特許第6345066号(P6345066)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社キーエンスの特許一覧

<>
  • 特許6345066-インクジェット記録装置 図000002
  • 特許6345066-インクジェット記録装置 図000003
  • 特許6345066-インクジェット記録装置 図000004
  • 特許6345066-インクジェット記録装置 図000005
  • 特許6345066-インクジェット記録装置 図000006
  • 特許6345066-インクジェット記録装置 図000007
  • 特許6345066-インクジェット記録装置 図000008
  • 特許6345066-インクジェット記録装置 図000009
  • 特許6345066-インクジェット記録装置 図000010
  • 特許6345066-インクジェット記録装置 図000011
  • 特許6345066-インクジェット記録装置 図000012
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6345066
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/025 20060101AFI20180611BHJP
   B41J 2/14 20060101ALI20180611BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20180611BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   B41J2/025
   B41J2/14 603
   B41J2/17 101
   B41J2/18
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-200186(P2014-200186)
(22)【出願日】2014年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-68398(P2016-68398A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000129253
【氏名又は名称】株式会社キーエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100117260
【弁理士】
【氏名又は名称】福永 正也
(72)【発明者】
【氏名】山川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼畠 優
(72)【発明者】
【氏名】北村 篤史
【審査官】 亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−76090(JP,A)
【文献】 特開2001−205802(JP,A)
【文献】 特開平9−201978(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/277980(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01−2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯電したインク液の粒子を偏向させてワークの表面に印字パターンを形成するインクジェット記録装置において、
インク液を粒子化するよう吐出するインク吐出部と、
吐出されたインク液の粒子を帯電させる帯電電極と、
帯電したインク液の粒子の進行方向を偏向する偏向電極と
を備え、前記インク吐出部は、
インク液に振動を与える加振部を有する筐体と、
インク液を吐出する吐出口を有し、前記筐体に取り付けられる吐出部材と、
前記吐出口の中心軸の周囲を囲むように、前記筐体と前記吐出部材との間に配置されているシール部材と
を備え、
前記吐出部材を前記筐体に取り付け、前記加振部と前記吐出口との間にインク室を形成し、
前記筐体内に、前記インク室にインク液又は溶剤を供給する第1の経路、前記インク室からインク液又は溶剤を抜き出す第2の経路、及び前記吐出部材と前記筐体との間を通って前記シール部材側に浸入してきたインク液又は溶剤を外部へ誘導する第3の経路が形成されていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記第3の経路の一端は、前記シール部材が配置されている位置よりも内側に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記シール部材は、前記筐体内に形成された凹部に配置され、前記第3の経路は前記凹部に接続されていることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記凹部を形成する壁部と前記シール部材との間に空洞部が形成され、
前記第3の経路の一端は前記空洞部に接続されていることを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記凹部を形成する壁部は、前記空洞部と前記インク室との間に設けられ、前記吐出口の中心軸に平行に延伸する内壁で構成されることを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記第3の経路の他端は、前記第2の経路に接続されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記第2の経路から排出されるインク液又は溶剤の負圧により、前記第3の経路に流れる溶剤を吸引することを特徴とする請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記第3の経路は、単一又は複数の貫通孔で形成されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
