(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態による有機EL表示装置およびその製造方法を説明する。なお、本発明の実施形態は、以下に例示する実施形態に限定されない。
【0029】
まず、
図1(a)および(b)を参照して、本発明の実施形態によるOLED表示装置100の基本的な構成を説明する。
図1(a)は、本発明の実施形態によるOLED表示装置100のアクティブ領域の模式的な部分断面図であり、
図1(b)は、OLED3上に形成されたTFE構造10の部分断面図である。
【0030】
OLED表示装置100は、複数の画素を有し、画素ごとに少なくとも1つの有機EL素子(OLED)を有している。ここでは、簡単のために、1つのOLEDに対応する構造について説明する。
【0031】
図1(a)に示すように、OLED表示装置100は、フレキシブル基板(以下、単に「基板」ということがある。)1と、基板1上に形成されたTFTを含む回路(バックプレーン)2と、回路2上に形成されたOLED3と、OLED3上に形成されたTFE構造10とを有している。OLED3は例えばトップエミッションタイプである。OLED3の最上部は、例えば、上部電極またはキャップ層(屈折率調整層)である。TFE構造10の上にはオプショナルな偏光板4が配置されている。
【0032】
基板1は、例えば厚さが15μmのポリイミドフィルムである。TFTを含む回路2の厚さは例えば4μmであり、OLED3の厚さは例えば1μmであり、TFE構造10の厚さは例えば1.5μm以下である。
【0033】
図1(b)は、OLED3上に形成されたTFE構造10の部分断面図である。TFE構造10は、第1無機バリア層(例えばSiN層)12と、有機バリア層(例えばアクリル樹脂層)14と、第2無機バリア層(例えばSiN層)16とを有する。第1無機バリア層12は、OLED3の直上に形成されている。有機バリア層14は、第1無機バリア層12の上面に接し、かつ、離散的に分布する複数の中実部を有する。第2無機バリア層16は、第1無機バリア層12の上面および有機バリア層14の複数の中実部の上面に接する。有機バリア層14は、黒色を呈する。有機バリア層14は、例えば、染料を含んでいる。
【0034】
有機バリア層14が黒色を呈するので、少ない時間および/またはコストで、有機バリア層14が必要な個所に形成されているか否かの検査を行うことができる。したがって、OLED表示装置100の歩留りを向上させることができる。OLED表示装置100の製造方法および検査方法については、後述する。
【0035】
なお、有機バリア層14は、後述する検査工程で視認できる程度に黒色に着色されていればよく、遮光性を有する必要はない。
【0036】
例えば、第1無機バリア層12および第2無機バリア層16は、例えば厚さが400nmのSiN層(例えばSi
3N
4層)であり、第1無機バリア層12および第2無機バリア層16の厚さはそれぞれ独立に、200nm以上1000nm以下である。TFE構造10の厚さは400nm以上2μm未満であることが好ましく、400nm以上1.5μm未満であることがさらに好ましい。有機バリア層(中実部)14の厚さは、第1無機バリア層12の表面の凸部やパーティクルの大きさにもよるが、大きくても1μm程度であればよい。有機バリア層(中実部)14の厚さは、典型的には200nm以上500nm以下である。
【0037】
TFE構造10は、OLED表示装置100のアクティブ領域(
図2中のアクティブ領域R1参照)を保護するように形成されており、少なくともアクティブ領域には、上述したように、OLED3に近い側から順に、第1無機バリア層12、有機バリア層14、および第2無機バリア層16を有している。なお、有機バリア層14は、アクティブ領域の全面を覆う膜として存在しているのではなく、開口部を有している。有機バリア層14の内、開口部を除く、実際に有機膜が存在する部分を「中実部」ということにする。また、「開口部」(「非中実部」ということもある。)は、中実部で包囲されている必要はなく、切欠きなどを含み、開口部においては、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触している。有機バリア層14が有する開口部は、少なくとも、アクティブ領域を包囲するように形成された開口部を含み、アクティブ領域は、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触している部分(以下、「無機バリア層接合部」という。)で完全に包囲されている。
【0038】
図2から
図6を参照して、本発明の実施形態によるOLED表示装置の構造および製造方法を説明する。
【0039】
図2に本発明の実施形態によるOLED表示装置100の模式的な平面図を示す。
【0040】
OLED表示装置100は、フレキシブル基板1と、フレキシブル基板1上に形成された回路(バックプレーン)2と、回路2上に形成された複数のOLED3と、OLED3上に形成されたTFE構造10とを有している。複数のOLED3が配列されている層をOLED層3ということがある。なお、回路2とOLED層3とが一部の構成要素を共有してもよい。TFE構造10の上にはオプショナルな偏光板(
図1中の参照符号4を参照)がさらに配置されてもよい。また、例えば、TFE構造10と偏光板との間にタッチパネル機能を担う層が配置されてもよい。すなわち、OLED表示装置100は、オンセル型のタッチパネル付き表示装置に改変され得る。
【0041】
回路2は、複数のTFT(不図示)と、それぞれが複数のTFT(不図示)のいずれかに接続された複数のゲートバスライン(不図示)および複数のソースバスライン(不図示)とを有している。回路2は、複数のOLED3を駆動するための公知の回路であってよい。複数のOLED3は、回路2が有する複数のTFTのいずれかに接続されている。OLED3も公知のOLEDであってよい。
【0042】
OLED表示装置100は、さらに、複数のOLED3が配置されているアクティブ領域(
図2中の破線で囲まれた領域)R1の外側の周辺領域R2に配置された複数の端子38と、複数の端子38と複数のゲートバスラインまたは複数のソースバスラインのいずれかとを接続する複数の引出し配線30を有しており、TFE構造10は、複数のOLED3の上および複数の引出し配線30のアクティブ領域R1側の部分の上に形成されている。すなわち、TFE構造10はアクティブ領域R1の全体を覆い、かつ、複数の引出し配線30のアクティブ領域R1側の部分の上に選択的に形成されており、引出し配線30の端子38側および端子38は、TFE構造10では覆われていない。
【0043】
以下では、引出し配線30と端子38とが同じ導電層を用いて一体に形成された例を説明するが、互いに異なる導電層(積層構造を含む)を用いて形成されてもよい。
【0044】
次に、
図3(a)〜(c)を参照して、OLED表示装置100のTFE構造10を説明する。
図3(a)に
