(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ステップ型の場合、回転側と静止側の伸び差が発生した場合、ステップとシールフィンとが接触する可能性があるという課題がある。また、ステップ型は直通型と比較して製造コストが高いという課題がある。
【0006】
ところで、直通型ラビリンスシールがステップ型と比較して性能が劣る要因として、上流側のシールフィンのクリアランスを通過したリークジェット(漏れ流、リーク流)が、大きな運動エネルギーを持ったまま、下流側のシールフィンのクリアランスに到達する吹き抜け効果が考えられる。吹き抜けが増加することによってシール性能が悪化するため、吹き抜けを抑制する構造を有する直通型ラビリンスシールが望まれている。
【0007】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、その目的は、静止側と回転側との間にできる隙間から漏洩するリークジェットを低減して、シール性能を安定させることができる回転機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第一の態様によれば、シール構造は、第一構造体と、前記第一構造体に径方向に対向するとともに前記第一構造体に対して軸線回りに相対回転する第二構造体との間の隙間をシールするシール構造であって、前記第一構造体と前記第二構造体の一方に形成された前記軸線に対して平行な
同一径の円筒形状の周面と、
前記第一構造体と前記第二構造体の他方に形成された前記軸線に対して平行な第二周面と、前記
第二周面に設けられて、前記周面に向かって突出して前記周面との間にクリアランスを形成するとともに前記軸線方向に間隔をあけて設けられた複数のシールフィンと、前記軸線方向に隣り合う一対の前記シールフィンの間に、上流側のシールフィンのクリアランスを通過したリーク流が再付着する再付着縁を形成するとともに、
前記再付着縁に再付着した後の流れを前記上流側のシールフィンに戻す前記第二周面と、前記第二周面に沿う流れを前記周面に戻す前記上流側のシールフィンとに囲まれ、前記上流側のシールフィンに沿って前記周面に向かって流れる渦が生成される第一キャビティ、及び、下流側のシールフィンに衝突して前記クリアランスに向かって流れることで前記クリアランスに対して縮流効果を生じる流れが生成される第二キャビティを形成する突部と、を備え、前記シールフィンの前記軸線方向の幅は、前記突部の前記軸線方向の幅よりも小さ
く、前記複数のシールフィンの前記間隔をL1、前記突部の軸線方向の幅をL2とすると、比L2/L1は、0.05〜0.3であり、前記第二キャビティの前記シールフィン先端からの径方向の深さをH2とすると、比H2/L1は、0.05〜0.3であることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、クリアランスを通過したリーク流れが、突部の再付着縁に安定的に再付着する。再付着によりリーク流を拡散させることで、リーク流の運動エネルギーを損失させることができる。また、第一キャビティに生成される渦によって、リーク流の拡散の効果を増大させることができる。また、第二キャビティに生成される流れが起こす縮流の効果と運動エネルギー損失の効果によって、クリアランスを通過するリーク流を低減することができる。即ち、第一構造体と第二構造体との間の隙間から漏洩するリーク流を低減して、シール性能を安定させることができる。
また、第一構造体と第二構造体のうち他方を軸線に対して平行な面とすることによって、第一構造体と第二構造体との間に伸び差が発生した場合においても、第一構造体と第二構造体とが接触することがない。
【0010】
上記シール構造において、前記突部は、前記シールフィンの上流側に接続され、前記一方と前記再付着縁との間に延在する円板面と、前記再付着縁と前記シールフィンとの間に延在する前記軸線と同心の円筒状の面である円筒面とを有し、周方向から見た
断面形状が矩形状をなす部材である構成としてもよい。
【0011】
