(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなどの表示装置用デバイス基板においては、折り曲げ可能なペーパーディスプレイ等の開発に伴い、現行のガラス基板に代わる透明フィルム基板の必要性が増している。又、スマートホンやタブレット端末機器等の分野においては、電子機器の小型化、軽薄化、軽量化が進み、用いられているガラス、及びセラミックス基板の軽量化、柔軟化、高屈曲化が求められている。近年、これらガラス基板、セラミック基板の代替として、耐熱性、柔軟性に優れる透明フィルム基板、透明カバーレイを用いたフレキシブルプリント配線板の適用が進められている。
【0003】
フレキシブルプリント配線板をこれらの用途に適用するためには、ガラス並の無色透明性を持つ柔軟なフィルム状の材料が必要となる。又、当然、実装用基板(例えば、チップオンフィルム;COF基板などとして使用する場合)、としても適用される為、耐熱性、寸法安定性が要求される。特に、近年のIC実装技術の高度化、高密度化に応じ、フィルム基板材料には、より高度な、耐熱性、熱寸法安定性、吸湿寸法安定性、低吸湿性等が必要となる
【0004】
フレキシブルプリント配線板は、フレキシブル金属積層体をサブトラクティブ法等によりエッチング回路加工した後、回路上にカバーレイを積層することで製造される。従来より、フレキシブル金属積層体としては、a)金属箔と全芳香族ポリイミドフィルムを接着剤で貼り合わせた3層フレキシブル金属積層体(特許文献1)、b)接着剤を介さず芳香族ポリイミドフィルムを金属箔に積層した2層フレキシブル金属張積層体(特許文献2)、c)芳香族ポリイミドフィルムへ直接Crなどの金属をスパッタリング等により蒸着させ、更に銅を無電解、および/または電解メッキし製造するメタライジング型の2層フレキシブル金属張積層体(特許文献3)がある。
【0005】
しかし、いずれのフレキシブル金属積層体も基板材料として分子内、及び分子間での電荷移動錯体を形成する全芳香族ポリイミドフィルムを用いている。この為、可視光を吸収し、淡黄色〜赤褐色に着色しており、無色透明性が必要な用途に適用することは困難であった。又、芳香環を介したイミド基からなる分子構造は、高耐熱性を発現できるが、分極が大きく、水分子との親和性が高いという欠点があった。すなわち、吸湿率が高く、水分の影響で半田リフロー等の高温実装時に回路が膨れたり、剥離する等の問題点を抱えていた。更には、極性が高い分子構造が故に、柔軟性には劣り、スマートホンやタブレット端末機器等など、電子機器の小型化、軽薄化への対応が困難であった。
【0006】
カバーレイ材料も同様で、現状は、パターン形状に応じて予め打ち抜き加工した接着剤付のポリイミドフィルムのラミネート、或いは、インク化したポリイミドのスクリーン印刷等によりパターン上に積層されているが、いずれの場合も、全芳香族ポリイミドが使用されている。この為、無色透明性が必要な用途に適用することは困難であり、又、低吸湿性や柔軟性に関しても、同様で、必ずしも十分な性能ではなかった。
【0007】
透明な耐熱樹脂材料としては、ジアミン成分に脂環族ジアミンや脂肪族ジアミンを用いることにより、分子内及び分子間での電荷移動錯体の形成を抑制するポリイミドが提案されている。例えば、特許文献4にはピロメリット酸二無水物や3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等の芳香族酸二無水物とトランス−1,4−ジアミノシクロヘキサンとから形成されるポリイミド前駆体(ポリアミド酸)をイミド化して得られるポリイミドが提案されている。しかし、該ポリイミドは高耐熱性、高透明性を示すが、ポリイミド主鎖骨格の剛直性、直線性が高いため、伸度が低く、柔軟性に欠け、吸湿率も高いという問題点があった。
【0008】
また、特許文献5では屈曲性の高い4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂環族ジアミンと3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等の特定の芳香族酸二無水物とから形成される無色透明性の共重合ポリイミドが提案されている。しかし、耐熱性を十分満足しているとは言い難く、柔軟性、吸湿特性にも問題があった。
【0009】
又、特許文献4、5で提案されているポリイミドでは溶解性が乏しく、前駆体であるポリアミック酸の形で成型加工後(塗工後)、高温で熱処理しなければならず、従って、該樹脂を用いてフィルム等を連続的に生産するには、生産性が低下したり、高価な設備が必要となり、基本的に製造コストが高くなるという問題点があった。
【0010】
さらに、特許文献6ではシクロヘキサントリカルボン酸無水物と芳香族ジアミンより形成される無色透明性の変性ポリイミド樹脂が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明における無色透明性とは、本発明のポリエステルイミド樹脂フィルムを、以下の測定条件で測定したときに、フィルムの厚みが5μm以上の場合において、全光線透過率(%)が80%以上の場合をいう。
(測定条件)
測定サンプル;後述の方法で作製したポリエステルイミド樹脂フィルム。
測定方法;JISK7105に準ずる。
測定装置;ヘーズメーター(商品名「NDH2000」、日本電色工業(株)製、ランプ種D65)で測定し、結果項目の1つであるTtの値を全光線透過率とした。
(フィルム作製方法)
本発明のポリエステルイミド樹脂を含む樹脂溶液を厚さ100μmのPETフィルムに乾燥後の厚みが20μmになる様にナイフコーターで塗布する。次いで、50℃〜100℃の温度下、透明でタックフリーな状態になるまで乾燥後、PETフィルムから剥離し、自己支持性のフィルムを得る。
得られたフィルムをステンレス製の枠に、上下面、左右面の端を固定し、真空下、200℃30分、220℃30分、250℃5時間の条件で加熱処理する。
【0027】
<<ポリエステルイミド樹脂>>
<一般式(1)で示される化合物>
本発明のポリエステルイミド樹脂は、一般式(1)で示される構造を構成単位中に含有する。
【0029】
<一般式(1)のR1>
一般式(1)中、R1は一般式(3)で示される化合物、一般式(4)で示される化合物または一般式(5)で示される化合物である。
【0030】
<一般式(3)で示される化合物>
一般式(3)で示される化合物について説明する。
【化3】
一般式(3)中、Rは鎖式脂肪族基、環式脂肪族基または芳香族基を示し、複数個のRは、互いに同一であっても、異なっていてもよい。これらの鎖式脂肪族基、環式脂肪族基または芳香族基を、単独、又は2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0031】
mは1以上の正の整数であり、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましい。また、mの上限は特に限定されないが、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは10以下である。25を超える場合では耐熱性が低下する傾向にある。
【0032】
前記鎖式脂肪族基、環式脂肪族基または芳香族基は、「2価の水酸基を有する鎖式脂肪族化合物」、「2価の水酸基を有する環式脂肪族化合物」または「2価の水酸基を有する芳香族化合物」等の「ジオール化合物」から誘導される残基であることが望ましい。また、前記「ジオール化合物」と炭酸エステル類やホスゲン等から重合され得る「ポリカーボネートジオール化合物」から誘導される残基であってもよい。
【0033】
「2価の水酸基を有する鎖式脂肪族化合物」としては、2つの水酸基を有する分岐状、又は直鎖状のジオール化合物を用いることができる。たとえば、アルキレンジオール化合物、ポリオキシアルキレンジオール化合物、ポリエステルジオール化合物、ポリカプロラクトンジオール化合物等が挙げられる。「2価の水酸基を有する鎖式脂肪族化合物」として使用できる2つの水酸基を有する分岐状又は直鎖状のジオール化合物を以下に挙げる。
【0034】
アルキレンジオール化合物として、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0035】
ポリオキシアルキレンジオール化合物として、例えば、ジメチロールプロピオン酸(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸)、ジメチロールブタン酸(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸)、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、テトラメチレングリコールとネオペンチルグリコールとのランダム共重合体等が挙げられる。好ましくは、ポリオキシテトラメチレングリコールがよい。
【0036】
ポリエステルジオール化合物としては、例えば、以下に例示される多価アルコールと多塩基酸とを反応させて得られる、ポリエステルジオール化合物等が挙げられる。