前記加振部は、インク液を粒子化する振動源に取り付けられ、長手方向に沿って振動する軸部材を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル詰まりを効果的に防止することができるインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークに対して文字、図形などの各種印字パターンを形成するために、コンティニュアス方式のインクジェット記録装置が用いられている。コンティニュアス方式のインクジェット記録装置は、インク液の粒子を噴射ノズルから連続的に噴射している。連続的に噴射されたインク液の粒子を必要に応じて偏向させることにより、所望の印字パターンをワーク上に形成することができる。
【0003】
しかし、噴射ノズルにインクが固着するなどの原因によりインク詰まりが生じやすい。そこで、例えば立ち下げ動作時などに、噴射ノズルから溶剤(洗浄液)を噴射し、残留インク液を洗浄している(特許文献1参照)。
【0004】
インクジェット記録装置の噴射ノズルは、ピエゾホーンなどの軸部材の先端にインク液を充填し、ピエゾ素子などの振動源によって軸部材を振動させる。軸部材を収容しているキャノンの先端に設けられたノズルプレートの吐出孔(オリフィス)からインク液の粒子を連続的に噴射する。ノズルプレートは、Oリングなどのシール部材を介してキャノンに取り付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−023381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
印刷する場合には、キャノン内部がインク液で充填される。したがって、ノズルプレートとキャノンとの接触面に沿ってインク液がシール部材の内側にまで浸入する。斯かるインク液を洗い流すために、従来は溶剤をインク液の代わりに流し込んで噴射ノズルから噴射し、残留したインク液を洗浄することにより内部に残留したインク液も排出して回収するようにしていた。
【0007】
しかし、シール部材近傍にまで入り込んだインク液を十分に洗浄することは容易でなく、時間が経過するにつれて、インク液は、重力又は揮発時の気体膨張で押し出されることにより、ノズルプレートの吐出口へ流れ込む。斯かる流れ込んだインク液によってノズルプレートの吐出口に目詰まりが生じることで、高い精度で印字パターンを形成することができないという問題点があった。
【0008】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、ノズル詰まりを効果的に防止することができ、高い精度で印字パターンを形成することが可能なインクジェット記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために第1発明に係るインクジェット記録装置は、帯電したインク液の粒子を偏向させてワークの表面に印字パターンを形成するインクジェット記録装置において、インク液を粒子化するよう吐出するインク吐出部と、吐出されたインク液の粒子を帯電させる帯電電極と、帯電したインク液の粒子の進行方向を偏向する偏向電極とを備え、前記インク吐出部は、インク液に振動を与える加振部を有する筐体と、インク液を吐出する吐出口を有し、前記筐体に取り付けられる吐出部材と、前記吐出口の中心軸の周囲を囲むように、前記筐体と前記吐出部材との間に配置されているシール部材とを備え、前記吐出部材を前記筐体に取り付け、前記加振部と前記吐出口との間にインク室を形成し、前記筐体内に、前記インク室にインク液又は溶剤を供給する第1の経路、前記インク室からインク液又は溶剤を抜き出す第2の経路、及び前記吐出部材と前記筐体との間を通って前記シール部材側に浸入してきたインク液又は溶剤を外部へ誘導する第3の経路が形成されていることを特徴とする。
【0010】
第1発明では、吐出部材を筐体に取り付け、加振部と吐出口との間にインク室が形成されている。筐体内に、インク室にインク液又は溶剤を供給する第1の経路、インク室からインク液又は溶剤を抜き出す第2の経路、及び吐出部材と筐体との間を通ってシール部材側に浸入してきたインク液又は溶剤を外部へ誘導する第3の経路が形成されている。これにより、吐出部材と筐体との間を通ってシール部材側に浸入して内部に残留しているインク液を、溶剤で洗浄した後、第3の経路を介して回収することができ、インク液が内部に残留することがなく吐出口の目詰まりを未然に回避することができるので、高い精度で印字パターンを形成することが可能となる。
【0011】
ここで、第1発明における「インク液に振動を与える加振部」としては、種々の構成を採用することができる。例えば、インク液を粒子化するための振動源に取り付けられ、長手方向に沿って振動する軸部材を設け、該軸部材によってインク液に振動を与える構成を採用しても良い。また、筐体内に設けられたダイヤフラム等の部材を圧電素子等の振動源によって振動させ、これによってインク液に振動を与える構成を採用しても良い。もちろん、インク液に振動を与える方法は、これらに限定されるものではない。
【0012】
また、第1発明における「吐出部材」の形状は、板状のプレートに限定されない。例えば、凹凸形状を有していても良いし、湾曲形状を有していても良い。さらに、第1発明における「シール部材側に浸入」する溶剤は、シール部材の内側において、吐出部材と筐体とが接触している場合には、その接触面に沿って浸入し、吐出部材と筐体とが離間している場合には、離間している通路を介して浸入する。要するに、シール部材の内側において、吐出部材と筐体とは接触していても良いし、離間していても良い。
【0013】
また、第2発明に係るインクジェット記録装置は、第1発明において、前記第3の経路の一端は、前記シール部材が配置されている位置よりも内側に接続されていることが好ましい。
【0014】
第2発明では、第3の経路の一端が、シール部材が配置されている位置よりも内側に接続されているので、吐出部材と筐体との間を通ってシール部材側に浸入して内部に残留しているインク液を、溶剤で洗浄した後、第3の経路を介して回収することができ、インク液が内部に残留することがなく吐出口の目詰まりを未然に回避することができるので、高い精度で印字パターンを形成することが可能となる。
【0015】
また、第3発明に係るインクジェット記録装置は、第1発明において、前記シール部材は、前記筐体内に形成された凹部に配置され、前記第3の経路は前記凹部に接続されていることが好ましい。
【0016】
