特許第6345041号(P6345041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6345041-風力発電設備の疲労評価システム 図000012
  • 特許6345041-風力発電設備の疲労評価システム 図000013
  • 特許6345041-風力発電設備の疲労評価システム 図000014
  • 特許6345041-風力発電設備の疲労評価システム 図000015
  • 特許6345041-風力発電設備の疲労評価システム 図000016
  • 特許6345041-風力発電設備の疲労評価システム 図000017
  • 特許6345041-風力発電設備の疲労評価システム 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6345041
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】風力発電設備の疲労評価システム
(51)【国際特許分類】
   F03D 80/00 20160101AFI20180611BHJP
   F03D 1/06 20060101ALI20180611BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20180611BHJP
【FI】
   F03D80/00
   F03D1/06 A
   G01M99/00 Z
【請求項の数】13
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-178158(P2014-178158)
(22)【出願日】2014年9月2日
(65)【公開番号】特開2016-50566(P2016-50566A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年1月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】溝上 岳人
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 秀和
(72)【発明者】
【氏名】丸山 竜宏
【審査官】 所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−068407(JP,A)
【文献】 特開2010−048239(JP,A)
【文献】 特開2004−301030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 80/00
F03D 1/06
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
風力発電設備の疲労評価システムであって、
風力発電設備の各評価点に生じる応力の単位期間内の時系列変化を示す応力変化情報を取得するよう構成された応力変化情報取得部と、
前記応力変化情報取得部によって取得した前記応力変化情報に基づいて、前記単位期間に前記各評価点に生じる応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nを算出するよう構成された応力振幅情報算出部と、
前記応力振幅情報算出部の算出結果と前記各評価点の材料に応じたS−N線図の情報とに基づいて、前記単位期間における前記各評価点の累積損傷度Dを算出する累積損傷度算出部と、
前記累積損傷度算出部の算出結果を評価期間全体にわたって累計して前記各評価点における前記評価期間全体の全累積損傷度Dを演算する全累積損傷度演算部と、
前記全累積損傷度演算部によって演算した前記各評価点における前記全累積損傷度Dを閾値と比較して前記風力発電設備における前記各評価点の属する部位の疲労評価を行う疲労評価部と、
前記全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度Dが前記閾値を超えた場合、及び、前記全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度Dの増大速度が許容値を超えた場合に警告信号を生成するよう構成された警告信号生成部と、を備え、
前記累積損傷度算出部は、以下の式(1)に基づいて前記累積損傷度Dを演算するよう構成される、疲労評価システム。
ここで、Nは、前記応力振幅Fに対応する破断繰り返し数であり、以下の式(2)に基づいて算出される。
ここで、NRefは、基準応力振幅FRefに対する破断繰り返し数であり、mは前記S−N
線図の情報における破断繰り返し数Nと応力振幅Fとの関係を示す関数の傾きである。
【請求項2】
前記閾値が1である、請求項に記載の疲労評価システム。
【請求項3】
前記閾値は、前記風力発電設備の運用開始からの経過時間の増大とともに増加する請求項に記載の疲労評価システム。
【請求項4】
前記単位期間は、1分以上600分以下の期間である請求項1乃至の何れか1項に記載の疲労評価システム。
【請求項5】
前記評価点のうち少なくとも一つは、タワーのトップ部、タワーのボトム部、ロータハブ又はロータブレードの何れか1つに属する請求項1乃至の何れか1項に記載の疲労評価システム。
【請求項6】
風力発電設備の疲労評価システムであって、
風力発電設備の各評価点に生じる応力の単位期間内の時系列変化を示す応力変化情報を取得するよう構成された応力変化情報取得部と、
前記応力変化情報取得部によって取得した前記応力変化情報に基づいて、前記単位期間に前記各評価点に生じる応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nを算出するよう構成された応力振幅情報算出部と、
前記応力振幅情報算出部の算出結果と前記各評価点の材料に応じたS−N線図の情報とに基づいて、前記単位期間における前記各評価点の累積損傷度Dを算出する累積損傷度算出部と、
