特許第6344223号(P6344223)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6344223溶接性と塗装後耐食性に優れる熱間プレス用Alめっき鋼材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6344223
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】溶接性と塗装後耐食性に優れる熱間プレス用Alめっき鋼材
(51)【国際特許分類】
   C23C 28/00 20060101AFI20180611BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20180611BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20180611BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20180611BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20180611BHJP
   C22C 38/14 20060101ALN20180611BHJP
【FI】
   C23C28/00 B
   C23C2/12
   C22C21/02
   B32B15/01 B
   !C22C38/00 301T
   !C22C38/14
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-247396(P2014-247396)
(22)【出願日】2014年12月5日
(65)【公開番号】特開2016-108614(P2016-108614A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年8月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】山中 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】真木 純
【審査官】 神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−234576(JP,A)
【文献】 特開平4−59241(JP,A)
【文献】 特開平4−89240(JP,A)
【文献】 特開平6−210792(JP,A)
【文献】 特開2013−221202(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/131233(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/137687(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/12
C23C 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%でSiを3〜15%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるAlめっきを有し、
その上層に、Zn換算の付着量が0.1〜2.0g/mであるZnO、及び上記Zn換算の付着量の10〜40%のステンレス鋼を含む層を有する
ことを特徴とする溶接性と塗装後耐食性に優れる熱間プレス用Alめっき鋼材。
【請求項2】
前記ステンレス鋼の粒子の平均粒径が、20〜120nmであることを特徴とする請求項1に記載の溶接性と塗装後耐食性に優れる熱間プレス用Alめっき鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接性と塗装後耐食性を向上した熱間プレス用Alめっき鋼材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の軽量化と衝突安全性の向上を目的として、高強度鋼板の使用率が拡大している。しかしながら、高強度鋼板は、一般に、プレス成形での成形自由度が小さく、プレス後の形状凍結性が悪く、成形品の寸法精度が不良となったり、また、プレス金型寿命の低下などといった課題がある。
【0003】
これら課題の改善策として、鋼板を800℃以上に加熱、軟化させ、プレス成形と同時に急速冷却で焼入れることによって、高強度部品を作製する熱間プレス工法が普及している。熱間プレス工法に用いられる材料には、めっきのない裸材の他、Znめっき、Alめっきが用途に応じて用いられる。Alめっきを用いる場合には、下記の課題がある。
【0004】
1つは、熱間摺動性に劣ることである。これは、熱間プレスの金型にAlめっきが堆積し、堆積物がめっきに傷を付けるという問題につながる。この原因は、Alめっきを加熱した際に生成するFe−Al−Si層が硬く、また、摺動抵抗値が高いためと考えられる。
【0005】
もう1つは、塗装後耐食性に劣ることである。これは、Alめっきを加熱した後に生成するFe−Al−Si層が、極めて不活性で化成皮膜が生成しないことに起因する。
【0006】
