【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、綱の編組の方法に工夫を施して、綱に伸縮性を与えたものである。すなわち、本発明は、間隔を置いて立設された支柱間に張設される落石防護ネットにおいて、前記落石防護ネットは、経編物と該経編物の上下左右辺に取り付けられた綱とで構成されており、前記綱は、S撚りのストランド2本一組とし、Z撚りのストランド2本一組として、各々複数組を用いて編組し、該編組の際に、S撚りのストランドはS巻きにし、Z撚りのストランドはZ巻きにして編組したものであることを特徴とする落石防護柵に用いる落石防護ネットに関するものである。
【0007】
本発明に係る落石防護ネットは、落石防護柵に用いるものである。落石防護柵というのは、山裾等にある車道や家屋への落石を防止するために、斜面の下部に設置されるものである。具体的には、
図1に示したように、山の斜面の裾に、車道等に沿って、支柱1,1,・・・が立設され、各支柱1,1間に落石防護ネット2が張設されてなるものである。なお、支柱1が落石の衝撃により車道側等に傾倒しないように、山側からワイヤー3で支持するのが一般的である。ワイヤー3としては、従来公知の金属製ワイヤーロープや合成繊維製ロープが用いられるが、本発明で用いる綱5を採用してもよい。
【0008】
落石防護ネット2は、経編物4と、この経編物4の上下左右辺に取り付けられた綱5とで構成されている(
図2)。綱5の取付方は任意であるが、綱5の伸縮性を阻害しないように、経編物4の目合に綱5を挿入して取り付けるのがよい。
【0009】
経編物4としては、一般的にラッセル編物が用いられる。ラッセル編物の編組織は、従来公知のものが採用される。特に、本発明においては、2本一組の鎖編糸と各鎖編糸内に挿入された2本の挿入糸とで編成されてなり、所定のコースにおいて、各挿入糸は、隣り合う組の鎖編糸に挿入されることによって結節部が構成されているラッセル編物を用いるのが好ましい。かかるラッセル編組織の一部は、
図3に示したようなものである。すなわち、鎖編糸6aと6bの2本で一組となり、鎖編糸6cと6dの2本で一組となっている。そして、鎖編糸6aには挿入糸7a1 と7a2 の2本が挿入され、鎖編糸6bには挿入糸7b1 と7b2 の2本が挿入され、鎖編糸6cには挿入糸7c1 と7c2 の2本が挿入され、鎖編糸6dには挿入糸7d1 と7d2 の2本が挿入されている。鎖編糸6a、6b、6c及び6dに挿入されている各挿入糸は、間隔を置いた所定のコースにおいて、左右に飛んで隣り合う他の組の鎖編糸に挿入され、結節部が構成されている。すなわち、所定のコースにおいて、挿入糸7a1 及び7a2 は右方向に飛んで鎖編糸6cに挿入された後、元に戻って鎖編糸6aに挿入され、挿入糸7b1 と7b2 も右方向に飛んで鎖編糸6dに挿入された後、元に戻って鎖編糸6bに挿入される。一方、挿入糸7c1 と7c2 は左方向に飛んで鎖編糸6aに挿入された後、元に戻って鎖編糸6cに挿入され、挿入糸7d1 と7d2 も左方向に飛んで鎖編糸6bに挿入された後、元に戻って鎖編糸6dに挿入される。以上のようにして、ラッセル編物の経方向及び緯方向に多数の結節部が形成されるのである。鎖編糸の軸方向における結節部間の距離は50〜100mm程度となっており、目合が50〜100mm程度のラッセル編物となっている。目合が大きすぎると、落石が目合を通過しやすくなる。また、目合が小さすぎると、綱5を目合に挿入しにくくなる。
【0010】
経編物4を構成する糸としては、従来公知のものが用いられる。特に、高強度のマルチフィラメント糸が用いられ、具体的には1000〜4000デシテックス/100〜400フィラメント程度のマルチフィラメント糸を十数本合糸したものを用いるのが好ましい。また、マルチフィラメント糸の素材としては、耐候性に優れたポリエステルが好ましく、特に黒色に原着されたポリエステルが好ましい。
【0011】
綱5は、伸縮性を持った特定のものが採用される。一般的に、綱は数本以上の糸を撚って作成したストランドを数本以上用いて、さらに撚り合わせたものであり、種々のタイプがある。たとえば、単に複数本のストランドを撚り合わせた撚りロープ、複数本のストランドを異なる方向に交差するようにして撚り合わせたクロスロープ(
図4)、複数本のストランドを筒状に編成した編みロープ等が知られている。本発明で用いる綱5は、クロスロープの一種であるが、従来のクロスロープとは異なる構成となっているものである。
【0012】
一般的なクロスロープは、