前記累積損傷度算出部の算出結果を評価期間全体にわたって累計して前記各評価点における前記評価期間全体の全累積損傷度Dを演算する全累積損傷度演算部と、
前記全累積損傷度演算部によって演算した前記各評価点における前記全累積損傷度Dを閾値と比較して前記風力発電設備における前記各評価点の属する部位の疲労評価を行う疲労評価部と、を備え、
前記累積損傷度算出部は、以下の式(1)に基づいて前記累積損傷度Dを演算するよう構成され、
前記風力発電設備は、ロータハブに取り付けられた複数のロータブレードを備えており、
前記評価点の少なくとも一部は、前記複数のロータブレードの各々に属しており、
前記全累積損傷度演算部によって演算した前記複数のロータブレードの各々に属する前記評価点の前記全累積損傷度Dを互いに比較することにより、前記複数のロータブレードの各々の欠陥を判定するよう構成された欠陥判定部を更に備える疲労評価システム。
ここで、Nは、前記応力振幅Fに対応する破断繰り返し数であり、以下の式(2)に基づいて算出される。
ここで、NRefは、基準応力振幅FRefに対する破断繰り返し数であり、mは前記S−N
線図の情報における破断繰り返し数Nと応力振幅Fとの関係を示す関数の傾きである。
【請求項7】
前記応力振幅情報算出部は、前記応力変化情報取得部によって取得した前記応力変化情報に対してレインフロー処理を行うことにより、前記単位期間に前記各評価点に生じる応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nを算出するよう構成される請求項1乃至の何れか1項に記載の疲労評価システム。
【請求項8】
前記全累積損傷度演算部によって演算した各評価点の前記全累積損傷度Dをグラフ化して表示するよう構成された表示部を更に備える請求項1乃至の何れか1項に記載の疲労評価システム。
【請求項9】
前記風力発電設備の前記各評価点に生じる応力を計測するための計測装置を更に備え、
前記応力変化情報取得部は、前記応力変化情報を前記計測装置から取得するよう構成される請求項1乃至の何れか1項に記載の疲労評価システム。
【請求項10】
風力発電設備の疲労評価システムであって、
風力発電設備の各評価点に生じる応力の単位期間内の時系列変化を示す応力変化情報を取得するよう構成された応力変化情報取得部と、
前記応力変化情報取得部によって取得した前記応力変化情報に基づいて、前記単位期間に前記各評価点に生じる応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nを算出するよう構成された応力振幅情報算出部と、
前記応力振幅情報算出部の算出結果と前記各評価点の材料に応じたS−N線図の情報とに基づいて、前記単位期間における前記各評価点の累積損傷度Dを算出する累積損傷度算出部と、
前記累積損傷度算出部の算出結果を評価期間全体にわたって累計して前記各評価点における前記評価期間全体の全累積損傷度Dを演算する全累積損傷度演算部と、
前記全累積損傷度演算部によって演算した前記各評価点における前記全累積損傷度Dを閾値と比較して前記風力発電設備における前記各評価点の属する部位の疲労評価を行う疲労評価部と、を備え、
前記累積損傷度算出部は、以下の式(1)に基づいて前記累積損傷度Dを演算するよう構成され、
前記閾値は、前記風力発電設備の運用開始からの経過時間の増大とともに増加するとともに、
前記全累積損傷度演算部は、前記単位期間が経過する毎に、各評価点について最新の前記単位期間における前記累積損傷度Dを前記全累積損傷度Dの前回値に加算し、前記全累積損傷度Dを更新するように構成され、
前記疲労評価システムは、前記全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度Dが前記閾値を少なくとも一回超えた場合に、当該評価点について前記全累積損傷度Dが前記閾値を超えていることを示すフラグをオンにするよう構成されたフラグ設定部を更に備える疲労評価システム。
ここで、Nは、前記応力振幅Fに対応する破断繰り返し数であり、以下の式(2)に基づいて算出される。
ここで、NRefは、基準応力振幅FRefに対する破断繰り返し数であり、mは前記S−N
線図の情報における破断繰り返し数Nと応力振幅Fとの関係を示す関数の傾きである。
【請求項11】
前記風力発電設備の前記各評価点に生じる応力を計測するための計測装置を更に備え、前記応力変化情報取得部は、前記応力変化情報を前記計測装置から取得するよう構成され、
前記フラグ設定部は、前記全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度Dが複数回続けて前記閾値を超えた場合にのみ、当該評価点について前記全累積損傷度Dが前記閾値を超えていることを示すフラグをオンにするよう構成されたフラグ設定部を更に備える請求項10に記載の疲労評価システム。
【請求項12】
前記フラグ設定部は、全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度Dが複数回続けて前記閾値以下であった場合にのみ、当該評価点について前記フラグをオフにするよう構成される請求項11に記載の疲労評価システム。
【請求項13】
風力エネルギーを受けて回転するよう構成されたロータと、
前記ロータの回転力が伝達される発電機と、
請求項1乃至12の何れか1項に記載の疲労評価システムと、
を備える風力発電設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、風力発電設備の疲労評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全の観点から、再生エネルギーとしての風を利用して発電を行う風力発電設備の普及が進んでいる。一般に、風力発電設備は、風力エネルギーを受ける複数のロータブレード及びロータハブを含むロータ、ロータの回転力がドライブトレインを介して伝達される発電機、ロータを回転可能に支持し発電機を収容するナセル、及びナセルを支持するタワー等を備えている。