上記構成によれば、再付着縁の位置が固定されてリーク流の再付着点を安定させることができる。
【0012】
上記シール構造において、前記突部の再付着縁は、前記円筒面から前記
周面に向かって突出するとともに周方向に延在する突条としてもよい。
【0013】
上記構成によれば、再付着縁が突条とされていることによって、第一キャビティに生成される渦と第二キャビティに生成される流れが安定して形成される。これにより、リーク流の低減効果を促進させることができる。
【0014】
上記シール構造において、前記突部は、前記シールフィンの上流側の面に接続され、前記再付着縁と前記シールフィンとの間に延在する前記軸線と同心の円筒状の部材であり、前記突部と前記一方の面との間に渦が形成される第三キャビティを形成する構成としてもよい。
上記構成によれば、突部の体積を低減してシールフィンの軽量化が可能となる。
【0015】
上記シール構造において、前記軸線方向に隣り合う一対の前記シールフィンの間において、前記一方の面上であって、前記軸線方向において前記上流側のシールフィンと前記再付着縁との間に、前記他方に向かって突出するとともに周方向に延在し、前記第三キャビティに生成される渦の生成を促進する第二突条部が形成されている構成としてもよい。
【0016】
上記構成によれば、一方の面上に第二突条部が設けられていることによって、第三キャビティに生成される渦の生成を促進させることができる。
【0017】
上記シール構造において、前記軸線方向に隣り合う一対の前記シールフィンの間において、前記他方の面上であって、前記軸線方向において前記上流側のシールフィンと前記再付着縁との間に、前記一方に向かって突出するとともに周方向に延在し、前記第二キャビティに前記下流側のシールフィンのクリアランスに対して縮流効果を生じる渦が生成される突条部が形成されている構成としてもよい。
【0018】
上記構成によれば、リーク流の吹き抜けを防止するとともに、第二キャビティに生成される渦によって、運動エネルギーの散逸が促進されるとともに、縮流が強まり、リーク流の流量をより低減することができる。
【0019】
本発明の第二の態様によれば、シール構造は、第一構造体と、前記第一構造体に径方向に対向するとともに前記第一構造体に対して軸線回りに相対回転する第二構造体との間の隙間をシールするシール構造であって、前記第一構造体と前記第二構造体の一方に形成された前記軸線に対して平行な周面と、
前記第一構造体と前記第二構造体の他方に形成された前記軸線に対して平行な第二周面と、前記
第二周面に設けられて、前記周面に向かって突出して前記周面との間にクリアランスを形成するとともに前記軸線方向に間隔をあけて設けられた複数のシールフィンと、前記軸線方向に隣り合う一対の前記シールフィンの間に、上流側のシールフィンのクリアランスを通過したリーク流が再付着する再付着縁を形成するとともに、
前記再付着縁に再付着した後の流れを前記上流側のシールフィンに戻す前記第二周面と、前記第二周面に沿う流れを前記周面に戻す前記上流側のシールフィンとに囲まれ、前記上流側のシールフィンに沿って前記周面に向かって流れる渦が生成される第一キャビティ、及び、下流側のシールフィンのクリアランスに対して縮流効果を生じる流れが生成される第二キャビティを形成する突部と、を備え、前記突部は、前記シールフィンの上流側に接続され、前記他方と前記再付着縁との間に延在する円板面と、前記再付着縁と前記シールフィンとの間に延在する前記軸線と同心の円筒状の面である円筒面とを有し、周方向から見た断面形状が矩形状をなす部材であり、前記突部の再付着縁は、前記円筒面から前記周面に向かって突出するとともに周方向に延在する突条であ
り、前記複数のシールフィンの前記間隔をL1、前記突部の軸線方向の幅をL2とすると、比L2/L1は、0.05〜0.3であり、前記第二キャビティの前記シールフィン先端からの径方向の深さをH2とすると、比H2/L1は、0.05〜0.3であることを特徴とする。
