(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の遠隔監視システム及び観測装置を、図面を参照して説明する。
図1は、実施形態における遠隔監視システムの構成例を示す図である。
図1に示すように、遠隔監視システムは、一つ又は複数の観測装置1と、テレメータ監視装置2と、一つ又は複数の端末装置3とを備える。観測装置1とテレメータ監視装置2と端末装置3とは、無線回線5を使用した通信を行う。無線回線5は、例えば事業者が提供する3G若しくは4Gなどの移動体通信網、無線免許が不要である小電力無線局若しくは特定小電力無線局を用いた通信網、又はWiFi(登録商標)を用いた通信網である。
【0010】
観測装置1は、観測して得られた観測データを、無線回線5を使用してテレメータ監視装置2及び端末装置3へ送信する。テレメータ監視装置2は、無線回線5を介して観測装置1から受信した観測データを記憶するとともに、受信した観測データをダム管理用制御処理設備4へ出力する。ダム管理用制御処理設備4は、主としてダムの放流を制御する装置又は設備を含み構成され、テレメータ監視装置2から取得する観測データに基づいて装置又は設備の制御と管理とを行う。
【0011】
観測装置1は、複数のセンサ11−1〜11−n、信号変換部12、演算部13、無線部14、記憶部15、制御部16及び給電部17を有する。
【0012】
複数のセンサ11−1〜11−nは、それぞれの測定対象が異なる検出器である。センサ11−1〜11−nの測定対象、例えば水位、雨量、温度、湿度、風速、風向、水温、地震動、圧力、ひずみ、水の濁度などである。センサ11−1〜11−nは、それぞれが測定した結果を電気信号として信号変換部12へ出力する。センサ11−1〜11−nが出力する電気信号は、例えば4〜20[mA]の電流値で測定結果を表すアナログ信号などである。
【0013】
信号変換部12は、複数のセンサ11−1〜11−nそれぞれから出力される電気信号に対して増幅及びアナログ・デジタル変換を行った後に、測定対象に応じた数値データ又はパルス信号に変換して演算部13へ出力する。なお、信号変換部12は、センサ11−1〜11−nごとに設けられていてもよい。
【0014】
演算部13は、信号変換部12から出力される数値データに対して、測定対象に応じて定められる公知の演算処理を施して観測データを算出する。演算部13が数値データに対して施す演算処理には、平滑化、ノイズ除去などの演算も含まれる。演算部13は、演算処理により得られた観測データを、無線部14及び制御部16へ出力する。
【0015】
例えば、演算部13が行う演算処理は、測定対象が雨量である場合においてパルス信号の発生間隔を、単位時間当たりの雨量[mm]としての観測データへ変換する演算処理である。また、演算部13が行う演算処理は、測定対象が震度である場合においては、センサ11で得られた電気信号又は数値データ列に対してFFTなどを含む周波数解析を行い、予め定められた形式の観測データへ変換する演算処理を行う。
【0016】
このように、演算部13は、測定対象に応じた各センサ11−1〜11−nから出力される多様な信号に対して、対応する演算処理を行うことで観測データを算出する。なお、演算部13も、信号変換部12と同様に、センサ11−1〜11−nごとに設けられていてもよい。すなわち、n個のセンサ11−1〜11−nそれぞれから出力される電気信号が並行に処理され、n個の観測データが得られる構成としてもよい。
【0017】
無線部14は、演算部13から入力される複数の観測データを、予め定められた周期でテレメータ監視装置2及び端末装置3宛に無線回線5を介して送信する。無線部14は、複数の観測データを含むパケットに、自観測装置1の識別情報又は自観測装置1が設置されている位置を含めてもよい。ここで、予め定められた周期は、観測装置1が観測地に設置された際に定められた周期、又はテレメータ監視装置2若しくは端末装置3から指定された周期であり、例えば定時(正時ごと)、10分ごと、正分ごとなどである。遠隔監視システムにおける各装置は、衛星測位システムの航法衛星が送信する信号に含まれる時刻情報を用いたり、標準電波で示される時刻情報を用いたりすることで、同期をとって動作する。無線部14は、取得した時刻情報に基づいて、観測データを送信する予め定められた周期の送信タイミングに達している否かを判定して、送信タイミングに達している場合には観測データを送信する。
【0018】
記憶部15には、自観測装置1に設けられているセンサ11−1〜11−nの測定対象ごとに、異常が発生しているか否か又は所定の事象が発生しているか否かを判定するためのしきい値(Th
