特許第6345776号(P6345776)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6345776ヘッドライト装置およびそれを用いた車両装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6345776
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】ヘッドライト装置およびそれを用いた車両装置
(51)【国際特許分類】
   F21S 41/125 20180101AFI20180611BHJP
   F21S 41/147 20180101ALI20180611BHJP
   F21S 41/25 20180101ALI20180611BHJP
   F21S 41/32 20180101ALI20180611BHJP
   F21S 41/64 20180101ALI20180611BHJP
   B60Q 1/00 20060101ALI20180611BHJP
   B60Q 1/26 20060101ALI20180611BHJP
   B60Q 1/04 20060101ALI20180611BHJP
   F21V 5/00 20180101ALI20180611BHJP
   F21V 5/04 20060101ALI20180611BHJP
   F21V 7/00 20060101ALI20180611BHJP
   G02B 17/08 20060101ALI20180611BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20180611BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20180611BHJP
   F21W 111/02 20060101ALN20180611BHJP
   F21Y 101/00 20160101ALN20180611BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20180611BHJP
   F21Y 115/30 20160101ALN20180611BHJP
【FI】
   F21S41/125
   F21S41/147
   F21S41/25
   F21S41/32
   F21S41/64
   B60Q1/00 G
   B60Q1/26 Z
   B60Q1/04 Z
   F21V5/00 320
   F21V5/04 550
   F21V7/00 320
   G02B17/08 Z
   G02B13/18
   G03B21/14 Z
   F21W111:02
   F21Y101:00 300
   F21Y115:10
   F21Y115:30
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-528715(P2016-528715)
(86)(22)【出願日】2014年6月18日
(86)【国際出願番号】JP2014066187
(87)【国際公開番号】WO2015193996
(87)【国際公開日】20151223
【審査請求日】2016年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】317015179
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】谷津 雅彦
【審査官】 松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−201407(JP,A)
【文献】 特開2011−253024(JP,A)
【文献】 特開2007−322811(JP,A)
【文献】 特開2009−184428(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/019912(WO,A1)
【文献】 特開2012−247369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 41/125
B60Q 1/00
B60Q 1/04
B60Q 1/26
F21S 41/147
F21S 41/25
F21S 41/32
F21S 41/64
F21V 5/00
F21V 5/04
F21V 7/00
G02B 13/18
G02B 17/08
G03B 21/14
F21W 111/02
F21Y 101/00
F21Y 115/10
F21Y 115/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路面に映像を投写するヘッドライト装置であって、
光源装置と、
前記光源装置から出射された光を集光する照明光学系と、
前記照明光学系で集光された光を入射して光学像を形成する映像表示素子と、
前記映像表示素子に前記光学像を形成するための映像信号を供給する映像信号制御部と、