本発明の第三の態様によれば、シール構造は、第一構造体と、前記第一構造体に径方向に対向するとともに前記第一構造体に対して軸線回りに相対回転する第二構造体との間の隙間をシールするシール構造であって、前記第一構造体と前記第二構造体の一方に形成された前記軸線に対して平行な周面と、
前記第一構造体と前記第二構造体の他方に形成された前記軸線に対して平行な第二周面と、前記
第二周面に設けられて、前記周面に向かって突出して前記周面との間にクリアランスを形成するとともに前記軸線方向に間隔をあけて設けられた複数のシールフィンと、前記軸線方向に隣り合う一対の前記シールフィンの間に、上流側のシールフィンのクリアランスを通過したリーク流が再付着する再付着縁を形成するとともに、
前記再付着縁に再付着した後の流れを前記上流側のシールフィンに戻す前記第二周面と、前記第二周面に沿う流れを前記周面に戻す前記上流側のシールフィンとに囲まれ、前記上流側のシールフィンに沿って前記周面に向かって流れる渦が生成される第一キャビティ、及び、下流側のシールフィンのクリアランスに対して縮流効果を生じる流れが生成される第二キャビティを形成する突部と、を備え、前記突部は、前記シールフィンの上流側の面に接続され、前記再付着縁と前記シールフィンとの間に延在する前記軸線と同心の円筒状の部材であり、前記突部と前記他方の面との間に渦が形成される第三キャビティを形成
し、前記複数のシールフィンの前記間隔をL1、前記突部の軸線方向の幅をL2とすると、比L2/L1は、0.05〜0.3であり、前記第二キャビティの前記シールフィン先端からの径方向の深さをH2とすると、比H2/L1は、0.05〜0.3であることを特徴とする。
本発明の第四の態様によれば、シール構造は、第一構造体と、前記第一構造体に径方向に対向するとともに前記第一構造体に対して軸線回りに相対回転する第二構造体との間の隙間をシールするシール構造であって、前記第一構造体と前記第二構造体の一方に形成された前記軸線に対して平行な周面と、
前記第一構造体と前記第二構造体の他方に形成された前記軸線に対して平行な第二周面と、前記
第二周面に設けられて、前記周面に向かって突出して前記周面との間にクリアランスを形成するとともに前記軸線方向に間隔をあけて設けられた複数のシールフィンと、前記軸線方向に隣り合う一対の前記シールフィンの間に、上流側のシールフィンのクリアランスを通過したリーク流が再付着する再付着縁を形成するとともに、
前記再付着縁に再付着した後の流れを前記上流側のシールフィンに戻す前記第二周面と、前記第二周面に沿う流れを前記周面に戻す前記上流側のシールフィンとに囲まれ、前記上流側のシールフィンに沿って前記周面に向かって流れる渦が生成される第一キャビティ、及び、下流側のシールフィンのクリアランスに対して縮流効果を生じる流れが生成される第二キャビティを形成する突部と、を備え、前記軸線方向に隣り合う一対の前記シールフィンの間において、前記周面の面上であって、前記軸線方向において前記上流側のシールフィンと前記再付着縁との間に、前記他方に向かって突出するとともに周方向に延在し、前記第二キャビティに前記下流側のシールフィンのクリアランスに対して縮流効果を生じる渦が生成される第三突条部が形成されて
おり、前記複数のシールフィンの前記間隔をL1、前記突部の軸線方向の幅をL2とすると、比L2/L1は、0.05〜0.3であり、前記第二キャビティの前記シールフィン先端からの径方向の深さをH2とすると、比H2/L1は、0.05〜0.3であることを特徴とする。
また、本発明は上記いずれかのシール構造を備えた回転機械を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、第一構造体と第二構造体との間の隙間から漏洩するリーク流を低減して、シール性能を安定させることができる。また、第一構造体と第二構造体との間に伸び差が発生した場合においても、第一構造体と第二構造体とが接触することがない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態の回転機械である蒸気タービンについて図面に基づき説明する。