1,Th
2,…,Th
n)が予め記憶されている。また、記憶部15は、各センサ11−1〜11−nに対応して得られた観測データに時刻情報を対応付けて記憶する。また、記憶部15には、観測データを送信する宛先となるテレメータ監視装置2及び端末装置3を無線回線5において一意に特定するための識別情報が宛先情報として予め記憶されている。また、記憶部15には、自観測装置1が設置された観測地の周辺に位置する他の観測装置1又は自観測装置1に最も近い観測地に設置された他の観測装置1の識別情報が周辺装置情報として予め記憶されている。
【0019】
制御部16は、演算部13が出力する各センサ11−1〜11−nに対応する観測データごとに、記憶部15に記憶されている対応するしきい値と比較して、異常又は所定の事象が生じているか否か判定する。制御部16は、異常又は所定の事象が生じていると判定すると、異常又は所定の事象が生じていると判定したタイミングにおける各観測データをテレメータ監視装置2及び端末装置3宛に送信するように無線部14を制御する。また、制御部16は、異常又は所定の事象が生じていると判定すると、異常又は所定の事象が生じていないと判定されるまでの期間に亘り、無線部14が観測データを送信する周期を現在の周期よりも短い周期に変更してもよい。例えば、異常又は所定の事象が生じていると判定すると、観測データの送信周期を5分ごとから1分ごとに変更する。
【0020】
また、制御部16は、異常又は事象が生じていると判定すると、記憶部15に記憶されている周辺装置情報を読み出し、読み出した周辺装置情報が示す観測装置1宛の制御信号を生成して無線部14に送信させる。制御信号は、テレメータ監視装置2及び端末装置3宛に観測データを送信することを要求する信号である。また、制御部16は、無線回線5を介して無線部14が受信した信号に、観測データを送信する宛先を追加する要求と宛先の識別情報とが含まれていた場合、当該識別情報を宛先情報に加える更新を記憶部15に対して行い、観測データの送信先を追加してもよい。
【0021】
給電部17は、マイクロ波を用いたワイヤレス給電により電力の供給を受けるアンテナと当該アンテナで受けたマイクロ波を電力に変換する回路又は太陽電池パネルを有する。給電部17は、ワイヤレス給電又は太陽光発電で得られた電力を蓄える二次電池を有する。給電部17は、自観測装置1における各部に供給する。なお、観測装置1において必要となる電力がワイヤレス給電で常に得られる場合、給電部17は二次電池を有せずともよい。
【0022】
テレメータ監視装置2は、ダムの管理事務所などに設置され、無線回線5を介して複数の観測装置1それぞれから受信する観測データを記憶するとともに、受信した観測データをダム管理用制御処理設備4へ出力する。テレメータ監視装置2は、無線部21、記憶部22及び外部インターフェース(IF)23を有する。無線部21は、無線回線5を介して、観測装置1から送信される観測データと当該観測装置1の識別情報又は設置されている位置とを含む情報を受信する。無線部21は、識別情報又は設置されている位置ごとに時系列に、受信した情報を記憶部22に記憶させる。また、無線部21は、受信した情報を外部インターフェース23へ出力する。外部インターフェース23は、無線部21が受信した情報の型式をダム管理用制御処理設備4で用いられる型式へ変換してダム管理用制御処理設備4へ出力する。
【0023】
端末装置3は、テレメータ監視装置2と同様に、無線回線5を介して複数の観測装置1それぞれから観測データを受信する。端末装置3は、無線部31、制御部32、表示部33及び入力部34を有する。無線部31は、無線回線5を介して、観測装置1から送信される観測データと当該観測装置1の識別情報又は設置されている位置とを含む情報を受信する。無線部31は、受信した情報を制御部32へ出力する。
【0024】
制御部32は、無線部31から入力される情報に含まれる観測装置1の識別情報又は観測装置1の設置されている位置ごとに、対応付けた観測データを表示部33へ出力する。表示部33は、観測装置1から受信した観測データ、又は表示させる観測データの選択を行うための選択肢を表示する表示画面を含み、端末装置3を所持する管理者などのユーザに対して制御部32から入力する情報を表示する。表示部33が情報を表示する際の形式は、文字や数値を含むテキストでもよいし、グラフなどの図形でもよい。
【0025】
