【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のグラビア印刷方法は、グラビア印刷に供する版円周の異なるグラビア印刷版に対し、
可動支点を中心にファニッシャーロールを回動して接触させ、またインキパンを上下に調整し、前記インキパンにインキを供給して貯めて、前記ファニッシャーロールより前記グラビア印刷版にインキを供給するグラビア印刷機にあって、前記ファニッシャーロールより前記インキを掻き落すスキージー治具を前記インキパン底部に磁石の吸引力(磁力による密着を以下吸引力と記す)を持ってスライド可能に密着させ、前記スキージー治具のスキージー部を前記ファニッシャーロールの所望の位置にあてがい、前記グラビア印刷版両端のR部を含む一部領域の版面及び版側面に前記ファニッシャーロールから供給されるインキ付着量を少なくすることを特徴とする。
【0017】
フャニッシャーローラーは、グラビア印刷版に設けられた絵柄を形成するセルにインキを押し込むことが、主たる役割であり印刷速度の高速化に伴い不可欠なロールとなった。グラビア印刷版の速度と同じならファニッシャーロールからインキが飛散するので、周速を調整できる。従ってファニッシャーロールにより持ち上げられたインキは、障害物があれば、障害物に当たったインキは大半がインキパンに戻る。このような現象を利用すれば、障害物としてスキージーの役割をする治具(以下、スキージー治具と言う)を設ければグラビア印刷版両端のR部を含む一部領域にインキの供給を少なくすることができる。
【0018】
図1に、本発明のグラビア印刷方法の印刷ユニットの概念斜視図を示す。インキパン(1)に貯めたインキ<インキを太斜線で表した>(2)にファニッシャーロール(3)をインキ(2)に漬け回転することでインキ(2)をグラビア印刷版(4)に運びインキ溜まり(5)を作り、過剰なインキ(2)はインキパン(1)に落下し、一部はグラビア印刷版(4)の両端のR部(6)からインキパン(1)に落下する。グラビア印刷版(4)及びファニッシャーロール(3)の回転方向を側面に黒矢印で示した。尚、グラビア印刷版(4)とファニッシャーロール(3)のシャフトは
図1から省略している。
【0019】
本発明のインキパンの底部(7)にインキパン外面底部に設けた磁石(12)の吸引力を持ってスライド可能に密着させたスキージー治具(9)で、ファニッシャーロール(3)により持ち上げられたインキ(2)を掻き落としグラビア印刷版(4)両端のR部(6)を含む一部領域にインキ(2)を供給しないことにより、R部(6)及び版側面(10)へのインキ(2)の付着を少なくするものである。グラビア印刷版(4)両端のR部(6)近傍においてもドクター刃(11)で掻き落とされるインキも少なくなり版側面(10)のインキ汚れも軽減される。
【0020】
このように、本発明のグラビア印刷方法である、インキパン底部にスキージー治具を磁石の吸引力を持ってスライド可能に密着させて取り付けることにより、R部及び版側面からのインキ飛散がなくなり、版側面へのインキ付着もR部の近傍だけとなることで、グラビア印刷機のフレーム内面やグラビア印刷版を保持するシャフト、更にはグラビア印刷版とシャフト先端のチャッキングコーンの間にもインキの侵入がなく、常にグラビア印刷機を汚れのない状態を維持するだけでなくグラビア印刷版の清掃作業もなくなり、グラビア印刷の効率を高めるものである。
【0021】
スキージー治具をインキパン底部にセット(固定又は密着)する方法として、<1>ボルトでの固定では、インキの漏れを招く恐れがあり現実的でなく、<2>インキパン底部にスキージー治具の固定ガイドを設けることはスペースが狭く現実的でなく、本発明は<3>磁石の吸引力を持ってスライド可能に密着させる方法を選択したものである。また、スキージー治具を磁石の吸引力を持ってスライド可能に密着させることで、所望の位置にスキージーを設けることが容易にでき、またグラビア印刷稼働中においても容易に調整ができるものである。
