【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る風力発電設備の疲労評価システムは、風力発電設備の各評価点に生じる応力の単位期間内の時系列変化を示す応力変化情報を取得するよう構成された応力変化情報取得部と、前記応力変化情報取得部によって取得した前記応力変化情報に基づいて、前記単位期間に前記各評価点に生じる応力の応力振幅F
i及び該応力振幅F
iの繰り返し数n
iを算出するよう構成された応力振幅情報算出部と、前記応力振幅情報算出部の算出結果と前記各評価点の材料に応じたS−N線図の情報とに基づいて、前記単位期間における前記各評価点の累積損傷度D
uを算出する累積損傷度算出部と、前記累積損傷度算出部の算出結果を評価期間全体にわたって累計して前記各評価点における前記評価期間全体の全累積損傷度D
tを演算する全累積損傷度演算部と、前記全累積損傷度演算部によって演算した前記各評価点における前記全累積損傷度D
tを閾値と比較して前記風力発電設備における前記各評価点の属する部位の疲労評価を行う疲労評価部と、を備え、前記累積損傷度算出部は、以下の式(1)に基づいて前記累積損傷度D
uを演算するよう構成される、疲労評価システム。
ここで、N
iは、前記応力振幅F
iに対応する破断繰り返し数であり、以下の式(2)に基づいて算出される。
ここで、N
Refは、基準応力振幅F
Refに対する破断繰り返し数であり、mは前記S−N線図の情報における破断繰り返し数N
iと応力振幅F
iとの関係を示す関数の傾きである。
【0008】
上記(1)に記載の疲労評価システムによれば、風力発電設備において単位期間に各評価点に生じる応力の応力振幅F
i及び該応力振幅F
iの繰り返し数n
iと、各評価点の材料に応じたS−N線図の情報と、に基づいて、各評価点について累積疲労損傷則を考慮した適切な全累積損傷度Dtを算出することができる。
このため、この全累積損傷度Dtを閾値と比較することにより、各評価点の属する部位の疲労評価を累積疲労損傷則に基づいて適切に行うことができる。
したがって、例えば、次回の定期メンテナンスの時期までに何れかの評価点に対応する部位の余寿命が尽きてしまうことが予想される場合、次回のメンテナンスの時期を早めたり、風力発電設備の稼働率を下げて定期メンテナンスの時期まで余寿命を延長する。これにより、風力発電設備の各部位の破損等による予期しない運転停止を防ぐことが可能となる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の疲労評価システムにおいて、前記全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度D
tが前記閾値を超えた場合に警告信号を生成するよう構成された警告信号生成部を更に備える。
【0010】
上記(2)に記載の疲労評価システムによれば、全累積損傷度D
tが一定の値を超えると破損のリスクが高まるため、このような場合に警告のための警告信号を警告信号生成部が生成することにより、警告に応じて風力発電設備の運転停止やメンテナンス等の適切な処置を行うことができる。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の疲労評価システムにおいて、前記警告信号生成部は、前記全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度D
tの増大速度が許容値を超えた場合にも警告信号を生成するよう構成される。
【0012】
風力発電設備の少なくとも一つの評価点の全累積損傷度の増大速度が許容値を超えた場合、想定外の応力分布の発生を招くような異常が風力発電設備に起きていると推定される。したがって、上記(3)に記載の疲労評価システムの警告信号生成部は、このような場合に警告のための警告信号を生成することにより、警告に応じて風力発電設備の運転停止やメンテナンス等の適切な処置を行うことができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れか1項に記載の疲労評価システムにおいて、前記閾値が1である。
【0014】
上記(4)に記載の疲労評価システムによれば、全累積損傷度演算部によって演算した各評価点の全累積損傷度D
tを、設計寿命を示す値である1と比較することにより、各評価点の属する部位の予寿命を累積疲労損傷則に基づき正確に把握することができる。
【0015】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(3)に記載の疲労評価システムにおいて、前記閾値は、前記風力発電設備の運用開始からの経過時間の増大とともに増加する。
【0016】
各評価点における全累積損傷度D
tは、風力発電設備の運用開始からの経過時間の経過とともに増大する。このため、任意の時刻において、各評価点における全累積損傷度D
tが正常な値かどうかを適切に判断するためには、全累積損傷度D
