特許第6346037号(P6346037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346037
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/10 20060101AFI20180611BHJP
   F16H 57/025 20120101ALI20180611BHJP
   B60K 25/06 20060101ALI20180611BHJP
   A01B 71/02 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   B60K17/10 D
   F16H57/025
   B60K25/06
   A01B71/02 H
【請求項の数】3
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-183343(P2014-183343)
(22)【出願日】2014年9月9日
(65)【公開番号】特開2016-55746(P2016-55746A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕輔
(72)【発明者】
【氏名】横田 一美
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−025737(JP,A)
【文献】 特開平10−203185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/10
A01B 71/02
B60K 25/06
F16H 57/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に搭載したエンジンと、前記エンジンの動力を変速する油圧無段変速機と、前記油圧無段変速機を内蔵したミッションケースと、前記ミッションケースの左右両側に後車軸ケースを介して設けた後方走行部とを備える作業車両において、
前記ミッションケースを、前部ケース、中間ケース及び後部ケースの三者に分割して構成し、前記左右の後車軸ケースを前記後部ケースの左右両側に取り付け、前記走行機体を構成する左右の機体フレームに、前記前部ケースと前記後部ケースとをつなぐ前記中間ケースを連結し
上機体連結軸体と下機体連結軸体にて、前記中間ケースの左右両側面に前記左右の機体フレームの後端部を連結させている、
作業車両。
【請求項2】
前記中間ケース及び前記後部ケースを鋳鉄製にする一方、前記前部ケースをアルミダイキャスト製にしている、
請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
前記前部ケースから前記中間ケースにわたって、前記エンジンの動力が伝わる入力軸と、前記入力軸から動力伝達される入力伝達軸とを互いに平行状に配置し、前記前部ケース内には、前記入力伝達軸を介して前記油圧無段変速機を配置している、
請求項1又は2に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
例えばトラクタ等の農作業機やクレーン車等の特殊作業機のような作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トラクタやホイルローダといった作業車両では、機体フレームの前部にエンジンを搭載し、機体フレームの後部にミッションケースを連結し、前後の走行部によって走行機体を支持している。ミッションケースには、例えば走行変速ギヤ機構、差動ギヤ機構及びPTO変速ギヤ機構等を内蔵している。前側のエンジンの動力は後側のミッションケースに伝わり、ミッションケース内の差動ギヤ機構から少なくとも左右の後方走行部に伝達される。ミッションケース内のPTO変速ギヤ機構からロータリ耕耘機等の作業部にも動力伝達される(例えば特許文献1等参照)。
【0003】
特許文献1の作業車両では、ミッションケース内にインライン式の油圧無段変速機を組み付けている。当該油圧無段変速機は、エンジンから入力軸を介して動力が伝達される油圧ポンプ部と、出力軸を介して後方走行部等に変速出力を伝達する油圧モータ部とを備えている。入力軸と出力軸とは同心状に位置する二重軸になっていて、入力軸にはこれと一体回転するシリンダブロックを被嵌している。入力軸のうちシリンダブロックを挟んで一方には油圧ポンプ部を被嵌し、他方には油圧モータ部を被嵌している。特許文献1の作業車両では、ミッションケース内の後部側に、差動ギヤ機構に隣接して油圧無段変速機を収容している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−52734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、組み立て性及びメンテナンス性向上、並びに、部品点数削減の観点からすると、ミッションケース内部には、油圧無段変速機及び走行変速ギヤ機構等の走行伝動系統や、PTO変速ギヤ機構及びPTO軸等のPTO伝動系統を、それぞれの系統ごとにまとめて配置するのが好ましい。しかし、特許文献1の構成では、ミッションケース内の前部側に走行変速ギヤ機構及びPTO変速ギヤ機構等を配置し、ミッションケースの後部側に差動ギヤ機構、油圧無段変速機及びPTO軸等を配置していて、伝動系統ごとのまとまりがなく、組み立て性、メンテナンス性及び部品点数の点から見て、未だ改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明は、上記のような現状を検討して改善を施した作業車両を提供することを技術的課題としている。
【0007】
請求項1の発明は、走行機体に搭載したエンジンと、前記エンジンの動力を変速する油圧無段変速機と、前記油圧無段変速機を内蔵したミッションケースと、前記ミッションケースの左右両側に後車軸ケースを介して設けた後方走行部とを備える作業車両において、前記ミッションケースを、前部ケース、中間ケース及び後部ケースの三者に分割して構成し、前記左右の後車軸ケースを前記後部ケースの左右両側に取り付け、前記走行機体を構成する左右の機体フレームに、前記前部ケースと前記後部ケースとをつなぐ前記中間ケースを連結し、上機体連結軸体と下機体連結軸体にて、前記中間ケースの左右両側面に前記左右の機体フレームの後端部を連結させているというものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の作業車両において、前記中間ケース及び前記後部ケースを鋳鉄製にする一方、前記前部ケースをアルミダイキャスト製にしているというものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は2に記載の作業車両において、前記前部ケースから前記中間ケースにわたって、前記エンジンの動力が伝わる入力軸と、前記入力軸から動力伝達される入力伝達軸とを互いに平行状に配置し、前記前部ケース内には、前記入力伝達軸を介して前記油圧無段変速機を配置しているというものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によると、走行機体に搭載したエンジンと、前記エンジンの動力を変速する油圧無段変速機と、前記油圧無段変速機を内蔵したミッションケースと、前記ミッションケースの左右両側に後車軸ケースを介して設けた後方走行部とを備える作業車両において、前記ミッションケースを、前部ケース、中間ケース及び後部ケースの三者に分割して構成しているから、前記各ケースに軸やギヤ等の部品を予め組み込んでから、前記前部ケース、前記中間ケース及び前記後部ケースの三者を組み立てできる。従って、前記ミッションケースの組み立てを正確に且つ能率よく行える。
【0011】
また、前記左右の後車軸ケースを前記後部ケースの左右両側に取り付け、前記走行機体を構成する左右の機体フレームに、前記前部ケースと前記後部ケースとをつなぐ前記中間ケースを連結しているから、例えば前記中間ケース及び前記後部ケースを前記機体フレームに取り付けたままで前記前部ケースだけを取り外して、軸やギヤの交換といった作業を実行できる。従って、前記ミッションケース全体を作業車両から降ろす(取り外す)頻度を格段に低くでき、メンテナンス時や修理時の作業性の向上を図れる。
【0012】
請求項2の発明によると、前記中間ケース及び前記後部ケースを鋳鉄製にする一方、前記前部ケースをアルミダイキャスト製にしているから、前記機体フレームに連結される前記中間ケースと、前記左右の後車軸ケースが連結される前記後部ケースを、前記走行機体を構成する強度メンバーとして高剛性に構成できる。その上で強度メンバーではない前記前部ケースを軽量化できる。従って、前記走行機体の剛性を十分に確保しつつ、前記ミッションケース全体としての軽量化を図れる。
【0013】