入力部34は、端末装置3のユーザによる操作信号を受け付け、受け付けた操作信号を制御部32へ出力する。制御部32は、入力部34が受け付けた操作信号が示す、観測データが表示部33に表示されるように表示部33を制御する。また、入力部34が受け付けた操作信号が、特定の観測装置1又は全ての観測装置1に対して観測データの送信を要求する信号である場合、制御部32は、観測データの送信を要求するデータ要求信号を生成してもよい。生成されたデータ要求信号は、無線部31によって観測装置1宛に送信される。このとき、観測装置1は、制御信号を受信したときと同様に、観測データを送信する。なお、端末装置3として、携帯電話やスマートフォンなどの携行可能な情報処理端末を用いてもよい。
【0026】
入力部34は、自端末装置3を観測データの宛先に追加することを要求する操作信号を受け付けてもよい。この場合、制御部32は、入力部34が受け付けた操作信号に応じて、観測データを送信する宛先を追加する要求と自端末装置3の識別情報とを含む登録要求信号を生成する。無線部31は、制御部32により生成された登録要求信号を、観測装置1宛に送信する。登録要求信号の宛先となる観測装置1は、遠隔監視システムにおける全ての観測装置1であってもよいし、ユーザが選択した観測装置1であってもよい。
【0027】
図2は、実施形態における観測装置1が行う観測データ送信処理を示すフローチャートである。観測装置1において観測データ送信処理が開始されると、信号変換部12は、各センサ11−1〜11−nが出力する電気信号を数値データ又はパルス信号に変換して演算部13へ出力する(ステップS101)。演算部13は、信号変換部12が出力する数値データ又はパルス信号の観測結果に対して演算処理を施して観測データを算出する。演算部13は、同じ測定タイミングにおける観測データを組み合わせて制御部16及び無線部14へ出力する(ステップS102)。
【0028】
制御部16は、センサ11−1〜11−nそれぞれの測定対象ごとに予め定められたしきい値を記憶部15から読み出す。制御部16は、演算部13から出力される複数の観測データごとに対応するしきい値との比較を行い、しきい値で定められた条件を満たす観測データが複数あるか否かを判定する(ステップS103)。しきい値で定められた条件は、例えば観測データがしきい値を超える値であるという条件、又は観測データがしきい値以下の値であるという条件である。具体的には、条件は、雨量がしきい値(50[mm])を超えている、水位がしきい値(警戒水位)を超えている、気圧がしきい値(960[hPa])以下である、として定められる。すなわち、制御部16は、同じ測定タイミングの観測データに基づいて、しきい値によって定められた異常又は所定の事象が複数生じているか否かを判定する。
【0029】
観測データのうちしきい値で定められた条件を満たす観測データが複数ある場合(ステップS103:YES)、制御部16は、自観測装置1の周辺の他の観測装置1宛の制御信号を生成して無線部14に送信させ(ステップS104)、処理をステップS107へ進める。観測データのうちしきい値で定められた条件を満たす観測データが複数ない場合(ステップS103:NO)、制御部16は、他の観測装置1から自観測装置1宛の制御信号を無線部14が受信したか否かを判定する(ステップS105)。
【0030】
自観測装置1宛の制御信号を受信している場合(ステップS105:YES)、制御部16は、処理をステップS107へ進める。自観測装置1宛の制御信号を受信していない場合(ステップS105:NO)、無線部14は、観測データを送信する周期的な送信タイミングに達しているか否かを判定する(ステップS106)。
【0031】
送信タイミングに達している場合(ステップS106:YES)、無線部14は、演算部13から入力された最新のn種類の観測データを、テレメータ監視装置2及び端末装置3を宛先にして無線回線5を介して送信し(ステップS107)、処理をステップS101へ戻す。送信タイミングに達していない場合(ステップS106:NO)、無線部14は、観測データの送信を行わずに、処理をステップS101へ戻す。
【0032】
実施形態の遠隔監視システムでは、観測装置1において信号変換部12及び演算部13がセンサ11で得られた電気信号を、ユーザが読み取れる形式の観測データに変換する。これにより、管理事務所などに備えられた装置などがセンサ11の電気信号を取得して変換や演算処理を行わずとも、ユーザは端末装置3を使用することで、管理事務所以外の遠隔地においても観測データを取得して確認することができる。
【0033】