前記映像表示素子で形成された前記光学像を拡大して道路面に投写する投写光学系を備え、
前記投写光学系は、前記映像表示素子側から、屈折作用を有する同軸レンズ系と、自由曲面レンズと、自由曲面ミラーを有して構成され、
当該ヘッドライト装置から見た道路面での投写映像の縦方向サイズをY、横方向サイズをXとするとき、アスペクト比=Y/X>2を満足するように、前記映像表示素子の映像表示範囲を縦長形状に配置させるとともに、前記映像表示素子のアスペクト比に対し、前記道路面での投写映像のアスペクト比の方が大きいことを特徴とするヘッドライト装置。
【請求項2】
請求項1に記載のヘッドライト装置であって、
前記投写光学系の出射位置から映像を投写する道路面に引いた垂線の長さを投写距離Zとし、道路面での投写映像の長辺の長さをYとするとき、
投写比=Z/Y<0.1
を満足することを特徴とするヘッドライト装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のヘッドライト装置を搭載した車両装置であって、
前記映像信号制御部は、
運転者の操作情報に応じて所定の映像信号を生成して前記映像表示素子に供給する映像信号生成部と、
当該車両装置の走行速度情報に応じて投写映像のアスペクト比を決定し、前記映像表示素子に供給する映像信号を切り替える表示アスペクト比変更部と、
を備えることを特徴とする車両装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両装置であって、
運転者から見た投写映像のアスペクト比を、[運転者から見た投写映像の縦方向サイズ]/[運転者から見た投写映像の横方向サイズ]とするとき、
前記表示アスペクト比変更部は、当該車両装置の走行速度が所定の速度よりも遅くなった場合に、運転者から見た投写映像のアスペクト比を小さく切り替えることを特徴とする車両装置。
【請求項5】
請求項4に記載の車両装置であって、
前記表示アスペクト比変更部により運転者から見た投写映像のアスペクト比を小さく切り替えるのは、投写映像として、前記映像信号生成部により右折表示、若しくは左折表示を示す映像信号を生成している場合であることを特徴とする車両装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、映像投写機能を有するヘッドライト装置およびそれを用いた車両装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、ヘッドライトを光源として用いた車両用の投写装置が知られている。例えば特許文献1に記載される投射装置は、ヘッドライト、プロジェクタ及び光取り出し口を有し、プロジェクタ機能時には、プロジェクタはヘッドライトから光取り出し口に至る光路中に配置され、形成された光学像を外部に投影する。また、ヘッドライト機能時には、プロジェクタはヘッドライトから光取り出し口に至る光路を遮らない位置に配置され、路上の所定の範囲を照明する構成となっている。さらに特許文献1では、プロジェクタ機能として、道路に画像を表示する例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−136838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
投写機能を有するヘッドライト装置では、道路面に投写像を表示する場合、以下の課題がある。
【0005】
一般的な投写装置では投写像は前面に形成されるので、車両が停車中に、壁面等に投写した映像を観賞するのには問題がないが、道路面に投写像を表示する場合は道路上の映像が縮小されて見えるので、そのままでは運転者あるいは歩行者から視認しにくくなる。特許文献1では道路に映像を表示する例が開示されているが、運転者等から見やすい映像を表示することについては考慮されていない。
【0006】
また、投写機能を有するヘッドライト装置を搭載した車両では、走行状態によって運転者あるいは歩行者の視認性が変化するので、それに応じた映像の表示が必要とされる。これについても従来技術では考慮されていなかった。
【0007】
本発明は、上記した課題に鑑みてなされたもので、運転者あるいは歩行者から視認しやすい映像を道路に投写するヘッドライト装置およびそれを用いた車両装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、道路面に映像を投写するヘッドライト装置であって、光源装置と、光源装置から出射された光を集光する照明光学系と、照明光学系で集光された光を入射して光学像を形成する映像表示素子と、映像表示素子に光学像を形成するための映像信号を供給する映像信号制御部と、映像表示素子で形成された光学像を拡大して道路面に投写する投写光学系を備え、投写光学系は、映像表示素子側から、屈折作用を有する同軸レンズ系と、自由曲面レンズと、自由曲面ミラーを有して構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、運転者あるいは歩行者から視認しやすい映像を道路に投写することができ、交通事故の防止に寄与する効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ヘッドライト装置の全体構成を示すブロック図(実施例1)。
