【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は大きく分けて二つある。一つは製品歩留まりの向上である。即ち遊離炭素を微細に分散させて遊離炭素を含有した状態でも強度低下のない超硬合金を作製することである。
もう一つは遊離炭素含有合金の利点を生かした用途での高性能品の提供である。即ち後述するごとく高寸法精度の超硬合金焼結体を作製し、高精度で高性能の刃先交換型チップを提供することと、高効率に加工でき加工コストが安い超硬合金の加工品を提供することである。
以下具体例を本発明の目的・課題に沿って説明する。
【0009】
本発明の第一の目的は、遊離炭素の巣を小さくすることである。
超硬合金の生産過程において、炭素の調整が不適正で焼結後遊離炭素を含有すると、強度が低下(非特許文献1 p.95
図1.115)し、また鏡面仕上げ面に遊離炭素による巣が観察され、綺麗な鏡面が得られない等の問題が発生している。
超硬合金の遊離炭素の発生の程度は、超硬工具協会規格CIS006C−2007「超硬質合金の有孔度分類標準」の付
図4の標準写真(非特許文献2)により等級分類され、その程度によりC02〜C08まである。一般的に生産されている超硬合金に遊離炭素が生じた場合、付
図4のようになり、遊離炭素(巣)が一番少なく小さいC002から一番多いC008まである。付
図4のこれら写真から遊離炭素の大きさを判断するとC002の遊離炭素による巣の最大径は約70μmある。C006では最大径は100μm以上である。遊離炭素の付
図4の写真にあるごとく遊離炭素の巣の形は小さい点がいくつか樹枝状に集まり一つの巣になっておりこの集合体の大きさを巣の大きさとして測定した。
そしてこのような遊離炭素は破壊の起点となり強度を低下させる。また鏡面に仕上げると遊離炭素が一種の巣として観察されきれいな鏡面にならない。上述の理由により一般的には遊離炭素が生じた超硬合金は品質の問題で検査不良品となり、手直しや再製作を要し、最終的には歩留低下や納期遅延をきたすこととなる。
よって、本発明においては超硬合金中の遊離炭素を微細に分散させることで、超硬合金中の巣の最大径を20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下とし、強度の低下を抑制し、かつ鏡面仕上げ面においても綺麗な鏡面を得ることが可能な超硬合金および超硬合金の製造方法を提供することで、歩留低下や納期遅延を改善することができる。
【0010】
本発明の第二の目的は、より安定したCVD被覆超硬合金用の母材の提供である。
CVD法による被覆超硬合金が今日普及しているが、超硬合金に接する被膜はTiC,TiCN,TiNが一般的である。これらTi化合物は超硬合金内の炭素を吸収し被膜と超硬合金の境界に脱炭相のη相を生じやすい。η相は被覆超硬合金の強度を低下させる(非特許文献5および特許文献7)。しかし遊離炭素を含んだ超硬合金は余剰に炭素が含有されているため、η相の発生を抑制できることがわかっている(非特許文献3)。
よって、本発明において遊離炭素を含有したしかも強度低下のない超硬合金をCVD被覆超硬合金用の母材として提供することで、η相の発生を抑制した被覆超硬合金を提供することが可能となる。
【0011】
本発明の第三の目的は実用用途での性能がさらに改善された遊離炭素微細分散型の超硬合金及び被覆超硬合金を提供することである。
遊離炭素存在下では結合相(Co相)のfccの格子定数は約3.550Åで一定である(非特許文献1 p99及び同頁の
図1.115)。タングステン(W)のCо中への固溶量を増加させ格子定数を高くすると耐熱性が向上し切削性能が向上することが期待される。しかし遊離炭素存在下で格子定数を増大させえたとの報告はない。
本発明では液相状態から急冷することで格子定数を3.560Å以上のものを作製することが可能となった。切削性能は遊離炭素のない超硬合金に対し同等以上であった。この超硬合金を母材とした被覆超硬合金においても切削性能は向上していた。
後述する遊離炭素を分散した超硬合金は寸法精度の向上も実現できる。本発明は切削性能もよく寸法精度の高い刃先交換型切削チップの提供をも可能にするものである。
【0012】
本発明の第四の目的は、加工しやすい超硬合金の提供である。
