特許第6346034号(P6346034)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許63460343次元像構築方法、画像処理装置、および電子顕微鏡
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346034
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】3次元像構築方法、画像処理装置、および電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/22 20060101AFI20180611BHJP
   H01J 37/26 20060101ALI20180611BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   H01J37/22 501Z
   H01J37/26
   H01J37/28 C
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-175640(P2014-175640)
(22)【出願日】2014年8月29日
(65)【公開番号】特開2016-51576(P2016-51576A)
(43)【公開日】2016年4月11日
【審査請求日】2017年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】青山 佳敬
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−119100(JP,A)
【文献】 特開2011−129500(JP,A)
【文献】 特開2010−251041(JP,A)
【文献】 特開2001−084944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00 −37/02
H01J 37/05
H01J 37/09 −37/18
H01J 37/21 −37/244
H01J 37/252−37/295
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第1傾斜像シリーズを取得する工程と、
前記第1傾斜像シリーズを取得したときの前記試料の状態から前記試料を試料面に垂直な軸まわりに回転させた後に前記試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第2傾斜像シリーズを取得する工程と、
前記第1傾斜像シリーズおよび前記第2傾斜像シリーズに基づいて、3次元像を構築する工程と、
を含み、
前記3次元像を構築する工程では、
前記第2傾斜像シリーズを、前記第1傾斜像シリーズと向きが同じになるように回転させ、
前記第1傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部を、前記第2傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部と差し替えて第3傾斜像シリーズを作成し、前記3次元像を構築する、3次元像構築方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1傾斜像シリーズを取得する工程の後であって、前記第2傾斜像シリーズを取得する工程の前に、前記試料を前記試料面に垂直な軸まわりに180°回転させる工程を含む、3次元像構築方法。
【請求項3】
試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第1傾斜像シリーズを取得する工程と、
前記第1傾斜像シリーズを取得したときの前記試料の状態から前記試料を裏返した後に前記試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第2傾斜像シリーズを取得する工程と、
前記第1傾斜像シリーズおよび前記第2傾斜像シリーズに基づいて、3次元像を構築す
る工程と、
を含み、
前記第2傾斜像シリーズを、前記第1傾斜像シリーズと向きが同じになるように反転させ、
前記第1傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部を、前記第2傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部と差し替えて第3傾斜像シリーズを作成し、前記3次元像を構築する、3次元像構築方法。
【請求項4】
請求項において、
前記第1傾斜像シリーズを取得する工程の後であって、前記第2傾斜像シリーズを取得する工程の前に、前記試料を裏返す工程を含む、3次元像構築方法。
【請求項5】
請求項1ないしのいずれか1項において、
前記試料の元素マッピング像は、前記試料に電子線を照射することによって発生したX線を、エネルギー分散型X線検出器で検出して得られた像である、3次元像構築方法。
【請求項6】
試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第1傾斜像シリーズを取得する第1傾斜像シリーズ取得部と、
前記第1傾斜像シリーズを取得したときの前記試料の状態から前記試料を試料面に垂直な軸まわりに回転させた後に前記試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第2傾斜像シリーズを取得する第2傾斜像シリーズ取得部と、
前記第1傾斜像シリーズおよび前記第2傾斜像シリーズに基づいて、3次元像を構築する3次元像構築部と、
を含み、
前記3次元像構築部は、
前記第2傾斜像シリーズを、前記第1傾斜像シリーズと向きが同じになるように回転させ、
前記第1傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部を、前記第2傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部と差し替えて第3傾斜像シリーズを作成し、前記3次元像を構築する、画像処理装置。
【請求項7】
請求項において、
前記第2傾斜像シリーズは、前記第1傾斜像シリーズを取得したときの前記試料の状態から、前記試料を試料面に対して垂直な軸まわりに180°回転させた後に、取得された前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている、画像処理装置。
【請求項8】
試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第1傾斜像シリーズを取得する第1傾斜像シリーズ取得部と、
前記第1傾斜像シリーズを取得したときの前記試料の状態から前記試料を裏返した後に前記試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第2傾斜像シリーズを取得する第2傾斜像シリーズ取得部と、
前記第1傾斜像シリーズおよび前記第2傾斜像シリーズに基づいて、3次元像を構築する3次元像構築部と、
を含み、
前記3次元像構築部は、
