(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般的に、ラックピニオン式舵取り装置は、ギアケース、該ギアケースに軸支されるピニオン、該ピニオンに噛合するラック歯が形成されたラックバー、前記ギアケース内において該ラックバーを摺動可能に支持するラックガイド、および該ラックガイドを前記ラックバーに押付けるように付勢するコイルバネなどにより構成される。
前記ラックガイドは、従来から、Fe系焼結金属または合成樹脂より形成されている。
ここで、Fe系焼結金属からなるラックガイドは、ラックバーより受ける衝撃荷重に対して十分な機械的強度を有するものの、摺動摩擦抵抗が大きいために、舵取り装置全体としての効率が低下し、操作性悪化の要因となる可能性があった。
一方、合成樹脂からなるラックガイドは、摺動摩擦抵抗が小さいために、舵取り装置全体としての効率の向上化を図ることができるものの、ラックバーより受ける衝撃荷重に対しての機械的強度が劣るために、舵取り装置全体としての耐久性に影響を与える可能性があった。
【0003】
そこで、これらの問題点を解決するための手段として、例えば、Fe系焼結金属やアルミニウム合金などの金属部材によって形成されるラックガイド本体と、表面に合成樹脂層が被覆され、前記ラックガイド本体に固着される摺動板片と、などにより構成されるラックガイドに関する技術が知られている。
より具体的には、従来のラックガイドは、中央に孔部を有したラックガイド本体と、同じく中央に突起部を有した摺動板片とにより構成され、ラックガイド本体の孔部に対して摺動板片の突起部が圧入嵌合されることにより、摺動板片がラックガイド本体に固着されるようになっている(例えば、「特許文献1」を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、従来のラックガイドにおいては、ラックバーを支持する際に当該ラックバーと直接接触する摺動板片の表面に、合成樹脂層が被覆されることから、当該表面の摩耗が比較的速く進行する。
その結果、ラックガイドの配置位置がラックバー側へと直ちに変位することとなり、これにより、コイルバネによるラックガイドの押圧力も変動するため、ラックガイドによるラックバーの支持状態を、安定して堅固に維持することが困難であった。
【0006】
本発明は、以上に示した現状の問題点を鑑みてなされたものであり、ギアケースに軸支されたピニオンとラック歯を介して噛合するラックバーを、軸心方向に移動可能に支持するラックガイドおよび当該ラックガイドを備えるラックピニオン式舵取り装置であって、ラックガイドによるラックバーの支持状態を、安定して堅固に維持することが可能なラックガイドおよび当該ラックガイドを備えるラックピニオン式舵取り装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、本発明の請求項1におけるラックガイドは、ギアケースに軸支されたピニオンとラック歯を介して噛合するラックバーを、軸心方向に移動可能に支持するラックガイドであって、前記ラックバーにおける前記ラック歯が形成される側と反対側の凸面と、摺動可能に接触する凹面形状の摺動支持面を有し、該摺動支持面
の表面上には複数の凹部が形成され、前記摺動支持面は、硬質皮膜によって被覆され
、該硬質皮膜の表面上には、前記摺動支持面に形成された凹部に合わせた、複数の凹部が形成されることを特徴とする。
【0009】
このように、本発明のラックガイドにおいては、摺動支持面に硬質被膜を被覆させることから、合成樹脂層が表面に被覆された従来のラックガイドのように、摩耗によってラックガイドの配置位置がラックバー側へと変位することも少なく、コイルバネによるラックガイドの押圧力の変動を極力防止し、ラックガイドによるラックバーの安定した堅固な支持状態の維持を図ることができる。
また、摺動支持面に直接硬質皮膜を被覆させることから、従来のラックガイドのように、ラックガイド本体の摺動支持面に固着される摺動板片を別途設ける必要がなく、部品点数の削減を図ることができるばかりか、例えば、摺動板片の突起部や、該突起部に対応するラックガイド本体の孔部を形成するための工程や、摺動板片の突起部をラックガイド本体の孔部に圧入嵌合するための工程等を設ける必要がなく、ラックガイドの摺動支持面に、硬質皮膜を被覆する工程だけで足りるため、製造コストの低減化を図ることができる。