第3発明では、シール部材が筐体内に形成された凹部に配置されており、第3の経路が凹部に接続されているので、吐出部材と筐体との間を通ってシール部材側に浸入して内部に残留しているインク液を、溶剤で洗浄した後、第3の経路を介して回収することができるので、インク液が凹部に残留することがなく吐出口の目詰まりを未然に回避することができ、高い精度で印字パターンを形成することが可能となる。
【0017】
また、第4発明に係るインクジェット記録装置は、第3発明において、前記凹部を形成する壁部と前記シール部材との間に空洞部が形成され、前記第3の経路の一端は前記空洞部に接続されていることが好ましい。
【0018】
第4発明では、凹部を形成する壁部とシール部材との間に空洞部が形成され、第3の経路の一端が空洞部に接続されているので、吐出部材と筐体との間を通ってシール部材側に浸入して内部に残留しているインク液を、溶剤で洗浄した後、第3の経路を介して回収することができ、インク液が空洞部に残留することがなく吐出口の目詰まりを未然に回避することができるので、高い精度で印字パターンを形成することが可能となる。
【0019】
また、第5発明に係るインクジェット記録装置は、第4発明において、前記凹部を形成する壁部は、前記空洞部と前記インク室との間に設けられ、前記吐出口の中心軸に平行に延伸する内壁で構成されることが好ましい。
【0020】
第5発明では、凹部を形成する壁部は、空洞部とインク室との間に設けられ、吐出口の中心軸に平行に延伸する内壁で構成されるので、キャノン内部の圧力をインク液に効率良く伝達することができ、内壁と吐出部材との間を通ってシール部材側に浸入して内部に残留しているインク液を、溶剤で洗浄した後、第3の経路を介して回収することができる。
【0021】
また、第6発明に係るインクジェット記録装置は、第1乃至第5発明のいずれか1つにおいて、前記第3の経路の他端は、前記第2の経路に接続されていることが好ましい。
【0022】
第6発明では、第3の経路の他端は、第2の経路に接続されているので、第2の経路から排出される溶剤とともに、吐出部材と筐体との間を通ってシール部材側に浸入して内部に残留しているインク液を、溶剤で洗浄した後、第3の経路を介して効果的に回収することができる。
【0023】
また、第7発明に係るインクジェット記録装置は、第6発明において、前記第2の経路から排出されるインク液又は溶剤の負圧により、前記第3の経路に流れる溶剤を吸引することが好ましい。
【0024】
第7発明では、第2の経路から排出されるインク液又は溶剤の負圧により、第3の経路に流れる溶剤を吸引するので、吐出部材と筐体との間を通ってシール部材側に浸入して内部に残留しているインク液を、溶剤で洗浄した後、第3の経路を介して回収することができる。
【0025】
また、第8発明に係るインクジェット記録装置は、第1乃至第7発明のいずれか1つにおいて、前記第3の経路は、単一又は複数の貫通孔で形成されていることが好ましい。
【0026】
第8発明では、第3の経路は、単一又は複数の貫通孔で形成されているので、吐出部材と筐体との間を通ってシール部材側に浸入して内部に残留しているインク液を、溶剤で洗浄した後、第3の経路を介して回収することができる。
【0027】
また、第9発明に係るインクジェット記録装置は、第1乃至第8発明のいずれか1つにおいて、前記加振部は、インク液を粒子化する振動源に取り付けられ、長手方向に沿って振動する軸部材を有することが好ましい。
【0028】
第9発明では、加振部は、インク液を粒子化する振動源に取り付けられ、長手方向に沿って振動する軸部材を有するので、インク液の吐出量を制御しながら吐出することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、吐出部材と筐体との間を通ってシール部材側に浸入して内部に残留しているインク液を、溶剤で洗浄した後、第3の経路を介して回収することができ、インク液が内部に残留することがなく吐出口の目詰まりを未然に回避することができるので、高い精度で印字パターンを形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置を含む自動印字システムの構成を示す斜視図である。
図2】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置のヘッドの構成を示す斜視図及び偏向原理の説明図である。
図3】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置のインク液及び溶剤の経路を示す経路図である。
図4】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置のヘッドの先端部分に装着されるキャノンアセンブリの構成を示す斜視図である。
図5】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置のヘッドのキャノンアセンブリの構成を示す模式断面図である。
図6】従来のインクジェット記録装置におけるインク液及び洗浄液の流れの説明図である。
図7】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置におけるインク液及び洗浄液の流れの説明図である。
図8】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置における洗浄液回収経路の形成位置を示す部分拡大断面図である。
図9】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置における凹部を形成した場合の、吐出プレートが取り付けられたキャノンの先端部分の部分拡大断面図である。
図10】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置における、吐出口近傍のインク汚れの除去の例示図である。
図11】本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置における、洗浄液回収経路の形成位置の例示図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置について、図面に基づいて具体的に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置を含む自動印字システムの構成を示す斜視図である。