図1に示すように、本実施形態の蒸気タービン1は、ケーシング10と、ケーシング10の内方に回転自在に設けられ、動力を図示しない発電機等の機械に伝達する回転軸30と、ケーシング10に保持された静翼40と、回転軸30に設けられた動翼50と、回転軸30を軸回りに回転可能に支持する軸受部60とを備えて大略構成されている。
【0023】
蒸気Sは、図示しない蒸気供給源と接続された蒸気供給管20を介して、ケーシング10に形成された主流入口21から導入され、蒸気タービン1の下流側に接続された蒸気排出管22から排出される。
【0024】
ケーシング10は、内部空間が気密に封止されていると共に、蒸気Sの流路とされている。このケーシング10の内壁面には、回転軸30が挿通されるリング状の仕切板外輪11が強固に固定されている。
軸受部60は、ジャーナル軸受装置61及びスラスト軸受装置62を備えており、回転軸30を回転自在に支持している。
【0025】
静翼40は、ケーシング10から内周側に向かって伸び、回転軸30を囲繞するように放射状に多数配置される環状静翼群を構成しており、それぞれ上述した仕切板外輪11に保持されている。
【0026】
これら複数の静翼40からなる環状静翼群は、回転軸30の軸方向(以下、単に軸方向と呼ぶ)に間隔を空けて複数形成されており、蒸気の圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して、下流側に隣接する動翼50に流入させる。
【0027】
動翼50は、回転軸30の回転軸本体31の外周部に強固に取り付けられ、各環状静翼群の下流側において、放射状に多数配置されて環状動翼群を構成している。
これら環状静翼群と環状動翼群とは、一組一段とされている。このうち、最終段における動翼50の先端部は、回転軸30の周方向(以下、単に周方向と呼ぶ)に隣接する動翼50の先端部同士と連結されておりシュラウド51と呼ばれている。
【0028】
図2に示すように、仕切板外輪11の軸方向下流側には、仕切板外輪11の内周部から拡径されケーシング10の内周面を底面13とする円筒状の環状溝12が形成されている。環状溝12には、シュラウド51が収容され、底面13は、シュラウド51と隙間Gdを介して径方向に対向している。
シュラウド51は、底面13と平行をなす円筒形状の外周面4を有している。換言すれば、シュラウド51は、回転軸30軸線O(
図1参照)に対して平行な面をなしている。
【0029】
底面13には、シュラウド51の外周面4に向けて径方向に延出する複数のシールフィン5が設けられている。
図2にはこのうち、三つのシールフィン5a,5b,5cを示す。シールフィン5は、軸方向に所定間隔をおいて、それぞれシュラウド51の外周面4に向けて、底面13から径方向内周側に延出しており、周方向に延びている。
即ち、本実施形態のケーシング10と動翼50との間の隙間Gdには、直通型ラビリンスシールであるシール構造2が設けられている。直通型ラビリンスシールとされていることによって、シール構造2は、上流側から下流側までが通して見えるような構造となっている。
【0030】
これらシールフィン5は、シュラウド51と微小間隙m(フィンクリアランス)を径方向に形成している。以下、複数のシールフィン5の中で軸方向に隣り合う一対のシールフィン5のうち、上流側のシールフィン5a(以下、上流シールフィンと呼ぶ)と外周面4との間の間隙を上流間隙mA、下流側のシールフィン5b(以下、下流シールフィンと呼ぶ)と外周面4との間の間隙を下流間隙mBと呼ぶ。
【0031】
これら微小間隙m(mA,mB)の各寸法は、ケーシング10や動翼50の熱伸び量や動翼50の遠心伸び量等を考慮して、シールフィン5と動翼50とが接触することがない範囲で設定されている。
【0032】
各々のシールフィン5の上流側の面には、突起7(突部)が一体に取り付けられている。突起7は、周方向から見た断面形状が矩形状をなす中実の部材であり、シールフィン5とともに周方向に延在している。