請求項3の発明によると、前記前部ケースから前記中間ケースにわたって、前記エンジンの動力が伝わる入力軸と、前記入力軸から動力伝達される入力伝達軸とを互いに平行状に配置し、前記前部ケース内には、前記入力伝達軸を介して前記油圧無段変速機を配置しているから、例えば前記中間ケース及び前記後部ケースを前記機体フレームに取り付けたままで前記前部ケースだけを取り外せば、前記油圧無段変速機を露出できる。前記ミッションケース内に配置した前記油圧無段変速機のメンテナンス性向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】トラクタの左側面図である。
図2】トラクタの平面図である。
図3】トラクタの右側面図である。
図4】トラクタを右斜め後方から見た斜視図である。
図5】走行機体の左側面説明図である。
図6】走行機体の詳細構造を示す左側面説明図である。
図7】走行機体を左斜め後方から見た斜視図である。
図8】走行機体の右側面説明図である。
図9】走行機体の詳細構造を示す右側面説明図である。
図10】走行機体を右斜め後方から見た斜視図である。
図11】トラクタの動力伝達系統のスケルトン図である。
図12】ミッションケースの左側面図である。
図13】ミッションケースを左斜め前方から見た斜視図である。
図14】ミッションケースの内部構造を示す左側面視説明図である。
図15】ミッションケースの内部構造を示す平面視説明図である。
図16】ミッションケースの内部構造を示す斜視説明図である。
図17】ミッションケース前部の左側面視断面図である。
図18】ミッションケース中間部の左側面視断面図である。
図19】ミッションケース後部の左側面視断面図である。
図20】トラクタの油圧回路図である。
図21】トラクタの潤滑系統の油圧回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本願発明を具体化した実施形態について、農作業用トラクタを図面に基づき説明する。図1図10に示す如く、トラクタ1の走行機体2は、走行部としての左右一対の前車輪3と同じく左右一対の後車輪4とで支持されている。左右一対の後車輪4が後方走行部に相当するものである。走行機体2の前部にディーゼルエンジン5(以下、単にエンジンという)を搭載し、後車輪4または前車輪3をエンジン5で駆動することによって、トラクタ1が前後進走行するように構成されている。エンジン5はボンネット6にて覆われている。走行機体2の上面にはキャビン7が設置される。該キャビン7の内部には、操縦座席8と、前車輪3を操向操作する操縦ハンドル9とが配置されている。キャビン7の左右外側には、オペレータが乗降するステップ10が設けられている。エンジン5に燃料を供給する燃料タンク11がキャビン7底部の下側に設けられている。
【0016】
走行機体2は、前バンパー12及び前車軸ケース13を有するエンジンフレーム14と、エンジンフレーム14の後部に着脱自在に固定した左右の機体フレーム15とにより構成されている。前車軸ケース13の左右両端側から外向きに、前車軸16を回転可能に突出させている。前車軸ケース13の左右両端側に前車軸16を介して前車輪3を取り付けている。機体フレーム15の後部には、エンジン5からの回転動力を適宜変速して前後四輪3,3,4,4に伝達するためのミッションケース17を連結している。左右の機体フレーム15及びミッションケース17の下面側には、左右外向きに張り出した底面視矩形枠板状のタンクフレーム18をボルト締結している。実施形態の燃料タンク11は左右2つに分かれている。タンクフレーム18の左右張り出し部の上面側に、左右の燃料タンク11を振り分けて搭載している。ミッションケース17の左右外側面には、左右の後車軸ケース19を外向きに突出するように装着している。左右の後車軸ケース19には左右の後車軸20を回転可能に内挿している。ミッションケース17に後車軸20を介して後車輪4を取り付けている。左右の後車輪4の上方は左右のリヤフェンダー21によって覆われている。
【0017】
ミッションケース17の後部には、例えばロータリ耕耘機などの対地作業機(図示省略)を昇降動させる油圧式昇降機構22を着脱可能に取付けている。前記対地作業機は、左右一対のロワーリンク23及びトップリンク24からなる3点リンク機構111を介してミッションケース17の後部に連結される。ミッションケース17の後側面には、ロータリ耕耘機等の作業機にPTO駆動力を伝達するためのPTO軸25を後ろ向きに突設している。
【0018】
エンジン5の後側面から後ろ向きに突設するエンジン5の出力軸(ピストンロッド)には、フライホイル26を直結するように取付けている。両端に自在軸継手を有する動力伝達軸29を介して、フライホイル26から後ろ向きに突出した主動軸27と、ミッションケース17前面側から前向きに突出した主変速入力軸28とを連結している(図1図7及び図10参照)。ミッションケース17内には、油圧無段変速機500、前後進切換機構501、走行変速ギヤ機構及び後輪用差動ギヤ機構506などを配置している。エンジン5の回転動力は、主動軸27及び動力伝達軸29を経由してミッションケース17の主変速入力軸28に伝達され、油圧無段変速機500及び走行変速ギヤ機構によって適宜変速され、当該変速動力が後輪用差動ギヤ機構506を介して左右の後車輪4に伝達されるように構成している。
【0019】
ミッションケース17の前面下部から前向きに突出した前車輪出力軸30には、前車輪駆動軸31を介して、前輪用差動ギヤ機構507を内蔵する前車軸ケース13から後向きに突出した前車輪伝達軸508を連結している。ミッションケース17内の油圧無段変速機500及び走行変速ギヤ機構による変速動力は、前車輪出力軸30、前車輪駆動軸31及び前車輪伝達軸508から前車軸ケース13内の前輪用差動ギヤ機構507を経由して、左右の前車輪3に伝達されるように構成している。
【0020】
次に、図1図4を参照しながら、キャビン7内部の構造について説明する。キャビン7内における操縦座席8の前方にステアリングコラム32を配置している。ステアリングコラム32は、キャビン7内部の前面側に配置したダッシュボード33の背面側に埋設するような状態で立設している。ステアリングコラム32上面から上向きに突出したハンドル軸の上端側に、平面視略丸型の操縦ハンドル9を取り付けている。
【0021】
ステアリングコラム32の右側には、ロータリ耕耘機等の作業機を最上昇位置や最下降位置に強制的に移動させるワンタッチ昇降レバー34と、走行機体2を制動操作するための左右一対のブレーキペダル35とを配置している。ステアリングコラム32の左側には、走行機体2の進行方向を前進と後進とに切り換え操作するための前後進切換レバー36(リバーサレバー)と、動力継断用のクラッチ(図示省略)を遮断操作するためのクラッチペダル37とを配置している。
【0022】
ステアリングコラム32の左側で前後進切換レバー36の下方には、前後進切換レバー36に沿って延びる誤操作防止体38(リバーサガード)を配置している。接触防止具である誤操作防止体38を前後進切換レバー36下方に配置することによって、トラクタ1に乗降する際に、オペレータが前後進切換レバー36に不用意に接触するのを防止している。ダッシュボード33の背面上部側には、液晶パネルを内蔵した操作表示盤39を設けている。
【0023】
キャビン7内にある操縦座席8前方の床板40においてステアリングコラム32の右側には、エンジン5の回転速度または車速などを制御するアクセルペダル41を配置している。なお、床板40上面の略全体は平坦面に形成している。操縦座席8を挟んで左右両側にはサイドコラム42を配置している。操縦座席8と左サイドコラム42との間には、左右両後車輪4を制動状態に維持する操作を実行するための駐車ブレーキレバー43と、トラクタ1の走行速度(車速)を強制的に大幅に低減させる超低速レバー44(クリープレバー)と、ミッションケース17内の走行副変速ギヤ機構の出力範囲を切換えるための副変速レバー45と、PTO軸25の駆動速度を切換え操作するためのPTO変速レバー46とを配置している。操縦座席8の下方には、左右両後車輪4の差動駆動をオンオフするためのデフロックペダル47を配置している。操縦座席8の後方左側には、PTO軸25を逆転駆動させる操作を実行する逆転PTOレバー48を配置している。
【0024】
操縦座席8と操縦座席8と左サイドコラム42との間には、操縦座席8に着座したオペレータの腕や肘を載せるためのアームレスト49を設けている。アームレスト49は、操縦座席8とは別体に構成すると共に、トラクタ1の走行速度を増減速させる主変速レバー50と、ロータリ耕耘機といった対地作業機の高さ位置を手動で変更調節するダイヤル式の作業部ポジションダイヤル51(昇降ダイヤル)とを備えている。なお、アームレスト49は、後端下部を支点として複数段階に跳ね上げ回動可能な構成になっている。
【0025】
左サイドコラム42には、前側から順に、エンジン5の回転速度を設定保持するスロットルレバー52と、PTO軸25からロータリ耕耘機等の作業機への動力伝達を継断操作するPTOクラッチスイッチ53と、ミッションケース17の上面側に配置する油圧外部取出バルブ(サブコントロールバルブ、図示省略)を切換操作するための複数の油圧操作レバー54(SCVレバー)とを配置している。ここで、油圧外部取出バルブは、トラクタ1に後付けされるフロントローダといった別の作業機の油圧機器に作動油を供給制御するためのものである。実施形態では、油圧外部取出バルブの数(4連)に合わせて、油圧操作レバー54を4つ配置している。
