(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記試験室に対して供給される前記湿潤空気の流量と、前記試験室から排出される前記湿潤空気の流量と、をそれぞれ調整する前記試験環境調整部は、前記試験室の前段及び後段に位置する湿潤空気用配管に設けられた調整弁である、請求項1〜6の何れか1項に記載の耐食性試験装置。
耐食性に関する試験対象である金属製の試験片が配設される試験室と、前記試験室に対して供給される湿潤空気を生成する湿潤空気生成部と、前記試験室の外部の温度を少なくとも含む試験環境を調整するように制御される機能を有する試験環境調整部と、を備え、前記試験室は、所定の熱伝導率を有する素材で形成される筺体部と、前記筺体部の一部に設けられた開口部を充填するように埋設され、前記筺体部よりも熱伝導率の高い伝熱部材で形成された高熱伝導部と、から構成されており、前記試験片が前記高熱伝導部に配設される耐食性試験装置を用い、
前記試験室の外部の温度を、前記湿潤空気の温度よりも高い第1の温度に調整しつつ、当該第1の温度を所定時間維持することで、前記試験室の内部を乾燥させる乾燥プロセスと、
前記試験室の外部の温度を、前記湿潤空気の温度よりも低い第2の温度に調整しつつ、当該第2の温度を所定時間維持することで、前記試験室の内部を湿潤させる湿潤プロセスと、
を交互に実施する、耐食性試験方法。
耐食性に関する試験対象である金属製の試験片が配設される試験室と、前記試験室に対して供給される湿潤空気を生成する湿潤空気生成部と、前記試験室の外部の温度を少なくとも含む試験環境を調整するように制御される機能を有する試験環境調整部と、を備え、前記試験室は、所定の熱伝導率を有する素材で形成される筺体部と、前記筺体部の一部に設けられた開口部を充填するように埋設され、前記筺体部よりも熱伝導率の高い伝熱部材で形成された高熱伝導部と、から構成されており、前記試験片が前記高熱伝導部に配設される耐食性試験装置を用い、
前記試験室に対して前記湿潤空気を所定時間供給させた後、前記試験室に対する前記湿潤空気の供給及び前記試験室からの前記湿潤空気の排出を停止する湿潤空気供給プロセスと、
前記試験室の外部の温度を、前記湿潤空気の温度よりも低い第2の温度に調整しつつ、当該第2の温度を所定時間維持することで、前記試験室の内部を湿潤させる湿潤プロセスと、
前記試験室の外部の温度を、前記湿潤空気の温度よりも高い第1の温度に調整しつつ、当該第1の温度を所定時間維持することで、前記試験室の内部を乾燥させる乾燥プロセスと、
を順次実施する、耐食性試験方法。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0027】
(耐食性試験装置の全体構成について)
まず、
図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る耐食性試験装置の全体構成について、詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る耐食性試験装置の全体構成の一例を示した模式図である。
【0028】
本実施形態に係る耐食性試験装置は、鉄や非鉄金属等を含む金属板、又は、めっき等の表面処理の施された金属板、樹脂もしくはセラミックス材料等を試験対象として、かかる金属板等の耐食性を試験する装置である。本実施形態に係る耐食性試験装置は、塩化物イオンの濃度が100ppm以下という腐食促進因子がほとんど存在しない環境であっても、試験対象とする金属板等の耐食性を評価することが可能である。この耐食性試験装置10は、例えば
図1に模式的に示したように、少なくとも試験ユニット100を有しており、好ましくは、更に、制御ユニット200を有する。
【0029】
試験ユニット100は、試験対象とする金属板から採取された試験片が所定の場所に設置されて、かかる試験片の耐食性が試験されるユニットである。この試験ユニット100は、
図1に示したように、湿潤空気生成部101と、試験室103と、試験環境調整部105と、を有している。なお、後述するように、試験環境調整部105は、試験室103を取り囲むように配置され、試験室103が試験環境調整部105の内部に設けられていてもよい。
【0030】
湿潤空気生成部101は、後述する試験室103に対して供給される湿潤空気を生成する部分である。湿潤空気生成部101では、所定の温度に調整された水の中に所定の圧力(空気圧)に調整された空気が吹き込まれることで、飽和状態にある湿潤空気が生成される。すなわち、かかる湿潤空気生成部101は、相対湿度がほぼ100%である湿潤空気(好ましくは、相対湿度が100%である湿潤空気)を生成する部分である。湿潤空気生成部101によって生成された湿潤空気は、断熱された配管を介して試験室103へと供給される。
【0031】
なお、湿潤空気生成部101の具体的な構成は、以下で改めて説明する。
また、湿潤空気を供給するための配管については、特に限定されるものではなく、断熱されたパイプ状の部材であれば、例えば、樹脂製のもの、金属製のもの、合金製のもの等といった公知の部材を利用することが可能である。かかる場合において、配管に用いるパイプ状の部材が単独では十分な断熱性を有していない場合であっても、かかるパイプ状の部材の周囲に断熱材を十分に巻きつけて、配管内を通る湿潤空気と外部環境とが互いに影響を及ぼしあわないようになっていればよい。かかる配管として、例えば、プラスチック製のパイプに断熱材を十分に巻き付けたもの(例えば、φ10mmのプラスチック製のパイプに、外形がφ30〜40mm程度となるまで断熱材を巻き付けたもの)を利用することが可能である。