【0037】
ポリエステルジオール化合物に用いる「多価アルコール成分」としては、任意の各種多価アルコールが使用可能である。例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、シクロヘキサンメタノール、ネオペンチルヒドロキシピパリン酸エステル、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、水添加ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物およびプロピレンオキサイド付加物、1,9−ノナンジオール、2−メチルオクタンジオール、1,10−ドデカンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、トリシクロデカンメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール等を使用できる。
【0038】
ポリエステルジオール化合物に用いる「多塩基酸成分」としては、任意の各種多塩基酸を使用することができる。例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5−ナフタル酸、2,6−ナフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,2’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、4−メチル−1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などの脂肪族や脂環族二塩基酸が使用できる。
【0039】
本発明に使用できるポリエステルジオール化合物の市販品として、具体的には、OD−X−688(DIC(株)製脂肪族ポリエステルジオール:アジピン酸/ネオペンチルグリコール/1,6−ヘキサンジオール、数平均分子量約2,000)、Vylon(登録商標)220(東洋紡(株)製ポリエステルジオール、数平均分子量約2,000)などを挙げることができる。
【0040】
ポリカプロラクトンジオール化合物として、例えば、γ−ブチルラクトン、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン等のラクトン類を開環付加反応させて得られるポリカプロラクトンジオール化合物等が挙げられる。
【0041】
上述の「2価の水酸基を有する鎖式脂肪族化合物」を、単独、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0042】
「2価の水酸基を有する環式脂肪族化合物」または「2価の水酸基を有する芳香族化合物」としては、「芳香環やシクロヘキサン環に2つの水酸基を有する化合物」、「2個のフェノールもしくは脂環式アルコールが2価の官能基で結合された化合物」、「ビフェニル構造の両方の核に水酸基を1つずつ有する化合物」、「ナフタレン骨格に2つの水酸基を有する化合物」などが用いられる。
【0043】
「芳香環やシクロヘキサン環に2つの水酸基を有する化合物」として、ヒドロキノン、2−メチルヒドロキノン、レゾルシノール、カテコール、2−フェニルヒドロキノン、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンメタノール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,3−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,2−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,3−アダマンタンジオール、ジシクロペンタジエンの2水和物、2,3−ジヒドロキシ安息香酸、2,4−ジヒドロキシ安息香酸、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,6−ジヒドロキシ安息香酸、3,4−ジヒドロキシ安息香酸、3,5−ジヒドロキシ安息香酸等のカルボキシル基含有ジオール化合物等が使用できる。
【0044】
「2個のフェノール」、もしくは、「脂環式アルコールが2価の官能基で結合された化合物」の例としては、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジフェノール、4,4’−ジヒドロキシジシクロヘキシルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジシクロヘキシルスルホン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF等が使用できる。
【0045】
また、「ビフェニル構造の両方の核に水酸基を1つずつ有する化合物」の例として、4,4’−ビフェノール、3,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノールなどが使用できる。
【0046】
「ナフタレン骨格に2つの水酸基を有する化合物」の例としては2,6−ナフタレンジオール、1,4−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、1,8−ナフタレンジオール等が使用できる。
【0047】
前記ジオール化合物の数平均分子量は、100以上30000以下であることが好ましく、より好ましくは150以上20000以下であり、さらに好ましくは200以上10000以下である。数平均分子量が100未満では、低吸湿性、柔軟性が十分発揮できず、又、30000より大きいと、「ジオール化合物」の組成、構造、後に説明するジアミン成分(またはイソシアネート成分)の組成、構造によっては、相分離し、機械的特性、無色透明性を十分発揮できない場合がある。
【0048】
ポリカーボネートジオール化合物としては、その骨格中上述した複数種のアルキレン基を有するポリカーボネートジオール(共重合ポリカーボネートジオール)であってもよい。例えば、2−メチル−1,8−オクタンジオールと1,9−ノナンジオールの組み合わせ、3−メチル−1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールの組み合わせ、1,5−ペンタンジオールと1,6−ヘキサンジオールの組み合わせなどにより合成され得る共重合ポリカーボネートジオールなどを挙げることができる。好ましくは、2−メチル−1,8−オクタンジオールと1,9−ノナンジオールの組み合わせより合成され得る共重合ポリカーボネートジオールである。これらのポリカーボネートジオール化合物を2種以上併用することもできる。
【0049】
本発明に使用できるポリカーボネートジオール化合物の市販品として(株)クラレ製クラレポリオールCシリーズ、旭化成ケミカルズ(株)デュラノール(登録商標)シリーズなどが挙げられる。例えば、クラレポリオールC−1015N、クラレポリオールC−1065N((株)クラレ製カーボネートジオール:2−メチル−1,8−オクタンジオール/1,9−ノナンジオール、数平均分子量約1,000)、クラレポリオールC−2015N、クラレポリオールC2065N((株)クラレ製カーボネートジオール:2−メチル−1,8−オクタンジオール/1,9−ノナンジオール、数平均分子量約2,000)、クラレポリオールC−1050、クラレポリオールC−1090((株)クラレ製カーボネートジオール:3−メチル−1,5−ペンタンジオール/1,6−ヘキサンジオール、数平均分子量約1,000)、クラレポリオールC−2050、クラレポリオールC−2090((株)クラレ製カーボネートジオール:3−メチル−1,5−ペンタンジオール/1,6−ヘキサンジオール、数平均分子量約2,000)、DURANOL(登録商標)−T5650E(旭化成ケミカルズ(株)製ポリカーボネートジオール:1,5−ペンタンジオール/1,6−ヘキサンジオール、数平均分子量約500)、DURANOL(登録商標)−T5651(旭化成ケミカルズ(株)製ポリカーボネートジオール:1,5−ペンタンジオール/1,6−ヘキサンジオール、数平均分子量約1,000)、DURANOL(登録商標)−T5652(旭化成ケミカルズ(株)製ポリカーボネートジオール:1,5−ペンタンジオール/1,6−ヘキサンジオール、数平均分子量約2,000)などを挙げることができる。好ましくは、クラレポリオールC−1015N等が挙げられる。
【0050】
ポリカーボネートジオールの製造方法としては、原料ジオールと炭酸エステル類とのエステル交換、原料ジオールとホスゲンとの脱塩化水素反応を挙げることができる。原料である炭酸エステルとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート;ジフェニルカーボネートなどのジアリールカーボネート;およびエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのアルキレンカーボネートが挙げられる。
