(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記分解工程において分解した上記有機物材料から、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド、アクチノイド、遷移金属、ほう素族、炭素族、ニクトゲン、又は、カルコゲンに属する少なくとも1つの元素が含まれる測定試料を回収する回収工程をさらに包含することを特徴とする請求項1又は2に記載の気相分解方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔気相分解方法〕
本発明に係る有機物材料の気相分解方法は、有機物材料と、当該有機物材料を分解する分解液とが接触しないように、当該有機物材料と当該分解液とを密閉容器内に収容する準備工程と、上記密閉容器内を加熱することによって加圧し、上記有機物材料を、上記分解液が気化した分解液ガスにより分解する分解工程とを包含している。
【0017】
本発明によれば、有機物材料を分解液が気化した分解液ガスにより分解する。したがって、分解液中に含まれる不純物が、有機物材料を分解して得られた測定試料中に混入するのを防ぐことができる。
【0018】
有機物材料は、有機物を含む材料であり、有機エレクトロニクス材料が含まれる。有機エレクトロニクス材料は、電子機器を構成する材料として用いられる有機物であり、例えば、有機薄膜太陽電池材料、有機EL材料、及び、有機トランジスタ(半導体)材料等が含まれる。本発明に係る気相分解方法によれば、分解液中に含まれる不純物によるコンタミネーションの発生が抑制されるため、分解する有機物材料が少量であっても、分解後の測定試料を精確な分析に供することが可能である。したがって、本発明に係る気相分解方法は、高額な有機エレクトロニクス材料の分解にも適している。
【0019】
また、有機物材料には、有機金属錯体も含まれる。さらに、有機物材料には、有機物を例えば蒸着または塗布した薄膜、及び、当該薄膜を溶解した有機物溶液も含まれる。ここで、薄膜とは、例えば、蒸着によって形成された薄膜や、塗布によって形成された薄膜を指すものの、その形成方法は特に限定されない。
【0020】
有機物材料としては、例えば、芳香族炭化水素、多環芳香族炭化水素、骨格にヘテロ原子を含むヘテロ芳香族炭化水素もしくは多環ヘテロ芳香環炭化水素から誘導される化合物、環同士が共有結合を介して連結された化合物、フラーレンを骨格に含む化合物、ポルフィリン及びフタロシアニンを骨格に含む化合物、これらの構造を含む金属錯体化合物、並びに、これらの構造を含むオリゴマー及びポリマー等が挙げられる。
【0021】
本発明に係る気相分解方法によれば、ベンゼン環を有する難分解性の有機物材料であってもよく効率よく気相分解することが可能であり、このようなベンゼン環を有する有機物材料も気相分解の対象とすることができる。
【0022】
分解液は、有機物材料を分解する溶液であり、加熱されて加圧されることにより気化して分解液ガスを生じさせる溶液であればよく、フッ化水素酸、硝酸、塩酸、硫酸、リン酸、過酸化水素水、及び、過塩素酸からなる群より選択される少なくとも1つの酸を含む酸溶液を用いることができる。また、分解液は、上述した少なくともいずれか1つの酸と水との酸水溶液であってもよい。
【0023】
(準備工程)
準備工程において、有機物材料と、有機物材料を分解する分解液とが直接接触しないように、有機物材料と分解液とを密閉容器内に収容する。例えば、密閉容器内に分解液を直接収容し、開口部を有する内容器内に収容した有機物材料を密閉容器内に収容する。このとき、有機物材料を収容した内容器の開口部が分解液の液面よりも上側に位置するように収容することによって、有機物材料と分解液とが接触しないように収容すればよい。
【0024】
また、有機物材料を収容した内容器と分解液を収容した内容器とをそれぞれ密閉容器内に収容してもよい。さらに、密閉容器内に設けられたテーブル上に有機物材料を収容した内容器を載置し、テーブルの下側に分解液を収容してもよいし、有機物材料を収容した内容器と分解液を収容した内容器とをテーブル上に隣接して載置してもよい。また、分解液を収容した内容器をテーブル上に載置し、有機物材料を収容した内容器をテーブルの下側に載置してもよい。すなわち、有機物材料と分解液とは、密閉容器内において直接接触せず、分解液が気化した分解液ガスに有機物材料が曝されるように収容されるように、密閉容器内に収容されればよい。
