(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6346095
(24)【登録日】2018年6月1日
(45)【発行日】2018年6月20日
(54)【発明の名称】汚れ耐性のある調理面、およびそのような調理面を含む調理器具または家電機器
(51)【国際特許分類】
A47J 36/02 20060101AFI20180611BHJP
【FI】
A47J36/02 B
A47J36/02 A
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-541706(P2014-541706)
(86)(22)【出願日】2012年11月19日
(65)【公表番号】特表2014-533540(P2014-533540A)
(43)【公表日】2014年12月15日
(86)【国際出願番号】EP2012073007
(87)【国際公開番号】WO2013076046
(87)【国際公開日】20130530
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】1160583
(32)【優先日】2011年11月21日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】594034072
【氏名又は名称】セブ ソシエテ アノニム
(73)【特許権者】
【識別番号】512210135
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ド ロレーヌ
(73)【特許権者】
【識別番号】505045610
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ スィヤンティフィック(セーエヌエルエス)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE(CNRS)
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ ピジェ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−フランソワ ピアソン
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドル メジェ−レヴィ
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク テシエ
(72)【発明者】
【氏名】シモン アルマン
(72)【発明者】
【氏名】ステファン テュフェ
【審査官】
青木 良憲
(56)【参考文献】
【文献】
特表2006−521176(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0255340(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/111256(US,A1)
【文献】
国際公開第2011/098730(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2005/0249886(US,A1)
【文献】
特表2009−526586(JP,A)
【文献】
特開2005−213636(JP,A)
【文献】
特開2010−202917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 36/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調理器具または家電調理機器のための、基材上における金属元素の窒化物の析出物からなる食品調理面であって、前記析出物の前記金属元素は、X遷移金属およびアルミニウムを含み、前記析出物の生成は、(X、Al)N系のコーティングを得るための窒化ステップを含み、(X、Al)N−系コーティングは、アルミニウムで強化した前記X遷移金属の窒化物のコーティングであり、
前記(X、Al)N−系コーティングは、(Nb、Al)N−系コーティングであり、前記析出物の前記金属元素におけるアルミニウムの原子比率は、少なくとも20%であることをさらに特徴とする食品調理面。
【請求項2】
調理器具または家電調理機器のための、基材上における金属元素の窒化物の析出物からなる食品調理面であって、前記析出物の前記金属元素は、X遷移金属およびアルミニウムを含み、前記析出物の生成は、(X、Al)N系のコーティングを得るための窒化ステップを含み、(X、Al)N−系コーティングは、アルミニウムで強化した前記X遷移金属の窒化物のコーティングであり、
前記(X、Al)N−系コーティングは、(Zr、Al)N−系コーティングであり、前記析出物の前記金属元素におけるアルミニウムの原子比率は、少なくとも20%であることをさらに特徴とする食品調理面。
