特許第6346071号(P6346071)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社椿本チエインの特許一覧

<>
  • 特許6346071-チェーン 図000002
  • 特許6346071-チェーン 図000003
  • 特許6346071-チェーン 図000004
  • 特許6346071-チェーン 図000005
  • 特許6346071-チェーン 図000006
  • 特許6346071-チェーン 図000007
  • 特許6346071-チェーン 図000008
  • 特許6346071-チェーン 図000009
  • 特許6346071-チェーン 図000010
  • 特許6346071-チェーン 図000011
  • 特許6346071-チェーン 図000012
  • 特許6346071-チェーン 図000013
  • 特許6346071-チェーン 図000014
  • 特許6346071-チェーン 図000015
  • 特許6346071-チェーン 図000016
  • 特許6346071-チェーン 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346071
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】チェーン
(51)【国際特許分類】
   F16G 13/02 20060101AFI20180611BHJP
   F16G 13/06 20060101ALI20180611BHJP
   F16J 15/22 20060101ALI20180611BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20180611BHJP
   D03D 27/00 20060101ALI20180611BHJP
【FI】
   F16G13/02 D
   F16G13/06 A
   F16J15/22
   D03D1/00 Z
   D03D27/00
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-228778(P2014-228778)
(22)【出願日】2014年11月11日
(65)【公開番号】特開2016-90021(P2016-90021A)
(43)【公開日】2016年5月23日
【審査請求日】2017年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】山根 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】越智 誠二
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−85253(JP,A)
【文献】 特開2009−264438(JP,A)
【文献】 特開2000−291804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 13/02
D03D 1/00
D03D 27/00
F16G 13/06
F16J 15/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向して離れて配置される一対の内リンクプレートと、前記一対の内リンクプレートを両端部が貫通する筒状のブシュと、前記ブシュに挿入されるピンと、前記一対の内リンクプレートを外側から挟むように配置されて前記ピンの両端部がそれぞれ貫通する一対の外リンクプレートと、前記ピンを囲むように前記内リンクプレートの外側面と前記外リンクプレートの内側面との間に配置されるシール部とを備えたチェーンであって、
前記シール部は、
剛性を有した環状のシールベースと、
前記シールベースと前記内リンクプレートの外側面との間及び前記シールベースと前記外リンクプレートの内側面との間に前記ピンを囲むように配置された環状の弾性部材と、
前記シールベースと前記内リンクプレートの外側面との間及び前記シールベースと前記外リンクプレートの内側面との間のうち少なくとも一方に前記ピンを囲むように配置され、前記ピンの径方向と交差する方向に延びる複数の糸を有した環状の毛部と、
を備えたことを特徴とするチェーン。
【請求項2】
前記毛部は、前記弾性部材の内側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のチェーン。
【請求項3】