【0051】
<一般式(4)で示される化合物>
一般式(4)で示される化合物について説明する。
【化4】
一般式(4)中、R3は、直結、アルキレン基(-C
nH
2n−)、パーフルオロアルキレン基(-C
nF
2n−)、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-)、カルボニル基(-CO-)、スルホニル基(−S(=O)
2−)、スルフィニル基(-SO-)、スルフェニル基(-S-)、カーボネート基(-OCOO-)、またはフルオレニリデン基を示す。nは1以上の正の整数である。nの上限は特に限定されないが、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。X1〜X8は、それぞれが同じであっても、異なっていても良く、それぞれ水素、ハロゲンまたはアルキル基を示す。
【0052】
一般式(4)で示される化合物の具体例としては、特に限定されないが、ジフェニルエーテル骨格、ジフェニルスルホン骨格、9−フルオレニリデンジフェノール骨格、ビスフェノールA骨格、ビスフェノールF骨格、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物骨格またはビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物骨格、ビフェニル骨格、ナフタレン骨格等が挙げられる。
【0053】
前記骨格は、一般式(4)の両方のベンゼン環に各1個の水酸基を有する化合物から誘導される残基であることが好ましい。一般式(4)で示される化合物の原料としては、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、4,4’−ビフェノール、3,4’−ビフェノール、2,2’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール、2,6−ナフタレンジオール、1,4−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオールまたは1,8−ナフタレンジオール等が使用できる。
好ましくは、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジフェノールまたはビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物がよい。さらに好ましくは、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルまたはビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物である。
これらの化合物を単独、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの原料を用いることで、一般式(1)のR1位に、前記ジフェニルエーテル骨格等を導入することができる。
【0054】
<一般式(5)で示される化合物>
一般式(5)で示される化合物について説明する。
【化5】
一般式(5)中、R4は、直結、アルキレン基(-C
nH
2n−)、パーフルオロアルキレン基(-C
nF
2n−)、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-)、カルボニル基(-CO-)、スルホニル基(−S(=O)
2−)、スルフィニル基(-SO-)、スルフェニル基(-S-)、カーボネート基(-OCOO-)、またはフルオレニリデン基を示す。nは1以上の正の整数である。nの上限は特に限定されないが、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。X1’〜X8 ’は、それぞれが同じであっても、異なっていても良く、それぞれ水素、ハロゲンまたはアルキル基を示す。
【0055】
一般式(5)で示される化合物の具体例としては、特に限定されないが、ジシクロヘキシルエーテル骨格、ジシクロヘキシルスルホン骨格、水添ビスフェノールA骨格、水添ビスフェノールF骨格、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物骨格または水添ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物骨格等が挙げられる。
【0056】
前記骨格は、一般式(5)の両方のシクロヘキサン環に各1個の水酸基を有する化合物から誘導される残基であることが好ましい。一般式(5)で示される化合物の原料としては、4,4’−ジヒドロキシジシクロヘキシルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジシクロヘキシルスルホン、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物または水添ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物等が使用できる。
好ましくは、4,4’−ジヒドロキシジシクロヘキシルエーテルまたは4,4’−ジヒドロキシジシクロヘキシルスルホンがよい。
これらの化合物を単独、又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。これらの原料を用いることで、一般式(1)のR1位に、前記ジシクロヘキシルエーテル骨格等を導入することができる。
【0057】
一般式(1)の構造は、一例を挙げるならば、シクロヘキサントリカルボン酸無水物のハロゲン化物とジオール類とを反応させエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を得、次いで、そのエステル基含有テトラカルボン酸二無水物とジアミン又はジイソシアネート等とを縮合反応(ポリイミド化)させて得ることができる。
【0058】
<一般式(2)で示される化合物>
本発明のポリエステルイミド樹脂は、さらに、一般式(2)で示される構造を構成単位中に含有するのがよい。
【0060】
<一般式(1)のR2および一般式(2)のR2’>
一般式(1)のR2および一般式(2)のR2’について説明する。R2およびR2’はそれぞれ独立して、2価の鎖式脂肪族基、2価の環式脂肪族基または2価の芳香族基であれば特に限定されない。これらの「2価の鎖式脂肪族基」、「2価の環式脂肪族基」、「2価の芳香族基」を、単独、又は2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
好ましくは、R2は下記一般式(6)で示される化合物であり、R2’は下記一般式(7)で示される化合物である。
【0061】
<一般式(6)で示される化合物>
一般式(1)におけるR2としては、耐熱性、柔軟性、低吸湿性のバランス等から、一般式(6)で示される化合物であることが好ましい。
【化6】
一般式(6)中、R5は、直結、アルキレン基(-C
nH
2n−)、パーフルオロアルキレン基(-C
nF
2n−)、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-)、カルボニル基(-CO-)、スルホニル基(−S(=O)
2−)、スルフィニル基(-SO-)またはスルフェニル基(-S-)を示す。nは1以上10以下の正の整数であることが好ましく、より好ましくは1以上5以下、さらに好ましくは1以上3以下である。X9〜16は、同じであっても、異なっていても良く、それぞれ水素、ハロゲンまたはアルキル基を示す。
【0062】
<一般式(7)で示される化合物>
一般式(2)におけるR2’としては、耐熱性、柔軟性、低吸湿性のバランス等から、一般式(7)で示される化合物であることが好ましい。
【化7】
一般式(7)中、R5’は、直結、アルキレン基(-C
nH
2n−)、パーフルオロアルキレン基(-C
nF
2n−)、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-)、カルボニル基(-CO-)、スルホニル基(−S(=O)
2−)、スルフィニル基(-SO-)またはスルフェニル基(-S-)を示す。nは1以上10以下の正の整数であることが好ましく、より好ましくは1以上5以下、さらに好ましくは1以上3以下である。X9’〜16’は、同じであっても、異なっていても良く、それぞれ水素、ハロゲンまたはアルキル基を示す。
【0063】
一般式(1)および一般式(2)において、「2価の鎖式脂肪族基」、「2価の環式脂肪族基」または「2価の芳香族基」を一般式(1)のR2位および一般式(2)のR2’位に導入するためには、それぞれ対応するジアミン成分又はジイソシアネート成分を用いることが好ましい。すわわち、「芳香族ジアミン又はそれに対応する芳香族ジイソシアネート」、「環式脂肪族ジアミン又はそれに対応する環式脂肪族ジイソシアネート」、「鎖式脂肪族ジアミン又はそれに対応する鎖式脂肪族ジイソシアネート」を適宜選択することによって、耐熱性、柔軟性、低吸湿性に優れたポリエステルイミド樹脂を得ることができる。