【請求項3】
前記析出物の前記金属元素におけるアルミニウムの原子比率は、20%〜75%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の調理面。
【請求項4】
前記析出物の前記金属元素におけるアルミニウムの原子比率は、40%〜75%であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の調理面。
【請求項5】
前記析出物の前記金属元素におけるアルミニウムの原子比率は、40%〜60%であることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の調理面。
【請求項6】
前記析出物は、物理的蒸着法により生成されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の調理面。
【請求項7】
前記析出物は、所望の組成を有する材料の1またはいくつかのシートまたはプレートを、伝導性の支持体上において組み合わせることによって得られた、1またはいくつかのターゲットから生成されており、前記シートまたは前記プレートは、積層、粉末焼結、粉末の溶射、または鋳造により得られていることを特徴とする、請求項6に記載の調理面。
【請求項8】
前記析出物は、蒸着ステップ中に窒化ステップを実行する目的で反応条件下で生成されたものであることを特徴とする、請求項6または7に記載の調理面。
【請求項9】
生成された(X、Al)N窒化物の析出物は、3〜10μmの厚さであり、好ましくは4〜6μmの厚さであることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の調理面。
【請求項10】
1またはいくつかの構成成分の金属析出物層は、窒化相より先に生成されていることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の調理面。
【請求項11】
前記基材は、以下の材料:アルミニウム、銅、鋳鉄、鋼鉄、特にステンレス鋼、の1またはいくつかの金属シートで構成されていることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の調理面。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の調理面を含むことを特徴とする、食品を調理するために意図された調理器具。
【請求項13】
調理面、および電気を利用したまたはガスを利用した前記調理面を加熱する手段を含み、前記調理面が請求項1から12のいずれか一項に記載のものであることを特徴とする、食品を調理するために意図された家電機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品を調理するよう設計された調理器具および家電機器の分野に関し、より詳細には、調理される食品と接触する、これらの調理器具および家電機器の調理面に関する。
【0002】
本発明は、研磨パッドを用いて清掃される傾向にある硬い調理面を、傷が形成されないように改善することを目的とする。
【背景技術】
【0003】
ステンレス鋼は、一般的に調理面の製造に使用される。しかし、ステンレス鋼は、研磨パッドを用いた清掃に耐える十分な硬度に欠けている。さらに、これらの材料は、調理中に汚れた外見、および調理中に食品がこびり付いた外見を呈する。
【0004】
特許文献1、特許文献2および特許文献3は、ステンレス鋼より硬い調理面について開示している。具体的には、これらの表面は、食品を調理するための表面としての使用後に比較的清掃しやすい特性を有し、この清掃のしやすさは、調理面上で焼かれた成分を容易に除去できる可能性によって表され得る。それにも関わらず、ある食品が接触した際に、そのような調理面に汚れた外見が観察される。これらの汚れた外見は、様々な構造および組成の析出物がこれらの汚れの外観および/または大きさを緩和することよりも優先して行われる表面処理が実行されていない場合に、上記析出物上に発生する。この外見の分析によれば、そのような汚れは、動物性脂肪を用いた調理の際に、具体的には表面と反応する脂肪および/または表面の酸化により、どうしても生じてしまうことが示されている。
【0005】
特許文献4は、基材上のZrおよび/またはNbおよび/またはTiの析出物からなる、調理器具または家電調理機器のための調理面について開示しており、その生成は、少なくとも1つの元素の浸炭ステップおよび/または窒化ステップを含み、この調理面は、(Zr/Nb/Ti)−Si−(N/C)−系コーティングを製造するためのSi析出物も含む。前述の遷移金属の析出物中にSiが存在することにより、このようにして得られた調理面の汚れに対する耐性をわずかに改善できることが観察されている。しかし、そのような組成は、特に高温での調理の際に調理面に汚れを引き起こす酸化の影響を効率的に弱めることはない。さらに、ジャガイモまたは魚などのある食品を調理する際に、これらのコーティングは、やはりこびり付いた外見になる。したがって、これらの表面は、満足できる清掃ができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2848797号明細書