【0032】
図1に示すように、本実施の形態に係る自動印字システム1は、インクジェット記録装置2、ワーク検出センサ4、搬送速度センサ6及び表示装置8で構成されている。
【0033】
インクジェット記録装置2は、ワーク搬送ライン10に搭載されて搬送されてくるワークW上に文字、図形などを印字する。ワークWは、例えば電子部品、プラスチック袋などである。
【0034】
ワーク検出センサ4は、ワーク搬送ライン10に搭載され搬送されてくるワークWの有無を検出して印字を開始するトリガ信号を出力する。ワーク検出センサ4がトリガ信号を出力することで、ワークWに対する印字を開始する。
【0035】
インクジェット記録装置2は、ワーク搬送ライン10の近傍に設置されたコントローラ本体200と、ワーク搬送ライン10に設置されたヘッド300とを有し、コントローラ本体200とヘッド300とは、可撓性チューブアッセンブリ12により連結されている。コントローラ本体200とヘッド300との間には、速乾性のインク液が循環されており、ヘッド300は、搬送されてくるワークWに対してドット印字を実行する。なお、図1において、矢印はワークWの搬送方向を示している。
【0036】
図2は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置2のヘッド300の構成を示す斜視図及び偏向原理の説明図である。図2に示すように、本実施の形態に係るインクジェット記録装置2のヘッド300は、インク液の流れ方向に沿って上流から下流に向けて順に配置された、加振器306、インク吐出部(キャノンアセンブリ)301の吐出口302、帯電電極308、帯電検出センサ310、偏向電極312、ガター304を備えている。
【0037】
加振器306は、コントローラ本体200から供給されたインク液を加圧して振動を与える。インク吐出部301には、鉛直方向下向きに吐出されるインク液に上下振動を与えるための軸部材(例えばピエゾ素子)が設けられており、振動源による軸部材の上下振動(長手方向に沿った振動)により吐出口302から吐出されるインク液が粒子化される。
【0038】
加振器306は、GNDに接地されており、他方、帯電電極308には電位が印加される。帯電電極308は、吐出口302から吐出されたインク液Inが粒子化するブレークポイントに対応して位置しており、粒子化するブレークポイントが帯電電極308に対応する所定の位置となるようにインク液Inの粘度を調整する。なお、図2において、参照符号「Ip」は粒子化したインク液の粒子を示している。
【0039】
帯電電極308には、パルス電位が印加される。後述するインク液の粒子の偏向量を大きくするためには、(偏向量が小さいときに比べて)帯電電極308に相対的に高い電位を印加して帯電させる。すなわち、帯電電極308の印加電位(正電位)を高めることでインク液の粒子Ipの帯電量(負電位)が高くなり、偏向電極312によるインク液の粒子Ipの進行方向を偏向する偏向量が大きくなる。帯電検出センサ310は、インク液の粒子Ipの帯電状態を検出してインク液の粒子Ipが適切に帯電しているか否かを監視する。
【0040】
偏向電極312は、インク液の粒子Ipを帯電量に応じて進行方向を偏向させるために、一対の対向電極で構成されている。本実施の形態では、数千ボルトの電圧が偏向電極312間に印加される。帯電状態であるインク液の粒子Ipは、偏向電極312(一対の対向電極)間を通過する間に、インク液の粒子Ipに作用する静電力によって進行方向が変化(偏向)する。インク液の粒子Ipの帯電量が高ければ高いほどインク液の粒子Ipの偏向量は大きくなる。そして、吐出口302が吐出するインク液Inの吐出方向、つまり鉛直方向下向きをX軸方向とし、X軸を横断する横方向をY軸方向とした場合、Y軸方向とは逆方向にインク液の粒子Ipが偏向される。
【0041】
インク液の粒子Ipの偏向量を、帯電電極308に印加する電圧の大きさで制御することにより、ワークWに対して印字が行われる。印字に関与しないインク液の粒子Ipは、ガター304の中に落下して捕捉される。
【0042】
図3は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置2のインク液及び溶剤の経路を示す経路図である。図3において、コントローラ本体200には、濃度(粘度)調整したインク液を収容したメインタンク202、回収した洗浄液を収容するコンディショニングタンク204、メインタンク202にインク液を補充するためのインク液を入れたインクカートリッジ400、溶剤を入れた溶剤カートリッジ500が備えられている。インクカートリッジ400、溶剤カートリッジ500はコントローラ本体200に対して脱着可能である。なお、本実施の形態で説明するインク液又は溶剤が流れる経路は、あくまでも一例であり、インク液又は溶剤が他の経路内を流れるよう構成しても良いことは言うまでもない。
【0043】
図3のインクジェット記録装置2はカートリッジ式であるが、変形例として、インクカートリッジ400の代わりにインクタンクをコントローラ本体200に設置し、インクタンクに対してインク液を補充するようにしても良い。同様に、溶剤カートリッジ500の代わりに溶剤タンクをコントローラ本体200に設置し、溶剤タンクに対して溶剤を補充するようにしても良い。
【0044】
メインタンク202で濃度調整されたインク液は、ヘッド300へ送り出され、ヘッド300で帯電したインク液の粒子Ipが生成される。インク液の粒子Ipの進行方向を所望量偏向させることでワークW上に文字、図形などを印字する。
【0045】
なお、本実施の形態のインクジェット記録装置2は、常時、インク液を循環させるコンティニュアス方式の記録装置であるので、印字を実行しない場合であってもインク液がヘッド300に供給され続ける。印字を実行しない場合には、インク液の粒子Ipはガター304で受け止められ、ガター304内のインク液が吸引されてコントローラ本体200内のメインタンク202に回収される。
【0046】
インクジェット記録装置2は、溶剤カートリッジ500の溶剤をそのままヘッド300へ送り出すことにより、溶剤を用いてヘッド300内の各部を洗浄する。洗浄に用いられた溶剤は、ガター304で受け止められ、ガター304内に滞留した洗浄液(溶剤)は吸引されてコントローラ本体200のコンディショニングタンク204に貯留される。すなわち、洗浄に用いられた溶剤はコンディショニングタンク204に貯留され、使用済みの洗浄液(溶剤)は、必要に応じてメインタンク202に供給され、インク液の濃度(粘度)調整のために再利用される。
