(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、記憶層の磁化方向を反転させるのに必要な磁化反転電流を小さくすることが要求されている。
【0008】
また、特許文献1及び2で開示されるように、高い垂直磁気異方性と、高いスピン分極率とを備える強磁性材料として、強磁性金属、これらの合金、又は、Mn−Ga系合金が挙げられる。磁気トンネル接合素子では、固定層及び記憶層を形成する材料の選択範囲をさらに広げる余地があった。
【0009】
本発明は、上記した事情を背景としてなされたものであり、小さな電流密度の電流であっても、記憶層の磁化方向を反転することのできる磁気トンネル接合素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明にかかる磁気トンネル接合素子は、
磁化方向が可変な記憶層と、所定の磁化方向を維持する固定層と、トンネルバリア層と、を含み、
スピントルク注入方式を用いて書き込みを行う磁気トンネル接合素子であって、
記憶層及び固定層の少なくとも一方が、強磁性絶縁層を含む。
【0011】
このような構成によれば、小さな電流密度の電流であっても、記憶層の磁化方向を反転することができる。
【0012】
また、前記記憶層が前記強磁性絶縁層からなり、前記強磁性絶縁層は、垂直磁気異方性を有することを特徴としてもよい。また、前記記憶層は、前記強磁性絶縁層と、膜面に垂直な磁化方向を有する垂直磁化保持層と、を含むことを特徴としてもよい。
【0013】
このような構成によれば、より確実に、小さな電流密度の電流であっても、記憶層の磁化方向を反転することができる。
【0014】
また、前記固定層が前記強磁性絶縁層からなり、前記強磁性絶縁層は、垂直磁気異方性を有することを特徴としてもよい。また、前記固定層は、前記強磁性絶縁層と、膜面に垂直な磁化方向を有する垂直磁化保持層と、を含むことを特徴としてもよい。
【0015】
このような構成によれば、大きなMR比(磁気抵抗効果)が得られる。
【0016】
また、前記強磁性絶縁層は強磁性酸化物からなることを特徴としてもよい。また、前記強磁性酸化物は、BaFe
12O
19、又は、Co
XFe
3−XO
4であり、Xが0<X<3を満たすことを特徴としてもよい。
【0017】
このような構成によれば、読み出し時の記録層磁化の熱安定性を確保すると同時に、確実に、小さな電流密度の電流であっても、記憶層の磁化方向を反転することができる。
【0018】
また、素子抵抗値が30Ωμm
2以下であることを特徴としてもよい。
【0019】
このような構成によれば、磁化反転電流密度が小さく、しかも、素子抵抗値の小さい磁気トンネル接合素子が得られる。
【0020】
他方、本発明にかかる磁気ランダムアクセスメモリは、上記した磁気トンネル接合素子を備える。
【0021】
このような構成によれば、消費電力が小さい磁気ランダムアクセスメモリを得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、小さな電流密度を有する電流であっても、記憶層の磁化方向を反転することのできる磁気トンネル接合素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明者らは、上記した課題を解決するために、様々な材料について、磁気トンネル接合素子における記憶層及び固定層への適用可能性を図るべく、探索及び計算を行った。その中で、本発明者らは、強磁性絶縁体を記憶層又は固定層の材料として用いると、磁化反転時において、記憶層が温度上昇し、さらにその磁気異方性が低下し得ることに気づいた。さらに、本発明者らは、鋭意研究を重ねることにより、本発明を想到するに至ったである。
【0025】
実施の形態1.
