(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346029
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】造形物
(51)【国際特許分類】
F16S 3/08 20060101AFI20180611BHJP
E04H 15/20 20060101ALI20180611BHJP
E04B 1/343 20060101ALI20180611BHJP
A63H 33/42 20060101ALN20180611BHJP
A63H 33/12 20060101ALN20180611BHJP
【FI】
F16S3/08
E04H15/20 C
E04B1/343 B
!A63H33/42 A
!A63H33/12
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-157935(P2014-157935)
(22)【出願日】2014年8月1日
(65)【公開番号】特開2016-35159(P2016-35159A)
(43)【公開日】2016年3月17日
【審査請求日】2017年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100074273
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173222
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100151149
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 幸城
(72)【発明者】
【氏名】前田 達彦
(72)【発明者】
【氏名】國府田 まりな
(72)【発明者】
【氏名】山田 晃平
(72)【発明者】
【氏名】高山 直行
(72)【発明者】
【氏名】和多田 遼
(72)【発明者】
【氏名】並川 卓矢
(72)【発明者】
【氏名】油浦 淳
(72)【発明者】
【氏名】慶 祐一
(72)【発明者】
【氏名】福本 晃治
(72)【発明者】
【氏名】土居 正裕
(72)【発明者】
【氏名】杉田 陽平
(72)【発明者】
【氏名】松岡 正明
【審査官】
富士 春奈
(56)【参考文献】
【文献】
特許第3333946(JP,B2)
【文献】
特開2010−059628(JP,A)
【文献】
特開2007−321376(JP,A)
【文献】
特開平10−061259(JP,A)
【文献】
特開平02−066272(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2008/0313970(US,A1)
【文献】
特許第5497103(JP,B2)
【文献】
米国特許第04918877(US,A)
【文献】
特表2014−512468(JP,A)
【文献】
特許第5116062(JP,B1)
【文献】
特開2014−119065(JP,A)
【文献】
特開平4−272783(JP,A)
【文献】
特開平1−169393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63H1/00−37/00
E04B1/00−1/36
E04H15/00−15/64
F16S1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨組みが複数の伸縮可能なチューブを連結して構成された造形物であって、
前記チューブ自体の伸縮性又は前記チューブ内に充填される充填材料の膨張又は収縮のし易さを異ならせることにより、少なくとも一部の前記チューブについての周辺環境の変化に伴う伸縮度合いが他の前記チューブと異なるように構成されていることを特徴とする造形物。
【請求項2】
骨組みが複数の伸縮可能なチューブを連結して構成された造形物であって、
前記チューブは複数のグループに分かれ、
各チューブの周辺環境の変化に伴うチューブ内の充填材料の膨張又は収縮の度合いはグループ毎に異なると共に、
一のグループの前記チューブ内に充填された前記充填材料が他のグループへ移動しないように前記チューブは少なくともグループ単位で前記充填材料を密封可能に構成されていることを特徴とする造形物。
【請求項3】
前記チューブは、少なくとも二つの端部を有し、各端部には接合管が設けられ、