【0025】
密閉容器内に収容する有機物材料は、0.001mg以上、500mg以下であることが好ましく、0.1mg以上、500mg以下であることがより好ましく、1mg以上、50mg以下であることが最も好ましい。本発明に係る気相分解方法によれば、有機物材料と分解液とが直接接触しないため、有機物材料を分解して得られる測定試料中に、分解液中に含まれる不純物によるコンタミネーションが発生することが抑制される。したがって、少量の有機物材料を用いて得られた測定試料を、精確な分析に供することが可能である。
【0026】
密閉容器内に収容する分解液の量は特に限定されないが、例えば、密閉容器の容積を100%としたとき、分解液を、密閉容器の容積の1%以上、40%以下の量になるように収容すれば、効率よく有機物材料を分解することができるので、好ましい。また、密閉容器内に収容される分解液の量は、有機物材料を十分に分解することが可能な量であり得る。したがって、例えば、分解する有機物材料500mg当たり5mL以上、20mL以下の分解液を収容してもよい。
【0027】
密閉容器内に収容する有機物材料は、バルクであってもよく、蒸着によって形成された薄膜や、塗布によって形成された薄膜であってもよい。有機物材料と分解液とを密閉容器内に収容した後、密閉容器を密閉する。
【0028】
(分解工程)
分解工程において、密閉容器内を加熱することによって加圧し、有機物材料を、分解液が気化した分解液ガスにより分解する。すなわち、有機物材料と分解液とが収容されて密閉された密閉容器内を加熱することによって加圧する。密閉容器内の加圧及び加熱は、従来公知の方法により好適に行うことができる。
【0029】
密閉容器の加熱温度は、後述する所望の加圧が可能であり、分解液を気化させる温度であればよく、100℃以上、240℃以下であることが好ましく、150℃以上、240℃以下であることがより好ましく、200℃以上、240℃以下であることが最も好ましい。また、密閉容器の加熱時間は、有機物材料500mg当たり1時間以上、72時間以下であることが好ましく、1時間以上、48時間以下であることがより好ましく、1時間以上、24時間以下であることが最も好ましい。
【0030】
上述した温度で加熱することによって密閉容器内に加わる圧力は、気化した分解液により有機物材料が分解可能な圧力であり、1MPa以上、15MPa以下であることが好ましく、5MPa以上、15MPa以下であることがより好ましく、7MPa以上、15MPa以下であることが最も好ましい。
【0031】
密閉容器の加熱時には、密閉容器全体を加熱することが好ましい。また、特に密閉容器の上部に熱を加えれば、密閉容器内の上壁に凝集した液滴が有機物材料上に落下して、コンタミネーションが発生するのを防ぐことができる。
【0032】
このように、有機物材料及び分解液が収容された密閉容器内を加熱して加圧することによって、分解液が気化した分解液ガスにより有機物材料が気相分解される。したがって、分解液中に含まれる不純物や、密閉容器の内壁に付着した不純物が、有機物材料を分解して得られた測定試料中に混入するのを防ぐことができる。その結果、有機物材料中に含まれる微量な金属不純物及び/又は非金属不純物をより精確に検出するような分析に供することができる。
【0033】
(回収工程)
本発明に係る気相分解方法は、分解工程において分解した有機物材料から、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド、アクチノイド、遷移金属、ほう素族、炭素族、ニクトゲンあるいはカルコゲンに属する少なくとも1つの元素が含まれる測定試料を回収する回収工程をさらに包含してもよい。
【0034】
分解工程において、有機物材料は分解液ガスにより気相分解されて昇華し、有機物材料中に含まれていた金属元素及び/又は非金属元素が残存する。回収工程においては、有機物材料を分解した後に残存する金属元素及び/又は非金属元素を、測定試料として回収する。有機物材料の分解後に残存する金属元素及び/又は非金属元素は、有機物材料中に含まれる不純物、つまり、金属不純物及び/又は非金属不純物である。