【0026】
さらに、図7図10などに示す如く、キャビン7の前側を支持する左右の前部支持台96と、キャビン7の後部を支持する左右の後部支持台97を備える。左右の機体フレーム15の機外側面のうち前後中間部に前部支持台96をボルト締結させ、前部支持台96の上面側に防振ゴム体98を介してキャビン7の前側底部を防振支持すると共に、左右方向に水平に延設させる左右の後車軸ケース19の上面のうち左右幅中間部に後部支持台97をボルト締結させ、後部支持台97の上面側に防振ゴム体99を介してキャビン7の後側底部を防振支持している。また、図11図15などに示す如く、断面端面が略四角筒状の後車軸ケース19を挟むように、後車軸ケース19の上面側に後部支持台97を配置し、後車軸ケース19の下面側に振れ止めブラケット101を配置し、後部支持台97と振れ止めブラケット101をボルト102締結すると共に、前後方向に延設したロワーリンク23の中間部と振れ止めブラケット101とに、伸縮調節可能なターンバックル付き振れ止めロッド体103の両端部を連結し、ロワーリンク23の左右方向の揺振を防止している。
【0027】
次に、図6図9図10などを参照して、ボンネット6下のディーゼルエンジン5とエンジンルーム構造について説明する。ディーゼルエンジン5は、エンジン出力軸とピストンとを内蔵するシリンダブロック上にシリンダヘッドを搭載しており、ディーゼルエンジン5(シリンダヘッド)右側面に、エアクリーナ221にターボ過給機211を介して接続させる吸気マニホールド203と、排気マニホールド204からの排気ガスの一部を再循環させるEGR装置210を配置し、排気マニホールド204に排出された排気ガスの一部が、吸気マニホールド203に還流することによって、高負荷運転時の最高燃焼温度が低下し、ディーゼルエンジン5からのNOx(窒素酸化物)の排出量が低減するように構成している。一方、ディーゼルエンジン5(シリンダヘッド)左側面に、テールパイプ229に接続させる排気マニホールド204と、ターボ過給機211を配置する。即ち、エンジン5においてエンジン出力軸に沿う左右側面に、吸気マニホールド203と排気マニホールド204とを振分け配置すると共に、ディーゼルエンジン5(シリンダブロック)前面側に冷却ファン206を配置する。
【0028】
加えて、図6図9図10などに示す如く、ディーゼルエンジン5は、ディーゼルエンジン5の上面側(排気マニホールド204上方)に配置する連続再生式の排気ガス浄化装置224(DPF)を備え、排気ガス浄化装置224の排気側にテールパイプ229を接続している。排気ガス浄化装置224によって、エンジン5からテールパイプ229を介して機外に排出される排気ガス中の粒子状物質(PM)が除去されると共に、排気ガス中の一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)が低減されるように構成している。
【0029】
さらに、図1図6図9図10などに示す如く、ボンネット6は、前部下側にフロントグリル231を有し、エンジンルーム200の上面側と前面側を覆う。ボンネット6の左右下側に、多孔板で形成した側部エンジンカバー232を配置して、エンジンルーム200左右側方を覆っている。すなわち、ボンネット6及びエンジンカバー232によって、ディーゼルエンジン5の前方、上方及び左右を覆っている。
【0030】
また、ファンシュラウド234を背面側に取り付けたラジエータ235を、エンジン5の前面側に位置するようにエンジンフレーム14上に立設している。ファンシュラウド234は冷却ファン206の外周側を囲っていて、ラジエータ235と冷却ファン206とを連通させている。ラジエータ235前面側に矩形枠状の枠フレーム226を設け、枠フレーム226の前面の上方位置にエアクリーナ221を配置している。なお、枠フレーム226内には、上記のインタークーラ他、オイルクーラや燃料クーラなどが設置される。
【0031】
一方、図10などに示す如く、左右一対の機体フレーム15は、支持用梁フレーム236によって連結されている。支持用梁フレーム236は、左右の機体フレーム15それぞれとボルト締結して、左右の機体フレーム15の前端部(エンジン5後面側)に架設しており、防振ゴムを有する機関脚体を介して、支持用梁フレーム236上面にディーゼルエンジン5の後部を連結する。なお、左右一対のエンジンフレーム14の中途部に、防振ゴムを有する左右の前部機関脚体238を介して、ディーゼルエンジン5前部の左右側面を連結している。即ち、エンジンフレーム14にディーゼルエンジン5前側を防振支持させると共に、左右一対の機体フレーム15の前端側に支持用梁フレーム236を介してディーゼルエンジン5の後部を防振支持させている。
【0032】
また、前記支持用梁フレーム236上面に、左右一対の支柱フレームなどを介して、ボンネットシールド板(遮蔽板)244を立設している。ボンネットシールド板244にてボンネット6後方を覆う。ディーゼルエンジン5が内装されるエンジンルーム200は、ボンネット6と、左右の側部エンジンカバー232と、ファンシュラウド234と、ボンネットシールド板244にて囲まれた空間にて形成される。なお、ボンネットシールド板244をキャビン7前面から離間させて配置することで、ボンネット6後方に配置されるキャビン7とボンネットシールド板244との間に断熱層を形成する。従って、キャビン7側がエンジンルーム200からの排熱により加温されることを防止できるから、キャビン7内におけるオペレータは、ディーゼルエンジン5や排気ガス浄化装置224の排熱の影響をうけることなく、快適に操縦可能となる。
【0033】
さらに、ファンシュラウド234の上部とボンネットシールド板244の上部の間に左右一対の梁フレーム248を架設させる。ファンシュラウド234上部及びボンネットシールド板244上部を、一対の梁フレーム248にて連結し、これらの部材が一体的になって全体として堅牢なエンジンルーム200のフレーム構造体を構成すると共に、左右一対の梁フレーム248に遮熱板250の左右両縁を固着し、ディーゼルエンジン5上側の排気ガス浄化装置224などを遮熱板250にて覆う。排気ガス浄化装置224の上に遮熱板250を配置することで、排気ガス浄化装置224及びディーゼルエンジン5の排熱によるボンネット6の加温を防止できると共に、ボンネット6と遮熱板250との間に空間を形成して、遮熱板250下側のエンジンルーム200内を外気から断熱して、排気ガス浄化装置224を高温環境で動作させることができるように構成している。
【0034】
ボンネットシールド板244前面上縁に、ボンネット支持ブラケット255を設け、ボンネット6の後端部を回動可能に支持し、ボンネット支持ブラケット255のヒンジ部を支点にしてボンネット6の前部を昇降動させるように構成している。また、ボンネット6下方における遮熱板250の左右両側に、伸縮可能なガススプリング256を配置している。左右一対の梁フレーム248の後端側に左右一対のガススプリング256の一端(後端)を枢着させると共に、ボンネット6上部内側面にガススプリング256の他端(前端)を枢着している。従って、ボンネット6の前部を持上げることによって、ボンネット支持ブラケット255のヒンジ部を軸支点としてボンネット6前部を上方に開動させ、エンジンルーム200前部上面側を開放して、ディーゼルエンジン5などのメンテナンス作業等を実行できる。
【0035】
次に、図5図10を参照して、前記油圧式昇降機構22及びリンク機構111の取付け構造について説明する。前記ミッションケース17は、主変速入力軸28等を有する前部変速ケース112と、後車軸ケース19などを有する後部変速ケース113と、前部変速ケース112の後側に後部変速ケース113の前側を連結させる中間ケース114を備えている。中間ケース114の左右側面に左右の上下機体連結軸体115,116を介して左右の機体フレーム15の後端部を連結する。即ち、2本の上機体連結軸体115と、2本の下機体連結軸体116にて、中間ケース114の左右両側面に左右の機体フレーム15の後端部を連結させ、機体フレーム15とミッションケース17を一体的に連設して、走行機体2の後部を構成すると共に、左右の機体フレーム15の間に前部変速ケース112または動力伝達軸29などを配置して、前部変速ケース112などを保護するように構成している。左右の後車軸ケース19は、後部変速ケース113の左右両側に外向きに突出するように取り付けている。実施形態では、中間ケース114及び後部変速ケース113を鋳鉄製にする一方、前部変速ケース112をアルミダイキャスト製にしている。
【0036】