図2中の3A−3A’線に沿った断面図を示し、
図3(b)に
図2中の3B−3B’線に沿った断面図を示し、
図3(c)に
図2中の3C−3C’線に沿った断面図を示す。
【0045】
図3(a)および
図3(b)に示すように、TFE構造10は、OLED3上に形成された第1無機バリア層12と、有機バリア層14と、第1無機バリア層12および有機バリア層14に接する第2無機バリア層16とを有している。第1無機バリア層12および第2無機バリア層16は、例えば、SiN層であり、マスクを用いたプラズマCVD法で、アクティブ領域R1を覆うように所定の領域だけに選択的に形成される。一般に、薄膜堆積法(例えばCVD法、スパッタ法、真空蒸着法)によって形成される層の表面は、下地の段差を反映する。有機バリア層(中実部)14は、第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺にのみ形成される。
【0046】
図3(a)は、
図2中の3A−3A’線に沿った断面図であり、パーティクルPを含む部分を示している。パーティクルPは、OLED表示装置の製造プロセス中に発生する微細なゴミで、例えば、ガラスの微細な破片、金属の粒子、有機物の粒子である。マスク蒸着法を用いると、特にパーティクルPが発生しやすい。
【0047】
図3(a)に示すように、有機バリア層(中実部)14は、パーティクルPの周辺に形成された部分14bを含む。これは、第1無機バリア層12を形成した後に付与されたアクリルモノマーが、パーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面(テーパー角が90°超)の周辺に凝縮され、偏在するからである。第1無機バリア層12の平坦部上は、有機バリア層14の開口部(非中実部)となっている。
【0048】
ここで、
図4(a)〜(c)を参照して、パーティクルPを含む部分の構造を説明する。
図4(a)は
図3(a)のパーティクルPを含む部分の拡大図であり、
図4(b)はパーティクルPと、パーティクルPを覆う第1無機バリア層(SiN層)12と、有機バリア層14との大きさの関係を示す模式的な平面図であり、
図4(c)はパーティクルPを覆う第1無機バリア層12の模式的な断面図である。
【0049】
図4(c)に示すように、パーティクル(例えば直径が約1μm以上)Pが存在すると、第1無機バリア層12にクラック(欠陥)12cが形成されることがある。これは、後に説明するように、パーティクルPの表面から成長するSiN層12aと、OLED3の表面の平坦部分から成長するSiN層12bとが衝突(インピンジ)するために生じたと考えられる。このようなクラック12cが存在すると、TFE構造10のバリア性が低下する。
【0050】
OLED表示装置100のTFE構造10では、
図4(a)に示すように、有機バリア層14が、第1無機バリア層12のクラック12cを充填するように形成し、かつ、有機バリア層14の表面は、パーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面と、OLED3の平坦部上の第1無機バリア層12bとの表面を連続的に滑らかに連結する。有機バリア層14は、後述するように、液状の光硬化性樹脂を硬化することによって形成されるので、表面張力によって凹状の表面を形成する。このとき、光硬化性樹脂は、第1無機バリア層12に対して良好な濡れ性を示している。光硬化性樹脂の第1無機バリア層12に対する濡れ性が悪いと、逆に凸状になることがある。なお、有機バリア層14がパーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面にも薄く形成されることがある。
【0051】
凹状の表面を有する有機バリア層(中実部)14によって、パーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面と、平坦部上の第1無機バリア層12bとの表面が連続的に滑らかに連結されるので、この上に、欠陥の無い、緻密な膜で第2無機バリア層16を形成することができる。このように、有機バリア層14によって、パーティクルPが存在しても、TFE構造10のバリア性を維持することができる。
【0052】
有機バリア層(中実部)14は、
図4(b)に示す様に、パーティクルPの周りにリング状に形成される。法線方向から見たときの直径(面積円相当径)が例えば1μm程度のパーティクルPに対して、例えば、リング状の中実部の直径(面積円相当径)D
oは2μm以上である。
【0053】
ここでは、有機バリア層14が、パーティクルP上に形成された第1無機バリア層12の不連続部分にのみ形成された例について、パーティクルPがOLED3上に第1無機バリア層12を形成する前に存在していた例を説明したが、パーティクルPは、第1無機バリア層12上に存在することもある。この場合には、有機バリア層14は、第1無機バリア層12上に存在するパーティクルPと第1無機バリア層12との境界の不連続部分にのみ形成され、上記と同様に、TFE構造10のバリア性を維持することができる。有機バリア層14はパーティクルP上の第1無機バリア層12aの表面、または、パーティクルPの表面にも薄く形成されることがある。本明細書では、これらすべての態様を含む意図で、有機バリア層14がパーティクルPの周辺に存在するという。
【0054】
図3(a)に示す例に限られず、有機バリア層(中実部)14は、上記と同様の理由で、第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺にのみ形成される。有機バリア層(中実部)14が形成される箇所の他の例を以下に示す。
【0055】
次に、
図3(b)を参照して、引出し配線30上のTFE構造10の構造を説明する。
図3(b)は、
図2中の3B−3B’線に沿った断面図であり、引出し配線30のアクティブ領域R1側の部分32の断面図である。
【0056】
図3(b)に示すように、有機バリア層(中実部)14は、引出し配線30の部分32の断面形状を反映した第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺に形成された部分14cを含む。
【0057】
引出し配線30は、例えば、ゲートバスラインまたはソースバスラインと同じプロセスでパターニングされるので、ここでは、アクティブ領域R1内に形成されるゲートバスラインおよびソースバスラインも、
図3(b)に示した引出し配線30のアクティブ領域R1側の部分32と同じ断面構造を有する。ただし、典型的には、アクティブ領域R1内に形成されるゲートバスラインおよびソースバスラインの上には平坦化層が形成され、ゲートバスラインおよびソースバスライン上の第1無機バリア層12の表面には段差が形成されない。
【0058】