【特許文献2】仏国特許出願公開第2883150号明細書
【特許文献3】仏国特許出願公開第2897250号明細書
【特許文献4】仏国特許出願公開第2956310号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、効果的な傷耐性を有し、効果的な汚れ耐性も有する調理面を提示することである。
【0008】
本発明の別のさらなる目的は、長期間にわたって清掃しやすく、耐久性がある調理面を提示することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、調理中の食品のこびり付きがごくわずかな調理面を提示することである。
【0010】
本発明の別のさらなる目的は、変わらないままの色および外観を有する調理面を提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの目的は、調理器具または家電調理機器のための、基材上における金属元素の窒化物の析出物(depot:堆積物ともいう)からなる食品調理面により達成され、析出物の金属元素は1または複数のX遷移金属およびアルミニウムを含み、前記析出物の生成は、(X、Al)N系のコーティングを得る窒化ステップを含み、(X、Al)N−系コーティングが、アルミニウムで強化された1または複数のX遷移金属の窒化物のコーティングであり、ニオブおよび/またはジルコニウムは、X遷移金属の過半を占め、前記析出物の金属元素におけるアルミニウムの原子比率は、少なくとも20%である。
【0012】
「(X、Al)N−系コーティング」という表現は、1または複数のX遷移金属およびアルミニウムを含む窒化物コーティングを意味すると理解され、前述の金属元素を蒸着する間に、またはその後で、窒化ステップが実行される。したがって、調理面を形成する析出物の表面層は、アルミニウムで強化した1または複数のX遷移金属の窒化物である。「アルミニウムで強化した1または複数のX遷移金属の窒化物」という表現は、1または複数の遷移金属の窒化物のものに類似するが六方晶アルミニウム窒化物のものとは類似しない結晶性構造を有するコーティングを意味すると理解される。「(X、Al)N−系コーティングは、1または複数のX遷移金属の窒化物のコーティングであり、アルミニウムで強化されており、ニオブおよび/またはジルコニウムは、X遷移金属の過半を占める」という表現は、いくつかの遷移金属の場合、コーティングは、1つだけの窒化物、例えば、アルミニウムで強化したZrおよびNbの混合窒化物を含み、または、いくつかの窒化物、例えば、過半(majoritaire)を占めるZrの窒化物またはNbの窒化物および半分未満(minoritaire)を占めるTiの窒化物またはCrの窒化物を含み、これらの窒化物がアルミニウムで強化されていることを意味すると理解される。
【0013】
アルミニウム窒化物の析出物は、汚れに効果的に耐え、清掃しやすいが、傷に十分に耐える満足できる硬度を欠く。さらに、これらの析出物は、食器洗浄機に耐性がない。
【0014】
(X、Al)N−系コーティングを得るための前述の比率でアルミニウムを加えることにより、高い水準の硬度をなお維持しながら、酸化耐性の特性、ひいてはコーティングの汚れ耐性を著しく改善できる。同様に、測定により、このことが、調理中における食品のこびり付きの減少にも寄与することが示された。
【0015】
1または複数のX遷移金属は、アルミニウムに対して必ずしも過半を占めない。
【0016】
好ましい実施形態によれば、1または複数のX遷移金属は、Nbおよび/またはZrから選択される。実際にニオブおよびジルコニウムを使用して、清掃しやすい特性を呈するNbN窒化物、ZrN窒化物または(Zr、Nb)N窒化物を得ることができる。
【0017】
したがって、本発明は、製造中に、アルミニウムを加えることにより、調理面としての窒化物形態におけるNbおよび/またはZrなどの1または複数の遷移金属をベースとした先行技術の層の化学的不活性を改善することを提示する。
【0018】
Nbおよび/またはZrなどの1または複数の遷移金属の窒化物の析出物は、満足できる硬度および効果的な食器洗浄機耐性を呈するが、それらの汚れ耐性は、不十分である。さらに、これらの析出物は、調理中にある食品の頑固なこびり付きを受け、清掃することが困難である。
【0019】