【0047】
メインタンク202及びコンディショニングタンク204は、排気管206を介して外部に接続されており、メインタンク202内及びコンディショニングタンク204内に充満した気体は、排気管206を介して大気中に排出される。
【0048】
メインタンク202には、メインタンク202内のインク液を循環させるためのインク循環経路208が接続されている。インク循環経路208には、循環供給切替弁V5、循環ポンプ212及び粘度測定電磁弁V11が、インク液の流れ方向に沿って順に介装されており、循環供給切替弁V5及び粘度測定電磁弁V11を開いた状態で循環ポンプ212を駆動させることにより、メインタンク202内のインク液はインク循環経路208を通じて循環される。
【0049】
インク循環経路208における循環供給切替弁V5と循環ポンプ212の間には、循環フィルタFが介装されている。循環フィルタFは、インク循環経路208内を流れるインク液に含まれる異物を捕獲するためのものであり、40μm以上の異物を捕獲することができる。
【0050】
インクカートリッジ400内のインク液は、インク供給経路220を介してメインタンク202に流入する。インク供給経路220は、インク流入切替弁V8を介して、インク循環経路208における循環ポンプ212の上流側、より具体的には循環フィルタFの上流側に接続されている。したがって、インク流入切替弁V8及び粘度測定電磁弁V11を開いた状態で循環ポンプ212を駆動させることにより、インク供給経路220及びインク循環経路208を介して、インクカートリッジ400内のインク液がメインタンク202に供給される。
【0051】
溶剤カートリッジ500内の溶剤は、溶剤供給経路222を介してメインタンク202に供給される。溶剤供給経路222は、溶剤流入切替弁V13を介して、インク循環経路208における循環ポンプ212の上流側、より具体的には循環フィルタFの上流側に接続されている。したがって、溶剤流入切替弁V13及び粘度測定電磁弁V11を開いた状態で循環ポンプ212を駆動させることにより、溶剤供給経路222及びインク循環経路208を介して、溶剤カートリッジ500内の溶剤がメインタンク202に供給される。
【0052】
メインタンク202内のインク液は、インク供給管230を介してインクポンプ235に供給され、インクポンプ235から送り出されるインク液は、インク経路(第1の経路)231を介してヘッド300へ導かれる。ヘッド300には、インク経路231に関連した噴射切替弁V14が設置されている。
【0053】
インク経路231におけるコントローラ本体200側の部分には、減圧弁234及び圧力計236が、インク液の流れ方向に沿って順に介装されている。減圧弁234は、インク経路231内(具体的には、減圧弁234よりも下流側の経路)のインク液の圧力が高すぎる場合に、圧力を減少させるためのものである。圧力計236は、インク経路231内、特に減圧弁234の下流側におけるインク液の圧力を検出するものであり、この圧力計236で検出される圧力に応じて、インクポンプ235の吐出圧を調整することができる。
【0054】
インク経路231におけるインクポンプ235の下流側、より具体的にはインクポンプ235と減圧弁234との間には、インクメインフィルタFmが介装されている。インクメインフィルタFmは約10μm以上の異物を捕獲することができる。また、インク経路231には、ヘッド300内において噴射前インクフィルタFfが介装されている。
【0055】
溶剤カートリッジ500の近傍、すなわち溶剤供給経路222の上流側には、光学式空検出機構700が介装されている。光学式空検出機構700は、光電センサを用いて溶剤カートリッジ500の空検出を行う検出機構である。溶剤供給経路222には、光学式空検出機構700の下流で分岐した溶剤経路250が接続されている。溶剤経路250には、溶剤ポンプ252、開閉弁V16、減圧弁254が溶剤の流れ方向に沿って順に介装されている。溶剤経路250は、ヘッド300に通じており、ヘッド300には、溶剤経路250に関連した切替弁V12、V15が介装されている。溶剤経路250は、ヘッド300の洗浄の際に用いられる。
【0056】
ヘッド300のガター304で回収されたインク液は、インク回収経路(第2の経路、第3の経路)240を介して、ヘッド300からコントローラ本体200へ回収される。インク回収経路240は、先端がメインタンク202に接続されている。インク回収経路240におけるコントローラ本体200側の部分には、ガター流入切替弁V10、回収フィルタF、ガターポンプ242及び回収インク供給切替弁V1が、インクの流れ方向に沿ってこの順に介装されており、ガター流入切替弁V10及び回収インク供給切替弁V1を開いた状態でガターポンプ242を駆動させることにより、ヘッド300から回収されたインク液がメインタンク202に戻される。
【0057】
ただし、ヘッド300から回収したインク液をメインタンク202に戻す代わりに、メインタンク202とは別個に設けられた回収インクタンクに収容するようにしても良い。
【0058】
インクジェット記録装置2の立ち上げ時及び立ち下げ時には、吐出口302から溶剤が噴射されることにより、吐出口302、帯電電極308及び偏向電極312などのヘッド300内の各部が溶剤を用いて洗浄される。洗浄に用いられた溶剤は、ガター304で回収され、インク回収経路240を介してヘッド300からコントローラ本体200へ回収される。
【0059】
コンディショニングタンク204は、ヘッド300から回収された溶剤を受け入れる。すなわち、コンディショニングタンク204は、回収溶剤供給経路258、回収溶剤経路切替弁V3を介して、インク回収経路240におけるガターポンプ242の下流側に接続されている。したがって、ガター流入切替弁V10及び回収溶剤経路切替弁V3を開いた状態でガターポンプ242を駆動させることにより、インク回収経路240及び回収溶剤供給経路258を通じて洗浄に用いられた溶剤がコンディショニングタンク204に回収される。コンディショニングタンク204は必須ではなく、コンディショニングタンク204の機能をメインタンク202で行うようにしても良い。