【0003】
特許文献1には、風力発電設備におけるロータブレードやドライブトレイン等の部品についてレインフロー処理を用いて疲労評価を行うよう構成された、風力発電設備の監視システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1760311号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1には、疲労評価を行うための累積損傷度の算出手法等の具体的な評価手法については記載されておらず、風力発電設備の各部位について適切な疲労評価を行うための知見が十分に開示されていない。
【0006】
本発明は、上述したような従来の課題に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、風力発電設備における各部位について疲労評価を適切に行うこと可能とする、風力発電設備の疲労評価システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る風力発電設備の疲労評価システムは、風力発電設備の各評価点に生じる応力の単位期間内の時系列変化を示す応力変化情報を取得するよう構成された応力変化情報取得部と、前記応力変化情報取得部によって取得した前記応力変化情報に基づいて、前記単位期間に前記各評価点に生じる応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nを算出するよう構成された応力振幅情報算出部と、前記応力振幅情報算出部の算出結果と前記各評価点の材料に応じたS−N線図の情報とに基づいて、前記単位期間における前記各評価点の累積損傷度Dを算出する累積損傷度算出部と、前記累積損傷度算出部の算出結果を評価期間全体にわたって累計して前記各評価点における前記評価期間全体の全累積損傷度Dを演算する全累積損傷度演算部と、前記全累積損傷度演算部によって演算した前記各評価点における前記全累積損傷度Dを閾値と比較して前記風力発電設備における前記各評価点の属する部位の疲労評価を行う疲労評価部と、を備え、前記累積損傷度算出部は、以下の式(1)に基づいて前記累積損傷度Dを演算するよう構成される、疲労評価システム。
ここで、Nは、前記応力振幅Fに対応する破断繰り返し数であり、以下の式(2)に基づいて算出される。
ここで、NRefは、基準応力振幅FRefに対する破断繰り返し数であり、mは前記S−N線図の情報における破断繰り返し数Nと応力振幅Fとの関係を示す関数の傾きである。
【0008】
上記(1)に記載の疲労評価システムによれば、風力発電設備において単位期間に各評価点に生じる応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nと、各評価点の材料に応じたS−N線図の情報と、に基づいて、各評価点について累積疲労損傷則を考慮した適切な全累積損傷度Dtを算出することができる。
このため、この全累積損傷度Dtを閾値と比較することにより、各評価点の属する部位の疲労評価を累積疲労損傷則に基づいて適切に行うことができる。
したがって、例えば、次回の定期メンテナンスの時期までに何れかの評価点に対応する部位の余寿命が尽きてしまうことが予想される場合、次回のメンテナンスの時期を早めたり、風力発電設備の稼働率を下げて定期メンテナンスの時期まで余寿命を延長する。これにより、風力発電設備の各部位の破損等による予期しない運転停止を防ぐことが可能となる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載の疲労評価システムにおいて、前記全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度Dが前記閾値を超えた場合に警告信号を生成するよう構成された警告信号生成部を更に備える。
【0010】
上記(2)に記載の疲労評価システムによれば、全累積損傷度Dが一定の値を超えると破損のリスクが高まるため、このような場合に警告のための警告信号を警告信号生成部が生成することにより、警告に応じて風力発電設備の運転停止やメンテナンス等の適切な処置を行うことができる。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)に記載の疲労評価システムにおいて、前記警告信号生成部は、前記全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度Dの増大速度が許容値を超えた場合にも警告信号を生成するよう構成される。
【0012】
風力発電設備の少なくとも一つの評価点の全累積損傷度の増大速度が許容値を超えた場合、想定外の応力分布の発生を招くような異常が風力発電設備に起きていると推定される。したがって、上記(3)に記載の疲労評価システムの警告信号生成部は、このような場合に警告のための警告信号を生成することにより、警告に応じて風力発電設備の運転停止やメンテナンス等の適切な処置を行うことができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れか1項に記載の疲労評価システムにおいて、前記閾値が1である。
【0014】
上記(4)に記載の疲労評価システムによれば、全累積損傷度演算部によって演算した各評価点の全累積損傷度Dを、設計寿命を示す値である1と比較することにより、各評価点の属する部位の予寿命を累積疲労損傷則に基づき正確に把握することができる。
【0015】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(3)に記載の疲労評価システムにおいて、前記閾値は、前記風力発電設備の運用開始からの経過時間の増大とともに増加する。
【0016】