tと比較する閾値を風力発電設備の運用開始からの経過時間の経過とともに適切に変化させる必要がある。この点、上記(5)に記載の状態評価システムによれば、全累積損傷度D
tと比較する閾値を風力発電設備の運用開始からの経過時間の増大とともに増加させることにより、任意の時点での各評価点における全累積損傷度D
tが正常な値であるかどうかを適切に評価することが可能となる。
【0017】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(5)に記載の疲労評価システムにおいて、前記単位期間は、1分以上600分以下の期間である。
【0018】
累積損傷度D
uを算出する単位期間が短いほど、該累積損傷度に基づく疲労評価を頻繁に実行することが可能となるため、風力発電設備において全累積損傷度D
tの急激な増大等を招く何らかの異常が生じても、速やかに該異常を発見して風力発電設備の運転停止やメンテナンス等の適切な処置を行うことができる。しかしながら、累積損傷度D
uを算出する単位期間が短いほど、累積損傷度算出部及び全累積損傷度演算部における計算負荷が大きくなってしまう。この点、上記(6)に記載の疲労評価システムによれば、風力発電設備において全累積損傷度D
tの急激な増大等を招くような異常の発見が遅れるリスクと上記計算負荷とを勘案した最適な頻度で、累積損傷度D
uを算出することができる。
【0019】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の疲労評価システムにおいて、前記評価点のうち少なくとも一つは、タワーのトップ部、タワーのボトム部、ロータハブ又はロータブレードの何れか1つに属する。
【0020】
上記(7)に記載の疲労評価システムによれば、風力発電設備において破損が生じるリスクのある主要箇所について、累積疲労損傷則を考慮した適切な全累積損傷度Dtを算出することができる。したがって、該全累積損傷度Dtを閾値と比較することにより、破損が生じるリスクのある主要箇所についての疲労評価を累積疲労損傷則に基づいて適切に行うことができる。
【0021】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れか1項に記載の疲労評価システムにおいて、前記風力発電設備は、ロータハブに取り付けられた複数のロータブレードを備えており、前記評価点の少なくとも一部は、前記複数のロータブレードの各々に属しており、前記疲労評価システムは、前記全累積損傷度演算部によって演算した前記複数のロータブレードの各々に属する前記評価点の前記全累積損傷度D
tを互いに比較することにより、前記複数のロータブレードの各々の欠陥を判定するよう構成された欠陥判定部を更に備える。
【0022】
風力発電設備が複数のロータブレードを備えている場合、各ロータブレードの同一箇所(例えば、あるロータブレードの翼根部と、他のロータブレードの翼根部)に生じる応力の時間平均値(ロータの回転周期よりも十分に長い時間における時間平均値)は、ロータが回転しているため基本的に略同一である。したがって、各ロータブレードに属する評価点の全累積損傷度D
tを互いに比較することにより、各ロータブレードの欠陥を判定することができる。
【0023】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れか1項に記載の疲労評価システムにおいて、前記応力振幅情報算出部は、前記応力変化情報取得部によって取得した前記応力変化情報に対してレインフロー処理を行うことにより、前記単位期間に前記各評価点に生じる応力の応力振幅F
i及び該応力振幅F
iの繰り返し数n
iを算出するよう構成される。
【0024】
上記(9)に記載の疲労評価システムによれば、応力変化情報取得部対してレインフロー処理を行うことにより、応力の応力振幅F
i及び該応力振幅F
iの繰り返し数n
iを正確に算出することが可能となる。
【0025】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(9)に記載の疲労評価システムにおいて、前記全累積損傷度演算部によって演算した各評価点の前記全累積損傷度D
tをグラフ化して表示するよう構成された表示部を更に備える。
【0026】
上記(10)に記載の疲労評価システムによれば、各評価点の全累積損傷度D
tをグラフ化して表示することにより、オペレータが各評価点の全累積損傷度D
tを視覚的に把握することが可能となる。このため、表示された全累積損傷度D
tのグラフに基づいて、オペレータが風力発電設備の各評価点における余寿命等を容易に把握することができる。したがって、オペレータが風力発電設備の運転停止やメンテナンス等の適切な処置を行うことができる。
【0027】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(10)に記載の疲労評価システムにおいて、前記風力発電設備の前記各評価点に生じる応力を計測するための計測装置を更に備え、前記応力変化情報取得部は、前記応力変化情報を前記計測装置から取得するよう構成される。