引出し配線30の部分32は、例えば、側面のテーパー角が90°未満である順テーパー側面部分(傾斜側面部分)を有してもよい。引出し配線30が順テーパー側面部分を有すると、その上に形成される第1無機バリア層12および第2無機バリア層16に欠陥が形成されることを防止することができる。すなわち、TFE構造10の耐湿信頼性を向上させることができる。順テーパー側面部分のテーパー角は、70°以下であることが好ましい。
【0059】
OLED表示装置100のアクティブ領域R1は、有機バリア層14が選択的に形成されている部分を除いて、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触する無機バリア層接合部によって実質的に覆われている。したがって、有機バリア層14が水分の侵入経路となって、OLED表示装置のアクティブ領域R1に水分が到達することがない。
【0060】
本発明の実施形態によるOLED表示装置100は、例えば、高精細の中小型のスマートフォンおよびタブレット端末に好適に用いられる。高精細(例えば500ppi)の中小型(例えば5.7型)のOLED表示装置では、限られた線幅で、十分に低抵抗な配線(ゲートバスラインおよびソースバスラインを含む)を形成するために、アクティブ領域R1内における配線の線幅方向に平行な断面の形状は矩形(側面のテーパー角が約90°)に近いことが好ましい。したがって、低抵抗な配線を形成するためには、順テーパー側面部分TSFのテーパー角を70°超90°未満としてもよいし、順テーパー側面部分TSFを設けず、配線の全長にわたってテーパー角を約90°としてよい。
【0061】
次に、
図3(c)を参照する。
図3(c)は、TFE構造10が形成されていない領域の断面図である。ここでは、端子38も、
図3(c)に示した引出し配線30の部分36と同じ断面構造を有する。
図3(c)に示す引出し配線30の部分36は、例えば、テーパー角が約90°であってよい。
【0062】
次に、
図5および
図6を参照して、バンク構造BS周辺に形成される有機バリア層14を説明する。有機バリア層(中実部)14は、バンク構造BSを構成する第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺にも形成される。
図5は、OLED表示装置100が有する複数の画素およびバンク層48を模式的に示す平面図である。
図6(a)および(b)はOLED表示装置100の模式的な断面図であり、
図6(a)に
図5中の6A−6A’線に沿った断面図を示し、
図6(b)に
図5中の6B−6B’線に沿った断面図を示す。
【0063】
図5および
図6(a)に示すように、OLED表示装置100は、複数の画素のそれぞれを規定するバンク層48をさらに有する。バンク層48は、複数の画素のそれぞれの周囲を包囲する斜面を有する。有機バリア層14の複数の中実部は、第1無機バリア層12の斜面S12上の部分から画素内の周辺に至る画素周辺中実部14aを有する。
【0064】
図6(a)に示すように、バンク構造BSは、絶縁材料から形成されたバンク層(「PDL(Pixel Defining Layer)」と呼ばれることもある。)48を含む。バンク層48は、OLED3の下部電極42と有機層44との間に形成されている。
図6(a)に示すように、OLED3は、下部電極42と、下部電極42上に形成された有機層44と、有機層44上に形成された上部電極46とを含む。ここでは、下部電極42および上部電極46は、それぞれ、OLED3の陽極および陰極を構成する。上部電極46は、アクティブ領域の画素全体にわたって形成されている共通の電極である。一方、下部電極(画素電極)42は画素ごとに形成されている。下部電極42と有機層44との間にバンク層48が存在すると、下部電極42から有機層44に正孔が注入されない。従って、バンク層48が存在する領域は画素Pixとして機能しないので、バンク層48が画素Pixの外縁を規定する。
【0065】
図5に示すように、バンク層48の開口部によって各画素Pixが規定される。バンク層48は、例えば格子状に形成されている。バンク層48の開口部の側面は、順テーパー側面部分TSFを有する斜面を有する。バンク層48の斜面は、各画素の周囲を包囲している。バンク層48は、例えば感光性樹脂(例えばポリイミドまたはアクリル樹脂)を用いて形成される。バンク層48の厚さは、例えば1μm〜2μmである。バンク層48の斜面の傾斜角θbは、例えば60°以下である。バンク層48の斜面の傾斜角θbが60°超であると、バンク層48の上に位置する層に欠陥が生じることがある。バンク層48上に位置する層(例えば、有機層44、上部電極46、第1無機バリア層12、および第2無機バリア層16を含む)もバンク構造BSを構成し得る。バンク構造BSを構成する層は、それぞれ、複数の画素のそれぞれの周囲を包囲する斜面を有し得る。バンク層48上に形成された層の厚さが、いずれもバンク層48の厚さに比べて小さい場合、バンク構造BSの斜面の傾斜角は、バンク層48の斜面の傾斜角とほぼ同じであると考えられる。第1無機バリア層12は、バンク構造BSを構成し、複数の画素のそれぞれの周囲を包囲する斜面S12を有する。有機バリア層(中実部)14は、第1無機バリア層12の斜面S12上の部分から画素内の周辺に至る画素周辺中実部14aを含む。
【0066】
画素内の中央部においては、有機バリア層14は、例えば
図6(a)に示すように、パーティクルPによって形成される第1無機バリア層12の不連続部分にのみ形成されている。すなわち、
図6(b)に示すように、画素内の中央部でパーティクルPが存在しない部分には有機バリア層14は存在しない。パーティクルPが存在しないOLED表示装置は、画素内の中央部に有機バリア層を有しない。ここで、TFE構造10の耐湿信頼性を低下させるパーティクルPの大きさ(球相当直径)は、概ね0.3μm以上5μm以下である。ただし、0.2μm以上0.3μm未満の大きさのパーティクルPも耐湿信頼性を低下させる恐れがある。0.2μm未満の大きさのパーティクルPが耐湿信頼性を低下させる恐れはほとんどないと考えられる。なお、大きさが5μm超のパーティクルは、洗浄等によって除去される。
【0067】
G4.5(730mm×920mm)の基板には、大きさが概ね0.3μm以上5μm以下のパーティクルが、例えば、数十個から100個程度存在することがあり、1つのOLED表示装置(アクティブ領域)については、数個程度のパーティクルが存在することがある。もちろん、パーティクルPが存在しないOLED表示装置もある。有機バリア層14は、例えば光硬化性樹脂を硬化することによって形成された光硬化樹脂によって形成されており、実際に光硬化樹脂が存在する部分を「中実部」という。上述してきたように、有機バリア層14(中実部)は、第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺にのみ選択的に形成されている。
【0068】
例えば
図6(a)に示すように、画素内の中央部にパーティクルPが存在すると、パーティクルPによって形成される不連続部分に有機バリア層14が形成される。