【0035】
ここで、金属不純物とは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド、アクチノイド、あるいは遷移金属に属する少なくとも1つの金属元素が含まれる不純物を指し、非金属不純物とは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド、アクチノイド、あるいは遷移金属に属する少なくとも1つの金属元素を含まず、ほう素族、炭素族、ニクトゲンあるいはカルコゲンに属する少なくとも1つの非金属元素が含まれる不純物を指す。
【0036】
金属元素及び/又は非金属元素の回収は、従来公知の回収液を用いればよく、回収液としては、例えば、硝酸、塩酸、フッ化水素酸、硫酸、リン酸、過酸化水素水、及び、過塩素酸からなる群より選択される少なくとも1つの酸を含む酸溶液を用いることができる。
【0037】
回収工程においては、例えば、有機物材料を収容して分解した内容器内に回収液を滴下し、内容器の内壁に付着した金属元素及び/又は非金属元素を溶解させる。このとき、回収液を滴下した内容器をさらに加熱することによって、金属元素及び/又は非金属元素を回収してもよい。
【0038】
本発明に係る気相分解方法によれば、有機物材料に含まれる金属不純物及び/又は非金属不純物が揮発するような高温による分解は行わないので、有機物材料に含まれるアルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタノイド、アクチノイド、遷移金属、ほう素族、炭素族、ニクトゲン、又は、カルコゲンに属する少なくとも1つの元素を金属不純物及び/又は非金属不純物として回収することができる。すなわち、これらの元素が有機物材料中に含まれているか否かの分析に供することができる。特に、回収工程においては、Na、K、Zn、Cu、Ag、Cd、Sn、Sb、及び、Pb等の元素を金属不純物及び/又は非金属不純物として好適に回収することができる。
【0039】
回収工程において回収可能なアルカリ金属として、Li、Na、K、Cs、Rbが挙げられる。また、回収工程において回収可能なアルカリ土類金属として、Be、Mg、Ca、Sr、Baが挙げられる。さらに、回収工程において回収可能なランタノイドとして、La、Ce、Lu、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及び、Ybが挙げられる。また、回収工程において回収可能なアクチノイドとして、Th及びUが挙げられる。さらに、回収工程において回収可能な遷移金属として、Fe、Co、Ni、Ti、Sc、V、Cr、Mn、Cu、Y、Zr、Nb、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Zn及びCdが挙げられる。また、回収工程において回収可能なほう素族として、例えば、Ga、In、Tl、B、及び、Alが挙げられる。さらに、回収工程において回収可能な炭素族として、例えば、Si、Ge、Sn、及び、Pbが挙げられる。また、回収工程において回収可能なニクトゲンとして、P、As、Sb、及び、Biが挙げられる。さらに、回収工程において回収可能なカルコゲンとして、S、Se、及び、Teが挙げられる。
【0040】
また、本発明に係る気相分解方法によれば、ベンゼン環を有するような、難分解性の有機物材料であってもよく効率よく気相分解することが可能であるため、分解工程を繰り返し行うことなく有機物材料を分解し、分析に供する金属不純物又は非金属不純物を回収することができる。
【0041】
有機物材料を分解する従来の乾式灰化法によれば、高温で灰化することにより有機物材料を分解するため、高温で揮発する元素は回収できず、分析に供することができなかった(例えば、参考文献1(衛生試験法 注解2005、日本薬学会編、P391)を参照のこと)。また、有機物材料を分解する従来のマイクロウェーブ法では、ベンゼン環を有するような、難分解性の有機物材料を分解するのが困難であり、材料によっては使用する酸の組み合わせを変更することや、分解工程を繰り返し行うことが必要であった(例えば、参考文献2(新潟県工業技術総合研究所 工業技術研究報告書、“マイクロウェーブ試料分解装置による試料分解方法の確立”、P86−88)を参照のこと)。また、マイクロウェーブ法においては、試料が硫酸に接触するため、分解後に回収した測定試料中に、Ca、Sr、Ba、Ag、及びPb等と硫酸との難溶解性の硫酸塩が生じるという問題があった(例えば、参考文献3(東京都立産業技術研究センター研究報告、第4号、“マイクロ波加熱分解処理による化学分析前処理の効率化”、P92−93)を参照のこと)。