超硬合金は切削工具、各種金型、ダイス等の耐摩工具、土木・鉱山工具等広範囲に利用されており、各種用途に応じた性能改善が日夜すすめられている。
一方超硬合金は非常に硬く加工し難い難削材として知られ、その加工には、放電加工及びダイヤモンド砥石による研削研磨加工が主として用いられている。いずれも高価な加工法である。最近は切削工具も進歩し焼結ダイヤモンドを使用した工具やダイヤモンド被覆工具が進歩して一部超硬合金の切削加工が可能になり超硬合金の加工効率の向上が期待されている。切削加工法は放電加工や研削加工に比し安価で効率の良い加工法である。
本発明の超硬合金は遊離炭素を含有しているので融点が低いという性質をもつ。遊離炭素を含有させると融点が下がることはわかっており(非特許文献1 p.96)、遊離炭素を含有した合金の融点は1298℃、低炭素側の融点は1357℃となっている。
このように本発明の超硬合金は、遊離炭素を含有しない超硬合金と比較して融点が低いため、被切削加工性が良いことが推測される。実際に実施例6で実証することができた。被切削加工性はWCの粒度やCо量等の超硬合金の他の特性に大いに支配されるが同じ組成では本発明は被切削加工性の良い超硬合金を提供することができる。
また遊離炭素を含有した超硬合金は、融点も下がることに加え電気抵抗も低いことがわかっており(非特許文献1 p.63)、非特許文献1によると、Cоを10%使用した超硬合金において低炭素側の比抵抗は約23μΩcmで、遊離炭素を含有した超硬合金の比抵抗は17.8μΩcmとなっている。よって放電加工性の改善を期待することができる。
【0013】
本発明の第五の目的は、寸法精度の高い刃先交換型切削チップを提供することである。
超硬合金は混合粉をプレスしそのプレス体を焼結し作られるがプレス体から焼結体になるときに体積で約50%(寸法で約20%)収縮する。収縮率を推定しプレス体を作り目的の寸法の焼結体をつくる。複数のプレス体の重量、体積を同じくするとそれぞれの焼結体の体積は同じにすることができるが寸法が変わる。焼結体の体積を同じにしても、収縮は相似形にならず、ユガミが起こり寸法のバラツキが生ずるからである。また複数個同じものを作成しても個体間の差が生ずる。
ユガミの大きな要因の一つが焼結体内部の炭素量のわずかなバラツキである。この炭素のバラツキは種々の要因で起こるが、例えばプレス体の表面からの水分の吸収、や焼結炉内の雰囲気の影響等である。低炭素側の融点は1357℃で、高炭素側(遊離炭素が存在する側)の融点は1298℃であり、焼結のために昇温していくと融点の低い高炭素側が早く収縮を開始し、融点の高い低炭素側が遅れて収縮する。このようにして焼結体のユガミが生ずる。プレス体内の炭素量が部分的に変動しても遊離炭素が存在する限り融点は変わらず、従って収縮は均等に起こる。即ちプレス体から焼結体になるときに体積で約50%収縮するが遊離炭素が分散していない通常のものは相似形に収縮せずユガミが生ずるが分散した遊離炭素を含有するものは相似形に収縮しユガミがない。よって遊離炭素を微細に分散した超硬合金は寸法精度の高い焼結体となる。
刃先交換型切削チップはチップ上面に複雑な形状を金型で作成する場合が多いが、焼結後は研削加工することは工業的には困難である。またチップの刃先の寸法バラツキは、チップで加工された製品の寸法精度を決定するものでありチップの寸法バラツキが小さいことが常に求められている。またチップの側面を研削することによって高精度のチップを作成することも行われているが、加工費がかかり、最近は側面の全部または一部を研削加工せず焼結肌(焼結したままの表面)で使用する方向にあり、焼結体の寸法精度向上が必要である。
本発明はこのような寸法精度を高い刃先交換型切削チップを提供するものである。また複数個のチップを一つに回転体に取り付け使用する転削工具ではチップの寸法精度のバラツキはさらに重要である。即ち転削工具の代表例の一つであるフライス工具では複数個のチップが組み込まれ一体として使用され寸法バラツキが大きいとチップ間の損耗のバラツキが大きくなりフライス工具の寿命が短くなる。この転削用途ではPVD被覆刃先交換型切削チップが多用されている。PVD被覆しても高精度は維持され変化しない。旋削用途ではCVD被覆刃先交換型切削チップが多用されるがCVD被覆しても高寸法精度は維持される。