【0060】
コンディショニングタンク204内の溶剤は、回収溶剤流入経路260を介してメインタンク202に流入する。回収溶剤流入経路260は、回収溶剤流入切替弁V9を介して、インク循環経路208における循環ポンプ212の上流側に接続されている。したがって、回収溶剤流入切替弁V9及び粘度測定電磁弁V11を開いた状態で循環ポンプ212を駆動させることにより、回収溶剤流入経路260及びインク循環経路208を介して、コンディショニングタンク204内の溶剤をメインタンク202に流入させることができる。
【0061】
ヘッド300から回収された溶剤がコンディショニングタンク204に貯留されている場合、コンディショニングタンク204に貯留されている溶剤が、溶剤カートリッジ500内の溶剤よりも優先してメインタンク202に供給され、インク液の濃度調整に使用される。
【0062】
インクカートリッジ400、溶剤カートリッジ500、メインタンク202及びコンディショニングタンク204にそれぞれ貯留されている液体は、廃液経路262を介して外部に排出することができる。廃液経路262は、廃液切替弁V4を介して、インク回収経路240におけるガターポンプ242の下流側に接続されている。また、インク回収経路240におけるガターポンプ242及び廃液切替弁V4の間と、インク循環経路208における循環ポンプ212及び粘度測定電磁弁V11の間とは接続管264により接続されている。接続管264により、インク回収経路240内の気泡が粘度測定経路に混入するのを防ぐことができる。
【0063】
メインタンク202内のインク液を廃液する場合、溶剤流入切替弁V13を開くとともに、循環ポンプ212を駆動させれば、溶剤カートリッジ500内の溶剤をメインタンク202内のインク液と共に廃液することができる。粘度測定電磁弁V11を閉じ、回収溶剤流入切替弁V9及び廃液切替弁V4を開いた状態で、循環ポンプ212を駆動させれば、回収溶剤流入経路260、インク循環経路208、接続管264、インク回収経路240及び廃液経路262を介して、コンディショニングタンク204内の溶剤を廃液することができる。
【0064】
インク循環経路208における循環ポンプ212の上流側には、空気流通切替弁V6を介して、吸引経路270が接続されている。吸引経路270は、コントローラ本体200からヘッド300まで延びており、吸引経路270の先端は、ヘッド300に備えられた吐出口302に接続されている。インクジェット記録装置2の立ち下げ時などには、空気流通切替弁V6及び循環供給切替弁V5を開くことにより、吸引経路270、インク循環経路208、排気管(排気経路)206を介して、吐出口302を大気中に開放することができる。したがって、コントローラ本体200とヘッド300との間で空気を流通させて、吐出口302から噴射されるインク液の粒子の噴射圧を調整することにより、インク液の切れを良くすることができる。
【0065】
循環ポンプ212、溶剤ポンプ252、インクポンプ235及びガターポンプ242などの各ポンプの動作は、コントローラ本体200に備えられた制御部により制御される。制御部は、従来と同様に、CPUと、RAM、ROMなどのメモリによって構成され、インクジェット記録装置2の動作を制御する。また、回収インク供給切替弁V1、インク返送切替弁V2、回収溶剤経路切替弁V3、廃液切替弁V4、循環供給切替弁V5、空気流通切替弁V6、インク流入切替弁V8、回収溶剤流入切替弁V9、ガター流入切替弁V10、粘度測定電磁弁V11、噴射切替弁V14などの各切替弁の動作も制御部により制御される。制御部には、粘度計214及び圧力計236からの検出信号が入力される。
【0066】
溶剤経路250には、切替弁V15が取り付けられており、その下流には、フィルタFとASCノズル315が配置されている。ASCノズル315は、加振器306や偏向電極312などを洗浄するためのノズルである。ASCノズル315は、ヘッド300内に定置され、ASCノズル315から洗浄液が吐出口302や偏向電極312に向けて噴出されて、洗浄がされる。インクジェット記録装置2を長期にわたって停止する場合には、メインタンク202のインク液及びコンディショニングタンク204の溶剤を廃液しておくことが好ましい。
【0067】
図4は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置2のヘッド300の先端部分に装着されるキャノンアセンブリの構成を示す斜視図である。図4に示すように、キャノンアセンブリは、上下振動(長手方向に沿って振動)する軸部材(加振部)を有するキャノン(筐体)320と、インク液を吐出する吐出口302を有し、キャノン320に取り付けられる吐出プレート(吐出部材)330とを備えている。
【0068】
吐出プレート330に設けられた吐出口302へは、図3に示すようにメインタンク202からインク経路231を介してインク液が供給され、洗浄に用いられた洗浄液(溶剤)は、ガター304で回収され、インク回収経路240を介してヘッド300からコントローラ本体200へ回収される。図5は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置2のヘッド300のキャノンアセンブリの構成を示す模式断面図である。
【0069】
図5(a)は、従来のキャノンアセンブリの構成を示す模式断面図である。図5(a)に示すように、インク液は、インク経路(第1の経路)231を経てキャノン320内部へ供給され、軸部材360(ピエゾホーン(ピエゾ素子)361)を上下振動させることにより粒子化される。粒子化されたインク液は、インク室370に滞留して、吐出口302から噴射される。
【0070】
ここで、キャノン320には吐出プレート330が取り付けられている。インク液が外部へ漏出することがないように、キャノン320と吐出プレート330との間に、吐出口302の中心軸の周囲を囲むように、シール部材としてOリング340が配置されている。
【0071】
Oリング340を配置している場合であっても、インク液の一部は、キャノン320と吐出プレート330との間を通って、Oリング340側へと浸入する。そこで、通常は、インク経路(第1の経路)231を経てキャノン320の内周側へ洗浄液を供給し、残留しているインク液とともにインク回収経路(第2の経路)240から排出することにより、残留しているインク液を洗浄している。