【0032】
先だって説明した塩水噴霧試験や特許文献1に記載の方法では、NaClを含む液体を噴霧する。かかるNaCl等の塩化物イオンを含む塩類は水分を吸収する性質(すなわち、潮解性)を有するため、塩水噴霧試験や特許文献1に記載の方法では、供給する湿潤空気の相対湿度を気にすることなく、結露状態を作り出すことができる。しかしながら、本実施形態に係る耐食性試験装置10は、NaCl等の塩化物イオンを含む塩類の濃度が例えば100ppm以下という、塩化物イオンを含む塩類がほとんど存在しない環境を模擬するものであるため、かかる塩類の特性を利用して結露状態を作り出すことができない。そのため、上記のように、湿潤空気生成部101によって、飽和状態にある湿潤空気(相対湿度がほぼ100%である湿潤空気)を作り出すことが重要となる。
【0033】
試験室103は、耐食性に関する試験対象である金属製の試験片が配設される。試験室103は、断熱された配管によって湿潤空気生成部101と接続されており、湿潤空気生成部101によって生成された湿潤空気が供給される。また、試験室103には、試験室103から湿潤空気を排出するための、断熱された配管が接続されており、かかる配管を通じて、試験室103に供給された湿潤空気が試験室103の外部へと排出される。
【0034】
本実施形態に係る耐食性試験装置10では、かかる試験室103の外部の温度を、供給される湿潤空気の温度よりも低い温度にしたり高い温度にしたりすることで、試験室103の内部を、結露が生じる状態や乾燥した状態に制御する。換言すれば、本実施形態に係る耐食性試験装置10は、試験室103の内部雰囲気の絶対湿度を定露点とし、試験室103を冷熱サイクルにかけることで、試験室103の内部の相対湿度を制御する。従って、かかる試験室103は、調湿機能を有していないことが重要である。
【0035】
また、本実施形態に係る耐食性試験装置10では、塩化物イオン濃度が100ppm以下という、腐食促進因子の存在しない環境を模擬するものであるため、試験室103の内部の塩化物イオン濃度を、100ppm以下とする。
【0036】
かかる試験室103の具体的な構成については、以下で改めて詳細に説明する。
【0037】
試験環境調整部105は、試験室103の外部の温度を少なくとも含む試験環境を調整するように制御される機能を有するものである。かかる試験環境調整部105は、上記の試験環境として、更に、試験室103に対して供給される湿潤空気の温度及び流量と、試験室103から排出される湿潤空気の流量との少なくとも何れかを調整するように制御される機能を有することが好ましい。
【0038】
この試験環境調整部105は、具体的には、湿潤空気生成部101や、試験室103や、試験室103に接続されている配管や、試験室103の外部の空間等に設けられている、様々な機器や部材によって実現される。
【0039】
例えば、試験室103の外部の温度に関する試験環境を調整する試験環境調整部105は、試験室103の外部に設けられた、ヒーターやクーラーやサーモスタット等といった温度調整機構、又は、試験室103を取り囲むように設けられた恒温槽として実現することが可能である。
【0040】
また、試験室103に対して供給される湿潤空気の流量や、試験室103から排出される湿潤空気の流量をそれぞれ調整する前記試験環境調整部105は、試験室103の前段及び後段に位置する配管に設けられた各種の調整弁として実現することが可能である。
【0041】
更に、試験室103に対して供給される湿潤空気の温度を調整する試験環境調整部105は、湿潤空気生成部101に設けられた、ヒーターやクーラーやサーモスタット等の各種の温度調整機構として実現することが可能である。
【0042】
これらの試験環境調整部105が、湿潤空気生成部101や、試験室103の外部の環境や、配管等を適切に調整することで、耐食性試験の試験環境を所望の状態に維持することが可能となる。
【0043】
これらの試験環境調整部105は、耐食性試験装置10に対する各種のユーザ入力に基づいて、後述する制御ユニット200により制御されてもよい。また、これらの試験環境調整部105をユーザが直接操作することで、所望の試験環境が実現されてもよい。
【0044】
これらの試験環境調整部105の具体例についても、以下で改めて説明する。
【0045】
これらの試験環境調整部105が互いに連携しながら機能することにより、試験片の耐食性試験を行うことができる。
【0046】
例えば、これらの試験環境調整部105が、(1)試験室103の外部の温度を、湿潤空気の温度よりも高い第1の温度に調整しつつ、当該第1の温度を所定時間維持することで、試験室103の内部を乾燥させる乾燥プロセスと、(2)試験室103の外部の温度を、湿潤空気の温度よりも低い第2の温度に調整しつつ、当該第2の温度を所定時間維持することで、試験室103の内部を湿潤させる湿潤プロセスと、が交互に実施されるように試験環境を調整することで、試験片の耐食性試験を行うことができる。
【0047】