寸法精度を向上したい要求は刃先交換型切削チップに限ったことではなく他の用途でも多い。第四の目的で記載した通り、金型等の加工品は焼結品から放電加工や切削加工、研削/研磨加工で完成金型等に加工されるがユガミ等で寸法精度が悪いと加工取り代が多くなり加工時間が長く、切削工具や研削砥石等の工具の損耗も多く費用がかかっている。ユガミが少なくなれば加工時間も短くなり、また工具の損耗も少なくなり、加工費が節減できる。
【0014】
本発明の第六の目的は、超硬合金が遊離炭素を含有することによって発生する欠点・問題点により実用化することが困難なその他の用途への活用である。
例えば低摩擦係数の超硬合金の提供である。超硬合金中に遊離炭素が存在すると良好な鏡面が得られず、現在実用化はされていない。しかし、遊離炭素を超硬合金中に微小に分散することによって、鏡面が得られるので遊離炭素の潤滑性を生かし潤滑性を改善した超硬合金の提供が可能になる。その他の用途開発も今後期待される。
【0015】
このような課題を鑑みて、本発明の目的は、(1)遊離炭素を含有した超硬合金、被覆超硬合金とこれらの加工品及びその製造方法に関し、遊離炭素を含有した超硬合金であってもその遊離炭素の欠点を除去または低減することであり、具体的には、超硬合金中に遊離炭素を含有しても遊離炭素を微細に分散させることで強度の低下を抑制し、かつ超硬合金中に遊離炭素を微細に分散させることで鏡面仕上げ面においても綺麗な鏡面を得ることが可能な超硬合金および超硬合金の製造方法を提供することである。
また、本発明の目的は、超硬合金中に遊離炭素を含有していることによる利点を活用できる好性能な超硬合金を提供することであり、目的(2)は微細分散した遊離炭素を含有した超硬合金をCVD被覆超硬合金用の母体として提供することでη相の発生を抑制したCVD法被覆超硬合金を提供することである。また目的(3)は高寸法精度の超硬合金焼結体を作製し、切削性能もよく寸法精度の高い刃先交換型切削チップを提供することである。 目的(4)は寸法精度が高く被加工性が良い超硬合金を開発しより短時間で安価な加工費で加工できる超硬合金加工品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、高温での液相存在時にその液相に固体炭素を含有しない範囲の炭素量を含有する炭化タングステン(WC)とコバルト(Cо)からなる超硬合金であって、遊離炭素に起因する巣の最大径が20μm以下であることを特徴とする。
本発明は、微細に分散された遊離炭素を含有した炭化タングステン(WC)とコバルト(Cо)からなる超硬合金において、含有する遊離炭素の量が0.02%以上0.15%以下であって、遊離炭素に起因する巣の最大径が20μm以下であることを特徴とする。
またさらに好ましくは、本発明の超硬合金は遊離炭素に起因する巣の最大径が15μm以下であることを特徴とする。
よりさらに好ましくは、本発明の超硬合金は遊離炭素に起因する巣の最大径が10μm以下であることを特徴とする。
図1(非特許文献1、p.96
図1.112(b))によると遊離炭素が約0.15%〜0.17%以上では液相出現時(約1298℃以上とされている)においても遊離炭素が固体として存在し、冷却し液相が固体化した時もその遊離炭素は存在し続ける。この領域は遊離炭素が過大で超硬合金としては一般に使用されていない。0.01%以上0.15%以下では液相出現時には、炭素はすべて液体中に溶けており、固体化するときに遊離炭素が液相から析出してくる。本発明はこの遊離炭素の大きさを微細化することを目的としたものである。詳しくは<遊離炭素を微細化する方法>でも述べる。
また遊離炭素を0.01%以上とせず、0.02%以上としたのは0.01%以下では遊離炭素に起因する巣の数、大きさともに減少し、遊離炭素に起因する欠点も顕在化しないことが多々あるからである。
【0017】
超硬合金の遊離炭素の発生の程度は超硬工具協会規格CIS006C−2007「超硬質合金の有孔度分類標準」のC型の巣に分類され、その程度は付
図4のC02〜C08により判定される(非特許文献2)。通常生産されている超硬合金で遊離炭素が生ずるとこの付
図4のCタイプの巣になる。遊離炭素の巣の多さにより、巣が一番少なく小さいC002から巣の多いC008まで分類されている。付
図4のこれら写真から遊離炭素の径を判断すると巣が少ないC002でも約25μm〜70μmのものが混在している。
付