【0042】
本発明に係る気相分解方法によれば、従来の分解方法によっては回収が困難であった金属不純物及び/又は非金属不純物を回収することが可能であり、また、従来の分解方法によっては分解が困難であった難分解性の有機物材料を分解することも可能である。さらに、本発明に係る気相分解方法によれば、分解した有機物材料中に分解液に由来する不純物が混入するのを防ぎ、より精確に有機物材料中の金属不純物及び/又は非金属不純物を分析することが可能である。
【0043】
〔分析方法〕
本発明に係る有機物材料の分析方法は、上述した本発明に係る気相分解方法により、有機物材料を分解して得られた測定試料中の金属不純物及び/又は非金属不純物を検出する分析工程を包含している。
【0044】
分析工程においては、本発明に係る気相分解方法により、有機物材料を分解して残存した金属元素及び/又は非金属元素を金属不純物及び/又は非金属不純物として回収し、測定試料として従来公知の測定方法により元素分析する。測定試料を元素分析する方法として、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)、原子吸光分析法(AAS)等が挙げられる。
【0045】
このように、本発明に係る分析方法によれば、有機物材料を気相分解して得られた測定試料を分析することによって、有機物材料中に含まれる金属不純物及び/又は非金属不純物をより精確に検出することができる。
【0046】
〔品質管理方法〕
本発明に係る品質管理方法は、上述した本発明に係る気相分解方法により、有機物材料を分解して得られた測定試料中の金属不純物及び/又は非金属不純物を検出する分析工程と、上記分析工程において検出された金属不純物及び/又は非金属不純物の量が、予め定められた基準量以下である有機物材料を抽出する抽出工程とを包含している。
【0047】
分析工程においては、本発明に係る気相分解方法により、有機物材料を分解して残存した金属元素及び/又は非金属元素を金属不純物及び/又は非金属不純物として回収し、測定試料として従来公知の測定方法により元素分析する。測定試料を元素分析する方法として、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)、原子吸光分析法(AAS)等が挙げられる。
【0048】
そして、抽出工程において、分析工程において検出された金属不純物及び/又は非金属不純物の量が、予め定められた基準量以下である有機物材料を抽出する。すなわち、分析工程において検出された金属不純物及び/又は非金属不純物の量に基づいて有機物材料を選別する。なお、抽出工程においては、分析工程において検出された金属不純物に含まれる金属元素の種類又は非金属不純物に含まれる非金属元素の種類に基づいて有機物材料を選別してもよい。
【0049】
このように、本発明に係る品質管理方法によれば、有機物材料中に含まれる金属不純物及び/又は非金属不純物を精確に検出することができるため、検出結果に基づいて有機物材料を選別することにより、有機物材料の品質を一定に保つことができる。したがって、本発明に係る品質管理方法は、より精確な品質管理が求められる、有機エレクトロニクス製品の製造に用いられる有機物材料の品質管理にも適している。
【0050】
〔製造方法〕
本発明に係る製造方法は、上述した本発明に係る気相分解方法により、有機物材料を分解して得られた測定試料中の金属不純物及び/又は非金属不純物を検出する分析工程と、上記分析工程において検出された金属不純物及び/又は非金属不純物の量が、予め定められた基準量以下である有機物材料を抽出する抽出工程と、上記抽出工程において抽出された有機物材料を用いて有機電子機器を製造する製造工程とを包含している。
【0051】