また、上記の試験環境調整部105が、(1)試験室103に対して湿潤空気を所定時間供給させた後、試験室103に対する湿潤空気の供給及び試験室103からの湿潤空気の排出を停止する湿潤空気供給プロセスと、(2)試験室103の外部の温度を、湿潤空気の温度よりも低い第2の温度に調整しつつ、当該第2の温度を所定時間維持することで、試験室103の内部を湿潤させる湿潤プロセスと、(3)試験室103の外部の温度を、湿潤空気の温度よりも高い第1の温度に調整しつつ、当該第1の温度を所定時間維持することで、試験室103の内部を乾燥させる乾燥プロセスと、が順次実施されるように、試験環境を調整することで、試験片の耐食性試験を行うことができる。
【0048】
なお、これら2種類の耐食性試験方法については、以下で改めて説明する。
【0049】
以上、
図1を参照しながら、本実施形態に係る耐食性試験装置10が備える試験ユニット100について説明した。
【0050】
制御ユニット200は、試験ユニット100の各種機能を制御するユニットである。かかる制御ユニット200は、例えば、試験ユニット100に設けられている各種の試験環境調整部105を制御することで、試験ユニット100を所望の状態となるように制御する。
【0051】
かかる制御ユニット200の具体的な構成については、特に限定されるものではなく、公知の制御ユニットを利用することが可能である。例えば、かかる制御ユニット200は、上記のような試験環境調整部105に実装されているICチップ等からなる制御基板であってもよいし、コンピュータの管理下で稼働する、試験環境調整部105に実装されているアクチュエータ等の駆動機構であってもよい。また、かかる制御ユニット200は、試験ユニット100の機能を統括的に制御するコンピュータ等のような演算処理装置であってもよい。
【0052】
かかる制御ユニット200は、ユーザ操作に応じて試験環境調整部105を所望の状態となるように制御する。また、制御ユニット200は、予め設定された各種の制御プログラムに基づいて、試験ユニット100の状態を自動的に制御することも可能である。
【0053】
以上、
図1を参照しながら、本実施形態に係る耐食性試験装置10の全体構成を説明した。
【0054】
(試験ユニット100の具体例について)
次に、
図2〜
図6を参照しながら、本実施形態に係る耐食性試験装置10が備える試験ユニット100について、具体的に説明する。
図2は、本実施形態に係る耐食性試験装置の試験ユニットの構成の一例を示した模式図である。
図3は、本実施形態に係る試験ユニットについて説明するための説明図である。
図4及び
図5は、本実施形態に係る耐食性試験装置の試験ユニットの構成の一例を示した模式図である。
図6は、本実施形態に係る耐食性試験装置の試験ユニットの構成の他の一例を示した模式図である。
【0055】
<湿潤空気生成部101>
図2に模式的に示したように、試験ユニット100の湿潤空気生成部101は、洗浄瓶等の容器111と、容器111に収容されている水(蒸留水)113と、水113に浸漬されているノズル115と、から構成されている。また、容器111には、水113に浸漬しないように、湿潤空気を供給するための供給用配管107が接続されている。
【0056】
ここで、ノズル115の途中には、ノズル115中を流れる空気の流量を計測するための流量計117が設けられていても良い。また、容器111に収容されている水113の中には、水113の温度(ひいては、生成される湿潤空気の温度)を所望の温度に調整するための温度調整機構119が設けられている。かかる温度調整機構119が、試験室103に対して供給される湿潤空気の温度を調整する試験環境調整部105の一例である。なお、温度調整機構119は、温度を制御できるものであれば特に限定されるものではなく、サーモスタット等の公知の温度調整機構を利用可能である。
【0057】
所定の圧力(空気圧)に調整された空気は、ノズル115を介して、温度調整機構119により所望の温度まで加熱された水113へと吹き込まれ、水中を発泡上昇することで、相対湿度100%の湿潤空気となる。生成された相対湿度100%の湿潤空気は、供給用配管107を介して試験室103へと供給されるが、供給用配管107の途中には流量調整弁121が設けられており、湿潤空気の供給流量が調整される。かかる流量調整弁121が、試験室103に対して供給される湿潤空気の流量を調整する試験環境調整部105の一例である。
【0058】
<試験室103>
試験室103は、所定の熱伝導率を有する素材で形成される筺体部131と、筺体部131よりも熱伝導率の高い伝熱部材で形成された高熱伝導部133と、から構成されている。本実施形態では、例えば、筺体部131を樹脂製とし、高熱伝導部133を金属製又は合金製とすることができる。ここで、
図3に模式的に示したように、筺体部131の一部(例えば、筺体部131の底面)には開口部が設けられており、かかる開口部を充填するように、例えば伝熱板やヒートシンク等の伝熱部材が埋設されている。この埋設された伝熱部材が、高熱伝導部133となる。また、試験室103には、試験片Sを試験室103の内部に配設するための開閉可能な出し入れ口(図示せず。)が設けられている。
【0059】