前記第2傾斜像シリーズを、前記第1傾斜像シリーズと向きが同じになるように反転させ、
前記第1傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部を、前記第2傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部と差し替えて第3傾斜像シリーズを作成し、前記3次元像を構築する、画像処理装置。
【請求項9】
請求項ないしのいずれか1項において、
前記試料の元素マッピング像は、前記試料に電子線を照射することによって発生したX線を、エネルギー分散型X線検出器で検出して得られた像である、画像処理装置。
【請求項10】
請求項ないしのいずれか1項に記載の画像処理装置を含む、電子顕微鏡
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元像構築方法、画像処理装置、および電子顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
透過電子顕微鏡(TEM)や、走査透過電子顕微鏡(STEM)等の電子顕微鏡にCT法(Computerized Tomography Method)を適用することで、試料を3次元的に構造観察・構造解析する手法として、電子線トモグラフィー(electron tomography、ET)が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、近年、エネルギー分散型X線分光法(EDS)と、電子線トモグラフィー(ET)と、を組み合わせたEDSトモグラフィーが注目されている。EDSトモグラフィーは、EDSとETを組み合わせた三次元元素分析手法である。
【0004】
EDSトモグラフィーは、まず、電子顕微鏡を用いて試料をさまざまな角度で傾斜させ、元素マッピング像を取得する。例えば、傾斜角度範囲を±60°とし、5°ずつ試料を傾斜させ、傾斜角度ごとに元素マッピング像を取得すれば、25個の元素マッピング像から構成される傾斜像シリーズを取得できる。そして、傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像に対してCT法を適用することで、再構成断面像(2次元像)が得られる。得られた一連の断面像を重ね合わせることで3次元像(3次元元素分布像)が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−209050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、電子顕微鏡の試料は、一般的に3mmφのメッシュに固定されて観察される。傾斜像シリーズを取得するために試料を傾斜していくと、特定の傾斜角度においてEDS検出器が試料ホルダーのフレームや、メッシュ、試料の影になってしまう。これにより、試料で発生した特性X線が遮断されてX線強度が減少し、元素マッピング像の輝度が低下してしまい、3次元像の精度が低下してしまうという問題が生じる。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、精度の高い3次元像を構築することができる3次元像構築方法、および画像処理装置を提供することにある。また、本発明のいくつかの態様に係る目的の1つは、上記画像処理装置を含む電子顕微鏡を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る3次元像構築方法は、
試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第1傾斜像シリーズを取得する工程と、
前記第1傾斜像シリーズを取得したときの前記試料の状態から前記試料を試料面に垂直な軸まわりに回転させた後に前記試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第2傾斜像シリーズを取得する工程と、
前記第1傾斜像シリーズおよび前記第2傾斜像シリーズに基づいて、3次元像を構築する工程と、
を含み、
前記3次元像を構築する工程では、
前記第2傾斜像シリーズを、前記第1傾斜像シリーズと向きが同じになるように回転させ、
前記第1傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部を、前記第2傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部と差し替えて第3傾斜像シリーズを作成し、前記3次元像を構築する
【0009】
このような3次元像構築方法では、第1傾斜像シリーズおよび第2傾斜像シリーズに基づいて3次元像を構築するため、第1傾斜像シリーズを構成する電子顕微鏡像または元素マッピング像のうち、試料で発生した信号(例えば二次電子や特性X線)が試料ホルダー等で遮断されて輝度が低下した電子顕微鏡像または元素マッピング像を、対応する第2傾斜像シリーズを構成する電子顕微鏡像または元素マッピング像と差し替えて、3次元像を構築することができる。したがって、3次元像を構築するための傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の傾斜角度依存性を低減させることができ、精度の高い3次元像を得ることができる。また、このような3次元像構築方法では、第3傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の傾斜角度依存性を低減させることができ、精度の高い3次
元像を得ることができる。
【0010】
(2)本発明に係る3次元像構築方法において、
前記第1傾斜像シリーズを取得する工程の後であって、前記第2傾斜像シリーズを取得する工程の前に、前記試料を前記試料面に垂直な軸まわりに180°回転させる工程を含んでいてもよい。
【0011】
このような3次元像構築方法では、第2傾斜像シリーズを構成している電子顕微鏡像または元素マッピング像を180°回転させることで、第1傾斜像シリーズを構成している電子顕微鏡像または元素マッピング像に対応させることができる。したがって、容易に、第1傾斜像シリーズを構成している電子顕微鏡像または元素マッピング像を、第2傾斜像シリーズを構成している電子顕微鏡像または元素マッピング像に差し替えることができる。
【0014】
(3)本発明に係る3次元像構築方法は、
試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第1傾斜像シリーズを取得する工程と、
前記第1傾斜像シリーズを取得したときの前記試料の状態から前記試料を裏返した後に前記試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第2傾斜像シリーズを取得する工程と、
前記第1傾斜像シリーズおよび前記第2傾斜像シリーズに基づいて、3次元像を構築する工程と、
を含み、
前記第2傾斜像シリーズを、前記第1傾斜像シリーズと向きが同じになるように反転させ、