【0064】
一般式(1)のR2及び一般式(2)のR2’ のジアミン成分又はそれに対応するジイソシアネート成分は同一であっても異なっていてもよい。後述する好ましい製造方法に基づくならば、同一あるのが好ましい。
【0065】
R2およびR2’を基本骨格とするジアミン成分又はそれに対応するジイソシアネート成分について説明する。
【0066】
「芳香族ジアミン又はそれに対応する芳香族ジイソシアネート」としては、具体的には、ジアミン化合物として例示すると、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノデュレン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4、4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3、3’−ジアミノジフェニルスルフィド、4、4’−ジアミノジフェニルプロパン、3、3’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、P−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、1,4−ナフタレンジアミン、1,5−ナフタレンジアミン、2,6−ナフタレンジアミン、2,7−ナフタレンジアミン、ベンジジン、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジメチル−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジエチル−4、4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4、4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジエチル−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4、4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジエトキシ−4、4’−ジアミノビフェニル、o-トリジン、m−トリジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ジアミノターフェニル等が挙げられる。また、これらは、2種類以上併用することもできる。
【0067】
また、「環式脂肪族ジアミン又はそれに対応する環式脂肪族ジイソシアネート」としては、ジアミン化合物として例示すると、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、シス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン(トランス/シス混合物)、1,3−ジアミノシクロヘキサン、4,4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン) (トタンス体、シス体、トランス/シス混合物)、イソホロンジアミン、1,4−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、2,5−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、2,6−ビス(アミノメチル)ビシクロ〔2.2.1〕ヘプタン、3,8−ビス(アミノメチル)トリシクロ〔5.2.1.0〕デカン、1,3−ジアミノアダマンタン、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(2−エチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルシクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルシクロヘキシルアミン)、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)ヘキサフルオロプロパン等が挙げられる。また、これらは、2種類以上併用することもできる。
【0068】
「鎖式脂肪族ジアミン又はそれに対応する鎖式脂肪族ジイソシアネート」としては、ジアミン化合物として例示すると、1,3−プロパンジアミン、1,4−テトラメチレンジアミン、1,5−ペンタメチレンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,7−ヘプタメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン等が挙げられる。また、これらは、2種類以上併用することもできる。
【0069】
耐熱性、柔軟性、低吸湿性のバランス等から、一般式(1)中のR2及び一般式(2)中のR2’のジアミン成分又はそれに対応するジイソシアネート成分として好ましい成分は、ジアミン化合物として例示すると、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジアミン、o-トリジン、ジアミノターフェニル、4、4'-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、イソホロンジアミン等から誘導される残基である。より好ましくは、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ナフタレンジアミン、o-トリジンであり、さらに好ましいのは、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、o-トリジンである。最も好ましくは4,4’−ジアミノジフェニルメタン、o-トリジンから誘導される残基である。
【0070】
ポリエステルイミド樹脂を構成する全構成単位を100モル%としたときに、一般式(1)で示される構造、または一般式(1)で示される構造と一般式(2)で示される構造の合計を、20モル%以上含有するのが好ましく、より好ましくは50モル%以上含有するのがよく、さらに好ましくは70モル%以上含有するのがよい。ポリエステルイミド樹脂を構成する全構成単位を100モル%としたときに、一般式(1)及び一般式(2)で示される構造が20モル%未満の場合、柔軟性、低吸湿性を併せ持つ樹脂組成物の製造が困難となることがある。
【0071】
本発明のポリエステルイミド樹脂は、一般式(1)で示される構造と一般式(2)で示される構造のモル比が一般式(1)/一般式(2)=99/1〜1/99であるのが好ましく、一般式(1)/一般式(2)=90/10〜10/90であるのがより好ましく、一般式(1)/一般式(2)=80/20〜20/80であるのがさらに好ましく、一般式(1)/一般式(2)=70/30〜30/70であるのが特に好ましい。
【0072】
一般式(1)で示される構造が99を超えると、R1成分の化学構造によっては、耐熱性、熱寸法精度が損なわれる場合がある。又、一般式(2)で示される構造のモル比が99を超えると、R2成分及び/又はR2’成分に依存するが、概ね、低吸湿性、柔軟性が悪化する。又、溶解性も低下する。
【0073】
<<ポリエステルイミド樹脂の製造>>
【0074】
本発明のポリエステルイミド樹脂の製造方法の一例を挙げるならば、シクロヘキサントリカルボン酸無水物のハロゲン化物とジオール類とを反応させエステル基含有テトラカルボン酸二無水物を得、次いで、そのエステル基含有テトラカルボン酸二無水物とジアミン又はジイソシアネート等とを縮合反応(ポリイミド化)させて得ることができる。以下、本発明のポリエステルイミド樹脂の製造方法を例示するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0075】
たとえば、エステル基含有テトラカルボン酸二無水物は、無水-1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸クロライドと、上述の「ジオール化合物」とから公知の反応方法により合成できる。例えば、無水シクロヘキサントリカルボン酸クロライドと「ジオール化合物」とをテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、アセトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、酢酸エチル、ガンマブチロラクトンなどの溶媒中でエステル化させることで製造できる。モル比は、通常、無水シクロヘキサントリカルボン酸クロライド/ジオール化合物=2/1モルで、例えば、50〜200℃下、0.1〜10時間反応させる。この場合、アンチモン、チタン、錫、亜鉛、コバルト、ゲルマニウム、アルミ等の触媒を用いても良い。又、反応副生物として塩酸等が生成する為、通常は、反応終了後、生成物を濾別、精製する。