試験室103の筺体部131には、湿潤空気の供給用配管107と、湿潤空気を試験室103から排出するための排出用配管109が接続されている。また、排出用配管109の途中には、流量調整弁123が設けられており、湿潤空気の排出流量が調整される。かかる流量調整弁123が、試験室103から排出される湿潤空気の流量を調整する試験環境調整部105の一例である。
【0060】
また、試験室103の外部には、外部の温度を調整するための外部温度調整機構151が設けられている。かかる外部温度調整機構151が、試験室103の外部の温度に関する試験環境を調整する試験環境調整部105の一例である。かかる外部温度調整機構151は、温度を制御できるものであれば特に限定されるものではなく、ヒーターやクーラーやサーモスタット等、公知のものを利用することが可能である。
【0061】
更に、試験室103の内部には、試験室103の内部の温度や湿度を測定するためのセンサ135が設けられている。かかるセンサ135からの出力に着目することで、試験室103内の温度や湿度を随時把握することが可能となる。
【0062】
本実施形態に係る試験室103では、開口部を充填するように伝熱部材が埋設されていることで、試験室103の内部と外部とで直接的な雰囲気の流入・流出は存在しない。しかしながら、試験室103が熱伝導率の異なる2つの部分から構成されることで、試験室103の内部と外部との間の熱の移動は、高熱伝導部133を介して行われるようになる。その結果、試験室103の内部の温度は、容易かつ迅速に試験室103の外部の温度に追随するようになる。
【0063】
また、熱の移動が主に高熱伝導部133を介して行われることで、試験室103に供給された湿潤空気が結露するような状況となると、筺体部131よりも高熱伝導部133に優先的に結露が生じることとなる。従って、かかる高熱伝導部133に試験片Sを配設することで、例えば
図4に模式的に示したように、結露の結果生じる水膜Wを試験片S上に選択的に形成させることができる。
【0064】
更に、本実施形態に係る耐食性試験装置10では、湿潤空気中に含まれる水分を結露させることで、試験片S上に水膜Wを形成させるため、形成される水膜の厚み(
図4における厚みd)は、nmのオーダーとなる。従って、試験片と水膜との界面で起こる溶存酸素の還元反応(O
2+2H
2O+4e
−→4OH
−)において、大気から界面への酸素の供給を早めることが可能となり、水膜W中の溶存酸素濃度を向上させることができる。その結果、腐食促進因子の存在しない屋内の高湿度環境下での結露による腐食を模擬することが可能となる。
【0065】
また、より確実に試験片S上に結露を生じさせるために、
図5に模式的に示したように、湿潤空気は、試験室103の底面側から供給され、かつ、天面側から排出されることが好ましい。これにより、試験片Sの上方に確実に湿潤空気を導入することが可能となり、結露することなく試験室103から排出されてしまう湿潤空気の量を削減することができる。
【0066】
なお、例えば
図6に示したように、
図2の外部温度調整機構151に代えて、試験室103を取り囲む恒温槽153を設けても良い。かかる恒温槽153を利用することで、より簡便に試験室103の内部の温度を調整することが可能となる。ここで、
図6では、柱状の部材を用いて試験室103を支持する場合の態様を示しているが、恒温槽153内に網状の棚を設けて、かかる棚の上に試験室103を設置するようにしてもよい。
【0067】
以上、
図2〜
図6を参照しながら、試験ユニット100の具体例について、詳細に説明した。
【0068】
(耐食性試験方法について)
次に、
図7〜
図10を参照しながら、
図1〜
図6に示した耐食性試験装置10を利用した耐食性試験方法について、詳細に説明する。
図7〜
図10は、本実施形態に係る耐食性試験方法について説明するための説明図である。
【0069】
以下では、まず、
図7に示した模式的な湿り空気線図を参照しながら、本実施形態に係る耐食性試験方法で実施される冷熱サイクルについて説明する。
湿潤空気生成部101に導入された空気は、湿潤空気生成部101を通過することで、温度T
air、相対湿度100%の湿潤空気となる。湿潤空気生成部101により生成された湿潤空気は、
図7に示した湿り空気線図では、相対湿度=100%の曲線上の点Aに対応する。
【0070】
ここで、外部温度調整機構151又は恒温槽153により、試験室103の外部の温度を所定時間(例えば、0.5時間)かけてT
dry(>T
air)まで上昇させて、所定の保持時間(例えば、3.5時間)だけ保持することにより、試験室103内に供給される湿潤空気の温度もT
dryとなる。温度が上昇することで飽和水蒸気量も大きくなるため、温度T
airでは飽和状態にある湿潤空気の相対湿度は、温度T
dryでは、100%未満の値となる。その結果、温度T
dryでは、試験室103内は乾燥した状態となる。かかる状態操作は、絶対湿度が一定であるために、湿り空気線図では、温度軸に平行に高温側へ点Aを移動させる操作に対応し、かかる状態の湿潤空気は、
図7に示した湿り空気線図では、点Bに対応する。
【0071】
その後、外部温度調整機構151又は恒温槽153により、試験室103の外部の温度を所定時間(例えば、0.5時間)かけてT
wet(<T
air)まで低下させて、所定の保持時間(例えば、3.5時間)だけ保持することにより、試験室103内に供給される湿潤空気の温度もT
