(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の電極保持部は、前記トーチボディの下端部に固定して設けられ、前記コレットの下端側のすり割り部の下端部に押圧接触可能なテーパ部を有する、請求項8に記載のTIG溶接装置。
前記第2の電極保持部は、前記コレットを介して前記トーチ電極と一体に前記トーチボディの中に装入され、前記コレットの上端側のすり割り部の上端部に押圧接触可能なテーパ部を有する、請求項8に記載のTIG溶接装置。
前記第2の電極保持部は、前記トーチボディの内壁に円周方向の複数個所で接触し、前記トーチボディの中でその軸方向に摺動可能である、請求項10記載のTIG溶接装置。
前記直進可動部に対して前記トーチボディを任意の高さ位置で電磁力により固定するために前記直進可動部に設けられる電磁ソレノイドを有する、請求項1に記載のTIG溶接装置。
前記駆動部は、サーボモータを含むサーボ機構を有し、タッチスタート方式において前記トーチ電極を前記被溶接材との接触状態から上方に引き上げるときは、前記電磁ソレノイドにより前記直進可動部に固定保持されている前記トーチボディを前記サーボ機構により所望の距離だけ上昇移動させる、請求項12に記載のTIG溶接装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【0017】
[装置全体の構成]
図1および
図2に、本発明の一実施形態におけるTIG溶接装置の溶接ヘッドおよび本体ユニットの構成をそれぞれ示す。
【0018】
図1において、溶接ヘッド10は、主要な構成要素として、たとえば樹脂または金属からなる剛性の直進可動部12と、この直進可動部12を鉛直方向で直進移動させる昇降駆動タワー14と、直進可動部12上に鉛直方向で移動可能に搭載されるトーチ16とを有する。
【0019】
直進可動部12は、L形の板体を有し、その垂直平板部12aの背後で昇降駆動タワー14内の駆動部(図示せず)に連結部材18を介して結合されている。垂直平板部12aないし連結部材18は、昇降駆動タワー14に取り付けられているリニアガイド(図示せず)により鉛直方向で案内される。昇降駆動タワー14内の駆動部は、駆動源にサーボモータを用いるサーボ機構と、サーボモータの回転駆動力を鉛直方向の直進駆動力に変換するボールネジ機構とを有している。
【0020】
溶接ヘッド10上またはその付近に制御箱20が配置される。この制御箱20の中には、溶接ヘッド10に備わっている各種電気部品の一部または全部を本体ユニット50(
図2)内の主制御部にインタフェースするローカルの制御回路が収容されている。垂直平板部12aの前面には、たとえば樹脂等の絶縁体からなる略直方体形状の多用途支持部22が固着されている。この多用途支持部22も、直進可動部12の一部を構成する。
【0021】
多用途支持部22の上面には、たとえば銅等の導体からなる中空ブロック構造の用力中継部24が取り付けられている。多用途支持部22の両側面には、支点の軸26を介して左右一対のバランスアーム28が鉛直面内で回転可能に取り付けられている。用力中継部24およびバランスアーム28回りの構成については、後に詳細に説明する。
【0022】
直進可動部12は、その水平平板部12bの先端部にトーチ16を搭載している。トーチ16は、たとえば銅または真鍮等の導体からなる円筒状のトーチボディ30と、このトーチボディ30の下端部に着脱自在に取り付けられる円筒状または円錐状のトーチノズル32とを有し、トーチボディ30およびトーチノズル32の中に棒状のトーチ電極(タングステン電極棒)34を着脱自在に装着し、トーチノズル32の下端よりトーチ電極34の下端部を突出させている。トーチ電極34は、トーチボディ30の頂部に螺合して装着されるネジ付きのキャップ35に後述する電極ホルダ124(
図4)を介して結合または連結されている。トーチ16回りの構成については、後に詳細に説明する。
【0023】
