプレートを選択し、
「あなたは3日程度で運動効果が現れるタイプです」
という第2メッセージを生成する。
【0084】
生成されたユーザ支援用メッセージは、描画合成部10によって、ユーザ支援用グラフの所定の領域に合成され(ステップS6)、出力部11によって表示装置や外部端末など
に出力される(ステップS7)。図13は、支援情報の表示例である。画面上部に第1メッセージが表示され、左のグラフの上部に第2メッセージが表示されている。ユーザは、このような支援情報を見ることで、自分自身の運動効果の遅延特性を知ることができるとともに、運動に因る効果を直観的かつ納得性をもって確認することができる。
【0085】
<本システムの利点>
以上述べた本システムによれば、運動に因る効果が現れるまでの時間遅れを考慮した健康管理支援が可能となる。特に、ユーザ本人の歩数及び血圧のデータを用いて時間遅れ量sdを推定するので、時間遅れ量sdに個人差がある場合でも、ユーザが実施した運動とその効果との因果関係を分かりやすく提示し、運動継続に対するモチベーションを維持させることが可能となる。
【0086】
また、図13の画面を見れば、運動に因る効果が3日程度遅れて現れるという本人固有の生理学的特性を知ることができる。したがって、ユーザは、歩数の増減と血圧の変化のどこを見比べればよいかを理解でき、過去に行った運動の成果を確認したり、逆に怠けに因る血圧の悪化に気づくことができる。また、自分自身の生理学的特性を考慮した健康管理(例えば、運動計画、歩数や血圧の目標設定など)が可能となる。
【0087】
また、図13の画面における運動効果グラフ(シフトした歩数グラフ)と血圧グラフを見比べることで、歩数の増減と血圧の変化の因果関係(負の相関)を直観的に理解できる。さらに、正の運動効果発現区間SP−posiの表示により、歩数の増加(過去の努力)が血圧の正の変化(つまり血圧の降下)に直接結びついていることを容易に把握できるため、運動の実施及び継続に対するモチベーションを得ることができる。加えて、負の運動効果発現区間SP−negaの表示により、歩数の減少(過去の怠け)が血圧の負の変化(つまり血圧の上昇)に直接結びついていることも容易に把握できる。これは、ユーザに反省を促し、運動の継続的な実施の必要性を気づかせる効果がある。
【0088】
<変形例>
上述した実施形態の構成は本発明の一具体例を示したものにすぎず、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。本発明はその技術思想を逸脱しない範囲において、種々の具体的構成を採り得るものである。
【0089】
例えば、図5のステップS1の処理において、データ蓄積部4にデータの欠損(抜け)がある場合がある。データ蓄積部4への登録忘れ、歩数や血圧の計測し忘れ、計測器やコンピュータのエラーなど、データの欠損が生じる原因はさまざま考えられる。このような欠損が含まれていると、時系列データを処理する際に支障がでる。そこで、データ取得部5が、前後のデータを用いて欠損を補完する処理を行うとよい。例えば、前後のデータを線形補間して欠損部分のデータを作成したり、最近傍補間(前のデータ又は後のデータと同じ値とする)により欠損部分のデータを作成したりすればよい。
【0090】
また、上記実施形態では、日単位の時系列データを用いたが、歩数および血圧の週ごとの平均を計算することで、日単位の時系列データを週単位の時系列データに変換し、週単位の時系列データを用いて運動と効果の因果関係を解析してもよい。週単位の平均値を用いることで、データの欠損や外れ値を除去できるので、解析の信頼性向上が期待できる。なお、週単位でなく、N日単位(N>1)、月単位などでもよい。
【0091】
また、上記実施形態では、「活動」と「効果」の一例として「運動(ウォーキング)」と「降圧効果」を挙げ、「活動指標」と「生体指標」の一例として「歩数」と「血圧」を挙げたが、本発明の適用範囲はこれに限らない。例えば、「運動(ウォーキング)」に因る「減量効果」を「歩数」と「体重」の時系列データから解析する、「身体活動」に因る
「減量効果」を「運動量(消費カロリー)又は活動量(運動強度(メッツ)と時間の積)」と「体脂肪率」の時系列データから解析する、「薬の服用」に因る「薬効」を「薬の用量」と「血糖値」の時系列データから解析するなど、さまざまな応用例が想定される。
【符号の説明】
【0092】
1:活動指標記録部、2:生体指標記録部、3:データ送信部、4:データ蓄積部、5:データ取得部、6:時間遅れ推定部、7:グラフ描画部、8:支援メッセージ生成部、9:支援メッセージパターン記憶部、10:描画合成部、11:出力部
20:装置、21:歩数計、22:血圧計
30:オンラインストレージ、31:端末、32:クラウドサーバ、33:端末
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17