前記毛部は、タテ糸とヨコ糸とを織ることで形成される基布に前記複数の糸としてパイル糸が立設されるように織り込まれた環状のパイル織物によって構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチェーン。
【請求項4】
前記シール部は、前記基布における前記パイル糸が立設された側とは反対側の面に接合された環状の板材を有していることを特徴とする請求項3に記載のチェーン。
【請求項5】
前記シールベースは、前記ピンを囲むように配置された環状の内周側シールベースと、前記内周側シールベースの外周面を囲むように配置された環状の外周側シールベースとを備えていることを特徴とする請求項1〜請求項4のうちいずれか一項に記載のチェーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内リンクプレートの外側面と外リンクプレートの内側面との間にシール部を介在したチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のチェーンとしては、内リンクプレートと外リンクプレートとの間にオイルシールが配置されたものが知られている(例えば、特許文献1)。このようなオイルシールは、円環状のシールリングと、シールリングにおける内リンクプレート側の面及び外リンクプレート側の面にそれぞれ形成された円環状の溝に配置される円環状の弾性リング(Oリング)とを備えている。そして、各弾性リングが内リンクプレート及び外リンクプレートに摺接することで、ピンとブシュとの間に外部から異物が入ったり、ピンとブシュとの間の潤滑油が外部へ漏れ出したりすることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−85253号公報(図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のようなチェーンでは、シールリングと内リンクプレートとの間、及びシールリングと外リンクプレートとの間を弾性リング(Oリング)のみによってシールしている。このため、特にチェーンを石炭粉や鉄鉱石粉などの微細な粉体が多く漂う環境下で使用する場合には、こうした粉体が外部からピンとブシュとの間に進入し易くなるので、シール性を向上する上では改善の余地を残すものとなっている。
【0005】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、シール部によるシール性を向上することが可能なチェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するチェーンは、互いに対向して離れて配置される一対の内リンクプレートと、前記一対の内リンクプレートを両端部が貫通する筒状のブシュと、前記ブシュに挿入されるピンと、前記一対の内リンクプレートを外側から挟むように配置されて前記ピンの両端部がそれぞれ貫通する一対の外リンクプレートと、前記ピンを囲むように前記内リンクプレートの外側面と前記外リンクプレートの内側面との間に配置されるシール部とを備えたチェーンであって、前記シール部は、剛性を有した環状のシールベースと、前記シールベースと前記内リンクプレートの外側面との間及び前記シールベースと前記外リンクプレートの内側面との間に前記ピンを囲むように配置された環状の弾性部材と、前記シールベースと前記内リンクプレートの外側面との間及び前記シールベースと前記外リンクプレートの内側面との間のうち少なくとも一方に前記ピンを囲むように配置され、前記ピンの径方向と交差する方向に延びる複数の糸を有した環状の毛部と、を備えた。
【0007】
この構成によれば、シール部が複数の糸を有した環状の毛部を有しているため、Oリングなどの弾性部材でシールし難い粉体などの異物をも捕捉することができる。したがって、シール部によるシール性を向上することが可能となる。
【0008】
上記チェーンにおいて、前記毛部は、前記弾性部材の内側に配置されていることが好ましい。
この構成によれば、外部から弾性部材を擦り抜けて進入しようとする特に粉体などの異物を毛部によって好適に捕捉することが可能となる。
【0009】
上記チェーンにおいて、前記毛部は、タテ糸とヨコ糸とを織ることで形成される基布に前記複数の糸としてパイル糸が立設されるように織り込まれた環状のパイル織物によって構成されていることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、毛部におけるパイル糸の密度を容易に均一にすることが可能となる。