溶接ヘッド10の直下には、被溶接材Wを載置する可動のステージ40が配置される。ステージ40は、被溶接材Wを水平面内のXY方向で移動させるためのXYステージ42と、被溶接材Wを水平面内の方位角方向(θ方向)で移動させるためのθステージ44とを有している。
【0024】
図2において、本体ユニット50は、ユニット筐体の正面にタッチパネル表示器52、電源スイッチ54、操作ボタン56等を配置し、ユニット側面または背面に外部接続端子またはコネクタ類60を配置している。ガスボンベ62より送出されるシールドガスは、ホース64および本体ユニット50内の制御弁または開閉弁を経由してトーチ16に供給されるようになっている。
【0025】
図1および
図2において、本体ユニット50と溶接ヘッド10およびステージ40との間には、複数のケーブル66〜72が引かれている。図示の例では、本体ユニット50内の主制御回路(図示せず)が、制御箱20内の制御回路を中継点とし、ケーブル66A〜72A、制御箱20、ケーブル66B〜72Bを介して溶接ヘッド10の昇降駆動タワー14内駆動部およびタワー14外の各種駆動部ならびにステージ40内の駆動部に接続されている。溶接ヘッド10の用力中継部24は、溶接電流供給ラインおよびシールドガス供給ラインを一緒に収容する用力供給ケーブル70を介して本体ユニット50内の制御弁またはスイッチ類(図示せず)に接続されている。本体ユニット50内の主制御部の機能の一部を制御箱20内に設けることも可能である。
【0026】
図3に、被溶接材Wの一例を示す。この被溶接材Wは、小型精密電子部品36のパッケージから突出する短冊状の端子部材37に細い導線38を巻き付けて、この巻き付け部を被溶接部とする。寸法的には、たとえば、端子部材37の幅sが約1mm、厚さtが約0.2mmであり、導線38の太さは約0.05mmである。このような小型軽薄の被溶接材Wは、その被溶接部に上方から強め(たとえば100g重以上)の荷重を受けると、端子部材37の根元付近で簡単に折曲または破損しやすく、あるいは大きく撓みやすい。
【0027】
なお、TIG溶接を行うために、端子部材37の根元付近に接触子75が着脱可能に装着される。この接触子75は、アースケーブル77を介して本体ユニット50内の溶接電源140(
図6A)に接続されている。
【0028】
[装置の主な特徴部分の構成]
次に、
図1および
図6Aを参照して、このTIG溶接装置の主な特徴部分である溶接ヘッド10の用力中継部24、トーチ16およびバランスアーム28回りの構成を詳細に説明する。
【0029】
溶接ヘッド10において、直進可動部12の水平平板部12bには、トーチボディ30を鉛直方向で案内するための円筒状のトーチガイド74が設けられている。このトーチガイド74の内側には、上下方向に一定のスペースまたは中間部を挟んで2つのリニアブッシュ76H,76Lが設けられている(
図6A)。トーチボディ30は、両リニアブッシュ76H,76Lの案内により正確に鉛直方向で直進移動することができる。
【0030】
トーチガイド74の中間部には、多用途支持部22と対向する位置に開口部78が形成されている。そして、トーチボディ30の中間部の側面には、開口部78を介して外に露出するように、たとえば銅等の導体からなる中空ブロック構造の用力導入部80が取り付けられている。この用力導入部80は、トーチボディ30内の導電路を介してトーチ電極34に電気的に接続されている。
【0031】
用力導入部80の上面には一対の上流側ガス導入ポート82が設けられている。さらに、用力導入部80の背面(トーチボディ30と向き合う面)には、トーチボディ30内のガス流路に接続する下流側ガス導入ポート(図示せず)が設けられている。用力導入部80の内部は中空のガス室またはガス通路になっており、上流側ガス導入ポート82と下流側ガス導入ポートとは連通している。
【0032】
一方、直進可動部12上の用力中継部24には、その両側面に一対の下流側ガス中継ポート84が設けられている。この下流側ガス中継ポート84と用力導入部80のガス導入ポート82との間には、空中でアーチ形に延びる変位または変形可能な樹脂製の架橋型チューブ86が架けられている。さらに、用力中継部24および用力導入部80の互いに向き合う面(正面)の間に、空中でアーチ形に延びる変位または変形可能な帯状シートの架橋型導体88が架けられている。この帯状シートの架橋型導体88は、たとえば厚さ0.05mmの極薄の銅シートを複数枚(たとえば9枚)重ねて構成されている。
