(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6344560
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】ホイールハウスインナ構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20180611BHJP
【FI】
B62D25/08 L
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-146735(P2014-146735)
(22)【出願日】2014年7月17日
(65)【公開番号】特開2016-22784(P2016-22784A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000176811
【氏名又は名称】三菱自動車エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174366
【弁理士】
【氏名又は名称】相原 史郎
(72)【発明者】
【氏名】安藤 一
(72)【発明者】
【氏名】今村 伊佐博
(72)【発明者】
【氏名】松永 聡志
【審査官】
梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−091056(JP,A)
【文献】
特開平11−034930(JP,A)
【文献】
特開平08−216927(JP,A)
【文献】
実開平04−112176(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内に配置される半円形状の縦壁と同縦壁の円弧形の縁部から車室外方向へ突き出る半円筒形の横壁とを有し、車両前後方向に沿って配置されるホイールハウスインナと、
前記縦壁および前記横壁の下端部に形成された被接合部と、
前記ホイールハウスインナにおける車両前後方向の途中から一方の端までのうち、前記被接合部の上側の縦壁部分および横壁部分を車室外へ凹ませた凹部と
を備えるホイールハウスインナ構造であって、
前記凹部は、
前記縦壁と前記横壁とが交差する交差部よりも車室外に退避した位置に配置され、前記交差部と連続して前記ホイールハウスインナの一方の端まで延びる第1稜線と、
前記被接合部の直上の横壁部分に、前記被接合部よりも車室外に退避した位置に配置され、前記第1稜線の端と連なり前記被接合部に沿って延びる第2稜線と、
上部に凸が車室内に向く第1曲り部を有し、下部に凸が車室外に向く第2曲り部を有し、かつ前記凹部の凹ませた部位を占め、前記第1曲り部が前記第1稜線をなし、前記第2曲り部が前記第2稜線をなすように形成された凹み壁部と
を有することを特徴とするホイールハウスインナ構造。
【請求項2】
前記凹み壁部の第1曲り部と第2曲り部との間は、当該両曲り部が連続する曲面で形成されること特徴とする請求項1に記載のホイールハウスインナ構造。
【請求項3】
前記ホイールハウスインナの縦壁は、前記第2稜線と連なり、前記被接合部に沿って前記ホイールハウスインナの他方の端まで延びるビード部を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のホイールハウスインナ構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールハウスインナに凹部を形成したホイールハウスインナ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ワゴンなど、フロントシート(第1席)の後方に、例えば第2席などリヤシートを備える自動車(車両)では、リヤホイールハウスインナと隣接してリヤシートが配置されることが多い。
自動車では、できるだけ車室内の空間を稼ぐことが求められる。そこで、リヤシートのシート幅を拡大して、車室内の空間を拡大することが考えられる。
【0003】
このためには、リヤホイールハウスインナの車両前後方向前部に、車室外へ凹ませた凹部を形成して、この凹部内までリヤシートを配置させる構造にし、リヤシートの側部を、できるだけ車室の内面に近付けることが考えられる。むろん、凹部は、タイヤと干渉しない隙間を確保できる位置まで凹ませる。