分析工程においては、本発明に係る気相分解方法により、有機物材料を分解して残存した金属元素及び/又は非金属元素を金属不純物及び/又は非金属不純物として回収し、測定試料として従来公知の測定方法により元素分析する。測定試料を元素分析する方法として、例えば、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES)、原子吸光分析法(AAS)等が挙げられる。
【0052】
次に、抽出工程において、分析工程において検出された金属不純物及び/又は非金属不純物の量が、予め定められた基準量以下である有機物材料を抽出する。すなわち、分析工程において検出された金属不純物及び/又は非金属不純物の量に基づいて有機物材料を選別する。なお、抽出工程においては、分析工程において検出された金属不純物に含まれる金属元素の種類又は非金属不純物に含まれる非金属元素の種類に基づいて有機物材料を選別してもよい。
【0053】
そして、製造工程において、抽出工程において抽出された有機物材料を用いて有機エレクトロニクス製品(有機電子機器)を製造する。有機エレクトロニクス製品としては、例えば、有機薄膜太陽電池、有機EL、及び、有機トランジスタ(半導体)等が挙げられる。
【0054】
本発明に係る製造方法は、抽出工程において抽出された有機物材料に含まれる金属不純物及び/又は非金属不純物の量が基準量以下であるため、高品質な有機エレクトロニクス製品を製造することが可能であり、製品の歩留まりを向上させることができる。
【0055】
〔容器10〕
本発明に係る容器は、有機物材料を分解するための容器であって、内部に上記有機物材料を分解する分解液を収容する密閉空間を有し、上記有機物材料を分解するための圧力に対して耐圧性である外容器部と、上記外容器部内に設けられ、上記分解液に対して耐溶性である材料により形成されており、開放された上部から上記有機物材料が収容される内容器とを備え、上記内容器は、上記分解液が上記外容器部に収容されたときに、その内壁に上記分解液が接触しないように設けられている。
【0056】
以下、本発明に係る容器の一実施形態について、
図1を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る、有機物材料を分解するための容器を示す断面図である。
図1に示すように、容器10は、外容器部1と内容器4とを備えている。容器10は、有機物材料5を分解するために用いられる。容器10は、内容器4を載置するテーブルを備えた支持部(図示せず)をさらに備えていてもよい。本実施形態においては、
図1に示すように、外容器部1内に収容された分解液6中に、有機物材料5を収容した内容器4を浸漬している。
【0057】
(外容器部1)
外容器部1は、内部に有機物材料5と、有機物材料5を分解する分解液6とを収容する密閉空間を有している。外容器部1は、内部に収容した有機物材料5を分解するために加えられる圧力に対して耐圧性である。また、外容器部1は、内部に収容した有機物材料5を分解するために加えられる熱に対して耐熱性であることが好ましい。
【0058】
ここで、有機物材料5を分解するために加えられる圧力に対して耐圧性であるとは、有機物材料5を分解するために圧力が加えられたときに、膨張又は軟化しにくく、形状を一定に保ち変形しないことを意図している。また、有機物材料5を分解するために加えられる熱に対して耐熱性であるとは、有機物材料5を分解するために加熱したとき、溶出又は軟化しにくく、形状を一定に保ち変形しないことを意図している。
【0059】
<内筒部3>
外容器部1は、内筒部3と、その外側の外筒部2との2重壁構造である。内筒部3は、密閉空間に面し、分解液6に対して耐溶性である材料により形成されている。内筒部3は、密閉空間に分解液6が収容されたとき、分解液6に直接接触するため、分解液6に対して耐溶性である材料により形成される。分解液6に対して耐溶性である材料とは、分解液6に対して金属成分及び/又は非金属成分の溶出が少ない材料を意図しており、分解液6に対して金属成分及び/又は非金属成分が溶出しない材料であることがより好ましい。
【0060】
