特許第6345079号(P6345079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6345079
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】自動車の前部車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/00 20060101AFI20180611BHJP
【FI】
   B62D21/00 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-221114(P2014-221114)
(22)【出願日】2014年10月30日
(65)【公開番号】特開2016-88136(P2016-88136A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087619
【弁理士】
【氏名又は名称】下市 努
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 恭平
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 英二
(72)【発明者】
【氏名】中村 尚弘
【審査官】 林 政道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−090861(JP,A)
【文献】 特開2009−023615(JP,A)
【文献】 特開2009−083692(JP,A)
【文献】 特開2015−030444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 17/00−25/08
B62D 25/14−29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左,右のサイドメンバの車外側にロッカレールを配設するとともに、該ロッカレールの前端部と前記サイドメンバとをアウトリガーにより連結し、前記左,右のサイドメンバの下方にサスペンションメンバを配設し、該サスペンションメンバの左,右前端部及び左,右後端部を前記サイドメンバに連結するようにした自動車の前部車体構造において、
前記サスペンションメンバの左,右後端部と、該後端部の後方に位置する前記左,右のサイドメンバとの間にブレース部材を橋渡しするように配置し、該左,右のブレース部材の前部を前記左,右後端部に固定するとともに、後部を前記左,右のサイドメンバに締結固定し、
さらに前記左,右のブレース部材に、前記アウトリガーに重なるよう延びる延長部を形成し、該延長部を前記アウトリガーに締結固定した
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左,右のサイドメンバの下方にサスペンションメンバを配設した自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、車両前面衝突時の入力を、サイドメンバからアウトリガーを介してロッカレールに分散させて伝達する構造が採用されている。また前記衝突時のサスペンションメンバの後方移動を抑制するために、例えば、特許文献1には、サブフレームの後取付け部と、サイドメンバの水平部とを脆弱部を有する側面視略S字形状のステーにより連結する構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−206653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来構造では、車両前後方の入力には対応可能であるものの、例えば操舵時に、サスペンションメンバに車幅方向側方からの入力が加わった場合には、後部取付け部に回転方向の入力が作用し、サイドメンバが車内側に倒れ込むような動きをする傾向がある。この倒れ込みによりサスペンションメンバの後部取付け部の変位量が大きくなり、操舵感,操舵の戻り,リニアリティ等の操縦安定性が悪化するおそれがある。
【0005】
このような操舵時の入力によるサスペンションメンバの変位を抑制するために、補強部材等を追加することが考えられる。しかしながら、補強部材を新たに追加するとなると、部品点数及び車体重量が増えるという問題が生じる。
【0006】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、部品点数,車体重量を増やすことなく、操舵時の横方向からの入力に対する操縦安定性を改善できる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、左,右のサイドメンバの車外側にロッカレールを配設するとともに、該ロッカレールの前端部と前記サイドメンバとをアウトリガーにより連結し、前記左,右のサイドメンバの下方にサスペンションメンバを配設し、該サスペンションメンバの左,右前端部及び左,右後端部を前記サイドメンバに連結するようにした自動車の前部車体構造において、
前記サスペンションメンバの左,右後端部と、該後端部の後方に位置する前記左,右のサイドメンバとの間にブレース部材を橋渡しするように配置し、該左,右のブレース部材の前部を前記左,右後端部に固定するとともに、後部を前記左,右のサイドメンバに締結固定し、