突起7は、シールフィン5の上流側にて軸線方向に直交する円板面8と、円板面8と直交するとともに周方向に延在する、軸線と同心の円筒状の面である円筒面9と、を有している。円板面8と円筒面9とが交わる稜線は、再付着縁15とされている。換言すれば、円板面8と円筒面9は、再付着縁15の位置を確定するための面である。
【0033】
突起7をこのような形状とすることによって、上流シールフィン5aと下流シールフィン5bとの間の空間には、上流シールフィン5aと突起7の円板面8と外周面4とによって形成された第一キャビティ17と、下流シールフィン5bと、突起7の円筒面9と、外周面4とによって形成された第二キャビティ18と、が形成される。
シールフィン5の端部側からみると、第一キャビティ17は、径方向に深く、第二キャビティ18は、第一キャビティ17と比較して径方向に浅いキャビティである。
【0034】
ここで、上記の構成からなる蒸気タービン1の動作について説明する。
まず、図示しないボイラなどの蒸気供給源から蒸気供給管20を介して、蒸気Sがケーシング10の内部空間に流入する。
ケーシング10の内部空間に流入した蒸気Sは、各段における環状静翼群と環状動翼群とを順次通過する。
【0035】
各段の環状静翼群において蒸気Sは、静翼40を通過しながらその周方向速度成分が増大する。この蒸気Sのうち大部分の蒸気SM(
図2参照)は、動翼間に流入し、蒸気SMのエネルギーが回転エネルギーに変換されて回転軸30に回転が付与される。
一方、蒸気Sのうち一部(例えば、約数%)のリークジェットSL(漏れ流、リーク流)は、静翼40から流出した後、強い周方向成分を維持した状態(旋回流)で環状溝12に流入する。
【0036】
図3に示すように、上流シールフィン5aの上流間隙mAを通過したリークジェットSLは、下流シールフィン5bに形成された突起7の再付着縁15に安定的に再付着する。即ち、リークジェットSLが上流シールフィン5aと下流シールフィン5bとの間でより拡散してリークジェットSLの運動エネルギーが損失する。
【0037】
また、リークジェットSLが、再付着縁15に再付着することにより、第一キャビティ17に渦B1が形成される。これにより、リークジェットSLの拡散の効果が増大して、リークジェットSLの運動エネルギーの損失も促進される。
また、リークジェットSLが、再付着縁15に再付着する流れにより、第二キャビティ18に縮流効果を生じる流れB2が生成される。ここで、縮流とは、流体が間隙を通過することによって、流れの幅が狭められることをいい、縮流が強められることによって、流体は間隙を通過しにくくなる。
図4に示すように、この流れB2は、下流シールフィン5bに衝突して下流間隙mBを通過するリークジェットSL2を縮流させるため、リークジェットSL2が低減される。
【0038】
ここで、別の観点から、本実施形態のシールフィンの形状を説明する。
既存の技術として、隣り合う一対のシールフィン同士の間隔(フィンピッチ)、及び微小隙間が同じ場合、一対のシールフィン及び底面で形成されるキャビティの深さが浅い方がリークジェットの流量が小さくなることが知られている。これは、キャビティの深さが浅い方がリークジェットが底面に再付着し易くなるため、拡散角度が大きくなるとともに、運動エネルギーの散逸が大きくなるからである。キャビティの深さが深い場合、リークジェットは底面ではなく、下流側のシールフィンに付着するため、拡散角度は小さくなり、運動エネルギーの散逸は小さくなってしまう。
フィンピッチをL1、キャビティの深さをHとすると、これらの比であるH/L1を0.25前後とすることによって、リークジェットの流量を小さくすることができることが知られている。
【0039】
本実施形態のキャビティの形状は、
図5に示すように、浅溝のキャビティC1の上流側に凹部C2を設け、キャビティC1の上流側の深さを深くしたような形状と説明することもできる。このような形状とすることによって、再付着縁15が形成され、この再付着縁15が安定的な再付着点となる。
凹部C2がない場合の再付着点をPとすると、再付着点は、上流側に移動することになる。即ち、再付着点の上流側への移動により、更に拡散角度が大きくなり、リークジェットSLの運動エネルギーを散逸させることができる。