複数の前記チューブは、前記接合管を介した結合によって骨組みを構成するように連結される請求項1または2に記載の造形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、建築物の他、工作物、パビリオンや児童用の遊具等として利用可能であり、骨組みがチューブで構成された造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、
図3(A)及び(B)に示すように、骨組みが複数のチューブ51で構成された建物が提案されている。その他、特許文献2,3には、骨組みがホースで構成されたテントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3333946号公報
【特許文献2】特許第5116062号公報
【特許文献3】特許第5497103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの造形物は、形状を一定に保つことを基本とし、鉄筋コンクリート構造や木質構造等の一般的な建築物と同様に、周囲の環境変化に応じて全体の外観が大きく変わってしまうほどの変形を積極的に狙った設計はこれまで行われていない。そのため、構造設計の自由度が低く、結果として、完成した造形物の形態は固定的で画一的なものとなる。
【0005】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、周囲の環境変化に応じて形態が変化し、構造設計の自由度を上げることができる造形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る造形物は、骨組みが複数の伸縮可能なチューブを連結して構成された造形物であって、前記チューブ自体の伸縮性又は前記チューブ内に充填される充填材料の膨張又は収縮のし易さを異ならせることにより、少なくとも一部の前記チューブについての周辺環境の変化に伴う伸縮度合いが他の前記チューブと異なるように構成されている(請求項1)。
【0007】
また、本発明に係る造形物が、骨組みが複数の伸縮可能なチューブを連結して構成された造形物であって、前記チューブは複数のグループに分かれ、各チューブの周辺環境の変化に伴うチューブ内の充填材料の膨張又は収縮の度合いはグループ毎に異なると共に、一のグループの前記チューブ内に充填された前記充填材料が他のグループへ移動しないように前記チューブは少なくともグループ単位で前記充填材料を密封可能に構成されていてもよい(請求項2)。
【0008】
上記造形物において、前記チューブは、少なくとも二つの端部を有し、各端部には接合管が設けられ、複数の前記チューブは、前記接合管を介した結合によって骨組みを構成するように連結されていてもよい(請求項3)。
【発明の効果】
【0009】
本願発明では、周囲の環境変化に応じて形態が変化し、構造設計の自由度を上げることができる造形物を得ることができる。
【0010】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の造形物では、その周囲の温度(気温)や日射量等が変化すると、チューブ自体やチューブ内の充填材料の温度等が変化し、この変化に伴ってチューブの形状が変化したり充填材料の体積が変化したりする。そして、その変化のし易さは一様とはならないようにしているので、結果として、造形物の形状が大きく変化することになる。
【0011】
すなわち、従来の造形物は、形状が一定であることを基本とし、専ら位置座標(XYZ座標)を設計パラメーターに用い、環境変化のような時間軸(t)をパラメーターとしていない。これに対して、本発明の造形物は、時間軸(t)をもパラメーターとして導入した設計を行うのであって、構造設計の自由度が上がり、造形物を構築する空間を、時々刻々と変化する周辺環境に呼応した生命体のようなものにすることができる。
【0012】
請求項3に係る発明の造形物では、チューブのユニット化によってチューブの接続作業効率の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(A)は、本発明の一実施の形態に係る造形物の構成を概略的に示す斜視図、(B)は前記造形物を内側からみたイメージ図である。
【
図2】(A)は、前記造形物の骨組みを構成するチューブを概略的に示す斜視図、(B)は複数のチューブが繋がった状態を示す説明図である。
【
図3】(A)及び(B)は、従来の造形物の構成を概略的に示す正面図及び平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
【0015】