また、一般的なテレメータ設備のような伝送機器では、伝送で扱える信号に対して制約があり、観測装置で用いることができるセンサの種類に制約があった。これに対して、実施形態の遠隔監視システムでは、観測装置1においてセンサ11が出力する電気信号をデジタルの観測データに変換してパケットとして無線回線5で送信するため、伝送する信号に対する制約がなく、多種多様な測定機器又は計測機器をセンサ11として用いることができる。
【0034】
実施形態の遠隔監視システムでは、3G又は4G回線やWiFi(登録商標)などの広く普及している通信網を無線回線5として使用するため、テレメータ設備が整備されていない遠隔地においても観測装置1を設置することができる。また、近年の無線装置は小型化され、信号処理装置(例えば、DSPなどのプロセッサを含む装置)も汎用化及び小型化されており、観測装置1を小型化することが可能となっている。観測装置1の電力源としてワイヤレス給電又は太陽光発電を用いるため、テレメータ設備、電力などのインフラ設備が整備されていない地域においても、実施形態の観測装置1は、低コストで設置することが可能となっている。
【0035】
実施形態の遠隔監視システムでは、ポーリングを基本とする無線通信に代えて、観測装置1間での通信が可能な無線回線5を用いている。この構成により、異常又は所定の事象の発生を検出した観測装置1は、周辺の他の観測装置1又は最も近い他の観測装置1に対して観測データをテレメータ監視装置2及び端末装置3宛に送信する要求をすることができる。この動作により、ある観測装置1が検出した異常又は所定の事象の妥当性の判断を管理者に促したり、周辺の状況を管理者に通知したりすることができ、監視の精度を向上させることができる。
【0036】
なお、上記の実施形態の観測データ送信処理(
図2)におけるステップS103の複数の条件を満たす観測データが複数あるか否かの判定を、予め定められた条件の組み合わせが満たされているか否かの判定に代えてもよい。例えば、ダム及びその周囲に設置された観測装置1が、少なくとも震度、ダム本体及び関連構造物におけるたわみ及び貯水量の各観測データを取得する構成を有しているとする。この構成において、一定値以上の震度、たわみ及び貯水量が検出された場合、観測装置1は、各観測データの周期的な観測データ送信以外に、各観測データを送信するようにしてもよい。また、観測装置1が、少なくとも水温及び濁度の観測データを取得する構成を有しているとする。この構成において、ダムから放水が行われる際に、放水する水の水温が一定値以下であり、かつ放水する水の濁度が一定値以上である場合に、観測装置1は、各観測データの周期的な送信以外に、各観測データを送信するようにしてもよい。
【0037】
また、上記の実施形態の遠隔監視システムにおいて、観測装置1の制御部16は、他の観測装置1から制御信号を受信した場合に、観測データを送信する周期を現在の周期より短くしてもよい。これにより、異常又は所定の事象を検出した観測装置1とその周辺の他の観測装置1とが連携して観測データを送信する頻度を高くすることで、管理者がタイムリーに観測データを取得することができ、監視の精度を向上させることができる。
【0038】
なお、実施形態の遠隔監視システムでは、テレメータ監視装置2が各観測装置1から受信した観測データをダム管理用制御処理設備4へ出力する構成について説明した。しかし、テレメータ監視装置2は、ダム管理用制御処理設備4以外の他の装置又は他のシステムへ観測データを出力する構成であってもよい。例えば、港湾や河川などの監視を行うシステム又は装置に対して、実施形態の遠隔監視システムを適用してもよい。この場合、観測装置1に水位又は潮位と気圧と雨量とを測定するセンサ11を設けて、水害又は高潮の発生を警戒するために用いることができる。このとき、観測装置1は、水位又は潮位が一定値以上であり、かつ気圧が一定値以下である場合に、観測データの送信周期を短くしたり、周辺の他の観測装置1に対して観測データの送信周期を短くさせる制御をしたりしてもよい。また、港湾や河川などの監視の他、建物内の監視や山林などの監視に用いてもよい。
【0039】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、観測装置1が、センサ11から出力される電気信号から観測データを算出する演算部13と、管理者などのユーザが携行できる端末装置3宛に観測データを周期的に送信する無線部14とを持つことにより、管理者などのユーザが管理事務所を離れた場合においても観測データを確認することができる。
【0040】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。