【0040】
次に、再付着縁15をはじめ、本実施形態のシール構造2の形状を特定する寸法について説明する。
再付着縁15の位置は、上流間隙mAを通過したリークジェットSLが再付着しやすい位置に設定される。例えば、再付着縁15の位置は、蒸気タービン1の仕様、例えば、シュラウド51と底面13との間隔、リークジェットSLの流量などに応じて数値流体力学(CFD,Computational Fluid Dynamics)を用いた解析などを用いて適宜計算される。
【0041】
本実施形態のシール構造2は、4つのパラメータによって規定することができる。
図6を用いて、4つのパラメータについて説明する。
第一のパラメータは、フィンピッチL1に対する突起7の幅L2の比L2/L1である。フィンピッチL1とは、上流シールフィン5aと下流シールフィン5bとの間の間隔である。突起7の幅とは、突起7の円板面8とシールフィン5との軸方向の間隔である。
【0042】
第二のパラメータは、フィンピッチL1に対する第二キャビティ18の深さH2の比H2/L1である。第二キャビティ18の深さH2とは、径方向におけるシールフィン5の端部と突起7の円筒面9との間隔である。
第三のパラメータは、フィンピッチL1に対する第一キャビティ17の深さH1の比H1/L1である。第一キャビティ17の深さH1とは、径方向におけるシールフィン5の端部と底面13との間隔である。
第四のパラメータは、クリアランスCLに対するフィンピッチL1の比L1/CLである。
【0043】
第一のパラメータであるフィンピッチL1に対する突起7の幅L2の比L2/L1は、例えば、0.05〜0.3とすることが好ましい。例えばL2/L1を0.5などとし、突起7の幅L2を厚くすることは、上流側のシールフィン5aの端部から、再付着縁1515に向かう角度αが大きくなりすぎて、リークジェットSLが再付着縁15に再付着しなくなるため好ましくない。
【0044】
第二のパラメータであるフィンピッチL1に対する第二キャビティ18の深さH2の比H2/L1は、例えば、0.05〜0.3とすることが好ましい。例えば、H2/L1を0.5などとし、第二キャビティ18の深さH2を深くすることは、角度αが大きくなりすぎて、リークジェットSLが再付着縁15に再付着しなくなるため好ましくない。
【0045】
第三のパラメータであるフィンピッチL1に対する第一キャビティ17の深さH1の比H1/L1は、大きければ大きい程、フィンピッチL1が小さくなるため好ましく、0.5以上とすることが好ましい。
第四のパラメータであるクリアランスCLに対するフィンピッチL1の比L1/CLは、クリアランスCLが停止時と運転時で異なるほか、運転条件によっても変動するため、特に規定しないが、装置の詳細な仕様が決定してから設定することが好ましい。
【0046】
上記実施形態によれば、微小間隙mを通過したリークジェットSLが、突起7の再付着縁15に安定的に再付着する。再付着によりリークジェットSLを拡散させることで、リークジェットSLの運動エネルギーを損失させることができる。
また、第一キャビティに生成される渦B1によって、リークジェットSLの拡散の効果を増大させることができる。また、第二キャビティに生成される流れB2が起こす縮流の効果と運動エネルギー損失の効果によって、下流間隙mBを通過するリークジェットSLを低減することができる。
【0047】
また、シール構造を通過型ラビリンスシールとすることによって、回転側である回転軸30と静止側であるケーシングとの間に伸び差が発生した場合においても、回転側と静止側とが接触することがない。
また、突起7を周方向からみて矩形状の部材としたことによって、再付着縁15の位置が固定されてリークジェットSLの再付着点を安定させることができる。
【0048】
なお、本実施形態の円板面8は、その主面が軸線Oに直交するように形成されているが、再付着縁15の位置を設定どおりに維持できればこの限りではない。例えば、円板面8は、径方向外周側に向かうに従って、上流側に傾斜するような形状としてもよい。