さらに、本発明のラックガイドにおいては、複数の凹部を介して、グリース等の潤滑剤を確実に保持することができるため、ラックガイドの摺動支持面において、良好な摺動特性を長期間維持することができる。
【0012】
一方、本発明の請求項3におけるラックピニオン式舵取り装置は、請求項
1に記載のラックガイドを備えてなることを特徴とする。
【0013】
このように、本発明のラックピニオン式舵取り装置は、以上に示した本発明のラックガイドを備えることにより、ラックガイドによるラックバーの安定した堅固な支持状態の維持を図ることができ、装置全体として、故障の少ない耐久性の高い装置を実現することができる。
また、以上に示した本発明のラックガイドを備えることにより、装置全体として製造コストの低減化を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
即ち、本発明におけるラックガイドおよび当該ラックガイドを備えるラックピニオン式舵取り装置によれば、ラックガイドによるラックバーの支持状態を、安定して堅固に維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[ラックピニオン式舵取り装置1]
先ず、本発明を具現化するラックガイド6を備えるラックピニオン式舵取り装置1(以下、単に「舵取り装置1」と記載する)の全体構成について、
図1を用いて説明する。
なお、以下の説明においては便宜上、
図1の上下方向を舵取り装置1の上下方向と規定して記述する。
また、
図1においては、矢印Aの方向を舵取り装置1の前方と規定して記述する。
【0019】
本実施形態における舵取り装置1は、例えば、図示せぬステアリングホイールによって回転されるピニオン2の回転動作を、ラックバー3の直進動作に変換するための装置である。
舵取り装置1にはギアケース4が備えられ、該ギアケース4の内部に、ピニオン2の一端部が、例えば前方(
図1中の矢印Aの方向)に向かって挿入される。
【0020】
ここで、ピニオン2の一端部には、ピニオン歯2aが形成される。
そして、ギアケース4の内部において、ピニオン2の一端部は、ピニオン歯2aを間に挟んで配置される一対の軸受5・5を介して軸支される。
【0021】
なお、ピニオン2の他端部は、ギアケース4の外部において軸心方向に延出し、ステアリングホイール(図示せず)と連結される。
【0022】
ギアケース4の内部には、グリース(図示せず)が装填されるとともに、ピニオン2と噛合されるラックバー3が配置される。
ラックバー3の軸心方向中央部の外周面には、ラック歯3aが形成されており、該ラック歯3aに対する背面(ラック歯3aが形成される側と反対側の面)は、所定の曲率半径からなる断面視円弧形状の凸面3bとなっている。
【0023】
そして、ラックバー3は、ピニオン歯2aの下方において、ピニオン2と平面視直交方向(例えば、本実施形態においては、左右方向)に延出して配置され、ラック歯3aを介してピニオン歯2aと噛合される。
【0024】
なお、ラックバー3の両端部は、ギアケース4の内部より外部に向かって突出されるとともに、ラックバー3は、図示せぬ軸受部材を介して、軸心方向(左右方向)に摺動移動可能に支持される。
【0025】
ギアケース4の下面には、円筒状の突出部位4aが一体的に形成される。
前記突出部位4aは、ピニオン2との間にラックバー3を挟むような位置に形成されており、その内周部(内周面によって囲まれた空間部)には、ラックバー3を摺動可能に支持するラックガイド6が、突出部位4aの延出方向(本実施形態においては、上下方向)に摺動可能に配設される。
【0026】
そして、ラックガイド6は、突出部位4aの下端を閉塞する蓋部材7との間に配設される、弾性部材としての圧縮コイルバネ8によって、ラックバー3側に付勢される。
【0027】
以上のような構成からなる舵取り装置1において、ステアリングホイール(図示せず)を介して、ピニオン2が軸心を中心にして回転されると、ピニオン2に加えられた回転駆動力は、ピニオン歯2a、ラック歯3aと順に伝達され、ラックバー3の軸心方向への推進力へと変換される。
【0028】
[ラックガイド6]
次に、ラックガイド6の構成について、
図1乃至
図8を用いて詳述する。
なお、以下の説明においては便宜上、
図2、
図3(b)、
図4(b)、
図5(b)、
図6(b)、および
図7の上下方向をラックガイド6の上下方向と規定し、また