さらに前記左,右のブレース部材に、前記アウトリガーに重なるよう延びる延長部を形成し、該延長部を前記アウトリガーに締結固定したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る前部車体構造によれば、サスペンションメンバの後端部と、該後端部後方のサイドメンバとをブレース部材により橋渡し、該ブレース部材の前部を後端部に固定するとともに、後部を前記サイドメンバに締結固定し、さらにブレース部材に、アウトリガーに重なるよう延びる延長部を形成し、該延長部をアウトリガーに締結固定したので、例えば操舵時の車幅方向の入力よりサスペンションメンバの後端部に回転力が作用すると、延長部の固定部が突っ張ることで前記回転力を受け止めることとなり、サイドメンバの車内側への倒れ込みを抑制することができる。これにより、サスペンションメンバの後端部の変位を抑制でき、ひいては操縦安定性を向上できる。
【0009】
また前記ブレース部材によりサスペンションメンバの後端部の剛性を高めることができるので、該後端部に作用する走行中の振動等を抑制でき、乗り心地の向上を図ることが可能となる。
【0010】
本発明では、既存のブレース部材に延長部を形成し、該延長部をアウトリガーに締結固定する構造であるので、補強部材を新たに追加する必要はなく、部品点数及び車体重量が増えるのを回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1による自動車の前部車体の底面図である。
図2】前記前部車体の側面図である。
図3】前記前部車体の平面図である。
図4】前記前部車体の断面図(図3のIV-IV線断面図)である。
図5】前記前部車体の断面図(図3のV-V線断面図)である。
図6】前記前部車体の断面図(図3のVI-VI線断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1ないし図6は、本発明の実施例1による自動車の前部車体構造を説明するための図である。本実施例において、前,後,左,右という場合は、車両の前進方向に見た状態での前,後,左,右を意味する。
【0014】
図において、1は自動車のエンジンルームを構成する前部車体を示している。この前部車体1は、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバ2,2と、該左,右のサイドメンバ2の車外側に配設され、車両前後方向に延びる左,右のロッカレール3,3と、該左,右のロッカレール3と前記サイドメンバ2とを連結するアウトリガー4,4と、前記左,右のサイドメンバ2の下方に配設されたサスペンションメンバ5とを有する。
【0015】
前記左,右のサイドメンバ2は、略直線状に延びるフロントメンバ部2aと、該フロント部2aに続いて後斜め下方に延びるキック部2bと、該キック部2bに続いて後方に略直線状に延びるリヤメンバ部2cとを有する。前記フロントメンバ部2aの車外側にはサスペンションタワー6が結合されている。また前記左,右のサイドメンバ2のキック部2b部分にはエンジンルームと車室とを区分けするダッシュパネルが配設されている。
【0016】
前記左,右のアウトリガー4は、上方に開口する断面ハット形状をなしており、底壁4cと、該底壁4cの前縁及び後縁に続いて上方に屈曲して延びる前壁4d,後壁4eと、該前壁4d,後壁4eに続いて屈曲形成された前,後フランジ部4f,4fとを有する。この前,後フランジ部4fにはフロア部材(不図示)が接合されており、これによりアウトリガー4は閉断面箱形状をなしている。
【0017】
前記アウトリガー4内には、リインホース7及びバルクヘッド8が配設されている。このリインホース7は、車幅方向に延び、前記アウトリガー4の底壁4cの後側部分を覆う底壁部7aと後壁4eの下側部分を覆う後縦壁部7bとを有し、該アウトリガー4に結合されている。
【0018】
前記バルクヘッド8は、前記アウトリガー4の底壁4c上を前後方向に延びるよう配置され、下方に開口する断面大略ハット形状をなしている(図5参照)。該アウトリガー4の内側,外側フランジ部8a,8bが前記底壁4cに結合されている。
【0019】
前記バルクヘッド8の内側フランジ部8aは、その一部8cが前記リインホース7の底壁部7aに重なるよう延長形成されている。
【0020】
前記アウトリガー4の外端部4aは、前記ロッカレール3の前端部3aに結合され、内端部4bは前記サイドメンバ2のキック部2bの下部に結合されている。これにより車両前面衝突時の入力は、その一部がサイドメンバ2からアウトリガー4を介してロッカレール3に分散させて伝達される。
【0021】
前記サスペンションメンバ5は、前記サイドメンバ2のフロントメンバ2aからキック部2bを経てリヤメンバ部2cの略前端部に渡る部分の下方に配設されている。このサスペンションメンバ5には、不図示のステアリングシャフトが連結されたステアリングギヤユニットが取り付けられている。
【0022】
前記サスペンションメンバ5は、アッパメンバ5aとロアメンバ5bとを中空状をなすよう外周縁部5c同士を溶接により結合した構造を有する。
【0023】
前記サスペンションメンバ5の左,右前端部5d,5dには、車両上下方向に延びる左,右連結アーム9,9の下部9aが溶接結合されており、該左,右連結アーム9の上端部9bは前記サイドメンバ2のフロントメンバ部2aの底壁部2dにボルト10により締結固定されている。
【0024】