特許文献1には、これらを改善する手段として、Alめっき鋼板上にウルツ鉱型の化合物、例えばZnOの被膜を形成させることが開示されている。この方法を用いることで、十分な量の化成皮膜が生成し、塗装後耐食性が向上し、また、熱間摺動性も向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4590025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のAlめっき鋼材は、溶接時の連続打点時に散りが出やすく、溶接性に劣る問題がある。本発明はこの問題に鑑み、Alめっき自身が有している耐食性を活かしつつ、熱間摺動性、塗装後耐食性、溶接性を向上した熱間プレス用Alめっき鋼材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の課題を解決するために鋭意検討した。その結果、Alめっき鋼材の表面に、ZnOとステンレス鋼を複合添加することで、溶接性を改善でき、熱間摺動性と塗装後耐食性、溶接性を兼ね備えた、熱間プレス用素材として最適なAlめっき鋼材を提供できることを見出し、本発明に至った。その要旨は以下のとおりである。
【0010】
(1)質量%でSiを3〜15%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるAlめっきを有し、その上層に、Zn換算の付着量が0.1〜2.0g/mであるZnO、及び上記Zn換算の付着量の10〜40%のステンレス鋼を含む層を有することを特徴とする溶接性と塗装後耐食性に優れる熱間プレス用Alめっき鋼材。
【0011】
(2)前記ステンレス鋼の粒子の平均粒径が、20〜120nmであることを特徴とする前記(1)の溶接性と塗装後耐食性に優れる熱間プレス用Alめっき鋼材。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熱間プレス材料として用いられるAlめっき鋼材の性能を格段に向上させ、従来のAlめっき鋼材よりも熱間摺動性と塗装後耐食性に優れ、さらに、溶接性も良好なAlめっき鋼材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例において熱間摺動性を評価するために用いた試験装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0015】
まず、Alめっき中のSiは、質量%で3〜15%とする。Siが3%未満では、めっき製造時に鋼材とめっきとの合金化反応が過度に進行し、Al−Fe−Siの合金層が発達するため、めっき付着量の制御が困難となる。また、めっき液相温度が上昇するため、めっき浴温を700℃以上に保持しないと安定した操業ができなくなり、設備に与える負荷が極めて大きくなる。
【0016】
一方、Si濃度が15%を超えると、Si層の体積率が増加し、めっきが脆くなるとともに、耐食性が極端に劣化する。
【0017】
次に、Alめっきの上層、すなわち、Alめっきの表面に付与する元素について説明する。ZnOは熱間摺動性と塗装後耐食性を改善する効果がある。熱間摺動性の改善については、加熱工程において、ZnOがAlめっきと金型の直接接触を妨げ、さらに潤滑油のような役割を果たすためと推察される。塗装後耐食性の改善については、塗装前処理である化成処理工程時にZnOの一部が化成処理液中に溶解することで、化成皮膜が生成するためと考えられる。
【0018】
熱間摺動性と塗装後耐食性の改善効果を発揮するには、ZnO付着量がZn換算の付着量として、0.1〜2.0g/mである必要がある。ZnO付着量が0.1g/m未満では、これらの性能の改善効果が不十分であり、逆に、2.0g/m超であると、残留応力が増大し、ZnOがAlめっきから剥離しやすくなり、熱間摺動性が逆に低下する。なお、ZnOの平均結晶粒径は20〜100nmの範囲が好ましく、その測定は一般的にも用いられている方法で問題なく、たとえば、光散乱法などを用いることができる。
【0019】
ZnOとともにAlめっき上に形成させるステンレス鋼は、溶接性と塗装後耐食性を向上させる効果がある。溶接性の向上については、導電率の小さいZnOを含む層の一部に、導電率の大きいステンレス鋼が存在することで、抵抗溶接時の局所通電が抑制され、急激な発熱が防止されるためと考えられる。また、熱間プレスの加熱過程において、ステンレス鋼と接触している部分のZnO粒子の一部がZnとなり、層の抵抗率がより小さくなっている可能性も考えられる。
【0020】
塗装耐食性の改善については、ZnOの一部がZnとなり、このZnにより化成処理中へのZnOを含む層の溶解量が増加することで、化成皮膜量が増加したり、より均一に形成したりすることが推定される。つまり、ZnO粒子とステンレス鋼粒子の相乗効果によって、溶接性と塗装後耐食性が従来の熱間プレス用Alめっき鋼材よりも向上すると考えられる。
【0021】
この効果を得るためには、ステンレス鋼の付着量が、ZnOのZn換算の付着量の10〜40%である必要がある。付着量がZnOのZn換算の付着量の10%未満の場合、局所通電が起こるようになるため逆に溶接性に劣り、また、塗装後耐食性の改善効果に乏しい。40%を超えると、ZnOによる熱間摺動性と塗装後耐食性の改善効果が劣る。
【0022】