【0022】
本発明のスキージー治具は、グラビア印刷に供する版円周の異なるグラビア印刷版に対し、
可動支点を中心にファニッシャーロールを回動して接触させ、またインキパンを上下に調整し、前記インキパンにインキを供給して貯めて、前記ファニッシャーロールより前記グラビア印刷版にインキを供給するグラビア印刷機にあって、前記ファニッシャーロールより前記インキを掻き落すスキージー治具を前記インキパン底部に磁石の吸引力を持ってスライド可能に密着させ、前記スキージー治具のスキージー部を前記ファニッシャーロールの所望の位置にあてがい、前記グラビア印刷版両端のR部を含む一部領域の版面及び版側面に前記ファニッシャーロールから供給されるインキ付着量を少なくすることを特徴とする。
【0023】
先に示した
図1に示したように、インキパン底部に磁石の吸引力を持ってスライド可能に密着させたスキージー治具により、ファニッシャーロールに塗布したインキは掻き落とされ、ファニッシャーロールが接するグラビア印刷版両端のR部を含む一部領域のインキ溜まりは少なくなり、グラビア印刷版両端のR部及び版側面へのインキ付着量を少なくすることが出来る。
【0024】
図2に、本発明の1例としてインキパン外面底部(7)に磁石を設け、スキージー治具(9)を該磁石(12)の吸引力を持ってスライド可能に密着させた拡大断面図を示す。また、
図3にグラビア印刷版(4)の版円周が小さくなった場合にグラビア印刷版(4)の位置に対するファニッシャーロール(3)、インキパン(1)、スキージー治具(9)の位置を示す。グラビア印刷版(4)は印刷機フレームから延びるチャキング軸で保持されるため同一の位置となる。
【0025】
図2、及び
図3において、グラビア印刷版(4)は同じ位置に、機械フレームからチャッキング軸で保持され、ファニッシャーロール(3)が機械フレームを可動支点(14)とした可動アーム(13)に設けられグラビア印刷版の下部に接触する。インキパン(1)は上下に動くインキパン架台の定位置にセットされ、ファニッシャーロール(3)に対応した位置に調整される。
【0026】
インキパン外面底部に磁石を設けるには、インキパン外面底部に磁石を接着し固定、又はインキパン外面底部に枠を設け磁石を収納して固定してもよい。
【0027】
図4にインキパン外面底部に磁石設けた場合のスキージー治具(9)の外観斜視図を示す。
図5に別なスキージー治具(9)の外観斜視図を示す。
【0028】
磁石は、インキパン外面底部に設ける必要はなく、スキージー治具と一体として磁石を設けることができる。この場合はスキージー治具及び磁石の洗浄適性とインキパン底部に磁石の吸引力を持ってスライド可能に密着できるようにインキパンが鉄製又は鉄製でなければインキパン外面底部に鉄板を設ければよい。この場合のスキージー治具について説明をする。
【0029】
図6は、スキージー治具に磁石の収納部を設けたもので、インキパンが鉄製あればインキパン底部に磁石の吸引力を持ってスライド可能に密着することができる。更に
図7は本発明のスキージー治具に展開図を示した。スキージー治具を磁石が付かないステンレスで作成すれば簡単に磁石を外し洗浄することができる。
【0030】
図8は、スキージー治具に磁石を密封した状態を示す断面図である。このスキージー治具の素材としては、鉄、ステンレス、アルミなどの金属類、又はポリプロピレン、ポリエチレンなどのプラスッチク類より選択すればよい。また、スキージー部分だけを金属類又はプラスッチク類にして、勘合式又はキャップ式にして使い捨てることができるようにしてもよい。スキージー治具は単一材料に限定するものでなく、スキージーに適した材料をスキージー部分にだけ使用してもよい。
【0031】
このように、インキパン底部にスキージー治具と磁石一体にしてインキパンに磁石の吸引力を持ってスライド可能に密着させてもよく、インキパンがステンレスなど磁石の吸引力を持って密着しない場合はインキパン外面底部に板状の鉄を接着しておけばよい。