上記の構成によると、ミッションケース17を、前部変速ケース112、中間ケース114及び後部ケース113の三者に分割して構成しているから、各ケース112〜114に軸やギヤ等の部品を予め組み込んでから、前部変速ケース112、中間ケース114及び後部変速ケース113の三者を組み立てできる。従って、ミッションケース17の組み立てを正確に且つ能率よく行える。
【0037】
また、左右の後車軸ケース19を後部変速ケース113の左右両側に取り付け、走行機体2を構成する左右の機体フレーム15に、前部変速ケース112と後部変速ケース113とをつなぐ中間ケース114を連結しているから、例えば中間ケース114及び後部変速ケース113を機体フレーム15に取り付けたままで前部変速ケース112だけを取り外して、軸やギヤの交換といった作業を実行できる。従って、ミッションケース17全体をトラクタ1から降ろす(取り外す)頻度を格段に低くでき、メンテナンス時や修理時の作業性の向上を図れる。
【0038】
更に、中間ケース114及び後部変速ケース113を鋳鉄製にする一方、前部変速ケース112をアルミダイキャスト製にしているから、機体フレーム15に連結される中間ケース114と、左右の後車軸ケース19が連結される後部変速ケース113とを、走行機体2を構成する強度メンバーとして高剛性に構成できる。その上で強度メンバーではない前部変速ケース112を軽量化できる。従って、走行機体2の剛性を十分に確保しつつ、ミッションケース17全体としての軽量化を図れる。
【0039】
さて、油圧式昇降機構22は、前記ワンタッチ昇降レバー34または作業部ポジションダイヤル51の操作にて作動制御する左右の油圧リフトシリンダ117と、ミッションケース17のうち後部変速ケース113上面側に設ける開閉可能な上面蓋体118にリフト支点軸119を介して基端側を回動可能に軸支する左右のリフトアーム120と、左右のロワーリンク23に左右のリフトアーム120を連結させる左右のリフトロッド121を有している。右のリフトロッド121の一部を油圧制御用の水平シリンダ122にて形成し、右のリフトロッド121の長さを水平シリンダ122にて伸縮調節可能に構成している。
【0040】
なお、図7及び図10などに示す如く、上面蓋体118の背面側にトップリンクヒンジ123を固着し、トップリンクヒンジ123にヒンジピンを介してトップリンク24を連結する。トップリンク24と左右のロワーリンク23に対地作業機を支持した状態下で、水平シリンダ122のピストンを伸縮させて、右のリフトロッド121の長さを変更した場合、前記対地作業機の左右傾斜角度が変化するように構成している。
【0041】
次に、図11図19を参照しながら、ミッションケース17の内部構造及びトラクタ1の動力伝達系統について説明する。ミッションケース17は、主変速入力軸28等を有する前部変速ケース112と、後車軸ケース19等を有する後部変速ケース113と、前部変速ケース112の後側に後部変速ケース113の前側を連結させる中間ケース114を備えている。ミッションケース17は全体として中空箱形に形成されている。
【0042】
ミッションケース17の前面、すなわち前部変速ケース112の前面に前蓋部材491を配置している。前蓋部材491は前部変速ケース112の前面に複数のボルトで着脱可能に締結している。ミッションケース17の後面、すなわち後部変速ケース113の後面に後蓋部材492を配置している。後蓋部材492は後部変速ケースの後面に複数のボルトで着脱可能に締結している。中間ケース114内の前面側には、前部変速ケース112と中間ケース114との間を仕切る中間仕切り壁493を一体的に形成している。後部変速ケース113の前後中途部には、後部変速ケース113内を前後に仕切る後部仕切り壁494を一体的に形成している。
【0043】
従って、ミッションケース17内部は、中間及び後部仕切り壁493,494によって、前室495、後室496及び中間室497の三つの室に区画されている。ミッションケース17内部のうち前蓋部材491と中間仕切り壁493との間の空間(前部変速ケース112内部)が前室495となっている。後蓋部材492と後部仕切り壁494との間(後部変速ケース113後側の内部)が後室496となっている。中間仕切り壁493と後部仕切り壁494との間の空間(中間ケース114及び後部変速ケース113前側の内部)が中間室497となっている。なお、前室495、中間室497及び後室496は、各室495〜497内の作動油(潤滑油)が相互に移動し得るように各仕切り壁493,494の一部を切り欠いて連通している。
【0044】
ミッションケース17の前室495内(前部変速ケース112内)には、油圧無段変速機500と、後述する前後進切換機構501を経由した回転動力を変速する機械式のクリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503と、前後車輪3,4の二駆と四駆とを切り換える二駆四駆切換機構504とを配置している。ミッションケース17の中間室497内(中間ケース114及び後部変速ケース113前側の内部)には、油圧無段変速機500からの回転動力を正転又は逆転方向に切り換える前後進切換機構501を配置している。エンジン5からの回転動力を適宜変速してPTO軸25に伝達するPTO変速機構505と、クリープ変速ギヤ機構502又は走行副変速ギヤ機構503を経由した回転動力を左右の後車輪4に伝達する後輪用差動ギヤ機構506とを配置している。クリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503は、前後進切換機構501経由の変速出力を多段変速する走行変速ギヤ機構に相当するものである。後部変速ケース113の左外面前部には、エンジン5の回転動力で駆動する走行用油圧ポンプ481及び作業機用油圧ポンプ482を収容したポンプケース480を取り付けている。
【0045】
図1図7及び図10に示すように、エンジン5の後側面から後ろ向きに突設するエンジン5の出力軸にはフライホイル26を直結している。フライホイル26から後ろ向きに突出した主動軸27に、両端に自在軸継手を有する動力伝達軸29を介して、ミッションケース17前面(前蓋部材491)側から前向きに突出した主変速入力軸28を連結している。エンジン5の回転動力は、主動軸27及び動力伝達軸29を経由してミッションケース17(前部変速ケース112)の主変速入力軸28に伝達され、油圧無段変速機500とクリープ変速ギヤ機構502又は走行副変速ギヤ機構503とによって適宜変速されてから、後輪用差動ギヤ機構506に伝達され、左右の後車輪4を駆動させる。クリープ変速ギヤ機構502又は走行副変速ギヤ機構503を経由した変速動力は、二駆四駆切換機構504から前車輪出力軸30、前車輪駆動軸31及び前車輪伝達軸508を介して、前車軸ケース13内の前輪用差動ギヤ機構507に伝達され、左右の前車輪3を駆動させる。
【0046】
前蓋部材491から前向きに突出した主変速入力軸28は、前部変速ケース112から中間ケース114(前室495から中間室497)にわたって前後方向に延びている。主変速入力軸28の前後中途部は中間仕切り壁493に回転可能に軸支している。主変速入力軸28の後端側は、後部仕切り壁494の前面側(中間室497側)に着脱可能に締結した中間補助プレート498に回転可能に軸支している。中間補助プレート498と後部仕切り壁494とは、両者498,494の間に前後方向の隙間が空くように配置している。前部変速ケース112から中間ケース114にわたって(前室495から中間室497にわたって)は、主変速入力軸28から動力伝達される入力伝達軸511を主変速入力軸28と平行状に配置している。前部変速ケース112内(前室495内)には、入力伝達軸511を介して油圧無段変速機500を配置している。油圧無段変速機500の前部側は、前部変速ケース112の前面開口部を着脱可能に塞ぐ前蓋部材491の内面側に取り付けている。入力伝達軸511の後端側は中間補助プレート498と後部仕切り壁494とに回転可能に軸支している。
【0047】
上記の構成によると、前部変速ケース112から中間ケース114にわたって、エンジン5の動力が伝わる主変速入力軸28と、主変速入力軸28から動力伝達される入力伝達軸511とを互いに平行状に配置し、前部変速ケース112内には、入力伝達軸511を介して油圧無段変速機500を配置している(特に前部変速ケース112の前面開口部を着脱可能に塞ぐ前蓋部材491の内面側に油圧無段変速機500を取り付けている)から、例えば中間ケース114及び後部変速ケース113を機体フレーム15に取り付けたままで前部変速ケース112だけを取り外せば、油圧無段変速機500を露出できる。ミッションケース17内に配置した油圧無段変速機500のメンテナンス性向上を図れる。
【0048】