【0076】
上記のようにして得られたエステル基含有テトラカルボン酸二無水物をモノマーとして用い、各種ジアミン(ジアミン法)、或いは、ジイソシアネート(ジイソシアネート法)と重合させることで、耐熱性、柔軟性、低吸湿性、及び、十分な無色透明性を兼ね備えた有機溶剤に可溶なポリエステルイミド樹脂を製造することが可能である。
【0077】
製造コスト等の観点から、特に、好ましい製造法は脱炭酸反応により、ポリマーが得られるジイソシアネート法である。
【0078】
ジイソシアネート法の場合、無水シクロヘキサントリカルボン酸クロライドと「ジオール化合物」との反応で得られたエステル基含有テトラカルボン酸二無水物等とジイソシアネートとを有機溶媒中で略化学量論量、100〜200℃で加熱重縮合させることで、本発明に用いる樹脂組成物を得ることができる。重合溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N、N’−ジメチルホルムアミド、N、N’−ジメチルアセトアミド、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、テトラメチルウレア、スルホラン、ジメチルスルホオキシド、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどで、好ましくはN−メチル−2−ピロリドン、N、N’−ジメチルアセトアミド、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノンである。これら溶媒が重合溶媒として使用された場合は、そのまま後述するポリエステルイミドフィルムおよびシートを製造するための溶液として使用できる。また、これらの一部をトルエン、キシレンなどの炭化水素系有機溶剤、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフランなどのエーテル系有機溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤で置き換えることも可能である。
【0079】
本発明の目的を損なわない限り、上記に例示した、酸成分として、無水シクロヘキサントリカルボン酸クロライドに代えて、或いは、一部を以下に示すトリカルボン酸の無水物に置き換えても良い。
【0080】
a)トリカルボン酸;ジフェニルエーテル−3,3’,4’−トリカルボン酸、ジフェニルスルホン−3,3’,4’−トリカルボン酸、ベンゾフェノン−3,3’,4’−トリカルボン酸、ナフタレン−1,2,4−トリカルボン酸、ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、シクロヘキサントリカルボン酸、ジシクロヘキシルエーテル−3,3’,4’−トリカルボン酸、ジシクロヘキシルスルホン−3,3’,4’−トリカルボン酸、ジシクロヘキシルメタン−3,3’,4’−トリカルボン酸などのトリカルボン酸等の一無水物、エステル化物などの単独、或いは、2種以上の混合物。
【0081】
尚、無水シクロヘキサントリカルボン酸クロライドにはシス体、トランス体の異性体が存在し、蒸留・再結晶等の公知の方法に従い分離精製することができる。これらの混合比は特に限定されないが、トランス体の含有量が少なくなるとガラス転移温度の低下や熱膨張係数が高くなる傾向があるため、トランス体が50%重量以上が好ましく、より好ましくは90重量%以上の無水シクロヘキサントリカルボン酸クロライドを使用することが推奨される。
【0082】
又、本発明の目的を損なわない限り、上記に例示した、トリカルボン酸無水物以外にも以下に示す、テトラカルボン酸無水物、ジカルボン酸等を酸成分として用いることができる。
【0083】
b)テトラカルボン酸;ピロメリット酸、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、ジフェニルエーテル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、ジフェニルスルホン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、ナフタレン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸等の一無水物、二無水物、エステル化物などの単独、或いは、2種以上の混合物。
c)ジカルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シクロヘキサン−4,4’−ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸のジカルボン酸。
【0084】
本発明で用いられるポリエステルイミド樹脂の分子量は、N−メチル−2−ピロリドン中(ポリマー濃度0.5g/dl)、30℃での対数粘度にして0.1から2.5dl/gに相当する分子量を有するものが好ましく、より好ましくは0.3から1.5dl/gに相当する分子量を有するものである。対数粘度が0.1dl/g未満では、機械的特性が不十分となる場合があり、また、2.5dl/g超では溶液粘度が高くなる為、フィルム等へ加工する際の成形加工が困難となる。対数粘度の測定は以下の方法に基づけば良い。
【0085】
ポリエステルイミド樹脂を含む溶液を大量のアセトンで、再沈殿、精製して作製した粉末状のポリマーサンプルをポリマー濃度が0.5g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解する。その溶液の溶液粘度及び溶媒粘度を30℃で、ウベローデ型の粘度管により測定して、下記の式で計算する。
対数粘度(dl/g)=[ln(V1/V2)]/V3
上記式中、V1はウベローデ型粘度管により測定した溶液粘度を示し、V2はウベローデ型粘度管により測定した溶媒粘度を示すが、V1及びV2はポリマー溶液及び溶媒(N−メチル−2−ピロリドン)が粘度管のキャピラリーを通過する時間から求める。また、V3は、ポリマー濃度(g/dl)である。
【0086】
<<エポキシ樹脂>>
本発明で用いるエポキシ樹脂は、分子内にオキシラン環を有する化合物であれば、特に限定されない。ポリエステルイミド樹脂にエポキシ樹脂を配合することで、架橋構造を形成させることができ、優れた耐熱性、柔軟性、低吸湿性を発揮することができる。
【0087】
本発明で用いることのできるエポキシ樹脂としては、特に限定されないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン骨格含有エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、ビキシレノール型エポキシ樹脂、フルオレン系エポキシ樹脂、ナフタレン骨格含有エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、或いは、ゴム変性、ウレタン変性等、可撓性を付与したエポキシ樹脂、複素環含有エポキシ樹脂、多官能脂環式エポキシ樹脂等のグリシジル基を有する化合物が挙げられる。又、ビスフェノールSジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステルタイプ、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミン、3、4−エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油等の脂環族あるいは脂環族エポキサイト等も使用できる。
【0088】
また、基本的には、ポリエステルイミドの末端官能基であるカルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基と反応し得る官能基を有する化合物であれば使用できる為、必要に応じて、ノボラック型オキセタン樹脂などのオキセタン基含有化合物も使用できる。
【0089】
オキセタン基含有化合物としては、分子内にオキセタン環を有し、硬化可能なものであれば特に限定されず、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス−{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、3−エチル3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシル)プロポキシ]メチル}オキセタン、3,3−ビス(ヒドロキシメチル)オキセタン、ジ[1−ヒドロキシメチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3,3−ビス(ヒドロキシメチル)オキセタン、およびオキセタニル−シルセスキオキサンなどが挙げられる。
【0090】
これらのオキシラン環を含有する化合物は、単独又は2種類以上を組み合わせて使用しても構わない。
【0091】