分解液6に対して耐溶性である材料として、例えば、フッ素樹脂、白金、又はセラミックス材料が挙げられる。フッ素樹脂として、例えば、PTFE=ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)、PFA=テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、PVDF=ポリビニリデンフルオライド(2フッ化)、PCTFE=ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)等が挙げられる。セラミックス材料として、例えば、アルミナ、ジルコニア、カルシア、マグネシア、イットリア等が挙げられる。
【0061】
内筒部3の形状は特に限定されず、内側に密閉空間が存在し、有機物材料5及び分解液6が収容可能であればよい。内筒部3は、下部と蓋部との2つの部材に分割されており、下部に分解液6を収容し、これを上から塞ぐように蓋部を載せて密閉してもよい。内筒部3の下壁、側壁、及び上壁の厚さは、収容される分解液6の流出を防ぎ、内側の空間を密閉することが可能な厚さであれば特に限定されない。
【0062】
<外筒部2>
外筒部2は、内筒部3の外側に位置し、内筒部3を包みこむように設けられている。そして、外筒部2は、有機物材料5を溶解させるための圧力に対して耐圧性である。したがって、内部に収容した有機物材料5を分解するために、加熱して圧力が加えられ、内筒部3が変形したとしても、外筒部2が耐圧性を有しているため、外容器部1全体の変形を防ぐことができる。また、外筒部2は、有機物材料5を溶解させるために加えられる熱に対して耐熱性であることが好ましい。これにより、外容器部1の熱による変形を防ぐことができる。
【0063】
外筒部2は、有機物材料5を溶解させるための圧力及び熱に対して耐圧性及び耐熱性であればよく、例えば、ステンレススチールにより形成される。外筒部2は、少なくとも加圧及び加熱時に内筒部3を包み込むように設けられていればよい。すなわち、外筒部2は、下部と蓋部との2つの部材に分割されており、下部に内筒部3を収容し、これを上から塞ぐように蓋部を載せて密閉し、加圧及び加熱に供してもよい。外筒部2の下壁、側壁、及び上壁の厚さは、所望の耐圧性及び耐熱性が得られる厚さであれば特に限定されない。
【0064】
外容器部1においては、内筒部3が、分解液6が収容される密閉空間に面し、外筒部2と分解液6とが接触しないようになっているので、外筒部2に由来する金属不純物及び/又は非金属不純物が分解液6に溶け出してコンタミネーションが発生するのを防ぎ、分解液6への金属不純物及び/又は非金属不純物の溶出を抑えることができる。なお、内筒部3をさらに2層構造にし、より確実に外筒部2に由来する金属不純物及び/又は非金属不純物が分解液6に溶け出すのを防いでもよい。
【0065】
(内容器4)
内容器4は、分解液6に対して耐溶性である材料により形成されており、上部が開放された柱状の容器である。有機物材料5は上部の開放部分から内容器4内に収容される。内容器4は、その内壁に分解液6が接触しないように、外容器部1内に設けられている。内容器4は、分解液6が気化した分解液ガス中に曝されるので、分解液6に対して金属成分及び/又は非金属成分の溶出が少ない、又は、分解液6に対して金属成分及び/又は非金属成分が溶出しない材料により形成されている必要がある。
【0066】
内容器4を構成する、分解液6に対して耐溶性である材料として、例えば、フッ素樹脂、白金、又はセラミックス材料が挙げられる。フッ素樹脂として、例えば、PTFE=ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)、PFA=テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、PVDF=ポリビニリデンフルオライド(2フッ化)、PCTFE=ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)等が挙げられる。セラミックス材料として、例えば、アルミナ、ジルコニア、カルシア、マグネシア、イットリア等が挙げられる。
【0067】