上記チェーンにおいて、前記シール部は、前記基布における前記パイル糸が立設された側とは反対側の面に接合された環状の板材を有していることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、板材によって基布の形状を安定させることが可能となる。
上記チェーンにおいて、前記シールベースは、前記ピンを囲むように配置された環状の内周側シールベースと、前記内周側シールベースの外周面を囲むように配置された環状の外周側シールベースとを備えていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、内周側シールベース及び外周側シールベースのうちのいずれか一方が機能しなくなった場合でも、他方が機能するので、シールベースを長期間にわたって機能させることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シール部によるシール性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態のチェーンの一部を示す分解斜視図。
図2】同チェーンの一部を示す断面図。
図3】同チェーンにおける板材が接合された毛部の斜視図。
図4図3の一部を示す拡大断面模式図。
図5】変更例のチェーンの要部拡大断面図。
図6】変更例のチェーンの要部拡大断面図。
図7】変更例のチェーンの要部拡大断面図。
図8】変更例のチェーンの要部拡大断面図。
図9】変更例のチェーンの要部拡大断面図。
図10】変更例のチェーンの要部拡大断面図。
図11】変更例のチェーンの要部拡大断面図。
図12図11のチェーンにおける板材が接合された毛部の斜視図。
図13】変更例のチェーンの要部拡大断面図。
図14図13のチェーンにおける板材が接合された毛部の斜視図。
図15】変更例のチェーンの要部拡大断面図。
図16図15のチェーンにおける毛部の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、チェーンの一実施形態を図面に従って説明する。
図1及び図2に示すように、チェーン11は、互いに幅方向Yで対向して離れて配置される一対の内リンクプレート12を各々有した複数の内リンク13と、一対の内リンクプレート12を幅方向Yの外側から挟むように配置される一対の外リンクプレート14を各々有した複数の外リンク15とを備えている。
【0016】
内リンク13の内リンクプレート12及び外リンク15の外リンクプレート14は、チェーン11が幅方向Yと直交する長手方向の一方側から引っ張られて移動する場合の移動方向ともなる直列方向Xに沿って延びる略矩形板状をなしており、両端部が丸みを帯びている。
【0017】
そして、幅方向Yで対向する内リンクプレート12及び外リンクプレート14は、互いに平行となるように配置されている。したがって、本実施形態のチェーン11は、その直列方向Xにおける内リンク13及び外リンク15の一端側と他端側でそれぞれ内リンクプレート12間の間隔及び外リンクプレート14間の間隔が等しくなるように構成された所謂フラットタイプのチェーンである。
【0018】
内リンクプレート12の直列方向Xにおける両端部には、それぞれ円形のブシュ挿入孔16が内リンクプレート12の厚さ方向ともなる幅方向Yに貫通するように形成されている。内リンク13において対向する一対の内リンクプレート12間には、これら一対の内リンクプレート12間の距離を保つように円筒状のブシュ17が2つ組み付けられる。
【0019】
ブシュ17は、その両端部が一対の内リンクプレート12のブシュ挿入孔16に対してそれぞれ嵌合している。すなわち、ブシュ17の両端部は、一対の内リンクプレート12を貫通し、一対の内リンクプレート12の外側にそれぞれ突出している。また、ブシュ17は、円筒状のローラ18に挿通されることでローラ18を回転可能に支持している。すなわち、ブシュ17は、ローラ18に遊嵌されている。
【0020】
ブシュ17の両端部における一対の内リンクプレート12の外側に突出した部分の外周面17aには、円環状のシール部19がそれぞれ嵌合している。したがって、シール部19は、内リンクプレート12の外側面12aと外リンクプレート14の内側面14aとの間に配置されている。シール部19の厚さは、ブシュ17の両端部における内リンクプレート12の外側面12aからの突出長さよりも僅かに厚くなるように設定されている。したがって、ブシュ17の両端面17bと外リンクプレート14の内側面14aとの間には、僅かな隙間が形成される。
【0021】
外リンクプレート14の直列方向Xにおける両端部には、それぞれブシュ17の内径よりも若干小さい外径を有した円柱状のピン20が挿嵌される円形のピン挿入孔21が外リンクプレート14の厚さ方向ともなる幅方向Yに貫通するように形成されている。ピン20は、その一端部に、ピン挿入孔21の径よりも若干径の大きい抜け止め用の拡径部20aを有している。