そこで、特許文献1に開示されているようにホイールハウスインナの車両前後方向の片側全体を車室外へ凹ませることが考えられる。
【0004】
しかし、ホイールハウスインナの片側全体の外形を変更させると、ホイールハウスインナとフロアパネルとが接合する位置は、当初のホイールハウスインナとは大きく異なってしまう。これでは、ホイールハウスインナとフロアパネルの接合の仕方に影響を与え、フロアパネルまで変更することが余儀なくされる。
そこで、ホイールハウスインナの下端部の被接合部(フロアパネルなどが接合される部分)は、変更せずそのまま残して、被接合部の上側に位置する部分(片側)を車室外へ凹ませた凹部を形成することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−250625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、単に凹部を形成したのでは、ホイールハウスインナの剛性強度を確保している稜線が損なわれ、凹部が形成される部分の剛性強度が低下する。ホイールハウスインナは、フロアパネルからルーフに向かうピラー部材の根元に配置される部品なので、こうした剛性強度の低下は、車体全体の剛性を低下させる要因ともなる。
こうした場合、一般には、別途、補強部材を付け加えることで対処するが、これだと、補強部材が付加される分、凹部空間の確保が難しくなり、当初の車室内空間を拡大する目的が果たせなくなる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、簡単な構造で、凹部を有するホイールハウスインナの剛性強度が確保できるホイールハウスインナ構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の態様は、車室内に配置される半円形状の縦壁と同縦壁の円弧形の縁部から車室外方向へ突き出る半円筒形の横壁とを有し、車両前後方向に沿って配置されるホイールハウスインナと、縦壁および横壁の下端部に形成された被接合部と、ホイールハウスインナにおける車両前後方向の途中から一方の端までのうち、被接合部の上側の縦壁部分および横壁部分を車室外へ凹ませた凹部とを備えるホイールハウスインナ構造であって、凹部は、縦壁と横壁とが交差する交差部よりも車室外に退避した位置に配置され、交差部と連続してホイールハウスインナの一方の端まで延びる第1稜線と、被接合部の直上の横壁部分に、被接合部よりも車室外に退避した位置に配置され、第1稜線の端と連なり被接合部に沿って延びる第2稜線と、上部に凸が車室内に向く第1曲り部を有し、下部に凸が車室外に向く第2曲り部を有し、かつ凹部の凹ませた部位を占め、第1曲り部が第1稜線をなし、第2曲り部が第2稜線をなすように形成された凹み壁部とを有するものとした(請求項1)。
【0009】
好ましくは、凹み壁部の第1曲り部と第2曲り部との間は、当該両曲り部が連続する曲面で形成されるものとした(請求項2)。
好ましくは、ホイールハウスインナの縦壁は、第2稜線と連なり、被接合部に沿ってホイールハウスインナの他方の端まで延びるビード部を有するものとした(請求項3)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、凹部の周囲の剛性強度は、凹部上側に形成されるアーチ形の第1稜線、凹部下側に形成される被接合部直上の第2稜線、さらに両稜線間の凹み壁部(凹部の底)によって、十分に確保される。しかも、凹み壁自身の剛性強度も、二種類の曲り部により高められる、
それ故、ホイールハウスインナは、被接合部はそのままに、凹部が形成されても、十分なる剛性強度が確保できる。しかも、確保される剛性強度は、凹ませた部位を占める壁、すなわち凸が車室内・外に反対方向に向く曲り部を上下部に有した凹み壁部を用いるだけでよく、簡単な構造ですむ(請求項1)。
【0011】
特に凹み壁部の上下の曲り部の間を同曲り部がなす曲面で連続させることにより、凹み壁部は、十分なる剛性強度が確保しやすい(請求項2)。そのうえ、ホイールハウスインナの縦壁に、下部の稜線と連なるビード部を設けることにより、ホイールハウスインナの縦壁周囲は、第1,2稜線やビード部がなす稜線で囲まれるので、高い剛性強度が確保できる(請求項3)。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】車体に組み付けられたホイールハウスインナを、フロアパネル、タイヤ、車内壁と共に示す斜視図。