図1及び
図2を参照して、実施の形態1にかかるMTJ素子について説明する。
図1は、実施の形態1にかかるMRAMの要部の断面図である。
図2は、実施の形態1にかかるMTJ素子の断面図である。
【0026】
図1に示すように、メモリセル100は、半導体基板2と、拡散領域3、4と、ソース線6と、MTJ(Magnetic Tunnel Junction)素子10とを含む。複数のメモリセル100をマトリクス状に配置し、複数本のビット線1及び複数本のワード線8を用いて、互いに接続すると、磁気ランダムアクセスメモリ(MRAM:Magnetoresistive Random Access Memory)が形成される。この磁気ランダムアクセスメモリでは、スピントルク注入方式を用いて、データの書き込みが行なわれる。
【0027】
半導体基板2は、その上面に拡散領域3、4を有し、拡散領域3は、拡散領域4から所定の間隔を空けて配置されている。拡散領域3はドレイン領域として機能し、拡散領域4はソース領域として機能する。拡散領域3は、コンタクトプラグ7を介してMTJ素子10に接続される。
【0028】
ビット線1は、半導体基板2の上方に配置されるとともに、MTJ素子10に接続される。ビット線1は、書き込み回路(不図示)及び読み出し回路(不図示)に接続されている。
【0029】
拡散領域4はコンタクトプラグ5を介してソース線6に接続される。ソース線6は、書き込み回路(不図示)及び読み出し回路(不図示)に接続されている。
【0030】
ワード線8は、拡散領域3及び拡散領域4に接するように、ゲート絶縁膜9を介して半導体基板2に配置される。ワード線8とゲート絶縁膜9とは、選択トランジスタとして機能する。ワード線8は、図示しない回路から電流を供給されて活性化し、選択トランジスタとしてターンオンする。
【0031】
図2に示すように、MTJ素子10は、固定層13と、トンネルバリア層12と、記憶層11とをこの順に積層した積層構造を有する。
【0032】
固定層13は、強磁性金属からなる。強磁性金属として、例えば、Fe、Ni、CoFeBが挙げられる。固定層13は、所定の磁化方向を維持する。この所定の磁化方向は、例えば、膜面に垂直な方向や、膜面内における長手方向であってもよい。なお、固定層13は、磁化固着層、磁化固定層、参照層、磁化参照層、ピン層、基準層、磁化基準層などと称してもよい。
【0033】
トンネルバリア層12は、絶縁体からなる。絶縁体として、例えば、MgO、Al
2O
3が挙げられる。トンネルバリア層12の厚みは、MTJ素子10の抵抗値に応じて、適宜変更してもよい。なお、トンネルバリア層12がMgOからなる場合、記憶層11及び固定層13の少なくとも一方をトンネルバリア層12においてエピタキシャル成長させると好ましい。
【0034】
記憶層11は、強磁性絶縁体からなる強磁性絶縁層を含む。強磁性絶縁体として、例えば、強磁性酸化物が挙げられる。強磁性酸化物として、例えば、Co
XFe
3−XO
4(ここで、0<X<3)やBaFe
12O
19などが挙げられる。このような強磁性酸化物として、Co
XFe
3−XO
4は、5×10
5J/m
3(=5×10
6erg/cc)よりも高い磁気異方性を有するため、特に好ましい。Co
XFe
3−XO
4の一例として、CoFe
2O
4(この一例では、X=1)が挙げられる。また、Xが0.5よりも大きいとさらに好ましく、Co
XFe
3−XO
4がスピネル型結晶構造を有するとさらに好ましい。なお、BaFe
12O
19が六方晶型結晶構造を有すると好ましい。記憶層11は、可変な磁化方向を有する。記憶層11は、例えば、膜面に対して垂直に磁化されており、上方又は下方に向く。記憶層11は、自由層、磁化自由層、磁化可変層などと称してもよい。記憶層11の厚みは、目標とするMTJ素子10の素子抵抗値RAに応じて、適宜変更してもよい。
【0035】
ここで、メモリセル100へのデータの書き込み動作について説明する。複数のメモリセル100のうち、データを書き込む対象として1つのメモリセル100を選択する。選択されたメモリセル100では、ワード線8が活性化して、選択トランジスタとしてターンオンする。メモリセル100は、書き込むデータに基づいて、書き込み回路(不図示)から書き込み電流を供給される。例えば、電流をビット線1に流すと、MTJ素子10に流れる。すると、記憶層11は絶縁性を有するため、記憶層11の温度が上昇し、記憶層11の磁気異方性が減じる。記憶層11の磁化方向が反転しやすい状態に至る。また、電流によるスピンが記憶層11に注入されて、記憶層11の磁化の方向が所定の方向に変化する。これにより、メモリセル100に、例えば、データ「0」又はデータ「1」に対応するデータを書き込むことができる。