【0022】
そして、外リンク15の外リンクプレート14は、ブシュ17が一対の内リンクプレート12間に組み付けられて形成された内リンク13における内リンクプレート12の外側からピン20を介して内リンク13の内リンクプレート12に対して回動自在に連結される。この場合、ピン20は、両端部以外の中間部が内リンク13の一対の内リンクプレート12間に組み付けられたブシュ17に挿入された状態で、両端部が外リンク15の一対の外リンクプレート14のピン挿入孔21に対して嵌合されている。
【0023】
したがって、ピン20の両端部は一対の外リンクプレート14をそれぞれ貫通しており、直列方向Xで隣り合う内リンク13の内リンクプレート12と外リンク15の外リンクプレート14とが直列方向Xの端部同士でピン20及びブシュ17を介して回動自在に連結される。
【0024】
ピン20の外周面20bとブシュ17の内周面17cとの間には、図示しない潤滑剤が充填されている。したがって、チェーン11を使用すると、ブシュ17とピン20とが相対的に回動する。このとき、潤滑剤によってブシュ17とピン20との相対的な回動が潤滑される。なお、本実施形態のチェーン11は、鋼材によって構成されている。
【0025】
次に、シール部19の構成について詳述する。
図2に示すように、シール部19は、ブシュ17の外周面17aに嵌合する剛性を有した円環状のシールベース30を備えている。本実施形態におけるシールベース30は、鋼材によって構成されている。シールベース30の内周面における内リンクプレート12側のコーナー部にはC面取りがなされて斜面32が形成されている。
【0026】
そして、シールベース30の斜面32と、内リンクプレート12の外側面12aと、ブシュ17の外周面17aとによって囲まれた領域には、円環状の弾性部材の一例としての第1弾性リング33が、斜面32、外側面12a、及び外周面17aによって圧縮されるように弾性変形された状態でピン20を囲むように配置されている。この場合、シールベース30における内リンクプレート12の外側面12aとの対向面34と内リンクプレート12の外側面12aとの間には、僅かな隙間が形成される。
【0027】
シールベース30の対向面34におけるシールベース30の径方向の中央部よりも外周寄りの位置には、円環状の第1溝35がピン20を囲むように形成されている。第1溝35には、円環状の弾性部材の一例としての第2弾性リング36がピン20を囲むように嵌め込まれている。この場合、第2弾性リング36は、圧縮状態となるように弾性変形されており、自らの弾性復元力によって内リンクプレート12の外側面12aに圧接している。
【0028】
シールベース30における外リンクプレート14との対向面37におけるシールベース30の径方向の中央部よりも外周寄りの位置には、円環状の第2溝38がピン20を囲むように形成されている。第2溝38には、円環状の弾性部材の一例としての第3弾性リング39がピン20を囲むように嵌め込まれている。この場合、第3弾性リング39は、圧縮状態となるように弾性変形されており、自らの弾性復元力によって、第2弾性リング36が内リンクプレート12に圧接する際の力よりも若干弱い力で外リンクプレート14の内側面14aに圧接している。すなわち、第3弾性リング39は、外リンクプレート14の内側面14aに摺接している。
【0029】
そして、シールベース30の対向面37と外リンクプレート14の内側面14aとの間には、僅かな隙間が形成されている。なお、本実施形態において、第1弾性リング33、第2弾性リング36、及び第3弾性リング39は、いずれもゴムなどのエラストマーによって形成されるOリングによって構成されている。
【0030】
また、シールベース30の対向面37におけるシールベース30の径方向の中央部よりも内周寄りの位置には、円環状の第3溝40がピン20を囲むように形成されている。第3溝40には、ピン20の径方向と直交(交差)する方向である幅方向Yに沿って延びる複数の糸(後述するパイル糸46)を有した円環状の毛部41がピン20を囲むように嵌め込まれている。したがって、毛部41は、第3弾性リング39の内側(内周側)に配置されている。この場合、毛部41の一部は、外リンクプレート14の内側面14aに摺接している。
【0031】
次に、毛部41の構成について詳述する。