上述の中でも、耐熱性、柔軟性、低吸湿性の特性等より、好ましいエポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂である。それぞれ市販のものがそのまま使用でき、例えば、大日本インキ(株)製EPICLON(登録商標)840(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、ジャパンエポキシレジン(株)製JER154(ノボラック型エポキシ樹脂)、大日本インキ(株)製HP−7200(ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂)、三菱ガス化学(株)製TETRAD−X、TETRAD−C(多官能グリシジルアミン型エポキシ樹脂)、大日本インキ(株)製EPICLON(登録商標)HP−4032(ナフタレン型エポキシ樹脂)、ジャパンエポキシレジン(株)製YX4000(ビフェニル型エポキシ樹脂)等がある。より好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂であり、さらに好ましくは、フェノールノボラックグリシジルエーテル、クレゾールノボラックグリシジルエーテルなどのノボラック型エポキシ樹脂、及びビスフェノールAグリシジルエーテルなどのビスフェノールA型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂であり、最も好ましいのはジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂である。
【0092】
本発明で使用するエポキシ樹脂のエポキシ当量は、10g/eq以上1000g/eq以下が好ましく、より好ましくは50g/eq以上500g/eq以下 、さらに好ましくは80g/eq以上200g/eq以下 である。エポキシ当量が10g/eq 未満では、架橋密度が向上し柔軟性が悪化してくる。又、1000g/eq 超では、耐熱性が悪化する傾向にある。尚、エポキシ当量の測定は、通常は、JIS K 7236に準じ、過塩素酸酢酸標準液により、電位差滴定で求めることができる。
【0093】
エポキシ樹脂量としては、ポリエステルイミド樹脂100重量%に対して0.5質量%以上50質量%以下、好ましくは3質量%以上30質量%以下、より好ましくは5質量%以上20質量%以下、最も好ましくは8質量%以上15質量%以下である。0.1質量%未満では、耐熱性が悪化する傾向にあり、50質量%超では、柔軟性が不十分となる傾向にある。
【0094】
<<ポリエステルイミド樹脂組成物>>
本発明のポリエステルイミド樹脂組成物は、前記ポリエステルイミド樹脂と、エポキシ樹脂および/または有機溶剤を含有する組成物である。ポリエステルイミド樹脂は有機溶剤に溶解していることが好ましい。ポリエステルイミド樹脂組成物は、必要ならば、ポリエステルイミドフィルム、或いはシートの諸特性、たとえば、透明性、機械的特性、電気的特性、滑り性、難燃性などを改良する目的で、本発明のポリエステルイミド樹脂を含む樹脂溶液に、他の樹脂や有機化合物あるいは無機化合物を混合したり又は反応させたりして、樹脂組成物としてもよい。
たとえば、滑剤(シリカ、タルク、シリコーン等)、接着促進剤、難燃剤(リン系やトリアジン系、水酸化アルミ等)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤等)、メッキ活性化剤、有機や無機の充填剤(タルク、酸化チタン、フッ素系ポリマー微粒子、顔料、染料、炭化カルシウム等)、その他、シリコーン化合物、フッ素化合物、イソシアネート化合物、ブロックイソシアネート化合物、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂のような樹脂や有機化合物、或いはこれらの硬化剤、酸化珪素、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化鉄などの無機化合物をこの発明の目的を阻害しない範囲で併用することができる。
樹脂組成物中のポリエステルイミド樹脂の含有量は、樹脂組成物の全固形分中50重量%以上が好ましく、更に好ましくは70重量%以上であり、特に好ましくは80重量%以上である。上限については特に制限はないが、99.0質量%以下であればよい。樹脂組成物中のポリエステルイミド樹脂の含有量が、全固形分中50重量%以上であれば、以下の記載するフィルムの製造が特に容易となる。
【0095】
さらに、本発明においては、必要に応じて、硬化促進剤を用いることができる。硬化促進剤としては、ポリエステルイミドの末端官能基であるカルボキシル基、アミノ基、イソシアネート基とオキシラン環を含有する化合物の間の硬化反応を促進できるものであればよく、特に制限はない。
【0096】
このような硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール誘導体、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン等のグアナミン類、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、m−キシレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、尿素、尿素誘導体、メラミン、多塩基ヒドラジド等のポリアミン類、これらの有機酸塩および/またはエポキシアダクト、三フッ化ホウ素のアミン錯体、エチルジアミノ−S−トリアジン、2,4−ジアミノ−S−トリアジン,2,4−ジアミノ−6−キシリル−S−トリアジン等のトリアジン誘導体類、トリメチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルオクチルアミン、N−ベンジルジメチルアミン、ピリジン、N−メチルモルホリン、ヘキサ(N−メチル)メラミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノフェノール)、テトラメチルグアニジン、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]−7−ウンデセン(「DBU」と称することがある)、1,5−ジアザビシクロ[4,3,0]−5−ノネン(「DBN」と称することがある)等の三級アミン類、これらの有機酸塩及び/又はテトラフェニルボロエート、ポリビニルフェノール、ポリビニルフェノール臭素化物、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリス−2−シアノエチルホスフィン等の有機ホスフィン類、トリ−n−ブチル(2,5−ジヒドロキシフェニル)ホスホニウムブロマイド、ヘキサデシルトリブチルホスホニウムクロライド、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボロエート等の四級ホスホニウム塩類、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、フェニルトリブチルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩類、前記ポリカルボン酸無水物、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボロエート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、2,4,6−トリフェニルチオピリリウムヘキサフルオロホスフェート、イルガキュアー261(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)、オプトマ−SP−170(ADEKA(株)製)等の光カチオン重合触媒、スチレン−無水マレイン酸樹脂、フェニルイソシアネートとジメチルアミンの等モル反応物や、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の有機ポリイソシアネートとジメチルアミンの等モル反応物等が挙げられる。これらを単独で又は2種類以上組み合わせて用いても構わない。これらのうちでは、潜在硬化性を有する硬化促進剤が好ましく、例えばDBU、DBNの有機酸塩及び/又はテトラフェニルボロエートや、光カチオン重合触媒等が挙げられる。これらは単独、または2種以上混合して用いても良い。
【0097】
硬化促進剤の使用量は、従来公知の適当な量を使用する。通常は、オキシラン環を含有する化合物100質量部に対して、0.1以上30質量部以下であるが、当然、触媒無しでも本発明の目的を達成できる。
【0098】