様々な研究および分析により、前述の比でのNbおよび/またはZrなどの1または複数の遷移金属ならびにアルミニウムの混合窒化物の析出物は、汚れに対する感受性が著しく低下し得ることが示された。これらの析出物は食器洗浄機にも対応している。
【0020】
また、様々な試験により、前述の比でアルミニウムを加えることにより、十分な硬度の維持を可能にしながら、傷に対する耐性が向上されることが示された。
【0021】
有利には、前記析出物の金属元素におけるアルミニウムの原子比率は、20%〜75%である。これらの特徴を有する(X、Al)N−系コーティングは、満足できる傷耐性および汚れ耐性の特性を呈する。
【0022】
さらに有利には、前記析出物の金属元素におけるアルミニウムの原子比率は、40%〜75%である。析出物の金属元素におけるかなりの比率のアルミニウムにより、さらに食品のこびり付きは減少し、清掃しやすさを改善できる。
【0023】
驚くべきことに、かなりの割合のアルミニウムを加えることは、これらの層が容易に清掃される能力を、調理面としてそれらを使用した後に低下させないだけではなく、この特性を強化さえし、したがって、これらの層の様々な性質は、最初の目標を超えて大幅に改善される。
【0024】
さらに有利には、前記析出物の金属元素におけるアルミニウムの原子比率は、40%〜60%である。析出物の金属元素におけるアルミニウムのこれらの比により、食品の調理面へのこびり付きは著しく減少でき、清掃のしやすさは際立って改善できる。アルミニウムの原子比率が60%超では、アルミニウム含量が過剰なため、食器洗浄機耐性は低下し始めることも観察された。
【0025】
好ましい生成方法によれば、析出物は、一般的にPVDと略される物理的蒸着法によって生成される。物理的蒸着法は、使用する材料が少ないという利点、および、調理面を製造するために、プロセスを調整して基材上に厚さが薄い材料を生成することができるという利点を有する、材料を蒸着させる先行技術による方法であり、したがって、これらの材料の原料コストを低下させる。この蒸着技術によって、蒸着される基材に強力に接着する析出物を得ることもできる。したがって、使用中に析出物が離層する危険性は最小限になる。調理面は、前記調理面を含む調理器具または家電調理機器などの調理用具で食品が扱われる間、フォーク、ナイフおよび他の台所用品の使用によって加えられる機械的応力に耐えなければならないため、この特徴は重要である。
【0026】
物理的蒸着法の技術が使用される場合、析出物が形成されることになる少なくとも1つの基材および1またはいくつかのターゲットなどの表面の間に電圧差を印加することにより、物理的な微粒子化が達成される。析出物は、有利には、所望の組成を有する材料の1またはいくつかのシートまたはプレートを伝導性の支持体上において組み合わせることにより得られる、1またはいくつかのターゲットから形成され、前記シートまたは前記プレートは、積層、粉末焼結、粉末の溶射、または鋳造によって得られる。一般的な使用は、あらゆる物理的蒸着法の技術、例えば、反応性陰極アーク蒸発などで構成できる。
【0027】
析出物は、有利なことに、反応条件下で、すなわち、窒素などの反応性ガスの存在において、蒸着ステップ中に窒化ステップが実行されるため、ひいては処理時間を削減しながらコーティングの硬度を増強させるために、生成される。
【0028】
あるいは、化学的蒸着(CVD)の技術により生成される析出物も考えられる。しかし、所望のコーティングを生成するために考えられるのはプラズマアシストCVDのみであり、プラズマアシストCVDにおいては、低温および低圧力で析出物が生成される。所望の析出物を発生させるために、基材をガス状前駆体に曝露させ、ガス状前駆体は基材の表面で反応し分解する。プラズマにより、前駆体の反応率が高まり、より低い温度、典型的には200〜500℃で蒸着が可能となる。
【0029】
このコーティングの処理時間およびコストを最適にするために、生成される(X、Al)N窒化物の析出物は、厚さ3〜10μm、好ましくは4〜6μmにする。アルミナ粒子を塗布したScotch Brite(登録商標)Green padなどの研磨パッドによる傷に完全に耐性があるコーティングを得るために、実際に最低でも3から4μmの厚さは必要である。
【0030】
実施形態の好ましい方法によれば、1またはいくつかの構成成分の金属析出物層は、コーティングおよび基材の間の接着を強化するために、窒化相より先に生成される。さらに、金属層の蒸着は、反応性ガスを用いたこれと同一の層の蒸着よりも速いので、全体の蒸着の速度が上がる。所望により、基材に蒸着された酸窒化物の接着層の使用も可能である。
【0031】
基材は、以下の材料:アルミニウム、銅、鋳鉄、鋼鉄、特にステンレス鋼の1またはいくつかの金属シートで構成することができる。具体的には、基材は、例えばステンレス鋼/アルミニウム/ステンレス鋼などの多層サンドイッチ構造を有する材料により形成され得る。
【0032】