図3及び図4に示すように、毛部41は、パイル織物によって構成されている。毛部41を構成するパイル織物は、合成樹脂製の基布45と、その基布45上に立設されるように織り込まれた複数の糸としての合成樹脂製のパイル糸46とを備えている。すなわち、基布45は、タテ糸45aと、タテ糸45aの延びる方向と直交する方向に延びるヨコ糸45bとを、交互に織りなすことによって形成される織布によって構成され、各パイル糸46は、U字状をなすようにヨコ糸45bに搦めて基布45上に立設されるように基布45に織り込まれている。
【0032】
本実施形態の毛部41においては、各パイル糸46に複数のフィラメント46aによって構成されたマルチフィラメント糸が用いられ、パイル糸46の密度が1平方センチメートルあたり7〜10万本となるように設定されている。また、基布45における複数のパイル糸46が立設された側とは反対側の面には、接着層47を介して円環状をなす金属製の板材48が接合されている。基布45と板材48とを接合する接着層47としては、接着剤や両面粘着テープを用いることができる。
【0033】
なお、図2に示すように、毛部41は板材48側から第3溝40に嵌め込まれ、毛部41が第3溝40に嵌め込まれた状態では各パイル糸46が外リンクプレート14の内側面14aに対して長さに余裕をもって摺接する。
【0034】
次に、チェーン11の使用時におけるシール部19の作用について説明する。
さて、チェーン11を使用すると、内リンクプレート12と外リンクプレート14とが相対的に回動する。このとき、第1弾性リング33及び第2弾性リング36の内リンクプレート12の外側面12aに対する密着力は、第3弾性リング39の外リンクプレート14の内側面14aに対する密着力よりも大きくなっている。このため、毛部41及び第3弾性リング39は外リンクプレート14の内側面14aに対して摺動するが、第1弾性リング33及び第2弾性リング36は内リンクプレート12の外側面12aに対して摺動することなく密着状態を維持する。
【0035】
したがって、チェーン11の外部に存在する水、塵埃、及び粉体などの異物がチェーン11の内部に進入する場合、異物は、第2弾性リング36と内リンクプレート12の外側面12aとの間を通ることができない。このため、異物は、シールベース30の対向面37と外リンクプレート14の内側面14aとの間を通ってチェーン11の内部へと進入する。
【0036】
すなわち、チェーン11の外部から内部へと進入しようとする異物は、まず、第3弾性リング39と外リンクプレート14の内側面14aとの間を通ってチェーン11の内部へと進入しようとする。このとき、水や塵埃などの異物は、第3弾性リング39によってほとんどブロックされるが、粉体(例えば、石炭粉や鉄鉱石粉)などの異物は、第3弾性リング39によってさほどブロックされない。
【0037】
そして、第3弾性リング39と外リンクプレート14の内側面14aとの間を通って進入した異物(特に粉体)は、毛部41に到達する。すると、異物(特に粉体)は、毛部41の各パイル糸46によって効果的に絡め取られる(捕捉される)。その後、毛部41を通り抜けた僅かな異物は、ブシュ17の端面17bと外リンクプレート14の内側面14aとの間を通ってブシュ17の内周面17cとピン20の外周面20bとの間に進入する。
【0038】
このように、水や塵埃などの異物の進入が第3弾性リング39によって効果的に抑制され、粉体などの異物の進入が毛部41によって効果的に抑制される。このため、従来に比べて異物がシール部19を進行し難くなる、すなわち従来に比べてシール部19によるシール性が向上するので、シール部19によってチェーン11の外部から内部への異物の進入が効果的に抑制される。
【0039】
また、ブシュ17の内周面17cとピン20の外周面20bとの間にある潤滑剤がチェーン11の外部へ漏出する場合、潤滑剤は、ブシュ17の端面17bと外リンクプレート14の内側面14aとの間を通って毛部41へ向かう。このとき、潤滑剤がカーボンなどの固体潤滑剤である場合には、当該固体潤滑剤が粉体となって毛部41へと進行する。
【0040】
そして、毛部41に到達した固体潤滑剤(粉体)は、上述した異物(特に粉体)の場合と同様に、毛部41の各パイル糸46によって効果的に絡め取られる(捕捉される)。その後、毛部41を通り抜けた僅かな固体潤滑剤は、第3弾性リング39と外リンクプレート14の内側面14aとの間を通ってチェーン11の外部へと漏出する。
【0041】
このように、シール部19は、チェーン11の外部から内部への異物の進入経路の途中位置及びチェーン11の内部から外部への潤滑剤の漏出経路の途中位置に毛部41を備えている。このため、チェーン11の外部から内部への異物(特に粉体)の進入を効果的に抑制しつつ、チェーン11の内部から外部への潤滑剤(特に粉体)の漏出を効果的に抑制することができる。したがって、チェーン11が長持ちするようになる。
