【実施例】
【0034】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0035】
試験区分1(有機リン酸エステル及び有機リン酸エステル塩の調製)
・有機リン酸エステル塩(P−1)の調製(実施例1)
2Lフラスコに、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール(平均炭素数9、炭素数7〜10で炭素数9が主成分)433gを加え、撹拌しながら70℃で減圧脱水後、50〜70℃で五酸化二リン284gを徐々に添加した後、70〜80℃で4時間熟成反応させた。室温に冷却後、水酸化マグネシウムを87g加えて中和し、有機リン酸エステル塩(P−1)を得た。
【0036】
・有機リン酸エステル塩(P−2)の調製(実施例2)
2Lフラスコに、ポリオキシエチレン2モル付加2−エチル−1−ヘキシルエーテル546gを加え、撹拌しながら70℃で減圧脱水後、50〜70℃で五酸化二リン284gを徐々に添加した後、70〜80℃で4時間熟成反応させた。室温に冷却後、ステアリン酸マグネシウムを739g加えて中和し、有機リン酸エステル塩(P−2)を得た。
【0037】
・有機リン酸エステル塩(P−3)の調製(実施例3)
2Lフラスコに、2−(1,3,3−トリメチルブチル)−5,7,7−トリメチル−1−オクタノール811gを加え、撹拌しながら70℃で減圧脱水後、50〜70℃で五酸化二リン284gを徐々に添加した後、70〜80℃で4時間熟成反応させた。室温に冷却後、ジブチルエタノールアミンを520g加えて中和し、有機リン酸エステル塩(P−3)を得た。
【0038】
・有機リン酸エステル塩(P−4)の調製(実施例4)
2Lフラスコに、11−メチル−1−ドデカノール(平均炭素数13、炭素数10〜15で炭素数13が主成分)601gを加え、撹拌しながら70℃で減圧脱水後、50〜70℃で五酸化二リン284gを徐々に添加した後、70〜80℃で4時間熟成反応させた。室温に冷却後、水酸化カルシウムを111g加えて中和し、有機リン酸エステル塩(P−4)を得た。
【0039】
・有機リン酸エステル塩(P−5)の調製(実施例5)
2Lフラスコに、2−オクチル−1−ドデカノール746gを加え、撹拌しながら70℃で減圧脱水後、50〜70℃で五酸化二リン284gを徐々に添加した後、70〜80℃で4時間熟成反応させた。室温に冷却後、水酸化マグネシウムを73g加えて中和し、有機リン酸エステル塩(P−5)を得た。
【0040】
・有機リン酸エステル塩(P−6)の調製(実施例6)
2Lフラスコに、2−ヘキシル−1−デカノール727gを加え、撹拌しながら70℃で減圧脱水後、50〜70℃で五酸化二リン284gを徐々に添加した後、70〜80℃で4時間熟成反応させた。室温に冷却後、ジメチルドデシルアミンを640g加えて中和し、有機リン酸エステル塩(P−6)を得た。
【0041】
・有機リン酸エステル塩(P−7)の調製(実施例7)
2Lフラスコに、2−ヘキシル−1−デカノール/2−オクチル−1−デカノール/2−ヘキシル−1−ドデカノール/2−オクチル−1−ドデカノール=5/45/45/5(質量比)のアルコール混合物676gを加え、撹拌しながら70℃で減圧脱水後、50〜70℃で五酸化二リン284gを徐々に添加した後、70〜80℃で4時間熟成反応させた。室温に冷却後、ドデシルジエタノールアミンを684g加えて中和し、有機リン酸エステル塩(P−7)を得た。
【0042】
・有機リン酸エステル塩(P−8)の調製(実施例8)
2Lフラスコに、2−ヘキシル−1−デカノール727gを加え、撹拌しながら70℃で減圧脱水後、50〜70℃で五酸化二リン284gを徐々に添加した後、70〜80℃で4時間熟成反応させた。室温に冷却後、ジブチルエタノールアミンを520g加えて中和し、有機リン酸エステル塩(P−8)を得た。