【0033】
用力中継部24の上面には、導電性の上流側ガス中継ポート90が設けられている。このポート90に本体ユニット50からの用力供給ケーブル70の終端が着脱可能に接続される。この場合、用力供給ケーブル70内のガス供給ラインが上流側ガス中継ポート90のガス通路に接続されるだけでなく、用力供給ケーブル70内の溶接電流供給ラインが用力中継部24の本体に電気的に接続される。用力中継部24の内部は中空のガス室またはガス通路になっており、上流側ガス中継ポート90と下流側ガス中継ポート84とは連通している。
【0034】
用力供給ケーブル70は比較的重いケーブルであるが、上記のように用力中継部24で終端するので、その重量は直進可動部12にかかり、トーチ16には全くかからない。トーチ16には架橋型チューブ86および架橋型導体88の重量がかかる。これら架橋型チューブ86および架橋型導体88は、用力供給ケーブル70に比して格段に軽量であり、しかもそれぞれの空中姿勢がアーチ形で一定なので、トーチ荷重に変動を来たすことは殆どない。
【0035】
上記のような直進可動部12上の用力中継部24およびトーチ16の用力導入部80回りの用力供給系統において、本体ユニット50(
図2)より送出されるシールドガスは、用力供給ケーブル70(ガス供給ライン)→用力中継部24(上流側ガス中継ポート90→下流側ガス中継ポート84)→架橋型チューブ86→用力導入部80(上流側ガス導入ポート82→下流側ガス導入ポート)→トーチボディ30→トーチノズル32と繋がるガス流路を上記の順に流れるようになっている。また、本体ユニット50より送出される溶接電流は、用力供給ケーブル70(溶接電流供給ライン)→用力中継部24(導電性ブロック)→架橋型導体88→用力導入部80(導電性ブロック)→トーチボディ30→トーチ電極34と繋がる電流経路を上記の順または逆の順(逆方向)に流れるようになっている。
【0036】
バランスアーム28は、剛体たとえばステンレス鋼からなり、屈曲部28a、第1アーム部28bおよび第2アーム部28cを有し、全体が”ヘ”字状に形成されている。屈曲部28aは、支点の軸26により多用途支持部22の両側面の前部に回転可能に取り付けられる。第1アーム部28bの先端部には、トーチボディ30の側面に固着されているピン92と嵌合する横長の軸受94が設けられている。トーチガイド74の側面には、上下方向に移動可能なピン92を通すための縦長の開口部96が形成されている(
図1)。
【0037】
一方、第2アーム部28cの先端部には、たとえばステンレス鋼からなる直方体形状のバランスウエイト98がボルト100によって取り付けられている。このバランスウエイト98の重量を調整するために、たとえば板片状の重量加算用ウエイト102をボルト104によってバランスウエイト98に着脱可能に取り付けてもよい。直進可動部12の水平平板部12bには、バランスウエイト98が通れる大きさの開口部106が形成されている。
【0038】
バランスアーム28においては、第1アーム部28bの先端部に取り付けられているトーチ16回りの総重量つまりトーチ荷重により
図6Aにおいて反時計回りの重量モーメントが作用する一方で、第2アーム部28cの先端部に取り付けられているバランスウエイト98の重量により
図6Aにおいて時計回りの重量モーメントが作用する。
【0039】
ここで、トーチ16側の重量モーメントがバランスウエイト98側の重量モーメントを少し(たとえばトーチ荷重に換算して10〜30g重)だけ上回るように、バランスウエイト98の重量が設定ないし調整される。このようにトーチ16側の重量モーメントをバランスウエイト98側の重量モーメントより大きく設定することで、トーチ16に外力が加わらないときは、