本発明は、食品を調理することが意図され、上に記載した調理面を含む調理器具にも関する。
【0033】
具体的には、そのような調理器具は、スキレット、キャセロール、ダッチオーブン、中華鍋などであってよい。
【0034】
本発明は、食品を調理することが意図され、調理面、および電気を利用したまたはガスを利用した前記調理面を加熱する手段を含む家電機器にも関し、前記調理面は、上に記載した特徴の1つに適合する。具体的には、そのような家電機器は、加熱調理用電化製品、ラクレット調理用電化製品、フォンデュ用電化製品、フライヤー、パン焼き器、炊飯器などであってよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
本発明は、2つの模範的な実施形態を検討することで、より明確に理解されることになり、それらはいかなる方法によっても限定されず、その1つおよびいくつかの特性は、添付の図面に例示されている。以下が示されている:
【
図1】接着層2が基材1および窒化物層3の間に挿入されている本発明の調理面の実施形態の断面図である。
【
図2】(Nb、Al)N−系コーティングについて行われた、アルミニウムの原子百分率(0から65%Alに及ぶ)に対するナノ硬度測定(GPaで表される)を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の第1の模範的な実施形態は、基材上における(Nb、Al)N−系コーティングの蒸着に関する。
【0037】
基材は、有利には、以下の材料:アルミニウム、銅、鋳鉄、鋼鉄、特にステンレス鋼の1またはいくつかのの金属シートで構成できる。使用される基材としては、電解脱脂およびイオンデスケーリング後のオーステナイト系ステンレス鋼(304系ステンレス鋼など)であることが好ましい。より一般的には、調理器具は、3枚の多層膜を含むサンドイッチ構造を有する材料で、すなわち、「三重の」ステンレス鋼/アルミニウム/ステンレス鋼材料を得るために2枚のステンレス鋼膜の間に挿入されたアルミニウム膜で、構成されている。
【0038】
得られる特性を比較するために、2%、13%、22%、53%、59%および75%のアルミニウムの原子百分率を有するいくつかの組成、ならびに類似した条件下で生成されたNbNおよびAlN析出物を試験した。
【0039】
物理的蒸着法(PVD)の技術により、より具体的には反応性マグネトロン陰極スパッタリングにより、析出物を生成した。基材に接着する高密度の析出物、および比較的速い蒸着速度が、マグネトロン陰極スパッタリング技術により達成可能である。しかし、他のPVD技術(陰極アーク)が考えられる。
【0040】
析出物は、典型的には、所望の組成を有する材料の1またはいくつかのシートまたはプレートを伝導性の支持体上において組み合わせることによって得られる、1またはいくつかのターゲットから生成され、前記シートまたはプレートは、積層、粉末焼結、粉末の溶射、または鋳造によって得られる。
【0041】
したがって、生成方法は、反応性蒸着であり、チャンバ内に真空状態を作った後で、プラズマを作るために必要なアルゴンのみが本質的に残る;金属ターゲットのスパッタリングは、窒素をアルゴンプラズマに導入して、1または複数の金属ターゲットのスパッタリングにより、(Nb、Al)N系のアルミニウムで強化したニオブ窒化物を得ることで果たされる。(Nb、Al)N析出物は、Nb−Al組成ターゲットのスパッタリングまたは2つに分離したNbおよびAlターゲットのスパッタリングにより得ることができる。反応条件下での蒸着に関しては、蒸着ステップ中に窒化ステップを実行できる。
【0042】
十分な厚さを特徴とするが過剰な厚さではなく、その結果、基材への効果的な接着を維持する膜を得ることを目的として、蒸着速度(コーティングの厚さ)および析出物の性質を変化させるために、様々な生成パラメータを変更できる。
【0043】
蒸着速度を上昇させ、かつチャンバ内の圧力を低下させることにより、さらに高密度で純粋なコーティングを得るために、マグネトロンの使用が選択された。
【0044】
さらに、窒素流量の影響、具体的には蒸着の速さおよびコーティングの結晶性構造への影響から、およそ1.5μm/hから4μm/hの蒸着の速さにするための最適な流量範囲を見出すことができた。NbAl合金ターゲットを使用した場合、アルミニウムを加えることにより蒸着の速さが低下する傾向があったことも注目される。
【0045】
層の特徴の1つは、側面計を活用したそれらの厚さの測定であり、側面計は、増幅後に、コーティング表面を移動する針の動作を紙上に書き写すことを可能とし、突発的な途切れは針が基材と接触することを指し示している。この途切れを測定することは、較正または表の使用により、コーティングの厚さの測定も可能とする。非接触側面計を使用することにより、類似した結果が得られる。この測定は、走査電子顕微鏡法による横断面分析で補完される。最終的に、コーティングの厚さは、Calotest(登録商標)を用いた方法などの、マイクロメートルの厚さのコーティングを精密に測定する他のあらゆる方法により、または光、もしくは走査電子顕微鏡法(SEM)を用いた、コーティングの断面(特に横断面)または破砕の観察により測定できる。