前室495内にある油圧無段変速機500は、入力伝達軸511に主変速出力軸512を同心状に配置したインライン式のものである。入力伝達軸511のうち中間室497内の箇所に、円筒形の主変速出力軸512を被嵌している。主変速出力軸512の前端側は中間仕切り壁493を貫通していて、中間仕切り壁493に回転可能に軸支している。主変速出力軸512の後端側は中間補助プレート498に回転可能に軸支している。従って、入力伝達軸511の入力側である後端側の方が主変速出力軸512の後端よりも後方に突出している。主変速入力軸28の後端側(中間補助プレート498と後部仕切り壁494との間)には主変速入力ギヤ513を相対回転不能に被嵌している。入力伝達軸511の後端側(中間補助プレート498と後部仕切り壁494との間)には、主変速入力ギヤ513に常時噛み合う入力伝達ギヤ514を固着している。従って、主変速入力軸28の回転動力は、主変速入力ギヤ513、入力伝達ギヤ514及び入力伝達軸511を介して油圧無段変速機500に伝達される。主変速出力軸512には、走行出力用として、主変速高速ギヤ516、主変速逆転ギヤ517及び主変速低速ギヤ515を相対回転不能に被嵌している。
【0049】
油圧無段変速機500は、可変容量形の油圧ポンプ部521と、当該油圧ポンプ部521から吐出する高圧の作動油によって作動する定容量形の油圧モータ部522とを備えている。油圧ポンプ部521には、入力伝達軸511の軸線に対して傾斜角を変更可能して作動油供給量を調節するポンプ斜板523を設けている。ポンプ斜板523には、入力伝達軸511の軸線に対するポンプ斜板523の傾斜角を変更調節する主変速油圧シリンダ524を連動連結している。実施形態では、油圧無段変速機500に主変速油圧シリンダ524を組み付けていて、一つの部材としてユニット化している。主変速油圧シリンダ524の駆動でポンプ斜板523の傾斜角を変更することによって、油圧ポンプ部521から油圧モータ部522に供給される作動油量を変更調節し、油圧無段変速機500の主変速動作が行われる。
【0050】
すなわち、主変速レバー50の操作量に比例して主変速油圧シリンダ524を駆動させると、これに伴い入力伝達軸511の軸線に対するポンプ斜板523の傾斜角が変更される。実施形態のポンプ斜板523は、傾斜略零(零を含むその前後)の中立角度を挟んで一方(正)の最大傾斜角度と他方(負)の最大傾斜角度との間の範囲で角度調節可能であり、且つ、走行機体2の車速が最低のときにいずれか一方に傾斜した角度(この場合は負で且つ最大付近の傾斜角度)に設定している。
【0051】
ポンプ斜板523の傾斜角が略零(中立角度)のときは、油圧ポンプ部521では油圧モータ部522が駆動されず、入力伝達軸511と略同一回転速度にて主変速出力軸512が回転する。入力伝達軸511の軸線に対してポンプ斜板523を一方向(正の傾斜角)側に傾斜させたときは、油圧ポンプ部521が油圧モータ部522を増速作動させ、入力伝達軸511より速い回転速度で主変速出力軸512が回転する。このため、入力伝達軸511の回転速度に油圧モータ部522の回転速度が加算されて、主変速出力軸512に伝達される。その結果、入力伝達軸511の回転速度より高い回転速度の範囲で、ポンプ斜板523の傾斜角(正の傾斜角)に比例して、主変速出力軸512からの変速動力(車速)が変更される。ポンプ斜板523が正で且つ最大付近の傾斜角度のときに、走行機体2は最高車速になる。
【0052】
入力伝達軸511の軸線に対してポンプ斜板523を他方向(負の傾斜角)側に傾斜させたときは、油圧ポンプ部521が油圧モータ部522を減速(逆転)作動させ、入力伝達軸511より低い回転速度で主変速出力軸512が回転する。このため、入力伝達軸511の回転速度から油圧モータ部522の回転速度が減算されて、主変速出力軸512に伝達される。その結果、入力伝達軸511の回転速度より低い回転速度の範囲で、ポンプ斜板523の傾斜角(負の傾斜角)に比例して、主変速出力軸512からの変速動力が変更される。ポンプ斜板523が負で且つ最大付近の傾斜角度のときに、走行機体2は最低車速になる。
【0053】
なお、作業機用及び走行用油圧ポンプ481,482の両者を駆動させるポンプ駆動軸483には、ポンプ駆動ギヤ484を相対回転不能に被嵌している。ポンプ駆動ギヤ484は、平ギヤ機構485を介して、主変速入力軸28の主変速入力ギヤ513を動力伝達可能に連結している。また、中間補助プレート498と後部仕切り壁494との間には、油圧無段変速機500や前後進切換機構501等に潤滑用の作動油を供給する潤滑油ポンプ518を配置している。潤滑油ポンプ518のポンプ軸519に固着したポンプギヤ520は入力伝達軸511の入力伝達ギヤ514に常時噛み合っている。従って、作業機用及び走行用油圧ポンプ481,482と潤滑油ポンプ518とは、エンジン5の回転動力によって駆動する。
【0054】
次に、前後進切換機構501を介して実行する前進と後進との切換構造について説明する。主変速入力軸28のうち中間室497内の箇所(主変速入力軸28の後部側)に、前進高速ギヤ機構である遊星歯車機構526と、前進低速ギヤ機構である低速ギヤ対525とを配置している。遊星歯車機構526は、主変速入力軸28に回転可能に軸支した入力側伝動ギヤ529と一体的に回転するサンギヤ531、複数の遊星ギヤ533を同一半径上に回転可能に軸支したキャリア532、並びに内周面に内歯を有するリングギヤ534を備えている。サンギヤ531及びリングギヤ534は主変速入力軸28に回転可能に被嵌している。キャリア532は主変速入力軸28に相対回転不能に被嵌している。サンギヤ531はキャリア532の各遊星ギヤ533と半径内側から噛み合っている。また、リングギヤ534の内歯は各遊星ギヤ533と半径外側から噛み合っている。主変速入力軸28には、リングギヤ534と一体回転する出力側伝動ギヤ530も回転可能に軸支している。低速ギヤ対525を構成する入力側低速ギヤ527と出力側低速ギヤ528とは一体構造になっていて、主変速入力軸28のうち遊星歯車機構526と主変速入力ギヤ513との間に回転可能に軸支している。
【0055】
ミッションケース17の中間室497内(中間ケース114及び後部変速ケース113前側の内部)には、主変速入力軸28、入力伝達軸511及び主変速出力軸512と平行状に延びる走行中継軸535並びに走行伝動軸536を配置している。走行中継軸535の前端側は中間仕切り壁493に回転可能に軸支している。走行中継軸535の後端側は中間補助プレート498に回転可能に軸支している。走行伝動軸536の前端側は中間仕切り壁493に回転可能に軸支している。走行伝動軸536の後端側は中間補助プレート498に回転可能に軸支している。
【0056】
走行中継軸535に前後進切換機構501を設けている。すなわち、走行中継軸535には、湿式多板型の前進高速油圧クラッチ539で連結される前進高速ギヤ540と、湿式多板型の後進油圧クラッチ541で連結される後進ギヤ542と、湿式多板型の前進低速油圧クラッチ537で連結される前進低速ギヤ538とを被嵌している。走行中継軸535のうち前進高速油圧クラッチ539と後進ギヤ542との間には、走行中継ギヤ543を相対回転不能に被嵌している。走行伝動軸536には、走行中継ギヤ543と常時噛み合う走行伝動ギヤ544を相対回転不能に被嵌している。主変速出力軸512の主変速低速ギヤ515が主変速入力軸28側にある低速ギヤ対525の入力側低速ギヤ527と常時噛み合い、出力側低速ギヤ528が前進低速ギヤ538と常時噛み合っている。主変速出力軸512の主変速高速ギヤ516が主変速入力軸28側にある遊星歯車機構526の入力側伝動ギヤ529と常時噛み合い、出力側伝動ギヤ530が前進高速ギヤ540と常時噛み合っている。主変速出力軸512の主変速逆転ギヤ517が後進ギヤ542と常時噛み合っている。
【0057】
前後進切換レバー36を前進側に操作すると、前進低速油圧クラッチ537又は前進高速油圧クラッチ539が動力接続状態となり、前進低速ギヤ538又は前進高速ギヤ540と走行中継軸535とが相対回転不能に連結される。その結果、主変速出力軸512から低速ギヤ対525又は遊星歯車機構526を介して走行中継軸535に、前進低速又は前進高速の回転動力が伝達され、走行中継軸535から走行伝動軸536に動力伝達される。前後進切換レバー36を後進側に操作すると、後進油圧クラッチ541が動力接続状態となり、後進ギヤ542と走行中継軸535とが相対回転不能に連結される。その結果、主変速出力軸512から低速ギヤ対525又は遊星歯車機構526を介して走行中継軸535に、後進の回転動力が伝達され、走行中継軸535から走行伝動軸536に動力伝達される。
【0058】
なお、前後進切換レバー36の前進側操作によって、前進低速油圧クラッチ537及び前進高速油圧クラッチ539のどちらが動力接続状態になるかは、主変速レバー50の操作量に応じて決定される。また、前後進切換レバー36が中立位置のときは、全ての油圧クラッチ537,539,541がいずれも動力切断状態となり、主変速出力軸512からの走行駆動力が略零(主クラッチ切りの状態)になる。
【0059】
上記の構成によると、前部変速ケース112から中間ケース114にわたって、エンジン5の動力が伝わる主変速入力軸28と、主変速入力軸28から動力伝達される入力伝達軸511とを互いに平行状に配置し、前部変速ケース112内には、入力伝達軸511を介して油圧無段変速機500を配置し、中間ケース114内には、油圧無段変速機500の出力を正転又は逆転方向に切り換える前後進切換機構501を配置しているから、前部変速ケース112及び中間ケース114(ミッションケース17前部)に走行伝動系統をまとめて収容でき、前記走行伝動系統ひいてはミッションケース17の組み立て性並びにメンテナンス性の向上を図れる。