wetとなる。ここで、T
wet<T
airの関係が成立しているため、温度がT
wetまで移行する際に、点Aにおいて相対湿度=100%の曲線と交わり、その後は、相対湿度=100%の曲線に沿って、点Cまで変化する。その結果、温度T
wetでは、試験室103内は湿潤状態となり、点Aと点Cの縦軸座標の差分に対応する湿潤空気中の水分が、結露することとなる。
【0072】
ここで、温度T
dry及びT
wetの値は、特に限定されるものではなく、模擬したい環境における最高気温や最低気温等を考慮して、適宜設定すればよい。また、温度T
airについても、T
wet<T
air<T
dryの関係を満たすような、扱いやすい温度をT
airとして設定すればよいが、模擬したい環境における大気の露点を参考にしてもよい。例えば、日本における屋内や田園地帯等の環境を模擬する場合には、T
wet=15℃、T
air=20℃、T
dry=35℃のように設定することができる。
【0073】
以上のような冷熱サイクルが、屋外曝露試験における1日分の曝露操作に対応する。従って、乾燥状態(3.5時間)→移行時間0.5時間→湿潤状態(3.5時間)→移行時間0.5時間→という1つのサイクルを24時間分繰り返すことで、屋外曝露試験における3日分の曝露操作を行ったことになる。従来の塩水噴霧を含む試験方法では、試験片に付着した塩分が潮解し、試験片上に過剰な厚みの水膜が形成されるという問題があった。しかし、本実施形態に係る耐食性試験方法によれば、湿潤空気中に含まれる水分の結露によって試験片上に形成される水膜の厚みはnmのオーダーとなり、腐食促進因子の存在しない屋内の高湿度環境下での結露による腐食を模擬することが可能となる。
【0074】
<第1の耐食性試験方法>
次に、
図8を参照しながら、本実施形態に係る耐食性試験装置10で実施可能な2種類の耐食性試験方法のうち、試験環境の調整がより簡便な第1の方法について説明する。
【0075】
この第1の方法は、
図8に示したように、湿潤空気生成部101で生成される温度T
air、相対湿度100%の湿潤空気が、常に試験室103に供給され、かつ、試験室103から排出される条件下で実施される。すなわち、
図2や
図6に示した耐食性試験装置10における耐食性試験中、温度調整機構119は、容器111に収容されている水113の温度をT
air(例えば、20℃)に維持し続け、流量調整弁121,123は、湿潤空気の供給流量及び排出流量が所望の値となるように、弁の開放度合いが維持されている。
【0076】
第1の方法では、外部温度調整機構151又は恒温槽153により、試験室103の外部の温度は、所定時間(例えば、0.5時間)かけてT
dry(例えば、35℃)まで上昇し、所定の保持時間(例えば、3.5時間)だけ、温度T
dryに保持される。その結果、T
air=20℃、T
dry=35℃の場合に、試験室103の内部の相対湿度は、湿り空気線図から約42%となって、乾燥状態が実現される。
【0077】
続いて、外部温度調整機構151又は恒温槽153は、0.5時間程度の移行時間をかけて、試験室103の周囲の温度を低下させて、T
wet(例えば、15℃)に保持する。ここで、試験室103における絶対湿度は一定であるため、試験室103の内部の相対湿度は100%となり、湿潤空気中に存在できない水蒸気は、高熱伝導部133上に優先的に結露していき、湿潤状態が実現される。その結果、高熱伝導部133上に載置された試験片S上には、厚みがnmのオーダーである水膜が形成されることとなる。
【0078】
その後、移行時間(0.5時間以内)→乾燥状態(3.5時間)→移行時間(0.5時間以内)→湿潤状態(3.5時間)→・・・という冷熱サイクルが繰り返されることで、試験片Sの耐食性試験が実施されていく。
【0079】
<第2の耐食性試験方法>
次に、
図9及び
図10を参照しながら、本実施形態に係る耐食性試験装置10で実施可能な2種類の耐食性試験方法のうち、試験片S上に形成される水膜Wの厚みを一定に保つことが可能な、第2の方法について説明する。
【0080】
先だって説明した第1の方法は、試験環境を簡便に調整することが可能であるが、試験片S上に形成される水膜Wの厚みが常時変化してしまう。そのため、水膜中に含有される溶存酸素や、NaCl等の腐食促進因子の濃度が常に変化してしまい、これら腐食促進因子が耐食性に与える影響を正確に把握することが困難になる。
【0081】
そこで、以下に示す第2の方法では、任意の厚さの水膜を試験片上に形成させ、かかる水膜の厚さを一定にしたまま腐食を進行させる。これにより、腐食促進因子の濃度の経時変化をほぼ一定にすることができ、これら腐食促進因子が耐食性に与える影響を、再現性高く把握することが可能となる。
【0082】
この第2の方法は、
図9に模式的に示したように、試験室103に対して湿潤空気を供給しつつ排出させるプロセス、湿潤プロセス、乾燥プロセスという3つのプロセスが繰り返される。ここで、
図2や
図6に示した耐食性試験装置10における耐食性試験中、温度調整機構119は、容器111に収容されている水113の温度をT
air(例えば、20℃)に維持し続けるが、湿潤空気の供給プロセスが終了すると、流量調整弁121,123を閉じてしまい、湿潤空気の供給と排出を止めてしまう。
【0083】