【0046】
別の測定は、コーティングの化学的分析を伴い、Castaingマイクロプローブによって、または、走査型電子顕微鏡を備えたエネルギー分散型X線分光測定法によって得られ、そこでは、電子衝撃後のコーティング原子の電子の脱励起が観察され、したがってそれは、励起電子を放出した元素の特質を示しており、または、層の異なる結晶性相を特定するBragg−Brentano型X線回折によって得られる。
【0047】
(Nb、Al)N析出物に存在するアルミニウムの割合を、より容易に変化させるために、分離したNbおよびAlターゲットを使用することが好ましい。上に記したNbN析出物のための最適化したパラメータをさらに保持しながら、様々な析出物を生成した。様々なコーティングのAl含有量は、EDS分析により測定できる。
【0048】
NbN化合物は化学量論的であると仮定すると、どの元素が存在するかを確定させた後で、Alの原子濃度をAl/Nb比に基づいて測定できる。
【0049】
基材は、有利には、フェライト系ステンレス鋼、アルミニウムおよびオーステナイト系ステンレス鋼の3つが連続する層で構成され、これらの層のすべてが、0.4mmの厚さを有する。基材のオーステナイト系ステンレス鋼およびコーティングの間における良好な接着を確保するために、選択したコーティングを蒸着する前に、最大1μmの厚さを有するNbAlまたは酸化物の層が適用される。
【0050】
次いで、調理、およびプライノメータを使用した清掃のしやすさに関する試験がなされる前に、コーティングを十分な厚さ(約3μm)に蒸着する。有利には、生成される(X、Al)N窒化物の析出物の厚さは、3〜10μmであり、好ましくは4〜6μmである。
【0051】
所望の場合、
図1に示すように、1またはいくつかの成分の金属層または酸化物層は、基材1および窒化物層3の間の接着層2を形成するために、窒化相より先に蒸着できる。
【0052】
以下の調理面に対して、傷耐性の比較試験を実施した:ステンレス鋼(BA仕上げ、平均粗さ(Ra)およそ0.1μm)、ならびにNbNのコーティング、ZrNbNのコーティング(60%Nbおよび40%Zr、または化学量論的)、および全体の金属元素に対してアルミニウムの様々な原子百分率、具体的には、2%、13%、22%、43%、53%および70%のAlを有する(Nb、Al)N系のコーティング。
【0053】
Scotch Brite(登録商標) Green型(アルミナ粒子を塗布した)の研磨パッドを用いて傷耐性を評価した。
【0054】
上述の試験による完全に傷耐性があるコーティングを得るためには、かなりの硬度を有し、最小コーティング厚さが4μmのコーティングを有することが必要である。
【0055】
NbNおよびZrNbNコーティングは、Scotch Brite(登録商標)Greenパッドによっては傷付けられない表面を得るために十分な硬度を呈する。しかし、AlNコーティングはより低い硬度を有し、傷耐性がない。
【0056】
図2は、アルミニウムの水準(0から65%のAl)に対して、コーティングの硬度がどのように変化するかを示す。これらの測定により、アルミニウムを加えることで、(アルミニウムの水準が0→53%Alの範囲において)比較的、析出物の硬度を高めることができることが示される。これらの試験により、傷に効果的な耐性を確保するために、(Nb、Al)N−系コーティングの硬度は十分であり、NbNのものより一層高いことが示される。さらに、全体として、Scotch Brite(登録商標)Green研磨パッドに対するコーティングの傷耐性は、厚さが4μmであり70%のAlを有する(Nb、Al)N系のコーティングを用いて得ることができると証明された。これらの例では、DRX測定により、これらの析出物のすべてがNbNの面心立方格子構造(をNbN格子セル中にアルミニウムを置換)を有していたことが示された。アルミニウムの濃度に対する固溶体の硬化効果は、コーティングの硬度が高められる主要因である。アルミニウムの臨界値を超えて、アルミニウムが豊富な非晶質相の起こり得る形成は、AlNの六方結晶構造に遷移する前に観察されるコーティングの硬度を低下させる主要因になることがある。
【0057】
調理中のNbNコーティングの汚れは、過半が干渉酸化物の層を生じさせる酸化効果により引き起こされる。(約10から20nmの)NbNコーティングの表面における酸化物の厚さがごくわずかに変化することで、干渉色素の効果の結果として観察者に気付かれるコーティングの色の変化が引き起こされ得る。さらなる酸化物の厚さは、汚れていない部分ではなく汚れた部分において、実際に測定されている。