前記第1傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部を、前記第2傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部と差し替えて第3傾斜像シリーズを作成し、前記3次元像を構築する
【0015】
このような3次元像構築方法では、第1傾斜像シリーズおよび第2傾斜像シリーズに基づいて3次元像を構築するため、第1傾斜像シリーズを構成する電子顕微鏡像または元素マッピング像のうち、試料で発生した信号が試料ホルダー等で遮断されて輝度が低下した電子顕微鏡像または元素マッピング像を、対応する第2傾斜像シリーズを構成する電子顕微鏡像または元素マッピング像と差し替えて、3次元像を構築することができる。したがって、3次元像を構築するための傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の傾斜角度依存性を低減させることができ、精度の高い3次元像を得ることができる。また、このような3次元像構築方法では、第3傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の傾斜角度依存性を低減させることができ、精度の高い3次元像を得ることができる。
【0016】
)本発明に係る3次元像構築方法において、
前記第1傾斜像シリーズを取得する工程の後であって、前記第2傾斜像シリーズを取得する工程の前に、前記試料を裏返す工程を含んでいてもよい。
【0019】
)本発明に係る3次元像構築方法において、
前記試料の元素マッピング像は、前記試料に電子線を照射することによって発生したX線を、エネルギー分散型X線検出器で検出して得られた像であってもよい。
【0020】
このような3次元像構築方法では、精度の高い3次元元素分布像を得ることができる。
【0021】
)本発明に係る画像処理装置は、
試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第1傾斜像シリーズを取得する第1傾斜像シリーズ取得部と、
前記第1傾斜像シリーズを取得したときの前記試料の状態から前記試料を試料面に垂直な軸まわりに回転させた後に前記試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第2傾斜像シリーズを取得する第2傾斜像シリーズ取得部と、
前記第1傾斜像シリーズおよび前記第2傾斜像シリーズに基づいて、3次元像を構築する3次元像構築部と、
を含み、
前記3次元像構築部は、
前記第2傾斜像シリーズを、前記第1傾斜像シリーズと向きが同じになるように回転させ、
前記第1傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部を、前記第2傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部と差し替えて第3傾斜像シリーズを作成し、前記3次元像を構築する
【0022】
このような画像処理装置は、第1傾斜像シリーズおよび第2傾斜像シリーズに基づいて
3次元像を構築するため、第1傾斜像シリーズを構成する電子顕微鏡像または元素マッピング像のうち、試料で発生した信号が試料ホルダー等で遮断されて輝度が低下した電子顕微鏡像または元素マッピング像を、対応する第2傾斜像シリーズを構成する電子顕微鏡像または元素マッピング像と差し替えて、3次元像を構築することができる。したがって、3次元像を構築するための傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の傾斜角度依存性を低減させることができ、精度の高い3次元像を得ることができる。また、このような画像処理装置は、第3傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の傾斜角度依存性を低減させることができ、精度の高い3次元像を得ることができる。
【0023】
)本発明に係る画像処理装置において、
前記第2傾斜像シリーズは、前記第1傾斜像シリーズを取得したときの前記試料の状態から、前記試料を試料面に対して垂直な軸まわりに180°回転させた後に取得された前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されていてもよい。
【0024】
このような画像処理装置では、第2傾斜像シリーズを構成している電子顕微鏡像または元素マッピング像を180°回転させることで、第1傾斜像シリーズを構成している電子顕微鏡像または元素マッピング像に対応させることができる。したがって、容易に、第1傾斜像シリーズを構成している電子顕微鏡像または元素マッピング像を、第2傾斜像シリ
ーズを構成している電子顕微鏡像または元素マッピング像に差し替えることができる。
【0027】
)本発明に係る画像処理装置は、
試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第1傾斜像シリーズを取得する第1傾斜像シリーズ取得部と、
前記第1傾斜像シリーズを取得したときの前記試料の状態から前記試料を裏返した後に前記試料を複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像で構成されている第2傾斜像シリーズを取得する第2傾斜像シリーズ取得部と、
前記第1傾斜像シリーズおよび前記第2傾斜像シリーズに基づいて、3次元像を構築する3次元像構築部と、
を含み、
前記3次元像構築部は、
前記第2傾斜像シリーズを、前記第1傾斜像シリーズと向きが同じになるように反転させ、
前記第1傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部を、前記第2傾斜像シリーズを構成する前記試料の電子顕微鏡像または元素マッピング像の一部と差し替えて第3傾斜像シリーズを作成し、前記3次元像を構築する
【0028】
このような画像処理装置は、第1傾斜像シリーズおよび第2傾斜像シリーズに基づいて3次元像を構築するため、第1傾斜像シリーズを構成する電子顕微鏡像または元素マッピング像のうち、試料で発生した信号が試料ホルダー等で遮断されて輝度が低下した電子顕微鏡像または元素マッピング像を、対応する第2傾斜像シリーズを構成する電子顕微鏡像または元素マッピング像と差し替えて、3次元像を構築することができる。したがって、3次元像を構築するための傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の傾斜角度依存性を低減させることができ、精度の高い3次元像を得ることができる。また、このような画像処理装置は、第3傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の傾斜角度依存性を低減させることができ、精度の高い3次元像を得ることができる。
【0031】
)本発明に係る画像処理装置において、
前記試料の元素マッピング像は、前記試料に電子線を照射することによって発生したX線を、エネルギー分散型X線検出器で検出して得られた像であってもよい。
【0032】
このような画像処理装置では、精度の高い3次元元素分布像を得ることができる。