【0060】
次に、走行変速ギヤ機構であるクリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503を介して実行する超低速と低速と高速との切換構造について説明する。ミッションケースの前室495内(前部変速ケース112内)には、前後進切換機構501を経由した回転動力を変速する機械式のクリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503を配置している。この場合、前室495内(前部変速ケース112内)に、走行伝動軸536と同軸状に延びる走行カウンタ軸545を配置している。また、前部変速ケース112から後部変速ケース113にわたって(前室495から中間室497を介して後室496にわたって)は、走行カウンタ軸545と平行状に延びる副変速軸546を配置している。走行カウンタ軸545の前端側は前蓋部材491に回転可能に軸支している。走行カウンタ軸545の後端側は中間仕切り壁493に回転可能に支持させている。副変速軸546の前端側は前蓋部材491に回転可能に軸支している。副変速軸546の前後中途部は中間仕切り壁493に回転可能に軸支している。副変速軸546の後端側は中間補助プレート498及び後部仕切り壁494に回転可能に軸支している。
【0061】
走行カウンタ軸545の後部側には伝達ギヤ547とクリープギヤ548とを設けている。伝達ギヤ547は、走行カウンタ軸545に回転可能に被嵌すると共に、走行伝動軸536に一体回転するように連結した状態で中間仕切り壁493に回動可能に軸支している。クリープギヤ548は走行カウンタ軸545に相対回転不能に被嵌している。走行カウンタ軸545のうち伝達ギヤ547とクリープギヤ548との間には、クリープシフタ549を相対回転不能で且つ軸線方向にスライド可能にスプライン嵌合させている。超低速レバー44を入り切り操作することによって、クリープシフタ549がスライド移動して、伝達ギヤ547及びクリープギヤ548が走行カウンタ軸545に択一的に連結される。副変速軸546のうち前室495(前部変速ケース112)内の箇所には、減速ギヤ対550を回転可能に被嵌している。減速ギヤ対550を構成する入力側減速ギヤ551と出力側減速ギヤ552とは一体構造になっていて、走行カウンタ軸545の伝達ギヤ547が副変速軸546の入力側減速ギヤ551に常時噛み合い、クリープギヤ548が出力側減速ギヤ552に常時噛み合っている。
【0062】
走行カウンタ軸545の前部側には低速中継ギヤ553と高速中継ギヤ554とを設けている。低速中継ギヤ553は走行カウンタ軸545に固着している。高速中継ギヤ554は走行カウンタ軸545に相対回転不能に被嵌している。副変速軸546のうち減速ギヤ対550よりも前部側には、低速中継ギヤ553に噛み合う低速ギヤ555と、高速中継ギヤ554に噛み合う高速ギヤ556とを回転可能に被嵌している。副変速軸546のうち低速ギヤ555と高速ギヤ556との間には、副変速シフタ557を相対回転不能で且つ軸線方向にスライド可能にスプライン嵌合させている。副変速レバー45を操作することによって、副変速シフタ557がスライド移動して、低速ギヤ555及び高速ギヤ556が副変速軸546に択一的に連結される。
【0063】
実施形態では、超低速レバー44を入り操作すると共に副変速レバー45を低速側に操作すると、クリープギヤ548が走行カウンタ軸545に相対回転不能に連結されると共に、低速ギヤ555が副変速軸546に相対回転不能に連結され、走行伝動軸536から走行カウンタ軸545及び副変速軸546を経て、超低速の走行駆動力が前車輪3や後車輪4に向けて出力される。なお、超低速レバー44と副変速レバー45とは牽制機構(図示省略)を介して連動連結していて、超低速レバー44を入り操作した状態では副変速レバー45を高速側に操作できないように構成している。
【0064】
超低速レバー44を切り操作すると共に副変速レバー45を低速側に操作すると、伝達ギヤ547が走行カウンタ軸545に相対回転不能に連結されると共に、低速ギヤ555が副変速軸546に相対回転不能に連結され、走行伝動軸536から走行カウンタ軸545及び副変速軸546を経て、低速の走行駆動力が前車輪3や後車輪4に向けて出力される。超低速レバー44を切り操作すると共に副変速レバー45を高速側に操作すると、伝達ギヤ547が走行カウンタ軸545に相対回転不能に連結されると共に、高速ギヤ556が副変速軸546に相対回転不能に連結され、走行伝動軸536から走行カウンタ軸545及び副変速軸546を経て、高速の走行駆動力が前車輪3や後車輪4に向けて出力される。
【0065】
実施形態では、走行変速ギヤ機構としてのクリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503よりも高位置にくるように、油圧無段変速機500を前部変速ケース112(前室495)内に配置している。このため、ミッションケース17内の作動油の撹拌抵抗が油圧無段変速機500よりも小さい走行変速ギヤ機構(クリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503)が低位置にくることになり、ミッションケース17内の作動油を油圧無段変速機500で撹拌するおそれを低減できる(油圧無段変速機500による作動油の撹拌抵抗を低減できる)。従って、油圧無段変速機500の伝動効率向上に寄与できる。
【0066】
また、中間ケース114及び後部変速ケース113を鋳鉄製にする一方、前部変速ケース112をアルミダイキャスト製にし、前部変速ケース112内には、前後進切換機構501経由の出力を多段変速する走行変速ギヤ機構としてのクリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503を更に配置しているから、重量の重い中間ケース114側に前後進切換機構501を、重量の軽い前部変速ケース112側に油圧無段変速機500及び走行変速ギヤ機構としてのクリープ変速ギヤ機構502及び走行副変速ギヤ機構503を振り分けることになる。従って、ミッションケース17の重量バランスを良好にできる。
【0067】
副変速軸546の後端側は後部仕切り壁494を貫通して後室496内部にまで延びている。副変速軸546の後端部にはピニオン558を設けている。また、後室496内(後部変速ケース113後側の内部)には、左右の後車輪4に走行駆動力を伝達する後輪用差動ギヤ機構506を配置している。後輪用差動ギヤ機構506には、副変速軸546のピニオン558に噛み合うリングギヤ559と、リングギヤ559に設けた差動ギヤケース560と、左右方向に延びる一対の差動出力軸561とを備えている。差動出力軸561がファイナルギヤ562等を介して後車軸20に連結している。後車軸20の先端側に後車輪4を取り付けている。
【0068】
左右の差動出力軸561にはブレーキ機構563をそれぞれ配置している。ブレーキ機構563は、ブレーキペダル35の操作と自動制御という2つの系統によって、左右の後車輪4にブレーキを掛けるものである。すなわち、各ブレーキ機構563は、ブレーキペダル35の踏み込み操作によって、対応する差動出力軸561ひいては後車輪4にブレーキが掛かるように構成している。操縦ハンドル9の操舵角が所定角度以上になれば、旋回内側の後車輪4に対するオートブレーキ電磁弁631(図20参照)の切換作動によってブレーキシリンダ630(図20参照)が作動し、旋回内側の後車輪4に対するブレーキ機構563が自動的に制動作動するように構成している(いわゆるオートブレーキ)。このため、トラクタ1はUターン(圃場の枕地での方向転換)等の小回り旋回走行を簡単に実行できる。
【0069】
なお、後輪用差動ギヤ機構506には、自身の差動を停止(左右の差動出力軸561を常時等速で駆動)させるデフロック機構585を設けている。デフロックペダル47の踏み込み操作によって、デフロック機構585を構成するデフロックピンを差動ギヤケース560の差動ギヤに係合させると、差動ギヤが差動ギヤケース560に固定され、差動ギヤの差動機能が停止し、左右の差動出力軸561が等速で駆動する。
【0070】
後部変速ケース113内には、中間室497から後室496にわたって、副変速軸546と平行状に延びる前後長手の駐車ブレーキ軸564を配置している。駐車ブレーキ軸564の前端側には駐車ブレーキギヤ565を相対回転不能に被嵌している。駐車ブレーキギヤ565は、副変速軸546のうち中間室497内の箇所に相対回転不能に被嵌したロックギヤ566と常時噛み合っている。駐車ブレーキ軸564のうち中間補助プレート498と後部仕切り壁494との間には湿式多板ディスク等の駐車ブレーキ567を設けている。駐車ブレーキレバー43の制動操作によって駐車ブレーキ567を制動作動させると、駐車ブレーキ軸564及び駐車ブレーキギヤ565が回転不能にロックされる。その結果、ロックギヤ566ひいては副変速軸546が回転不能にロックされ、左右両後車輪4にブレーキがかかる。