【0032】
磁石をインキパン内に又はインキパン外面底部に設けること、磁石の吸引力を持ってスライド可能に密着できるスキージー治具を任意に選択することができる。スキージー治具は単一材料に限定するものでなく、スキージーに適した材料をスキージー部分にだけ使用してもよい。
【0033】
本発明のインキパンの外面底部に設けた磁石の吸引力を持ってスライド可能に密着できるスキージー治具は、グラビアインキをファニッシャーロールより掻き落すことができればよいが、グラビア印刷版の版円周が変われば、ファニッシャーロールの位置が変わる為、任意の位置にスキージー治具を移動できるように、磁石を用いることは好ましい。また、グラビア印刷版の幅が異なってもグラビア印刷版両端のR部を含む一部領域の版面及び版側面にスキージー治具を容易に移動でき磁石を用いることは好ましい。
【0034】
尚、磁石は磁力の強い希土類磁石ネオジウムなどを使用するのが好ましい。また、インキパンの清掃を容易にするためインキパンにフィルムを引く場合は、スキージー治具とインキパン底部の間にフィルムが介在するが磁力の強い磁石であれば影響を受けない。
【0035】
図1から
図9示すように、本発明ではスキージー治具をインキパン底部に密着するための磁石は、インキパンに内部設けても、インキパン外面底部に設けても、どちらであってもよい。
【0036】
本発明者は、先に特許第6202459号で、インキパンフレームに固定した治具及びスキージーをもって、ラビア印刷版両端のR部を含む一部領域の版面及び版側面に前記ファニッシャーローラーからのインキ付着量を少なくするグラビア印刷方法および治具及びスキージーを提案した。
【0037】
しかし、インキパンフレームに固定した治具から延びるスキージー部は、ファニッシャーローラーに自重での加圧であり、加圧によりファニッシャーローラーに摩耗が生じること、グラビア版の版円周によりスキージー部の長さが異なりスキージー部の調整が煩雑でること、スキージー部が長いと該部分に振動が生じファニッシャーローラーに安定した加圧が困難なこと、スキージー部が長いと該部分の振動によりスキージーで掻き落としたインキが飛散し易いこと、治具及びスキージーが多くの部材より構成されており洗浄性に劣ること、部材が多くなることで高価な装置となること、印刷機によりインキパンフレームの形状が異なり汎用性がないこと、などを考慮して本発明に至ったものである。
【0038】
本発明と特許第6202459号とは、ファニシャーロールからインキを掻き落とすことは同一であるが、本発明はスキージー治具をインキパン底部に磁石の吸引力を持って密着スキージー治具のスキージー部を持ってファニッシャーロールの表面に垂直に近い角度で沿わすものでありファニッシャーロールを傷つけることがなく、ファニッシャーロールの円周方向の広い表面範囲でインキを掻き落とすことができるのに対し、特許第6202459号はスキージーの自重でファニッシャーロールからインキを掻き落とすのでファニッシャーロールの上部に限られる。また、スキージーの自重は、インキパンフレームからの長さ及び角度によりファニッシャーロールへの加圧力が変化するためスキージーの効果は不安定になるだけでなく、ファニッシャーロールを傷つける危険性もある。
【0039】
本発明の掻き落とし可能な範囲について
図10を持って説明する。スキージー治具のスキージー部はファニッシャーロールに垂直に近い角度で沿わせ、インキパン底部の密着部分からスキージー部が長くない方が操作は容易で、また短くなり過ぎると操作しにくいものであった。
【0040】
比較として、特許第6202459号掻き落とし可能な範囲について
図11を持って説明する。
図11においても実線で示したスキージー部が好ましい範囲となるが範囲が狭く操作が容易ではないだけなく、荷重が大きいとファニッシャーロールを傷つける摩耗する危険があり、またインキ粘度の違いで掻き落とされるインキ量が異なるものであった。