【0043】
・有機リン酸エステル塩(P−9)の調製(比較例1)
2Lフラスコに、イソトリデカノール(平均炭素数13.5、炭素数11〜14で炭素数13が主成分)518gを加え、撹拌しながら50〜70℃で五酸化二リン284gを徐々に添加した後、70〜80℃で4時間熟成反応させた。室温に冷却後、ステアリン酸マグネシウムを739g加えて中和し、有機リン酸エステル塩(P−8)を得た。
【0044】
・有機リン酸エステル(P−10)の調製(実施例9)
2Lフラスコに、2−ヘキシル−1−デカノール/2−オクチル−1−デカノール/2−ヘキシル−1−ドデカノール/2−オクチル−1−ドデカノール=18/24/28/30(質量比)のアルコール混合物にエチレンオキサイドを平均2モル付加した化合物905gを加え、撹拌しながら70℃で減圧脱水後、50〜70℃で五酸化二リン284gを徐々に添加した後、70〜80℃で4時間熟成反応させ、有機リン酸エステル(P−10)を得た。
【0045】
試験区分2(弾性繊維用処理剤の調製)
・製造例1
平滑剤として表1に記載のポリジメチルシロキサン(L−1:信越化学工業社製の商品名KF−96−10cs)37部と鉱物油(L−3:出光興産社製の商品名ダイアナフレシア W8)60部、有機リン酸エステル化合物として試験区分1で調製した表2に記載のリン酸エステル塩(P−1)(実施例1)3部を均一混合して、製造例1の弾性繊維用処理剤を調製した。この弾性繊維用処理剤を前記のようにイオンクロマトグラフで分析したところ、リン酸イオン濃度から求められる無機リン酸と無機リン酸塩の合計濃度は30ppmであった。
【0046】
・製造例2〜12、製造例13、16及び17
製造例1と同様にして、表3記載の割合で、平滑剤、有機リン酸エステル化合物を均一混合し、製造例2〜12、製造例13、16及び17の弾性繊維用処理剤を調製し、これらの弾性繊維用処理剤の無機リン酸と無機リン酸塩の合計濃度を求めた。
【0047】
・製造例14
平滑剤として表1に記載のポリジメチルシロキサン(L−1:信越化学工業社製の商品名KF−96−10cs)45部と鉱物油(L−3:出光興産社製の商品名ダイアナフレシア W8)50部、有機リン酸エステル化合物として試験区分1で調製した表2に記載のリン酸エステル塩(P−1)(実施例1)5部とリン酸0.2部を均一混合して、製造例14の弾性繊維用処理剤を調製した。この弾性繊維用処理剤を前記のようにイオンクロマトグラフで分析したところ、リン酸イオン濃度から求められる無機リン酸と無機リン酸塩の合計濃度は2050ppmであった。
【0048】
・製造例15
平滑剤として表1に記載のポリジメチルシロキサン(L−1:信越化学工業社製の商品名KF−96−10cs)50部と鉱物油(L−3:出光興産社製の商品名ダイアナフレシア W8)50部を均一混合して、製造例15の弾性繊維用処理剤を調製した。この弾性繊維用処理剤を前記のようにイオンクロマトグラフで分析したところ、リン酸イオン濃度から求められる無機リン酸と無機リン酸塩の合計濃度は1ppm以下であった。
【0049】
以上の各製造例の弾性繊維用処理剤の調製に用いた平滑剤の内容を表1に、またリン酸エステル化合物の内容を表2に、更に調製した各製造例の弾性繊維用処理剤の内容を表3にまとめて示した。
【0050】
【表1】
表1において、
L−1:信越化学工業社製の商品名KF96−10cs
L−2:信越化学工業社製の商品名KF96−100cs
L−3:出光興産社製の商品名ダイアナフレシアW8
L−4:コスモ石油ルブリカンツ社製の商品名ピュアスピンRC