【
図2】ホイールハウスインナの、凹部が形成される部分を説明するための斜視図。
【
図3】凹部が形成されたホイールハウスインナの全体を示す斜視図。
【
図4】
図3中のA−A線に沿う、凹部を通る断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を
図1から
図4に示す一実施形態にもとづいて説明する。
図1は、本発明を適用した車両、例えばワゴン車のリヤ側を示している。
ワゴン車の主な構造について説明すると、
図1中1はワゴン車(車両)の車体、3は同車体1内に形成される車室内、5は同車室内3のリヤフロアを形成するフロアパネル、7は同車体1の車室内壁を形成するリヤクォータインナパネル、9は同リヤクォータインナパネル7の上部に設けられたリヤピラーインナパネル(リヤパネルを形成する部品)である。リヤクォータインナパネル7の下部には、リヤホイールハウスインナ11(本願のホイールハウスインナに相当)が設けられている。このリヤホイールハウスインナ11内にリヤタイヤ13が収まる。またフロアパネル5上には、リヤホイールハウスインナ11と並んで、リヤシート15が据え付けられている。
【0014】
リヤホイールハウスインナ11は、
図2および
図3にも示されるようにリヤタイヤ13を上部から囲う半円筒形をなしている。具体的にはリヤホイールハウスインナ11は、車室内3に配置される半円形状の縦壁17と、同縦壁17の円弧形の縁部から車室外方向へ突き出た半筒形の横壁19とを有している。そして、横壁19の先端部に形成されたフランジ部19aは、リヤクォータインナパネル7に形成してある半円形開口部の開口縁部(いずれも図示しない)に接合(例えば溶接など)される。またC形に連なる横壁19〜縦壁17〜横壁19の下端には、被接合片部21(本願の被接合部に相当)が形成されている。このC形をなす被接合片部21は、フロアパネル5の車幅方向端に形成された角形の切欠部の開口縁部(いずれも図示しない)に接合(例えば溶接など)され、リヤタイヤ13の上部(車室内側)を上側から覆う。
【0015】
同自動車は、車室内3のスペースを稼ぐため、リヤシート15のシート幅(ここではシートクッション15a、シートバッグ15bを含む全体)を大きくしてある。このため、リヤホイールハウスインナ11には、増加したシート幅を受け入れられるよう、リヤシート15のシートクッション15aの側部やシートバッグ15bの側部とラップする車両前後方向の端側、ここでは前部に凹部25が設けられている。
【0016】
ここでは、
図12中の一点鎖線で示すリヤホイールハウスインナ11の車両前後方向前側の領域αに荷重Fを加えて車室外へ凹ませ、同領域αに
図13に示されるような凹部25を形成している。ちなみに、
図12は凹部25を設ける前の状態、
図13は凹部25を設けた後の状態を示す。
つまり、凹部25は、リヤホイールハウスインナ11の車両前後方向の途中から前部端(一方の端)までの、被接合片部21から上側の縦壁部分や横壁部分を車室外へ凹ませて、リヤシート15の端部分を許容する空間を得ている。むろん、凹部25は、リヤタイヤ13と干渉しない範囲で凹ませている。
【0017】
このリヤホイールハウスインナ11は、この凹部25の底を占める凹み壁27(本願の凹み壁部に相当)を用いて、剛性強度を高め、凹部25での剛性強度の低下を防いでいる。この剛性強度を確保する構造が
図3の斜視図、
図4の断面図(
図3中のA−A線)に示されている。
同構造を説明すると、凹部25は、上側に、縦壁17と横壁19とが交差する交差部18と連なるアーチ形の稜線29(本願の第1稜線に相当)を有し、下側である被接合片部21の直上の当該被接合片部21から車室外へ退避した位置に、直線形の稜線31(本願の第2稜線に相当)を有する。このうち稜線29は、交差部18から車室外に退避した位置に配置されている。つまり、稜線29は、交差部18から車室外に退避した状態のまま、当該交差部18がなす稜線と連なって、リヤホイールハウスインナ11の前部端まで連続して配置される。稜線31は、稜線29の前部側の端から被接合片部21に沿って、凹部25の後部側の端まで直線状に配置される。