また前記サスペンションメンバ5の左,右後端部5e,5e内には、内筒12aと外筒12bとの間に弾性部材12cを介設してなるブッシュ12が配設されており、該ブッシュ12の外筒12bには、前輪(不図示)を支持するロアアーム11が接続固定されている(図4参照)。
【0025】
前記ブッシュ12の内筒12aには、連結ボルト13がサスペンションメンバ5を貫通するよう下方から挿入されており、該連結ボルト13は前記サイドメンバ2のキック部2bの底壁下面2b′に結合された大略L字形状のブラケット14に締結固定されている。
【0026】
前記サスペンションメンバ5の左,右後端部5eと、該左,右後端部5eの後方に位置する左,右のサイドメンバ2のキック部2bとの間には、該両者5e,2bを橋渡しするブレース部材16,16が配設されている。
【0027】
この左,右のブレース部材16は、板金製であり、大略平板状のブレース本体16aの外縁部に上方に突出するフランジ部16bを折り曲げ形成した構造を有する。
【0028】
前記ブレース本体16aは、前記サスペンションメンバ5のロアメンバ5bの下面に当接する前取付け部16cと、該前取付け部16cから斜め後上方に屈曲して延びる変形傾斜部16dと、該変形傾斜部16dに続いて前記キック部2bの底壁下面2b′に当接する後取付け部16eとを有する。前記変形傾斜部16dは、車両前面衝突時の荷重より折れ変形することで、前記サスペンションメンバ5をサイドメンバ2から脱落させる脆弱部として機能している。
【0029】
前記左,右のブレース部材16の前取付け部16cは、前述の連結ボルト13により、前記サスペンションメンバ5と共に前記キック部2bのブラケット14に締結され、さらに溶接固定されている。また前記後取付け部16eは、下方から挿入された締結ボルト18により前記キック部2bの底壁部2dに締結固定されている。
【0030】
そして前記左,右のブレース部材16のブレース本体16aには、前記アウトリガー4に重なるよう延びる延長部16f,16fが一体に形成されている。
【0031】
この延長部16fは、前記後取付け部16eに続いて車幅方向内側に延びており、前記アウトリガー4のバルクヘッド8の一部8cとリインホース7の底壁部7aとの重なり部分に対向するよう延長形成されている。
【0032】
前記延長部16eは、下方から挿入された締結ボルト19により前記アウトリガー4の底壁4c,リインホース7の底壁部7a及びバルクヘッド8の一部8cに重ね合わせて一体的に締結固定されている。
【0033】
また前記ブレース本体16aには、前取付け部16cの連結ボルト13と延長部16eの締結ボルト19とを結ぶ線上に略位置するよう補強ビード16gが形成されている(図3参照)。これにより車幅方向の入力に対するブレース部材16の剛性を高めている。
【0034】
本実施例によれば、サスペンションメンバ5の左,右後端部5eと、該後端部5eの後方に位置するサイドメンバ2のキック部2bとの間に両者5e,2bを橋渡しするブレース部材16を配置し、該ブレース部材16の前取付け部16cを連結ボルト13により前記サスペンションメンバ5の後端部5eに締結固定し、後取付け部16eを締結ボルト18により前記キック部2bに締結固定し、さらにブレース部材10の後取付け部16eに続いてアウトリガー4に重なるよう延びる延長部16fを形成し、該延長部16fを締結ボルト19によりアウトリガー4,リインホース7及びバルクヘッド8に重ね合わせて一体的に締結固定した。
【0035】
このように構成したので、図1に示すように、操舵時の車幅方向の入力Fよりサスペンションメンバ5の後端部5eに回転力F1が作用すると、該回転力F1を後端部5eの連結ボルト13と延長部16fの締結ボルト19との間で回転方向と反対方向に作用する引っ張り力F2により受け止めることとなり、サイドメンバ2の車内側への倒れ込みを抑制することができる。これにより、サスペンションメンバ5の後端部5eの変形を抑制でき、ひいては低速域での操舵感,操舵の戻り,リニアリティ等の操縦安定性を向上できる。
【0036】
また前記ブレース部材16にフランジ部16bを形成するとともに、車幅方向に延びる補強ビード16gを形成したので、ブレース部材16自体の剛性,ひいてはサスペンションメンバ5の車幅方向の入力Fに対する剛性を大幅に高めることができ、この点からもサイドメンバ2の倒れ込みを防止できる。
【0037】
さらに前記ブレース部材16によりサスペンションメンバ5の後端部5eの剛性を高めることができるので、該後端部5eに作用する走行中の振動等を抑制でき、乗り心地を向上できる。
【0038】
本実施例では、既存のブレース部材16に延長部16eを形成し、該延長部16eをアウトリガー4に締結固定する構造であるので、補強部材を新たに追加する必要はなく、部品点数及び車体重量が増えるのを回避できる。
【0039】
また前記アウトリガー4にリインホース7,バルクヘッド8を配設したので、アウトリガー4自体の剛性を大幅に向上することができ、前面衝突時及び操舵時における性能をより一層高めることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 前部車体
2 サイドメンバ
3 ロッカレール
3a 前端部
4 アウトリガー
5 サスペンションメンバ
5d 前端部
5e 後端部
16 ブレース部材
16c 前取付け部(前部)
16e 後取付け部(後部)
16f 延長部
図1
図2
図3
図4
図5
図6