本発明においては、必要に応じて、硬化剤を用いることができる。エポキシ樹脂の硬化反応を触媒する硬化剤としては、従来公知の任意のエポキシ樹脂用硬化剤を使用することができる。例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルフィド、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチルトリアミン、トリエチルアミン、ベンジルジメチルアミンなどのアミン系化合物、トリフェニルホスフインなどの塩基性化合物、2−アルキルー4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−アルキルイミダゾール等のイミダゾール誘導体、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸等の酸無水物、三フッ化ホウ素トリエチルアミン錯体等の三フッ化ホウ素のアミン錯体、ジシアンジアミド等が挙げられる。これらは単独、または2種以上混合して用いても良い。
【0099】
その配合量は、従来公知の適当な量を使用する。通常は、オキシラン環を含有する化合物100質量部に対して、1質量部以上20質量部以下であるが、硬化剤なしでも本発明の目的を達成できる。
【0100】
エポキシ樹脂、或いは、必要に応じて触媒、硬化剤の配合は、通常は、重合後、得られた樹脂溶液に所定の量を添加し、均一になるまで混合する。
【0101】
また、前記樹脂溶液には、塗工時の作業性及び被膜形成前後の膜特性を向上させるため、消泡剤、レベリング剤、フェノール樹脂、染料または顔料等の着色剤類、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、滑剤等を添加することもできる。他にも、無機微粒子として、シリカ(SiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、チタニア(TiO
2)、酸化タンタル(Ta
2O
5)、ジルコニア(ZrO
2)、窒化珪素(Si
3N
4)、チタン酸バリウム(BaO・TiO
2)、炭酸バリウム(BaCO
3)、チタン酸鉛(PbO・TiO
2)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)、酸化ガリウム(Ga
2O
3)、スピネル(MgO・Al
2O
3)、ムライト(3Al
2O
3・2SiO
2)、コーディエライト(2MgO・2Al
2O
3/5SiO
2)、タルク(3MgO・4SiO
2・H
2O)、チタン酸アルミニウム(TiO
2?Al 2O
3)、イットリア含有ジルコニア(Y
2O
3?ZrO
2)、珪酸バリウム(BaO・8SiO
2)、窒化ホウ素(BN)、炭酸カルシウム(CaCO
3)、硫酸カルシウム(CaSO
4)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸マグネシウム(MgO・TiO
2)、硫酸バリウム(BaSO
4)、有機ベントナイト、カーボン、ハイドロタルサイトなどを使用することができ、これらの1種又は2種以上を使用することもできる。
【0102】
これらの添加剤は、エポキシ樹脂同様、得られた樹脂溶液に所定の量を添加し、均一になるまで混合するか、必要に応じて、3本ロール、ビーズミル等、従来公知の方法で、均一になるまで分散させる。
【0104】
本発明のポリエステルイミドフィルム、およびシートの製造方法としては特に限定されるものではなく、例えばポリエステルイミド樹脂溶液をエンドレスベルト、ドラム、キャリアフィルム、金属板等の支持体上に塗布後、初期乾燥させ、次いで、支持体より剥離し、熱処理する方法、ポリエステルイミド樹脂溶液を上記支持体上に塗布後、初期乾燥、熱処理し、完全に脱溶媒したフィルムを剥離する方法等が可能である。
【0105】
塗工方法としては、特に限定されるものではなく、従来からよく知られている方法を適用させることができる。ロールコーター、ナイフコーター、ドクターブレードコーター、グラビアコーター、ダイコーター、多層ダイコーター、リバースコーター、リバースロールコーターなどにより、塗工液の粘度を調整後、エンドレスベルト等の支持体に塗布することができる。
【0106】
本発明において、塗布後の初期乾燥条件に特に限定はないが、一般的には、ポリエステルイミド樹脂溶液に使用する溶媒の沸点(Tb(℃))より70℃〜130℃低い温度で初期乾燥する。初期乾燥温度が(Tb−70)℃より高いと、塗工面に発泡が生じ、また、乾燥温度が(Tb−130)℃より低いと、乾燥時間が長くなり、生産性が低下する。初期乾燥温度は、溶媒の種類によっても異なるが、一般には60〜150℃程度、好ましくは80〜120℃程度である。初期乾燥に要する時間は、一般には上記温度条件下で、塗膜中の溶媒残存率が5〜40%程度になる有効な時間とすればよいが、一般には1〜30分間程度、特に、2〜15分間程度である。溶媒の沸点近傍、或いは沸点以上の温度で更に乾燥(二次乾燥)するのが好ましい。
【0107】
又、熱処理条件も特に限定はなく、溶媒の沸点近傍、或いは沸点以上の温度で乾燥すればよいが、一般には120℃〜500℃、好ましくは200℃〜400℃である。120℃以下では乾燥時間が長くなり、生産性が低下し、500℃以上では、樹脂組成によっては劣化反応が進行し、樹脂フィルムがもろくなったり、透明性が低下する場合がある。熱処理に要する時間は、一般には上記温度条件下で、塗膜中の溶媒残存率が無くなる程度になる有効な時間とすればよいが、一般には数分間〜数十時間程度である。又、通常、熱処理は、上記の初期乾燥である程度の溶媒を乾燥させ、自己支持性のフィルムとした後、支持体より剥離し、更にその自己支持性フィルムの端部をピンなどに固定して行う方式が好ましい。
【0108】
本発明において、初期乾燥、熱処理は、不活性ガス雰囲気下、或いは、減圧下で行ってもよい。不活性ガスとしては、窒素、二酸化炭素、へリウム、アルゴン等が例示できるが、入手容易な窒素を用いるのが好ましい。又、減圧下で行う場合は、10
-5〜10
3Pa程度、好ましくは10
-1〜200Pa程度の圧力下で行うのが好ましい。
【0109】
本発明において、初期乾燥、二次乾燥ともに乾燥方式に特に限定はないが、ロールサポート方式やフローティング方式など、従来公知の方法で行うことができる。又、熱処理は、テンター式などの加熱炉での連続熱処理や、巻き物状態で巻き取り、バッチ式のオーブンで熱処理しても良い。バッチ式の場合、塗布面と非塗布面が接触しない様に巻き取ることが好ましい。
【0110】
ポリエステルイミドフィルムの厚さは、広い範囲から選択できるが、一般には絶乾後の厚さで3〜300μm程度、好ましくは10〜100μm程度である。厚さが3μmよりも小さいと、フィルム強度等の機械的性質やハンドリング性に劣り、一方、厚さ300μmを超えるとフレキシブル性などの特性や加工性(乾燥性、塗工性)等が低下する傾向がある。又、必要に応じて、表面処理を施してもよい。例えば、加水分解、コロナ放電、低温プラズマ、物理的粗面化、易接着コーティング処理等の表面処理を施すことができる。本発明のポリエステルイミド樹脂および樹脂組成物を用いたポリエステルイミドフィルムは、カバーレイフィルム等に好適用いることができる。
【実施例】
【0111】
本発明をさらに詳細に説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明は実施例になんら限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は以下の方法によって測定したものである。実施例中に単に部とあるのは質量部を示す。また、測定に用いたフィルム、プリント配線板の作製方法もあわせて示す。
【0112】
<フィルム作製方法>
後述の各実施例、比較例で得られた樹脂溶液を厚さ100μmのPETフィルムに乾燥後の厚みが20μmになる様にナイフコーターで塗布した。次いで、50℃〜100℃の温度下、透明でタックフリーな状態になるまで乾燥後、PETフィルムから剥離し、自己支持性のフィルムを得た。
得られたフィルムをステンレス製の枠に、上下面、左右面の端を固定し、真空下、200℃30分、220℃30分、250℃5時間の条件で加熱処理した。
【0113】
<フレキシブルプリント配線板(FPC)作製方法>
フレキシブル銅張積層体バイロフレックス(登録商標)(東洋紡(株)製、基材樹脂厚;25μm、銅箔厚;18μm、銅箔種;電解)の銅箔表面に感光性レジストを積層し、マスクフィルムにて、露光、焼け付け、現像し、JIS C 5016に規定されている半田耐熱性、耐薬品性試料の配線を作製した。次いで、40℃、35%の塩化第二銅溶液を用いて、銅箔をエッチング除去し、回路形成に用いたレジストをアルカリにより除いた。
次いで、得られた回路板の回路側に、後述の各実施例、比較例得られた樹脂溶液を乾燥後の厚みが10μmになる様にナイフコーターで塗布した。実施例1〜6、比較例1においては、50℃〜100℃の温度下、透明でタックフリーな状態になるまで乾燥後、真空下、200℃30分、220℃30分、250℃3時間の条件で加熱処理した。又、実施例7、実施例8においては、80℃×30分熱風乾燥した後、空気雰囲気下、120℃で60分間加熱処理した。
これにより、後述の各実施例、比較例得られた樹脂溶液により得られる層をカバーレイとしたFPCを得ることができる。
【0114】
<対数粘度の測定>