図2】ヘッドライト装置と像面(道路面)の位置関係を示す図。
図3】投写光学系の構成と光線方向を示す図。
図4】投写光学系のレンズデータの一例を示す図。
図5】自由曲面レンズLと自由曲面ミラーMの曲面形状データを示す図。
図6】非球面レンズLと非球面レンズLの曲面形状データを示す図。
図7】投写像の歪曲収差を示す図。
図8】投写像の光量分布を示す図。
図9】投写像のスポットサイズを示す図。
図10】ヘッドライト装置を搭載した車両装置を示す図(実施例2)。
図11】映像信号制御部の動作を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0012】
実施例1では、投写機能を有するヘッドライト装置について説明する。
図1は、ヘッドライト装置の全体構成を示すブロック図である。ヘッドライト装置1は、光源装置2、照明光学系3、映像表示素子4、投写光学系5、および映像信号制御部6を有して構成される。
【0013】
光源装置2は、放電ランプやLEDランプおよびリフレクタで構成される。あるいは、レーザ光源を利用してもよい。照明光学系3は光源装置2から出射された光をレンズにより集光し均一化して、映像表示素子4に入射させる。映像表示素子4は例えば液晶パネルであり、入射光を映像信号により変調して、投写する光学像を形成する。投写光学系5は、光学像を拡大し像面8に投写する。本実施例では、像面8が道路面の場合を対象とする。映像信号制御部6は、映像表示素子4に対して光学像を形成するための映像信号を供給する。
【0014】
投写像としてカラー映像を投写する場合は、照明光学系3にR,G,Bの色分離光学系を設け、映像表示素子4としてR,G,Bの液晶パネルで構成し、投写光学系5では色合成光学系を設ければよい。
【0015】
図2は、ヘッドライト装置1と像面8(道路面)の位置関係を示す図である。ヘッドライト装置1の投写光学系5から出射した映像光は、道路面である像面8へ投写される。以下、像面8(道路面)をXY面とし、道路の幅方向をX軸、走行方向をY軸、これに垂直な方向をZ軸とする。
【0016】
本実施例で実現する投写像の位置とサイズは例えば次の通りである。ヘッドライト装置1の出射位置(後述する投写光学系5内の自由曲面ミラー4の光軸中心)から像面8(道路面)に引いた垂線の長さ(Z軸方向)、すなわち投写距離Zは例えば700mmとする。これは、ヘッドライト装置1の道路面からの高さで決まる値である。また、投写像の長辺方向(Y軸方向)のサイズYは、例えば9519mm(=10061−542)という大画面サイズとする。これは、道路へ投写した映像が運転者や歩行者から視認しやすくするためである。その結果、投写距離と投写像のサイズの比で定義される投写比が、700/9519=0.07という極めて小さい値となり、このような小さい投写比を実現するため、投写光学系5では、広角化のための構成(特に自由曲面レンズと自由曲面ミラーの組み合わせ)としている。これにより、従来は実現困難であった投写比<0.1を達成している。
【0017】
図3は、図1の投写光学系5の構成と光線方向を示す図である。
映像表示素子4を出射した映像光は、カバーガラス14と全反射プリズム(TIR)15で構成されるフィルタを通過し、同軸レンズ系11と自由曲面レンズ12で屈折作用を受け、自由曲面ミラー13で反射作用を受けた後で、像面8となる道路に投写される。
【0018】
同軸レンズ系11は、正の屈折力を持つレンズ群(レンズL〜レンズL)と、負の屈折力を持つレンズ群(レンズL〜レンズL)からなるレトロフォーカスタイプである。なお、各レンズL〜Lは共通の光軸16を有している。
【0019】
各レンズの形状は、映像表示素子4の側から、ガラス製で正の屈折力を有し映像表示素子4の側(以下、入射側)に小さい曲率半径を向けたレンズLと、プラスチック製で入射側に凸面を向けたメニスカス形状の非球面レンズLと、ガラス製で正の屈折力を有し両凸形状のレンズLとする。さらに、ガラス製で正の屈折力を有し入射側に凹面を向けたメニスカス形状のレンズLと、ガラス製で負の屈折力を有し両凹形状のレンズLと、ガラス製で正の屈折力を有し入射側に凹面を向けたメニスカス形状のレンズLと、プラスチック製の奇数次非球面レンズで入射側に凹面を向けたメニスカス形状のレンズLとで構成した。
【0020】
自由曲面レンズ12は、プラスチック製で入射側に凹面を向けたメニスカスレンズ形状の自由曲面レンズLで構成している。
【0021】
自由曲面ミラー13は、ミラーの上側13aは凹面状、下側13bは凸面状とする自由曲面形状の自由曲面ミラーMで構成している。なお、ミラーM’は、ミラーMの曲面形状の特徴を分かりやすく表示するため、自由曲面係数を5倍に強調して示したものである。ミラーの上側13aから出射した光は、図2の像面8の遠い位置(Y=10061mm側)の投写像を、またミラーの下側13bから出射した光は像面8の近い位置(Y=542mm側)の投写像を形成する。