【0058】
調理温度においてきわめて低い酸化挙動を有するコーティングの使用は、汚れを減少させる、またはさらに防ぐことができる。600℃もの温度におけるアルミニウム窒化物の優れた酸化耐性により、このコーティングの防汚作用を達成できる。したがって、AlN系コーティングを有するスキレットを製造し、その優れた酸化耐性により、調理試験後に汚れは観察されなかった。しかし、AlNコーティングの硬度の低さにより、それはそのまま使用するには適していない(AlNコーティングに、Scotch Brite(登録商標)Greenに対する傷耐性はない)。しかし、NbNによりもたらされる高い硬度、およびAlNによりもたらされる高酸化耐性を組み合わせるコーティングは、優れた硬度特性を有するNbNコーティングにアルミニウムを加えることで得ることができる。この目的は十分な酸化耐性のコーティングを用いて、スキレットの使用温度で汚れないようにすることである(スキレットが空の状態で高温で加熱される場合、350℃まで)。
【0059】
以下のプロトコールに従って、汚れを評価する試験を行った:
− コーティングを350℃で5分間予熱する。
− 少量の汚れの混合物、例えば、オレイン酸90%、ビタミンE9.9%、カロテン0.1%を堆積させる。
− 空気下にて350℃で5分間加熱する。
− 調理面が見えるまで、焦げ付いた残渣を手作業で洗浄する。
− 汚れを視覚的に評価する。
【0060】
試験した(Nb、Al)Nの試料には、以下の原子比率のアルミニウムが含まれていた:0%(NbN)、2%、13%、22%、43%、53%、59%、75%のAl;100%(AlN)。汚れた試料は、NbNならびに2%および13%のAlを有する(Nb、Al)Nのものであった。対照的に、22%、43%、53%、59%、75%のAlを有する(Nb、Al)N試料、およびAlN試料は汚れなかった。これらの結果に基づいて、最低でも(コーティングの金属元素の)約20%のアルミニウムの原子百分率が、調理中の汚れに耐性があるコーティングを確保するために必要であると考えられる。
【0061】
以下のプロトコールに従って、清掃のしやすさに関する試験を実施した:特性付けすべき表面は、焦げ付いた後で頑固な接着性を有する食品複合混合物で覆われていた。次いで、焦げ付いた混合物に、研磨パッドの作用を施した。
【0062】
以下が、食品複合混合物の例である:グルコース34mg/ml、アミロペクチン14.5mg/ml、オボアルブミン39mg/ml、カゼイン13.5mg/ml、リノール酸32.8mg/ml。210℃で20分間焼き、2分間冷ました後、試料を水および洗剤の混合物に5分間浸し、次いで、プライノメータ(調理残渣を擦り取るための電化製品)を用いて清掃した。調理面の清掃しやすさを、なお調理残渣で覆われている表面の百分率に基づいて数値化した。
【0063】
下の表は、様々な種類の調理面に対する清掃のしやすさを示す:ステンレス鋼、ZrNbN(66.6%のZr、33.3%のNb)、および以下のAl原子百分率の(Nb、Al)N:0%(NbN);2%、12%、22%、41%、53%、59%、76%および100%(AlN);2cm
2の最大面積を有する表面で試験を行った。
【0065】
より高いAl比は、満足できる汚れ耐性を得るためよりもむしろ、満足できる清掃のしやすさを得るために、明らかに必要である。実際に、清掃のしやすさは、ステンレス鋼と比較して、53%および59%のAlを含む試料で著しく改善し、76%のAlを含む試料で一層著しく改善する。
【0066】
したがって、ステンレス鋼、NbNまたはZrNbNの調理面ではなく、少なくとも20%のAlを有する(Nb、Al)N−系の調理面をによって、より高い汚れ耐性を得ることが可能となる。
【0067】
さらに、ステンレス鋼の調理面またはZrNbNの表面よりも、40%超またはそれに等しいアルミニウムの原子比率を有する(Nb、Al)N−系調理面によって、さらに清掃をしやすくすることができ、そのような表面には、汚れに対して高度な耐性もある。清掃のしやすさは、アルミニウムを加えることにより、NbNコーティングのものを上回って著しく改善できる。アルミニウムの水準が高いほど、清掃のしやすさの改善はより劇的になる。
【0068】
65%超またはそれと等しいAlの原子比率を有する(Nb、Al)N−系の調理面により、具体的にはZrNbNのものを超えて、非凡な清掃のしやすさをさらに得ることが可能となる。しかし、良好な食器洗浄機耐性は、40%から60%に及ぶアルミニウムの原子比率を有する(Nb、Al)N−系調理面によって得られる。
【0069】
コーティングのアルミニウム含有量に関連して、調理面を形成するコーティングの色が修正されたことも注目される。NbNコーティングは、ステンレス鋼のものよりもわずかに暗色を有する。アルミニウム含有量が増加するにつれて、NbAlN析出物は色が暗くなる。コーティングは、75%のAl含有量により、無煙炭の色である。