まず、湿潤空気の供給プロセスでは、湿潤空気生成部101で生成される温度T
air、相対湿度100%の湿潤空気が、試験室103に供給されるとともに、試験室103から排出される。
【0084】
ここで、
図10に模式的に示したように、試験室103内に供給される湿潤空気の流量をF
0[m
3/s]、水含有量をα
0[g/m
3]、温度をT
0[℃]とし、試験室103内の温度をT
1[℃]、水含有量をα
1[g/m
3]とする。また、試験室103内から排出される湿潤空気の流量をF
1[m
3/s]、温度をT
1[℃]とすると、排出流量F
1は供給流量F
0に依存して決まる定数となる。ここで、試験室103の内部における定常状態での水含有量はα
1[g/m
3]であり、温度はT
1[℃]である。
【0085】
従って、
図10に示した例では、試験室103に単位時間当たりに供給される水分量は、流量F
0と水含有量α
0とを用いて、F
0α
0[g−H
2O/s]となり、試験室103から単位時間当たりに排出される水分量は、F
1α
1[g−H
2O/s]となる。従って、時間t[s]の間に試験室103内で増加する水分量は、(F
0α
0−F
1α
1)×t[g]となる。
【0086】
本実施形態に係る耐食性試験装置10では、試験室103内に高熱伝導部133を設けることで、増加した水蒸気は優先的に高熱伝導部133上に凝縮することとなる。いま、増加した水蒸気が全て高熱伝導部133(面積A[m
2])上に凝縮する場合、時間t[s]の間に増加する水膜Wの量は、{(F
0α
0−F
1α
1)×t}/A[g/m
2]となる。
【0087】
ここで、試験環境F
0,α
0,T
0,T
1は制御可能な環境因子であり、試験環境F
1,α
1は、制御可能な環境因子に依存して決まる定数である。従って、試験片S上に形成される水膜Wの厚みdは、湿潤空気を供給する時間tの関数となる。これらの知見より、時間t[s]が経過した後に、試験室103の入口と出口を密閉する(換言すれば、流量調整弁121,123を閉じる)ことで、水膜の厚みdを維持したままでの耐食性試験が可能となる。なお、保持時間tは、模擬したい環境で形成される水膜の厚さを事前に特定することで、予め算出することができる。また、試験時間を短縮したい場合には、高い腐食速度を得ることができる水膜の厚みを事前に特定しておくことで、保持時間tを算出することができる。
【0088】
湿潤空気生成部101で生成される温度T
air、相対湿度100%の湿潤空気を、上記のような知見に基づき供給・排出した後、流量調整弁121,123が閉じられて、試験室103内の水分量が一定の値に保持される。
【0089】
その後、外部温度調整機構151又は恒温槽153は、0.5時間程度の移行時間をかけて、試験室103の周囲の温度を低下させて、T
wet(例えば、15℃)に保持する。試験室103における絶対湿度は一定であるため、試験室103の内部の相対湿度は100%となり、湿潤空気中に存在できない水蒸気は、高熱伝導部133上に優先的に結露していき、湿潤状態が実現される。その結果、高熱伝導部133上に載置された試験片S上には、増加した水膜の量{(F
0α
0−F
1α
1)×t}/A[g/m
2]に応じた厚みの水膜が、形成されることとなる。
【0090】
続いて、外部温度調整機構151又は恒温槽153により、試験室103の外部の温度は、所定時間(例えば、0.5時間)かけてT
dry(例えば、35℃)まで上昇し、所定の保持時間(例えば、3.5時間)だけ、温度T
dryに保持される。その結果、T
air=20℃、T
dry=35℃の場合に、試験室103の内部の相対湿度は、湿り空気線図から約42%となって、乾燥状態が実現される。
【0091】
その後、湿潤空気供給(0.5時間以内)→湿潤状態(3.5時間)→移行時間(0.5時間以内)→乾燥状態(3.5時間)→・・・という冷熱サイクルが繰り返されることで、試験片Sの耐食性試験が実施されていく。
【0092】
以上、
図8〜
図10を参照しながら、本実施形態に係る耐食性試験装置10で実施される2種類の耐食性試験方法について、詳細に説明した。
【0093】
(制御ユニット200のハードウェア構成)
次に、
図11を参照しながら、本実施形態に係る耐食性試験装置10の制御ユニット200がコンピュータ等の演算処理装置で実現される場合ついて、かかる制御ユニット200のハードウェア構成の一例を詳細に説明する。
図11は、本発明の実施形態に係る制御ユニット200のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【0094】
制御ユニット200は、主に、CPU(Central Processing Unit)901と、ROM(Read Only Memory)903と、RAM(Random Access Memory)905と、を備える。また、制御ユニット200は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
【0095】
CPU901は、演算処理装置および制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、制御ユニット200内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