【0033】
10)本発明に係る電子顕微鏡は、
本発明に係る画像処理装置を含む。
【0034】
このような電子顕微鏡では、精度の高い3次元像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本実施形態に係る画像処理装置を含む電子顕微鏡の構成を模式的に示す図。
図2】試料ステージの動作を説明するための図。
図3】試料ステージの動作を説明するための図。
図4】EDS検出器と試料との位置関係を模式的に示す図。
図5】EDS検出器と試料との位置関係を模式的に示す図。
図6】本実施形態に係る3次元像構築方法の一例を示すフローチャート。
図7】塗膜試料の透過電子顕微鏡像。
図8】第1傾斜像シリーズを構成する元素マッピング像の一部を示す図。
図9】第2傾斜像シリーズを構成する元素マッピング像の一部を示す図。
図10】第1傾斜像シリーズを構成する0°傾斜における元素マッピング像。
図11】第1傾斜像シリーズのX線カウントと傾斜角度の関係を示すグラフ。
図12】第3傾斜像シリーズのX線カウントと傾斜角度の関係を示すグラフ。
図13】構築された3次元像を示す図。
図14】試料ステージの動作を説明するための図。
図15】試料ステージの動作を説明するための図。
図16】第1変形例に係る3次元像構築方法の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0037】
1. 画像処理装置および電子顕微鏡
まず、本実施形態に係る画像処理装置を含む電子顕微鏡について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る画像処理装置100を含む電子顕微鏡1000の構成を模式的に示す図である。なお、図1では、便宜上、対物レンズ14のポールピースの図示を省略している。
【0038】
電子顕微鏡1000は、図3に示すように、電子顕微鏡本体10と、画像処理装置100と、を含む。
【0039】
電子顕微鏡本体10は、例えば、走査透過電子顕微鏡(STEM)の構成を有している。走査透過電子顕微鏡は、電子プローブで試料S上を走査し、試料Sを透過した電子を検出して走査透過電子顕微鏡像(STEM像)を得るための装置である。また、電子顕微鏡本体10は、エネルギー分散型X線検出器(energy dispersive X−ray spectrometer、以下「EDS検出器」ともいう)20を備えている。
【0040】
電子顕微鏡本体10は、電子線源11と、集束レンズ12と、走査偏向器13と、対物レンズ14と、試料ステージ15と、試料ホルダー16と、中間レンズ17と、投影レンズ18と、透過電子検出器19と、EDS検出器20と、偏向器制御装置30と、ステージ制御装置32と、多重波高分析器34と、を含む。
【0041】
電子線源11は、電子線EBを発生させる。電子線源11は、陰極から放出された電子を陽極で加速し電子線EBを放出する。電子線源11としては、例えば、電子銃を用いる
ことができる。電子線源11として用いられる電子銃は特に限定されず、例えば熱電子放出型や、熱電界放出型、冷陰極電界放出型などの電子銃を用いることができる。
【0042】
集束レンズ(コンデンサーレンズ)12は、電子線源11の後段(電子線EBの下流側)に配置されている。集束レンズ12は、電子線源11で発生した電子線EBを集束して試料Sに照射するためのレンズである。集束レンズ12は、図示はしないが、複数のレンズを含んで構成されていてもよい。
【0043】
走査偏向器13は、集束レンズ12の後段に配置されている。走査偏向器13は、電子線EBを偏向させて、集束レンズ12および対物レンズ14で集束された電子線EB(電子プローブ)で試料S上を走査する。走査偏向器13は、電子線EBを偏向させる偏向コイルを有している。走査偏向器13は、偏向器制御装置30によって制御される。偏向器制御装置30は、後述する制御信号生成部112で生成された走査信号に基づいて走査偏向器13を制御する。
【0044】
対物レンズ14は、走査偏向器13(走査コイル)の後段に配置されている。対物レンズ14は、電子線EBを集束して試料Sに照射するためのレンズである。
【0045】
試料ステージ15は、試料Sを保持する。図示の例では、試料ステージ15は、試料ホルダー16を介して、試料Sを保持している。試料ステージ15は、試料ホルダー16を移動および静止させることにより、試料Sの位置決めを行うことができる。試料ステージ15は、試料Sを水平方向(電子線EBの進行方向に対して直交する方向)や鉛直方向(電子線EBの進行方向に沿う方向)に移動させることができる。
【0046】
図2および図3は、試料ステージ15の動作を説明するための図である。なお、図3は、試料Sを軸Pまわりに180°回転させた状態を図示している。
【0047】
試料ステージ15は、試料Sを傾斜させることができる。試料ステージ15は、例えば、光軸に直交する傾斜軸TAを中心(軸)として試料Sを傾斜させることができる。試料ステージ15は、例えば、試料Sを±60°の範囲で傾斜させることができる。
【0048】
また、試料ステージ15は、図2および図3に示すように、試料Sを試料面Sfに垂直な軸Pまわりに回転させることができる。例えば、試料ステージ15は、試料Sを軸Pまわりに180°回転させることができる。ここで、試料面Sfは、例えば、試料Sの電子線EBが入射する表面を平坦であると仮定したときの当該表面を表す仮想平面である。試料ステージ15は、ステージ制御装置32によって制御される。
【0049】
試料ステージ15は、図示の例では、対物レンズ14のポールピース(図示せず)の横から試料Sを挿入するサイドエントリーステージである。なお、図示はしないが、試料ステージ15は、ポールピースの上方から試料Sを挿入するトップエントリーステージであってもよい。
【0050】
中間レンズ17は、対物レンズ14の後段に配置されている。投影レンズ18は、中間レンズ17の後段に配置されている。中間レンズ17および投影レンズ18は、試料Sを透過した電子線EBを透過電子検出器19に導く。例えば、中間レンズ17および投影レンズ18は、対物レンズ14の像面もしくは後焦点面(回折図形が形成される面)を投影して透過電子検出器19上に結像する。
【0051】
透過電子検出器19は、投影レンズ18の後段に配置されている。透過電子検出器19は、試料Sを透過した電子を検出する。透過電子検出器19の検出信号を、走査信号に同
期させて画像化することにより、走査透過電子顕微鏡像を得ることができる。
【0052】
EDS検出器20は、電子線EBが照射されることにより試料Sから発生した特性X線を検出する。EDS検出器20としては、例えば、シリコンドリフト検出器(SDD)、Si(Li)検出器等を用いることができる。EDS検出器20の出力信号(出力パルス)は、多重波高分析器34に送られる。
【0053】
多重波高分析器(マルチチャンネルアナライザー)34は、複数のチャンネルを持った波高分析器である。多重波高分析器34は、EDS検出器20の出力信号(出力パルス)をX線のエネルギー毎に計数しEDSスペクトル情報を生成する。多重波高分析器34は、EDSスペクトル情報を処理部110に送る。