【0070】
驚くべきことに、本発明の調理面は、NbNの利点(良好な傷耐性を付与する硬度の高さ、食器洗浄機用洗剤などの洗剤に対する耐性)と、AlNの利点(きわめて良好な汚れ耐性を付与するきわめて良好な酸化耐性、清掃のしやすさ、調理中における食品のこびり付きの少なさ)とを、それぞれの欠点(AlNの硬度の低さおよび食器洗浄機用洗剤などの洗剤に対する耐性の乏しさ、NbNの、汚れの原因となる酸化に対する耐性の乏しさ、清掃のしにくさ、および調理中のある食品のこびり付き)を伴わずに、組み合わせることができる。
【0071】
したがって、金属元素の20%から75%に及ぶアルミニウムの原子比率を有する(Nb、Al)N−系コーティングは、高い硬度(約15GPa、NbNのものより高い)ならびに食器洗浄機用の洗剤に対する耐性による興味深い汚れ耐性の特性および傷耐性の特性を有する。さらに、高いアルミニウム比率が、清掃のしやすさに寄与する。
【0072】
本発明の、第2の模範的な実施形態は、ZrNコーティングの蒸着およびアルミニウムを加えることによる影響に関する。したがって、調理面は、(Zr、Al)N−系析出物からなる。
【0073】
マグネトロン陰極スパッタリングにより塗布される(Zr、Al)N−系コーティングの試験を、30%から70%に及ぶアルミニウムの原子百分率について、スキレット型の調理器具で実施した。この試験により、そのようなコーティングの汚れ耐性および傷耐性が検証された。
【0074】
ニオブと同様に、第1のステップは、(Zr、Al)N組成を生成する前に、ZrNを蒸着するために最適な条件を測定することからなる。
【0075】
ZrNコーティング単体は、容易に清掃されるコーティングであり、アルミニウムを加えることによりこの特性が向上する。
【0076】
汚れは、ZrNコーティング上では最初はNbNコーティング上より少ない程度で存在し、コーティングをアルミニウムでドープすると消える。
【0077】
ニオブ窒化物と同様に、アルミニウムは、周期表の4、5および6群(例えばZr、Ti、Cr)であるX遷移金属の窒化物のある特性を改善できる。すなわち:
【0078】
少なくとも20%のAlの原子百分率において、XN系コーティングと比して、(X、Al)N−系コーティングの優れた酸化耐性、ひいては優れた汚れ耐性、
【0079】
より高い硬度、ひいてはより強い傷耐性であり、Alの原子百分率は、AlNコーティングの結晶性構造よりもむしろ、XNコーティングの結晶性構造を維持できる。
【0080】
本発明は、したがって、調理器具または家電調理機器のための、基材上における金属元素窒化物の析出物からなる食品調理面に関し、析出物の金属元素はX遷移金属およびアルミニウムを含み、上記析出物の製造は、(X、Al)N系のコーティングを得るための窒化ステップを含む。
【0081】
より具体的には、本発明によれば、(X、Al)N系のコーティングは、アルミニウムで強化したX遷移金属の窒化物であり、X遷移金属で強化したアルミニウムの窒化物ではない。さらに、上記析出物金属元素におけるアルミニウムの原子比率は、少なくとも20%である。
【0082】
記載されている代表的な実施形態において、X遷移金属はニオブまたはジルコニウムから選択される。
【0083】
あるいは、遷移金属は、(Ti、Al)Nまたは(Cr、Al)Nを除いて、アルミニウムでドープした遷移金属の他の窒化物コーティングを生成するために、周期表のIV、VおよびVI群の他の元素から選択することもできる。実際に、(Ti、Al)Nまたは(Cr、Al)Nにおける清掃能力は、ある汚れに対してまったく不十分であり、それらを除去するために強酸が必要であることが、試験により示された。
【0084】
あるいは、本発明は、硬度を高めることおよび/またはコーティングの色を修正することを目的として、アルミニウムで強化した1つのX遷移金属の窒化物を必ずしもベースとしていないが、いくつかの遷移金属、具体的にはアルミニウムと組み合わせたNbおよび/またはZrおよび/またはTiおよび/またはCrを含む窒化物をベースとし、ニオブおよび/またはジルコニウムが1または複数のX遷移金属の過半を占めるコーティングの生成にも関する。
【0085】
本発明は、食品を調理することが意図され、前述のタイプの調理面を含む調理器具にも関する。
【0086】
本発明は、食品を調理することが意図され、調理面、および電気を利用したまたはガスを利用した上記調理面を加熱する手段を含み、前述のタイプの調理面を含む家電機器にも関する。
【0087】
本発明は、本明細書に記載されている代表的な実施形態に何ら限定されるものではなく、特許請求の範囲における多数の改変を包含する。
【符号の説明】
【0088】
1 基材
2 接着層
3 窒化物層