図4(b)を参照して説明したように、有機バリア層(中実部)14は、パーティクルPの周りにリング状に形成される。法線方向から見たときの直径(面積円相当径)が例えば1μm程度のパーティクルPに対して、例えば、リング状の中実部の直径(面積円相当径)D
oは2μm以上である。例えば、5.7型の2560×1440ピクセルの表示装置(およそ500ppi)の場合、画素ピッチは49μmである。画素ピッチに比べて、パーティクルPおよびパーティクルPの周辺に形成された有機バリア層(中実部)14の大きさは十分に小さいので、パーティクルPの周辺に形成された有機バリア層14(中実部)による透過率の変化が表示に与える影響は小さい。
【0069】
ここで、
図6(a)および
図6(b)を参照して、OLED表示装置100が、黒色を呈する有機バリア層14を有することによって得られるさらなる利点を説明する。
【0070】
特許文献3には、バンク構造の斜面近傍に選択的に形成された有機バリア層(「平坦化層」ということがある。例えばアクリル樹脂層。)を有する薄膜封止構造が開示されている。特許文献3には、着色された有機バリア層は開示されていない。本発明者の検討によると、有機バリア層が着色されていないと、バンク構造の斜面近傍に有機バリア層(中実部)が形成されることによって、画素から出射された光の配光分布(視角依存性)が変化することがあった。有機バリア層の大きさ、形状等が異なると、画素周辺から出射される光の強度や配光分布が異なり、結果として、画素毎に出射光の配光分布が異なるという問題が生じる。
【0071】
これに対して、
図6(a)および
図6(b)に示すように、本発明の実施形態によるOLED表示装置100は、黒色に着色され、バンク構造BSの斜面上から画素内の周辺に至る有機バリア層(中実部)14を有するので、画素周辺から出射される光を低減できる。これにより、画素間の出射光の配光分布を均一にすることができる。また、
図6(a)に示すように、OLED表示装置100は、パーティクルP周辺にも有機バリア層(中実部)14を有するので、パーティクルP周辺からの光漏れを抑制することができる。
【0072】
有機バリア層14は、上記の効果を得るためには、斜め方向に出射される光を実効的に(例えば70%以上)吸収することができればよい。有機バリア層14として、例えば公知の表示装置のカラーフィルタ層のブラックマトリクスに用いられているブラックレジストを用いてもよいが、ブラックマトリクスに求められる遮光性(例えばOD値3〜4/μm程度)は必ずしも必要ではない。
【0073】
次に、本発明の実施形態によるOLED表示装置の製造方法を説明する。
【0074】
本発明の実施形態によるOLED表示装置のTFE構造10を形成する工程は、以下の工程を包含する。
【0075】
工程A:第1無機バリア層12が形成された素子基板を用意する工程
工程B:第1無機バリア層12上に、感光性樹脂を含む液膜を形成する工程
工程C:液膜に光を照射することによって、樹脂層を形成する工程
工程D:樹脂層をドライプロセスで部分的に除去する工程を包含する、有機バリア層14を形成する工程
ただし、工程Dは、オプショナルであって、省略してもよい。例えば、後述するように、光硬化性樹脂を硬化させる際にマスク露光を行うことによって、有機バリア層14を形成することができる。
【0076】
例として、上記特許文献1または2に記載の方法を用いて有機バリア層14を形成する方法を説明する。有機バリア層の形成方法に関して、特許文献1および2の開示内容を参考のために本明細書に援用する。
【0077】
工程Bは、工程Aの後で、素子基板をチャンバー内に配置し、チャンバー内に蒸気または霧状の光硬化性樹脂(例えばアクリルモノマー)を供給する工程と、第1無機バリア層12上で光硬化性樹脂を凝縮させることによって、液膜を形成する工程とを包含する。すなわち、チャンバー内で、蒸気または霧状の有機材料を、室温以下の温度に維持された素子基板上に供給し、素子基板上で凝縮させ、液状になった有機材料の毛細管現象または表面張力によって、第1無機バリア層12の表面の凸部の側面と平坦部との境界部に偏在させる。
【0078】
工程Bを、特許文献1または2に記載の方法で行う場合、工程Bで形成される液膜は、例えば、光硬化性樹脂(例えば紫外線硬化性樹脂)と、黒色の染料とを含む。黒色の染料は、公知のものを用いることができる。黒色の染料は、光重合性染料モノマーを含んでもよい。なお、黒色の染料は、一般に、複数の異なる色の染料(化合物)の混合物である。
【0079】
続いて、工程Cを行う。すなわち、有機材料に例えば紫外線を照射することによって、光硬化樹脂層(例えばアクリル樹脂層)を形成する。ここで形成される光硬化樹脂層は、典型的には離散的に分布する複数の中実部を有し、第1無機バリア層12の表面の平坦部上には中実部が実質的に存在しない。第1無機バリア層12の表面の平坦部上に有機材料が存在したとしても、その量(例えば厚さ)は、第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺に比べて少ない。したがって、一旦形成された樹脂層に、例えばこの後の工程(工程D)でアッシング処理を施すことによって、第1無機バリア層12の表面の平坦部上の有機材料を除去することができる。これにより、第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺にのみ偏在する有機バリア層(中実部)14が形成される。このような有機バリア層14を形成するために、上記に加えて、形成される液膜の厚さ、および/または、アッシング条件(時間を含む)を必要に応じて適宜調整すればよい。
【0080】
あるいは、光硬化性樹脂を硬化させる際に、マスク露光等の選択露光を行ってもよい。例えばマスク露光を行うことにより、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触する無機バリア層接合部を形成することができる。フォトマスクの遮光部に対応した領域に有機バリア層14の開口部が形成される。したがって、例えば、アクティブ領域を包囲するように形成された遮光部を有するフォトマスクを介して光硬化樹脂層を露光することによって、アクティブ領域を包囲するように形成された開口部を有する有機バリア層14を得ることができる。
【0081】
その後、必要に応じて、工程Dを行い、第1無機バリア層12の表面の凸部の周辺にのみ偏在する有機バリア層(中実部)14を得る。工程Dは、光硬化樹脂層をドライプロセスで部分的に除去する工程を包含する。例えば、光硬化樹脂層のうち、厚さが相対的に大きい部分は完全に除去されずに残る。「有機物をドライプロセスで除去する」とは、アッシングに限られず、アッシング以外の方法(例えば、スパッタ法)のドライプロセスで、有機物を除去することをいい、有機物は表面から除去される。有機物を完全に除去する場合だけでなく、部分的に(例えば表面からある深さまで)除去することを含む。なお、ドライプロセスとは、剥離液や溶剤などの液体を用いるウェットプロセスでないことをいう。