図6Aに示すようにバランスウエイト98の上面が多用途支持部22の下面(ストッパ)に当接する。この状態で、バランスアーム28は静止し、溶接ヘッド10上でトーチ16が一定(基準)の高さ位置に保持される。
【0040】
なお、トーチ16のピン92とこれに嵌合している第1アーム部28bの軸受94は、トーチ16の鉛直方向の直進移動とバランスアーム28の回転移動とを相互に変換するためのクランク機構を構成している。
【0041】
多用途支持部22は、中空の筐体またはブロックとして構成され、その中に開口(図示せず)を介してトーチ16の用力導入部80と対向する電磁ソレノイドたとえばプランジャソレノイド110が固定して取り付けられている。このプランジャソレノイド110のプランジャ112が前進移動すると、その先端が用力導入部80の側面(対向面)に大きな押圧力で当接して、プランジャソレノイド110と用力導入部80が物理的に一体化(結合)し、ひいてはトーチ16と直進可動部12とが物理的に一体化(結合)するようになっている。プランジャソレノイド110の駆動回路は制御箱20に収容されている。
【0042】
この溶接ヘッド10においては、直進可動部12上で昇降移動するトーチ16の高さ位置を検出するために、
図1に示すように、トーチ16のピン92に上端が結合されているたとえば金属または樹脂からなる剛性の棒体114の下端の高さ位置が、直進可動部12の水平平板部12bに取り付けられているセンサユニット116の光学センサまたは近接センサ(図示せず)によって検出されるようになっている。センサユニット116の出力信号線118は制御箱20内の制御回路に接続されている。
【0043】
上記のように、この実施形態においては、溶接ヘッド10の直進可動部12に支点26を介してバランスアーム28を鉛直な面内で回転可能に取り付け、バランスアーム28の第1アーム部28bの先端部にトーチボディ30を結合し、第2アーム部28cの先端部にバランスウェイト98を取り付ける構成により、トーチ16側の重量モーメントとバランスウエイト98側の重量モーメントとのバランスを調整するだけで、トーチ荷重を非常に小さい荷重(たとえば30g重以下)に軽減することができる。
【0044】
さらに、この実施形態の溶接ヘッド10においては、本体ユニット50から引かれてくる重い用力供給ケーブル70を直進可動部12上の用力中継部24で終端させ、用力中継部24の後段(下流側)では空中でアーチ形の安定な姿勢をとる変位または変形可能な架橋型チューブ86および架橋型導体88をトーチボディ30に接続する構成により、トーチ荷重自体の大幅な低減とトーチ荷重の変動防止を効果的に実現することができる。
【0045】
[トーチの構成]
図4および
図5に、トーチ16の要部の構成を示す。トーチボディ30の内側には、タングステンまたはタングステン合金からなる棒状のトーチ電極34をトーチボディ30の軸心で保持するための円筒状のコレット120がトーチ電極34と一体に収容される。このコレット120は、その下端部にすり割り部120aを有するだけでなく、その上端部にもすり割り部120bを有しており、一回り大きな口径を有する円筒状のコレットボディ122に内挿されている。
【0046】
コレットボディ122の下端にはトーチ電極34を通すための孔122aが形成され、この孔122aの内側の周囲には下向きのテーパ部122bが形成されている。トーチ16の頂部でキャップ35(
図1)をコレットボディ122に螺合すると、その螺合の締め付けでコレット120が下方に押圧され、コレット120の下部すり割り部120aがコレットボディ122下端のテーパ部122bに押し付けられる。これにより、コレット120の下部すり割り部120aがその口径を狭める方向に変形してトーチ電極34を狭着(保持)するようになっている。
【0047】
コレット120の上端部は、キャップ35まで延びている筒状の電極ホルダ124に保持されている。電極ホルダ124の下端部124aは太径に形成され、この太径下端部124aの内側面には上向きのテーパ部124bが形成されている。上記のようにトーチ16の頂部でキャップ35(