【0096】
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
【0097】
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチおよびレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、制御ユニット200の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。さらに、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。耐食性試験装置10のユーザは、この入力装置909を操作することにより、耐食性試験装置10に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0098】
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的または聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプなどの表示装置や、スピーカおよびヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、制御ユニット200が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、制御ユニット200が行った各種処理により得られた結果を、テキストまたはイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0099】
ストレージ装置913は、制御ユニット200の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶部デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、または光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、および外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0100】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、制御ユニット200に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、または半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu−ray(登録商標)メディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、または、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0101】
接続ポート917は、機器を制御ユニット200に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS−232Cポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、制御ユニット200は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
【0102】
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、社内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等であってもよい。
【0103】
以上、本発明の実施形態に係る制御ユニット200の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【実施例】
【0104】
続いて、実験例を示しながら、本実施形態に係る耐食性試験装置及び耐食性試験方法について、具体的に説明する。なお、以下に示す実験例は、本発明に係る耐食性試験装置及び耐食性試験方法のあくまでも一例であって、本発明に係る耐食性試験装置及び耐食性試験方法が、下記の例に限定されるものではない。
【0105】
(実験例1)
実験例1では、
図6に示した耐食性試験装置10を利用して、表面にZn−Al−Mgめっき処理が施されためっき鋼板の耐食性試験を、
図8に示した第1の方法に則して実施した。
【0106】
なお、試験室103は、プラスチック樹脂を用いて筺体部131を形成し、高熱伝導部133は、市販のヒートシンク(面積:200mm×200mm=0.04m
2)を用いて形成した。また、温度T
wet=15℃、T
air=20℃、T
dry=35℃に設定し、湿潤空気の供給流量及び排出流量は、それぞれ1(L/min)=1.7×10
−5(m
3/sec)とした。冷熱サイクル条件は、乾燥状態(3.5時間)→移行時間(0.5時間)→湿潤状態(3.5時間)→移行時間(0.5時間)→・・・とした。
【0107】
また、試験片であるZn−Al−Mgめっき鋼板は、
・めっき層のままで更なる処理を行っていないもの(無処理)
・めっき層の表面にポリウレタン樹脂、シリカ及びリン酸化合物からなる化成処理を施したもの(化成処理1)