【0071】
次に、二駆四駆切換機構504を介して実行する前後車輪3,4の二駆と四駆との切換構造について説明する。ミッションケースの前室495(前部変速ケース112)内には二駆四駆切換機構504を配置している。この場合、前室495内(前部変速ケース112内)に、走行カウンタ軸545や副変速軸546と平行状に延びる前車輪入力軸568及び前車輪出力軸30を配置している。副変速軸546の前端側に相対回転不能に被嵌した主動ギヤ569に、前車輪入力軸568に相対回転不能に被嵌した従動ギヤ570を常時噛み合わせている。前車輪入力軸568には、倍速中継ギヤ571と四駆中継ギヤ572とを、従動ギヤ570を挟んだ前後両側に振り分けて相対回転不能に被嵌している。
【0072】
前車輪出力軸30に二駆四駆切換機構504を設けている。すなわち、前車輪出力軸30には、湿式多板型の倍速油圧クラッチ573で連結される倍速ギヤ574と、湿式多板型の四駆油圧クラッチ575で連結される四駆ギヤ576とを被嵌している。前車輪入力軸568の倍速中継ギヤ571が前車輪出力軸30の倍速ギヤ574と常時噛み合い、四駆中継ギヤ572が四駆ギヤ576と噛み合っている。
【0073】
駆動切換スイッチ又は駆動切換レバー(図示省略)を四駆側に操作すると、四駆油圧クラッチ575が動力接続状態となり、前車輪出力軸30と四駆ギヤ576とが相対回転不能に連結される。そして、副変速軸546から前車輪入力軸568及び四駆ギヤ576を経由して前車輪出力軸30に回転動力が伝達される結果、トラクタ1は後車輪4と共に前車輪3が駆動する四輪駆動状態になる。また、操縦ハンドル9をUターン操作等して操舵角が所定角度以上になると、倍速油圧クラッチ573が動力接続状態となり、前車輪出力軸30と倍速ギヤ574とが相対回転不能に連結される。そして、副変速軸546から前車輪入力軸568及び倍速ギヤ574を経由して前車輪出力軸30に回転動力が伝達される結果、四駆ギヤ576経由の回転動力による前車輪3の回転速度に比べて約二倍の高速度で、前車輪3が駆動する。
【0074】
前車軸ケース13から後ろ向きに突出する前車輪伝達軸508と、前記ミッションケース17(前蓋部材491)の前面下部から前向きに突出する前車輪出力軸30とを、前車輪3に動力を伝達する前車輪駆動軸31によって連結している。前車軸ケース13内には、左右の前車輪3に走行駆動力を伝達する前輪用差動ギヤ機構507を配置している。前輪用差動ギヤ機構507には、前車輪伝達軸508前端側に設けたピニオン577に噛み合うリングギヤ578と、リングギヤ578に設けた差動ギヤケース579と、左右方向に延びる一対の差動出力軸580とを備えている。差動出力軸580がファイナルギヤ581等を介して前車軸16に連結している。前車軸16の先端側に前車輪3を取り付けている。なお、前車軸ケース13の外側面には、操縦ハンドル9の操舵操作によって前車輪3の走行方向を左右に変更するパワーステアリング用の操舵油圧シリンダ622(図20参照)を設けている。
【0075】
次に、PTO変速機構505を介して実行するPTO軸25の駆動速度の切換構造(正転三段及び逆転一段)について説明する。ミッションケース17の後室496内(後部変速ケース113後側の内部)には、エンジン5からの動力をPTO軸25に伝達するPTO変速機構505を配置している。この場合、主変速入力軸28の後端側に、動力伝達継断用のPTO油圧クラッチ590を介して、主変速入力軸28と同軸状に延びるPTO入力軸591を連結している。PTO入力軸591は後室496内に配置している。後室496内には、PTO入力軸591と平行状に延びるPTO変速軸592、PTOカウンタ軸593及びPTO軸25を配置している。PTO軸25は後蓋部材492から後方に突出している。PTOクラッチスイッチ53を動力接続操作すると、PTO油圧クラッチ590が動力接続状態となり、主変速入力軸28とPTO入力軸591とが相対回転不能に連結される。その結果、主変速入力軸28からPTO入力軸591に向けて回転動力が伝達される。
【0076】
PTO入力軸591には、前側から順に、中速入力ギヤ597、低速入力ギヤ595、高速入力ギヤ596及び逆転シフタギヤ598を設けている。中速入力ギヤ597、低速入力ギヤ595及び高速入力ギヤ596は、PTO入力軸591に相対回転不能に被嵌している。逆転シフタギヤ598は、PTO入力軸591に相対回転不能で且つ軸線方向にスライド可能にスプライン嵌合している。
【0077】
一方、PTO変速軸592には、中速入力ギヤ597に噛み合うPTO中速ギヤ601、低速入力ギヤ595に噛み合うPTO低速ギヤ599、及び高速入力ギヤ596に噛み合うPTO高速ギヤ600を回転可能に被嵌している。PTO変速軸592には、前後一対のPTO変速シフタ602,603を相対回転不能で且つ軸線方向にスライド可能にスプライン嵌合している。第一PTO変速シフタ602はPTO中速ギヤ601とPTO低速ギヤ599との間に配置している。第二PTO変速シフタ603はPTO高速ギヤ600よりも後端側に配置している。前後一対のPTO変速シフタ602,603は、PTO変速レバー46の操作に伴い連動して軸線方向にスライド移動するように構成している。PTO変速軸592のうちPTO低速ギヤ599とPTO高速ギヤ600との間にPTO伝動ギヤ604を固着している。
【0078】
PTOカウンタ軸593には、PTO伝動ギヤ604に噛み合うPTOカウンタギヤ605と、PTO軸25に相対回転不能に被嵌したPTO出力ギヤ608に噛み合うPTO中継ギヤ606と、PTO逆転ギヤ607とを相対回転不能に被嵌している。PTO変速レバー46を中立操作した状態で逆転PTOレバー48を逆転入り操作することによって、逆転シフタギヤ598がスライド移動して、逆転シフタギヤ598とPTOカウンタ軸593のPTO逆転ギヤ607とが噛み合うように構成している。
【0079】
PTO変速レバー46を変速操作すると、前後一対のPTO変速シフタ602,603がPTO変速軸592に沿ってスライド移動し、PTO低速ギヤ595、PTO中速ギヤ597、及びPTO高速ギヤ596がPTO変速軸592に択一的に連結される。その結果、低速〜高速の各PTO変速出力が、PTO変速軸592からPTO伝動ギヤ604及びPTOカウンタギヤ605を介してPTOカウンタ軸593に伝達され、更に、PTO中継ギヤ607及びPTO出力ギヤ608を介してPTO軸25に伝達される。なお、PTO変速レバー46と逆転PTOレバー48とは牽制機構(図示省略)を介して連動連結していて、PTO変速レバー46を中立以外に変速操作した状態では逆転PTOレバー48を逆転入り操作できないように構成している。
【0080】
逆転PTOレバー48を逆転入り操作すると、逆転シフタギヤ598がPTO逆転ギヤ607と噛み合い、PTO入力軸591の回転動力が、逆転シフタギヤ598及びPTO逆転ギヤ607を介してPTOカウンタ軸593に伝達される。そして、逆転のPTO変速出力が、PTOカウンタ軸593からPTO中継ギヤ607及びPTO出力ギヤ608を介してPTO軸25に伝達される。
【0081】
なお、PTO軸25のうちPTO出力ギヤ608よりも前部側に回転可能に被嵌した車速同調出力ギヤ610には、駐車ブレーキ軸594の後端部に固着した車速同調入力ギヤ609と常時噛み合っている。PTO軸25のうち車速同調出力ギヤ610とPTO出力ギヤ608との間には、車速同調シフタ611を相対回転不能で且つ軸線方向にスライド可能にスプライン嵌合させている。PTO車速同調レバー(図示省略)を入り操作することによって、車速同調シフタ611がスライド移動して、車速同調出力ギヤ610がPTO軸25に連結される。その結果、副変速軸546から駐車ブレーキ軸594を経由した車速同調出力がPTO軸25に伝達される。
【0082】
次に、図20を参照しながら、トラクタ1の油圧回路620構造について説明する。トラクタ1の油圧回路620は、エンジン5の回転動力によって駆動する作業機用油圧ポンプ481及び走行用油圧ポンプ482を備えている。実施形態では、ミッションケース17が作業油タンクとして利用されていて、ミッションケース17内の作動油が作業機用油圧ポンプ481及び走行用油圧ポンプ482に供給される。走行用油圧ポンプ482は、パワーステアリング用のコントロール弁機構621を介して操縦ハンドル9によるパワーステアリング用の操舵油圧シリンダ622に接続すると共に、油圧無段変速機500の油圧ポンプ521と油圧モータ522とをつなぐ閉ループ油路623に接続している。エンジン5の駆動中は、走行用油圧ポンプ482からの作動油が閉ループ油路623に常に補充される。
【0083】