図1)をコレットボディ122に螺合すると、その螺合の締め付けで電極ホルダ124が下方に押圧され、コレット120の上部すり割り部120bが電極ホルダ124のテーパ部124bに押し付けられる。これにより、コレット120の上部すり割り部120bが口径を狭める方向に変形してトーチ電極34を狭着(保持)するようになっている。
【0048】
電極ホルダ124の太径下端部124aは、
図5に示すように、各々の角部CがR形状に加工された略直方体の形体を有しており、各々の角部Cがコレットボディ122の内側面に軽く接触しながらコレットボディ122内で軸方向に摺動できるようになっている。この太径下端部124aの角部C以外の平坦な外周面とコレットボディ122の内側面との間の隙間Sは、シールドガスを通すための通孔を形成する。
【0049】
トーチ16の下端部において、コレット120とコレットボディ122との間には、用力導入部80(
図6A)よりトーチボディ30の中間部に導入されたシールドガスSGを下方に導く円筒状のガス通路126が形成されている。そして、コレットボディ122の下端部には周回方向に所定の間隔を置いて複数の通孔122cが形成されている。ガス通路126を下ってきたシールドガスSGは、通孔122cを通ってトーチ電極34とトーチノズル32との間の空間またはノズル室128に出て、このノズル室28の下端の出口つまり噴出口130から外に噴出するようになっている。トーチノズル32は、好ましくはセラミック(たとえばアルミナ)からなっている。
【0050】
上記のように、この実施形態におけるトーチ16は、トーチ電極34を貫通させた状態でトーチボディ30の中に着脱可能に収容される筒状コレット120の両端部にすり割り部120a,120bを設け、コレットボディ122の下端部にコレット120の下部すり割り部120aと押圧接触するテーパ部122bを設けるとともに、電極ホルダ124の下端部124aにコレット120の上部すり割り部120bと押圧接触するテーパ部124bを設ける。このようなコレット120回りの構成によれば、トーチ電極34をトーチボディ30内の鉛直方向に離間した2箇所で軸心上に保持するので、トーチ電極34の位置ずれや傾きを絶対的に防止することができる。このことは、タッチスタート方式のTIG溶接において、特に被溶接部が小サイズのものである場合は、タッチ(接触)位置の精度が高いだけでなく、アーク放電時にトーチ電極34の先端部が被溶接部と向き合うときの垂直姿勢を保つうえでも、非常に大きな利点となる。
【0051】
[装置の動作(作用)]
次に、
図6A〜
図6Eを参照して、この実施形態におけるTIG溶接装置の動作を説明する。
【0052】
先ず、本体ユニット50内の主制御部の制御の下で、溶接対象の被溶接材Wを載置しているステージ40(XYステージ42およびθステージ44)が水平面内の位置合わせの動作を行う。この位置合わせ動作により、被溶接材Wの被溶接部がトーチ電極34の真下に位置するようになる。
【0053】
一方、高さ方向においては、本体ユニット50内の主制御部の制御の下で、昇降駆動タワー14の昇降駆動によりトーチ16のスタート位置が調整される。
【0054】
上記のような位置合わせないし初期高さ位置調整が済むと、本体ユニット50内の主制御部の制御の下で、昇降駆動タワー14が作動して、直進可動部材12を下降移動させる。そして、
図6Bに示すようにトーチ電極34の先端が被溶接材Wに当接し、さらに直進可動部材12が下降移動すると、
図6Cに示すようにバランスアーム28が作動して時計回りに回転する。この時、被溶接材Wにはトーチ16が載っているが、バランスアーム28の働きにより、非常に小さな荷重(たとえば30g重以下)に軽減されたトーチ荷重が被溶接材Wに加わる。このため、被溶接材Wは、トーチ荷重によって折曲または折損することはなく、可撓性のものにあってもその撓み量が非常に小さい。そして、バランスアーム28の回転移動が一定値に達すると、あるいはそれを超えると、センサユニット116が所定の検出信号を出力し、それに応答して主制御部が直進可動部材12の下降移動を停止する。さらに、プランジャソレノイド110を作動させて、直進可動部材12上でトーチ16を固定(ロック)する。