各評価点における全累積損傷度Dは、風力発電設備の運用開始からの経過時間の経過とともに増大する。このため、任意の時刻において、各評価点における全累積損傷度Dが正常な値かどうかを適切に判断するためには、全累積損傷度Dと比較する閾値を風力発電設備の運用開始からの経過時間の経過とともに適切に変化させる必要がある。この点、上記(5)に記載の状態評価システムによれば、全累積損傷度Dと比較する閾値を風力発電設備の運用開始からの経過時間の増大とともに増加させることにより、任意の時点での各評価点における全累積損傷度Dが正常な値であるかどうかを適切に評価することが可能となる。
【0017】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(5)に記載の疲労評価システムにおいて、前記単位期間は、1分以上600分以下の期間である。
【0018】
累積損傷度Dを算出する単位期間が短いほど、該累積損傷度に基づく疲労評価を頻繁に実行することが可能となるため、風力発電設備において全累積損傷度Dの急激な増大等を招く何らかの異常が生じても、速やかに該異常を発見して風力発電設備の運転停止やメンテナンス等の適切な処置を行うことができる。しかしながら、累積損傷度Dを算出する単位期間が短いほど、累積損傷度算出部及び全累積損傷度演算部における計算負荷が大きくなってしまう。この点、上記(6)に記載の疲労評価システムによれば、風力発電設備において全累積損傷度Dの急激な増大等を招くような異常の発見が遅れるリスクと上記計算負荷とを勘案した最適な頻度で、累積損傷度Dを算出することができる。
【0019】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(6)の何れか1項に記載の疲労評価システムにおいて、前記評価点のうち少なくとも一つは、タワーのトップ部、タワーのボトム部、ロータハブ又はロータブレードの何れか1つに属する。
【0020】
上記(7)に記載の疲労評価システムによれば、風力発電設備において破損が生じるリスクのある主要箇所について、累積疲労損傷則を考慮した適切な全累積損傷度Dtを算出することができる。したがって、該全累積損傷度Dtを閾値と比較することにより、破損が生じるリスクのある主要箇所についての疲労評価を累積疲労損傷則に基づいて適切に行うことができる。
【0021】
(8)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(7)の何れか1項に記載の疲労評価システムにおいて、前記風力発電設備は、ロータハブに取り付けられた複数のロータブレードを備えており、前記評価点の少なくとも一部は、前記複数のロータブレードの各々に属しており、前記疲労評価システムは、前記全累積損傷度演算部によって演算した前記複数のロータブレードの各々に属する前記評価点の前記全累積損傷度Dを互いに比較することにより、前記複数のロータブレードの各々の欠陥を判定するよう構成された欠陥判定部を更に備える。
【0022】
風力発電設備が複数のロータブレードを備えている場合、各ロータブレードの同一箇所(例えば、あるロータブレードの翼根部と、他のロータブレードの翼根部)に生じる応力の時間平均値(ロータの回転周期よりも十分に長い時間における時間平均値)は、ロータが回転しているため基本的に略同一である。したがって、各ロータブレードに属する評価点の全累積損傷度Dを互いに比較することにより、各ロータブレードの欠陥を判定することができる。
【0023】
(9)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(8)の何れか1項に記載の疲労評価システムにおいて、前記応力振幅情報算出部は、前記応力変化情報取得部によって取得した前記応力変化情報に対してレインフロー処理を行うことにより、前記単位期間に前記各評価点に生じる応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nを算出するよう構成される。
【0024】
上記(9)に記載の疲労評価システムによれば、応力変化情報取得部対してレインフロー処理を行うことにより、応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nを正確に算出することが可能となる。
【0025】
(10)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(9)に記載の疲労評価システムにおいて、前記全累積損傷度演算部によって演算した各評価点の前記全累積損傷度Dをグラフ化して表示するよう構成された表示部を更に備える。
【0026】
上記(10)に記載の疲労評価システムによれば、各評価点の全累積損傷度Dをグラフ化して表示することにより、オペレータが各評価点の全累積損傷度Dを視覚的に把握することが可能となる。このため、表示された全累積損傷度Dのグラフに基づいて、オペレータが風力発電設備の各評価点における余寿命等を容易に把握することができる。したがって、オペレータが風力発電設備の運転停止やメンテナンス等の適切な処置を行うことができる。
【0027】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(10)に記載の疲労評価システムにおいて、前記風力発電設備の前記各評価点に生じる応力を計測するための計測装置を更に備え、前記応力変化情報取得部は、前記応力変化情報を前記計測装置から取得するよう構成される。
【0028】
上記(11)に記載の疲労評価システムによれば、風力発電設備の各評価点に生じているリアルタイムの応力に関する応力変化情報を、計測装置を介して応力変化情報取得部が取得することができる。これにより、各評価点に生じているリアルタイムの応力に関する応力変化情報に基づいて、例えば風力発電設備の運用開始から現在に至るまでの各評価点の全累積損傷度Dを全累積損傷度演算部によって演算することができる。したがって、このように演算した全累積損傷度Dを例えば設計寿命に対応する閾値と比較することにより、風力発電設備の各部位の余寿命を正確に評価することができる。