【0082】
なお、特許文献1および2には、光硬化樹脂層をドライプロセスで部分的に除去する工程は開示も示唆もされていない。この工程を行うことによって、有機バリア層を形成するマージンを大きくすることができる、すなわち、有機バリア層が必要な領域よりも大きい(広い)有機バリア層(光硬化樹脂層)を一旦形成し、これを部分的に除去することによって、必要な領域にのみ有機バリア層を形成することができるので、歩留りを向上させることができる。
【0083】
アッシングは、有機物を酸化させることによって除去する。無機膜の表面に付着している有機物を除去する際にも用いられる。有機物を完全に除去する場合だけでなく、部分的に(例えば表面からある深さまで)除去することを含む。アッシングは、例えば、N
2O、O
2およびO
3の内の少なくとも1種を含む雰囲気で行われ得る。アッシングは、前述したいずれかの雰囲気ガスを高周波でプラズマ化し、そのプラズマを利用するプラズマアッシング(またはコロナ放電処理)と、雰囲気ガスに紫外線等の光を照射して行われる光励起アッシングに大別され、例えば、公知のプラズマアッシング装置、コロナ放電を利用したアッシング処理装置、光励起アッシング装置、UVオゾンアッシング装置等を用いて行い得る。第1無機バリア層12および第2無機バリア層16としてSiN膜をCVD法で成膜する場合、原料ガスとして、N
2Oを用いるので、N
2Oをアッシングに用いると装置を簡略化できるという利点が得られる。
【0084】
アッシングを行うと、有機バリア層14の表面がほぼ一様に削られるとともに、有機バリア層14の表面が酸化され、親水性に改質される。また、極めて微細な凹凸が形成され、表面積が増大する。アッシングを行ったときの表面積増大効果は、無機材料である第1無機バリア層12に対してよりも有機バリア層14の表面に対しての方が大きい。したがって、有機バリア層14の表面が親水性に改質されることと、有機バリア層14の表面の表面積が増大することから、有機バリア層14と第2無機バリア層16との密着性が向上させられる。
【0085】
第1無機バリア層12と有機バリア層14との密着性を改善するために、有機バリア層14を形成する前に、第1無機バリア層12の表面にプラズマアッシング処理(例えばプラズマ処理および/またはコロナ処理)、または、光励起アッシング処理を施しておいてもよい。すなわち、TFE構造10を形成する工程は、工程Aの後、工程Bの前に、プラズマアッシング処理(例えばプラズマ処理および/またはコロナ処理)、または光励起アッシング処理を行う工程をさらに包含してもよい。これにより、第1無機バリア層12の表面の凸部の側面が、工程Bで付与される液膜に対して親液性を有するように、あるいは、親液性を向上させるように、改質されることが好ましい。また、第1無機バリア層12の平坦部の表面が、工程Bで付与される液膜に対して撥液性を有するように改質されてもよい。例えば、バンク構造BSの第1無機バリア層12の斜面S12(
図6(a)および(b)参照)は、工程Bで付与される液膜に対して、親液性を有し、バンク構造BSによって包囲された領域は、工程Bで付与される液膜に対して撥液性を有してもよい。
【0086】
上記の表面改質は、例えば、シランカップリング剤(親水性または疎水性)を用いて行うこともできる。すなわち、TFE構造10を形成する工程は、工程Aの後、工程Bの前に、第1無機バリア層12の表面にシランカップリング剤を付与する工程をさらに包含してもよい。シランカップリング剤を付与する工程または上記のアッシング処理のいずれか一方を行ってもよいし、第1無機バリア層12の表面に上記のアッシング処理を行った後に、シランカップリング剤を付与してもよい。シランカップリング剤を表面に付与することによって、第1無機バリア層12の表面を親水性または疎水性に改質することができる。
【0087】
また、例えばフォトリソグラフィプロセスを使って、シランカップリング剤を用いて、表面の特定の領域を親水性または疎水性に改質してもよい。例えば、バンク構造BSの第1無機バリア層12の斜面S12を液膜に対して親液性を有するように改質し、バンク構造BSによって包囲された領域は、液膜に対して撥液性を有するように改質してもよい。
【0088】
工程Dは、プラズマアッシング処理(例えばプラズマ処理および/またはコロナ処理)、または、光励起アッシング処理を行う工程をさらに包含してもよい。これにより、第1無機バリア層12の平坦部の表面上の有機材料をより確実に除去することができる。
【0089】
既に述べたように、本発明の実施形態によるOLED表示装置100のアクティブ領域は、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触する無機バリア層接合部で完全に包囲されている。これにより、OLED表示装置100は、特許文献1または2に記載の方法で有機バリア層を形成したOLED表示装置に比べて、優れた耐湿信頼性を有する。
【0090】
本発明者の検討によると、特許文献1または2に記載の方法で有機バリア層を形成すると、十分な耐湿信頼性が得られないという問題が発生することがあった。この問題は、有機バリア層を介して、大気中の水蒸気が素子基板上のアクティブ領域(「素子形成領域」または「表示領域」ということもある。)内に到達することに起因していることがわかった。
【0091】
インクジェット法などの印刷法を用いて有機バリア層を形成する場合、有機バリア層は、素子基板上のアクティブ領域(「素子形成領域」または「表示領域」ということもある。)にのみ形成され、アクティブ領域以外の領域には形成されないようにすることができる。したがって、アクティブ領域の周辺(外側)では、第1の無機材料層と第2の無機材料層とが直接接触する領域が存在し、有機バリア層は第1の無機材料層と第2の無機材料層とによって完全に包囲されており、周囲から隔絶されている。
【0092】
これに対し、特許文献1または2に記載の有機バリア層の形成方法では、素子基板の全面に樹脂(有機材料)が供給され、液状の樹脂の表面張力を利用して、素子基板の表面の凸部の側面と基板表面との境界部に樹脂を偏在させる。したがって、アクティブ領域外の領域(「周辺領域」ということもある。)、すなわち、複数の端子が配置される端子領域、およびアクティブ領域から端子領域に至る引出し配線が形成される引出し配線領域にも有機バリア層が形成されることがある。具体的には、例えば、引出し配線および端子の側面と基板表面との境界部に樹脂が偏在する。そうすると、引出し配線に沿って形成された有機バリア層の部分の端部は第1の無機材料層と第2の無機材料層とによって包囲されておらず、大気(周辺雰囲気)に晒されている。有機バリア層は、無機材料層(無機バリア層)に比べて水蒸気バリア性が低いので、引出し配線に沿って形成された有機バリア層は、大気中の水蒸気をアクティブ領域内へ導く経路となってしまう。
【0093】