・めっき層の表面にポリウレタン樹脂及びリン酸化合物からなる化成処理を施したもの(化成処理2)
・めっき層の表面にクロメート処理を施したもの(クロメート処理)
の4種類を準備した。
【0108】
この際、
図12に模式的に示したように、試験室103の内部(高熱伝導部133上)に、試験片Sとともに水晶振動子微量天秤(Quartz Crystal Microbalance:QCM)を設置し、試験室103内の質量変化(すなわち、水膜量の変化)を計測した。なお、水晶振動子微量天秤とは、水晶振動子の電極表面に物質が付着すると付着物の質量に応じて共振周波数が変動する(下がる)性質を利用して、極めて微量な質量変化を計測可能な質量センサである。また、試験室103の内部には、センサ135を設置して、温度及び相対湿度をあわせて計測している。
【0109】
まず、
図13に、QCM及びセンサ135の出力結果を示した。
図13から明らかなように、試験室103の外部の温度の変化に応じて、試験室103の内部の温度及び湿度が周期的に変化していることがわかる。具体的には、試験室103の温度が15℃に保持されると、試験室103の相対湿度は100%となっており、試験室103の温度が35℃に保持されると、試験室103の相対湿度は50%未満となっていることがわかる。また、QCMからの出力に着目すると、相対湿度が100%となっている状態で、QCMの表面に2.5μg/cm
2程度の付着物(すなわち、結露した水)が観測されている。この結果から、本発明に係る耐食性試験装置及び耐食性試験方法を用いることで、試験片Sの表面にnmオーダーの水膜を形成できることが明らかとなった。
【0110】
続いて、上記4種類の試験片Sについて、上記のような本発明に係る耐食性試験方法、屋外曝露試験(塩化物イオンが100ppm以下の場所である。)、及び、JIS Z2371に則した塩水噴霧試験を実施して、めっき鋼板の端面耐食性を評価した。なお、評価は、めっき鋼板の端面に発生した赤錆の面積率に基づいて行い、その評価基準は、以下の通りである。
【0111】
耐食性評価基準
○:赤錆面積率0以上10%未満
△:赤錆面積率10以上30%未満
×:赤錆面積率30以上100%以下
【0112】
得られた結果を、以下の表1にまとめて示した。
以下の表1から明らかなように、本発明に係る耐食性試験方法は、屋外曝露試験における端面耐食性の評価結果が概ね一致している一方で、塩水噴霧試験における端面耐食性の評価結果は、屋外曝露試験における評価結果と異なっている。この結果から、本発明に係る耐食性試験装置及び耐食性試験方法は、屋外環境を模擬できていることが明らかとなった。
【0113】
【表1】
【0114】
(実験例2)
実験例2では、
図6に示した耐食性試験装置10を利用して、
図9に示した第2の方法による耐食性試験を実施した場合に、高熱伝導部133上に配置したQCMに付着する水膜量がどのように変化するかを評価した。
【0115】
ここで、試験室103は、実験例1と同様に、プラスチック樹脂を用いて筺体部131を形成し、高熱伝導部133は、市販のヒートシンク(面積:200mm×200mm=0.04m
2)を用いて形成した。また、温度T
wet=15℃、T
air=20℃、T
dry=35℃に設定し、湿潤空気の供給流量及び排出流量は、それぞれ5(L/min)=8.3×10
−5(m
3/sec)とした。本実験例における実験条件及び得られた結果を、以下の表2にまとめて示した。
【0116】
【表2】
【0117】
<実測結果>
湿潤空気の供給流量F
0=5L/minとし、湿潤空気の温度T
0=20℃とした場合に、排出される湿潤空気の温度T
1=15℃とすると、保持時間t=300sとした際の水膜増加は、QCMによる測定結果で2.5g/m
2であった。
【0118】
<理論計算結果>
水含有量α
0,α
1は、実測した温度T
0,T
1と、湿り空気線図と、を利用することで算出することができる。例えば、T
0=20℃における絶対湿度は、湿り空気線図より、0.015(g−H
2O/g−air)であることがわかる。従って、α
0=0.015(g−H
2O/g−air)=0.015g−H
2O/(8.3×10
−4)m
3−air=18g/m
3となる。同様に、湿り空気線図から得られたT
1=15℃における絶対湿度を利用して、α
1=12g/m
3となる。
【0119】
いま、供給流量F
0=排出流量F
1とすると、増加した水蒸気が全て高熱伝導部133上に凝縮する場合、水膜の厚みの増加は、保持時間t=300sより、(F
0α
0−F
1α
1)t/A[g/m
2]=8.3×10
−5m
3/s×(18−12)g/m
3×300s/0.04m
2=3.8g/m
2となる。
【0120】
QCMによる実測結果と、上記理論計算結果とを比較すると、理論計算結果は、実測値とオーダーが一致しており、値そのものも似たものとなっている。従って、かかる結果から、先だって説明した理論計算の妥当性を確認することができた。これにより、本発明の第2の方法に係る耐食性試験方法を実施することで、水膜の厚さを一定に保持しつつ耐食性試験を行うことが可能であることが明らかとなった。
【0121】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。