【0054】
図4および図5は、電子顕微鏡1000における、EDS検出器20と試料Sとの位置関係を模式的に示す図である。なお、図4は、試料Sを水平に配置した状態を図示している。また、図5は、試料Sを傾斜させて状態を図示している。
【0055】
図4および図5に示すように、対物レンズ14は、上部磁極(ポールピースの上極)14aおよび下部磁極(ポールピースの下極)14bを有している。対物レンズ14は、上部磁極14aと下部磁極14bとの間に磁場を発生させて電子線EBを集束させる。試料ステージ15は、例えば、対物レンズ14の上部磁極14aと下部磁極14bとの間に試料ホルダー16に保持された試料Sを位置させる。上部磁極14aと下部磁極14bとの間のギャップは、試料ステージ15が試料Sを高角度傾斜させたときにも干渉しないような大きさを有している。
【0056】
EDS検出器20は、図4および図5に示すように、対物レンズ14の側方に配置される。より具体的には、EDS検出器20は、対物レンズ14からみて、傾斜軸TAおよび電子線EBの進行方向(光軸)と直交する方向Aに位置している。試料Sは対物レンズ14の上部磁極14aと下部磁極14bとの間に位置しているため、EDS検出器20は試料Sの側方、すなわち、試料Sからみて方向Aに位置している。EDS検出器20が試料S(対物レンズ14)の側方に配置されていることにより、図5に示すように、特定の傾斜角度では、試料Sから発生した特性X線の少なくとも一部は、試料ホルダー16や、試料S自身によって遮断されてEDS検出器20で検出されない。
【0057】
電子顕微鏡本体10は、図1に示すように、除振器40を介して架台42上に設置されている。
【0058】
画像処理装置100は、EDSトモグラフィーにより試料Sの3次元元素分布像を構築する。画像処理装置100は、図1に示すように、処理部110と、操作部120と、表示部122と、記憶部124と、情報記憶媒体126を、を含む。
【0059】
操作部120は、ユーザーによる操作に応じた操作信号を取得し、処理部110に送る処理を行う。操作部120は、例えば、ボタン、キー、タッチパネル型ディスプレイ、マイクなどである。
【0060】
表示部122は、処理部110によって生成された画像を表示するものであり、その機能は、LCD、CRTなどにより実現できる。表示部122は、例えば、処理部110で生成された試料Sの3次元元素分布像を表示する。また、表示部122は、後述する第1傾斜像シリーズ取得部114および第2傾斜像シリーズ取得部116で取得された第1傾斜像シリーズおよび第2傾斜像シリーズを構成している各元素マッピング像を表示することができる。
【0061】
記憶部124は、処理部110のワーク領域となるもので、その機能はRAMなどにより実現できる。記憶部124は、処理部110が各種の制御処理や計算処理を行うためのプログラムやデータ等を記憶している。また、記憶部124は、処理部110の作業領域として用いられ、処理部110が各種プログラムに従って実行した算出結果等を一時的に記憶するためにも使用される。
【0062】
情報記憶媒体126(コンピューターにより読み取り可能な媒体)は、プログラムやデータなどを格納するものであり、その機能は、光ディスク(CD、DVD)、光磁気ディスク(MO)、磁気ディスク、ハードディスク、磁気テープ、或いはメモリ(ROM)などにより実現できる。処理部110は、情報記憶媒体126に格納されるプログラム(データ)に基づいて本実施形態の種々の処理を行う。情報記憶媒体126には、処理部110の各部としてコンピューターを機能させるためのプログラムを記憶することができる。
【0063】
処理部110は、情報記憶媒体126に記憶されているプログラムに従って、各種の制御処理や計算処理を行う。処理部110は、情報記憶媒体126に記憶されているプログラムを実行することで、以下に説明する、制御信号生成部112、2次元像生成部113、第1傾斜像シリーズ取得部114、第2傾斜像シリーズ取得部116、3次元像構築部118として機能する。処理部110の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)、ASIC(ゲートアレイ等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。なお、処理部110の少なくとも一部をハードウェア(専用回路)で実現してもよい。処理部110は、制御信号生成部112と、2次元像生成部113と、第1傾斜像シリーズ取得部114と、第2傾斜像シリーズ取得部116と、3次元像構築部118と、を含む。
【0064】
制御信号生成部112は、各種制御信号を生成して偏向器制御装置30や、ステージ制御装置32等に出力する。例えば、制御信号生成部112は、走査信号を生成して、偏向器制御装置30に出力する。また、制御信号生成部112は、試料Sを複数段階に傾斜させるための制御信号を生成してステージ制御装置32に出力する。また、制御信号生成部112は、試料Sを軸Pまわりに所与の角度(例えば180°)だけ回転させるための制御信号を生成してステージ制御装置32に出力する。
【0065】
2次元像生成部113は、多重波高分析器34から出力されたEDSスペクトル情報を取り込んで、試料Sの元素マッピング像(2次元元素分布画像)を生成する。2次元像生成部113は、EDSスペクトル情報に基づいて、各元素に固有のX線の強度の情報を取得し、その強度に応じた輝度変調を走査信号と同期させることにより、元素マッピング像を生成する。
【0066】
第1傾斜像シリーズ取得部114は、2次元像生成部113から出力された元素マッピング像の情報を取り込んで元素マッピング像を取得する。第1傾斜像シリーズ取得部114は、試料Sを複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの元素マッピング像を取得することにより、第1傾斜像シリーズを取得する。すなわち、第1傾斜像シリーズは、互いに異なる傾斜角度で取得された複数の元素マッピング像で構成されている。例えば、第1傾斜像シリーズ取得部114は、試料Sが+60°から−60°まで5°ステップで25段階に傾斜したときに得られる25個の元素マッピング像を取得することにより、第1傾斜像シリーズを取得する。
【0067】
第2傾斜像シリーズ取得部116は、2次元像生成部113から出力された、第1傾斜像シリーズを構成する元素マッピング像を取得したときの試料Sの状態から試料Sを軸Pまわりに180°回転させた後の元素マッピング像を取得する。
【0068】
例えば、図2に示す試料Sの状態(試料Sの向き)を第1傾斜像シリーズを構成する元素マッピング像を取得するときの試料Sの状態とした場合、図3に示す試料Sの状態が、第2傾斜像シリーズを構成する元素マッピング像を取得するときの試料Sの状態となる。
【0069】