図4の写真を見ると遊離炭素の巣の形は小さい点がいくつか樹枝状に集まり一つの巣になっておりこの集合体の大きさを巣の大きさとして測定した。そしてこのような巣(遊離炭素)は破壊の起点となり強度を低下させる(非特許文献1、p.99
図1.115)。また鏡面に仕上げると遊離炭素が一種の巣として観察されるためきれいな鏡面にならない。遊離炭素の巣の大きさ(最大径)を20μm以下に小さく分散させると巣が肉眼で殆ど見えなくなる。従って鏡面の不具合が改善もしくは解消し、強度も改善し遊離炭素を含有しないものに近づく、或はほぼ同等になる。
本願発明者は、超硬合金生成用の混合粉を焼結し、液相存在状態から冷却速度30℃/分,50℃/分,70℃/分のごとく急速冷却することで、従来達成していなかった遊離炭素の巣の最大径を20μm以下,15μm以下,10μm以下とする超硬合金および超硬合金の製造方法を発明した。
【0018】
本発明によれば、さらに遊離炭素の巣の大きさ(最大径)を15μm以下にすることにより、巣の最大径が20μmの場合よりもさらに強度(抗折力)、硬度および鏡面品質を向上した超硬合金を提供するものである。
【0019】
本発明によれば、さらに遊離炭素の巣の大きさ(最大径)を10μm以下にすることにより、巣の最大径が20μmの場合よりもさらに強度(抗折力)、硬度および鏡面品質を向上した超硬合金を提供するものである。
【0020】
本発明の超硬合金は、コバルト(Cо)の量の2〜18%の炭化クロムまたは窒化クロムが添加されていることを特徴とする。
本発明によれば、炭化クロムまたは窒化クロムを添加した超硬合金においても遊離炭素を微細分散させると、強度や硬度を遊離炭素のない超硬合金とほぼ同じにすることが可能である。
クロム(Cr)を固溶させると超硬合金の圧縮強度、耐熱強度および疲労強度が向上するとされている(特許文献1)。しかしコバルト(Co)の量に対し2%以下では効果がなくまた18%以上では炭化クロムの結晶が析出し超硬合金の強度を低下させる危険がある。従って2〜18%を適正範囲としている。
【0021】
本発明の超硬合金は、炭化タングステン(WC)の一部を周期律表4,5,6族元素の遷移金属の炭化物(ただし、Wを除く)、窒化物、炭窒化物、Wと前記遷移金属の炭化物、窒化物、炭窒化物との複炭化物、複炭窒化物のうちいずれか1つまたはこれらの組み合わせで置き換えたことを特徴とする。
本発明によれば、炭化タングステン(WC)の一部を周期律表4,5,6族元素の遷移金属の炭化物(ただし、Wを除く)、窒化物、炭窒化物、Wと前記遷移金属の炭化物、窒化物、炭窒化物との複炭化物、複炭窒化物のうちいずれか1つまたはこれらの組み合わせで置き換えた超硬合金においても遊離炭素を微細に分散させ強度、硬度を遊離炭素の巣がないものとほぼ同等にすることができる。
【0022】
本発明は、前記超硬合金の表面に脱β層が形成されており、前記脱β層の厚みが1〜30μmであることを特徴とする。
ここで脱β層とは、β相がない層であり、Co含有量がやや多くなり硬度がやや低くなるが強度や靭性に優れている層である。
本発明の超硬合金は、CVD被覆用の母材として利用されるが、本発明によれば、β相を含有する超硬合金にTiN,TiCN等の窒素化合物を添加し、脱β層を形成することで、被覆膜の脆性を補強することが可能となり、CVD被覆用の母材として好適に利用することができる。
脱β層は被覆膜の脆性を補強することが目的であるため、1μm以下では効果が不十分であり、また30μm以上では、本発明の超硬合金を工具刃先に使用した場合に工具刃先の高温硬度不足で工具性能が低下する。
【0023】
本発明は、前記超硬合金の結合相(Co相)のfccの格子定数が3.560Å以上であることを特徴とする。
本発明によれば、結合相(Co相)のfccの格子定数が3.560Å以上とすることで切削性能を向上した超硬合金及び被覆超硬合金を提供することができる。
格子定数が高い超硬合金は耐熱性が高く、疲労強度が改善され切削性能が向上するとされている。また、耐摩工具でも性能向上があるとされている(特許文献1、特許文献2)。遊離炭素を含有した超硬合金の格子定数は最低となり、約3.550Åである(非特許文献1、P99及び同頁の
図1.115)。