図1(A)及び(B)に示す造形物1は、トンネル状に形成され全体にわたって網目構造を有する建築物であり、
図2(A)及び(B)に示すように、伸縮可能なチューブ2を複数連結することにより、その骨組みが構成されている。
【0016】
そして、造形物1は、その周囲環境(例えば気温(温度)や日射量等)の変化に応じて大きく変形するように、チューブ2内に充填される充填材料の膨張及び/又は収縮のし易さを異ならせ、少なくとも一部のチューブ2についての周辺環境の変化に伴う伸縮度合いが他のチューブ2と異なるようにしてある。
【0017】
まず、チューブ2について説明すると、各チューブ2は、
図2(A)及び(B)に示すように、二股状で三つの端部を有し、各端部には接合管(継手)3が設けられ、複数のチューブ2は、接合管3を介した結合によって骨組みを構成するように連結される。
【0018】
ここで、
図2(A)には、接合管3どうしが直接連結可能に構成される例(換言すれば各チューブ2を相互連結可能なユニットにした例)を示してあるが、これに限らず、別途の継手部材を介して二つ以上の接合管3が連結されるように構成されていてもよい。いずれの場合でも、その連結を行うための構造には、公知の管継手、結合金具等の構成を採用可能であり、例えば、ねじ込み式(例えば雄ねじが形成された接合管3と雌ねじが形成された接合管3とをねじ込む方式)、ユニオン式(例えば一方の接合管3にユニオンねじ、他方の接合管3にユニオンつばを形成し、両者にまたがってユニオンナットをはめて両接合管3を接続するねじ込み式ユニオンや、差込み溶接式ユニオンに見られる方式)、フランジ式(例えば両方の接合管3に管フランジを設け、突き合わせた状態の両方の管フランジをボルト及びナットで締結したりクイックファスナーで挟み込んだりする方式)、種々の溶接式等の接合方式を取り入れればよい。なお、
図1(A)及び(B)では、接合管3の図示は省略してある。
【0019】
また、チューブ2の素材には、伸縮性を有し、チューブ2内に充填する液体や気体が透過しない材料が適しており、そのような材料としては、例えばゴムや軟質プラスチック等の弾性を有する材料を挙げることができる。その他、内面に液体や気体の密封処理を施した不織布や織布、フィルム等の膜素材でチューブ2を構成することも考えられる。
【0020】
一方、チューブ2に充填する充填材料としては、常温で液体(例えば、水)となるものや気体(例えば、空気、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガス等)となるもの等を挙げることができる。なお、チューブ2内への充填材料の導入やその導出は、接合管3から行ってもよいし、チューブ2自体に開閉可能な導入口を設けてその導入口を利用して行ってもよい。
【0021】
そして、チューブ2内に充填される充填材料の膨張及び/又は収縮のし易さを異ならせるためには、例えば、チューブ2に充填する液体及び/又は気体の種類(熱膨張率)や濃度を異ならせたり、チューブ2に充填する液体と気体との配分(比率)を異ならせたりすればよい。
【0022】
本例の造形物1では、チューブ2は複数のグループに分かれ、各チューブ2の周辺環境の変化に伴うチューブ2内の充填材料の膨張及び/又は収縮の度合いはグループ毎に異なるように、チューブ2内に充填される充填材料はグループ毎に異なっていて、一のグループのチューブ2内に充填された充填材料が他のグループへ移動しないようにチューブ2は少なくともグループ単位で充填材料を密封可能に構成されている。
【0023】
図2(B)には、チューブ2が、第1グループを構成するチューブ2A群と、第2グループを構成するチューブ2B群と、第3グループを構成するチューブ2C群とに分かれている例を示している。なお、グループ数は、二つでも四つ以上でもよい。また、グループを構成するチューブ2は単数でも複数でもよく、グループを構成するチューブ2の数はグループ間で同一でも異なっていてもよい。
【0024】
ここで、チューブ2の充填材料をグループ毎に異ならせ、グループ単位で充填材料を密封する手段としては、例えば、接合管3に弁機構(開閉弁や逆止弁)や栓部材を設け、充填材料が接合管3内を通過することを適宜規制又は防止したり、弁機構や栓部材としての機能を持つ別途の継手部材(アダプター)を介して接合管3どうしを連結するようにしたりすればよい。また、他の接合管3に連結されない接合管3には、例えば栓部材を装着して密封すればよい。
【0025】