【0018】
凹み壁27は、凹部25の後部側の端をなす凹み起点Sを有している。すなわち、凹み起点Sは、稜線29,31端と連なる上下方向に延びる稜線、ここでは斜め前方へ延びる稜線で形成される。凹み壁27は、この凹み起点Sから、稜線29,31にならって、リヤホイールハウスインナ11の前部端まで形成され、領域α(
図2)となる、凹み起点S、被接合片部21の直上、アーチ形の稜線29とで囲まれる扇形の領域を凹ませている。
【0019】
ここで、
図13および
図14に示されるように凹み壁27の上部では、凸が車室内3側に向くアーチ形の曲面部35(本願の第1曲り部に相当)が形成され、下部では、これとは反対に、凸が車室外に向く曲面部37(本願の第1曲り部に相当)が形成されている。このうち曲面部35は、円弧の頂点Xの位置(
図3,4)が稜線29と合致する形状、すなわちアーチ形を描くように曲成されている。つまり、稜線29は、曲面部35の円弧から形成される。また曲面部37は、円弧の頂点Yの位置(
図3,4)が稜線31と合致する形状、すなわち直線形に曲成されている。つまり、稜線31は、曲面部37から形成される。そして、この曲面部37の下端が、被接合片部21直上の車室外へ向かって曲がるコーナ部21aへと続いている(
図3,4)。なお、曲面部35と曲面部37との間の壁部分は、高い剛性とするため、両曲面部35,37のなす曲面が連続する曲面部分で形成されている。
【0020】
凹部25の周囲は、こうした曲面部37の円弧面で凹部25の上側にアーチ形の稜線29を形成、曲り部39の円弧面で凹部25の下側に直線形の稜線31を形成することにより、剛性が確保される。特に凹部25の周りでは、凸が車室内3に向く曲面部35と、凸が車室外に向く曲面部37とがC形に組み合わさるので、更なる剛性が期待される。そのうえ、凹み壁27は、二種類の曲面部35,37にて自身の剛性が高められるから、凹部25自身の剛性も十分に確保される。
【0021】
それ故、リヤホイールハウスインナ11は、被接合片部21はそのままに、端側に凹部25が形成されても、十分なる剛性強度を確保することができる。しかも、確保される剛性強度は、凹ませた部位を占める壁部である、凸が車室内・外に反対方向に向く曲面部35,37を上・下部に有した凹み壁27を用いただけなので、簡単な構造ですむ。
そのうえ、凹み壁27は、曲面部35,37間を同曲面部35,37の曲面で連続させてあるので、高い剛性強度が確保できる。
【0022】
特に、
図3に示されるように稜線31端と隣接するリヤホイールハウスインナ11の縦壁17の下端、ここでは被接合片部21をなす壁部分に、ビード部41を形成することにより、リヤホイールハウスインナ11は、高い剛性強度が確保できる。
すなわち、ビード部41は、例えばジグザグしながら被接合片部21に沿って直線状に延びる帯形溝で形成されている。すなわち、ビード部41は、一端が凹み起点Sに有る稜線31の端とオーバラップし、他端が縦壁17の後端(リヤホイールハウスインナ11の車幅方向後端部:他方の端)まで延びる溝で形成されている。これにより、リヤホイールハウスインナ11の縦壁17周囲は、交差部18がなす稜線、稜線29,31およびビード部41がなす稜線で囲まれ、高い剛性強度が得られる。ちなみに、ここではビード部41は、リヤホイールハウスインナ11を成形する際に生じる皺を防ぐビード部も兼ねている。
【0023】
なお、上述した一実施形態における各構成およびそれの組合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能であることはいうまでもない。また本発明は、一実施形態によって限定されることはなく、「特許請求の範囲」によってのみ限定されることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0024】
1 車体
11 リヤホイールハウスインナ(ホイールハウスインナ)
17 縦壁
18 交差部
19 横壁
21 被接合片部(被接合部)
25 凹部
27 凹み壁(凹み壁部)
29 稜線(第1稜線)
31 稜線(第2稜線)
35 曲面部(第1曲り部)
37 曲面部(第2曲り部)
41 ビード部