ここでいうステンレス鋼とは、Crを11%以上含む鋼と定義する。また、本発明のAlめっき上に形成させるステンレス鋼の組織は、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、あるいはこれらが混合した組織のいずれでもよい。
【0023】
ステンレス鋼の平均粒径は、20〜120nmであることが好ましい。平均粒径が120nm超ではZnOに対して大きすぎ、ステンレス鋼が均一に分散しにくくなり、局所通電が起きるようになる。平均粒径が20nm未満の場合は、特に性能上の大きな問題はないと考えられる。ただし、製造が極めて困難になるため、20nm以上とするのが好ましい。
【0024】
ZnOとステンレス鋼を含む層のAlめっき表面への形成方法は、特に限定されるものではない。一例として、Znとステンレス鋼を含有する懸濁液と所定の有機性のバインダーとを混合して、Alめっき表面に塗布し乾燥させる方法があげられる。
【0025】
所定の有機性バイダーとしては、たとえば、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、シランカップリング剤、シリカ等が挙げられる。これらの有機性バインダーは、ZnOとステンレス鋼の懸濁液と混合できるように、水溶性とする。
【0026】
表面皮膜中の樹脂成分、シランカップリング剤、シリカ等のバインダー成分の含有量は、ZnOとステンレス鋼に対する質量比で、合わせて5〜80%であることが好ましい。バインダー成分の含有量が5%より少ないと、バインダー効果が十分に得られず、塗膜が取れやすくなる。バインダー効果を安定して得るためには、バインダー成分を質量比で10%以上とすることが、より好ましい。バインダー成分の含有量が80%を超えると、加熱時の匂い発生が顕著になるため、好ましくない。
【0027】
本発明の熱間プレス用Alめっき鋼材の基材となる鋼材の成分や、形態等については一切、成約しない。成分は軟質材であっても、SiやMn等の強化元素を含む鋼材であってもよく、形態も薄板や厚板、鋼管、あるいは成形品であってもかまわない。
【実施例】
【0028】
次に、実施例で本発明をより詳細に説明する。
【0029】
[実施例1]
表1に示す鋼材成分の板厚1.6mm、大きさ300mm×200mmの熱間プレス用溶融Alめっき鋼板の表面に、ラボロールコーターにてポリウレタン系樹脂を有機性バインダーとし、ZnOとステンレス鋼からなる層を、その付着量と含有率を変えて形成させ、試験材とした。その後、以下の方法に従い、熱間摺動性、塗装後耐食性、溶接性を評価した。なお、ステンレス鋼粒子としては、市販の日本イオン株式会社製のSUS304ナノパウター、SUS316ナノパウター、SUS430ナノパウターを用いた。
【0030】
【表1】
【0031】
[熱間摺動性]
図1に示す装置で、150mm×200mmの大きさに切断した試験材を900℃に加熱後、700℃で鋼球を上から押し当て、押し付け荷重と引く抜き荷重とを測定し、引抜荷重/押し付け荷重を動摩擦係数としてもとめることで、熱間摺動性を評価した。動摩擦係数が0.8%以下であれば合格とした。
【0032】
[塗装後耐食性]
300mm×200mm試験材を900℃に保持した大気炉に5分間入れた後、取り出し、直ちにステンレス製金型に挟んで急冷した。冷却速度は約150℃/秒であった。次に試験材を150×60mmに切断し、日本パーカライジング(株)社製化成処理液(PB−SX35)で化成処理後、日本ペイント(株)社製電着塗料(パワーニクス110)を、厚みが20μmとなるように塗装し、170℃で焼付け、塗装後耐食性試験材とした。
【0033】
塗装後耐食性評価は、自動車技術会制定のJASO M609に規定する方法で行った。塗膜にあらかじめカッターでクロスカットを入れ、腐食試験180サイクル(60日)後のクロスカットからの塗膜膨れの幅(片側最大値)を計測し、7mm以下であれば合格とした。
【0034】
[溶接性]
300mm×200mm試験材を900℃に保持した大気炉に5分間入れた後、取り出し、直ちにステンレス製金型に挟んで急冷した。冷却速度は約150℃/秒であった。次に125mm×40mmに切断し、溶接性試験材とした。溶接試験は、交流スポット溶接時の、適正電流範囲(上限電流−下限電流)と、連続打点時の散り発生率を求めることで評価した。適正電流範囲は1.5kA以上であれば合格、1.5kA未満であれば不合格とした。連続打点時の散り発生率は15%以下であれば合格、15%超であれば不合格とした。
【0035】
溶接条件は以下に示すとおりであり、下限電流は、ナゲット径が5.6mm以上となったときの電流値、上限電流は散り発生電流と定義した。
【0036】
[溶接条件]
電極 :クロム銅製、DR(先端6mmφが40R)
板組 :溶接試験材同士の組み合わせ溶接
加圧 :400kgf
通電時間 :20サイクル(60Hz)
溶接電流 :適正電流範囲測定時;5kAから散り発生まで増加
連続打点時 ;適正電流範囲上限値よりも0.5kA小さい値
連続打点数:100点
【0037】
結果を表2に示す。Alめっき上層の構成成分が本発明の範囲であれば、熱間摺動性、塗装後耐食性、溶接性がいずれも良好となることが確認できた。
【0038】
【表2】
【符号の説明】
【0039】
1 試験片
11 エレマヒーター
12 炉体駆動装置
13 ボールウェイ
14 ロードセル
図1