【0029】
(12)幾つかの実施形態では、上記(5)に記載の疲労評価システムにおいて、前記全累積損傷度演算部は、前記単位期間が経過する毎に、各評価点について最新の前記単位期間における前記累積損傷度Dを前記全累積損傷度Dの前回値に加算し、前記全累積損傷度Dを更新するように構成され、前記疲労評価システムは、前記全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度Dが前記閾値を少なくとも一回超えた場合に、当該評価点について前記全累積損傷度Dが前記閾値を超えていることを示すフラグをオンにするよう構成されたフラグ設定部を更に備える。
【0030】
上記(12)に記載の疲労評価システムによれば、少なくとも一つの評価点の全累積損傷度Dが閾値を超えたタイミングを、フラグの状態によって特定できる。したがって、例えば、そのタイミングにおける風力発電設備を構成する各機器の可動状態等を後から参照して、当該評価点の全累積損傷度Dが閾値を超えた原因等を特定することが可能となる。
【0031】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)に記載の疲労評価システムにおいて、前記風力発電設備の前記各評価点に生じる応力を計測するための計測装置を更に備え、前記応力変化情報取得部は、前記応力変化情報を前記計測装置から取得するよう構成され、前記フラグ設定部は、前記全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度Dが複数回続けて前記閾値を超えた場合にのみ、当該評価点について前記全累積損傷度Dが前記閾値を超えていることを示すフラグをオンにするよう構成されたフラグ設定部を更に備える。
【0032】
上記(13)に記載の疲労評価システムによれば、風力発電設備の各評価点に生じているリアルタイムの応力に関する応力変化情報を、計測装置を介して応力変化情報取得部が取得することができる。これにより、各評価点に生じているリアルタイムの応力に関する応力変化情報に基づいて、例えば風力発電設備の運用開始から現在に至るまでの各評価点の全累積損傷度Dを全累積損傷度演算部によって演算することができる。
【0033】
一方、計測装置によって得られる応力変化情報は一時的な外乱によってばらつきが存在するため、算出される全累積損傷度Dにもこのばらつきの影響が出ることがある。この点、上記(13)に記載の疲労評価システムによれば、少なくとも一つの評価点の全累積損傷度Dが複数回続けて閾値を超えた場合にのみ、当該評価点について全累積損傷度Dが前記閾値を超えていることを示すフラグをオンにする。このため、フラグをオンにするタイミングに対する上記ばらつきの影響を抑制することができる。
【0034】
(14)幾つかの実施形態では、上記(13)に記載の疲労評価システムにおいて、前記フラグ設定部は、全累積損傷度演算部によって演算した少なくとも一つの評価点の前記全累積損傷度Dが複数回続けて前記閾値以下であった場合にのみ、当該評価点について前記フラグをオフにするよう構成される。
【0035】
上記(14)に記載の疲労評価システムによれば、上記(13)に記載の疲労評価システムにおいて、フラグをオフにするタイミングに対する上記ばらつきの影響を抑制することができる。
【0036】
(15)本発明の一実施形態に係る風力発電設備によれば、風力エネルギーを受けて回転するよう構成されたロータと、前記ロータの回転力が伝達される発電機と、上記(1)乃至(14)の何れか1項に記載の疲労評価システムと、
を備える風力発電設備。
【0037】
上記(15)に記載の風力発電設備によれば、上記(1)乃至(14)の何れか1項に記載の疲労評価システムを用いることにより、各評価点の属する部位の疲労評価を累積疲労損傷則に基づいて適切に行うことができる。
【0038】
したがって、例えば、次回の定期メンテナンスの時期までに何れかの評価点に対応する部位の余寿命が尽きてしまうことが予想される場合、次回のメンテナンスの時期を早めたり、風力発電設備の稼働率を下げて定期メンテナンスの時期まで余寿命を延長する。これにより、風力発電設備の各部位の破損等による予期しない運転停止を防ぐことが可能となる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の少なくとも一つの実施形態によれば、風力発電設備における各部位について疲労評価を適切に行うこと可能とする、風力発電設備の疲労評価システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の一実施形態に係る風力発電設備の全体構成を示す概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る風力発電設備の疲労評価システムの構成例を示す図である。
図3】破断繰り返し数Nと応力振幅Fとの関係を示すS−N線図の一例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る閾値Dthの設定値の例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る閾値Dthの設定値の例を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係る表示部が表示するグラフの例を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る疲労評価のフローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0042】
図1は、本発明の一実施形態に係る疲労評価システムの疲労評価対象である風力発電設備の全体構成を示す概略図である。