【0036】
続いて、メモリセル100のデータの読み出し動作について説明する。複数のメモリセル100のうち、データを読み出す対象として1つのメモリセル100を選択する。選択されたメモリセル100では、ワード線8が活性化して、選択トランジスタとしてターンオンする。メモリセル100は、読み出し回路(不図示)から読み出し電流を供給される。読み出し回路(不図示)は、読み出し電流に基づいて、抵抗値を検出する。この抵抗値に基づいて、メモリセル100の記憶するデータを、読み出すことができる。さらに、記録層11がCo
XFe
3−XO
4などの高い磁気異方性を有する強磁性絶縁酸化物からなる強磁性絶縁層を含む場合、記憶層11の磁化は読み出し時において、高い熱安定性を有する。
【0037】
次に、
図3〜
図5を用いて、実施の形態1にかかるMRAMについての計算結果について説明する。
図3及び
図4は、計算モデルを示す図である。
図5は、磁気異方性定数に対する反転電流密度である。ここでは、実施の形態1にかかるMRAMが所定のMR比を有する場合、磁化反転時(書き込み動作時)の電流密度を計算した。
【0038】
図3に示すように、量子力学に基づき、タイト・バインディング模型を用いて計算を行った。このタイト・バインディング模型は、一次元及び単一軌道である。なお、常磁性金属(NM)は、上記したMTJ素子10におけるビット線1に相当する。同様に、強磁性絶縁体(FI)は、記憶層11に相当し、常磁性絶縁体(NI)は、トンネルバリア層12に相当し、強磁性金属(FM)は、固定層13に相当する。
【0039】
まず、下記の数式1〜数式3を用いて、MR比(MR)を求めた。
【数1】
MR[無次元]:MR比
P
I[無次元]:強磁性絶縁体(FI)におけるスピンフィルタ効果のスピン分極率
P
D[無次元]:強磁性金属(FM)における電子状態密度のスピン分極率
【数2】
κ
+[1/m]:強磁性絶縁体(FI)における多数スピン電子の波動関数の減衰率
κ
−[1/m]:強磁性絶縁体(FI)における少数スピン電子の波動関数の減衰率
M[m]:強磁性絶縁体(FI)の膜厚
【数3】
D
+[1/J]:強磁性金属(FM)における多数スピン電子の電子状態密度
D
−[1/J]:強磁性金属(FM)における少数スピン電子の電子状態密度
ここで、P
Iが1であると、MR比が下記数式4の通りに記載される。
【数4】
さらに、P
Dが0.50(50%)であると、MRは1(100%)に収束する。つまり、MTJ素子10はMR比100%と十分に高いMR比を有する。なお、常磁性絶縁体(NI)がMgOからなるとともに、強磁性金属(FM)がFeからなる場合、常磁性絶縁体(NI)と強磁性金属(FM)との界面において、熱安定性Δの対称性を利用し得る。
【0040】
ところで、MRAMを使用すると、MTJ素子10の温度Tが約200°上昇することが知られている。次に、記憶層11がこの温度上昇により、磁気異方性定数K
uがMRAMとして動作し得る値まで減じたと仮定して、磁化反転電流密度を計算した。この計算では、
図4に示すモデルを、強磁性絶縁体(FI)のモデルとして用いた。用いたモデルは単層であって、高さh[nm]及び直径D[nm]を有する円柱状体である。当モデルでは、強磁性絶縁体(FI)は、上下方向に磁化容易軸(Easy Axis)を有し、初期状態(Initial State)では、上方に向いている。さらに、強磁性絶縁体(FI)は、磁気モーメントMs[A/m]と、単位界面面積当たりの飽和磁化A[J/m]とを有する。高さhと、直径Dと、磁気モーメントMsと、単位界面面積当たりの飽和磁化Aと、ダンピング定数aと、磁気異方性定数K
uは、それぞれ以下の値に設定して計算した。
h=2nm
D=20nm
Ms=600×10
3A/m(=600emu/cm
3)
A=1×10
−11J/m(=1μerg/cm)
a=0.01
K
u:熱安定性Δにより決定
【0041】
なお、熱安定性Δは下記の数式(5)を用いて求めた。
【数5】
K
u[J/m
3]:記憶層の磁気異方性定数
V[m
3]:強磁性絶縁体(FI)の体積
k
b[J/K]:ボルツマン定数
T[K]:強磁性絶縁体(FI)の温度
【0042】
計算した結果、
図5に示すように、磁気異方性定数K