【0022】
図4は、投写光学系のレンズデータの一例を示す図である。カバーガラスから自由曲面ミラーMまでのデータを示す。曲率半径は曲率半径の中心位置が進行方向にある場合を正の符号で表している。面間距離は、各面の頂点位置から次の面の頂点位置までの光軸上の距離を表している。
【0023】
偏心はY軸方向の値であり、倒れはYZ平面内でX軸回りの回転である。偏心・倒れは、該当の面で偏心と倒れの順に作用し、「普通偏心」では、偏心・倒れが作用した新しい座標系上での面間距離の位置に次の面が配置される。一方、「ディセンタ&リターン(DAR)」では、偏心と倒れはその面でのみ作用し、次の面に影響しない。硝材名におけるPMMAは、プラスチックのアクリルである。
【0024】
図5は、自由曲面レンズLと自由曲面ミラーMの曲面形状データを示す図である。自由曲面形状ZはXYの多項式である数式1で定義され、多項式の各係数Cには図5の数値を用いる。
【0025】
【数1】
【0026】
ここにレンズLとミラーMの形状は、それぞれの光軸(Z軸)に関して回転非対称な自由曲面形状であり、円錐項の成分とXYの多項式の項の成分で定義される。例えば、Xが2次(m=2)でYが3次(n=3)の場合は、j={(2+3)+2+3×3}/2+1=19でありC19の係数が対応する。また、自由曲面のそれぞれの光軸の位置は、図4のレンズデータにおける偏心・倒れの量によって定まる。
【0027】
図6は、非球面レンズLと非球面レンズLの曲面形状データを示す図であり、(a)はレンズL、(b)はレンズLのデータである。非球面形状Zは光軸からの高さhの多項式である数式2で定義され、多項式の各係数には図6の数値を用いる。
【0028】
【数2】
【0029】
ここにレンズLとLの形状は、それぞれの光軸(Z軸)に関して回転対称な非球面形状であり、(a)に示す円錐項の成分と光軸からの高さhの4次から20次の偶数次の成分を用いて定義される。
【0030】
さらに非球面レンズLは奇数次多項式で表され、(a)の非球面形状に(b)の奇数次の成分を加えた形状である。その場合でも高さhは正の値なので、回転対称な形状となる。
【0031】
以下、本実施例による投写像の光学性能として、歪曲性能と、光量分布と、スポットサイズを説明する。
図7は、投写像の歪曲収差を示す図である。ヘッドライト装置から見た投写像は、X軸方向が横方向、Y軸方向が縦方向となる。映像表示素子4の映像表示範囲を破線で示し、像面8での映像表示範囲を実線で示す。また、映像の歪を示すため、映像表示素子4の映像表示範囲を横方向(X軸)に9分割、縦方向(Y軸)に16分割し、分割線の各交点から出射した光線が像面に投写される位置を表示している。ここで、映像表示素子4の映像表示範囲の中心位置から出射した光線が像面8に投写される位置は、同じ位置(○印)となるように表示している。
【0032】
標準的な映像表示素子4として、映像表示範囲のXサイズが6.1mm、Yサイズが9.8mmの長方形の場合を想定すると、アスペクト比は1.6である。
【0033】
これに対する投写像は奥行方向に広がった台形状となる。ヘッドライト装置に近い側(図面の底辺)のXサイズが1502mm、ヘッドライト装置から遠い側(図面の上辺)のXサイズが5317mmであり、5317/1502=3.5倍の違いがある。また、奥行方向のYサイズ(Y)は、図2で示したように9519mmである。この時のアスペクト比は、Xサイズの平均値(X)である3410mmから求めれば、Y/X=9519/3410=2.8である。
【0034】
次に、このような投写像の形状を、運転者の眼からの距離で計算した視野角で説明する。図2で示したヘッドライト装置からの投写像までのY軸方向の距離542〜10061mmに、運転者の眼からヘッドライト装置までの距離を2mと仮定し加算すると、運転者の眼から投写像までの距離は、2542〜12061mmになる。従って、運転者の眼の位置から見た視野角は、投写像の底辺でtan−1(1502/2542)=31度、投写像の上辺でtan−1(5317/12061)=24度となる。すなわち、投写像のXサイズは底辺と上辺とで3.5倍の違いがあるが、運転者の眼からの視野角では31/24=1.3倍の違いに縮小し、映像の歪が少なく見やすい映像と言える。
【0035】
また、アスペクト比に関し、十字状映像パターン(○印位置が中心)の縦横比で表現すると、Xサイズとして○印位置を通るX’=2557mmを用いて、Y/X’=9519/2557=3.7となり大幅に縦長である。これより、アスペクト比1.6の映像表示素子4を用いて、アスペクト比を3.7に大幅に拡大させた映像を投写することができる。このようにアスペクト比を拡大させて投写することで、運転者から視認しやすい映像を表示することができる。
【0036】
図8は、投写像の光量分布を示す図である。光量分布は、ヘッドライト装置に近い側(底辺)での光量が大きく、ヘッドライト装置から遠い側(上辺)での光量が小さくなる。これは、図7で述べた投写像の台形化(Xサイズの変化)に対応している。これについても、図7で説明したような運転者の視野角の補正を行えば、光量の差は縮小する。