【0042】
以上詳述した実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)チェーン11において、シール部19は、毛部41を備えているので、第3弾性リング39によってシールし難い粉体などの異物をも効果的に捕捉することができる。このため、シール部19による異物(特に粉体)及び潤滑剤(特に粉体)に対するシール性を向上することができる。この結果、チェーン11を長持ちさせることができる。
【0043】
(2)チェーン11において、毛部41は、第3弾性リング39の内側に配置されている。このため、外部から第3弾性リング39を擦り抜けて進入しようとする特に粉体などの異物を毛部41によって好適に捕捉することができる。
【0044】
(3)チェーン11において、毛部41は、タテ糸45aとヨコ糸45bとを織ることで形成される基布45に複数の糸としてパイル糸46が立設されるように織り込まれた円環状のパイル織物によって構成されている。このため、毛部41におけるパイル糸46の密度を容易に均一にすることができる。また、毛部41がパイル織物であるため、毛部41の取り扱いが容易になる。
【0045】
(4)チェーン11において、シール部19は、基布45におけるパイル糸46が立設された側とは反対側の面に接合された円環状の板材48を有している。このため、板材48によって基布45の形状、ひいては毛部41を構成するパイル織物の形状を安定させることができる。
【0046】
(5)チェーン11において、シールベース30における外リンクプレート14側には第3弾性リング39が配置され、シールベース30における内リンクプレート12側には第2弾性リング36が配置されている。このため、第2弾性リング36及び第3弾性リング39によってシールベース30の位置を外リンクプレート14の内側面14aと内リンクプレート12の外側面12aとの間でバランスよく維持することができる。このため、毛部41(パイル織物)に過度な負荷がかかることを抑制することができる。
【0047】
(変更例)
なお、上記実施形態は次のように変更してもよい。
図5に示すように、第3弾性リング39と、板材48が接合された毛部41とを入れ替えて配置するようにしてもよい。すなわち、毛部41の内側(内周側)に第3弾性リング39を配置するようにしてもよい。
【0048】
図6に示すように、シールベース30の対向面37における毛部41の内側(内周側)に円環状の溝50を設け、この溝50に弾性部材の一例としての弾性リング51を嵌め込むようにしてもよい。この場合、弾性リング51の一部は、外リンクプレート14の内側面14aに圧接する。このようにすれば、シール部19によるシール性がさらに向上する。
【0049】
図7に示すように、シールベース30の対向面37における第3弾性リング39の外側(外周側)に円環状の溝52を設け、この溝52に板材48が接合された毛部41を嵌め込むようにしてもよい。このようにすれば、シール部19によるシール性がさらに向上する。
【0050】
図8に示すように、シールベース30を幅方向Yにおいて逆向きとなるように配置してもよい。すなわち、シールベース30において、内リンクプレート12との対向面34側に第3弾性リング39と、板材48が接合された毛部41とを配置し、外リンクプレート14との対向面37側に第1弾性リング33及び第2弾性リング36を配置するようにしてもよい。
【0051】
図9に示すように、シールベース30の対向面34における第2弾性リング36の内側(内周側)に円環状の溝53を設け、この溝53に板材48が接合された毛部41を嵌め込み、さらにシールベース30における斜面32及び第1弾性リング33を省略するようにしてもよい。
【0052】
図10に示すように、シールベース30は、ピン20を囲むように配置された円環状の内周側シールベース55と、内周側シールベース55の外周面を囲むように配置された円環状の外周側シールベース56とによって構成するようにしてもよい。すなわち、シールベース30は、ブシュ17の外周面17aに嵌合する剛性を有した円環状の内周側シールベース55と、内周側シールベース55の外周面に嵌合する剛性を有した円環状の外周側シールベース56とによって構成するようにしてもよい。このようにすれば、内周側シールベース55及び外周側シールベース56のうちのいずれか一方が機能しなくなった場合でも、他方が機能するので、シールベース30を長期間にわたって機能させることができる。
【0053】