uが減じると、磁化反転電流密度j
swも減じる。具体的には、磁気異方性定数K
uが約0.56J/m
3(=約5.6×10
6erg/cm
3)から約0.20J/m
3(=約2.0×10
6erg/cm
3)に減じると、磁化反転電流密度j
swは8.1×10
10A/m
2から4.0×10
10A/m
2に減じた。つまり、磁化反転電流密度j
swが51%に減じた。
【0043】
ところで、古典電磁気学に基づく計算を行うと、メモリセル100のデータの読み出し動作時において、一見、電流がMTJ素子10に殆ど流れないと考えられる。そのため、MTJ素子10を含むMRAMは動作しないと考えられる。しかしながら、量子力学に基づく計算を行うと、読み出し時においても電流がMTJ素子10に流れ、MTJ素子10を含むMRAMは動作することを証明することができる。次に、
図3を用いて、この量子力学に基づく計算について説明する。また、下記の数式6を用いて、MTJ素子の透過係数Cを求めた。ここでは、κ
0N,κ
σM >> 1であることを仮定した。数式6に、代表的な値を代入して計算すると、MTJ素子10の透過係数Cが所定の値を超えることを確認できた。つまり、MRAMにおけるメモリセル100中のMTJ素子10は、読み出し時において、電子が、絶縁層を含む固定層及び記憶層の少なくとも一方を通過することを確認できた。従って、MTJ素子10は、読み出し時において電流を流すことができるため、MTJ素子10を含むMRAMは動作することができると考えられる。
【数6】
C[無次元]:透過係数
t[J]:電子の飛び移り積分
κ
σ[1/m]:強磁性絶縁体(FM)におけるσスピン電子の波動関数の減衰率
N[m]:常磁性絶縁体(NI)の膜厚
M[m]:強磁性絶縁体(FI)の膜厚
κ
0[1/m]:常磁性絶縁体(NI)における電子の波動関数の減衰率
D
σ’[1/J]:強磁性金属(FM)におけるσ’スピン電子の電子状態密度
D
0[1/J]:常磁性金属(NM)における電子状態密度
【0044】
以上、実施の形態1にかかるMRAMによれば、強磁性絶縁体からなる記憶層を磁化反転する過程で、記憶層の温度が上昇し、記憶層の磁気異方性定数が減じ、さらに、磁化反転電流密度が減じた。すなわち、強磁性絶縁体からなる記憶層を用いると、小さな電流密度で記憶層の磁化反転を行うことができる。つまり、強磁性絶縁体からなる記憶層を用いたMTJ素子は、十分に高いMR比(磁気抵抗効果)を有し、さらに、小さな磁化反転電流密度を有する。また、このようなMTJ素子を有するMRAMの消費電力は小さい。
【0045】
さらに、MTJ素子10の素子抵抗値RAは、30Ωμm
2以下であると好ましい。トンネルバリア層12及び記憶層11の厚みを変えることにより、素子抵抗値RAを変更することができる。MTJ素子10の素子抵抗値RAは、30Ωμm
2以下であると、MTJ素子は良好な読み出し性能を有する。このようなMTJ素子を有するMRAMは、大きな記憶容量を備えて好ましい。
【0046】
また、実施の形態1にかかるMRAMによれば、強磁性絶縁体からなる層を記憶層として利用することができる。つまり、実施の形態1にかかるMRAMは、垂直磁気異方性を有する様々な材料を幅広く利用することができる。
【0047】
実施の形態2.
次に、
図6を参照して、実施の形態2にかかるMTJ素子について説明する。
図6は、実施の形態2にかかるMTJ素子の断面図である。実施の形態2にかかるMTJ素子210は、実施の形態1にかかるMTJ素子10(
図2参照。)と比較して、記憶層及び固定層を入れ替えた構成を有する。共通する構成については説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0048】
図6に示すように、MTJ素子210は、固定層23と、トンネルバリア層12と、記憶層21とをこの順に積層した積層構造を有する。
【0049】
記憶層21は、固定層13(
図2参照。)と同様に、強磁性金属からなる。強磁性金属として、例えば、Fe、CoFeBが挙げられる。記憶層21は、可変な磁化方向を有する。記憶層21は、例えば、膜面に対して垂直に磁化されている。
【0050】
固定層23は、記憶層11(
図2参照。)と同じ種類の強磁性絶縁体からなる強磁性絶縁層を含む。固定層23は、膜面に垂直な磁化方向を維持する。固定層23の厚みは、MTJ素子210の抵抗値に応じて、適宜変更してもよい。