【0072】
しかし、Oリング340の内周側にまで洗浄液が十分に供給されず、残留しているインク汚れ(図示せず)は洗浄されることなく残留したままである可能性が高い。そこで、本実施の形態では、残留しているインク液を洗浄した洗浄液を回収する洗浄液回収経路(第3の経路)を設ける点に特徴を有している。
【0073】
図5(b)は、本実施の形態に係るキャノンアセンブリの構成を示す模式断面図である。図5(b)に示すように、インク液は、インク経路(第1の経路)231を経てキャノン320内部へ供給され、軸部材360(ピエゾホーン361)を上下振動させることにより粒子化される。粒子化されたインク液は、インク室370に滞留して、吐出口302から噴射される。
【0074】
キャノン320には吐出プレート330が取り付けられている。インク液が外部へ漏出することがないように、キャノン320と吐出プレート330との間に、吐出口302の中心軸の周囲を囲むように、シール部材としてOリング340が配置されている。
【0075】
Oリング340を配置している場合であっても、インク液の一部は、キャノン320と吐出プレート330との間を通って、Oリング340側へと浸入する。そこで、インク経路(第1の経路)231を経てキャノン320の内周側へ溶剤(洗浄液)を供給し、残留しているインク液とともにインク回収経路(第2の経路)240から外部へ排出(誘導)することにより、残留しているインク液を洗浄している。
【0076】
Oリング340の内周側に残留しているインク汚れが確実に洗浄されるように、本実施の形態では洗浄液回収経路(第3の経路)390を設けている。洗浄液回収経路390は、一端がOリング340が配置されている位置よりも内側に接続されており、他端がインク回収経路(第2の経路)240に接続されている。したがって、Oリング340の内周側に残留しているインク汚れを洗浄した洗浄液は、洗浄液回収経路(第3の経路)390を通ってインク回収経路(第2の経路)240へと流れ、確実に外部へ排出(誘導)される。これにより、インク液が内部に残留することがなく吐出口302の目詰まりを未然に回避することができるので、高い精度で印字パターンを形成することが可能となる。
【0077】
図6及び図7を用いて、実際のインク液及び洗浄液の流れを説明する。図6は、従来のインクジェット記録装置2におけるインク液及び洗浄液の流れの説明図であり、図7は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置2におけるインク液及び洗浄液の流れの説明図である。
【0078】
まず図6(a)に示すように、インク液は、インク経路(第1の経路)231を経てキャノン320内部のインク室370へ供給され、軸部材360(ピエゾホーン361)を上下振動させることにより粒子化される。粒子化されたインク液は、インク室370に滞留して、吐出口302から噴射される。
【0079】
このとき、インク液の一部は、キャノン320と吐出プレート330とのの間を通って、Oリング340側へと浸入する。そのため、Oリング340の内周側に、インク液が残留してインク汚れ350となる。
【0080】
そこで、図6(b)に示すように、インク経路(第1の経路)231を経てキャノン320の内周側へ洗浄液(溶剤)を供給し、残留しているインク液とともにインク回収経路(第2の経路)240から排出する。しかし、Oリング340の内周側にまで洗浄液が十分に供給されず、残留しているインク汚れ350は洗浄されることなく残留したままになる。
【0081】
また、図6(c)に示すように、キャノン320内部を洗浄した洗浄液をインク回収経路(第2の経路)240から排出する場合、インク室370内には負圧が生じるので、残留しているインク汚れ350はインク室370側へと引き出される。したがって、時間が経過するにつれて自重、又は揮発時の気体膨張で押し出されることにより、インク汚れ350が吐出口302まで到達し、図6(d)に示すように吐出口302に目詰まりを生じさせる。
【0082】
本実施の形態では、Oリング340の内周側とインク回収経路(第2の経路)240とを接続する洗浄液回収経路(第3の経路)390を設けている。まず図7(a)に示すように、インク液は、インク経路(第1の経路)231を経てキャノン320内部のインク室370へ供給され、軸部材360(ピエゾホーン361)を上下振動させることにより粒子化される。粒子化されたインク液は、インク室370に滞留して、吐出口302から噴射される。
【0083】
このとき、インク液の一部は、キャノン320と吐出プレート330との間を通って、Oリング340側へと浸入する。そのため、Oリング340の内周側に、インク液が残留してインク汚れ350となる。
【0084】
そこで、図7(b)に示すように、インク経路(第1の経路)231を経てキャノン320の内周側へ洗浄液(溶剤)を供給し、残留しているインク液とともにインク回収経路(第2の経路)240及び洗浄液回収経路(第3の経路)390から外部へ排出(誘導)する。洗浄液回収経路390はOリング340の内周側と接続されているので、洗浄液をOリング340の内周側にまで十分に供給することができ、残留しているインク汚れ350を洗浄することができる。
【0085】
そして、図7(c)に示すように、キャノン320内部を洗浄した洗浄液をインク回収経路(第2の経路)240及び洗浄液回収経路(第3の経路)390から排出する場合、インク回収経路240の流速を洗浄液回収経路390の流速よりも速くすることで、インク回収経路240から排出されるインク液又は溶剤(洗浄液)の負圧により洗浄液回収経路390に流れる溶剤(洗浄液)をインク回収経路240へと吸引する。また、吐出口302側には流れることがなく、インク室370内に生じる負圧の揮発効果により洗浄液は蒸発する。よって、時間が経過しても、図7(d)に示すように吐出口302には目詰まりが生じない。
【0086】
なお、上述の実施例では、洗浄液回収経路(第3の経路)390が、インク回収経路(第2の経路)240とOリング340の内周側とに接続されているが、特にこれに限定されるものではない。図8は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置2における洗浄液回収経路390の形成位置を示す部分拡大断面図である。図8では、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置2における、吐出プレート330が取り付けられたキャノン320の先端部分の部分拡大断面図を示している。