各実施例、比較例で得られた重合溶液を大量のアセトンで、再沈殿、精製して作製した粉末状のポリマーサンプルをポリマー濃度が0.5g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した。その溶液の溶液粘度及び溶媒粘度を30℃で、ウベローデ型の粘度管により測定して、下記の式で計算した。
対数粘度(dl/g)=[ln(V1/V2)]/V3
上記式中、V1はウベローデ型粘度管により測定した溶液粘度を示し、V2はウベローデ型粘度管により測定した溶媒粘度を示すが、V1及びV2はポリマー溶液及び溶媒(N−メチル−2−ピロリドン)が粘度管のキャピラリーを通過する時間から求めた。また、V3は、ポリマー濃度(g/dl)である。
【0115】
<熱寸法変化率:耐熱性の指標>
各実施例、比較例で得られた樹脂溶液を用いて作製したフィルムをIPC−TM−650,2.2.4(c)により(C法;150℃×30分の条件で熱処理前後の寸法変化率)、MD方向に測定した。
【0116】
<半田耐熱性:耐熱性の指標>
各実施例、比較例で得られた樹脂溶液を用い作製した、フィルム、FPCを、25℃、65%(湿度)で24時間調湿し、フラックス洗浄した。次いで、20秒間、260℃の噴流半田浴に浸漬し、顕微鏡で変形、変色、剥がれ、膨れの有無を観察した。有を×、無を○とした。
【0117】
<ガーレー式柔軟度:柔軟性の指標>
各実施例、比較例で得られた樹脂溶液を用い作製したフィルムをJIS L 1096に準じ、ガーレー法により、以下の条件で測定した。
測定装置;(株)東洋製作所製
サンプルサイズ;25.4mm(巾)×88.9mm(長さ)×20μm(厚み)
アーム回転速度;2rpm
【0118】
<加湿半田耐熱性:吸湿性の指標>
各実施例、比較例で得られた樹脂溶液を用い作製した、フィルム、FPCを、40℃、90%(湿度)で24時間調湿し、フラックス洗浄した。次いで、20秒間、260℃の噴流半田浴に浸漬し、顕微鏡で変形、変色、剥がれ、膨れの有無を観察した。変形、変色、剥がれ、膨れのいずれかが目視により観察された場合、有を×、無を○とした。
【0119】
<全光線透過率:無色透明性の指標>
以下の条件で測定し、結果項目の1つであるTtの値を全光線透過率とした。
測定サンプル;後述の実施例、比較例の方法で作製。
測定方法;JISK7105に準ずる。
測定装置;ヘーズメーター(商品名「NDH2000」、日本電色工業(株)製、ランプ種D65)
【0120】
<高温半田耐熱性>
各実施例、比較例で得られた樹脂溶液に所定量のエポキシ樹脂を配合し、ポリエステルイミド樹脂組成物を得た。該ポリエステルイミド樹脂組成物でFPCを作製し(但し、FPCの作製において、塗布後の乾燥条件は、80℃×30分熱風乾燥した後、空気雰囲気下、120℃で60分とした。)、高温半田耐熱性を噴流半田浴の温度を300℃にし、測定した。顕微鏡で変形、変色、剥がれ、膨れの有無を観察して、変形、変色、剥がれ、膨れのいずれかが目視により観察された場合、有を×、無を○とした。
【0121】
(実施例1)
反応容器に無水シクロヘキサントリカルボン酸クロライドとジオール化合物としてPTMG1000(三洋化成工業(株)製、分子量1000)とを反応させてなるジエステルテトラカルボン酸二無水物 95.22g(0.07モル)、無水シクロヘキサントリカルボン酸クロライド5.95g(0.03モル)、ジイソシアネートとして4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート25.03g(0.1モル)、フッ化カリウム0.1gを入れ、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン249.46gに溶解した後、窒素気流下、撹拌しながら、80℃〜190℃で8時間反応させることにより、透明で粘稠なポリエステルイミド溶液を得た。得られたポリエステルイミドの対数粘度は、表1に示すように0.95dl/gであった。得られた樹脂溶液を用いフィルム、FPCを作製し、表2、表3に示す内容で特性を評価した。樹脂特性を表1、フィルム特性を表2、FPC特性に表3に示す。
【0122】
(実施例2〜5、比較例1)
「ジオール化合物」等の成分、イソシアネート成分を表1の内容にした以外は、実施例1と同様にし、樹脂溶液を作製した。得られた各ポリエステルイミドの対数粘度は、表1に示す。得られた樹脂溶液を用いフィルム、FPCを作製し、表2、表3に示す内容で特性を評価した。樹脂特性を表1、フィルム特性を表2、FPC特性に表3に示す。
【0123】
(実施例6)
反応容器に無水シクロヘキサントリカルボン酸クロライドとジオール化合物としてC1015(クラレ(株)製、分子量1000)とを反応させてなるジエステルテトラカルボン酸二無水物 136.03g(0.1モル)、ジイソシアネートとしてo-トリジンジイソシアネート26.43g(0.1モル)、フッ化カリウム0.1gを入れ、1、3−ジメチル−2−イミダゾリジノン326.53gに溶解した後、窒素気流下、撹拌しながら、80℃〜190℃で8時間反応させることにより、透明で粘稠なポリエステルイミド溶液を得た。得られたポリエステルイミドの対数粘度は、表1に示すように0.88dl/gであった。得られた樹脂溶液を用いフィルム、FPCを作製し、表2、表3に示す内容で特性を評価した。樹脂特性を表1、フィルム特性を表2、FPC特性を表3に示す。
【0124】
(実施例7)
反応容器にC−1015(クラレ(株)製、分子量1000)とシクロヘキサントリカルボン酸無水物を反応させてなるジエステルテトラカルボン酸二無水物 136.03g(0.1モル)、o−トリジンジイソシアネート26.43g(0.1モル)、フッ化カリウム0.1gを入れ、γ−ブチロラクトン326.53gに溶解した後、窒素気流下、撹拌しながら、80℃〜190℃で8時間反応させることにより、透明で粘稠なポリエステルイミド溶液を得た。得られたポリエステルイミド樹脂の対数粘度は0.80dl/gであった。
得られた樹脂溶液中のポリエステルイミド樹脂の樹脂分100質量部に対して、HP−7200H(DIC(株)製ジシクロペンタジエン含有フェノールノボラック型エポキシ樹脂の商品名)12質量部を加え、γ−ブチロラクトンで希釈した。さらに硬化促進剤としてUCAT−5002(サンアプロ(株)製)を2.1質量部加え、三本ロールミル((株)小平製作所製、型式:RIII−1RM−2)に3回通して混練することによりエポキシ樹脂の配合物を得た。
得られた配合物を用い、FPCを作製し(但し、FPCの作製において、塗布後の乾燥条件は、80℃×30分熱風乾燥した後、空気雰囲気下、120℃で60分とした。)、高温半田耐熱性を噴流半田浴の温度を300℃にし、測定した。結果は、「○」で、同じ条件で評価した実施例6(エポキシ樹脂不配合)で作製したFPCは「×」であった。
【0125】
(実施例8)
実施例7と同様に、ただし、HP−7200H(DIC(株)製ジシクロペンタジエン含有フェノールノボラック型エポキシ樹脂の商品名)を0.1質量部とし、FPCを作製し、高温半田試験を行った。結果は「×」であった。
【0126】
【表1】
【0127】
表1中の略号を以下に示す。
略号
PTMG1000;三洋化成工業(株) ポリオキシテトラメチレングリコール
BPE-20 ;三洋化成工業(株) ニューポールBPE-20(ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物)
C-1015 ;(株)クラレ製カーボネートジオール:2−メチル−1,8−オクタンジオール/1,9−ノナンジオール、数平均分子量約1000
DHDE ;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル
MDI ;4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート
TODI ;o−トリジンジイソシアネート
【0128】
【表2】
【0129】
【表3】
【0130】
フィルム特性の評価結果より、比較例1のポリアミドイミド組成では、半田耐熱性には優れるが熱寸法安定性に劣り、又、ガーレ式柔軟度、加湿半田耐熱性に劣る。これに対し、実施例1〜実施例6のポリエステルイミド組成のフィルムは、耐熱性(半田耐熱性、熱寸法変化率)、柔軟性(ガーレ式柔軟度)、吸湿特性(加湿半田耐熱性)ともに優れる為、耐熱性、柔軟性、吸湿特性が要求されるフレキシブルプリント配線板の基板材料として使用できる。
【0131】
FPC特性の評価結果も同様で、比較例1のポリアミドイミド組成では、半田耐熱性には優れるが、加湿半田耐熱性に劣るのに対し、実施例1〜実施例6のポリエステルイミド組成では、半田耐熱性、吸湿特性(加湿半田耐熱性)ともに優れる。フィルム特性の結果と併せ、耐熱性、柔軟性、吸湿特性が要求されるフレキシブルプリント配線板の基板材料、カバーレイ材料として使用できる。
【0132】
又、実施例7、実施例8より、適当な配合量のエポキシ樹脂を用いて架橋構造を形成させることで、さらに吸湿特性(高温半田耐熱性)の向上が認められた。