【0043】
風力発電設備1は、風力エネルギーを受ける複数のロータブレード2(2a,2b、2c)及びロータハブ4を含むロータ6と、ロータ6の回転力を不図示の増速機を介して伝達される発電機8と、ロータ6を回転可能に支持するとともに発電機8を収容するナセル10と、ナセル10を支持するタワー12と、を備える。
【0044】
図2は、風力発電設備1の疲労を評価する疲労評価システム100の構成例を示す図である。
【0045】
幾つかの実施形態では、図2に示す疲労評価システム100は、応力変化情報取得部14、応力振幅情報算出部16、累積損傷度算出部18、全累積損傷度演算部20及び疲労評価部22等を含む。
【0046】
応力変化情報取得部14は、風力発電設備1の各評価点に生じる応力の単位期間内の時系列変化を示す応力変化情報を取得するよう構成されている。
【0047】
応力振幅情報算出部16は、応力変化情報取得部14によって取得した応力変化情報に基づいて、単位期間(例えば1分以上600分以下の期間であり、10分等の所定期間である。)に各評価点に生じる応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nを算出するよう構成されている。一実施形態では、応力振幅情報算出部16は、応力変化情報取得部14によって取得した応力変化情報に対してレインフロー処理を行うことにより、単位期間に各評価点に生じる応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nを算出してもよい。
【0048】
累積損傷度算出部18は、応力振幅情報算出部16の算出結果と各評価点の材料に応じたS−N線図の情報とに基づいて、上記単位期間における各評価点の累積損傷度Dを算出するよう構成されている。累積損傷度算出部18は、以下の式(1)に基づいて、上記単位期間における各評価点の累積損傷度Dを演算するよう構成されている。
【0049】
ここで、Nは、応力振幅Fに対応する破断繰り返し数であり、以下の式(2)に基づいて算出される。
ここで、NRefは、基準応力振幅FRefに対する破断繰り返し数であり、mはS−N線図の情報における破断繰り返し数Nと応力振幅Fとの関係を示す関数の傾きである。
【0050】
なお、S−N線図は、図3に例示するようにある応力振幅Fiが何回繰り返されたら損傷するかを表す線図であり、例えば疲労評価システム100が備える記憶装置32(図2参照)に保存し必要なタイミングで読み出せばよい。
【0051】
全累積損傷度演算部20は、累積損傷度算出部18の算出結果を評価期間全体にわたって累計して各評価点における評価期間全体の全累積損傷度Dを演算するよう構成されている。また、全累積損傷度演算部20は、単位期間が経過する毎に、各評価点について最新の単位期間における累積損傷度Dを全累積損傷度Dの前回値に加算し、全累積損傷度Dを更新するように構成されている。なお、ここでの評価期間とは、例えば、風力発電設備1の設計上の製品寿命に相当する期間であってもよく、評価時点(現在)までの風力発電設備1の累積使用期間であってもよく、該累積使用期間と現在から次回メンテナンスまでの期間とを足し合わせた期間であってもよい。
【0052】
疲労評価部22は、全累積損傷度演算部20によって演算した全累積損傷度Dを閾値Dthと比較して風力発電設備1における各評価点の属する部位の疲労評価を行うよう構成されている。
【0053】
疲労評価システム100によれば、風力発電設備1において単位期間に各評価点に生じる応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nと、各評価点の材料に応じたS−N線図の情報と、に基づいて、各評価点について累積疲労損傷則を考慮した適切な全累積損傷度Dを算出することができる。このため、この全累積損傷度Dを閾値と比較することにより、各評価点の属する部位の疲労評価を累積疲労損傷則に基づいて適切に行うことができる。
【0054】
したがって、例えば、次回の定期メンテナンスの時期までに何れかの評価点に対応する部位の余寿命が尽きてしまうことが予想される場合、次回のメンテナンスの時期を早めたり、風力発電設備1の稼働率を下げて定期メンテナンスの時期まで余寿命を延長する。これにより、風力発電設備1の各部位の破損等による予期しない運転停止を防ぐことが可能となる。
【0055】
幾つかの実施形態では、図2に示すように、疲労評価システム100は、全累積損傷度演算部20によって演算した少なくとも一つの評価点の全累積損傷度Dが閾値Dthを超えた場合に警告信号を生成するよう構成された警告信号生成部24を備える。
【0056】
全累積損傷度Dが一定の値を超えると破損のリスクが高まるため、全累積損傷度Dが閾値Dthを超えた場合に警告のための警告信号を警告信号生成部24が生成することにより、警告に応じて風力発電設備の運転停止やメンテナンス等の適切な処置を行うことができる。
【0057】
警告信号生成部24は、全累積損傷度演算部20によって演算した少なくとも一つの評価点の全累積損傷度Dの増大速度が許容値を超えた場合にも警告信号を生成するよう構成されてもよい。
【0058】
風力発電設備1の少なくとも一つの評価点の全累積損傷度Dの増大速度が許容値を超えた場合、想定外の応力分布の発生を招くような異常が風力発電設備1に起きていると推定される。したがって、このような場合に警告のための警告信号を上記警告信号生成部24が生成することにより、警告に応じて風力発電設備1の運転停止やメンテナンス等の適切な処置を行うことができる。
【0059】
幾つかの実施形態では、上記閾値Dthは1に設定されている。この場合、全累積損傷度演算部20によって演算した各評価点の全累積損傷度Dを、設計寿命を示す値である1と比較することにより、各評価点の属する部位の予寿命を累積疲労損傷則に基づき正確に把握することができる。
【0060】