本発明の実施形態による製造方法においては、上述した様に、有機バリア層14が有する開口部は、少なくとも、アクティブ領域を包囲するように形成された開口部を含み、アクティブ領域は、第1無機バリア層12と第2無機バリア層16とが直接接触している無機バリア層接合部で完全に包囲されているので、有機バリア層が、大気中の水蒸気をアクティブ領域内へ導く経路となることはない。
【0094】
本発明の実施形態によるOLED表示装置100の有機バリア層14は、上記の方法に限られず、例えば、スプレイ法、スピンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法またはインクジェット法を用いて形成することもできる。すなわち、工程Bは、スプレイ法、スピンコート法、スリットコート法、スクリーン印刷法またはインクジェット法で行われてもよい。これらの方法を用いる場合は、光硬化性樹脂(ネガ型)に限られず、感光性樹脂(ネガ型またはポジ型)を用いることができる。ポジ型の感光性樹脂を用いる場合、無機バリア層接合部を形成する領域に対応する開口部を有するフォトマスクを用いる。
【0095】
また、これらの方法を採用する場合、液膜(液膜を形成する感光性樹脂を含む材料を「塗液」ということがある。)は、染料に限られず、顔料を含んでもよい。黒色の顔料は、公知のものを用いることができ、例えばカーボンブラックである。黒色の顔料が分散された感光性樹脂(例えば光硬化性樹脂)として、例えば、液晶表示装置のカラーフィルタ層のブラックマトリクスに用いられているブラックレジストを用いてもよい。なお、有機バリア層14は、後述する検査工程で視認できる程度に黒色に着色されていればよいので、ブラックマトリクスに求められる遮光性(例えばOD値3〜4/μm程度)は必ずしも必要ではない。前述したとおり、有機バリア層14の厚さは1μm以下、典型的には200nm以上500nm以下であるので、通常のブラックマトリクス用感光性レジストを用いても、例えば150mJ/cm
2以下の露光量で十分に感光(例えば硬化)させることができる。なお、黒色顔料として、複数の異なる色の顔料の混合物を用いることもできる。
【0096】
インクジェット法を用いて有機バリア層14を形成する場合は、特定の領域にだけ、選択的に有機バリア層(中実部)を形成することができるので、マスク露光を行うことなく、無機バリア層接合部を形成することができる。スクリーン印刷法またはインクジェット法等の印刷法を用いても、現在市販されているOLED表示装置の薄膜封止構造に使われている、厚さが約5μm〜約20μmの比較的厚い有機バリア層よりも、薄い有機バリア層14を形成することができる。この場合には、感光性樹脂は光硬化型(すなわちネガ型)を用いる。
【0097】
インクジェット法を用いて有機バリア層を形成する場合、塗液を付与する場所を特定する必要がある。したがって、ある実施形態によるOLED表示装置の製造方法は、異物検出工程およびインクジェット工程を包含する。
【0098】
図7は、本発明の実施形態によるOLED表示装置の製造方法に用いられる異物検出装置50を示す模式図であり、
図8は、本発明の実施形態によるOLED表示装置の製造方法に用いられるインクジェット装置60を示す模式図である。
【0099】
図7に示す異物検出装置50は、コントローラ52と、検出ヘッド54とを有している。コントローラ52は、検出ヘッド54の動作を制御するとともに、ステージ70の動作を制御する。ステージ70は、基板100Mを受容し、x軸およびy軸方向に搬送することができる。ステージ70は、例えば、基板100Mを吸着固定する、および/または、浮上搬送(非接触搬送)させることができる。なお、基板100Mは、例えば、G4.5のマザー基板を用いて作製された素子基板で、第1無機バリア層まで形成されたものである。
【0100】
コントローラ52は、メモリおよびプロセッサ(いずれも不図示)を有しており、メモリに格納された情報に従って、検出ヘッド54および/またはステージ70を動作させることによって、検出ヘッド54を、基板100M上を走査させる。検出ヘッド54および/またはステージ70を動作させる信号は、プロセッサが生成し、インターフェイス(図中の矢印で示す)を介して、検出ヘッド54および/またはステージ70に与えられる。
【0101】
検出ヘッド54は、例えば、レーザ光源(例えば、半導体レーザ素子)と、結像光学系と、撮像素子とを有している(いずれも不図示)。基板100Mの所定の位置に向けてレーザ光を出射し、基板100Mで散乱された光を結像光学系で、撮像素子の受光面に結像させる。撮像素子によって撮像された結果を、予め決められたアルゴリズムに従って、プロセッサは、パーティクルの有無、パーティクルのサイズ等を求め、メモリに記憶させる。このような異物検査装置は、例えば、特開2016−105052号公報に記載されている。参考のために、特開2016−105052号公報の開示内容のすべてを本明細書に援用する。異物検出装置50としては、例えば、東レエンジニアリング株式会社製のHS−930を好適に用いることができる。HS−930は、0.3μmの異物(標準粒子散布での評価)を検出することが可能で、例えば、G4.5の基板を60秒未満の時間で、検査することができる。
【0102】
なお、標準粒子は、真球状ポリスチレンラテックス粒子であり、実際のパーティクルPは、ガラスの微細な破片、金属の粒子、有機物(有機EL材料)の粒子であり、さらにSiN層(屈折率:約1.8、第2無機バリア層)に覆われているので、標準粒子よりも検出しやすく、レーザ散乱光を利用した上記異物検査装置を用いると、球相当直径が0.2μm以上の異物を検出することができる。
【0103】
図8に示すインクジェット装置60は、コントローラ62と、インクジェットヘッド64と、UV(紫外線)照射ヘッド66とを有している。
【0104】
コントローラ62は、メモリおよびプロセッサ(いずれも不図示)を有しており、メモリに格納された情報に従って、インクジェットヘッド64、UV照射ヘッド66および/またはステージ70を動作させることによって、インクジェットヘッド64およびUV照射ヘッド66を基板100M上の所望の位置に移動させる。
【0105】
インクジェットヘッド64、UV照射ヘッド66、および/またはステージ70を動作させる信号は、プロセッサが生成し、インターフェイス(図中の矢印で示す)を介して、インクジェットヘッド64、UV照射ヘッド66、および/またはステージ70に与えられる。例えば、異物検出装置50のコントローラ52のメモリに格納されたパーティクルが存在する位置情報(例えばxy座標)をコントローラ62が受取り、その位置情報に基づいて、光硬化性樹脂を含む塗液の微小液滴をインクジェットヘッド64から付与する。インクジェットヘッド64から付与する塗液の量(微小液滴の数、すなわちショット数)は、例えば、異物検出装置50のコントローラ52のメモリに格納されたパーティクルのサイズ情報をコントローラ62が受取り、プロセッサによって求められる。
【0106】
その後、UV照射ヘッド66が、付与された光硬化性樹脂に紫外線を照射し、光硬化性樹脂を硬化させることによって、有機バリア層を形成する。この動作を各パーティクルに対して行う。