【0055】
こうしてトーチ電極34の先端が被溶接材Wに加圧接触している状態の下で、本体ユニット50内で溶接電源140のスイッチSWがそれまでのオフ状態からオン状態に切り換えられる(
図6C)。そうすると、溶接電源140より直流電圧がトーチ電極34と被溶接材Wとの間に印加される。これにより、溶接電源140の直流電圧源Eの正極端子→アースケーブル77→被溶接材W→トーチ電極34→トーチボディ30→用力導入部80→架橋型導体88→用力中継部24→用力ケーブル70(溶接電流供給ライン)→直流電圧源Eの負極端子の電流経路(閉回路)で、通電開始の直流電流つまりスタート電流i
Sが流れる。
【0056】
この時、トーチ電極34の先端が被溶接材Wに接触しているので、電流i
Sの大きさに関係なくアークはまだ発生しない。もっとも、溶接電源回路140の出力を制御することにより、スタート電流i
Sの電流値を一定範囲に制御してもよい。
【0057】
なお、トーチ16を下ろす途中で、あるいはトーチ電極34の先端が被溶接材Wに当接した後に、シールドガスSGの供給が開始される。上記のように、本体ユニット50(
図2)より用力供給ケーブル70(ガス供給ライン)を介して溶接ヘッド10に送られてきたシールドガスは、用力中継部24→架橋型チューブ86→用力導入部80→トーチボディ30→トーチノズル32の各ガス流路を通ってトーチノズル32の噴射口130より被溶接材Wに向けて噴射される。
【0058】
こうして、スタート電流i
Sを流したまま、かつトーチ16を直進可動部材12に固定(ロック)したまま、主制御部の制御の下で昇降駆動タワー14が上昇駆動を開始し、直進可動部材12をアーク放電に最適な設定離間距離H
S(たとえば+2mm)に等しいストローク量だけ上方に移動させる。これにより、トーチボディ30も直進可動部材12と一体に同じストローク量だけ上方に移動し、トーチ電極34の先端が被溶接材Wとの接触位置から設定離間距離H
Sだけ高く引き上げられ、その高さ位置で静止する(
図6D)。一方、被溶接材Wは、トーチ荷重を受けた時に殆ど撓んでいなかったので、トーチ電極34の先端が上方へ離れた後もそれまでと略同じ位置で同じ姿勢を保っている。この結果、トーチ電極34の先端と被溶接材Wの被溶接部とは正しく向き合い、両者の間に設定離間距離H
Kのスペースが確保される。
【0059】
この場合、昇降駆動タワー14内の駆動部においては、プランジャソレノイド110を介してトーチ16を固定保持している直進可動部材12を正確に設定離間距離H
Kのストローク量(引き上げ量)だけ上昇移動させるようにサーボ機構が動作する。このサーボ機構の位置決め制御では、センサユニット116の出力信号あるいはロータリエンコーダ(図示せず)の出力信号がフィードバック信号に用いられる。
【0060】
そして、このトーチ電極34の引き上げと同時に、または引き上げが完了した後に、溶接電源140を制御して、溶接電流をそれまでのスタート電流i
Sよりも一段と大きいアーク放電用の正規の直流電流または主電流i
Mに切り換える。この主電流i
Mの電流値は、被溶接部を溶かすのに十分な高熱のアークを発生させる値(通常10〜30A)に選ばれる。
【0061】
こうして、主電流i
Mが流れている間は、
図6Dに示すように、トーチ電極34(特に先端付近)と被溶接材Wの被溶接部との間でアークACが持続し、被溶接部はアークACの熱によって溶融する。このTIG溶接装置においては、アークACのアーク長が適正(設定通り)に制御されるため、アークの集中性ないし入熱が安定し、アーク溶接が良好に行われる。なお、主電流i
Mの電流値を始終一定値に保ってもよいが、被溶接部の溶融を促進するために、途中で主電流i
Mの電流値をさらにステップ的または漸次的に増大させるような電流波形制御(あるいは逆にダウンスロープの電流波形制御)を用いることも可能である。
【0062】
そして、通電開始から所定の時間(通常10〜1000msec)が経過すると、溶接電源140のスイッチSWがオフ状態に切り換えられる。スイッチSWがオフして主電流i