【0037】
図9は、投写像のスポットサイズを示す図である。映像表示素子4の右側半面に25点の物点を配置し、これに対応する像面でのスポットサイズを表す。なお、この光学系は左右対称(Y軸に対して対称)なので、映像表示素子4全体では、45点の物点を配置したことに相当する。物点の座標は、映像表示素子4の映像表示範囲のサイズを最大値±1で規格化している。像面でのスポットサイズは各位置とも30mm以下となっているが、これを投写像全体のサイズと比較してみる。投写像サイズを、図7に示した台形領域のY方向のサイズY=9519mmと、X方向の平均サイズX=3410mmで定義すると、398インチサイズに相当する。スポットサイズが30mm以下とは、398インチサイズに対しては0.3%以下に相当することから、良好なスポットサイズであることが分かる。
【0038】
このようにして、実施例1のヘッドライト装置の投写性能では、投写距離(Z軸方向)700mmに対して投写像のサイズ(Y軸方向の長さ)が9519mmとなり、投写比が0.07というかつてない大幅な広角化を実現できる。また、運転者から見た映像のアスペクト比も3.7という大幅に拡大させた映像を投写でき、運転者にとって見やすい映像を表示できる。
【実施例2】
【0039】
実施例2では、実施例1で述べたヘッドライト装置を搭載した車両装置について説明する。その際、投写像のアスペクト比を切り替える動作を行うが、投写像を道路に表示する場合、誰がどの方向からみるかで投写像の縦横比が変わる。そこで実施例2では、[運転者から見たアスペクト比]を、[運転者から見た投写像の縦方向サイズ]/[運転者から見た投写像の横方向サイズ]と定義する。
【0040】
図10は、実施例2にかかる車両装置を示す図である。車両装置(車両)10にはヘッドライト装置1が搭載され、道路9を像面8として映像を投写している。車両10には、図示しない走行速度検出部を有し、ヘッドライト装置1の映像信号制御部6は、車両の走行速度に応じて投写する映像を制御する。以下、具体的な映像制御の例を説明する。
【0041】
運転者が例えば右折指示の操作を行ったとき、ヘッドライト装置1から道路9に右折することを示す右曲がりの矢印の映像81を表示する。この表示映像81は運転者から見やすいように、走行方向(Y軸方向)に長い縦長のアスペクト比の矢印とする(例えばアスペクト比>2)。これは、道路に描画されている速度制限の例えば「60」の表示を縦長にしているのと同様の理由による。
【0042】
この状態で、車両10が右折する交差点などに近づくと運転者は車両の速度を落とす。映像信号制御部6は車両の速度の変化に対応して、表示映像82のようにアスペクト比の小さい矢印に切り替える(例えばアスペクト比=1)。この理由は、交差点で右折する場合、その右折先にいる相手の車両や横断歩道を渡る歩行者に対し、表示映像を視認しやすくするためである。その結果、右折車の存在を周囲に知らせることで、交通事故を防止する効果がある。
【0043】
ここでは、車両が右折する場合を述べたが、左折する場合にも有効であることは言うまでもない。また、表示映像のアスペクト比の変更と同時に、表示映像の色を赤色のような認識性の高い色に変更することや、表示映像を点滅させることも有効である。
【0044】
図11は、ヘッドライト装置1の映像信号制御部6の動作を説明する図である。映像信号制御部6は、映像信号生成部61と表示アスペクト比変更部62を有する。映像信号生成部61は、運転者の操作情報を受け、所定の映像信号を生成して映像表示素子4に供給する。例えば、右折する運転操作情報を受けると、右曲りの矢印の映像信号を映像表示素子4に供給し、投写光学系5から道路に右曲がりの矢印の映像81を表示する。
【0045】
一方表示アスペクト比変更部62は、車両装置10の走行速度検出部から走行速度の情報を取得する。表示アスペクト比変更部62は、現在走行速度を予め定めた閾値と比較し、閾値より大きいか否かで表示するアスペクト比を決定し、映像表示素子4に供給する信号を切り替える。映像のアスペクト比を切り替えるには、映像パターンの縦方向サイズを拡大/縮小させる映像処理を行う方法、映像パターンの縦横比が異なるものを用意してパターンを選択する方法、などがある。あるいは映像の種類によっては、映像パターンはそのままで、表示範囲(照射範囲)を一部のみとする(例えば、上端部と下端部を暗くする)方法でもよく、いずれも見かけ上の表示映像の縦横比を変更することができる。
【0046】
このように本実施例では、車両の走行状態に応じて道路上の映像の表示範囲を切り替えることができ、交通事故の防止に寄与する効果がある。
【符号の説明】
【0047】
1…ヘッドライト装置、
2…光源装置、
3…照明光学系、
4…映像表示素子、
5…投写光学系、
6…映像信号制御部、
8…像面、
9…道路、
10…車両装置、
11…同軸レンズ系、
12…自由曲面レンズ、
13…自由曲面ミラー、
61…映像信号生成部、
62…表示アスペクト比変更部、
81,82…投写映像。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11