【0107】
図8では、インクジェットヘッド64とUV照射ヘッド66とを個別に記載しているが、これらを備える1つのヘッドとしてもよい。なお、紫外線光源としてLEDや半導体レーザ素子を用いることで、光源自体を搭載したコンパクトなUV照射ヘッド66を実現することができる。あるいは、UV照射ヘッド66に、光ファイバーの出射端と、必要に応じて設けられるレンズユニットとだけを搭載してもよい。このとき、光ファイバーの入射端に向けて紫外線を出射する紫外線光源ユニットとして、LED、半導体レーザ素子の他、種々の紫外線光源(例えば、水銀キセノンランプ、超高圧水銀ランプなどのランプ光源)を用いることができる。ただし、結合効率を考慮すると、LEDや、半導体レーザ素子、またはその他のレーザ発振可能な光源が好ましい。このように、UV照射ヘッド66と紫外線光源とを分離して配置すると、異物検出から塗液の付与、紫外線照射に至る一連の工程において、基板100MのOLED3に対する光源の発熱の影響を低減できるという利点が得られる。
【0108】
また、例えば、複数のインクジェットヘッドを用意してもよい。例えば、生成する微小液滴の大きさが異なる2以上のインクジェットヘッドを用意し、パーティクルのサイズに応じて使い分けてもよい。
【0109】
例えば、微小液滴の1つの体積が、1fLオーダー(1fL以上10fL未満)または1fL未満であるインクジェットヘッド64を好適に用いることができる。1fLは、直径がおよそ1.2μmの球の体積に相当し、0.1fLは、直径がおよそ0.6μmの球の体積に相当する。例えば、株式会社SIJテクノロジー製の、0.1fLの微小液滴を吐出可能なインクジェット装置(スーパーインクジェット(登録商標))を好適に用いることができる。
【0110】
ここで、
図9(a)および(b)を参照して、パーティクルPの周辺に形成される有機バリア層(中実部)の体積およびそれを形成するための微小液滴の好ましいサイズを説明する。
図9(a)および(b)は、本発明の実施形態によるOLED表示装置におけるパーティクルPの周辺に形成される有機バリア層の体積の好ましい範囲を説明するための模式図である。
図9(a)は、
図9(b)の9A−9A’線に沿った断面であり、パーティクルPの直径を含む断面の模式図であり、
図9(b)は法線方向からみたときの平面図である。
【0111】
ここで、パーティクルPまたはパーティクルPを覆う様に形成された第1無機バリア層12a(これらをまとめて「パーティクルPによる凸部」ということがある。)が球形と仮定する。パーティクルPの周辺の有機バリア層14vは、パーティクルPおよび/またはその上の無機バリア層12aを覆う様に形成されてもよいが、有機バリア層14vがあまりに厚いと、有機バリア層14vの屈折作用(レンズ効果)によって、パーティクルPによる凸部が視認されるおそれがある。したがって、
図9(a)に示す様に、パーティクルPによる凸部の半径Rよりも下方にだけ、有機バリア層14vが形成されることが好ましい。このような、有機バリア層14vは、付与する塗液の体積(塗液が溶媒を含む場合は、固形分の体積)および/または、アッシングの条件(例えば時間)を調整することによって得ることができる。アッシングについては後述する。
【0112】
有機バリア層14vの凹状の表面が、パーティクルPによる凸部の半径Rと同じ曲率半径を有する曲面であるとすると、
図9(a)および(b)に示した有機バリア層14vの体積V
0は、下記の式(1)で表される。
V
0=(4−π)πR
3 ・・・(1)
【0113】
パーティクルPによる凸部の半径Rが0.15μmのとき、V
0は約0.009fL、半径Rが0.25μmのとき、V
0は約0.04fL、半径Rが2.5μmのとき、V
0は約42fLとなる。
【0114】
有機バリア層14vの体積は、V
0の約2分の1以上であることが好ましい。これよりも小さいと、有機バリア層14vを設けた効果、すなわち、欠陥の無い、緻密な膜で第2無機バリア層16を形成することができないおそれがある。有機バリア層14vの体積の上限は、屈折作用(レンズ効果)によって、パーティクルPによる凸部が視認されない程度であればよく、V
0の5倍を超えないことが好ましく、2倍を超えないことが好ましい。ただし、パーティクルPによる凸部の半径Rが2.5μmよりも小さい場合(V
0が約42fLよりも小さい場合)には上記に限られず、有機バリア層14vの体積は、約200fLを超えなければよく、約100fL以下であることが好ましい。
【0115】
微小液滴のサイズは、パーティクルPによる凸部の半径Rに応じて適宜設定され得ることが好ましい。例えば、1滴〜3滴で、上記V
0を満足するように設定することが好ましい。なお、塗液に溶剤を混合することによって、塗液中の固形分(最終的に、有機バリア層14vとして残存する量)に対して、微小液滴を大きく(例えば、1倍超〜10倍)することができる。
【0116】
なお、パーティクルPによる凸部の直径が0.2μm未満(半径Rが0.1μm未満)のものは、有機バリア層14vを設けなくても、耐湿信頼性の影響はほぼないと考えられる。したがって、少なくとも、直径が0.2μm以上(半径Rが0.1μm以上)のパーティクルPによる凸部を検出し、有機バリア層14vを形成すればよい。
【0117】
直径が5μm(半径Rが2.5μm)のパーティクルPに対して、0.1fLの微小液滴を多数回付与するのは効率が悪い。したがって、例えば、1fL未満(例えば0.1fL)の微小液滴を生成するインクジェットヘッドと、10fL以上0.5pL未満(例えば50fL)の微小液滴を生成するインクジェットヘッドとを用意し、パーティクルPの大きさに応じて選択するようにしてもよい。UV照射ヘッド66は、共通に使うことができる。もちろん、微小液滴の大きさが互いに異なる3以上のインクジェットヘッドを用意してもよい。
【0118】
上述のようにして、有機バリア層14のパーティクルPの周辺に形成された部分14bを形成することができる。一方、有機バリア層14の第1無機バリア層12の斜面S12上の部分から画素内の周辺に至る画素周辺中実部14aは、10fL以上100pL未満(例えば200fL)の微小液滴を生成するインクジェットヘッドを用いる方が効率がよい。また、画素周辺中実部14aの位置は予め決まっているので、インクジェット装置を別途用意して、設計データに従って、画素周辺中実部14aを形成してもよい。
【0119】
光硬化性樹脂(モノマー)を含む塗液は、光重合開始剤(ラジカル重合開始剤またはカチオン重合開始剤)の他、界面活性剤等の添加剤を少量含む。塗液に含まれる光硬化性樹脂の質量分率は、約80質量%から約90質量%であり、光重合開始剤の質量分率は、約5質量%から約10質量%である。塗液に顔料または染料を混合してもよい。顔料を混合する場合には、分散剤をさらに混合してもよい。粘度は、例えば、約0.5mPa・s以上10Pa・sが好ましい。染料または顔料を混合すると、所望の位置に有機バリア層(中実部)が形成されたことを容易に確認することができる。顔料は微細化する必要があり、粘度の上昇を招くので、染料を用いることが好ましい。例えば、0.1fLの微小液滴を生成させる場合は、顔料も染料も含まないことが好ましい。また、粘度または微小液滴の大きさ(体積)を調整するために、溶剤(例えば、アルコールなどの有機溶媒)を混合してもよい。