L−5:S−OIL社製の商品名Ultra S3
L−6:コスモ石油ルブリカンツ社製の商品名ピュアスピンRB
L−7:日本サン石油社製の商品名SUN 60N
l−1:日本サン石油社製の商品名SUN 100N
【0051】
【表2】
表2において、
EO付加モル数:有機アルコール1モルに対するエチレンオキシドの付加モル数
P−1:3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール(平均炭素数9、炭素数7〜10で炭素数9が主成分)のリン酸エステルマグネシウム塩
P−2:ポリオキシエチレン2モル付加2−エチル−1−ヘキシルエーテルのリン酸エステルマグネシウム塩
P−3:2−(1,3,3−トリメチルブチル)−5,7,7−トリメチル−1−オクタノールのリン酸エステルジブチルエタノールアミン塩
P−4:11−メチル−1−ドデカノール(平均炭素数13、炭素数10〜15で炭素数13が主成分)のリン酸エステルカルシウム塩
P−5:2−オクチル−1−ドデカノールのリン酸エステルマグネシウム塩
P−6:2−ヘキシル−1−デカノールのリン酸エステルジメチルドデシルアミン塩
P−7:2−ヘキシル−1−デカノールのリン酸エステルドデシルジエタノールアミン塩/2−オクチル−1−デカノールのリン酸エステルドデシルジエタノールアミン塩/2−ヘキシル−1−ドデカノールのリン酸エステルドデシルジエタノールアミン塩/2−オクチル−1−ドデカノールのリン酸エステルドデシルジエタノールアミン塩=5/45/45/5(質量比)の混合物
P−8:2−ヘキシル−1−デカノールのリン酸エステルジブチルエタノールアミン塩
P−9:イソトリデカノール(平均炭素数13.5、炭素数11〜14で炭素数13が主成分)のリン酸エステルマグネシウム塩
P−10:2−ヘキシル−1−デカノール/2−オクチル−1−デカノール/2−ヘキシル−1−ドデカノール/2−オクチル−1−ドデカノール=18/24/28/30(質量比)のアルコール混合物にエチレンオキサイドを平均2モル付加した化合物のリン酸エステル
試験区分3(弾性繊維の製造)
分子量2900のテトラメチレンエーテルグリコール、ビス−(p−イソシアネートフェニル)−メタン及びエチレンジアミンからなるポリウレタンのN,N−ジメチルアセトアミド溶液(35質量%溶液)を重合し、ポリマー溶液(A)とした。
【0052】
別に、酸化防止剤としてt−ブチルジエタノールアミンとメチレン−ビス−(4−シクロヘキシルイソシアネート)との反応によって生成せしめたポリウレタン(デュポン社製の商品名メタクロール(登録商標)2462)と、p−クレゾールとジビニルベンゼンの縮合重合体(デュポン社製の商品名メタクロール(登録商標)2390)との、2対1(質量比)の混合物を用い、この混合物のN,N−ジメチルアセトアミド溶液(35質量%溶液)を調製し、添加剤溶液(B)とした。
【0053】
前記のポリマー溶液(A)が96質量%、また前記の添加剤溶液(B)が4質量%となるよう均一混合し、紡糸原液とした。
こうして得られた紡糸原液を用いて、公知のスパンデックスで用いられる乾式紡糸方法により、44dtex/3filのマルチフィラメントのポリウレタン系弾性繊維を紡糸して、巻き取り前の延伸ローラーと延伸ローラーとの間に位置する給油ローラーから、試験区分2で調製した各製造例の弾性繊維用処理剤をニートの状態でローラー給油した。かくしてローラー給油したものを、巻き取り速度が600m/分で、長さ58mmの円筒状紙管に、巻き幅38mmを与えるトラバースガイドを介して、サーフェイスドライブの巻取機を用いて巻き取り、乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージ500gを得た。ポリウレタン系弾性繊維用処理剤の付着量の調節は、給油ローラーの回転数を調整することでいずれも5%となるように行なった。こうして得られた乾式紡糸ポリウレタン系弾性繊維のパッケージを用いて下記の測定及び評価に供し、結果を表3にまとめて示した。