遊離炭素を微細分散するために、超硬合金を製造する製造工程において、超硬合金生成用の混合粉を焼結後液相存在状態から急冷するが、固相になっても800℃まで引き続き急冷し続ける。この急冷効果で、遊離炭素存在状態でもタングステン(W)のCo相中への固溶が進み格子定数が大きくなることが分かった。抗折力や硬度は大きな差はなかったが、切削試験をすると性能向上していた。耐磨用等の切削用途以外でも性能差があると考えられる。
本願発明者は、超硬合金に遊離炭素が含まれていても超硬合金中に遊離炭素を微細分散することで、従来達成し得なかった格子定数が3.560Å以上の遊離炭素を含んだ超硬合金を発明するに至った。
この超硬合金を母材にした被覆超硬合金も格子定数の効果は継続し切削性能は向上していた。後述するごとく遊離炭素分散型超硬合金は寸法精度も高くなる。本発明は遊離炭素を微細分散させ、寸法精度が高く、結合相(Co相)のfccの格子定数が3.560Å以上である超硬合金或は被覆超硬合金及びこれらからなる刃先交換型切削チップを提供することを特徴としている。
【0024】
本発明の超硬合金は、被覆超硬合金の母材として利用される。
CVD法による被覆超硬合金が普及しているが、超硬合金に接する被膜はTiC,TiCN,TiNが一般的である。これらTi化合物は超硬合金内の炭素を吸収し被膜と超硬合金の境界に脱炭層のη相を生じやすい。η相は被覆超硬合金の強度を低下させる(非特許文献5、特許文献7)。しかし遊離炭素を含んだ超硬合金は余剰に炭素が含有されておりη相の発生を抑制できる(非特許文献3、特許文献7)。
本発明の超硬合金を被覆超硬合金の母材として利用することで、境界部のη相が少ない強度の向上した被覆超硬合金を提供することを特徴としている。
【0025】
本発明の超硬合金または被覆超硬合金は、刃先交換型切削チップとして使用される。
また本発明の超硬合金または被覆超硬合金を使用し加工することで工具、金型、部品等の加工品として使用される。
本発明によれば寸法精度を向上した超硬合金、被覆超硬合金の製造が可能である。本発明は寸法精度向上により研削加工を省略ないしは削減した刃先交換型切削チップの提供を可能にすることを特徴としている。
また本発明の超硬合金は、寸法精度が高いため加工取り代が少なく、加工性もよいため加工費を安価にできる。従って本発明の超硬合金を使用し、より安価な加工費で工具、金型、部品等の超硬合金加工品、被覆超硬合金の加工品を提供することを特徴とする。
【0026】
本発明の超硬合金の製造方法は、微細遊離炭素分散型超硬合金を製造するに際し、超硬合金生成用の混合粉を液相出現温度以上の焼結温度で焼結後、液相出現温度以上の温度から急冷する工程、または液相出現以上の温度まで再加熱し急冷する工程を有することを特徴とする。
また本発明の超硬合金の製造方法は、前記急冷する工程および再加熱し急冷する工程の冷却速度を30℃/分以上とすることを特徴とする。
ここで、「液相出現温度以上の温度から急冷する工程」とは、液相出現温度以上から急速に超硬合金を冷却する工程のことであり、実施例の焼結条件「急冷」、「強急冷」、「強強急冷」も含まれる。
また、「再加熱し急冷する工程」とは、焼結された超硬合金を再び液相出現温度以上にまで加熱し、急速に冷却する工程のことであり、実施例の焼結条件「再加熱急冷」および「再加熱強急冷」も含まれる。
遊離炭素が存在するように配合した混合粉をプレスし焼結した。その際遊離炭素を微細に分散させるために液相存在状態から急冷した。液相存在状態から800℃までの冷却速度は通常10℃/分程度であるが、この場合は超硬工具協会規格CIS006C−2007「超硬質合金の有孔度分類標準」のC型の巣が超硬合金中に存在した。
同じ混合粉を使って焼結し、液相存在状態から冷却速度20℃/分、30℃/分で冷却したところ、20℃/分で冷却したほうが10℃/分で冷却するよりも超硬合金中に径が20μm以上の巣が少なくなったが、残存した。30℃/分で冷却すると、径が20μm以上の巣はなかった。
よって、冷却速度は30℃/分以上とした。また冷却速度を速くすると巣の径は小さくなる。試行実験では冷却速度が50℃/分程度の場合は径が15μm以上の巣はなくなり、冷却速度が70℃/分以上場合は径が10μm以上の巣はなくなった。
本発明によれば、超硬合金生成用の混合粉を液相出現温度以上の焼結温度で焼結後、急冷もしくは再加熱して急冷すること、およびその冷却速度を大きくすることによって、超硬合金中に巣を分散させ、かつ巣の径を小さくすることが可能となる。