同様に、本実施形態の円筒面9も下流側に向かうに従って、径方向内周側に傾斜するような形状としてもよい。
また、突起7は中実とせず、中空構造としてもよい。
【0049】
(第二実施形態)
以下、本発明の第二実施形態のシール構造を図面に基づいて説明する。なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
図7に示すように、本実施形態のシール構造2Bの突起7Bには、円筒面9の上流側端部からシュラウド51の外周面4に向かって突出するとともに周方向に延在する突条であるフィン側突条部24が形成されている。換言すれば、突起7の再付着縁15は、円筒面9からシュラウド51に向かって突出するとともに周方向に延在する突条であるフィン側突条部24である。
【0050】
上流間隙mAを通過したリークジェットSLは、下流シールフィン5bの再付着縁15に再付着する。この際、再付着縁15が径方向内周側に向かって突出していることによって、渦B1と流れB2とが明確に分離される。即ち、渦B1と流れB2が安定して形成される。
【0051】
上記実施形態によれば、フィン側突条部24によって第一キャビティに生成される渦B1と第二キャビティに生成される流れB2が安定して形成されることによって、リークジェットSLの低減効果を促進させることができる。
【0052】
(第三実施形態)
以下、本発明の第三実施形態のシール構造を図面に基づいて説明する。
図8に示すように、本実施形態のシール構造2Cのシュラウド51の外周面4には、軸方向において上流シールフィン5aと再付着縁15との間に、底面13に向かって突出するとともに周方向に延在する突条である回転側突条部25(第三突条部)が形成されている。
換言すれば、回転側であるシュラウド51の外周面4には、外周面4に沿って流れる流体を外周面4から剥離させるように形成された回転側突条部25が形成されている。
【0053】
突条部25は、外周面4からの径方向の高さが微小間隙mの寸法より低く形成されている。即ち、突条部25は、回転側である回転軸30と静止側であるケーシング10との間に伸び差が発生した場合においても回転側突条部25とシールフィン5とが接触しないような高さとされている。
【0054】
上流間隙mAを通過したリークジェットSLが回転側突条部25に衝突することによって、リークジェットSLの吹き抜けが低減される。詳しくは、再付着縁15に再付着することなく上流間隙mAから下流間隙mBへ向かって吹き抜けようとするリークジェットSLが、シュラウド51の外周面4に形成された回転側突条部25に衝突する。これにより、直通型ラビリンスシールにおける吹き抜け効果を抑制することができる。
また、回転側突条部25にてリークジェットSLの吹き抜けが低減されることによって、第二キャビティ18に渦B3が生成される。下流シールフィン5bの上流側に渦B3が発生することで、運動エネルギーの散逸が促進されるとともに、縮流が強まり、リークジェットSLの流量をより低減することができる。
【0055】
なお、回転側突条部25の軸方向の位置は、再付着縁15に再付着するリークジェットSLの吹き抜けを防止するとともに、第二キャビティ18に生成される渦B3の生成を阻害しないような位置に適宜設定されている。
【0056】
上記実施形態によれば、リークジェットSLの吹き抜けを防止するとともに、第二キャビティ18に生成される渦B3によって、運動エネルギーの散逸が促進されるとともに、縮流が強まり、リークジェットSLの流量をより低減することができる。
【0057】
(第四実施形態)
以下、本発明の第四実施形態のシール構造を図面に基づいて説明する。
図9に示すように、本実施形態のシール構造2Dの突起7Dは、シールフィン5の上流側の面から上流側に突出するとともに、周方向に延在する円筒状の部材である。換言すれば、突起7Dは、シールフィン5上流側の面に接続され、再付着縁15とシールフィン5との間に延在する軸線O(
図1参照)と同心の円筒状の部材である。