幾つかの実施形態では、例えば図4及び図5に示すように、上記閾値Dthは、風力発電設備1の運用開始からの経過時間の増大とともに増加するよう設定されている。
【0061】
各評価点における全累積損傷度Dは、風力発電設備1の運用開始からの経過時間の経過とともに増大する。このため、任意の時刻において、各評価点における全累積損傷度Dが正常な値かどうかを適切に判断するためには、全累積損傷度Dと比較する閾値Dthを風力発電設備1の運用開始からの経過時間の経過とともに適切に変化させる必要がある。この点、上記疲労評価システム100によれば、各評価点における全累積損傷度Dと比較する閾値Dthを風力発電設備1の運用開始からの経過時間の増大とともに増加させることにより、任意の時点での各評価点における全累積損傷度Dが正常な値であるかどうかを適切に評価することが可能となる。
【0062】
なお、閾値Dthは、例えば、図3に示すように設計寿命に至るまで上記経過時間に比例して増加するよう設定してもよいし、図4に示すように期間毎に上記経過時間に対する閾値Dthの増加率を変化させても良い。例えば、図4において、風の強い季節(期間A)における閾値Dthの増加率を、風の弱い季節(期間B)における閾値Dthの増加率よりも大きくなるよう設定してもよい。これにより、各評価点における全累積損傷度Dが正常な値かどうかを適切に判断することができる。
【0063】
幾つかの実施形態では、風力発電設備1の評価点のうち少なくとも一つは、図1に示すタワー12のトップ部12a、タワー12のボトム部12b、ロータブレード2又はロータハブ4の何れか1つに属する。
【0064】
これにより、風力発電設備1において破損が生じるリスクのある主要箇所について、累積疲労損傷則を考慮した適切な全累積損傷度Dを算出することができる。したがって、該全累積損傷度Dを閾値Dthと比較することにより、破損が生じるリスクのある主要箇所についての疲労評価を累積疲労損傷則に基づいて適切に行うことができる。
【0065】
幾つかの実施形態では、例えば図1及び図2に示すように、風力発電設備1の各評価点に生じる応力を計測するための計測装置28(28a〜28f)を更に備え、応力変化情報取得部14は、応力変化情報を計測装置28から取得するよう構成されている。ここで、計測装置28(28a〜28f)は、図1に示すように、タワー12のトップ部12a、タワー12のボトム部12b、各ロータブレード2(2a〜2c)の翼根部(2a〜2c)及びロータハブ4にそれぞれ設けられていてもよい。一実施形態では、各計測装置28(28a〜28f)は、歪みセンサ又は荷重センサであり、これらのセンサの検出結果から応力を計測するよう構成されている。
【0066】
これにより、風力発電設備1において破損が生じるリスクのある主要箇所について、風力発電設備1の各評価点に生じているリアルタイムの応力に関する応力変化情報を、計測装置28を介して応力変化情報取得部14が取得することができる。また、各評価点に生じているリアルタイムの応力に関する応力変化情報に基づいて、例えば風力発電設備1の運用開始から現在に至るまでの各評価点の全累積損傷度Dを全累積損傷度演算部20によって演算することができる。したがって、このように演算した全累積損傷度Dを例えば設計寿命に対応する閾値Dthと比較することにより、風力発電設備1の各部位の余寿命を正確に評価することができる。
【0067】
幾つかの実施形態では、図2に示した疲労評価システム100における評価点の少なくとも一部は、複数のロータブレード2の各々に属している。この場合、疲労評価システム100は、全累積損傷度演算部20によって演算した複数のロータブレード2の各々に属する評価点の全累積損傷度Dを互いに比較することにより、複数のロータブレード2の各々の欠陥を判定するよう構成された欠陥判定部25(図2参照)を備えていてもよい。
【0068】
風力発電設備1が複数のロータブレード2を備えている場合、各ロータブレード2の同一箇所(例えば、ロータブレード2aの翼根部2aと、他のロータブレード2bの翼根部2b)の評価点に生じる応力の時間平均値(ロータ6の回転周期よりも十分に長い時間における時間平均値)は、ロータ6が回転しているため基本的に略同一である。したがって、例えば複数のロータブレード2のうちロータブレード2aに属する評価点の全累積損傷度Dを他の少なくとも一つのロータブレード2(2b,2c)に属する同一箇所の評価点の全累積損傷度Dと比較することにより、各ロータブレード2の欠陥を判定することができる。
【0069】
欠陥判定部25は、例えば、ロータブレード2aの翼根部2aに属する評価点の全累積損傷度Dが全ロータブレード2の翼根部(2a〜2c)に属する同一箇所の評価点の全累積損傷度Dの平均値よりも所定レベル以上(例えば所定値以上や所定倍以上)大きい場合に、ロータブレード2aの翼根部2aが欠陥状態にあると判定してもよい。また、欠陥判定部25は、ロータブレード2aの翼根部2aに属する評価点の全累積損傷度Dが他のロータブレード2b,2cの翼根部2b,2cに属する評価点の同一箇所の全累積損傷度Dの平均値よりも所定レベル以上(例えば所定値以上や所定倍以上)大きい場合に、ロータブレード2aの翼根部2aが欠陥状態にあると判定してもよい。
【0070】
幾つかの実施形態では、全累積損傷度演算部20によって演算した各評価点の全累積損傷度Dをグラフ化して表示するよう構成された表示部26(図2参照)を備える。
【0071】
このように、各評価点の全累積損傷度Dをグラフ化して表示することにより、オペレータが各評価点の全累積損傷度Dを視覚的に把握することが可能となる。このため、表示された全累積損傷度Dのグラフに基づいて、オペレータが風力発電設備1の各評価点における余寿命等を容易に把握することができる。したがって、オペレータが風力発電設備1の運転停止やメンテナンス等の適切な処置を行うことができる。
【0072】