【0028】
上記(11)に記載の疲労評価システムによれば、風力発電設備の各評価点に生じているリアルタイムの応力に関する応力変化情報を、計測装置を介して応力変化情報取得部が取得することができる。これにより、各評価点に生じているリアルタイムの応力に関する応力変化情報に基づいて、例えば風力発電設備の運用開始から現在に至るまでの各評価点の全累積損傷度D
tを全累積損傷度演算部によって演算することができる。したがって、このように演算した全累積損傷度D
tを例えば設計寿命に対応する閾値と比較することにより、風力発電設備の各部位の余寿命を正確に評価することができる。
【0029】
(12)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載の疲労評価システムにおいて、前記全累積損傷度演算部は、前記単位期間が経過する毎に、各評価点について最新の前記単位期間における前記累積損傷度D
uを前記全累積損傷度D
tの前回値に加算し、前記全累積損傷度D
tを更新するように構成され、前記疲労評価システムは、前記全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度D
tが前記閾値を少なくとも一回超えた場合に、当該評価点について前記全累積損傷度D
tが前記閾値を超えていることを示すフラグをオンにするよう構成されたフラグ設定部を更に備える。
【0030】
上記(12)に記載の疲労評価システムによれば、少なくとも一つの評価点の全累積損傷度D
tが閾値を超えたタイミングを、フラグの状態によって特定できる。したがって、例えば、そのタイミングにおける風力発電設備を構成する各機器の可動状態等を後から参照して、当該評価点の全累積損傷度D
tが閾値を超えた原因等を特定することが可能となる。
【0031】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)に記載の疲労評価システムにおいて、前記風力発電設備の前記各評価点に生じる応力を計測するための計測装置を更に備え、前記応力変化情報取得部は、前記応力変化情報を前記計測装置から取得するよう構成され、前記フラグ設定部は、前記全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度D
tが複数回続けて前記閾値を超えた場合にのみ、当該評価点について前記全累積損傷度D
tが前記閾値を超えていることを示すフラグをオンにするよう構成されたフラグ設定部を更に備える。
【0032】
上記(13)に記載の疲労評価システムによれば、風力発電設備の各評価点に生じているリアルタイムの応力に関する応力変化情報を、計測装置を介して応力変化情報取得部が取得することができる。これにより、各評価点に生じているリアルタイムの応力に関する応力変化情報に基づいて、例えば風力発電設備の運用開始から現在に至るまでの各評価点の全累積損傷度D
tを全累積損傷度演算部によって演算することができる。
【0033】
一方、計測装置によって得られる応力変化情報は一時的な外乱によってばらつきが存在するため、算出される全累積損傷度D
tにもこのばらつきの影響が出ることがある。この点、上記(13)に記載の疲労評価システムによれば、少なくとも一つの評価点の全累積損傷度D
tが複数回続けて閾値を超えた場合にのみ、当該評価点について全累積損傷度D
tが前記閾値を超えていることを示すフラグをオンにする。このため、フラグをオンにするタイミングに対する上記ばらつきの影響を抑制することができる。
【0034】
(14)幾つかの実施形態では、上記(13)に記載の疲労評価システムにおいて、前記フラグ設定部は、全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度D
tが複数回続けて前記閾値以下であった場合にのみ、当該評価点について前記フラグをオフにするよう構成される。
【0035】
上記(14)に記載の疲労評価システムによれば、上記(13)に記載の疲労評価システムにおいて、フラグをオフにするタイミングに対する上記ばらつきの影響を抑制することができる。
【0036】
(15)本発明の一実施形態に係る風力発電設備によれば、風力エネルギーを受けて回転するよう構成されたロータと、前記ロータの回転力が伝達される発電機と、上記(1)乃至(14)の何れか1項に記載の疲労評価システムと、
を備える風力発電設備。
【0037】
上記(15)に記載の風力発電設備によれば、上記(1)乃至(14)の何れか1項に記載の疲労評価システムを用いることにより、各評価点の属する部位の疲労評価を累積疲労損傷則に基づいて適切に行うことができる。
【0038】
したがって、例えば、次回の定期メンテナンスの時期までに何れかの評価点に対応する部位の余寿命が尽きてしまうことが予想される場合、次回のメンテナンスの時期を早めたり、風力発電設備の稼働率を下げて定期メンテナンスの時期まで余寿命を延長する。これにより、風力発電設備の各部位の破損等による予期しない運転停止を防ぐことが可能となる。