また、固定層23では、その伝導帯において磁気分裂が生じ、伝導電子のスピンの向きによってトンネル確率が異なる。このため固定層23の磁化と平行な(あるいは反平行な)スピンを持つ電子がより多く固定層23を通り抜けるスピンフィルタ効果が生じる。スピンフィルタ効果のスピン分極率は,固定層23の膜の厚みを変えることにより変更することができる。
【0051】
ここで、読み出し動作について説明する。読み出し電流が固定層23から記憶層21に流れる。固定層23の磁化と平行な(あるいは反平行な)スピンを持つ電子がより多く固定層23を流れる。つまり、スピンフィルタ効果が発現し、このスピン分極率が高いほどMR比が高くなる。MR比が高くなるため、MTJ素子210からの信号電圧が増大し、MTJ素子210は優れた読み出し性能を有する。MTJ素子210を用いたMRAMは、大きな記憶容量を有する。さらに、固定層23はCo
XFe
3−XO
4などの高い磁気異方性を有する強磁性酸化物からなる強磁性絶縁層を含む場合、記憶層21の磁化は読み出し時において、高い熱安定性を有する。
【0052】
続いて、書き込み動作について説明する。例えば、書き込み電流をビット線1に流すと、MTJ素子210に流れる。すると、固定層23は絶縁性を有するため、固定層23の温度が上昇し、この温度上昇により記憶層21の温度も上昇し得る。記憶層21の磁気異方性が減じ得て、記憶層21の磁化方向が反転しやすい状態に至る。また、電流により、スピントルクが記憶層21に注入されて、記憶層21の磁化の方向が所定の方向に変化する。これにより、メモリセル100に、例えば、データ「0」又はデータ「1」に対応するデータを書き込むことができる。MTJ素子210は、MTJ素子10と同様に、小さな電流密度で磁化方向を反転し得る。また、このようなMTJ素子を有するMRAMの消費電力は小さい。
【0053】
以上、実施の形態2にかかるMTJ素子によれば、小さな磁化反転電流密度を有し得る。高いMR比を有し、読み出し性能に優れる。また、消費電力が小さく、大きな記憶容量を有するMRAMを形成することができる。
【0054】
実施の形態3.
次に、
図7を参照して、実施の形態3にかかるMTJ素子について説明する。
図7は、実施の形態3にかかるMTJ素子の断面図である。実施の形態3にかかるMTJ素子は、実施の形態2にかかるMTJ素子210(
図6参照。)と比較して、固定層を除いて、共通する構成を有する。共通する構成については説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0055】
図7に示すように、MTJ素子310は、固定層33と、トンネルバリア層12と、記憶層21とをこの順に積層した積層構造を有する。固定層33は、垂直磁化保持層333と、磁気結合制御層332と、強磁性層331とをこの順に積層した構造を有する。
【0056】
強磁性層331は、記憶層11(
図2参照。)と同じ種類の強磁性絶縁体からなる強磁性絶縁層を含む。強磁性層331は垂直磁気異方性定数K
u1を有する。なお、この強磁性絶縁体は、固定層23(
図6参照。)を形成する強磁性絶縁体と異なり、膜面に垂直な磁化方向を維持しなくともよい。
【0057】
磁気結合制御層332は、強磁性層331と垂直磁化保持層333との磁気結合に影響を与える材料からなる。このような材料として、例えば、Rh、Pd、Pt、Ru、MgOなどが挙げられる。磁気結合制御層332の厚みは2nm以下である。その厚みは必要に応じて変化してもよい。磁気結合制御層332の厚みを変化させると、MR比(抵抗変化率)、熱安定性、記録電流、磁化反転スピード等の因子を調節して好ましい。
【0058】
垂直磁化保持層333は、垂直磁気異方性定数K
u2を有する材料からなる。垂直磁気異方性定数K
u2は、強磁性層331の垂直磁気異方性定数K
u1と比較して高い。このような材料として、例えば、L10型FePd又はFePtが挙げられる。
【0059】
なお、上記した実施の形態3にかかるMTJ素子310では、固定層33は磁気結合制御層332を含む構成を有するが、固定層33から磁気結合制御層332を除いてもよい。つまり、MTJ素子310は、固定層33の代わりに、垂直磁化保持層333と強磁性層331とをこの順に積層した構造を有する固定層を含んでもよい。
【0060】