第2傾斜像シリーズ取得部116は、回転後の試料Sを複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの元素マッピング像を取得することにより、第2傾斜像シリーズを取得する。すなわち、第2傾斜像シリーズは、互いに異なる傾斜角度で取得された複数の元素マッピング像で構成されている。例えば、第2傾斜像シリーズ取得部116は、試料Sが+60°から−60°まで5°ステップで25段階に傾斜したときに得られる25個の元素マッピング像を取得することにより、第2傾斜像シリーズを取得する。第2傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像は、例えば、第1傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像と、同じ測定条件で取得される。すなわち、第1傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像と第2傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像とは、例えば、測定視野、電子線EBの照射量等は同じであり、互いに同じ傾斜角度範囲、同じ傾斜角度ステップで取得される。
【0070】
3次元像構築部118は、第1傾斜像シリーズおよび第2傾斜像シリーズに基づいて、3次元像を構築する。3次元像構築部118は、第2傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像を、第1傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像と向きが同じになるように回転させる。そして、3次元像構築部118は、第1傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の一部を、第2傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の一部と差し替えて第3傾斜像シリーズを作成する。
【0071】
例えば、3次元像構築部118は、第1傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像のうち、他の元素マッピング像に比べて輝度(X線カウント)が低い元素マッピング像を、第2傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像に差し替えて、第3傾斜像シリーズを作成する。3次元像構築部118は、例えば、第1傾斜像シリーズを構成する各元素マッピング像の輝度を計測して、差し替えの対象となる輝度の低い元素マッピング像を選択する。
【0072】
なお、3次元像構築部118は、あらかじめ設定された角度範囲の元素マッピング像を差し替えの対象としてもよい。EDS検出器20が試料ホルダー16や、試料S自身の影になってしまって元素マッピング像の輝度が低下する角度範囲をあらかじめ実験や計算等で求めることで、差し替えの対象となる角度範囲を設定することができる。
【0073】
また、オペレーターが、表示部122に表示された第1傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像を確認して、差し替えの対象となる元素マッピング像を選択してもよい。
【0074】
3次元像構築部118は、このようにして、第1傾斜像シリーズを構成する第1元素マッピング像の一部を、第2傾斜像シリーズを構成する第2元素マッピング像の一部と差し替えて第3傾斜像シリーズを作成する。
【0075】
3次元像構築部118は、作成した第3傾斜像シリーズを構成している複数の元素マッピング像にCT法(Computerized tomography Method)を適用して、3次元像を構築する処理を行う。具体的には、3次元像構築部118は、第3傾斜像シリーズを構成している複数の元素マッピング像から断面像を再構成し、得られた再構成断面像のシリーズを重ね合わせることで3次元像(3次元元素分布像)を構築する。
【0076】
2. 3次元像構築方法
次に、本実施形態に係る画像処理装置100を含む電子顕微鏡1000を用いた、試料Sの3次元像を構築する方法について、図面を参照しながら説明する。図6は、本実施形態に係る3次元像構築方法の一例を示すフローチャートである。
【0077】
まず、第1傾斜像シリーズを取得する(ステップS10)。
【0078】
具体的には、制御信号生成部112が、試料Sを複数段階に傾斜させるための制御信号を生成してステージ制御装置32に出力する。ステージ制御装置32は、この制御信号に基づいて試料ステージ15を制御して、試料Sを複数段階に傾斜させる。また、制御信号生成部112は、傾斜角度ごとに、電子線EBで試料Sを走査するための走査信号を偏向器制御装置30に出力する。これにより、傾斜角度ごとに、EDSマッピングを行うことができる。そして、2次元像生成部113では、傾斜角度ごとの元素マッピング像が生成される。
【0079】
第1傾斜像シリーズ取得部114は、2次元像生成部113で生成された傾斜角度ごとの元素マッピング像を取得することにより、第1傾斜像シリーズを取得する。
【0080】
次に、試料Sを試料面Sfに対して垂直な軸Pまわりに180°回転させる(ステップS12)。
【0081】
具体的には、制御信号生成部112が、試料Sを軸Pまわりに180°回転させるための制御信号を生成してステージ制御装置32に出力する。ステージ制御装置32は、この制御信号に基づいて試料ステージ15を制御して、試料Sを軸Pまわりに180°回転させる。
【0082】
なお、本工程は、例えばオペレーターが、試料Sを試料ホルダー16から取り外した後、試料Sを180°回転させて再び試料ホルダー16に装着することで行われてもよい。すなわち、本工程は、オペレーターによって手動で行われてもよい。
【0083】
次に、第2傾斜像シリーズを取得する(ステップS14)。
【0084】
このステップS14は、試料Sを軸Pまわりに180°回転させた後に行われる点、および第2傾斜像シリーズ取得部116が傾斜角度ごとの元素マッピング像を取得する点を除いて、ステップS10と同様に行うことができる。また、ステップS14では、ステップS10と同じ測定条件で行われる。すなわち、ステップS14とステップS10では、例えば、傾斜角度範囲および傾斜角度ステップは同じである。また、ステップS14とステップS10では、例えば、測定領域、電子線EBの照射量等が同じである。
【0085】
ステップS14では、第2傾斜像シリーズ取得部116が、試料Sを軸Pまわりに180°回転させた後の試料Sの元素マッピング像を傾斜角度ごとに取得して、第2傾斜像シリーズを取得する。
【0086】
次に、3次元像を構築する(ステップS16)。
【0087】
3次元像構築部118は、第1傾斜像シリーズおよび第2傾斜像シリーズに基づいて、3次元像を構築する。具体的には、3次元像構築部118は、第1傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像のうち、他の元素マッピング像に比べて輝度が低い元素マッピング像を、第2傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像に差し替えて、第3傾斜像シリーズを作成する。そして、3次元像構築部118は、第3傾斜像シリーズを構成す