表示部26は、例えば図6に示すように、一方の軸を風力発電設備1の運用開始からの経過時間とし、他方の軸を各評価点の全累積損傷度Dとするグラフを表示してもよい。この場合、表示部26は、図6に示すように、全累積損傷度演算部20によって実際に演算した各評価点の全累積損傷度Dについて、風力発電設備1の運用開始時点から現在までの時系列変化を示す線L1を表示するとともに、運用開始時点から風力発電設備1の設計寿命(例えば25年)までの全累積損傷度Dの設計直線L2(設計寿命で全累積損傷度Dが1となる直線)を併せて表示してもよい。
【0073】
これにより、全累積損傷度演算部20が演算した各評価点の全累積損傷度Dが、想定される通常の全累積損傷度Dの増加ペースに対して、どの程度乖離しているか等をオペレータが視覚的に把握することができる。したがって、オペレータが風力発電設備1の運転停止やメンテナンス等の適切な処置を行うことができる。
【0074】
幾つかの実施形態では、例えば図2に示すように、疲労評価システム100はフラグ設定部30を備えている。フラグ設定部30は、全累積損傷度演算部20によって演算した少なくとも一つの評価点の全累積損傷度Dが閾値Dthを少なくとも一回超えた場合に、当該評価点について全累積損傷度Dが閾値を超えていることを示すフラグをオンにするよう構成されている。
【0075】
これにより、少なくとも一つの評価点の全累積損傷度Dが閾値を超えたタイミングを、フラグの状態によって特定できる。したがって、例えば、そのタイミングにおける風力発電設備1を構成する各機器の可動状態等を後から参照して、当該評価点の全累積損傷度Dが閾値Dthを超えた原因等を検証して特定することが可能となる。
【0076】
なお、図2に示したフラグ設定部30は、全累積損傷度演算部20によって演算した少なくとも一つの評価点の全累積損傷度Dが複数回続けて閾値を超えた場合にのみ、当該評価点について上記フラグをオンにするよう構成されてもよい。また、この場合フラグ設定部30は、全累積損傷度演算部20によって演算した少なくとも一つの評価点の全累積損傷度Dが複数回続けて閾値以下であった場合にのみ、当該評価点についてフラグをオフにするよう構成されてもよい。
【0077】
計測装置28によって得られる応力変化情報は一時的な外乱によるばらつきが存在するため、算出される全累積損傷度Dにもこのばらつきの影響が出ることがある。この点、上記疲労評価システム100によれば、少なくとも一つの評価点の全累積損傷度Dが複数回続けて閾値を超えた場合にのみ、当該評価点について全累積損傷度Dが前記閾値を超えていることを示すフラグをオンにする。このため、フラグをオンにするタイミングに対する上記ばらつきの影響を抑制することができる。また、フラグをオフにするタイミングに対する上記ばらつきの影響を抑制することができる。
【0078】
次に、図7を用いて、上述した疲労評価システム100による疲労評価のフローの一例を説明する。
【0079】
まずS11で、風力発電設備1の各評価点に生じる応力の単位期間内の時系列変化を示す応力変化情報を、応力変化情報取得部14が計測装置28から取得する。次に、S12で、応力変化情報取得部14によって取得した応力変化情報に対してレインフロー処理を行うことにより、単位期間(例えば10分間)に各評価点に生じる応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nを応力振幅情報算出部16が算出する。そして、S13で、応力振幅情報算出部16の算出結果と、記憶装置32から読み出した各評価点の材料に応じたS−N線図の情報とに基づいて、上記単位期間における各評価点の累積損傷度Dを累積損傷度算出部18が算出する。さらに、S14で、累積損傷度算出部18の算出結果を評価期間全体にわたって累計することにより、各評価点における評価期間全体の全累積損傷度Dを全累積損傷度演算部20が演算する。この際、全累積損傷度演算部20は、単位期間が経過する毎に、各評価点について最新の単位期間における累積損傷度Dを全累積損傷度Dの前回値に加算し、全累積損傷度Dを更新する。そして、S15で、全累積損傷度演算部20によって演算した全累積損傷度Dを閾値Dthと比較することにより、風力発電設備1における各評価点の属する部位の疲労評価を疲労評価部22が行う。
【0080】
このように、風力発電設備1において単位期間に各評価点に生じる応力の応力振幅F及び該応力振幅Fの繰り返し数nと、各評価点の材料に応じたS−N線図の情報と、に基づいて、各評価点の全累積損傷度Dを算出することにより、累積疲労損傷則を考慮した適切な全累積損傷度Dを算出することができる。したがって、この全累積損傷度Dを閾値と比較することにより、各評価点の属する部位の疲労評価を累積疲労損傷則に基づいて適切に行うことができる。
【0081】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0082】
なお、上述した疲労評価システム100は、風力発電設備1が備えていてもよいし、風力発電設備1とは別のシステムとして設けられていてもよい。また、疲労評価システム100のうちの一部(例えば図2における計測装置28)のみ風力発電設備1に設けられ、累積損傷度評価システム100のその他の構成が風力発電設備1とは別に設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 風力発電設備
2 ロータブレード
4 ロータハブ
6 ロータ
8 発電機
10 ナセル
12 タワー
12a トップ部
12b ボトム部
14 応力変化情報取得部
16 応力振幅情報算出部
18 累積損傷度算出部
20 全累積損傷度演算部
22 疲労評価部
24 警告信号生成部
25 欠陥判定部
26 表示部
28 計測装置
30 フラグ設定部
32 記憶装置
100 疲労評価システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7