【0120】
光硬化性樹脂としては、アクリル樹脂(アクリレートモノマー)に代表されるビニル基を有するラジカル重合性モノマーや、エポキシ基を有するカチオン重合性モノマーを用いることができる。光重合開始剤は、用いる樹脂の種類および照射されるUV光の波長範囲に応じて適宜選択される。なお、UV照射ヘッド66を用いず、高圧水銀灯または超高圧水銀灯などの紫外線照射装置を用いて、例えば基板100M上の光硬化性樹脂に一括して紫外線を照射してもよい。紫外線照射量(露光量)は、形成する有機バリア層14の層厚にも依存するが、365nmのi線で、例えば、50mJ/cm
2以上200mJ/cm
2以下であり、100mJ/cm
2以上150mJ/cm
2以下が好ましい。
【0121】
なお、先に説明した製造方法、すなわち、加熱気化した蒸気または霧状の光硬化性樹脂(有機材料)を室温以下の温度に維持された素子基板上に供給し、素子基板上で凝縮させ、液状になった有機材料の毛細管現象または表面張力によって、第1無機バリア層12の表面の凸部の側面と平坦部との境界部に偏在させる工程を包含する製造方法では、光硬化性樹脂は一旦気化する必要がある。したがって、この場合の光硬化性樹脂は、顔料は含まず、硬化前の室温(例えば25℃)の粘度は、10Pa・sを超えないことが好ましく、1〜100mPa・sであることが特に好ましい。粘度が高いと、厚さが500nm以下の薄い液膜を形成することが難しいことがある。
【0122】
光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された光硬化樹脂層を部分的にアッシングする工程をさらに包含してもよい。アッシングは、公知のプラズマアッシング装置、コロナ放電を利用したアッシング処理装置、光励起アッシング装置、UVオゾンアッシング装置を用いて行い得る。例えば、N
2O、O
2およびO
3の内の少なくとも1種のガスを用いたプラズマアッシング、または、これらにさらに紫外線照射とを組合せて行われ得る。第1無機バリア層12および第2無機バリア層16としてSiN膜をCVD法で成膜する場合、原料ガスとして、N
2Oを用いるので、N
2Oをアッシングに用いると装置を簡略化できるという利点が得られる。
【0123】
アッシングを行うと、有機バリア層14の表面が酸化され、親水性に改質される。また、有機バリア層14の表面がほぼ一様に削られるとともに、極めて微細な凹凸が形成され、表面積が増大する。アッシングを行ったときの表面積増大効果は、無機材料である第1無機バリア層12に対してよりも有機バリア層14の表面に対しての方が大きい。したがって、有機バリア層14の表面が親水性に改質されることと、有機バリア層14の表面の表面積が増大することから、有機バリア層14と第2無機バリア層16との密着性が向上させられる。
【0124】
なお、第1無機バリア層12と有機バリア層14との密着性を改善するために、有機バリア層14を形成する前に、第1無機バリア層12の表面にアッシング処理を施しておいてもよい。
【0125】
アッシングは、例えばパーティクルPによる凸部上に形成された光硬化性樹脂層を除去するなど、最終的に残存する有機バリア層14の配置および/または体積を調整するだけでなく、有機バリア層14と第2無機バリア層16との密着性が向上させることができる。
【0126】
本発明の実施形態によるOLED表示の製造方法は、薄膜封止構造を形成する工程の後に、有機バリア層14のパターンを光学的に取得する工程と、パターンに基づいて、薄膜封止構造の良否を判定する工程とをさらに包含してもよい。黒色を呈する有機バリア層14を形成することによって、光学的に取得した有機バリア層のパターンに基づいて薄膜封止構造の良否を判定することができる。この検査工程は、容易にインライン化できる。これによって、歩留りを向上させることができる。
【0127】
具体的には、第1無機バリア層が形成された素子基板の有機バリア層(中実部)が形成されるべき領域のパターン(「設計パターン」または「目標パターン」という。)を用意する。有機バリア層14を形成した後の素子基板から、有機バリア層(中実部)のパターンを例えば撮像装置を用いて光学的に取得する。得られた有機バリア層(中実部)のパターンを設計パターン(目標パターン)と比較することによって、有機バリア層(中実部)が所定の領域に形成されたか否かを判定する。本発明の実施形態による有機EL表示装置の製造方法においては、有機バリア層は黒色を呈しているので、有機バリア層のパターンを光学的に高い精度で取得することができる。設計パターンには、当然のことながら、パーティクルに対応して形成される有機バリア層(中実部)のパターンは含まれていない。しかしながら、設計パターンに一致するパターンが形成されている場合には、パーティクルが存在すれば、パーティクルに対応する有機バリア層(中実部)も形成されていると類推することができる。したがって、有機バリア層の形成状態について何ら検査をしない場合に比べて歩留りを向上させることができる。また、透明な有機バリア層を形成する場合に比べて、良否判定を高い精度で、または短時間で行うことができる。
【0128】
パーティクルに対応する有機バリア層が形成されたか否かを検査することもできる。例えば、異物検出装置で有機バリア層を形成する前の素子基板上の異物を検出し、異物の位置情報(マッピング)および各異物を含む微小領域の画像情報(光の強度分布)を含むデータを取得する。素子基板に有機バリア層を形成した後、異物検査装置を用いて、同様に異物検査を行い、同様のデータを取得する。有機バリア層の形成前のデータと、有機バリア層の形成後のデータとを比較することによって、各パーティクルに対応する有機バリア層が形成されたか否かを判定してもよい。本発明の実施形態による有機EL表示装置の製造方法においては、有機バリア層は黒色を呈しているので、有機バリア層が形成されることによる画像情報(光の強度分布)の変化は大きいので、透明な有機バリア層を形成する場合に比べて、良否判定を高い精度で、または短時間で行うことができる。
複数の画素を有する有機EL表示装置(100)は、基板と、基板に支持された複数の有機EL素子であって、それぞれが複数の画素のそれぞれに配置された複数の有機EL素子とを有する素子基板(1)と、複数の画素を覆う薄膜封止構造(10)とを有する。薄膜封止構造は、第1無機バリア層(12)と、第1無機バリア層(12)の上面に接しかつ離散的に分布する複数の中実部を有する有機バリア層(14)と、第1無機バリア層(12)の上面および有機バリア層(14)の複数の中実部の上面に接する第2無機バリア層(16)とを有し、有機バリア層(14)は、黒色を呈する。