内容器4は、例えば、内容器4を外容器部1に設けられたテーブル(図示せず)上に載置して、分解液6の液面よりも上側に位置するテーブルの下側に分解液6が収容されてもよい。このとき、テーブルには、分解液ガスが通過するための孔が設けられているか、テーブルの内径を内筒部3の内径よりも小さくし、テーブルと内筒部3の内壁との間に隙間ができるようにすることによって、分解液ガスの流路を設けることが好ましい。また、外容器部1内部の底面から突出するように設けられたスタンド(図示せず)の上部にテーブルを設けてもよく、内筒部3の側壁の少なくとも2箇所から突出するように設けられた支持ピン(図示せず)によりテーブルを下から支えるように設けてもよい。スタンドの高さ又は支持ピンの位置は変更可能に構成されていてもよい。
【0068】
また、内容器4と、分解液6が収容された分解液容器(図示せず)とを、テーブル上に隣接して載置してもよい。さらに、内容器4をテーブルの下側に載置し、分解液が収容された分解液容器をテーブルの上側に載置してもよい。つまり、内容器4は、その内壁に分解液6が接触せず、分解液6が気化した分解液ガスに内容器4内の有機物材料5が曝されるようになっていればよい。なお、分解液容器としては、分解液6に対して耐溶性である材料により形成されており、開放された上部から分解液が収容されるものを用いることができる。
【0069】
内容器4は、外容器部1内に複数設けられてもよく、これにより、複数の有機物材料5を同時に分解することが可能である。内容器4の大きさは、収容された有機物材料5が、分解液6が気化した分解液ガスに十分に曝されるような大きさであれば特に限定されない。また、内容器4内に、内容器4よりも容量の小さい小容器を収容し、当該小容器内に有機物材料5を収容して分解に供してもよい。
【0070】
以上のように、容器10を用いれば、分解液6を収容する耐圧性の外容器部1内に設けられた内容器4内に有機物材料5を収容し、外容器部1内を加熱して加圧することによって、分解液6が気化した分解液ガスにより有機物材料5が気相分解される。したがって、分解液6中に含まれる金属不純物及び/又は非金属不純物や、外容器部1の内壁(内筒部3の内壁)及び内容器4の内壁に付着した金属不純物及び/又は非金属不純物が、有機物材料5を分解して得られた測定試料中に混入するのを防ぐことができる。その結果、容器10を用いて有機物材料5を分解すれば、有機物材料5中に含まれる微量な金属不純物及び/又は非金属不純物をより精確に検出するような分析に供することができる。
【実施例】
【0071】
〔実施例1:ブランク試験〕
本発明に係る気相分解方法のブランク試験を行った。ブランク試験では、有機物材料を用いずに、実施形態に記載した容器を用いて気相分解と同様の処理を行うことによって、分解液に含まれる金属不純物及び/又は非金属不純物、及び外容器部の内壁に付着した金属不純物及び/又は非金属不純物が、測定試料にどれくらい混入するかを調べた。
【0072】
分解液として40%フッ化水素酸と68%硝酸(1:1)との混酸溶液を用いた。内容器内を空の状態にし、分解液が気化した分解液ガスに曝される状態にして、外容器部内を、200℃で5時間加熱することで、高温加圧条件とした。外筒部としてSUS容器を用い、内筒部としてPTFE容器を用いた。PTFE製の内容器を2つ(VPD−1及びVPD−2)、外容器部内に載置した。内容器を取り出し、硝酸を滴下してそれぞれの内容器内の金属不純物及び/又は非金属不純物を回収し、測定試料とした。
【0073】
上記測定試料をICP−MS(パーキンエルマー社製)により測定した。その結果、測定試料中に含まれる金属不純物量及び非金属不純物量は、表1に示すとおりであった。なお、表1に記載した値は、ICP−MSにより測定した濃度(ng/g)に、液調整した液量(g)を乗じて算出した。以下に記載の他の実施例においても同様に記載した。
【0074】
【表1】
【0075】
〔実施例2:フラーレン〕
有機物材料としてフラーレンを用いて、気相分解を行った。実施形態に記載した容器内にフラーレン 7mgを収容し、気相分解した。分解液としては、68%硝酸と96%硫酸との混酸溶液を用いた。230℃で加熱することで高温加圧条件とした。分解処理後内容器を取り出し、硝酸を滴下して加熱溶解し、内容器内の金属不純物及び/又は非金属不純物を回収して、測定試料とした。
【0076】