ここで、読み出し動作について説明する。読み出し電流が固定層33から記憶層21に流れる。固定層33の磁化と平行な(あるいは反平行な)スピンを持つ電子がより多く固定層33を流れる。つまり、スピンフィルタ効果が発現し、このスピン分極率が高いほどMR比が高くなる。MR比が高くなるため、MTJ素子310からの信号電圧が増大し、MTJ素子310は、優れた読み出し性能を有する。MTJ素子310を用いたMRAMは、大きな記憶容量を有する。さらに、強磁性層331がCo
XFe
3−XO
4などの高い磁気異方性を有する強磁性酸化物からなる強磁性絶縁層を含む場合、記憶層21の磁化は読み出し時において、高い熱安定性を有する。
【0061】
また、書き込み動作について説明する。例えば、書き込み電流をビット線1に流すと、MTJ素子310に流れる。すると、固定層33は絶縁性を有するため、固定層33の温度が上昇し、この温度上昇により記憶層21の温度も上昇し得る。記憶層21の磁気異方性が減じ得て、記憶層21の磁化方向が反転しやすい状態に至る。また、電流により、スピントルクが記憶層21に注入されて、記憶層21の磁化の方向が所定の方向に変化する。これにより、メモリセル100に、例えば、データ「0」又はデータ「1」に対応するデータを書き込むことができる。MTJ素子310は、MTJ素子210と同様に、小さな電流密度で磁化方向を反転し得る。
【0062】
以上、実施の形態3にかかるMTJ素子によれば、実施の形態2にかかるMTJ素子と同様に、小さな磁化反転電流密度を有し得る。高いMR比を有し、読み出し性能に優れる。また、大きな記憶容量を有するMRAMを形成することができる。
【0063】
さらに、実施の形態3にかかるMTJ素子によれば、磁気結合制御層332の厚みを調節することで、MR比(抵抗変化率)、熱安定性、記録電流、磁化反転スピード等の因子を調節することができる。
【0064】
実施の形態4.
次に、
図8を参照して、実施の形態4にかかるMTJ素子について説明する。
図8は、実施の形態4にかかるMTJ素子の断面図である。実施の形態4にかかるMTJ素子は、実施の形態1にかかるMTJ素子10(
図2参照。)と比較して、固定層を除いて、共通する構成を有する。共通する構成については説明を省略し、異なる構成について説明する。
【0065】
図8に示すように、MTJ素子410は、記憶層11と、トンネルバリア層12と、固定層33とをこの順に積層した積層構造を有する。固定層33は、実施の形態3にかかるMTJ素子310(
図7参照。)の構成と共通する。
【0066】
ここで、データの書き込み動作について説明する。MTJ素子410を用いたメモリセルは、書き込むデータに基づいて、書き込み回路(不図示)から書き込み電流を供給される。例えば、電流をビット線1に流すと、MTJ素子410に流れる。すると、実施の形態1にかかるMTJ素子10(
図2参照。)と同様に、記憶層11の磁化方向が所定の方向に変化する。これにより、メモリセル100に、例えば、データ「0」又はデータ「1」に対応するデータを書き込むことができる。MTJ素子410では、上記した実施の形態1にかかるMTJ素子10と同様に、磁化反転電流密度が小さいと考えられる。このようなMTJ素子を有するMRAMは、消費電力が小さい。
【0067】
また、読み出し動作について説明する。読み出し電流が固定層33から記憶層11に流れる。固定層33の磁化と平行な(あるいは反平行な)スピンを持つ電子がより多く固定層33を流れる。つまり、スピンフィルタ効果が発現し、このスピン分極率が高いほどMR比が高くなる。MR比が高くなるため、MTJ素子410からの信号電圧が増大し、MTJ素子410は優れた読み出し性能を有する。MTJ素子410を用いたMRAMは、大きな記憶容量を有する。さらに、強磁性層331がCo
XFe
3−XO
4などの高い磁気異方性を有する強磁性酸化物からなる強磁性絶縁層を含む場合、記憶層11の磁化は読み出し時において、高い熱安定性を有する。
【0068】
以上、実施の形態4にかかるMTJ素子によれば、小さな電流密度を有する電流であっても磁化反転させることができ、また、高いMR比を有するため、読み出し性能に優れる。さらに、このようなMTJ素子を有するMRAMは、消費電力が小さく、大きな記憶容量を有する。
【0069】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、実施の形態1〜4にかかるMTJ素子は、記憶層の代わりに、垂直磁化保持層と強磁性層とを積層した積層構造を有する記憶層を含んでもよい。また、実施の形態2にかかるMTJ素子210(
図6参照)は、記憶層21の代わりに、強磁性絶縁体からなる記憶層を含んでもよい。