【0087】
上述の実施例では、図8(a)に示すように、Oリング340の内周側の空間部分、すなわちインク汚れが残留しやすい部分と、インク回収経路240とを接続するように、洗浄液回収経路390が設けられている。それに対して図8(b)では、洗浄液を供給する洗浄液供給経路232を、インク液を供給するインク経路231とは別個に設けている。
【0088】
同様に、図8(c)では、洗浄液回収経路390をインク回収経路240に接続せず、別個に設けた洗浄液専用経路241に接続している。また、図8(d)では、洗浄液を供給する洗浄液供給経路232を、インク液を供給するインク経路231とは別個に設けるとともに、洗浄液回収経路390をインク回収経路240に接続せず、別個に設けた洗浄液専用経路241に接続している。このように、供給された洗浄液がキャノン320の内部を循環して回収することさえできれば、洗浄液回収経路390をどのように接続しても良い。
【0089】
また、キャノン320の底面(吐出プレート330を取り付ける面)に、Oリング340用の凹部を形成しても良い。図9は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置2における凹部を形成した場合の、吐出プレート330が取り付けられたキャノン320の先端部分の部分拡大断面図である。
【0090】
図9(a)に示すように、Oリング340は、キャノン320の底面に環状に設けられた凹部900に嵌入されている。Oリング340が嵌入された状態でキャノン320に取り付けた場合であっても、Oリング340を形成する壁部と凹部900との間には空洞部901が形成され、そこにインク液が滞留するおそれがある。
【0091】
そこで、凹部900の内周側に、空洞部901とインク回収経路240とを接続する洗浄液回収経路390を設けることにより、洗浄されたインク液を洗浄液とともに回収することができる。インク液は、Oリング340を形成する壁部と凹部900との間の空洞部901に残留しやすいので、洗浄液回収経路390の一端は、Oリング340の内周側に形成された空洞部901と接続されている。
【0092】
なお、凹部900を形成する壁部は、空洞部901とインク室370との間に設けられ、吐出口302の中心軸に平行に延伸する内壁で構成されることが好ましい。キャノン320の内部の圧力をインク液に効率良く伝達することができ、内壁902と吐出プレート330との間を通ってOリング340側に浸入して凹部900に残留しているインク液を、洗浄液で洗浄した後、洗浄液回収経路390を介して回収することができる。
【0093】
凹部900の大きさによっては、Oリング340と凹部900との間に隙間が生じない場合も想定される。その場合であっても洗浄されたインク液を洗浄液とともに回収できることが望ましい。そこで、図9(b)に示すように、凹部900の一部にザグリ孔391を設け、ザグリ孔391とインク回収経路240とが接続された洗浄液回収経路390を設ける。これにより、洗浄されたインク液を洗浄液とともに回収することができる。
【0094】
また、ザグリ孔391を1箇所に設けるのではなく、環状に設けても良い。すなわち、図9(c)に示すように、凹部900の内周側に環状のザグリ孔391を設けることで、より確実に洗浄されたインク液を洗浄液とともに回収することができる。
【0095】
図10は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置2における、吐出口302近傍のインク汚れの除去の例示図である。図10(a)に示すように、キャノン320の底面に環状に設けられたOリング340の内周側に接続された洗浄液回収経路390から洗浄液とともに吐出口302近傍に付着しているインク汚れを回収する。図10において、ハッチングの疎密は、インク汚れの残量に比例している。
【0096】
図10(b)、(c)と進むにつれて、吐出口302近傍に付着しているインク汚れは次第に薄くなり、図10(d)に示すように、最終的にはほぼすべてのインク汚れが回収されていることを実機で確認している。
【0097】
なお、凹部900に設ける洗浄液回収経路390は、一の貫通孔で形成されることに限定されるものではない。図11は、本発明の実施の形態に係るインクジェット記録装置2における、洗浄液回収経路390の形成位置の例示図である。
【0098】
例えば図11(a)に示すように、キャノン320の底面に環状に設けられた凹部900に、1個の貫通孔を洗浄液回収経路390として設けても良いし、図11(b)に示すように、環状に設けられた凹部900の対称な位置に2個の貫通孔を洗浄液回収経路390として設けても良い。貫通孔の数は特に限定されるものではなく、例えば図11(c)に示すように、環状の貫通孔を洗浄液回収経路390として設けても良い。
【0099】
以上のように本実施の形態によれば、吐出プレート330とキャノン(筐体)320との間を通ってOリング(シール部材)340側に浸入して内部に残留しているインク液を、溶剤で洗浄した後、洗浄液回収経路(第3の経路)390を介して回収することができ、インク液が内部に残留することがなく吐出口302の目詰まりを未然に回避することができるので、高い精度で印字パターンを形成することが可能となる。
【0100】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内であれば多種の変更、改良などが可能である。
【符号の説明】
【0101】
2 インクジェット記録装置
231 インク経路(第1の経路)
240 インク回収経路(第2の経路)
300 ヘッド
301 インク吐出部
302 吐出口
308 帯電電極
312 偏向電極
320 キャノン(筐体)
330 吐出プレート(吐出部材)
340 Oリング(シール部材)
360 軸部材
370 インク室
390 洗浄液回収経路(第3の経路)
900 凹部
901 空洞部
902 内壁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11