上記測定試料をICP−MS(パーキンエルマー社製)により測定した。その結果、試料の測定値は、表2に示すとおりであった。表中「<」の記号は、この記号の右側に記載されている数値よりも測定値が小さいことを表している。以下、他の表においても同様に表す。
【0077】
【表2】
【0078】
〔実施例3:5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン〕
有機物材料として5,6,11,12−テトラフェニルナフタセン(ルブレン)を用いて、本発明に係る気相分解方法と、比較例としてマイクロウェーブ法とのそれぞれにより分解した。
【0079】
まず、実施形態に記載した容器内にルブレン 10mgを収容し、実施例2と同様に気相分解した。分解処理後、内容器を取り出し、硝酸を滴下して加熱溶解し、内容器内の金属不純物及び/又は非金属不純物を回収して、実施例の測定試料とした。
【0080】
次に、ルブレン 10mgに96%硫酸を添加してマイクロウェーブ加熱を行った。マイクロウェーブ加熱はマイクロ波試料前処理装置(マイルストーンゼネラル社製)を用いて行った。分解処理の後、さらに68%硝酸を添加してマイクロウェーブ加熱を繰り返した。分解後の試料溶液を加熱処理した後に硝酸を添加して加熱溶解し、比較例の測定試料とした。
【0081】
上記測定試料をそれぞれ、ICP−MS(パーキンエルマー社製)により測定した。その結果、試料の測定値は、表3に示すとおりであった。
【0082】
【表3】
【0083】
〔実施例4:N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)ベンジジン〕
有機物材料としてN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(m−トリル)ベンジジン(TPD)を用いて、気相分解を行った。実施形態に記載した容器内にTPD 9mgを収容し、実施例2と同様に気相分解した。分解処理後、内容器を取り出し、硝酸を滴下して加熱溶解し、内容器内の金属不純物及び/又は非金属不純物を回収して、測定試料とした。
【0084】
上記測定試料をICP−MS(パーキンエルマー社製)により測定した。その結果、試料の測定値は、表4に示すとおりであった。
【0085】
【表4】
【0086】
〔実施例5:トリス(8−ヒドロキシキノリネート)アルミニウム(III)〕
有機物材料としてトリス(8−ヒドロキシキノリネート)アルミニウム(III)(Alq3)を用いて、気相分解を行った。実施形態に記載した容器内にAlq3 10mgを収容し、実施例2と同様に気相分解した。分解処理後、内容器を取り出し、硝酸を滴下して加熱溶解し、内容器内の金属不純物及び/又は非金属不純物を回収して、測定試料とした。
【0087】
上記測定試料をICP−MS(パーキンエルマー社製)により測定した。その結果、試料の測定値は、表5に示すとおりであった。
【0088】
【表5】
【0089】
〔実施例6:試料分解の比較〕
本発明に係る気相分解方法と、比較例としてマイクロウェーブ法とのそれぞれによる有機物材料の分解性を比較した。分解後に沈殿物が生じた場合、有機物材料の分解が不十分であったと判断できるため、各分解方法による分解後に、有機物材料に由来する沈殿物が生じるか否かを評価した。
【0090】
まず、実施形態に示す容器内に、表6に示す各有機物材料 10mgを収容し、気相分解した。分解液としては、68%硝酸、又は、68%硝酸と96%硫酸との混酸溶液を用いた。230℃で加熱することで高温加圧条件とした。分解処理後、内容器を取り出し、硝酸を滴下して内容器内の沈殿物の有無を目視により確認した。
【0091】
次に、表6に示す有機物材料 10mgに68%硝酸、又は、68%硝酸と96%硫酸との混酸溶液を添加してマイクロウェーブ加熱を行った。マイクロウェーブ加熱はマイクロ波試料前処理装置(マイルストーンゼネラル社製)を用いて行った。分解後の試料溶液を加熱処理した後に硝酸を添加して加熱溶解し、水で定容とし、沈殿物の有無を目視により確認した。
【0092】
結果を表6に示す。表6においては、沈殿物が生じなかった場合を「○」、沈殿物が生じた場合を「×」で示した。
【0093】
【表6】
【0094】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。