る複数の元素マッピング像にCT法を適用して、3次元像を構築する処理を行う。3次元像構築部118は、生成した3次元像を表示部122に表示する処理を行う。
【0088】
以上の工程により、試料Sの3次元像(3次元元素分布像)を構築することができる。
【0089】
本実施形態に係る3次元像構築方法および画像処理装置100は、例えば、以下の特徴を有する。
【0090】
本実施形態に係る3次元像構築方法では、試料Sを複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの元素マッピング像で構成されている第1傾斜像シリーズを取得する工程(ステップS10)と、第1傾斜像シリーズを取得したときの試料Sの状態から軸Pまわりに回転させた後に試料Sを複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの元素マッピング像で構成されている第2傾斜像シリーズを取得する工程(ステップS14)と、第1傾斜像シリーズおよび前記第2傾斜像シリーズに基づいて、3次元像を構築する工程(ステップS16)と、を含む。
【0091】
ここで、試料Sを傾斜していくと、特定の傾斜角度においてEDS検出器20が試料ホルダー16や、試料Sを固定するメッシュ、試料S自身の影になってしまい、発生した特性X線が遮断されてX線強度が減少し、元素マッピング像の輝度が低下してしまう場合がある。本実施形態に係る3次元像構築方法では、第1傾斜像シリーズを構成する元素マッピング像のうち、上記のように特性X線が遮断されて輝度が低下した元素マッピング像を、対応する第2傾斜像シリーズを構成する元素マッピング像と差し替えて、3次元像を構築することができる。したがって、3次元像を構築するための傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の傾斜角度依存性(傾斜角度ごとの輝度の差)を低減させることができ、精度の高い3次元像を得ることができる。
【0092】
本実施形態に係る3次元像構築方法では、第1傾斜像シリーズを取得する工程(ステップS10)の後であって、第2傾斜像シリーズを取得する工程(ステップS14)の前に、試料Sを軸Pまわりに180°回転させる工程(ステップS12)を含む。これにより、第2傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像を180°回転させることで、第1傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像に対応させることができる。したがって、容易に、第1傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像を、第2傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像に差し替えることができる。
【0093】
本実施形態に係る3次元像構築方法では、第2傾斜像シリーズを構成する試料Sの元素マッピング像を、第1傾斜像シリーズを構成する試料Sの元素マッピング像と向きが同じになるように回転させ、第1傾斜像シリーズを構成する元素マッピング像の一部を、第2傾斜像シリーズを構成する元素マッピング像の一部と差し替えて第3傾斜像シリーズを作成し、3次元像を構築する。これにより、3次元像を構築するための傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の傾斜角度依存性を低減させることができ、精度の高い3次元像を得ることができる。
【0094】
画像処理装置100では、3次元像構築部118が第1傾斜像シリーズおよび第2傾斜像シリーズに基づいて3次元像を構築するため、上述したように、3次元像を構築するための傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像の傾斜角度依存性を低減させることができ、精度の高い3次元像を得ることができる。
【0095】
電子顕微鏡1000では、画像処理装置100を含むため、精度の高い3次元像を得ることができる。
【0096】
3. 実施例
以下、実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれによって制限されるものではない。
【0097】
(1)試料
試料としては、ミクロトームで超薄切片に加工した塗膜試料を用いた。
【0098】
(2)傾斜像シリーズの取得
まず、試料を複数段階に傾斜させて、EDSマッピングを傾斜角度ごとに行うことにより、傾斜角度ごとの元素マッピング像を取得して第1傾斜像シリーズを取得した。次に、試料を、試料面の垂線に対して180°回転させた。具体的には、水平に配置された試料(傾斜角度0°の試料)を、水平な状態を維持したまま鉛直方向の軸まわりに180°回転させた。次に、回転させた試料を複数段階に傾斜させて、EDSマッピングを傾斜角度ごとに行うことにより、傾斜角度ごとの元素マッピング像を取得して第2傾斜像シリーズを取得した。
【0099】
測定は、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製のJEM−2100F)を用いて行った。EDS検出器は、60mmSDD(solid state detector)を用いた。
【0100】
また、第1傾斜像シリーズを取得する際の測定条件と、第2傾斜像シリーズを取得する際の測定条件とは、同じとした。具体的には、傾斜角度ステップは、5°であり、傾斜角度範囲は、−60°から+60°とした。すなわち、第1傾斜像シリーズおよび第2傾斜像シリーズは、それぞれ互いに傾斜角度が異なる25個の元素マッピング像で構成される。元素マッピング像のイメージサイズは256×256pixelとした。
【0101】
(3)測定結果
図7は、塗膜試料の透過電子顕微鏡像である。図8は、第1傾斜像シリーズを構成する元素マッピング像の一部である。図9は、第2傾斜像シリーズを構成する元素マッピング像の一部である。なお、図8および図9は、Ti Kα線の元素マッピング像である。
【0102】
(4)3次元像構築
まず、第1傾斜像シリーズを構成する元素マッピング像の傾斜角度と輝度の関係を求めた。
【0103】
図10は、第1傾斜像シリーズを構成している0°傾斜における元素マッピング像である。図10に示す四角で囲まれた1つの粒子に着目し、横軸を傾斜角度にとり、縦軸にこの粒子から発生したTi Kα線のX線カウントをプロットした。この結果を図11に示す。
【0104】
図11に示すように、+20°傾斜付近(+5°〜+35°)でX線カウントが極端に低下していることがわかる。これは、試料から発生した特性X線が試料ホルダー等で遮断されているためと考えられる。図11に示す結果から、差し替えの対象となる元素マッピング像の角度範囲を、比較的X線カウントが低い傾斜角度+5°〜+60°の範囲と設定した。
【0105】