上記のように構成された造形物1では、造形物1の周囲の温度(気温)や日射量等が変化すると、チューブ2内の充填材料の温度が変化し、この変化に伴ってチューブ2の内部圧力(充填材料の体積)が変化する。そして、チューブ2の内部圧力の変化のし易さはグループ毎に異なり、環境変化に応じたチューブ2の伸縮度合い(膨張及び/又は収縮度合い)は一様とはならないので、結果として、造形物1の形状が大きく変化することになる。
【0026】
すなわち、従来の造形物は、形状が一定であることを基本とし、専ら位置座標(XYZ座標)を設計パラメーターに用い、環境変化のような時間軸(t)をパラメーターとしていない。これに対して、本例の造形物1は、時間軸(t)をもパラメーターとして導入した設計を行うのであって、構造設計の自由度が上がり、造形物1を構築する空間を、時々刻々と変化する周辺環境に呼応した生命体のようなものにすることができる。
【0027】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。
【0028】
例えば、
図2(A)及び(B)には、各チューブ2が二股状で三つの端部を有する例(各チューブが同一形状を有するようにユニット化した例)を示したが、これに限らず、チューブ2が他の形状に統一されていてもよいし、形状が統一されていなくてもよい。チューブ2の形状が統一されていない場合には、チューブ2は少なくとも二つの端部を有していればよく、特に、造形物1が少なくとも三つの端部を有するチューブ2を一つ以上含み、その数が多いほど、造形物1の形態を種々のものにすることが容易となるので、好適である。
【0029】
図2(A)には、一本のチューブ2内に一種類の充填材料のみを充填する例を示しているが、これに限らず、例えば一本のチューブ2内を複数の室に区画し、各室に異なる充填材料を充填するようにしてもよい。
【0030】
図2(A)及び(B)には、チューブ2内に充填される充填材料の膨張及び/又は収縮のし易さを異ならせてある例を示したが、これに限らず、チューブ2自体の膨張及び/又は収縮のし易さを異ならせ、少なくとも一部のチューブ2についての周辺環境の変化に伴う伸縮度合いが他のチューブ2と異なるようにしてあってもよい。
【0031】
チューブ2自体の膨張及び/又は収縮のし易さを異ならせるための手段としては、具体的には、チューブ2の径、肉厚、長さ、体積、形状を異ならせる、チューブ2の厚みを周方向に偏らせる、チューブ2に異方性材料を用いる、チューブ2の素材密度に異なるばらつきをもたせる、といった例を挙げることができる。また、チューブ2周囲の湿度が高まると水分を吸収して膨張するような素材を一部のチューブ2の外壁部分に設けてあってもよい。さらに、チューブ2の外面の光の反射率や吸収率を異ならせて、チューブ2内の充填材料の温度変化に差異をつけるようにしてもよい。加えて、一部のチューブ2を意図的にねじったり引き延ばしたり折り曲げたり絡み合わせたりした状態で配置してもよい。
【0032】
ここで、チューブ2の径を統一しない場合には異なる径のチューブ2どうしを連結する必要がある。そして、径の異なるチューブ2どうしを連結するには、例えば、径違い管継手(例えば異径ソケット)を用いて連結したり、各接合管3に管フランジを設け、径の異なる管フランジを異径クイックファスナーで挟み込んで連結したり、チューブ2の径の違いを接合管3で吸収することができるように各接合管3を構成したりすればよい。
【0033】
チューブ2で構成する構造体の面内剛性を高める必要がある場合には、チューブ2の変形に追従する膜等の面材でチューブ2を拘束してもよい。この場合、チューブ2が膜に拘束されて全く変形しなくなるわけではなく、チューブ2が変形したときの復帰力が膜によって増大し、その結果、面内剛性が上昇することになる。もちろん、膜の一部または全部を、チューブ2の変形に追従しない板状部材によって構成してもよい。なお、面材は、例えばチューブ2に接着や縫合等によって接合してあってもよいし、ロープ等でチューブ2に繋いであってもよく、チューブ2に一体成形してあってもよい。
【0034】
また、全てのチューブ2が伸縮性を有していてもよいが、一部のチューブ2のみが伸縮性を有するように構成してもよい。
【0035】
図1(A)には、トンネル状に形成された造形物1を示しているが、これに限らず、造形物1には種々の形状をとらせることができ、例えば造形物1がチューブ2や上記面材で構成された床面を有していてもよい。
【0036】
なお、本明細書で挙げた変形例どうしを適宜組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0037】
1 造形物
2 チューブ
2A チューブ
2B チューブ
2C チューブ
3 接合管
51 チューブ