図4に示したとおり、2本のストランドが一組となっており、各組のストランドをS巻き及びZ巻きとして交差させて編組したものである。具体的に説明すると、以下のとおりである。すなわち、ストランド8aと8bが一組となり、ストランド8cと8dが一組となり、ストランド8eと8fが一組となり、ストランド8gと8hが一組となっている。すなわち、四組のストランドが用いられている。そして、ストランド8aと8b及びストランド8cと8dがS巻きとなり、ストランド8eと8f及びストランド8gと8hがZ巻きとなるように、交差して編組されたものである。なお、S巻きというのは、ロープを側面から見たとき、その撚りの方向が左上から右下となっているものをいい、Z巻きというのは、ロープを側面から見たとき、その撚りの方向が右上から左下となっているものをいう。
【0013】
ところで、各ストランド8a,8b・・・も、数十本〜数百本の糸を撚って作成したものであるから、撚り方向としては、S撚りとZ撚りがある。一般的なクロスロープは、S撚りのストランドはZ巻きにし、Z撚りのストランドはS巻きにする。
図4に基づいて具体的に説明すると、S巻きとなっているストランド8a、8b、8c及び8dは、Z撚りのストランドが採用され、Z巻きとなっているストランド8e、8f、8g及び8hは、S撚りのストランドが採用される。この理由は、Z撚りのストランドはS方向に戻ろうとするトルクを内在しており、これをS巻きにすると、このトルクが低減し、クロスロープに内在するトルクが少なくなって、各ストランドが密着しクロスロープが安定するからである。すなわち、ストランドを用いてクロスロープを作成するには、ストランドの撚り方向とは逆方向に撚ってクロスロープを得るのが技術常識なのである。
【0014】
しかるに、本発明においては、この技術常識に反して、S巻きとなっているストランド8a、8b、8c及び8dに、S撚りのストランドを採用し、Z巻きとなっているストランド8e、8f、8g及び8hに、Z撚りのストランドを採用したものである(
図5)。これによって、S撚りのストランドに内在しているトルクは、S巻きによってさらに増大し、綱5としたときZ方向(
図5の符号10で示す方向)にトルクが働く。一方、Z撚りのストランドに内在しているトルクは、Z巻きによってさらに増大し、綱5としたときS方向(
図5の符号11で示す方向)にトルクが働く。この結果、S撚りの一組のストランドとZ撚りの一組のストランドの間に若干の隙間が生じると共に、綱5が収縮した状態となる。収縮した状態となっているから、この綱5に引張力が働けば綱5は伸長し、引張力を解除すれば綱5は元の収縮した状態に戻る。
【0015】
本発明は、綱5が上記した伸縮力を有しているので、落石を落石防護ネットが受けとめたとき、経編物4の変形に対応して、綱5も伸長するのである。具体的には、
図6に示したとおり、落石を落石防護ネットが受けとめたとき、経編物4は車道や家屋等の方向にお椀状に変形し、経編物4の上下左右辺に取り付けられている綱5は、各々、車道や家屋等の方向に弓状に伸長変形するのである。すなわち、本発明に係る落石防護ネットは、経編物4の変形性と綱5の伸長性の両者によって、落石を受けとめるため、落石の衝撃を十分に吸収することができる。
【0016】
綱5は、糸からストランドを得、このストランドを編組して得られるものである。ここで、糸としては、1000〜2000デシテックス/100〜200フィラメント程度のマルチフィラメント糸を用いるのが好ましい。かかる糸を数本合撚して下撚糸を得、ついで下撚糸を数本合撚して上撚糸を得、最後に上撚糸を数十本合撚してストランドが得られる。上撚糸を合撚する際に、S撚り及びZ撚りで行って、S撚り及びZ撚りのストランドとする。したがって、ストランドは、数十万デシテックス/数万フィラメントの繊維量となっている。このストランドの2本を一組とし、複数組を用いて綱5が編組される。一般的には、
図4及び
図5に示したとおり、四組のストランドが用いられる。ストランドを2本一組とするのは、綱の強度、伸縮性及び直線性が最も発現しやすいからである。ストランド1本を用いて編組すると、綱が低強度となり、しかも伸縮性の発現も少ない。ストランドを3本以上を一組とすると、内在トルクが高くなりすぎて、綱自体がトルクによって捩れやすくなる。また、ストランドの組数は任意であるが、一般的には四組が用いられる。一般的な編組機械は、給ストラング口が四組となっている。
【0017】
本発明に係る落石防護ネットは、山裾等に立設された支柱間に張設され、斜面からの落石を防護ネットで受けとめて、山裾等に在る車道や家屋等への直接の落石を防止するものである。また、本発明に係る落石防護ネットは、支柱間のみではなく、既存の立木や施設間に張設して用いることもできる。