次に、図10のチェーン11のシール部19の構成について詳述する。
図10に示すように、内周側シールベース55における内リンクプレート12の外側面12aとの対向面57における径方向の中央部には、円環状の溝58が設けられている。溝50には円環状の弾性部材の一例としての弾性リング59が嵌め込まれ、弾性リング59の一部は内リンクプレート12の外側面12aに圧接している。この場合、内周側シールベース55の対向面57と内リンクプレート12の外側面12aとの間には僅かな隙間が形成されている。内周側シールベース55の外周面における内リンクプレート12側のコーナー部にはC面取りがなされて斜面60が形成されている。
【0054】
内周側シールベース55の内周面における外リンクプレート14側のコーナー部にはC面取りがなされて斜面61が形成されている。内周側シールベース55の斜面61と、外リンクプレート14の内側面14aと、ブシュ17の外周面17aとによって囲まれた領域には、円環状の弾性部材の一例としての弾性リング62が、斜面61、内側面14a、及び外周面17aによって圧縮されるように弾性変形された状態でピン20を囲むように配置されている。
【0055】
内周側シールベース55における外リンクプレート14の内側面14aとの対向面63における斜面61の外側(外周側)には、円環状の溝64が設けられている。溝64には板材48が接合された毛部41が嵌め込まれ、毛部41の先端部は外リンクプレート14の内側面14aに摺接している。この場合、内周側シールベース55の対向面63と外リンクプレート14の内側面14aとの間には僅かな隙間が形成されている。
【0056】
外周側シールベース56の内周面における内リンクプレート12側のコーナー部にはC面取りがなされて斜面65が形成されている。外周側シールベース56の斜面65と、内周側シールベース55の斜面60と、内リンクプレート12の外側面12aとによって囲まれた領域には、円環状の弾性部材の一例としての弾性リング66が、斜面60、斜面65、及び外側面12aによって圧縮されるように弾性変形された状態でピン20を囲むように配置されている。
【0057】
この場合、外周側シールベース56における内リンクプレート12の外側面12aとの対向面67と内リンクプレート12の外側面12aとの間には僅かな隙間が形成されている。そして、外周側シールベース56における外リンクプレート14の内側面14aとの対向面68は、外リンクプレート14の内側面14aに当接している。
【0058】
図11に示すように、シールベース30の第3溝40に、板材48が接合された毛部41を2つ用意してこれらの板材48同士を接合したもの(図12に示したもの)を、嵌め込むようにしてもよい。
【0059】
図13に示すように、シールベース30の第3溝40に、板材48の両面に対して毛部41における基布45をそれぞれ接合したもの(図14に示したもの)を、嵌め込むようにしてもよい。
【0060】
図15に示すように、シールベース30の第3溝40に、板材48が除かれた毛部41(図16に示したもの)を、嵌め込むようにしてもよい。すなわち、シールベース30の第3溝40に、毛部41のみを嵌め込むようにしてもよい。
【0061】
・チェーン11において、毛部41は、外リンクプレート14の内側面14aや内リンクプレート12の外側面12aに取り付けるようにしてもよい。
・チェーン11において、毛部41は、パイル織物でなく、複数の糸によって構成するようにしてもよい。この場合、複数の糸は、外リンクプレート14の内側面14a、内リンクプレート12の外側面12a、及びシールベース30などに対して、適宜接着剤などによって植毛するように接合される。
【0062】
・ローラ18は省略してもよい。
・チェーン11は、対向する2つのリンクプレートの直列方向Xにおける一端側の幅を他端側の幅よりも狭くなるように湾曲したリンクをブシュ17及びピン20によって回動可能に複数連結した所謂オフセットタイプのチェーンであってもよい。
【符号の説明】
【0063】
11…チェーン、12…内リンクプレート、14…外リンクプレート、17…ブシュ、19…シール部、20…ピン、30…シールベース、33…弾性部材の一例としての第1弾性リング、36…弾性部材の一例としての第2弾性リング、39…弾性部材の一例としての第3弾性リング、41…毛部、45…基布、45a…タテ糸、45b…ヨコ糸、46…パイル糸、48…板材、51,59,62,66…弾性部材の一例としての弾性リング、55…内周側シールベース、56…外周側シールベース。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16