Mが切られると、その瞬間にアークは消滅する。直後にシールドガスSGの供給も止められる。アークが消滅すると、被溶接部の溶融部分が大気中の自然冷却によって直ぐに凝固する。こうして、被溶接材Wの被溶接部は一体またはひと固まりに溶接接合される(
図6E)。
【0063】
溶接ヘッド10においては、アークが消滅した直後、昇降駆動部の上昇駆動により、直進可動部材12がスタンバイ用の高さ位置または次回のスタート位置まで上昇し、この直後にプランジャソレノイド110の励磁電流が切られる。すると、バランスアーム28が復動して、
図6Aの原位置に戻る。
【0064】
上述したように、この実施形態におけるTIG溶接装置は、溶接ヘッド10の直進可動部12にバランスアーム28を鉛直な面内で回転可能に取り付け、バランスアーム28の第1アーム部28bの先端部にトーチボディ30を結合し、第2アーム部28cの先端部にバランスウェイト98を取り付ける構成により、トーチ16側の重量モーメントとバランスウエイト98側の重量モーメントとのバランスを調整するだけで、タッチスタート方式において被溶接材Wに加わるトーチ荷重を非常に小さな荷重に軽減することが可能であり、これによって被溶接材Wの折曲または破損を確実に防止することができるとともに、被溶接材Wが可撓性のものであってもトーチ荷重を受けたときの撓み量を可及的に小さくすることができる。
【0065】
また、この実施形態のTIG溶接装置は、本体ユニット50からの重い用力供給ケーブル70を溶接ヘッド10の直進可動部12上の用力中継部24で終端させ、用力中継部24の後段(下流側)では空中でアーチ形の安定な姿勢をとる変位または変形可能な架橋型チューブ86および架橋型導体88をトーチボディ30に接続する構成により、トーチ荷重自体の大幅な低減と安定性を効果的に実現することができる。
【0066】
このように、タッチスタート方式において被溶接材Wに加わるトーチ荷重が非常に小さく、しかもトーチ荷重のばらつきも小さいので、アーク溶接の品質が向上する。さらに、この実施形態のTIG溶接装置においては、トーチ電極34をトーチボディ30内の鉛直方向に離間した2箇所で軸心上に保持する電極保持部(120,122,124)によりトーチ電極34の水平方向の位置ずれを確実に防止できるとともに、直進可動部12に設けられる電磁ソレノイド110と昇降駆動タワー14に設けられるサーボ機構との協働動作によりトーチ電極34の引き上げ量ないしアーク放電高さ位置を高い精度で一定値に制御できるようにしている。これにより、アーク長を適正(設定通り)に制御して、アークの集中性ないし入熱の安定化を図り、アーク溶接の品質および信頼性を一層向上させることができる。
【0067】
[他の実施形態又は変形例]
上述した実施形態では、バランスウエイト98の重量を調整するために、板片状の重量加算用ウエイト102をボルト104によってバランスウエイト98に着脱可能に取り付けるようにした。別の手法として、図示省略するが、バランスアーム28の第1アーム部28bおよび/または第2アーム部28cの長さを可変に調整する機構を設けてもよい。かかる調整機構によれば、バランスウエイト98の重量を連続的に調整するのと同じ効果が得られる。
【0068】
上述した実施形態では、1本の用力供給ケーブル70を用いて、本体ユニット50側から溶接ヘッド10への溶接電流の供給とシールドガスの供給を行うようにしている。しかし、独立の電流供給ラインと独立のガス供給ラインを用いることも可能である。また、用力中継部24および/または用力導入部80を溶接電流供給系の中継部とガス供給系の中継部とに分割する構成も可能である。
【0069】
上述した実施形態においてトーチ電極34をトーチボディ30内の鉛直方向に離間した2箇所で軸心上に保持する電極保持部(120,122,124)の構成は、汎用性が高く、これ単独でも任意のTIG溶接ヘッドまたはトーチに適用可能である。したがって、たとえば、バランスアーム28、用力中継部24、架橋型チューブ86、架橋型導体88等を備えないTIG溶接ヘッドないしトーチにも適用可能である。