【0054】
試験区分4(弾性繊維用処理剤及び弾性繊維の評価)
・制電性
二つのフリーローラー間に直径1cmで表面粗度2Sのクロムメッキ梨地ピンを配置し、このクロムメッキ梨地ピンに対し、前記の糸パッケージから引き出したポリウレタン系弾性繊維の接触角度が90度となるようにした。このクロムメッキ梨地ピンの下部1cmの位置に静電電位測定器(春日電機社製の商品名KSD−0103)を配置し、25℃で60%RHの条件下、50m/分の速度で送り出し、100m/分の速度で巻き取った場合の発生電気を測定して、次の基準で評価した。
【0055】
制電性の評価基準
○:発生電気が100ボルト未満(安定に操業できる)
×:発生電気が100ボルト以上(整経工程で糸の寄りつきが起こり、操業に問題が起きる)
・摩擦特性
摩擦測定メーター(エイコー測器社製の商品名SAMPLE FRICTION UNIT MODEL TB−1)を用い、二つのフリーローラー間に直径1cmで表面粗度2Sのクロムメッキ梨地ピンを配置し、このクロムメッキ梨地ピンに対し、試験区分3で得られた各パッケージ(500g巻き)から引き出したポリウレタン系弾性繊維の接触角度が90度となるようにした。25℃で60%RHの条件下、入側で初期張力(T1)5gをかけ、100m/分の速度で走行させたときの出側の2次張力(T2)を1秒毎に120分間測定した。この時の測定開始後1分〜2分の間での平均摩擦係数と測定開始後119分〜120分の間の平均摩擦係数の差を以下の数1により求め、以下の基準で評価した。
【0056】
【数1】
数1において、
T
1S:測定開始後1分〜2分の間でのT1張力の平均値
T
2S:測定開始後1分〜2分の間でのT2張力の平均値
T
1E:測定開始後119分〜120分の間でのT1張力の平均値
T
2E:測定開始後119分〜120分の間でのT2張力の平均値
摩擦特性の評価基準
◎:摩擦係数の差が0.05未満
○:摩擦係数の差が0.05以上0.1未満
×:摩擦係数の差が0.1以上
・安定性
試験区分3で調製した各製造例の弾性繊維用処理剤100gをガラス瓶に入れ、25℃で1週間静置後、以下の基準で安定性を評価した。
【0057】
安定性の評価基準
○:ガラス瓶の底にゲル状沈殿が無く、50rpmの撹拌をすることで調製時と同様の状態を保っていた。
【0058】
×:ガラス瓶の底にゲル状沈殿が生じ、50rpmの撹拌では調製時と同様の状態に復元しなかった。
・糸の着色
試験区分3で得られた各製造例の弾性繊維用処理剤が付着したパッケージ(500g巻き)の端面部分を色彩色差計(MINOLTA社製の商品名色彩色差計 CR−300)でb値を測定した後、1週間紫外線照射機により紫外線を照射しながら保管した。この保管後のパッケージについて紫外線照射前に測定した同じ端面部分のb値を上記色彩色差計で測定した。この時の紫外線下1か月保管前後のb値の差を求め、下記の基準で糸の着色を評価した。
【0059】
糸の着色の評価基準
○:b値の差が1未満。
×:b値の差が1以上。
【0060】
【表3】
表1及び表2に対応する表3の結果からも明らかなように、本発明の製造方法によれば、得られた有機リン酸エステル化合物を含む処理剤により、弾性繊維に優れた制電性と持続性を有する摩擦特性を付与できる。また、処理剤が付着した糸を長期間保管しても糸の着色が起こりにくく、処理剤を長期間保管しても高い安定性を維持することができる。