上流間隙mAを通過したリークジェットSLは、第一実施形態と同様に、突起7Dの上流側の端部である再付着縁15に再付着する。これにより、渦B1、流れB2に加え、突起7Dと底面13との間の空間である第三キャビティ19にも渦B4が形成される。
【0058】
上記実施形態によれば、第一実施形態とは異なる形状の突起で、第一実施形態のシール構造2と同様の効果を得ることができる。具体的には、突起の体積を低減してシールフィンの軽量化が可能となる。
【0059】
次に、第四実施形態の第一の変形例のシール構造について説明する。
図10に示すように、第四実施形態の第一の変形例のシール構造2Dは、第四実施形態のシール構造2Dの底面13に三角形状の突条である三角突条部26(第二突条部)を形成して、渦の安定を図る構成である。
具体的には、三角突条部26は、底面13上であって、軸線方向において上流シールフィン5aと再付着縁15との間に、回転側であるシュラウド51の外周面4に向かって突出するとともに周方向に延在する突条である。三角突条部26は、径方向内周側から外周側に向かう流れを軸方向上流側と下流側とに分断するような、一対の斜面27を有している。
【0060】
上記変形例によれば、底面13に三角突条部26が設けられていることによって、第三キャビティ19に生成される渦B4の生成を促進させることができる。
【0061】
次に、第四実施形態の第二の変形例のシール構造について説明する。
図11に示すように、第四実施形態の第二の変形例のシール構造2Dは、第一の変形例のシール構造の構成に加えて、第三実施形態のシール構造2Cの回転側突条部25を設けた構成である。
上記変形例によれば、第四実施形態の第一の変形例の効果に加えて、リークジェットSLの吹き抜けを防止するとともに、第二キャビティ18に生成される渦B3によって、運動エネルギーの散逸が促進されるとともに、縮流が強まり、リークジェットSLの流量をより低減することができる。
【0062】
(第五実施形態)
以下、本発明の第五実施形態のシール構造を図面に基づいて説明する。
なお、本実施形態では、上述した第一実施形態との相違点を中心に述べ、同様の部分についてはその説明を省略する。
図12に示すように、本実施形態のシール構造2Eの突起7Eの円筒面9Eは、下流側に向かうに従って、シュラウド51の外周面4からの距離が大きくなるように形成されている。即ち、本実施形態の突起7Eは、第一実施形態の突起7に、再付着縁15から下流側に向かうに従って第二キャビティ18の深さが深くなるような切込みが形成されている形状とされている。
再付着縁15の位置は第一実施形態の再付着縁15と同様の方法で定義されている。
上記実施形態によれば、リークジェットSLの拡散効果が高まり、下流間隙mBを通過するリークジェットSLを低減することができる。
【0063】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。また、本発明は実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。
例えば、上記各実施形態では、動翼50の先端側(回転側)に設けられたシュラウド51と、環状溝12の底面13(静止側)に設けられたシールフィン5とでラビリンスシールを構成したが、これに限ることはない。例えば、回転側である動翼の側にシールフィンを設けてもよい。
また、動翼が設けられていない回転軸とケーシングとの間の隙間をシールするラビリンスシールに適用してもよい。例えば、タービン車室とローター間の軸封シールや、軸流圧縮機のブレード-ケーシング間のシール、遠心圧縮機ケーシング−インペラ間のシールなどに適用することができる。
換言すれば、上記各実施形態のシール構造は、第一構造体に隙間を介して径方向に対向するとともに、第一構造体に対して軸線回りに相対回転する第二構造体と、第一構造体と第二構造体とのいずれか一方に設けられて、他方に向かって突出して他方との間に微小隙間を形成するとともに軸線方向に間隔をあけて設けられた複数のシールフィンと、を備える回転機械に適用が可能である。