図8の上下方向を従来のラックピニオン式舵取り装置101の上下方向と規定して記述する。
また、
図2、
図7および
図8においては、矢印Aの方向を、ラックガイド6または従来のラックピニオン式舵取り装置101の前方と規定して記述する。
【0029】
ラックガイド6は、
図1に示すように、ピニオン2と噛合された状態にあるラックバー3を、ピニオン2側に押圧しつつ該ラックバー3の軸心方向に摺動可能に支持するための部材である。
ラックガイド6は、例えば、Fe系焼結金属やアルミニウム合金などからなる円柱状の金属部材により構成され、その一端部には、ラックバー3の凸面3bと略同じ断面視円弧形状の凹面からなる摺動支持面6aが形成されるとともに、その他端部には、圧縮コイルバネ8を保持可能な円筒状中空部6bが形成される。
【0030】
なお、摺動支持面6aは必ずしも一定の曲率半径で形成されている必要はなく、曲率を変えて形成されていてもよい。
例えば、
図7に示すように、本実施形態におけるラックガイド6の摺動支持面6aは、ラックバー3の軸心Oを通る垂直方向の中心線Cに対して、一方側(例えば、本実施形態においては前方側)の領域に位置する第一摺動支持面6a1と、他方側(例えば、本実施形態においては後方側)の領域に位置する第二摺動支持面6a2とにより構成される。
【0031】
第一摺動支持面6a1は、軸心Oを通過し、且つ中心線Cに対して前方側にα1°傾斜する第一中心線C1において、軸心Oの後方、且つ当該第一中心線C1上の点O1を曲率中心とする円弧形状に形成される。
ここで、α1°は、αf°を超えない角度であって(0°<α1°<αf°)、αf°は、中心線Cと、摺動支持面6aの前端および軸心Oを通過する第一仮想線L1との間の角度である。
【0032】
一方、第二摺動支持面6a2は、軸心Oを通過し、且つ中心線Cに対して後方側にα2°傾斜する第二中心線C2において、軸心Oの前方、且つ当該第二中心線C2上の点O2を曲率中心とする円弧形状に形成される。
ここで、α2°は、αb°を超えない角度であって(0°<α2°<αb°)、αb°は、中心線Cと、摺動支持面6aの後端および軸心Oを通過する第二仮想線L2との間の角度である。
【0033】
そして、第一摺動支持面6a1においては、第一中心線C1と、当該第一摺動支持面6a1との交点D1上にて、ラックバー3の外周面である円弧形状の凸面3bと外接される。
また、第二摺動支持面6a2においては、第二中心線C2と、当該第二摺動支持面6a2との交点D2上にて、ラックバー3の外周面である円弧形状の凸面3bと外接される。
【0034】
このように、本実施形態におけるラックガイド6においては、軸心Oに対して偏心した位置に曲率中心O1および曲率中心O2を各々有するとともに、曲率半径が互いに異なる第一摺動支持面6a1および第二摺動支持面6a2からなる摺動支持面6aによって、ラックバー3を、交点D1および交点D2の位置にて二点支持する構成となっている。
これにより、摺動支持面6aにおける、ラックバー3の円弧形状の凸面3bとの摺接領域が、線、または狭い帯状となるため、ラックバー3との摺動摩擦抵抗を、より小さくすることができる。
【0035】
ラックガイド6は、ギアケース4の内部において、摺動支持面6aをラックバー3側に向けつつ、突出部位4aと同軸上に配設される。また、蓋部材7によって一端部を固定された圧縮コイルバネ8の他端部が、円筒状中空部6bを介して保持される。
こうして、ラックガイド6は、摺動支持面6aを介してラックバー3の凸面3bと接触しつつ、外周面6cを介して突出部位4aの内周部を軸心方向(本実施形態においては、上下方向)に摺動可能に配設される。この際、ラックガイド6は、圧縮コイルバネ8によって、常に、ラックバー3側に向かって付勢される。
【0036】
ところで、
図2に示すように、本実施形態においては、ラックバー3の凸面3bと接触し得る、ラックガイド6の摺動支持面6aの表面全体に対して、硬質皮膜10の被覆を施すこととしている。
【0037】
ここで、硬質皮膜10は、耐磨耗性の向上を目的として被覆される被膜であって、数μmから数十μmの膜厚となるように形成される。
硬質皮膜10としては、例えば、窒化クロム(CrN)や窒化チタン(TiN)による窒化処理、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、アルマイト、Ni−P系無電解めっき、Ni−P−B系無電解めっき、Ni−P−PTFE系複合無電解めっきなどを採用することができる。