次に、第1傾斜像シリーズを構成している、+5°〜+60°傾斜の元素マッピング像を、第2傾斜像シリーズを構成している、対応する傾斜角度範囲の元素マッピング像に差し替えた。なお、このとき、差し替えられた第2傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像は、第1傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像と向きが同じになるよ
うに180°回転させた。このようにして、第3傾斜像シリーズを作成した。
【0106】
図12は、第3傾斜像シリーズにおけるX線カウントと傾斜角度の関係を示すグラフである。図12に示すグラフは、図11に示すグラフと同様に、図10に示す四角で囲まれた1つの粒子に着目し、横軸を傾斜角度にとり、縦軸をこの粒子から発生したTi Kα線のX線カウントをプロットすることで作成した。
【0107】
図12に示すグラフから、+20°傾斜付近のX線カウントの低下がなくなったことがわかる。すなわち、第3傾斜像シリーズは、第1傾斜像シリーズに比べて、角度依存性が低いといえる。
【0108】
次に、第3傾斜像シリーズを構成している25個のTiの元素マッピング像から、CT法により3次元像を構築した。なお、同様の手法で、Feの元素マッピング像、Siの元素マッピング像、Oの元素マッピング像から、それぞれ3次元像を構築した。
【0109】
図13は、構築された3次元像を示す図である。図13には、STEM暗視野像、Tiの3次元元素分布像、Feの3次元元素分布像、Siの3次元元素分布像、Oの3次元元素分布像、Ti,Fe,Si,Oの3次元元素分布像を重ねた像を示している。
【0110】
図13に示すように、それぞれの元素の分布が明瞭に観察されており、精度の高い3次元元素分布像が得られた。
【0111】
4. 変形例
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0112】
(1) 第1変形例
まず、第1変形例について説明する。なお、上述した画像処理装置100および電子顕微鏡1000の例と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0113】
上述した画像処理装置100では、第2傾斜像シリーズ取得部116は、試料Sを軸Pまわりに180°回転させた後に試料Sを複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの元素マッピング像で構成されている第2傾斜像シリーズを取得した。
【0114】
これに対して、本変形例では、第2傾斜像シリーズ取得部116は、第1傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像を取得するときの試料Sの状態から、試料Sを裏返した後に試料Sを複数段階に傾斜させて得られた、傾斜角度ごとの元素マッピング像で構成されている第2傾斜像シリーズを取得する。
【0115】
試料ステージ15は、試料Sを裏返すことができる。図14および図15は、試料ステージ15の動作を説明するための図である。試料ステージ15は、例えば、図14に示す状態から、傾斜軸TAを中心(軸)として試料Sを180°回転させることで、図15に示すように試料Sを裏返すことができる。
【0116】
次に、本変形例に係る3次元像構築方法について、説明する。図16は、第1変形例に係る3次元像構築方法の一例を示すフローチャートである。
【0117】
まず、第1傾斜像シリーズを取得する(ステップS10)。このステップS10の処理は、図6に示すステップS10の処理と同じであるため、その説明を省略する。
【0118】
次に、試料S裏返す(ステップS13)。
【0119】
具体的には、制御信号生成部112が、試料Sを裏返す(試料Sを傾斜軸TAまわりに180°回転させる)ための制御信号を生成してステージ制御装置32に出力する。ステージ制御装置32は、この制御信号に基づいて試料ステージ15を制御して、試料Sを裏返す。
【0120】
なお、本工程は、例えばオペレーターが、試料Sを試料ホルダー16から取り外した後、試料Sを裏返して再び試料ホルダー16に装着することで行われてもよい。
【0121】
次に、第2傾斜像シリーズを取得する(ステップS14)。このステップS14の処理は、試料Sを裏返した後に行われる点を除いて、図6に示すステップS14の処理と同じであるため、その説明を省略する。
【0122】
次に、3次元像を構築する(ステップS16)。このステップS16は、図6に示すステップS16と、3次元像構築部118が第2傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像を、第1傾斜像シリーズを構成している元素マッピング像と向きが同じになるように反転させる点を除いて同じであり、その説明を省略する。
【0123】
以上の工程により、試料Sの3次元像(3次元元素分布像)を構築することができる。
【0124】
本変形例に係る3次元像構築方法および画像処理装置によれば、上述した本実施形態に係る3次元像構築方法および画像処理装置100と同様の作用効果を奏することができる。
【0125】
(2)第2変形例
次に、第2変形例について説明する。上述した電子顕微鏡1000は、図1に示すように、EDS検出器20を備えていたが、その他の検出器を備えていてもよい。例えば、電子顕微鏡1000は、EDS検出器20の代わりに二次電子検出器を備えていてもよい。
【0126】
二次電子検出器は、例えば、EDS検出器20と同様の位置に配置される。そのため、二次電子検出器においても、EDS検出器20と同様に、特定の角度において試料ホルダー16や試料S自身によって試料Sから発生した二次電子が遮断されるという問題が生じる。このとき、画像処理装置100は、上述した実施形態と同様の処理を行い、二次電子像(電子顕微鏡像の一例)から3次元像を構築する処理を行う。これにより、二次電子像から精度の高い3次元像を構築することができる。
【0127】
なお、上述した実施形態及び変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば各実施形態及び各変形例は、適宜組み合わせることが可能である。
【0128】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0129】
10…電子顕微鏡本体、11…電子線源、12…集束レンズ、13…走査偏向器、14…対物レンズ、14a…上部磁極、14b…下部磁極、15…試料ステージ、16…試料ホ
ルダー、17…中間レンズ、18…投影レンズ、19…透過電子検出器、20…EDS検出器、30…偏向器制御装置、32…ステージ制御装置、34…多重波高分析器、40…除振器、42…架台、100…画像処理装置、110…処理部、112…制御信号生成部、113…2次元像生成部、114…第1傾斜像シリーズ取得部、116…第2傾斜像シリーズ取得部、118…3次元像構築部、120…操作部、122…表示部、124…記憶部、126…情報記憶媒体、1000…電子顕微鏡
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