また、走行用油圧ポンプ482は、油圧無段変速機500の主変速油圧シリンダ524に対する主変速油圧切換弁624と、倍速油圧クラッチ573に対する倍速油圧切換弁625と、四駆油圧クラッチ575に対する四駆油圧切換弁626と、PTO油圧クラッチ590に対するPTOクラッチ電磁弁627及びこれによって作動する切換弁628と、デフロック機構を作動させるデフロックシリンダ586に対するデフロック電磁弁629とに接続している。
【0084】
更に、走行用油圧ポンプ482は、左右一対のオートブレーキ用のブレーキシリンダ630をそれぞれ作動させる切換弁としての左右のオートブレーキ電磁弁631と、前進低速油圧クラッチ537を作動させる前進低速クラッチ電磁弁632と、前進高速油圧クラッチ539を作動させる前進高速クラッチ電磁弁633と、後進油圧クラッチ541を作動させる後進クラッチ電磁弁634とに接続している。作業機用油圧ポンプ481は、油圧式昇降機構22における左右の油圧リフトシリンダ117に作動油を供給する制御弁機構635に接続している。なお、油圧回路620には、リリーフ弁や流量調整弁、チェック弁、オイルクーラ、オイルフィルタ等を備えている。
【0085】
次に、図21を参照しながら、トラクタ1における潤滑系統の油圧回路640構造について説明する。トラクタ1における潤滑系統の油圧回路640は、エンジン5の回転動力によって駆動する潤滑油ポンプ518を備えている。潤滑油ポンプ518には、PTO油圧クラッチ590の潤滑部に作動油(潤滑油)を供給するPTOクラッチ油圧切換弁641と、油圧無段変速機500を軸支する入力伝達軸511の潤滑部と、前進低速油圧クラッチ537の潤滑部に作動油(潤滑油)を供給する前進低速クラッチ油圧切換弁642と、前進高速油圧クラッチ539の潤滑部に作動油(潤滑油)を供給する前進高速クラッチ油圧切換弁643と、後進油圧クラッチ541の潤滑部に作動油(潤滑油)を供給する後進クラッチ油圧切換弁644とに接続している。
【0086】
上記の記載並びに図11図19から明らかなように、走行機体2に搭載したエンジン5と、前記エンジン5の動力を変速する油圧無段変速機500と、前記油圧無段変速機500を内蔵したミッションケース17と、前記ミッションケース17の左右両側に後車軸ケース19を介して設けた後方走行部4とを備える作業車両1において、前記ミッションケース17を、前部ケース112、中間ケース114及び後部ケース113の三者に分割して構成しているから、前記各ケース112〜114に軸やギヤ等の部品を予め組み込んでから、前記前部ケース112、前記中間ケース114及び前記後部ケース113の三者を組み立てできる。従って、前記ミッションケース17の組み立てを正確に且つ能率よく行える。
【0087】
また、前記左右の後車軸ケース19を前記後部ケース113の左右両側に取り付け、前記走行機体2を構成する左右の機体フレーム15に、前記前部ケース112と前記後部ケース113とをつなぐ前記中間ケース114を連結しているから、例えば前記中間ケース114及び前記後部ケース113を前記機体フレーム15に取り付けたままで前記前部ケース112だけを取り外して、軸やギヤの交換といった作業を実行できる。従って、前記ミッションケース17全体を作業車両1から降ろす(取り外す)頻度を格段に低くでき、メンテナンス時や修理時の作業性の向上を図れる。
【0088】
実施形態では、前記中間ケース114及び前記後部ケース113を鋳鉄製にする一方、前記前部ケース112をアルミダイキャスト製にしているから、前記機体フレーム15に連結される前記中間ケース114と、前記左右の後車軸ケース19が連結される前記後部ケース113を、前記走行機体2を構成する強度メンバーとして高剛性に構成できる。その上で強度メンバーではない前記前部ケース112を軽量化できる。従って、前記走行機体2の剛性を十分に確保しつつ、前記ミッションケース17全体としての軽量化を図れる。
【0089】
更に、前記前部ケース112から前記中間ケース114にわたって、前記エンジン5の動力が伝わる入力軸28と、前記入力軸28から動力伝達される入力伝達軸511とを互いに平行状に配置し、前記前部ケース112内には、前記入力伝達軸511を介して前記油圧無段変速機500を配置しているから、例えば前記中間ケース114及び前記後部ケース113を前記機体フレーム15に取り付けたままで前記前部ケース112だけを取り外せば、前記油圧無段変速機500を露出できる。前記ミッションケース17内に配置した前記油圧無段変速機500のメンテナンス性向上を図れる。
【0090】
上記の記載並びに図11図19から明らかなように、走行機体2に搭載したエンジン5と、前記エンジン5の動力を変速する油圧無段変速機500と、前記油圧無段変速機500を内蔵したミッションケース17と、前記ミッションケース17の左右両側に後車軸ケース19を介して設けた後方走行部4とを備える作業車両1において、前記ミッションケース17を、前部ケース112、中間ケース114及び後部ケース113の三者に分割して構成し、前記前部ケース112から前記中間ケース114にわたって、前記エンジン5の動力が伝わる入力軸28と、前記入力軸28から動力伝達される入力伝達軸511とを互いに平行状に配置し、前記前部ケース112内には、前記入力伝達軸511を介して前記油圧無段変速機500を配置し、前記中間ケース114内には、前記油圧無段変速機500の出力を正転又は逆転方向に切り換える前後進切換機構501を配置しているから、前記前部ケース112及び前記中間ケース114(前記ミッションケース17前部)に走行伝動系統をまとめて収容でき、前記走行伝動系統ひいては前記ミッションケース17の組み立て性並びにメンテナンス性の向上を図れる。
【0091】
また、前記中間ケース114及び前記後部ケース113を鋳鉄製にする一方、前記前部ケース112をアルミダイキャスト製にし、前記前部ケース112内には、前記前後進切換機構500経由の出力を多段変速する走行変速ギヤ機構502,503を更に配置しているから、重量の重い前記中間ケース114側に前記前後進切換機構501を、重量の軽い前記前部ケース112側に前記油圧無段変速機500及び前記走行変速ギヤ機構502,503を振り分けることになる。従って、前記ミッションケース17の重量バランスを良好にできる。
【0092】
上記の記載並びに図11図19から明らかなように、走行機体2に搭載したエンジン5と、前記エンジン5の動力を変速する油圧無段変速機500と、前記油圧無段変速機500を内蔵したミッションケース17と、前記ミッションケース17の左右両側に後車軸ケース19を介して設けた後方走行部4とを備える作業車両1において、前記ミッションケース17を、前部ケース112、中間ケース114及び後部ケース113の三者に分割して構成し、前記前部ケース112から前記中間ケース114にわたって、前記エンジン5の動力が伝わる入力軸28と、前記入力軸28から動力伝達される入力伝達軸511とを互いに平行状に配置し、前記前部ケース112内には、前記入力伝達軸511を介して前記油圧無段変速機500を配置し、前記前部ケース112の前面開口部を着脱可能に塞ぐ前蓋部材491の内面側に前記油圧無段変速機500を取り付けているから、前記ミッションケース17から前記前蓋部材491を取り外せば、前記油圧無段変速機500を露出できることになる。従って、前記ミッションケース17内に配置した前記油圧無段変速機500のメンテナンス性向上を図れる。
【0093】
また、前記前部ケース112内には、前記前後進切換機構501経由の出力を多段変速する走行変速ギヤ機構502,503を更に配置し、前記走行変速ギヤ機構502,503よりも高位置にくるように、前記油圧無段変速機500を前記前部ケース112内に配置しているから、前記ミッションケース17内の作動油の撹拌抵抗が前記油圧無段変速機500よりも小さい前記走行変速ギヤ機構502,503が低位置にくることになり、前記ミッションケース17内の作動油を前記油圧無段変速機500で撹拌するおそれを低減できる(前記油圧無段変速機500による作動油の撹拌抵抗を低減できる)。従って、前記油圧無段変速機500の伝動効率向上に寄与できる。
【0094】
なお、本願発明における各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能である。
【符号の説明】
【0095】
2 走行機体
5 ディーゼルエンジン
17 ミッションケース
112 前部変速ケース
113 後部変速ケース
114 中間ケース
491 前蓋部材
492 後蓋部材
493 中間仕切り壁
494 後部仕切り壁
495 前室
496 後室
497 中間室
498 中間補助プレート
500 油圧無段変速機
501 前後進切換機構
502 クリープ変速ギヤ機構
503 走行副変速ギヤ機構
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
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図18
図19
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図21