【0038】
そして、硬質皮膜10は、複数の凹部を表面に有するようにして形成される。
例えば、その一例として、
図3(a)に示すように、硬質皮膜10(以下、適宜「第一の硬質皮膜10A」と記載する)は、複数のディンプル状の凹部10a・10a・・・からなるテクスチャー(表面上の構成)を有して構成される。
これにより、
図3(b)に示すように、第一の硬質皮膜10Aにおいては、複数の凹部10a・10a・・・の内部に、前述したギアケース4内に装填されるグリースの一部が保持されることとなり、ラックガイドの摺動支持面6aに対して、良好な摺動特性を長期間維持することができる。
【0039】
なお、本実施形態においては、摺動支持面6aの表面を被覆する第一の硬質皮膜10Aのテクスチャーを、当該第一の硬質皮膜10Aの表面に形成される複数の凹部10a・10a・・・によって構成することとしているが、これに限定されるものではない。
即ち、
図4(a)(b)に示すように、摺動支持面6aの表面上において、複数のディンプル状の凹部6d・6d・・・を予め形成し、これらのディンプル状の凹部6d・6d・・・に合わせて、摺動支持面6aを第一の硬質皮膜10Aによって被覆することにより、複数の凹部10a・10a・・・からなる第一の硬質皮膜10Aのテクスチャーを構成することとしてもよい。
【0040】
また、その別例として、
図5(a)に示すように、硬質皮膜10(以下、適宜「第二の硬質皮膜10B」と記載する)は、複数の短冊状の凹部10b・10b・・・からなるテクスチャー(表面上の構成)を有して構成される。
これにより、
図5(b)に示すように、第二の硬質皮膜10Bにおいては、複数の凹部10b・10b・・・の内部に、前述したギアケース4内に装填されるグリースの一部が保持されることとなり、ラックガイドの摺動支持面6aに対して、良好な摺動特性を長期間維持することができる。
【0041】
なお、前述の別実施形態においては、摺動支持面6aの表面を被覆する第二の硬質皮膜10Bのテクスチャーを、当該第二の硬質皮膜10Bの表面に形成される複数の凹部10b・10b・・・によって構成することとしているが、これに限定されるものではない。
即ち、
図6(a)(b)に示すように、摺動支持面6aの表面上において、複数の短冊状の凹部6e・6e・・・を予め形成し、これらの短冊状の凹部6e・6e・・・に合わせて、摺動支持面6aを第二の硬質皮膜10Bによって被覆することにより、複数の凹部10b・10b・・・からなる第二の硬質皮膜10Bのテクスチャーを構成することとしてもよい。
【0042】
以上のように、本実施形態においては、ラックガイド6の摺動支持面6aに対して、直接、硬質皮膜10の被覆を施すこととしている。
よって、
図8に示すように、合成樹脂層110が表面に被覆された、従来のラックピニオン式舵取り装置101に備えられるラックガイド106のように、摩耗によってラックガイド106の配置位置がラックバー103側へと変位することも少なく、圧縮コイルバネ108によるラックガイド106の押圧力の変動を極力防止し、ラックガイド106によるラックバー103の堅固な支持状態の維持を図ることができる。
【0043】
また、本実施形態のラックガイド6によれば、従来のラックガイド106のように、ラックガイド本体106Aの摺動支持面に固着される摺動板片106Bを別途設ける必要もなく、部品点数の削減を図ることができる。
さらに、従来のラックガイド106の製造工程においては、摺動板片106Bの突起部106bを絞り成形するための工程や、ラックガイド本体106Aに対して前記突起部106bに対応する孔部106aを穿孔するための工程や、摺動板片106Bの突起部106bをラックガイド本体106Aの孔部106aに圧入嵌合するための工程等が必要であったが、本実施形態におけるラックガイド6の製造工程においては、これらの工程を行う必要がなく、ラックガイド6の摺動支持面6aに対して、硬質皮膜10を被覆する工程のみで足りる。
従って、本実施形態におけるラックガイド6によれば、製造コストの低減化を図ることができる。
【0044】
なお、ラックガイド6の配置位置については、本実施形態に限定されることなく、摺動支持面6aを介して、ラックバー3を、ピニオン2側に押圧しつつ支持可能である限り、当該ラックバー3の軸心方向に沿った何れに設けることとしてもよい。